捕食寄生性の始まり−IDB−
他人の摂り込んだ栄養を自分の栄養として強奪する捕食寄生という生活様式は,効率の良い,かなり優れた方法のようで,いろいろな昆虫でみることができますが,特にハチのなかまではごく普通にみられます.
ひと口にハチのなかまといっても,幼虫が植食性のハバチやキバチのなかまから,アシナガバチやスズメバチなどの社会性狩りバチまで様々な生活様式をもつことが知られています.そのなかで捕食寄生という生活様式はいったいどこから生じたのでしょうか?ハバチやクキバチなどの,腰にくびれがないなかまは広腰亜目と呼ばれ,ハチのなかでも原始的なグループといわれています.ところがそのなかにはヤドリキバチという形態的にはハバチやキバチのなかまでありながら,幼虫は材の中のキバチの幼虫を食べるものがいます.捕食寄生という生活様式はおそらく,木材の中に卵を産み,組織を食べて大きくなるキバチやクビナガキバチのうちのあるものが,ヤドリキバチのように材の中にいる同じハチのなかまやカミキリムシ,タマムシなどの幼虫を摂食するようになったことから生じたと考えられています.
この様な寄生様式では卵はホストの周辺か体表上に産み付けられますが,そのままでは卵や孵化した幼虫がホストの運動によって危険にさらされる可能性があります.このためメスは産卵の際に毒液を注入し,ホストを不動の状態にし,孵化した幼虫は外部からホストを摂食します.このように産卵の際にホストの活動を停止させ,その時点でのエサ資源のみに依存する初期の捕食寄生者をイディオバイオントidiobiont(以下IDB)とよびます.IDBではメスバチはホストそのものよりもむしろホストのいる環境を手がかりに探索を行い,同じような状況にいるものは何でもホストとして利用するという許容性の広さをそなえています.