SF関係の本の紹介(2001年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「エンド・オブ・デイズ」(上・下)デニス・ダンヴァーズ、2001年、ハヤカワ文庫SF、(上)740円+税(下)740円+税、(上)ISBN4-15-011375-0 (下)ISBN4-15-011376-9
20011226 ★

 「天界を翔る夢」の続編。5人も主人公が出てきて、それぞれの視点で順繰りに語られるが、5人のストーリーが相互に絡み合うので、ストーリーを追いかけるのは簡単。中盤までは結局二組のカップルの話になる。最後は、地球の救済の話とでもいおうか。二組のカップルの話が一段落するまでと、最後の80ページは話のトーンがまるで違っていて、まったく違う話をとってつけたような感じになっている。というわけでストーリーはいまいちだが、二つのラブストーリーは、全作よりはるかにいい感じか。
 SF的には、キリスト教のカルト集団により恐怖支配された地球、それに対抗するようでしないコンストラクトの社会と思想、死がなくなったヴァーチャル世界の社会などなど、3つの社会のあり方はそれなりにおもしろい。また、複数の仮想世界のコピーをつくったらどうなるか、仮想世界と現実世界との交流、そしてお決まりの現実とは何かについての議論などなど、けっこう仮想現実についての議論は楽しめる部分がある。

●「ボーイソプラノ」吉川良太郎、2001年、徳間書店、1800円+税、ISBN4-19-861412-1
20011215 ★

 「ペロー・ザ・キャット全仕事」の続きではないけれど、同じ世界が舞台で、登場人物もかなりかぶる。時間的には少し後。今度は、ハードボイルドを気取ったさえない探偵が主人公。よくは知らないけど、フィリップ・マーロウをやってるんだそうで。SF的要素は少ないのだが、小説としてはおもしろい。

●「黄金の幻影都市」(1〜5)タッド・ウィリアムズ、2001年、ハヤカワ文庫SF、(1)660円+税 (2)660円+税 (3)640円+税 (4)680円+税 (5)680円+税、(1)ISBN4-15-011358-0 (2)ISBN4-15-011361-0 (3)ISBN4-15-011365-3 (4)ISBN4-15-011369 (5)ISBN4-15-011374-2
20011210 ☆

 ネットの仮想世界に入ったきり意識が戻らなくなる子どもが続出。弟の意識が戻らなくなったので姉がその原因を探ると、なにやら恐るべき陰謀が…。てな話。ストーリーは現実世界と仮想世界が交互に語られる。現実世界では弟を助けるべくがんばるお姉さんが一番の主役、仮想世界では理由もわからずいろんな世界を放浪する男が重要な役でしょう。
 1冊は薄っぺらいとは言え、5冊も読まされた上に、第二部に続く。読む前から想像できる謎以外は、ほとんど何の謎も明かされない。お姉さんには、働きもせず文句を言うだけのうっとうしい親父がついてるし。はっきり言って読んでいても楽しくありません。
●「クラゲの海に浮かぶ船」北野勇作、2001年、徳間デュアル文庫、590円+税、ISBN4-19-905075-9
20011207 ★

 例によって北野ワールド全開の話。構造が複雑で、何がなんやらわからなかった。メモを取りながら注意深く読めば、けっこうしっかりした構造が見えてくると聞いたけど、そこまでやる気力が…。でも北野ワールドは好きです。今までに出版された北野作品では一番難解に違いない!北野ワールド上級者向けでしょう。

●「永久帰還装置」神林長平、2001年、朝日ソノラマ、1800円+税、ISBN4-257-79048-2
20011206 ★

 舞台はテラフォーミングされ、地球と同じように人間が住みついている”火星”。火星が、外宇宙からやってきた宇宙船に一人の男を発見する。男は、自分は刑事であり犯罪者を追ってこの世界に来たと主張する。その上、この”火星”は、その犯罪者が創った世界と主張する。あとは、何が真実で何が虚構なのかわからない。というか何でもありのややこしい状況に突入していく。ストーリーにあまり意味はなく、何が現実かわからないという浮遊感と思弁を楽しむ小説でしょう。
 ただし、あまりに思弁的、それでもって同じようなことを延々と言い続けるので、途中でちょっと退屈してしまいました。
 印象に残ったのは、たとえ世界が(その中のすべての存在までもが)誰かによって創られたものであったとしても、その中の存在の自由意志には意味があり、尊重すべきだという考え方。ある意味、自由意志さえ持っていれば創造主と被創造物は対等ってことか。神と人間、人間とロボットをはじめ、親と子など、さまざまなヴァリエーションがありそう。

●「エスコート・エンジェル」米田淳一、2001年、ハヤカワ文庫JA、640円+税、ISBN4-15-030679-6
20011202 ☆

 量子デバイスがさらに進歩したワームホール技術が発展した未来世界が舞台。双子の美少女型の戦闘バイオロボットが、某国のお姫様を守る話。ちなみにワームホール技術の世界の一つは、大きな荷物を持ち歩かないでも、ワームホールに隠して運べること。ようするに4次元ポケットです。ドラえもんを思い出さずに読むのは不可能。
 はっきり言ってこんな不可能のないロボットが出てくると話は全然おもしろくない。むしろ不思議なミス連発してるのが変な感じがするくらい。おとり捜査をしなくても、さっさと悪者を捜し出してやっつけたら、もっと早く終わったのでは?
 むしろワームホール技術が一般に広まったらどんな世界になってしまうかを描いた方がおもしろかったろうに。

●「遺産の箱船」谷口裕貴、2001年、徳間デュアル文庫、505円+税、ISBN4-19-905086-8
20011130 ☆

 異常気象の結果、大部分の人類が死に絶え、文明の多くが崩壊した世界。美術品を回収保管する目的の空母が舞台。ようはそんなご時世であっても美術品の保存のみを第一義に考える学芸員と、人類の生存を重視する軍人との対立の物語とでもいうか。
 そもそも設定自体が非現実的。中編だけにあっというまに終わって、それでどうしたという感じ。「ドッグファイト」がよかったので、期待したのですが、完全に裏切られました。

●「ソドムの林檎」野阿 梓、2001年、早川書房、1800円+税、ISBN4-15-208367-0
20011129 ★

 短編「ブレイン・キッズ」「夜舞」と中編「ソドムの林檎」を収めた中短編集。野阿作品にはテロリストがかっこよく出てくることが多いけど、「ブレイン・キッズ」もそんな作品。帯にも「残酷な愛に彩られた麗しき幻惑のテロル」とある。ちなみに2001年9月10日印刷、2001年9月15日発行。あまりに微妙なタイミング。少し印刷が遅れれば出版されなかったか、少なくとも帯は代わってたかも。
 短編二つもいいけど、やはり一押しは表題作。暗黒組織など集団の間のさまざまな力関係によって成り立っている社会の中で、超能力者集団の位置づけがおもしろい。

●「変革への序章」(上・下)デイヴィッド・ブリン、2001年、ハヤカワ文庫SF、(上)900円+税 (下)900円+税、(上)ISBN4-15-011371-8 (下)ISBN4-15-011372-6
20011129 ★

 知性化シリーズの新作、「知性化の嵐」シリーズの第1作。銀河列強に入植を禁止された惑星に違法入植したヒトをはじめとする六種族。いつ銀河列強に見つかるかとびくびくしながら、ある意味原罪を背負って、それなりに仲良く暮らしています。ところが、ついに銀河列強の種族がやってきて…。上下巻合わせて1000ページ以上読んだ末に、タイトル通りイントロだけで終わってしまいます。この作品だけで評価するなら、ヒト以外の奇妙な異種族が、そしてこの奇妙な状況下に成り立っている社会が、いかに見事に描かれているかということでしょうか。
 知性化シリーズは、奴隷制度を強く思わせる(それも肯定的に)ためにあまり好きではありません。あと、種族単位で大きな間違いをしたら責任をとる(物の支払いだけではなく、知性の放棄までも含めて)という集団主義も気に入らない。それさえ我慢すれば、おもしろいシリーズです。

●「蛍女」藤崎慎吾、2001年、朝日ソノラマ、1600円+税、ISBN4-257-79047-4
20011125 ★

 ようは、自然破壊を続ける人間が、森という意識を持った一つの有機体に報復されるという話。神秘主義的な色合いをいかしつつも、科学的っぽい説明もしようとする。タイトルにもなっている蛍女の存在や、電話線のつながっていない電話が鳴ってそれを通じてコミュニケーションをする所がちょっといい感じ。
 森が一つの有機体として機能するポイントとしては、樹木の根茎が、菌類や変形菌を介してネットワークを神経系としての役割を果たしうる、というのが大きい。地下の世界に目をむけているのはすばらしい。でも、それに動物がどう絡むのかは不明確。

●「運河の果て」平谷美樹、2001年、角川春樹事務所、1900円+税、ISBN4-89456-928-0
20011120 ★★

 「エリ・エリ」に次ぐ第二作(かな?)。火星はテラフォーミングされ、木星周辺宙域にも人類が住みついた未来。木星周辺の外惑星連合、火星、地球の間での微妙な政治的関係を背景に、火星で起きた要人拉致事件を追う火星の議員。そして、導師と共に、火星人(テラフォーミング以前に火星に存在していた知的生命)の謎を追いかけることになるモラトリアム(生まれつきは性的に未分化で、男女の性別を自らが選択する)。この二人を主人公に、それぞれのエピソードが交互に語られ、拉致事件と火星人の謎(何故どこに行ったのか?)が明らかにされる。二つのエピソードはほとんど交錯することなく語られる。一つの世界を舞台にした政治と火星人の二つの独立した話を読んだ感じ。
 神を追い求めてわけがわからないまま終わった「エリ・エリ」よりも出来がいいと思います。とくに、火星人の謎の答えはちょっとおもしろかった。そんな技術があれば他の解決策を思いつきそうな気もするけど…。

●「暗黒太陽の目覚め」(上・下)林 譲治、2001年、ハルキ文庫、(上)700円+税 (下)760円+税、(上)ISBN4-89456-879-9 (下)ISBN4-89456-894-2
20011109 ★

 「侵略者の平和」と同じ世界設定の話。今度は辺境の宇宙都市が舞台。最寄りの恒星が超新星化するってんで、脱出をはかる。その過程でのいろんな勢力の駆け引きが見所か。例によってテクノロジーにはこだわりを見せる。
 テクノロジーで宇宙を支配するマヤ設計局、メディアで宇宙中に影響力を持つ芸者園、独特の目的と行動原理のもとに宇宙犯罪組織をなのる龍党。これに政府機関と軍がからんだ社会のあり方はとても楽しい。気分はデューンシリーズ。
 テクノロジー面では、ホーガンの「量子宇宙干渉機」を思わせる多元宇宙を操作する装置が出てきます。実用化できない理由が説明されてすぐにメインストーリーからはずれるんやけど、じゃあなんのために登場したのか?謎の古代船とともに次の話につながるのか?

●「ミドリノツキ」(上・中・下)岩本隆雄、2001年、ソノラマ文庫、(上)533円+税 (中)495円+税 (下)495円+税、(上)ISBN4-257-76936-X (中)ISBN4-257-76941-6 (下)ISBN4-257-76949-1
20011106 ★

 「星虫」でデビューした岩本隆雄の第4作品(かな?ソノラマ文庫以外からも出てたら間違ってます)。ある日突然、謎の塔が現れて、世界中から一人だけを選んで、何でも好きな望みをかなえてくれる。いったい誰が選ばれて、その人は何を願うのか。そして塔の正体は一体何なのか。などを中心に物語は進んでいきます。
 相変わらず正当派ジュヴナイルSFといったところ。高校生が主人公で、恋があり、友情があり、冒険があり、ハッピーエンド。とっても後味がいいです。唯一の問題は、どの作品もテイストが似すぎていること。ある意味ファーストコンタクト物であり、ある意味主人公の高校生が世界を救う。どうしても「星虫」の男の子版に思えてしまう。この作品を最初に読んでたら、評価はもっと高かったでしょう。

●「イマジナル・ディスク」夏 緑、2001年、ハルキ文庫、760円+税、ISBN4-89456-941-8
20011105 ☆

 バイオテクノロジーでつくられた噛むチョウと、それが伝染させる病気をめぐるバイオハザード小説。たくさん人が死んで、何となく主人公が生き残ってハッピーエンド。直情的で間抜けでコンプレックスだらけの主人公、自分の業績のことしか考えない教官に院生、無償の愛に自己陶酔しているような女性。登場人物には、ろくなのがいません。論文が書けずにあせるM2にだけは共感を覚えるけど、思い出したくないような。
 著者は、京都大学大学院出身の分子生物学屋さんのようで、舞台も京大キャンパス。分子生物学関連と京大、及び院生やポスドクの立場はよく知ってます。でも、生物の進化や”利己的遺伝子”関連の部分では、間違ってないけど正しくもないような妙な説明をしてくれます。気持ちが悪い。そして何より気になるのは、冒頭で京大病院から本部キャンパスに行くのに鴨川沿いを歩いていること。なに遠回りしてるんやろ。
 SF的アイデアとしては、ID遺伝子による…。でもそんなに目新しくもない。「パラサイト・イヴ」の二番煎じといった感じの作品、といったところでしょうか。
●「日曜日には鼠を殺せ」山田正紀、2001年、祥伝社文庫、381円+税、ISBN4-396-32887-7
20011031 ☆

 統首による独裁が行われている21世紀国家。時間以内に3つのステージからなる恐怖城からの脱出することに命をかけて、政治犯8人がゲームを行なう。まあ、殺人マシーンが徘徊する運動場での、命がけの障害物競走みたいなものです。どんどん競技参加者は死んでいきます。まだ誰も脱出に成功したことはないそうで。
 で、だからどうしたの?というのが率直な感想です。何が書きたかったんでしょう?
●「星の国のアリス」田中啓文、2001年、祥伝社文庫、381円+税、ISBN4-396-32884-2
20011031 ★

 変人ばかりが乗る小さな宇宙船で起きた殺人事件。ようはその犯人探しで、SFミステリーと呼んでもいい内容なのだけど。とにかく吸血鬼騒ぎと、乗客と乗組員の変人ぶりばかりが目立って、SFミステリーとは思わせてくれない。あっと驚く犯人が一応用意されているけど、やっぱり書きたかったのは変人たちなんでしょう。
●「虹の天象儀」瀬名秀明、2001年、祥伝社文庫、381円+税、ISBN4-396-32884-2
20011030 ★

 プラネタリウムとタイムスリップと織田作之助。キーワードは、”思いが残る”。ノスタルジックなタイムトラベル物。ちょっとフィニィを思わせる。
 「八月の博物館」といい、著者は博物館にノスタルジックな想いがあるようで。一番印象的だったのは、謝辞に大阪市立科学館の学芸員の名前があがっていることでした。
●「CANDY」鯨統一郎、2001年、祥伝社文庫、381円+税、ISBN4-396-32886-9
20011030 ☆

 パラレルワールドを舞台にしたハチャメチャな話。とくに理屈はない。あるのは駄洒落かな。読むのに約30分。書くのも2-3日ではなかったかと思う。
●「アイ・アム」菅 浩江、2001年、祥伝社文庫、381円+税、ISBN4-396-32885-0
20011029 ★★

 ターミナルケアをテーマにした中編SF。病院でロボットのボディに入って目覚めたミキが、看護婦として働きながら、自分の正体を探し求める。死とは何か、生とは何か、人間とは何かという重いテーマを、手際よく描いた感じ。
 ミキの正体は、予想通り。むしろどうして自分の正体を知りたがるのかの議論が興味深かった。「自分の正体を知れば限界も判る。限界が判ればどこかで上手に諦めようとする。」それがあらゆる自分探しの本当の目的なのかも。自分の生を諦めた患者に対するターミナルケアのコンテクストと絡んで出てくるだけに印象的。
●「聖杯伝説」篠田真由美、2001年、徳間デュアル文庫、476円+税、ISBN4-19-905081-7
20011029 ☆

 中編SFだが、さらに2編の短編からなっている感じ。人類が宇宙に広く分散した後、一度植民地間の交流が絶え、再び各地の人類の居住惑星が再発見されている時代。地球の位置は失われ、中央文明圏が、強引に辺境惑星の統合を進める。その中で生じた悲劇。その悲劇が、宇宙に広く伝播した物語に基づく地球探しを絡めて描かれる。
 要は、植民地における同化政策の是非みたいな問題。結局は単なる恋愛物語として、中途半端に終わった感が強い。
●「ザリガニマン」北野勇作、2001年、徳間デュアル文庫、476円+税、ISBN4-19-905080-9
20011028 ★

 「かめくん」の対をなす中編SF。つまりかめくんが闘った相手のザリガニを作る話です。「かめくん」が全体にほんわかした感じだったのに対して、こちらは爛熟期に入ったバイオテクノロジーが、当たり前のように、そしてとっても気持ち悪く描かれていて、ワクワクする。
 この著者の作品は、随所にこれは現実ではないかもしれない。と思わせるちょっとフレーズや場面を頻繁に挿入して、小説全体の何が現実やらわからない不思議な雰囲気を作り出すのがうまい。結局最後はほんとに何が何やらわからなくなるのは、正当なディックに似てる。でも、独特の小説って感じ。
 とにかく、強化作業服や、生体素材のゴミなどの記述だけでも充分楽しめるってゆうか。気持ち悪いってゆうか。最後まで、このドロドロ、ネチョネチョした感じでつらぬいてもよかった気がする。というわけで、第一部が圧倒的にお気に入り。なんか妙に「武装島田倉庫」を思い出してしまった。
●「かりそめエマノン」梶尾真治、2001年、徳間デュアル文庫、476円+税、ISBN4-19-905079-5
20011024 ☆

 「おもいでエマノン」「さすらいエマノン」に続く、エマノンシリーズ3冊目の単行本。今までは短編ばかりだったのが、初の中編。でも内容は、短編でも充分な程度だと思います。生命の誕生からのすべての記憶を持っているエマノンを主人公とするシリーズですが、もうそんな基本設定は物語展開ととくに関係がなくなって、単なる永遠に生きる超能力少女です。
 このシリーズがどうしてこんなに支持されるのかはよくわかりませんが、「生命の誕生からのすべての記憶を持っている」というエマノンの設定は、考えれば考えるほど不思議だらけ。そういう意味では魅力的なのかも知れない。
 今回気になったのは、”エマノンの先祖は代々、毎世代に1個体しか子孫を残さない”という部分。生殖と増殖が不分明な生命の時代に、このフレーズが意味を持つのかという点はさておき。もしミトコンドリア・イヴが存在するなら、そしてエマノンはその直系に当たるのだから、進化ができるはずがないのでは?とか。もしエマノンの血統が雄側の遺伝情報で進化してきたとしても、人間に至る進化をたどってくるには、すごいありそうにない条件が必要になるのでは?とか。とても気になります。
 こういった謎の説明になるような、生殖相手選びの物語を書いたらいいのでは?
●「大赤斑追撃」林 穣治、2001年、徳間デュアル文庫、476円+税、ISBN4-19-905083-3
20011024 ★

 木星の大気圏内での、ろくに武器を持たない調査船と、武器満載の宇宙軍の戦艦の戦いのシミュレーション小説。宇宙空間ならとても話にならないが、木星大気圏内という特殊な環境では、環境の特性を理解している方に分がある。というのがミソ。
 長編になると、ご都合主義的なストーリー展開が気になることが多い著者やけど、中編になるとワンアイデアのシミュレーションで押せるだけに、著者の本領が発揮された感じ。勧善懲悪で、予定通りの気持ちのいい展開が楽しめます。
●「天空の遺産」ロイス・マクマスター・ビジョルド、2001年、創元SF文庫、900円、ISBN4-488-69808-5
20011022 ★

 ヴォルコシガン・シリーズの最新作。「名誉のかけら」「バラヤー内乱」とシリーズの主人公の両親を中心とする物語の翻訳が続いていたけれど、久しぶりに主人公が登場し活躍する。中身は、セタガンダの美女のためにがんばるってとこでしょうか。がんばった末にあまり報われないのが、寅さんみたい。
 見所は、セタガンダの社会構造。日本の過去の歴史を参考にしたそうで。天皇の外戚が力をふるった平安時代、大奥が隠然とした権力を持っていた江戸時代を彷彿とさせる支配階級の社会が描かれます。でも、宦官みたいな存在がいたり、どちらかと言うと中国の宮廷社会のような気がしなくもない。
●「ドッグファイト」谷口裕貴、2001年、徳間書店、1600円+税、ISBN4-19-861350-8
20011008 ★★

 第2回日本SF新人賞受賞作品。でも、とてもデビュー作とは思えない。完成度の高い作品。文章も物語も人物描写もとても達者。
 人類の植民惑星ピジョンが侵略を受け、侵略者からピジョンを解放する戦いが始まる。その戦いで重要な役割を果たすのが、精神によって犬と交流し、犬の群を率いて狩りをする犬飼いという人々。物語は一つの町のパルチザンの活動を描くだけ。しかし、その背景である惑星ピジョンの様子、ピジョンの住民達の社会的な対立、地球と他の植民星との関係、地球の現状なども端々から読みとることができる。
 数多くの魅力的な人物が描かれるが、中でもいいのは人間と同じくらい個性的に描かれる犬たち。犬は言葉をしゃべらないのだが、犬飼いの目を通じてその個性が見事に描かれている。とにかく犬好きには絶対にお薦め。さらに、シャドウと呼ばれる外縁星の謎の存在など、宇宙的なSF的仕掛けも用意してある。
 とにかく戦いの中で、多くの人が犬が死にます。泣かせます。犬が死ぬシーンで泣かない奴とは、友達になれそうにない。というわけで、人のいる前で読まない方が無難です。
●「武装島田倉庫」椎名 誠、1993年、新潮文庫、400円+税、ISBN4-10-144811-6
20010917 ★★

 「アド・バード」「水域」と並ぶシーナ・ワールド3部作の一つ。互いにつながりを持った7短編からなる(連作?)短編集。世界規模の戦争を体験し、海には油泥が厚く堆積し、徹底的に環境が破壊されたらしい世界。さまざまな異様な生物が闊歩する。文明は衰退し、劣悪な環境の中、過去の遺産を食いつないで細々と生き延びる人類。といった感じの世界。
 異様で敵意の多い世界での、人のたくましい、それでいて死と隣り合わせの生き様が印象的。シーナ・ワールドらしい奇妙で恐い生物も色々でてきて楽しい。
●「水域」椎名 誠、1994年、講談社文庫、514円+税、ISBN4-06-185620-0
20010913 ★★

 「アド・バード」「武装島田倉庫」と並ぶシーナ・ワールド3部作の一つ。水に覆われた世界を、いかだに乗って流れていく主人公。襲撃者に出会ったり、共に生きる相手と出会ったり、でも結局水に流れていく。バラードの「沈んだ世界」を思わせる。
 とにかくシーナ・ワールドは、さまざまな奇妙な生物が登場するのが魅力。いかだと一緒に動き、主人公と意志疎通をしてるようなしてないような巨大魚がとくにいい感じ。
●「オルガスマシン」イアン・ワトソン、2001年、コアマガジン、2800円+税、ISBN4-87734-458-6
20010906 ★

 フランスで発売されただけ、その過激な内容のため英米では出版されていない。という曰く付きの作品がついに日本で出版。確かに過激な内容。でも、ポルノあるいは性的な描写があふれかえっている今の日本なら出版できるってのもわかる気がする。日本もフランス並みに、性に関してオープンになったってことかな?
 とにかく男性優位、男尊女卑の考えがとことんまで進んだ世界。女性が差別されるどころか、男の所有物として、ほとんど性欲のはけ口としてのみ扱われている。それどころか、遺伝子操作と洗脳によって作られたカスタムメイド・ガールが普通に売られてすらいる。主人公はそんなカスタムメイド・ガールの一人で、やがて女性解放のために立ち上がる。てな話。
 とくに前半は、性的場面が満載。表だって他人に勧めるのはためらわれる本。表紙も扉絵も裸のロリコン人形だし。でも、SFからの男性優位主義者への告発としては、とても痛烈。本質的にこんな男はけっこういるような気がする。
●「復讐の女艦長」(上・下)デイヴィッド・ウェーバー、2001年、早川文庫SF、(上)680円(下)680円、(上)ISBN4-15-011362-9 (下)ISBN4-15-011363-7
20010903 ☆

 「紅の勇者オナー・ハリントン」シリーズの第4弾。今度は、とくに出撃はせずに、政争に巻き込まれる感じ。ついに宿敵ヤングとの間に決着をつける。これで内輪の敵もなくなったし、ますます味方だらけになった感じ。

●「昔、火星のあった場所」北野勇作、2001年、徳間デュアル文庫、619円+税、ISBN4-19-905052-3
20010809 ★

 「かめくん」の著者のデビュー作品。、人間の中に、人間に化けたタヌキが混じり、人間vsタヌキの戦いが行われている、とされる世界。人間の主人公が、いろんな形でタヌキの活動と関わる。てな話が続く連作短編集、のような感じ。
 雰囲気から、各章のタイトルまで、全体的に昔話風。現実感がなく、ほんわかした感じが、ずーっとただよう。一生懸命、人間を真似てるタヌキがおもしろい。でも、結末は、というか落としどころは予想通りかな。
●「さすらいエマノン」梶尾真治、2001年、徳間デュアル文庫、762円+税、ISBN4-19-905008-6
20010808 ☆

 「おもいでエマノン」の続編にあたる短編集。これまた長らく絶版でしたが、再刊されました。なんでも今度は新作の長編も出るとか。ますます”先祖のすべての記憶を持っている”という基本設定から離れて、永遠に生きる、動植物と意志疎通できる、超能力少女めいてきた。これなら過去視のできる超能力少女の話にしとけばええやん。
 異常現象が起こって、その説明が、ことごとく神秘主義的なエコロジー思想、とでもいった色合いなのも鼻につく。進化や生態学がらみの話題にも納得できないし。なんかいらいらしながら読んでしまいました。
●「天界を翔る夢」デニス・ダンヴァーズ、2001年、ハヤカワ文庫SF、960円+税、ISBN4-15-011335-1
20010808 ☆

 世界の大部分の人類が、肉体を捨てて、ヴァーチャルの世界に移住した未来。リアル世界に留まる数少ない人類の一人である主人公が、ヴァーチャル世界に行ったときに、ある女の子と恋に落ちる。肉体を捨てないとヴァーチャル世界に長時間とどまれないため、リアル世界をとるか、彼女をとるかで悩む主人公。主人公のと恋に落ちる謎の女の正体が、物語の後半の重要なテーマになる。
 おもしろいのは、そして物語のキーになるのは、過去に死んだ複数の人格を寄せ集め、人類に使える者としてつくられたコンストラクトという存在。むしろ単純なラブストーリーにせずに、コンストラクトによる人類支配という話にした方がおもしろかったのに。
●「ペロー・ザ・キャット全仕事」吉川良太郎、2001年、徳間書店、1600円+税、ISBN4-15-011357-2
20010806 ★

 第2回日本SF新人賞受賞作。賞をもらっただけのことはある手慣れた、そして独特の雰囲気のある文章。登場人物もいろいろ味わい深い。小説としていいできだと思う。とある装置を手に入れた主人公が、ゆすりで喰っていこうとするけど、裏世界の奴らの抗争に巻き込まれて、って話。
 でもSFとしては、ネコに精神だけ乗り移らせて、スパイやら殺人やらをする、というアイデアが出てくるだけと言っても過言ではない。近未来の世界情勢もチラッと垣間見せてくれるけど、ちょっと物足りないかな。キーとなるアイデアがとことん突き詰められてもないし。
●「地を継ぐ者」ブライアン・ステイブルフォード、2001年、ハヤカワ文庫SF、840円+税、ISBN4-15-011356-4
20010728 ★

 謎の病気によって、不妊症が広まり危うく人類絶滅の危機に陥り、科学技術でなんとかそれを乗り切った後の世界。人工臓器やらなんやらの発展によって、永遠の命も手の届く所まで来たと考えられている世界。エリミネーターという存在に命を狙われる羽目になった主人公が、自分の父親の謎に迫っていく、といった話。
 社会が永遠の命を手に入れたらどうなるのか。あるいは後少ししたら永遠の命が手に入りそうな世界は、どうなるのか。こういった議論はちょっとおもしろかった。
 あと、人口増加の問題解決のために、不妊症をもたらすウイルスを開発してバラまくというアイデアは、下手したら実際に実行されそうで恐い。また、それがとりあえず人口問題の解決につながるな、と思ってしまう自分も恐い。

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