SF関係の本の紹介(2000年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「夜聖の少年」浅暮三文、2000年、徳間デュアル文庫、705円+税、ISBN4-19-905025-6
20001228 ☆

 未来の地球を思わせる世界。思春期に抑制遺伝子を人工的に組み込むことで、社会から攻撃性が排除されている。抑制遺伝子の埋め込みを逃れた子ども達は、土竜と呼ばれ、地下に隠れて暮らしている。社会から脱落した土竜を狩る炎人におびえながら。主人公の少年が、自分の正体を知り、社会に対して…、といった話。
 なんとなく魅力がありそうな設定なのだが、社会システムができあがった説明が不十分なため、リアルに感じられない。抑制遺伝子とか強化遺伝子とかの説明は、あまりにいい加減。また、登場するのは土竜と炎人、あとはウサギくらいで、社会の支配層や一般市民の存在感がほとんどない。こんな狭い視点で、社会の変革をにおわそうとされても無理。
 主人公の正体をはじめとする謎も、まあ特に驚かないし…。設定・キャラクター・ストーリーのどれも、それっぽく作っただけで、薄っぺらな感じが強い。

●「バラヤー内乱」ロイス・マクマスター・ビジョルド、2000年、創元SF文庫、980円、ISBN4-488-69807-7
20001223 ★

 ヴォルコシガン・シリーズの最新作。内容は、「名誉のかけら」の直後。シリーズの主人公の生まれる直前・直後、内乱の中での主人公の母親の活躍が描かれる。
 バラヤーというヴォルという貴族階級に支配され、封建的で、男性優位、軍隊を中心とする陰謀渦巻く世界。その不思議さが、別の惑星からやってきた女性の目で語られるのが、今回の趣向。また、そのバラヤーが、この女性がきっかけとなって、徐々に変化していくことも予感させる。シリーズの中でも、重要な作品という感じ。

●「エリ・エリ」平谷美樹、2000年、角川春樹事務所、1900円+税、ISBN4-89456-911-6
20001220 ★

 第1回小松左京賞受賞作品。21世紀、地球外知的生命体との接触を目的として、近傍恒星系へ宇宙船を送り出す”ホメロス計画”が進められつつある。この計画を主軸に、科学者、反対勢力、神を探し求める宗教家のエピソードが交互に語られる。その中で、太陽系外から謎の宇宙船が地球に接近。といった話。社会的な背景として重要なのは、科学の発展によって、神という超越者への信仰が薄れ、あらゆる宗教が衰退している、という点。
 結局、科学と宗教の関わりが描かれてるとでもいうか。神に変わる超越者を、地球外知的生命に求める話というか。謎の宇宙船で盛り上がる割には、できの悪い「宇宙のランデブー」のように、とくに何も解決されない。大風呂敷を広げて、収拾できずに終わってしまった感じ。まるでマイケル・クライトンの作品のよう…。

●「黄泉がえり」梶尾真治、2000年、新潮社、1700円+税、ISBN4-10-440201-X
20001215 ★★

 熊本市を中心に、死者が生き返って戻ってくるという現象が多発する。その顛末を、その現象に関わる人間模様を中心に描く。といった感じ。帯にはホラーと書いてあるけど、全然恐くないからホラーじゃない。むしろ前半は、死んだはずの人間が帰ってくる、という不条理な事態に対して、家族や行政機関などが右往左往する姿が、コミカルな雰囲気で描かれている。
 どうして、死者が生き返ったかについては、プロローグ前の文章だけで、少なくともSF読みには自明でしょう。もちろん詳しい蘇りのプロセスや、謎の存在の正体なんかは結局わかりません。でも死者が生き返ってくるという不条理な出来事が起こったら、社会はどのように反応するか、を考察してるという点で、正真正銘のSFだと思います。
 最後の方は、なかなか感動的で泣けます。どうしようもない別れがはっきりとある愛情関係。けっこう多くの登場人物があって、それぞれのエピソードもしっかりとあって、それでいて全体もよくまとまってる。うまいです。

●「八月の博物館」瀬名秀明、2000年、角川書店、1600円+税、ISBN4-04-873259-5
20001205 ★

 19世紀:エジプトで発掘を続けるフランス人考古学者マリエット、現代:理系の研究者出身の(著者自身を思わせる)作家、1970年頃:小学6年生のトオル。この3人のエピソードが交互に語られていき、やがて互いに関係を持ってくる。
 マリエットのエピソードは、エジプト遺跡の発掘物語。トオルのエピソードは、小学校最後の夏休みの不思議体験。作家のエピソードは、理系出身作家のぼやき。といったところ(少なくとも当初は)。とくに作家のエピソードでは、物語とは何か、感動とは何か、という問いかけをするメタフィクション的な内容になっている。
 ”本物と見分けがつかなければ、それは本物だ”といったフレーズをはじめ、ヴァーチャルリアリティが、全体の話の骨格をなす。そして、物語をもヴァーチャルリアリティを作り出す装置と見なすと…。といった話。
 それなりにおもしろいけど、最後の方が納得できるようなできないような…。物語としては、反則すれすれのような気がする。

●「遺響の門」中井紀夫、2000年、徳間デュアル文庫、590円+税、ISBN4-19-905022-1
20001127 ☆

 人類が銀河系にある程度広まり、いくつかの異星人と友好関係を結び、さらにキラーバグと星間戦争を続けている。という背景のもと、能力はありながら何をしたいのかわからない主人公が、ある日歌姫と出会い、親に逆らって旅に出て、その惑星現住種族から、キラーバグに関する重大な謎を知る。てな話。
 主人公、歌姫、謎の種族クランガなど、登場人物の行動の背景にある思考がさっぱり理解できない。さらにストーリーは場当たり的やし、ラストは納得も感動もできないし。さっぱりおもしろくありません。最悪の部類の作品だと思います。

●「<柊の僧兵>記」菅 浩江、2000年、徳間デュアル文庫、590円+税、ISBN4-19-905020-5
20001124 ★

 砂漠の惑星で、ニューラと呼ばれる場所を中心としたオアシスに依存して暮らす人々。ニューラは水を供給してくれる一方で、人には有害なガスを放出するため、すぐ近くで暮らすことはできない。さらに、柊の僧兵と呼ばれる3人がいて、集落を渡り歩いては、生活に役立つ知恵や技術を与えており、神に近い存在としてあがめられている。こんな世界に、はるかに高い文明を持った侵略者が来て、その虐殺を逃れた少年と少女が、人々を守るために戦う。と言った話。
 ニューラ、僧兵、侵略者の謎は、充分予想できる範囲で、話の展開も予定通り、といった感じ。主人公二人の淡い恋愛と成長を絡めて、話はまとまっている。が、物足りなかった。もっと昔に読んでいればよかったかも。

●「紫の砂漠」松村栄子、2000年、ハルキ文庫、820円+税、ISBN4-89456-782-2
20001122 ★★

 紫の砂からなる砂漠のほとりの塩の村に生まれたシェプシの物語。この世界では、生まれたときには男女の性別が決まっておらず、「真実の恋」に出会ったときに、片方が生む性に、もう片方が守る性に分化する。子ども達は、運命で決まっている「真実の恋」の相手に出会うことを夢見ながら、同時に出会えないことを恐れながら、成長していく。
 さらに、この世界では、生まれた村で7年間育てられた後、’聞く神’のもとに集められ、’告げる神’によって運命の親のもとに預けられる。運命の親のもとで7年間育てられ、さらに7年間の恩返しを経た後、成人する。主人公のシェプシは7歳で、ちょうど’聞く神’のもとに集められていくところ。
 物語では、異星の人々の社会構造や風習を淡々と述べていく。その中で、砂漠の謎に魅せられたシェプシが、村の巫祝、子ども達を連れに来た詩人、異端の書記などとシェプシのやりとりから、謎を少しずつ明らかにしていくことで進んでいく。明らかにされる砂漠の謎は、予想通りのもの。また設定の中の、大きな謎の一つは明らかにされない。
 解説でも述べられているように、両性具有人の社会、砂漠の惑星などなど、ル・グインの「闇の左手」を強く思わせる。そういった意味で、ジェンダーの問題を扱った小説として評価されやすそう。しかし、性別の決定が、「真実の恋」によって決まるという部分についての考察が、物足りないように思う。
 むしろ子どもの入れ替えっていう設定の方が斬新で。その風習の社会構造への影響(生まれた村での子ども達の扱われ方とか)は、興味深かった。

●「奇憶」小林泰三、2000年、祥伝社文庫、381円+税、ISBN4-396-32816-8
20001113 ★

 物心がつく前の、異様な世界の記憶についての話。SF的な説明らしきものはあるけど、まあSFというよりは、ホラーでしょう。完全に人格破綻者とおぼしき主人公が、何より恐い。

●「0番目の男」山之口洋、2000年、祥伝社文庫、381円+税、ISBN4-396-32815-X
20001110 ★★

 クローン技術の一つの可能性を示した小説。細菌のコロニーのように、増殖個体群(マルチプリカンド)を形成して、クローンによって形成された社会でのクローン同士の人間関係。このイメージだけでも、とても印象的。さらには、ディープスリープによる”タイムトラベル”を絡めて、SF的アイデアが盛りだくさん。ラストもよいです。

●「ラクトバチルス・メデューサ」武森斉一、2000年、ハルキ文庫、740円+税、ISBN4-89456-775-X
20001105 ★

 遺伝子組み替えによって、人体を石化する”病気”をもたらすような細菌がつくられ、それが広まるというバイオハザード小説。昨年なら、ホラーと称して売られそうやけど、SFとして売られてる。これまた著者は医者で、遺伝子組み替えの技術面なんかにはリアリティーがいっぱい。
 一番興味深かったのは、遺伝子組み替え作物の問題点の指摘や、遺伝子が組み替えられた細菌が野外に放出された時の危険性の指摘。なるほど、そういう側面があるのかー、と思わず納得。しかし、科学技術に対して警鐘を鳴らすという意味では成功してるけど、SF的なアイデアでは当たり前の範囲に留まっていて、不満。

●「人喰い病」石黒達昌、2000年、ハルキ文庫、540円+税、ISBN4-89456-767-9
20001027 ★

 「雪女」「人喰い病」「水蛇」「蜂」の4編を収めた短編集。著者は医者で、小説自体も報告者や科学論文風の明らかに理系の文章。あとがきを読むと、一般にはわかりにくいと評されているそうやけど、理系人間にしてみるととても読みやすかったりする。
 雪女を低体温症という症状として対処する「雪女」、全身性皮膚潰瘍症という死に至る病を扱った「人喰い病」。医学的なアプローチを見せた作品はとてもおもしろく読めた。ところが医学色が少なく、生物学特に進化についての言及が多い「水蛇」と「蜂」では、イライラさせられた。医者って、こんなに生物学特に進化を理解してないのか、ってゆうのが一番の感慨でした。

●「聖母の部隊」酒見賢一、2000年、ハルキ文庫、620円+税、ISBN4-89456-771-7
20001025 ★

 「後宮物語」でファンタジーノベルズ大賞を取ってデビューし(たと思ったけど違ったかな?)、延々とつづく蘊蓄小説「陋巷に在り」を書いている著者の、SF短編集。らしい。ファンタジー作家と思っていたので、SFを書くとはちょっと意外。でも、4編入っている内、2編はファンタジー色が強い。
 一番SF的なのは、表題作の「聖母の部隊」か。でも、少し読めば設定はわかってしまうので、とくに驚きもなく。最後まで読んでもやっぱり驚きがない。とりたてて、おもしろい考察もなく、設定も、ストーリーもありがち。解説の恩田陸さんには悪いけど、さっぱり興奮しなかった。

●「アース・リバース」三雲岳斗、2000年、角川スニーカー文庫、533円+税、ISBN4-04-424101-5
20001013 ★

 地表が溶岩に覆われた世界、炎界(フレイムシーと読む)。地表には住めないので、人々は、浮遊している閉鎖された人工的な巨大都市に住んでいる。都市同士は互いに領域への侵入を許さないほど対立しており、互いに侵入と撃退を繰り返している。で、その戦いに用いられるのが、巨大ロボット兵器。ビーム兵器が使えないので、誘導ミサイルによる攻撃か、剣などによる接近戦。ガンダムみたい。話もアニメ調だねえ、と思って読み進む。後半になって、炎界の謎が明かされると、これはSFやったんや。と思う趣向になっています。まあアイデア一発だけですが、それなりに新鮮です。

●「おもいでエマノン」梶尾真治、2000年、徳間デュアル文庫、762円+税、ISBN4-19-905008-6
20001012 ★

 梶尾真治の中でも有名な作品群。名前だけは有名やけど、絶版でした。再刊されてよかった。生命誕生からのすべての記憶を持つ女性エマノンが出てくる連作短編集。エマノンが出てくるという以外とくにつながりはないので、どの短編から読んでも大丈夫。最初は、単に膨大な記憶を持っているだけのエマノンだったが、すぐれた身体能力や、植物と話す能力を持つなど、だんだん超能力者めいてくる。
 気になったのは、エマノンが自分の記憶のそれぞれを、現在から何年前という形で整理できていること。まだ魚だったのは**年前てな形で、どうやったら記憶できるのかな。それから、動物ではヒトにだけ、生命誕生からのすべての記憶を持っている存在が出てきていることの説明がない。’ヒトが進化の最先端’というフレーズが各所で出てくるけど、まさかこれが説明なんじゃないよねえ。現在生存している生物はすべて進化の最先端やろうと思うけどな。
 先祖のすべての記憶を持っていることで起きそうなおもしろいことは、母や祖母のような近い先祖の目で、家族を見ることができること。あとはせいぜい大昔のことをリアルに知っている、ということにすぎない。そういう意味で、おもしろかったのは短編「おもいでエマノン」だけ。あとは、エマノンが出てくる必然がない。

●「KI・DO・U」杉本 蓮、2000年、徳間デュアル文庫、762円+税、ISBN4-19-905009-4
20001009 ☆

 バイオテクノロジーによって、人工的な生物といっていいくらい、生命を改造できるようになった未来。人工的な操作を受けた人間のうち、特定用途用に身体機能を操作されたものはサーバント、頭脳の機能を操作されたものはモバイルと呼ばれている。いずれも、人権は認められず、所有され利用される道具と見なされる。そんな世界で、女性が、父が残した口の悪いモバイルと一緒に、死んだはずの父を捜す話。
 ミステリ仕立ての話は、まあいいんやけど、なんでこの親は、こんなに持って回ったことをするのかさっぱりわからない。ただ巻き込まれているだけの主人公も、屈折したモバイルも好きじゃない。人間の差別意識への考察も通り一遍。読まなくていいです。

●「イミューン ぼくたちの敵」青木 和、2000年、徳間デュアル文庫、819円+税、ISBN4-19-905007-8
20001007 ☆

 人間に寄生して増殖する謎の敵。それを倒すために密かに戦う6人の戦士。戦士であるかどうかは生まれつき決まっていて、主人公は、覚醒して戦いに加わる。ところが戦いを続けてるうちに…、という話。
 敵の正体は結局わからずじまい。むしろ明かされるのは、戦士の正体。やけど、それも中途半端。だいたい、少し生物学を知ってる人なら、タイトルから何の話かわかってしまうと思う。青春小説としても、中途半端。

●「星虫」岩本隆雄、2000年、朝日ソノラマ文庫、571円+税、ISBN4-257-76907-6
20001006 ★★

 10年前に出版されて、一部でとっても評価が高かった作品。一部改訂して、十年ぶりに再販されました。ある夜、空から謎の生物”星虫”が大量に落ちてきて、人間の額にひっつき、成長を始める。星虫を付けた人には恩恵もあるんやけど、そのうちに…。てな話。星虫の成長に伴う人間側の反応の変化が、日を追って語られていき、最後にその正体がわかる。最初は「寄生獣」のようですが、その後の展開はむしろ「ET」。
 とてもSF的な骨格を持ちながら、思いっきり青春小説しています。友情、恋愛、大人との対立、そして主人公の成長。真っ向勝負のジュヴナイルSFで、とってもよくできています。
 でも、ガイア仮説を背景にした環境問題に対する議論、とくに人間を地球のガン細胞に例えるあたりは、あまりにもありがちな感じ。全体的にも、ありそうな展開を、上手にまとめた感じがします。とはゆうものの、とってもよかったです。懐かしい感じのするSF。でもこれを気に入ったとゆうのは、少し気恥ずかしいかも…。

●「海底密室」三雲岳斗、2000年、徳間デュアル文庫、762円+税、ISBN4-19-905012-4
20001003 ★

 「M.G.H. 楽園の鏡像」に続く三雲岳斗のSFミステリー第二弾、だそうです。舞台が、宇宙ステーションから海底の実験施設に変わったけど、隔離された閉鎖空間での、不可能犯罪なのは一緒。同じようにコンピュータ内の仮装人格まで出てくる。
 殺人事件を解決する間違いなくミステリです。トリックには、超能力や仮想空間関係ではなく、現在の科学知識で理解できる範囲内の現象が使われています。トリックを解くにはかなりの科学知識が必要なので、正当な本格物と言えるかはよくわかりませんが…。
 問題はSFとしてです。舞台が特殊ですが、これは海上の豪華船内や、人里離れた山荘と本質的には変わりません。トリックなど、主要な部分には、現代の科学知識とそれに基づく技術しか使われていません。とっても科学的な小説ではあるのですが、SFとしては不満が残ります。何より、SF的な設定(たとえば海底の実験施設)に基づく、スペキュレーションが少ない。かろうじて、200ページあたりの孤独に関する議論くらい。科学的な小説と、SFは同じではない。ということを考えさせてくれます。

●「稲妻よ、聖なる星をめざせ!」キャサリン・アサロ、2000年、早川文庫SF、880円+税、ISBN4-15-011305-X
20000928 ★

 「飛翔せよ、閃光の虚空へ!」に続く「スコーリア戦史」第二弾。といっても、続き物ではないので、これから読んでも大丈夫。タイトルと表紙の絵を見るとつまらないスペースオペラかと思うのですが、これが意外とおもしろい。
 平行宇宙のそれも未来から、サイボーグ戦士が現代の地球にやってきて、女の子と恋に落ち。女の子を連れて元の世界に戻ってゆく。なんか読んだことがあるパターンと思ったら、レンズマンやったんやね。「飛翔せよ、閃光の虚空へ!」はロミオとジュリエットやったし。基本的な流れは必ずラブストーリーか。
 SF的でおもしろいのは、サイボーグ戦士と完全に一体として機能する戦闘機(ってゆうか宇宙船、のコンピュータ)との絡み。体内にコンピュータ知性体を抱えてるのは、ある意味で多重人格やななどと思わせる。そこにテレパシーが、無線LANのように絡んでくる。電磁波以外にテレパシーという情報通信網まで持った、マン・マシン共生体。このアイテムだけで充分楽しい。

●「フリーダムズ・チャレンジ」アン・マキャフリイ、2000年、早川文庫SF、900円、ISBN4-15-011321-1
20000926 ☆

 「フリーダムズ・ランディング」「フリーダムズ・チョイス」に続く完結編。ついに地球を侵略した異星人を撃退し、めでたしめでたし。もちろん読む必要はありません。

●「侵略者の平和 第一部 接触」林 譲治、2000年、ハルキ文庫、580円、ISBN4-89456-759-8
20000921 ☆

 文明を持った異星人のすむ惑星を発見して、行ってみたら人間にそっくりだった、という話。侵略側と侵略される側それぞれが交互に語られる。基本的にはヤングアダルトの骨格で話は進行する。SF的なのは、どうして”ファーストコンタクト”をする二つの種族がそっくりなのか、そして惑星の衛星上にある重力カタパルトの正体は何か、てな部分。あんまりSF的に驚く展開は期待できそうにない。

●「肉食屋敷」小林泰三、2000年、角川ホラー文庫、476円、ISBN4-04-347003-7
20000920 ★★

 「肉食屋敷」、「ジャンク」、「妻への三通の告白」、「獣の記憶」の4編を含む短編集。前の二つはSFといっていい内容。後の二つはサイコホラーって感じ。とくに「ジャンク」は、生体移植や生体パーツのさまざまな利用が進んだ世界での、つぎはぎだらけの人間や動物、それに道具がでてくる西部劇風のお話。独特の雰囲気を持った世界がいいです。この人の作品には驚くほど、はずれがない。

●「影が行く」ディック、クーンツ他、2000年、創元SF文庫、920円、ISBN4-488-71501-X
20000919 ★★

 ライバー、ロバーツ、キャンベルJr、ディック、ゼラズニイ、ヴァンス、ベスター、オールディスなど、メジャーどころの13中短編を並べた日本オリジナルのアンソロジー。ホラーSFなどと銘打ってあるけど、単なるホラーもあれば、コアなSFもあるって感じ。解説によれば、13編中、5編が本邦初訳、4編は雑誌に翻訳されたきりのもの、残る4編はいずれも定番的な名作だが現在は入手困難。なかなかお買い得のアンソロジーになってる。
 お気に入りは、映画「物体X」の原作「影が行く」、ディックの「探検隊帰る」、クラ−ク・アシュトン・スミスの「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」、ヴァンスの「五つの月が昇るとき」、オールディスの「唾の樹」。理解できない存在を相手に、人間が右往左往するのがいいです。

●「デモン・シード【完全版】」ディーン・クーンツ、2000年、創元SF文庫、620円、ISBN4-488-68403-3
20000918 ☆

 知性を持ったコンピュータが、気に入った女性を閉じこめて、自分の子を産ませようとする。それだけの話。とくにコンピュータ知性についてのアイデアもないし。

●「ダーウィンの使者」(上・下)グレッグ・ベア、2000年、ソニー・マガジンズ、(上)1600円(下)1600円、(上)ISBN4-7897-1537-X(下)ISBN4-7897-1538-8
20000914 ★★

 レトロウイルスによって人類が急速に進化して、別の存在へ変わって行く過程が描かれる。「ブラッドミュージック」を思わせるけど、最近のベアらしく、科学よりはむしろ政治問題として扱われている。とにかく政治的ないざこざや、恋愛ゲームといったいかにもアメリカのエンターテイメント的なよけいな要素が多すぎ。
 科学的なアイデアとしては、レトロウイルスの水平感染によって、同じ遺伝子が集団中に急速に広がる可能性は、昔から言われてたこと。最初はそういう話かと思ったんやけど。どうやら、何世代も潜伏していた後に、何らかのきっかけで発現し、新たな環境に適した突然変異を起こして、進化を引き起こす遺伝子の話らしい。レトロウイルスは、水平感染によって個体群内の各個体の遺伝子のネットワークを形成し。さらにはそのネットワークが知性を持って、どのような進化が適応的かを判断して適当な突然変異を引き起こす。
 まず何世代にもわたって潜伏する(その間はまさに中立的)このようなシステムが、突然変異の圧力を受けて崩壊せずに維持されるとは思えない(確かに中立的な領域ても、突然変異率はかなり違うから、ぜーったいにありえないとは言えないかもしれんけど)。何よりも、このような適応的な進化システムが、どのようにして進化しうるかと考えると不思議。
 とはいえ、ウイルスに感染による個体間のネットワークに知性が生じるというアイデアは気に入った。複雑なネットワークに必ず知性が生じるなら、もっとさまざまな知性がありそうやねえ。

●「フューチャーマチック」ウィリアム・ギブスン、2000年、角川書店、1500円、ISBN4-04-791345-6
20000826 ★

 「ヴァーチャル・ライト」「あいどる」と続いた3部作の完結編。ネットワークにつくられた城塞都市の住人、複雑な情報系の結節点を見いだすネットランナー、ネットワーク上の自立したAIであるあいどるなどなど。前2作の登場人物が再び登場。勝手に多くの人が住み着き一種の独立した街となったサンフランシスコ橋に、舞台は集約されていき、物語はクライマックス、歴史的転換の瞬間を迎える。という話らしい。
 橋をはじめとする近未来の人々の生活、とくにちょっとしたアイテムなんかはとってもおもしろい。でもストーリー自体は、どうということはない。歴史的転換の瞬間、と言ってもどうやらさらに未来から、思い返してみれば、といった類のようで。本の最後の段階では、なにが変わったのやらさっぱりわからない。

●「巡洋戦艦<ナイキ>出撃!」(上・下)デイヴィッド・ウェーバー、2000年、早川文庫SF、(上)660円(下)660円、(上)ISBN4-15-011314-9(下)ISBN4-15-011315-7
20000821 ☆

 「新艦長着任!」と「グレイソン攻防戦」に続く、「紅の勇者オナー・ハリントン」シリーズの第3弾。今度は、ヘイヴン人民共和国とやらが侵略してくるのを撃退する。今までの2作と違い、孤立無援ではないし、また活躍の場面も一瞬。シリーズに安住して、パワーも落ちてるのでは?

●「永遠の森 博物館惑星」菅 浩江、2000年、早川書房、1900円、ISBN4-15-208291-7
20000806 ★★

 9編が収められた連作短編集。地球の衛星軌道上に運ばれた小惑星が丸ごと博物館。面積は、オーストラリア大陸並という巨大博物館アフロディーテを舞台に、主人公の学芸員が、学芸員本来の仕事ができないことをぼやきつつ、学芸員同士や収蔵品、博物館でのイベントに関わる問題の調整に走り回る。という話。ある意味で、決して他人事ではない…。
 ただ気に入らないのは、ここでいう博物館は、完全に人文系の博物館・学芸員(というより美術館かな?)を想定しており、自然科学系の博物館・学芸員のことはまったく扱われていない。一応、動植物を扱う部門もあるという設定なのに、不思議。自然科学系の学芸員は、美の探求者なんかやないぞお!
 重要な設定は、脳内インプラントを通してアクセスし、あいまいなイメージに基づく検索までが可能な、データベースシステム。自然科学系では、あいまいなイメージによる検索はいらないけど、思っただけですぐに検索可能なシステムは羨ましい。それよりもきちんとしたデータベースがあることが羨ましいかも…。
 一つ一つのエピソードも、優しくていい話です。ダニエル・キイス氏推薦、という帯もよくわかる。

●「シビュラの目」P・K・ディック、2000年、早川文庫SF、740円、ISBN4-15-011313-0
20000722 ☆

 6編が収められた短編集。表題作以外は、1963年から1966年に書かれたもの。いずれもディックらしいと言えば、らしい作品ですが、それほどおもしろいのはなかった。

●「M.G.H. 楽園の鏡像」三雲岳斗、2000年、徳間書店、1600円、ISBN4-19-861194-7
20000716 ★

 第1回日本SF新人賞を受賞したSFミステリー。帯にあるとおり、確かに新本格っぽいかもしれない。軌道上の宇宙ステーションで、不可能とも思える殺人事件が発生し、たまたま居合わせた素人探偵が解決する。舞台もトリックも、とってもSFらしい。でも、たぶん宇宙ステーションができて、そこへ行くのが一般化したら、これはSFではないただの本格ミステリーとしか呼ばれないでしょう。
 ミステリーとしてはよくできてると思うけど、SFとしてはいたって普通。とくに目新しくもない。仮想空間での仮想人格の活躍は、少しおもしろかったけど、あまり突っ込んでないし…。

●「斜線都市」(上・下)グレッグ・ベア、2000年、早川文庫SF、(上)800円(下)800円、(上)ISBN4-15-011311-4(下)ISBN4-15-011312-2
20000704 ☆

 ナノマシンを頭部に埋め込んでのサイコ・セラピーや、人体改造が、普通に行われる未来。一部のエリート集団による全地球規模でのテロの顛末、ってところか。登場人物がとても多い。各人物の背景までも書き込むことで、未来世界やその歴史を細かく描写しようとしてる。けど、ついていくのが面倒なだけ。ストーリー自体は、まあどうでもいい内容。描かれる未来世界にはまれば楽しく読めるでしょう。
 テロ活動の中核をなしているのは、ある種の有機コンピューター。アイデアはおもしろいけど、あり得ないと思う。素子間の情報伝達がうまく行かない、ってゆうか無茶苦茶遅いでしょう。それでいてメリットはない。バクテリアのネットワークによる地球規模の知性体ってアイデアも出てくるけど、なんでバクテリアだけがネットワークを作ってるの?それなら、まだガイア仮説の方がまし。

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