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本の紹介「夜のイチジクの木の上で」

「夜のイチジクの木の上で フルーツ好きの食肉類シベット」中林雅著、京都大学学術出版会、2021年10月、ISBN978-4-8140-0356-3、2200円+税


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【里井敬 20240226】【公開用】
●「夜のイチジクの木の上で」中林雅著、京都大学学術出版会

 シベット、ジャコウネコの仲間。肉食獣の顔をしているのに植物を主に食べている。その中でもイチジクが好物。イチジクと言っても、半着生で小さな実を着ける。動物本体も、食料樹も初めて知った。ボルネオなどの熱帯雨林で夜行性のミスジパームシベットや最大種のビントロングを捕獲して発信器を付けて、文字通り満身創痍で、寝ないで追跡して、食べる様子、糞を調べた。調査個体数や観察樹数は少ないが、シベットの生態、イチジクの種子散布に果たす役割の可能性など、目の前で起こったことは真実である。アスペルガーの特性を持つ著者はその特性が研究に有利にも不利にも働いたと言う。写真についているQRコードを読み込むと、熱帯雨林の鳥のさえずりや、闇夜の樹上でイチジクを食べるシベットなどを見られるのは楽しい。

 お薦め度:★★★★  対象:フィールドワークに興味がある人
【冨永則子 20240224】
●「夜のイチジクの木の上で」中林雅著、京都大学学術出版会

 シベットは、ジャコウネコの英語表記civetをカタカナにした単語で、哺乳綱食肉目ネコ亜目ジャコウネコ科に属する動物の総称。“ジャコウネコ”と呼ぶとネコの仲間と誤解されるかもしれないが、ネコの仲間の分類名は哺乳綱食肉目ネコ亜目ネコ科なので、“科”のレベルで異なる分類群に属している。日本人にとって身近なシベットの種はハクビシンだろう。食肉目の属する動物がすべて肉食ではなく、本著で主に取り上げられるパームシベットは果実を頻繁に採食する。しかし、歯や消化管は食肉目のつくりなので、けっして果実食に向いているとはいえない。肉食に適した体を持ちながら果実を食べることを選んだパームシベット亜科のシベットはどのような秘技を使って生きてきたのだろうか?
 半樹上性で、樹上を巧みに移動し、夜行性で単独性という行動観察に難しいパームシベットを研究対象に選び、マレーシアのジャングルで徹夜の日々を過ごした著者の奮戦記。
 なぜ食肉目のパームシベットが果実食なのか?の、“なぜ”は分かったような分からんような…。イチジクの種子散布の話題は興味深く読めた。本著の最後で著者自身がアスペルガーであることを公表しているが、その特性と生き辛さを乗り越えるヒントとして生活環境を変えてみることをあげている。研究論文がいとも簡単に一蹴される理不尽さには同情する。どんなに努力をしても“負け犬の遠吠え”になってしまうものなのだろうか?

 お薦め度:★★★  対象:珍しい動物に興味がある人に
【萩野哲 20240131】
●「夜のイチジクの木の上で」中林雅著、京都大学学術出版会

 著者はまず、大学院時代にシベット類3種(パームシベット、ミスジパームシベット、ビントロング)の共存と、イチジクへの依存を確認し、それらの関係に興味を覚えた。特に半着生型のイチジクは世界に約300種知られており、熱帯の動植物の食物網を支えている。しかし、それらの種子を発芽、成長できる好適な環境に散布するのは誰なのかは未解決だった。イチジクの種子散布では距離よりも場所が重要なのだ。そして、糞からの発芽率と発芽日数、糞がたどりついた微環境とイチジクの実生が着生していた微環境との比較などを総合的に判断し、ビントロングのイチジク種子散布者としての優秀性を確認するに至った。次に著者が興味の対象とするのは何なのだろう?

 お薦め度:★★★  対象:熱帯の動植物の巧妙な生きざまを知りたい人
【松岡信吾 20240226】
●「夜のイチジクの木の上で」中林雅著、京都大学学術出版会

 暗闇に光る目、果実を食べては下痢をする、樹上60メートルで糞をする。 不器用で中途半端な姿にもかかわらず、命ひしめく東南アジア、ボルネオ島の熱帯雨林をたくましく生きるパームシベット(ジャコウネコ)。本書は、そんな不思議な動物に魅せられた著者による、8年間にわたる追跡調査の実録です。フィールドワークの苦労や発見を、臨場感たっぷりに語り、熱帯雨林の自然の豊かさを伝えています。前半、樹上生活するシベットたちの棲み分けを、熱帯雨林の樹高差によるものとの仮説を立て、これを検証するべく彼らの追跡を試みる。その方法は、樹上に箱罠を仕掛け、捕獲して発信機をつけ、彼らをトレースしようというものだった。しかしながら夜行性、単独性、これに加えて樹上性の生活をする彼らを捕獲するのは容易ではない。アリや蜂等の毒虫だらけ、棘だらけの熱帯雨林のヤブをくぐり抜け十数メートルの樹木を登攀し罠を仕掛けるその困難性は想像に難くないのだが。後半の主役はシベットと同科のビントロングに移り、今度はその食生態の謎を解明しようと試みる。「イチジクの樹果の主な栄養分は単糖で、消化に必要な複雑な処理を要しない。またイチジクの木は定期に果実をつけるがその時期は木によって異なる…一度に多くの果実をつける…故にイチジクを主食とする限り長い腸も、腸内発酵をするための盲腸も必要ではない、大きく鋭い歯も強い咬合力も要らない、(つまり)イチジクの位置と結実する時期とを記憶していれば(ビントロングのような)低代謝でもやってゆける。」そしてビントロングが半着生のイチジクの種子を熱帯雨林の高木に散布し森全体の生態を豊かに育てる一役を担っているという結論に達する。
 「近年シベットの糞に含まれるコーヒーの種子がコピ・ルアクとして高額で取引されている。シベットの腸内で種子が発酵されて独特の香りと風味をもたらすと謳われているが、(実際には)シベットの腸内では食物はほとんど発酵しない。勝手な思い込みで生まれた高額(!!)のコーヒーを大量に生産するために、これまた劣悪な環境で多数のシベットが飼育されて問題になっている。…シベットたちの生態が明らかになれば、そうした人々のシベットの見る目が変わるだろうか。…本書がきっかけとなり、副産物よりもシベット自体の魅力を感じてもらえるようになると、うれしく思う。」

 お薦め度:★★★  対象:動物たちのユニークな生態を知りたい方、熱帯雨林の自然に興味がある方
【和田岳 20240227】
●「夜のイチジクの木の上で」中林雅著、京都大学学術出版会

 丹波篠山の高校生が、人と自然の博物館のボルネオジャングル体験スクールに参加したのをきっかけに、ボルネオでシベットを研究すると決める。そして、大学院に進んで、本当にシベット研究に取り組んで苦労する話。
 修士過程では、パームシベットを捕獲して、追跡調査。が、思うように行かず、修論では観察データに基づいて、パームシベットの利用環境でまとめてクリア。博士課程では、パームシベット、ミスジパームシベット、ビントロングを捕獲して、追跡を試みる。眠気と戦いつつ、果実をつけた樹での観察、夜の追跡調査の苦労話は面白い。オランウータンやサル類、サイチョウ類を含めた果実をつけた樹の利用パターンの比較。シベット3種の空間利用の比較で博士論文はクリア。で、ポスドクでは、イチジク類の種子散布。ビントロング、テナガザル、オナガサイチョウを追跡して、3者の種子散布者としての特性の違いを明らかにする。ビントロングが、イチジク食に特化して、こんな変わった動物だったとは。
 調査が難しい対象で、頑張って、限られたデータで成果をあげていく。ある種かっこいい。著者はデータが少ないと言われるのはイヤそうだが。

 お薦め度:★★★  対象:ビントロングのことを知りたい人
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