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本の紹介「野生動物と共存できるか」

「野生動物と共存できるか 保全生態学入門」高槻成紀著、岩波ジュニア新書、2006年6月、ISBN4-00-500536-5、780円+税


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【和田岳 20061204】【公開用】
●「野生動物と共存できるか」高槻成紀著、岩波ジュニア新書

 著者は、もともとシカの研究者。海外では、モウコガゼルやアジアゾウの研究や保護活動に関わってきた。そんな著者が、動物好きの子どもに向けて、哺乳類をおもな題材に、保全生態学を、そして、人と野生動物との付き合い方について書いた本。
 野生動物と言いながら、出てくる大部分が中型〜大型の哺乳類。というのは、少し片寄ってる気もする。でも、出てくる動物になじみやすいという意味では、大型哺乳類を中心にするには間違ってないかもしれない。近年、日本で問題になっているクマ、サル、シカの問題についての、著者なりの考え方も示される。
 この本を読んで、少しでも多くの人が、野生動物との付き合い方について多少でも考えてみて欲しい。という意味でお薦めの本。ただ、全体的に牧歌的というか、現実のきれいな側面しか紹介していない感が強いのが、少し気になるところ。子ども向けだから?

 お薦め度:★★★  対象:なんとなく動物が、とくに大型ほ乳類が好きな人。

【釋知恵子 20061222】
●「野生動物と共存できるか」高槻成紀著、岩波ジュニア新書

 とにかく読みやすく、わかりやすい。野生動物の現状と問題に人間の営みがどんなに関係しているのか、それを解決するために何を考えて行動しないといけないのか、実例が随所に織り込まれ、著者の考えるところがよくわかる。特にいいなと思ったのは6章。暮らす環境の違いで野生動物に対する考え方もいろいろあるんだから、自分の価値観が全てと思わず疑ってみようというところ。スリランカの人が、バナナをゾウに食べられて被害が大変でも、「ゾウを殺すなんてとんでもない、ただどこか遠くに行ってほしいだけだ」と答えたという例とともにストレートに伝わってきた。

 お薦め度:★★★  対象:野生動物の現状と問題に興味のある人

【西村寿雄 20060805】
●「野生動物と共存できるか」高槻成紀著、岩波ジュニア新書

 この本は〈ジュニア新書〉とはいうものの、子どもたちがすっと手にする体裁の本ではないかもしれない。しかし、今の人間にとってかけがえのない自然観について切々と説いている。わたしたち大人が手ほどきをしてでも、ぜひ生徒たちに伝えたい本である。
 最終頁に著者は〈野生動物の価値〉について問いかけている。〈いま地球上にいる生命は、おたがいにつながりを保ちながら生きている。そのこと自体かけがえのない価値をもっている」と語りかけている。〈保全生態学〉という新しい学問分野から、今の野生動物の実態と研究過程が紹介されていく。シカやクマ、サル問題を考える材料を提供してくれている。

 お薦め度:★★★  対象:中学年以上

【六車恭子 20070223】
●「野生動物と共存できるか」高槻成紀著、岩波ジュニア新書

 人里に出没するツキノワグマ、農作物を食べるサル、国立公園の貴重な植物を食いつくすニホンジカ・・・、いま野生動物たちに何が起こっているのか。ここ数十年の人々の暮らしの変容が背景にあるという。かって北アメリカで起こったリョコウバトやバイソン、インド洋のモーリシャス島のドードー、イギリスのヒグマ、オオカミ、そして日本のオオカミ、これらは生物の進化の過程で起こった絶滅ではない。彼らの生息地の森林が切り開かれ人的要因で滅ぼされたのだ。その滅びの途上にある野生動物は枚挙にいとまがない。保全生態学の見地から人知を結集して危機を脱した野生たちもいるのだ。真に豊かである意味を野生動物との関わりで探ろうとする好著。何を知り何をしなければならないかを見極める、保全生態学の果たす役割は大きい。

 お薦め度:★★★  対象:眠りのそこに野生の気配を感じとれる人に

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