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本の紹介「大量絶滅はなぜ起きるのか」

「大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変」尾上哲治著、講談社ブルーバックス、2023年9月、ISBN978-4-06-533395-2、1000円+税


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【中条武司 20231215】【公開用】
●「大量絶滅はなぜ起きるのか」尾上哲治著、講談社ブルーバックス

 46億年の地球の歴史の中で、いわゆる生命の大量絶滅は5回起こっているとされる。有名なのが恐竜絶滅のK/Pg境界や96%の種が絶滅したP/T境界だが、本書ではその中でマイナーな三畳紀末(T/J境界)の大量絶滅を扱う。マイナーとはいえ80%もの種が絶滅しているし、その地質学的証拠は世界中に点在している。著者はこの大量絶滅の証拠を世界中のフィールドを回り、様々な絶滅原因を検証し、そして著者の試行錯誤の道筋をたどるように本書は進んでいく。大量絶滅の原因は陸域の変化が海にもたらされたものか、それとも海そのものの環境変化か。最後は一般書には珍しくまだ論文化していない仮説段階の大量絶滅のシナリオを示し、読者にその信を問う。ちなみにとってつけたように書かれている最終章(9章)の未来の大量絶滅の話は蛇足だったかな。

 お薦め度:★★★★  対象:研究の試行錯誤をたどりたい人
【里井敬 20231219】
●「大量絶滅はなぜ起きるのか」尾上哲治著、講談社ブルーバックス

 地球上で今まで5度の大絶滅が起きている。その内の一つ、三畳紀末の絶滅(2億150年前)を調べることによって、現在の地球の状況を考えた。
 まず白亜紀末(6600万年前)のように天体衝突説を疑い、巨大クレーターを調べたがいずれも500万年以上古いことが分かった。三畳紀末の絶滅期をファースト(2億170万年前)、セカンド(2億155万年前)、サード(2億135万年前)と分けて考えると、絶滅はセカンドとサードの間で起こっている。その時期の地球環境の変化を地層の中に見つけ出そうというのだ。絶滅は生物が小型化することにより起こっている。その原因を気温の上昇と考え、火山の溶岩の噴出を調べた。しかし、それはセカンドの後であった。そこで、セカンドの前にマグマが地下の地層や岩石を加熱して大量の二酸化炭素を放出したと考えた。サードでは海水温が10℃も上昇している。三畳紀末に、超高温化により植物の葉が細くなり、森林火災が起きやすくなったため、森林の消失が起こり、海底地滑りが起きている。陸の環境変化がスモールワールドを招き大量絶滅をもたらした。
 では、現在の世界は第六の大量絶滅の兆候を示しているのか?。もうもとの世界に引き返すことはできないのだろうか?もしそうであっても、もとの世界にもどすことができるのではないだろうか。

 お薦め度:★★★  対象:地層の中の生物の痕跡を考えて想像するのが好きな人
【萩野哲 20231215】
●「大量絶滅はなぜ起きるのか」尾上哲治著、講談社ブルーバックス

 著者は過去の地球環境を解読する層序学の専門家で、本書では三畳紀末の大量絶滅の謎を扱っている。20150万年前、当時生息していた種の80%が絶滅した。この問題について、多くの学者が協力し合い、またはライバルとして、真相の解明に努めている。天体衝突説、巨大地震、大規模マグマ活動に端を発した二酸化炭素放出、海洋酸性化、生物の炭酸カルシウム形成阻害の連鎖。しかし、著者はこれらの解釈に納得しない。森林消失、乾燥化、土壌流出、絶滅前の小型化はどう説明できるのか?温暖化なのか寒冷化なのか?過去に残された証拠からの謎解きは現在の事例から類推することもできる。いや、過去の事例から、現在の地球にこれからどんなことが起こってしまうのか、みんなに考えてほしいと著者は訴えているようだ。

 お薦め度:★★★  対象:謎解きが大好きな人
【松岡信吾 20231221】
●「大量絶滅はなぜ起きるのか」尾上哲治著、講談社ブルーバックス

 この書名を読んで食指が延びる程の科学愛好家ならば、地球生命史上に過去数回にわたった大量絶滅は周知のことに違いない。この本では、6600万年前に起きた、巨大隕石衝突による著名な白亜紀末期絶滅ではなく、今より二億百五十万年前に起きた、三畳紀末期絶滅の機序を、ニューカレドニアをはじめ南米アマゾン、イタリア半島ロンバルディア州等の、世界中の地層を探査し、其処で次々と明らかになってゆく、大地と生命の関わりを探る中で、続々と深まる謎を追いつつ、ミステリタッチで叙述するスリリングなスタイルの本だ。
 著者による大量絶滅のシナリオは、先ず、太古の火成活動により二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスが大気中に放出され、これらが原因となって温暖化現象がはじまった。そして「あくまで私の推定だが」と理を入れ「気温が30℃を超えた辺りから、低緯度の乾燥した内陸部から次第に裸子植物の森林消失が始まった」「比較的湿潤な沿岸部でも、極端な気温上昇により、森林火災が多発した」「熱帯から森が消え(その結果)四肢動物は絶滅した」「更に森林や土壌の被覆が陸上からなくなってしまうと、河川から大量の土砂が海に流れ込んで・・・海の生態系が崩壊し、堆積物には大量絶滅の化石記録が残された」というものだ。
 もしも、温暖化現象が恒常化しつつある現在の地球が、既に(大量絶滅)第6期に突入したのだとすれば、現存する全生命にとって、現代は、終焉の始まりということになるだろう。
【和田岳 20231222】
●「大量絶滅はなぜ起きるのか」尾上哲治著、講談社ブルーバックス

 地球の歴史で過去5回あった生物の大量絶滅。いわゆるビッグファイブ。そのうち、4回目にあたる三畳紀末の大量絶滅では、絶滅の直前に、絶滅した生物群の小型化が起きていた。どうして生物は小型化し絶滅したのか。世界をまたにかけた主人公の探求がはじまる。
 さまざまな現象が起きたタイミングを整理する中で見えてきた、CAMPの活動に端を発した二酸化炭素連鎖モデル。しかし、そこには納得できない点が…。浮かび上がる森林消失と土壌流出、そして温暖化の影響の可能性。
 温暖化の影響の話は、現代の地球温暖化の行く末につながっていく。これから、本当の大量絶滅が始まるかもしれない。という恐ろしい予言で幕を閉じる。
 二転三転するストーリー。最後は、「これは私の推測なのですが…」と前置きしての解決編。前半は、謎解きメインのSFのような雰囲気で、後半はミステリー。最後は再びSFかも。

 お薦め度:★★★  対象:大量絶滅が気になる人、地球温暖化を心配している人、謎解き小説が好きな人
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