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本の紹介「湿地帯中毒」

「湿地帯中毒 身近な魚の自然史研究」中島淳著、東海大学出版部、2015年10月、ISBN978-4-486-01999-2、2000円+税


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【森住奈穂 20160225】【公開用】
●「湿地帯中毒」中島淳著、東海大学出版部

 カマツカ狂でドゼウ狂、そして湿地帯中毒患者。どれだけ危ない人なのだろうか、心配しながら読み進めたが杞憂に終わった。全編、湿地帯に暮らす生きものたちへの愛にあふれる一冊だった。子どものころから放課後は川で魚採り、夏休みは川で魚採り、冬休みも川で魚採り、合間に池や沼で水生昆虫採集。大学ではカマツカの生活史研究、そしてシマドジョウの分類学的研究。著者の半生はどっぷり湿地帯に沈んでいる。シマドジョウの章では、その多くが絶滅に瀕した状況であり、新種記載が保全のためにも求められていることが紹介される。身近に湿地帯があれば、今後も湿地帯中毒患者は発現するであろう。声を出せない生きものたちの代弁者として、その背負うところは大きいのである。

 お薦め度:★★★  対象:ギョギョギョ!湿地帯中毒者の生態が気になるひと
【冨永則子 20160226】
●「湿地帯中毒」中島淳著、東海大学出版部

 冒頭で「研究活動の原動力は湿地帯生物への愛を基礎とし」とあるが、その愛が溢れ過ぎて著者自らがそれを『中毒』とまで告白している。子どもの頃から好きだったカマツカという淡水魚を研究したいという願いを叶え、現在は常勤の研究職員として湿地帯生物の研究を継続するまでに至る七転八倒、紆余曲折が語られている。研究者としてフィールドワークにこだわり、採取した生物は飼育観察し、標本として固定する。博物館の液浸標本庫の夥しい標本たちの役目も少し理解できた。バックヤードツアーで必ず耳にする模式標本や新種記載なども出てきて、団長の解説マンガを思い出した。学生時代のH谷川さんもチラッと出てくる。植物研の昆虫担当と言われるワケだ。著者がどんなに危険な軍団に属していたのか、いつかH谷川さんに聞いてみよ!

 お薦め度:★★★★  対象:水辺(淡水)の生き物好きに。研究者や研究職の実態が知りたい人に。
【萩野哲 20160225】
●「湿地帯中毒」中島淳著、東海大学出版部

 子供の時からの生き物好き。それが今まで続いている。そんな人が書いた本。著者は特に湿地帯の動物が好き。成長し、魚が触れる大学に入り、同じく魚が大好きな清国皇帝たちと楽しい研究が進む。でも楽しいことばかりでなく、研究職を得るための苦労話がでてくるのは、このシリーズの共通項。魚と昆虫が好きなんて、まるで自分と重なるよう。カマツカやスジシマドジョウとは淀川で楽しく遊んだし。読んだ本も重なる。「日本のコイ科魚類」、「朝鮮魚類誌」、「日本列島産淡水魚類総説」・・・ でも時代は変わったな、と実感した。湿地にすむ魚たちは更に危機的状況に陥っている。一方で、研究方法も、昔はなかった分子的方法も使えるようになり、ドジョウたちの分類研究も大いに進んだ。複雑な想いがよぎる一冊である。

 お薦め度:★★★★  対象:子供の時からの生き物好き、またはそのような人に共感する人
【和田岳 20160226】
●「湿地帯中毒」中島淳著、東海大学出版部

 フィールドの生物学シリーズの1冊。今度の若手研究者は、九州でカマツカの生態とシマドジョウの分類に手を出す。例によって、その試行錯誤が進路に絡めて紹介される。
 第1章(卒論〜修士課程)と第2章(博士課程)は、カマツカの生活史研究の失敗談と成果の紹介。大量の失敗を惜しげもなく披露しているのに、なぜか好感が持てる。とにかく川に行って、魚を見て、採りまくっていたら、それだけで幸せってのがよく分かる。第3章は、博士課程から手を付け、最近ようやく一段落したスジシマドジョウの分類学的な研究の紹介。やっぱりあちこちに魚を捕りに行くのが楽しいらしい。第4章はおまけ。淡水魚三昧の子どもから大学生時代、学振時代を振り返る。
 とにかく川に行って魚を採る。のみならず、水棲甲虫も捕る。水草や両棲類も好き。って、とても好感が持てる。九州全域152水系1200地点で魚類相調査をしたとか、素晴らしい。是非どこかの自然史系博物館の学芸員になってほしい。

 お薦め度:★★★  対象:淡水魚に少しでも興味があれば
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