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本の紹介「生命の星の条件を探る」

「生命の星の条件を探る」阿部豊著、文春文庫、2018年6月、ISBN978-4-16-791095-2、700円+税


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【萩野哲 20181017】【公開用】
●「生命の星の条件を探る」阿部豊著、文春文庫

 星に生命が存在するためにはどのような条件が必要だろうか? 水の存在、恒星からの位置などは、一般の人々でも想像できるが、本書はそれらを含めて、判っている条件、未だわからない条件それぞれについて理論的に解説している。著者自身の発見と考察とに裏打ちされていて迫力がある。それらの条件の中には意外なものも多い。例えば陸の存在。更には、陸と水の構成比にも大きな意味があるようだ。ずっと本書を読み進めると、それらの条件に合致するような、生命が存在する星が本当にあるのだろうか? と、さびしい気になってしまう。それでも、著者はそのような星が地球以外にもあると考えていた。ALSを発症しながらも、死ぬまで生命の星の条件を探った著者の遺志を継いだ研究が進み、地球以外の生命の星が見つかる日が来ることを期待しよう。

 お薦め度:★★★★  対象:地球以外に生命が存在する星があるのか知りたい人


【中条武司 20181025】
●「生命の星の条件を探る」阿部豊著、文春文庫

 生命が存在するには様々な条件が必要であることは言わずもがな。「水」「プレート運動」「酸素」「星の大きさ」「大陸の存在」などの条件をひとつひとつ探って、地球になぜ生命が存在するのか、地球以外にも生命が存在するのかを丁寧に解説していく。著者をはじめとした最新の研究成果も織り交ぜながらも、非常に平易に、かつ簡潔にまとめられている。まだまだ分からないことが多いこの分野は科学の進展と共にめまぐるしく変わっていくのだろうが、現在の研究の先端を伺うことができる。
 【追記】とはいえ、(分野外なので無責任に言いますが)個人的に不満なのが、この手の本は必ず生命の条件に「水」を持ってきていることです。本書の中でも「メタンを溶媒にする生き物がいてもいいが、確認されていないので思考実験の域を出ない」と書かれています。もちろん、生理機能に水が必要な生物は(地球上にいるので)理解しやすいですが、他の条件を考える必要は出てこないのでしょうか。

 お薦め度:★★★★  対象:新たな惑星科学を知りたい人


【西本由佳 20181019】
●「生命の星の条件を探る」阿部豊著、文春文庫

 生命の存在する条件について、重要なものから一つずつ章に分けて解説される。まずあげられるのは水。そしてプレートテクトニクス、大陸の存在、意外にも酸素は4番目になる。人間だけを基準に考えるものではないという。地球にもし今の10分の1しか水がなかったら、といわれたら、ずいぶん荒廃した大地を思い浮かべる。しかし、地球に生命がすめる状態を保つには、今の地球より水の少ない地球の方が安定だという。著者は数値実験でそのことを示した。この本では、そういった研究や、地球外生命の存在する条件について明らかになっていることを、ていねいに説明している。

 お薦め度:★★★  対象:地球に生命がいることについての基本を知りたい人
【西村寿雄 20181020】
●「生命の星の条件を探る」阿部豊著、文春文庫

 著者の阿部さんは「地球惑星科学システム」という新分野の科学者だった(2018年1月逝去)。「地球惑星科学システム」という学問は、地球物理学や地質学、地理学などの学問の垣根を統合して包括的に惑星を研究する学問である。著者の信念は「この広い宇宙の中で、生命の星はたったひとつだけとは思えない」である。著者はそのような仮説に基づいて、「生命の条件を探る旅」を事細かく検証していく。「水」「地面が動くこと」(プレートテクトニクス)「大陸」「酸素」「海惑星と陸惑星」「惑星の巨大衝突」「大気と水の保持」「大きさ」と各項についてくわしい論証が続く。どの項目も人類のような生物が存在するのには欠かせられない内容である。次に、目を宇宙に転じ「軌道と自転と他惑星」を語る。さらに「〈ドレイクの方程式〉」を超えて」を取り出し、今後、系外惑星の環境まで観測できるようになるとさらに〈生命の星〉の確立がわかるだろうと結んでいる。未来にわたる壮大な科学論である。

 お薦め度:★★★★  対象:生命の星に興味のある人


【六車恭子 20191102】
●「生命の星の条件を探る」阿部豊著、文春文庫

 この空のどこかに、生命をやどす星がきっとある!その信念のもとに著者遺作となった本書で、さまざまな「if」を想定して生命が生まれる条件をつまびらかにしていく。それにはまず地球の有り様を知ることから…。
 各惑星の表面温度は「熱エネルギーの収支」で決まる。地球の場合は大陸を乗せたプレートが動くこと、それは「火山活動」により温室効果ガスとしての二酸化炭素の安定供給にある。海中では溶解して炭酸塩となり海洋地殻として玄武岩に、大陸地殻では軽い花崗岩として、炭酸ガスの循環は一種の温度調整システムになっているのだ。
 また大陸があることも重大だ。地表の風化により供給されるカルシウムイオンと反応して炭酸塩として大気から取り去られる。他にも生命に必要な元素としてリンがある。リンは地球表層では土を介して循環している。また酸素は生物進化には不可欠だ。酸素の増大、大陸の成長、そして生物の大進化、いずれも地球にとって大事件だった。地球の環境の変化するたび、生命の側が適応するように進化を遂げてきたからでもあったのだ。
 どのようなレベルの生命が存在できる環境がどのくらいの確率で生じているのか、この生命の星の条件があきらかになったとき、地球とその生命の真価が問われるときだろう。
 著者は科学とは何ですか、という問に、「できあがった理論体系でもないし、知識の寄せ集めでもない。自然界の成り立ちをちゃんとわかりたいという欲求に基づいて、いろんな人がじたばたやっている。その『人の営み』であろう。」と答えている。

 お薦め度:★★★★  対象:私たちの住む星をより深く知りたい人


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