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本の紹介「沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌」

「沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌 シシマチの技法と新商品から見る沖縄の現在」小松かおり著、ボーダーインク、2007年8月、ISBN978-4-89982-126-7、1800円+税


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【瀧端真理子 20071221】【公開用】
●「沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌」小松かおり著、ボーダーインク

 小松さんはもともと生態人類学の専攻で、伊谷純一郎さんに勧められて市場研究を始めた。修士時代に、牧志公設市場に行き、数日店を観察した結果、丸昌ミートに狙いを定め、店においてもらえないかお願いする。押しかけ助手40日を皮切りに、売り買いの
技法を調査して修論にまとめる。その後、牧志公設市場で扱われる商品の変化に気づき、幻の島豚アグー、モズクと海ブドウ、島バナナの商品化や養殖、栽培技術の開発・改良過程を追う。
 本書には、島豚アグーの復活に大きな役割を果たした名護博物館の島袋正敏さんも登場する。沖縄の文化として、遺伝資源を守ることが大切だと考えた島袋さんは、生きた家畜を展示する「在来家畜センター」を構想したという。調査の方法論としても、博物館の可能性を考える上でも、たいへん刺激的な1冊である。

 お薦め度:★★★★  対象:フィールドワークの手法を学びたい人

【加納康嗣 20071220】
●「沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌」小松かおり著、ボーダーインク

 「シシマチ〈精肉市場〉の技法と新商品から見た沖縄の現在」という副題が付いている。
 豚肉、アグー〈島豚〉、モズク、海ブドウ、島バナナをとらえて、沖縄の食品市場を通じて買い手と売り手や売り手同士の関係、観光化によるモズクなどの新商品の開発など現在の沖縄の食文化について語っている。第1部の第一牧志公設市場とシシマチの世界がこの本の神髄である。豚と沖縄の食文化の深さは、枝肉の部位ごとの裁きや買い手と売る手の技術のせめぎ合いにある。豚という一種の動物から数十種の商品が作り出され、買い手の好みに合わせて売り分けられる。当然それぞれの商品にあわせた時期と手法に沿った料理が作られることになる。時代とともに豚食文化も変容する。そんなホットな現場の匂いが感じられる。

 お薦め度:★★★  対象:食文化や沖縄文化に関心のある方

【六車恭子 20080222】
●「沖縄の市場〈マチグヮー〉文化誌」小松かおり著、ボーダーインク

 「第一牧志公設市場」は「那覇の台所」とよばれている。沖縄の食文化の色が濃く現れるシシマチ(精肉市場)は売り手と買い手、商品の関係を見ることでそこで働く人々の市場の技法を学ぶまたとない好例ではなかろうか。10年前牧志公設市場で修士論文を書き10年ぶりに再訪してその変容を追ったのがこの著述になる。丸山ミートを足がかりに足掛け5年に渡る歴史的、シシマチの技法に込められた極意(所以)、商品の変容をおった。風前の灯火となったブランド豚「アグー」の復活にかける群像、ウミンチュの生き残りをかけたモズクと海ぶどうの商品化、もう一つのブランド「島バナナ」の生産現場をくまなく歩き、シマンチュの心意気を記録する。これは生きた市場を影で生産農家が直面する問題点とここに生きる人々の挑戦し続ける魂を書き留めて秀逸だ。地方がよみがえる方法は一日にしてならず、その厚い群像をつなぐ架け橋のような本だ。

 お薦め度:★★★★  対象:沖縄にひかれる人は是非

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