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本の紹介「無人島、研究と冒険、半分半分。」

「無人島、研究と冒険、半分半分。」川上和人著、東京書籍、2023年8月、ISBN978-4-487-81714-6、1600円+税


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【西本由佳 20231215】【公開用】
●「無人島、研究と冒険、半分半分。」川上和人著、東京書籍

 小笠原諸島の南硫黄島は人が入植したことのない島で、開発にも外来種にもさらされていない原生自然が残されている。貴重な自然に影響がないよう、上陸許可が下りるのは10年単位に一度。綿密な調査計画を立て、最大限に成果を出せる人員が選ばれる。落石や滑落の危険のある急傾斜の島で、鳥を数え、つかまえ、巣穴にはまり、海鳥の吐しゃ物にまみれながらも、新しい繁殖地の発見に興奮し、ネズミの侵入のないことに安堵する。一切外来種を持ち込まないよう細心の注意を払っても、有人島から移動してきた鳥の羽についた外来種は侵入している。しかし、鳥たちの移動は小笠原の小さな島々で生息を維持するのに欠かせないことでもある。小さな島はちょっとしたきっかけで種が死に絶えるが、広域に数が維持されることでその危険は減る。本土から隔絶された小さな島々、そこでの調査の大切さ。いつもながらのふざけた語り口でも、書かれている内容はけっこう真面目だったりする。

 お薦め度:★★★  対象:島という環境について知りたい人、ちょっといつもと違う世界に浸りたい人
【森住奈穂 20231222】
●「無人島、研究と冒険、半分半分。」川上和人著、東京書籍

 川上さんの無人島ばなしは過去何度も読んでいる。南硫黄島ばなしも読んでいる。でもやっぱり面白い。本書の特徴としては、完成度の高いパラパラ漫画が付いていること。頁の最後に目に入るので、文章とパラパラ漫画、両方の冒険を並行して読み進めることができ、たいへん臨場感が増す。さらに、同行他分野の研究者のなかにカタツムリのチバさんがおられたことが今回判明。意外なエピソードが微笑ましい。もちろん研究成果も盛り込まれている。絶海の孤島であっても人間活動の影響からは免れないのだなぁ。次回調査は2027年予定。新たな無人島ばなしが今から楽しみだ。

 お薦め度:★★★  対象:無人島の冒険に憧れているひと
【和田岳 20231222】
●「無人島、研究と冒険、半分半分。」川上和人著、東京書籍

 前半は2007年の南硫黄島調査、後半は2008年の北硫黄島調査を少しはさんで、2017年の南硫黄島調査が紹介される。半分半分というより、ほぼ全編、川上節全開の探検記。とはいえ、少しは研究もしてる。
 滅多に行く事のできない場所の話なので、随所にはさまる島の鳥の情報は、とても貴重なものばかり。海岸部で繁殖するアカオネッタイチョウ、オナガミズナギドリ、アナドリ。聞こえてくるのはメジロとウグイス。楽しそう。上に登るのは大変そうだけど、山に登ればシロハラミズナギドリとクロウミツバメ、そしてあのセグロミズナギドリ(後に新種と判明)。
 一方、かつて人が暮らし、クマネズミが入ってる北硫黄島は、とたんに海鳥はカツオドリとアカオネッタイチョウのみ。元は南硫黄島みたいだったんだろうと考えると残念。より一層、南硫黄島の価値が判る。
 川上節は、探検記によく合う。もっと探検記を書いて欲しい。

 お薦め度:★★★  対象:川上ファン、海鳥好き、南の島好き
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