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本の紹介「招かれた天敵」

「招かれた天敵 生物多様性が生んだ夢と罠」千葉聡著、みすず書房、2023年3月、ISBN978-4-622-09596-5、3200円+税


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【萩野哲 20230601】【公開用】
●「招かれた天敵」千葉聡著、みすず書房

 変人バックランドの夢は、世界中の有用動植物をばらまき、食糧問題を解決することであった。その教義に端を発した順化協会は世界中に外来生物を拡散させた。しかし、それらが経済的、社会的な被害を及ぼすに至り、これらを滅ぼす天敵の探索と放虫が行われた。その比較的初期に、イセリアカイガラムシを制御したベダリアテントウの成功例がよかったのか悪かったのか、あまり深く考えず、そして結果の検証もされず、同じような天敵放虫は繰り返された。それらに関与したライリーやケーベレをめぐる人々の相関図と行動は本書の中心をなしていて興味深い。著者も小笠原の陸貝保護に関与していたが、その結果は成功したとはいえない。著者は、研究は地道な長い作業であり、やるべき様々な作業がある内、最も重要なものは情報収集であると言う。無知ほど恐ろしいものはないのである。しかし、スピードも重要であることは、本書に紹介された数々の事例でも明白である。残念ながら、「成功は失敗の素」(つまり失敗は繰り返される)という言葉がこの分野の現状を端的に示しているのかもしれない。

 お薦め度:★★★  対象:外来生物へのヒトの行動が歯がゆい人
【西本由佳 20230618】
●「招かれた天敵」千葉聡著、みすず書房

 一つの地域にはその地域固有の生態系があり、それは保全されなければならない。という考えが当たり前だと思っていた。歴史的にみると、そうでない時代は長い。優れた景観や食料資源のため、多くの地域でたくさんの生物が導入された。そして、それらのうちに害もあることが顕在化してくると、害を取り除くために、まずは化学的な農薬が使われ、次にその生物を捕食する天敵が招き入れられた。天敵を使うことは、生物界の仕組みに即した方法として、化学的な農薬を使うより優れた方法とされることがあった。しかし、天敵が目的の害ある生物だけを取り除いてくれるとは限らない。そもそもそれが本当に天敵として機能するのかもわからないまま招き入れられることもあった。招かれた天敵により、その地域の生態系に大きな被害が生じることもよくあった。現在では慎重に科学的な検討が行われることが多いが、そこまでされずに招かれることもある。その地域の社会状況、経済力、害ある生物による危機の切迫状況など、理由は様々だ。その土地の生態系や農業生産のために天敵を招くことが、どうしても選択肢として捨てられない以上、科学的・社会的に慎重な検討が尽くされることが望まれる。

 お薦め度:★★★  対象:生態系が理屈だけで守れるものでないと知るために
【森住奈穂 20230818】
●「招かれた天敵」千葉聡著、みすず書房

 有害な外来生物を減らすため、原産地でその増殖を抑えていた天敵を導入する生物的防御。だがそもそも「有害な」外来生物は、なぜ別の土地に持ち込まれたのか。本書はそれぞれの研究者たちが天敵種だと信じて招いた外来生物の顛末や、19世紀に起こった順化活動に代表される自然観の変転など、関わった人物の人生まで掘り下げながら歴史を追ってゆく。最終章で語られる著者自身の小笠原父島での経験は、その歴史が現在も進行中であることを実感を持って教えてくれる。正解のない闘いに対して、答えを出すプロセスが大切なのだと著者は言う。そのうえ待ったなし、スピードが必要なのだから本当に難しい。深く考えさせられる。

 お薦め度:★★★★  対象:外来生物問題に関心のあるひと
【和田岳 20240301】
●「招かれた天敵」千葉聡著、みすず書房

 害虫を農薬を使って防除するのが化学的防除、一方、原産地から天敵を導入して防除しようとするのが生物的防除。両者はそれぞれに問題点を抱え、現在に至っている。
 生物的防除の初期の成功例が有名なベダリアテントウ。それに味を占めて、カリフォルニア、ハワイ、オーストラリアなどには、次々とさまざまな天敵候補の導入が試みられた。しかし成果はあまりあがらない。一方、ターゲット以外の小動物を壊滅させるオオヒキガエル、オーストラリアで外来のウチワサボテンの駆除に貢献したカクトブラスティスは、原産地のアメリカ大陸に侵入して固有のウチワサボテン類を危機に陥れる。研究者の反対を押し切って導入されたヤマヒタチオビは、太平洋の島々の固有陸貝を次々と絶滅させてしまう。そしてさらに強力なニューギニアヤリガタウズムシが、小笠原諸島父島に侵入してしまう。
 数打ちゃ当たる的に、外来生物が次々とハワイに持ち込まれなければ、今でもハワイに数多くの固有種からなる生態系が残ってたんじゃないかと思うと、とても残念。

 お薦め度:★★★  対象:害虫を減らすには、農薬撒くより、天敵導入した方がエコな気がする人
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