友の会読書サークルBooks

本の紹介「牧野富太郎の植物学」

「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書、2023年3月、ISBN978-4-14-088696-0、930円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@mus-nh.city.osaka.jp)までご連絡下さい。
[トップページ][本の紹介][会合の記録]

【里井敬 20230817】【公開用】
●「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書

 植物の学名の付け方や標本の作製の大切さを分かりやすく解説している。
 表題の牧野富太郎は何をした人なのか? 多くの植物を集め名前を付けた。しかし、1935年以降、ラテン語の記載のない学名は認められなくなったが、その後も従来の命名をしたので正式に学名として認められていない種が多い。また、多くの植物標本を整理せずラベルも付けていないものが多い。
 では、功績は無いのかというと、そうでもない。日本国中の植物を調べ、正確な植物画を残している。講演や随筆を通して植物愛好家を増やした。同好会や愛好者が多いのも牧野の功績か。

 お薦め度:★★★  対象:植物の分類に興味のある人
【犬伏麻美子 20230818】
●「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書

 本書は、NHK の朝ドラ『らんまん』で「植物監修」を担当している現役の植物分類学者、田中伸幸さんが、植物学者としての牧野富太郎の活動や業績を自然科学の立場からできるだけ正確によく調べて書かれたものである。第12章で構成されていて、ところどころに6つのコラムを載せている。
 植物学と分類学の説明からはじまり、学名のつけかた仕組みの説明、「植物相(フロラ)」の意味。牧野の活動を理解するために本草学から植物学への流れについて説明。牧野の幼少期の植物や人との出会い、経験など。そして、標本採集の意義、標本作り、標本の大切さを教えてくれる。日本人による成果発表の場として創刊され、牧野の初めての論文が掲載された『植物学雑誌』について説明。また、著者独自の調査により明らかになった、牧野がつけた学名の実数や標本数、植物図の特徴なども解説。後半の人生に行った植物の啓蒙活動や教育普及活動にも力を注いだ。ただひたすら愛する草花と向き合い、草花に優劣をつけず、生命の多様性を肯定し続けた牧野富太郎でした。

 お薦め度:★★★  対象:NHK朝ドラ『らんまん』を感動しながら毎日見ていて、牧野富太郎のことや植物分類学のことをもっと知りたい!と思った方々へ
【冨永則子 20230811】
●「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書

 「植物学の父」と言われる牧野富太郎だが、誰がそう呼んだのか、それは正しいのか、科学の分野なのに業績の記述も曖昧で定まっていない。牧野富太郎を正しく考察するべく高知県立牧野植物園で研究者として関わってきた著者が、できるだけ正確に植物学者としての軌跡を辿っていく。導入部では日本における植物学の発展の歴史を知ることができる。牧野富太郎は生涯の後半ではアカデミズムから距離をおき、教育普及活動に方向性をかえていく。日本全国で観察会を行い、人々にその知識を惜しみなく伝えたという。市井の人々と共にあるナチュラリストとしての姿から「植物学の父」と言われたのではないだろうか。それじゃあ、他にも「昆虫学の父」とか「地学の父」とかもいるのかな?

 お薦め度:★★★  対象:日本における植物学の歴史を知りたい人に
【西村寿雄 20230815】
●「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書

 朝ドラの「牧野富太郎(まんたろう)」の生涯であるが、こちらはかなりくわしく植物学に焦点を当てて富太郎の生涯が書かれている。牧野の時代は日本で植物学が大きく進展した時代。牧野は、最初は伊藤圭介などにも学ぶが地元土佐で植物採集をやり出し、だんだん植物学に目覚めていく。東京へ出ると、運よく東京大学に出入りでき各地の標本に出会う。ヤッコソウなど新種発見にも努める。やがて「植物学雑誌」等を発刊した。精緻な植物図も描いた『牧野日本植物図鑑』も刊行される。「植物図鑑」刊行までの経緯もくわしく述べられている。晩年は各地の観察会などに出かけ多くの植物愛好家と交流する。同郷の寺田寅彦とも交流があった。生活実態は別にして牧野の植物家としての一生が読み取れる。

 お薦め度:★★★  対象:植物学を目指す学生
【西本由佳 20230814】
●「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書

 植物の名前を聞くと気前よく答えてくれる好々爺。そんなイメージの強い牧野富太郎が、実際はどんな人だったのかを、植物学への貢献という視点から書いた本。標本採集への熱意(ただし採ったものの整理はしない)、名付けた植物の多さ(学名なのか和名なのかはともかく)、著者が最も偉大な業績とする植物図の緻密さと正確さ、普及活動の残したもの。日本ほど植物のフロラの解明度が高い国はそうないと言う。牧野富太郎は、世間で美化されて語られるほど素晴らしい人物ではないとしても、日本の植物学に果たした役割は大きかったようだ。

 お薦め度:★★★  対象:牧野富太郎をもう少し深く知りたいなら
【萩野哲 20230801】
●「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書

 植物学者としての牧野富太郎の業績に焦点を当てた本。富太郎には人生の分岐点があり、前半は『植物学雑誌』に植物分類の記載論文を次々に発表したのに対し、後半は自ら創刊した『植物研究雑誌』などにどちらかというと普及的な論考を発表した。これは、植物学が分類学中心から次第に生理学、解剖学、生態学などの領域に移行していった時代の流れも大きな要因のようだ。人生の後半は図鑑刊行に多忙で記載数は少なくなった。全体図の周囲に複数個体の部分図を配置しているのが富太郎の植物図の特徴である(「牧野式植物図」とも言うべき形式)。精緻でわかりやすい一方、これらの個体が果たして同種なのかという危険もはらんでいると著者は指摘する。本書中に出てくる植物の学名がアルファベットではなくカタカナで表記されている点、少しイラッとする。

 お薦め度:★★★  対象:富太郎をさらに知りたい人
【和田岳 20230704】
●「牧野富太郎の植物学」田中伸幸著、NHK出版新書

 NHKの朝ドラの監修者である元牧野植物園学芸員の著者が、研究者・教育者としての牧野富太郎を紹介した一冊。同時に、日本のフロラ研究の歴史と、標本の意義、新種記載を解説している。
 第1章〜第4章は、牧野は主役ではなく、イントロの後、日本のフロラ研究の歴史、標本の意義、新種記載の話が説明される。以降が牧野の話。第6章〜第8章は研究者としての牧野。『植物学雑誌』の刊行、牧野が記載した学名とその数の話。命名規約を無視しがちで無効なのが多い様子。第9章と第10章は、教育者としての牧野富太郎。図鑑を刊行し、普及な文章を数多く執筆し、各地で観察会や講演会を行う。それは多くの人を育て、多くのサークルを芽吹かせた。
 最後は、牧野の没後の話。大量の標本を残したはいいけど、ろくに整理もしておらず、その整理に後世の人々が苦労し、ようやく終わったのが2021年。数えてみると、残された標本点数は、そこまで多くなかった。言葉を選んではいるが、プライベートだけではなく、研究者としての牧野も欠陥だらけ、と書いてある。一方で、教育者としては、高く評価される。その活動は、博物館学芸員にとても近い。

 お薦め度:★★★  対象:牧野富太郎って名前は聞いたことあるけど、なにした人があまり詳しくない人
[トップページ][本の紹介][会合の記録]