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本の紹介「分水嶺の謎」

「分水嶺の謎 峠は海から生まれた」高橋雅紀著、技術評論社、2023年9月、ISBN978-4-2971-3697-0、3200円+税


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【中条武司 20231215】
●「分水嶺の謎」高橋雅紀著、技術評論社

 世界中の地形図や空中写真がインターネットを通じて見ることができるようになった現在、ディスプレイをとおして見る世界の地形はとても魅力的。本書は近畿から中国地方の太平洋(瀬戸内海)と日本海の分水嶺をたどるインターネット上の旅。実際に現地には行かず、地理院地図とたまに地質図や空中写真を見ながら、分水嶺の謎に迫るという大胆な本。
 約400ページ中250ページほどがひたすら分水嶺をたどる地図上の旅。尾根や峠の高さがほぼ一緒、片峠が連続するとかを延々説明。これがひたすら長い!読んでいてだるい!最後の結論として、中国地方全体がかつては海底で、波浪や潮流による浸食によって形成された地形が隆起してできたものだとしている。いやいや、中国地方の盆地に残っている第四紀の地層に海成層ないし。さらりと描かれている大阪平野も、300万年前とか海になっているけど、大阪平野に海が入ってくるの100万年前だし(それまでの大阪平野は陸成層だけ)。確かにこれまで語られているような隆起準平原と河川争奪だけで中国山地の地形を語るのはどうかと思うけど、ちょっとこの説は他の地質学的な証拠とかすっ飛ばして妄想しすぎ(地質屋なのに)。たかが地形だけどそれの成因を語るのは難しいなあと思い直す本。

 お薦め度:★  対象:
【西本由佳 20231215】
●「分水嶺の謎」高橋雅紀著、技術評論社

 地理院地図はシームレスに日本全土を表示してくれるだけでなく、標高ごとに色を塗り分けたり陰影をつけたりして、地形を理解する手助けをしてくれる。この本は、そういう機能を使って中国山地の分水嶺をたどった記録だ。谷中分水界、片峠、河川争奪、無能河川など、分水嶺にまつわるいろいろな用語を地形図上の実例を通して見ていける。見ていきながら著者は分水嶺の成り立ちについて空想を巡らせる。ステイホーム完全対応な新しい地形図の遊び方。地理の資料あたりから適当なテーマを拾ってこれば、けっこうたくさん遊べそうだ。疑問が2点。一つは、地質屋さんは谷頭部を見ることがあるのか。2万5千分の1地形図でなだらかに見えても、それは使う地図の縮尺に問題があるからで、実際に現地ではけっこう険しい侵食を感じたりすることもある。二つ目は、何の審査も経ていない新説を一般書に事実であるかのように出してしまうのは適切なのか。
 分水嶺の地形については、地形図を鼻で笑って、伐採して穴掘って喜んでいる土建屋系の人たちが多い。だから、地形図をこれだけたくさん追ってくれたのは面白かったけど、地形学は地理学の一部で、地理学は「とにかく現地に行ってこい」という学問で、やっぱり現地に行ってくれた方が有難かった気がする。

 お薦め度:★★  対象:目的のために地形図を使う、ではなく地形図をながめることそのものを楽しめる人が空想をふくらます読み物として
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