友の会読書サークルBooks

本の紹介「凹凸形の殻に隠された謎」

「凹凸形の殻に隠された謎 腕足動物の化石探訪」椎野勇太著、東海大学出版会、2013年7月、ISBN978-4-486-01849-0、2000円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。

[トップページ][本の紹介][会合の記録]


【中条武司 20131025】【公開用】
●「凹凸形の殻に隠された謎」椎野勇太著、東海大学出版会

 メジャーな化石種の腕足動物。スピリファーの独特の形は三葉虫とならぶ古生代の化石の代表選手。何といっても「国際腕足動物学会」なんてものがあるくらい。でも、その動物の生活ってどんなもの?
 保存の悪い日本の化石を逆手にとって、その内面形状を復元し、モデルを作って実験する。すると、ほとんど動かなくても体内を水が循環する腕足動物の生活様式が見えてきた。実験だけに留まらず、水理解析による理論面での補強など、過去からの論争の決着を付けるべく、様々な角度から腕足動物の生活様式や生理を明らかにしていく。「学問とは気合いだよ」という共同研究者の言葉を実践する著者の姿はたくましい。

余談:とはいえ、著者の書き方や考え方にときどきカチンとくるのも確か。「堆積環境を復元するのは難しくない。なぜなら教科書の絵合わせをすればいいだけからだ」みたいな文章があるけど、それはあなたが教科書の絵合わせしかしてないから、様々な反論や文句を言われるのだ。それにあなたが嫌いな「教科書的な」言い方をすると、スウェール状斜交層理の解釈は間違っているよ。

 お薦め度:★★★  対象:古生物学の一歩先を知りたい人

【萩野哲 20131010】
●「凹凸形の殻に隠された謎」椎野勇太著、東海大学出版会

 化石の研究がしたかった少年が念願の研究者になるまでの自伝。読者は、岩石採集のためにエンジンカッターを使用する、露頭を明確にするために金ブラシで大面積を磨く、化石種の生時を少しでも実感するため現生種のホオズキチョウチンを採集、飼育する、機能形態を明らかにするため、模型を製作して流水実験を行うなど、著者のすごいバイタリティーに感心するとともに、冒頭近くに書かれているように、これが古生物学か?と驚くに違いない。研究が進むにつれて手法がだんだん精緻になっていく過程や、教科書を盲信してはいけないことや、専門外への挑戦と実践などの大切な教訓がちりばめられている。

 お薦め度:★★★  対象:化石研究のアプローチに興味がある人

【和田岳 20131019】
●「凹凸形の殻に隠された謎」椎野勇太著、東海大学出版会

 化石で進化の研究がしたかった著者の卒論は、なぜか宮城県の山の中で、露頭をたたきまくって、切りまくって、堆積構造の研究。副題の腕足動物がろくに出てこないけど、けっこう楽しく読める。
 そして大学院に行ってからが腕足動物の機能形態学的研究。スウェーデンの綺麗な化石に比べて見劣りする、日本の化石。でもそれを逆手にとっての内部構造の研究。慣れない腕足動物の実験用模型作り、流体力学を勉強し、さらには数値流体解析(CFD)にまで手を出す。どんどん新たな挑戦をしていく著者が、腕足動物の論争を決着させるような成果をあげる過程は、とても楽しい。
 そして、少し腕足動物に興味が湧いてくる。二枚貝のようでいて、一枚の殻が左右対称なのが一番の違いらしい。今度海岸でシャミセンガイを拾ったら、よく見てみよう。

 お薦め度:★★★  対象:化石研究に興味がある人

[トップページ][本の紹介][会合の記録]