館長就任のご挨拶

山西良平


yamanishi  昨年11月に逝去しました那須孝悌前館長の後任として、4月1日付で大阪市立自然史博物館長に就任しました山西です。

自己紹介
 私は、昭和46年から6年間、大学院生として和歌山県白浜町の京都大学理学部付属瀬戸臨海実験所で海洋生物学を専攻し、昭和52年秋に当館に学芸員(補)として採用されました。専門は海浜の砂の間に棲む微小な多毛類(ゴカイの類)の分類学ですが、博物館に就職してからは、動物研究室の一員として無脊椎動物(昆虫研究室が担当する群を除く)全般を守備範囲とし、日本各地の海岸に出かけて資料を収集するとともに、地元の大阪湾や淀川の生物についての基礎調査を続けてきました。その成果は、関連分野の学芸員との共同による「大阪湾の自然」、「海底の動物」、「干潟の自然」などの特別展を開催することによって発表させていただきました。また、博物館の普及行事として毎年、近郊の磯や干潟で自然観察会を開催して、市民の皆様とともにさまざまな生き物の姿を観察してきました。友の会の方々とは有明海や長良川などにも足を伸ばして貴重な体験を共有した思い出があります。さらに大阪湾海岸生物研究会というサークルのお世話をし、同好の仲間たちと共に25年間にわたって大阪湾の自然海岸の生物のモニタリングを続けています。

自然史博物館学芸員の活動とその意義
 学芸員としてのこのような活動スタイルは、当館が博物館として設計された自前の建物をもっていなかった市立美術館での間借り時代(昭和25〜32年)や旧靭小学校時代(昭和33〜昭和48年)に培われた「建物がなくても市民と共に野山に出かける」伝統や、長らく館長を務められた千地万造氏、現職で他界された故日浦勇氏(元学芸課長)そして故那須前館長らによる「博物館は市民に開かれた大学でなければならない」、「サークルを産み出し育てるのも学芸員の仕事」という合言葉を実践に移したものです。今も学芸員はそれぞれの分野において工夫を重ねながら、このようにして博物館の仕事を進めています。博物館の事業においては、日常の調査研究、資料収集保管の活動の成果を展示、普及教育活動を通じて市民に還元していくことが基本であると言われていますが、その意味においても当館の活動スタイルは理にかなったものだと思います。
 昭和49年に長年の念願が叶って、当館は長居植物園の中に新築された、大規模な展示室、収蔵庫、普及スペースを備える建物に移ることができました。当時の日本には公立の自然史系の博物館がまだなかった時代でした。しかし公害や自然破壊が深刻になる中で、現場からの強い要望に大阪市当局が応えて、当時の中馬市長を筆頭に、大阪市が全国の先陣をきって本格的な公立の自然史博物館を造るのだという意気込みで新館を実現していただいたと聞いています。私が採用されたのはその少し後です。その後も、周辺地域を中心に自然の破壊は進み、子どもたちの理科離れ、自然離れが重要な社会問題となってきました。大阪のような大都市では問題がいっそう深刻です。
 自然史博物館は、自然についての貴重な資料を収集して後世に残していくとともに、それらを駆使し工夫して常設展示や特別展示を開催することによって、大自然から得られる感動を市民に伝えていきます。また、各分野の学芸員がつねに新鮮な知識と情報を発信し、市民や子どもたちの学習意欲に応えています。このような自然についての学習拠点としての自然史博物館の存在意義は今やますます大きくなっています。

友の会創立50周年、新たな発展に向けて
 今年、大阪市立自然史博物館友の会が創立50周年の節目を迎えました。当初、友の会は「大阪市立自然科学博物館後援会」として市立美術館での間借り時代の当館を支え、靭時代には「大阪自然科学研究会」に発展し、長居公園に新築・移転の際には現在の名称に改め、幅広い市民の学習組織として衣替えをしました。このように、友の会は博物館と共に歩み、発展してきました。役員の皆様のご尽力のお蔭で、現在、約1900世帯の会員家族の皆様が当館を利用し、さまざまな行事に参加しながら自然を体験し、楽しく学んでいます。
 平成13年にはこの友の会を母体とした特定非営利活動法人大阪自然史センターが発足しました。自然史センターは、友の会活動はもとより、当館のボランティア事業、ミュージアム・サービス事業などを日常的に推進するとともに、大阪近郊の自然関連団体が一堂に会する画期的な「大阪自然史フェスティバル」を2度にわたって開催するなど、さまざまな事業を通じて当館をとりまく多様な人々の輪を広げつつあります。また、文部科学省の「科学系博物館教育機能活用推進事業」(平成14〜15年度)や「社会教育活性化21世紀プラン」(平成16年度〜)などの博物館と学校、地域、および博物館相互の連携を中心とする事業を受託して、これまでにない幅広い取り組みを続けています。自然史センターが誕生して以来、当館と市民とのつながりがいっそう深まり、厚みを増してきたと感じています。
 また、西日本各地の自然史系博物館とそれらに関わる学芸員、市民の連携の場として、平成15年に西日本自然史系博物館ネットワークが設立され、翌年には特定非営利活動法人としての認証を受けました。ここでは、会員の自発的な取り組みを事務局がサポートし、連携のメリットを最大限発揮できるよう運営に工夫がなされていています。そのもとで「博物館スタッフのための技術講習会」などユニークな行事が実施され、各地の博物館関係者と市民が参加し、交流しています。
 このような近年の大阪自然史センターや西日本自然史系博物館ネットワークの発足にあたって、前館長はその舵取り役を果たしてこられました。また、文部科学省や日本博物館協会などにもさまざまな機会に足を運ばれ、日本の博物館界全体の発展に貢献されるとともに、当館に関わる先進事例を広く紹介し、アピールすることも重視しておられました。

「対話と連携」で博物館の未来を
 日本博物館協会は21世紀にふさわしい新しい理念として「対話と連携」の博物館を提唱しています。それは博物館内部、博物館同士、博物館と外部(学校・地域・家庭)との間におけるそれぞれの「対話と連携」を運営の中心に据えることが、博物館の機能を向上させ、生涯学習時代の要請に応えていく道であるというものです。当館の長い道のりは、この「対話と連携」の実践そのものであったといっても良いと思います。館長就任に当たっては、このような55年にわたる歴史の中で培われた伝統を踏まえるとともに、歴代館長の足跡に学びつつ、皆様との対話と連携をはかりながら共に前進してまいりたく存じます。また、現場感覚を失わないために、時間の許す限り学芸員としての業務にも参加し、砂浜のゴカイの研究も続けていきたいと考えています。
 現在、日本の博物館を取り巻く状況はきびしく、当館においても展示・設備のリニューアル、館の利用促進、管理・運営のあり方の検討、財政難の中での経営改善など、問題は山積しています。これら懸案の解決のために、引き続き教育委員会をはじめとする大阪市当局のご指導を仰ぎながら、現場においても知恵と力を尽くす所存です。どうかよろしくお願い申し上げます。
2005年4月記

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