13. 18 DEC 2002 15:00~16:00

多雪山地のヒメアオキの種子散布に影響を与えた要因
高野瀬 洋一郎 (新潟大学・院・自然科学)・紙谷 智彦(新潟大学・農)

 海岸地域に分布するヒメアオキは早春に結実する。その果実は、4月中旬から5月上旬にかけて集中的に春に渡る果実食鳥類に持ち去られる。一方、山地のヒメアオキはこの季節に積雪が豊富に残っているために雪に埋もれている。本研究は、積雪のために果実のプレゼンテーションが渡りのタイミングから外れた山地のヒメアオキを材料として、果実食鳥類の渡りと結実季節の対応関係について検討する。
 調査は2000年と2001年に山形県小国町の温身平ブナ天然林において行なった。対象としたヒメアオキは、成熟した30個体以上をランダムに選んだ。調査個体には全木型シードトラップを設置し、2週間に一度樹上の果実とトラップ内に落下した果実を数えた。この差から鳥類に持ち去られた果実数を推定した。同じ日にラインセンサスにより鳥類相の調査とヒメアオキ以外の多肉果植物の結実フェノロジーを調べた。
 山地におけるヒメアオキの開花・結実は、ほとんど積雪が見られない海岸地域の個体群に比べて2ヶ月以上遅れ、6月に観察された。果実は11月になっても樹上に残り、鳥類による集中的な果実の持ち去りは見られなかった。そのために、果実の持ち去り率は海岸地域に比べて山地で有意に低い値を示した。この結果は、山地の果実食鳥類の少なさと同じ季節に結実する他の多肉果植物の存在によると考えられた。それらに加え、山地においてのみ野ネズミによって果実が食害を受けた。ヒメアオキの種子散布に見られた地域個体群間の違いは、種子散布者や種子捕食者の豊富さといった生態的要因と積雪条件の違いを反映していると結論づけた。