9. 18 DEC 2002 11:00~11:30

マレー半島におけるShorea属(フタバガキ科)の散布前種子食者と食害率
保坂 哲朗 (京都大学農学研究科 熱帯林環境学研究室 修士課程)

1. はじめに
 東南アジアにおけるフタバガキ科の一斉開花の究極要因として、Janzen (1974) らが提唱する種子食者飽食仮説の検証には、フタバガキ科の種子食者昆虫相とその食害率の情報が必要である。しかし、これまでの種子食昆虫に関する研究は成熟種子のみを対象としたものが多く、仮に未成熟種子と成熟種子で種子食の昆虫相や食害率が異なるならば、種子食害の実態の一部を明らかにしているにすぎないといえる。そこで本研究では、フタバガキ科植物において未成熟種子を含めて食害の実態を調べ、シードトラップ法による落下種子数フェノロジーをあわせて、結実期間中にどのような種子食昆虫が出現し、結実全体のどれほどの食害を及ぼしているのか明らかにしたい。
2.目的
 1)Shorea属(フタバガキ科)の散布前種子食昆虫は何か?その中で主要なものは?
 2)その出現頻度や食害率は種子の発育段階に応じて変化するのか?
 3)結実全体に占める散布前段階の昆虫による食害率はどのくらいか?
を明らかにする。
3.方法
 2001年8月〜2002年2月の一斉開花期に、半島マレーシア、パソー森林保護区50haプロット(2°59'N, 102°18'E)において開花したShorea7種(S. acuminata, S. bracteolata, S. dasyphylla, S. leprosula, S. macroptera, S. parvifolia, S. pauciflora)、56個体の種子について調査した。各対象木の下から落下後まもない種子(枝との接合部が緑色のもの)を1週間に1度50個ずつサンプリングした。採集した種子は5個まとめて生重を測定後、プラスチックケース(175×120×37mm)の中で適度な水分を与えながら4ヶ月間飼育した。成虫が出てきた時点で、標本作成、種の同定を行った。飼育開始4ヵ月後に種子を切開し、食痕(昆虫の糞や穴)の有無を調べ、食害率と発芽率を算出した。各週のシードトラップ内の落下種子数に昆虫出現率、食害率、発芽率を乗じ、昆虫出現数、食害種子数、発芽種子数を算出し、全ての週の分を合計したものを総落下種子数で除し、結実全体に対する昆虫出現率、食害率、発芽率を算出した。
4.結果、考察
 1)Shorea属7種の種子食者は、おもにゾウムシ1(Nanophyes shoreae)(6樹種に出現)、ゾウムシ2(Apionidae sp.)(2樹種)、ゾウムシ3(Alcidodes sp.)(7樹種)、蛾1(Tortricidae sp.)(7樹種)であり、特にゾウムシ1、ゾウムシ3の出現頻度がほとんどの樹種で共通して高かった。
 2)種子の生育段階に応じて種子食者の出現率、食害率は大きく変化した。種子サイズと発芽率をもとに種子を、前期未成熟種子、後期未成熟種子、初期成熟種子、後期成熟種子に分けると、ゾウムシ1(体長約4mm),2(約3mm)は前期および後期未成熟種子から、ゾウムシ3(約8mm)は前期成熟種子から出現した。また、食害率は前期未成熟種子と後期成熟種子では低く(0%に近い)、後期未成熟種子または前期成熟種子において最高値(45〜85%)を示した。したがって、散布前の種子食者相やその食害の影響を解明するためには、未成熟種子を含めた検討が必須であることを実証的に明らかにした。
 3)結実量全体に占める昆虫による散布前食害率は6〜21%、他の死亡要因による死亡は57〜71%であり、散布前段階において食害以外の死亡要因解明の重要性も示唆された。上に述べた落下種子の発育段階と種子食者ならびに食害率の関係に基づいて、被食に対する植物の応答について考察する。