8. 18 DEC 2002 10:30~11:00

鳥散布植物樹冠下の種子捕食に及ぼす落下果実の影響
−野ネズミ類による果実と種子の持ち去り実験−
高橋 一秋 (新潟大・院・自然)・紙谷 智彦 (新潟大・農)

 果実を着けている鳥散布樹木は果実食鳥類が訪れる採餌木であると同時に,訪れた鳥類によってその樹冠下に多くの種子が散布されるとまり木でもある.そのため,果実を着けているとまり木は植生遷移を促進させる役割を果たしていると考えられている.一方で,野ネズミ類などが樹冠下に散布された種子を捕食すると考えられるが,その研究例はほとんどない.とまり木の植生遷移に果たす役割を明らかにするためには,鳥類の種子散布による正の効果だけでなく種子捕食による負の影響についても検討する必要がある.特に,樹冠から直接落下する果実が野ネズミ類の餌になれば,その近くに鳥類によって散布された種子の捕食も影響を与えるだろう.
 そこで,本研究では果実を着けているとまり木の下に散布された種子の捕食に及ぼす落下果実の影響を明らかにするために,持ち去り実験により,以下の3点を検討した。1)持ち去られた種子の個数と種数は落下果実の有無で異なるか?2)持ち去さられた種子の個数と種数は落下果実の種類や個数によって異なるか?3)持ち去られた種子の個数と種数は持ち去さられた果実の個数,果実サイズ,種子サイズと関係があるか?
 実験は新潟海岸のクロマツ人工林で行った.果実を着けているとまり木7種を対象に,とまり木と同種の果実を21個入れた皿を各種15個体の下に,63個の果実を入れた皿を各種15個体の下に,それぞれ1枚ずつ置いた.また,果実を着けていないとまり木1種15個体の下には果実を入れない皿を1枚ずつ置いた.これら全ての皿には果実と同じ7種の種子を各種3個ずつ入れた(各皿計21個).実験は2001年12月から2002年4月までの135日間行った.実験終了時に皿に残っていた種子と果実の個数から野ネズミによって持ち去られた種子と果実の個数を推定した.
 その結果,1)持ち去られた種子の個数と種数は,果実を入れなかった皿よりも果実を入れた皿で有意に少なかった(T-test, p<0.05).2)持ち去られた種子の個数には皿に入れた果実の種類と個数で,同じく種数には果実の種類で,それぞれ有意な効果があった(Two-way ANOVA, p<0.001). 3)異なる種類の果実を入れた7処理の間で,持ち去られた種子の個数と種数はともに持ち去られた果実の個数と有意な負の相関があった(ステップワイズ法による重回帰分析, 個数; r=-0.84, p<0.05, 種数; r=-0.83, p<0.05).
 以上の結果から, 野ネズミ類による種子捕食は,落下果実がない樹冠下よりも落下果実がある樹冠下で小さくなること,落下果実の種類や個数に影響を受けること,落下果実が捕食される樹冠下で小さくなることが示唆された.すなわち,野ネズミ類に好まれる果実を着けるとまり木は樹冠下の種子捕食を回避させることが示唆された.