5. 17 DEC 2002 20:00~

大型果実をつける植物センダン科Aglaia spectabilisの果実利用動物相
〜特にサイチョウに注目して〜
北村 俊平 (京都大学 生態学研究センター)

 森林生態系における種子散布過程の研究は、森林全体の保全に欠くことのできないものである。熱帯域における果実と果実食動物の相互作用は非常に多様であり、フタバガキ科が優占する東南アジア熱帯においても、大部分の森林性の鳥類や哺乳類はある程度の果実を利用していることが知られている。しかし、果実食動物が実際に利用している果実は森林内に存在している果実の一部に限られていることから、果実食動物における果実選択には何らかの制限要因が働いていると考えられる。特に採餌活動の際に手を利用できる哺乳類とは異なり、果実をくちばしでついばみ、丸のみにすることが多い鳥類では、こういった要因が働きやすいと考えられる。
 大型の果実食動物は狩猟圧、森林の分断化による餌資源の枯渇、生息環境の消失などに敏感で、局所的な絶滅を生じやすいことが知られている。東南アジア熱帯でこれまでに果実と果実食動物について群集レベルでの研究が行われた地域は、シンガポール、ホンコン、フィリピンなどの既に分断化された森林であり、本来そこに生息していた果実食動物、特に大型の果実食動物を欠いた地域からの断片的な情報がほとんどであった。
 東南アジア熱帯において数少ない大型鳥類・哺乳類相が温存されている大面積保護区のタイ・カオヤイ国立公園の熱帯季節林において、群集レベルでの果実と果実食動物の相互作用の調査から、カオヤイのような健全な森林においても、大型種子をつける植物を利用する果実食動物は一部の大型動物に限られることがわかった。本研究では、そこから見出された大型種子をつける植物Aglaia spectabilis (Miq.) Jain & Bennet(センダン科:種子サイズ31.4×21.3×16.6 mm)とその果実利用動物相に着目し、@林冠での果実食動物による果実除去率の推定、A親木周辺への落果の二次散布と種子食害の有無について調査を行った。@では、林冠部での動物による果実消費の観察をのべ7個体300時間行い、Aでは、林床での落果の二次散布と種子食害を2個体について、糸付け法と自動撮影装置を組み合わせて行った。
 林冠部では大型の果実食鳥類(サイチョウ4種とヤマミカドバト)とリス2種(クロオオリスとフィレンソイリス)が果実消費を行い、結実木周辺の林床ではマレーヤマアラシとアカスンダトゲネズミが主な落果消費者であった。サイチョウは採餌木で、種子を吐き戻すことがほとんどなく、採餌木での滞在時間も短いことから、利用した種子のほとんどを採餌木以外の地点へ運んでいると考えられた。一方、2種のリスはアリル部分のみを利用して、種子のほとんどをそのまま採餌木の林床へと落下させることから、採餌木からの種子の移動にはほとんど貢献していないと考えられた。また、結実木周辺の林床ではマレーヤマアラシとアカスンダトゲネズミによる激しい種子食害をうけ、糸をつけた種子から実生に定着したものはなかった。