3. 17 DEC 2002 15:30~16:00

鳥による種子散布の緑化への応用
境 慎二朗 (京都大学 演習林)

 裸地斜面においては,様々な植物を用いた緑化が行われているが,導入される植物の多くは,海外を含む遠隔地で生産された種子や苗木である。これらは種が同じであっても,それぞれの地域に自生する植物とは遺伝的性質が異なる可能性が高いと言われており,地域の自生種の導入が推奨されてきている。そこで,自生種の導入には,鳥類による脱糞やペリットに含まれる周辺植生の種子の散布を利用し,この種子散布がより効率的に行われるために,疑似果実植物を取付けた人工のとまり木を考案した。これにより,鳥類による種子散布が促されるかどうか,その効果を検討した。
 調査は,京都大学上賀茂試験地(京都市北区上賀茂本山)の災害復旧山腹工事を行ったのり面(幅21m,長さ19m,平均傾斜30度)において、2000年7月から行っている。調査区周辺の植生は,樹齢70〜100年生のヒノキにコシアブラ,ヒサカキ,ツツジ類が混交する天然性二次林である。調査区内に,とまり木のみ(以下,Perch)と,疑似果実植物付きとまり木(以下,Fruit)をランダムに各3本設置し,それぞれのとまり木の下部と,開空地(以下,Open)の3箇所にトラップを設置した。とまり木の構造は,2mの支柱の最上部に0.5mの横木を取付けて逆L型とし,さらに横木の中央に長さ0.5mの丸棒(φ1.2cm)を通し十字型とした。とまり木の材料は,全て製材品を用いた。擬似果実植物は,赤色を主とした4〜6mmのガラス製のビーズ玉6〜16個をワイヤー(#34)で連結したものを房状にまとめて果実部とし,それを市販のビニール製偽ツタ植物(長さ約50cm)の中央部に取付けたものを作成した。ほぼ一週間おきに各トラップに付着している鳥糞を採取し,乾重量を測定後,エタノールで希釈し,糞中の内容物を同定しており,現在も継続中である。糞中に含まれていた種子の種名の同定は,2001年4月までの10ヶ月間に採取した鳥糞について完了している。
 2001年4月までに採取した鳥糞数,種子含有糞数,種子数のそれぞれの合計は,Fruitでは72個,41個,208個であった。Perchでは20個,12個,54個,Openでは9個,2個,4個であった。種子を含む鳥糞について,その1個あたりの平均含有種子数は,Fruitでは5.07±0.60個,Perchで4.50±0.89個,Openで2.00±0.64個であった。FruitおよびPerchのトラップあたりの種子含有率は,50〜80%だったが,Openでは,0〜33%であった。種子を含む鳥糞1個あたりの平均乾重量は0.0270±0.0028gで,種子を含まない鳥糞(0.0083±0.0008g)よりも有意に重かった(<0.01)。糞中に含まれていた種子は,調査区周辺に自生するヒサカキ,コシアブラ,ヨウシュヤマゴボウの3種が全体の91%を占め,その他はエノキ,ヤマウルシ,キイチゴ類などが占めた。
 2001年5月から2002年10月までに採取した鳥糞の合計数は,Fruitで108個,Perchで68個,Openでは5個で,誘引効果は継続されていると思われる。また,2000年7月から2002年10月までの28ヶ月間に採取した鳥糞において,10月から翌3月の期間に採取した割合は,PerchおよびOpenでは約50%であったが,Fruitは約80%であった。
 以上のことから,のり面などのオープンサイトにおいては,とまり木を設置し,さらに疑似果実植物を取付けることによって,果実食鳥類が多く誘引され,周辺植生の種子が効率的に散布されると考える。