2. 17 DEC 2002 14:30~15:30

チンパンジーによる種子散布
竹元 博幸 (京都大学 霊長研)

 本研究の調査地である西アフリカのボッソウ地域には1グループ約20頭のチンパンジーが生息しており、他の昼行性霊長類は生息していない。また周辺部の森林は人による二次林伐採、焼畑などの耕作活動が活発である。したがって、森林内や畑放棄後の森林更新にはチンパンジーによる種子散布が少なからず影響しているのではないかと推測される。そこでまず、ボッソウの森林で確認される木本のうち、どの程度の樹種がチンパンジーによる被食散布を受けているかを中心に検討を加えてみた。
 調査は1996年から1998年にかけて行い、チンパンジーのホームレンジ内の主要な一次林および二次林でベルトトランセクト(2200m×5m)を設置し樹木の種数、種毎の密度を測った。チンパンジーの直接観察時に糞を採取して散布されている種子を同定し、一部の種子では発芽実験を行った。
 糞内容の体積比(N=220)では72%が果実で、61種(同定は37種、他は未同定)の種子が確認された。また、種子が噛み潰されてしまうものは4種、種子が飲み込まれないものは2種であった(Mangifera indica, Parinari excelsa)。糞中の種子の出現率は100%、種子の種類数は4.8種/糞、種子の大きさは直径2mmのMusanga cecropioidesから、最大39mmのアブラヤシまで含まれていた。同定された37種のうち木本は25種、木本性つるは7種、草本は5種であり、トランセクトで確認された樹木(DBH>5cm)116種、1065本のうち少なくとも24種(胸高断面積比36%、本数で30%)の樹木がチンパンジーによって種子が散布されていると考えられた。発芽実験では14種で糞からの発芽がみとめられ、コントロールとの比較可能な8種では6種の発芽率が高まった。
 ボッソウのチンパンジーの行動域は小さいが、一次林、二次林、畑放棄地、耕作地、川辺林、サバンナと多様な環境を利用している。このように多様な環境に種子を散布してもらえることは植物にとって不都合なことではないだろう。また、全ての糞がなんらかの植物の種子を運んでおり、糞中種子の発芽率が高められること、かなり大きな種子まで散布することを考えると、種子散布者としてのチンパンジーはボッソウの森林にとって大きな役割を担っていると思われる。