自然史関係の本の紹介(2021年分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
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●「海獣学者、クジラを解剖する。 海の哺乳類の死体が教えてくれること」田島木綿子著、山と渓谷社、2021年8月、ISBN978-4-635-06295-4、1700円+税
2021/12/12 ★

 国立科学博物館の海棲哺乳類担当研究員の、ストランディングに走り回る日常が紹介される。前半はそれに混じって、ストランディングという現象の紹介。後半は、クジラ類、鰭脚類(おまけでラッコ)、海牛類のなんかいろいろ紹介。
 第1章は、大量のオットセイの死体を引き取ったり、大型クジラの解体に出かけて、帰りの温泉施設で異臭騒ぎといったアルアルネタ。
 第2章は、ストランディングしたクジラを解体する現場の話。からの、第3章は、どうしてストランディングするのかという謎の話や、現場での調査について。日本ではシロナガスクジラのストランディングは、まだ2018年の1例しかないとは知らなかった。
 第4章はもっぱらクジラ類の形態の話。第5章は、鰭脚類の分類・形態と少し生態(なぜかペンギンも出てくる)。第6章は、海牛類の形態と生態、アメリカでのマナティー研修と、タイでのジュゴン調査で出会った研究者。
 最後の第7章では、海洋プラスチックやPOPsからの海棲哺乳類との共存に向けて。

 日本で一番クジラ類のストランディングに走り回っている人なので、その日常は興味深い。一方で、科博と他の自然史博物館は、持ってる予算規模もスペースも、そして業務内容も決定的に違うので、ストランディングに走り回れるのが、羨ましくもあったりする。他の自然史博物館ではそんな暇もお金もないから。
 気になるのは、ストランディング対応のエピソードはいっぱいあるけど、その研究成果がさっぱり出てこないこと。「クジラの骨と僕らの未来」のように処理したクジラの大きさも伏せてる訳ではないけど、自分の研究成果をほとんど紹介しないのは、「クジラの骨と僕らの未来」以上かも。この業界の習わしか何かなのかなぁ? そのためもあってか、一般的なことを紹介しているだけな感じの後半が物足りない。
●「ダニが刺したら穴2つは本当か?」島野智之著、風濤社、2021年6月、ISBN978-4-89219-459-7、1800円+税
2021/12/12 ★

 人間の血を吸うダニは、ダニ全体の中の1-2%にすぎない。大部分は、人間になんの害もなく生きている。そんな多様なダニを生き物好きに普及すべく、ダニ学者が書いた一冊。
 春〜初夏のダニ、夏のダニ、秋〜冬のダニに分けて、人間の身近に生きるが、とくに害もないダニたちを中心に紹介される。春〜初夏は、カベアナタカラダニにはじまり、ササラダニ類、そして鳥につくダニが紹介される。夏は、南海の孤島の土壌中のダニにはじまり、ハチドリなど鳥に運ばれるダニ(北極圏にまで到達!)、『動物誌』から『ミクロメガス』まで古くから書物に登場するダニの話、ツツガムシからダニの刺し跡の話。秋〜冬は、チーズダニ、絶滅したトキウモウダニ、冬のダニ、身の回りのダニ。
 いろんなダニの話題が出てくるのは楽しい。が、比較的その筋ではメジャーなダニばかりの印象。あと、あまり関係ないエピソードが混ざりすぎな気がする。あとこなれていない文章が目に付く、というかしばしば意味がとりにくい。関係詞のついた英語を下手に訳した感じ。「ダニ・マニア」では、そんなことなかったと思うけどなぁ。
●「たくましくて美しい ウニと共生生物図鑑」山守瑠奈著、創元社、2021年10月、ISBN978-4-422-43043-0、1700円+税
2021/11/29 ★★

 著者は、白浜にある京都大学瀬戸臨海実験所のスタッフ。磯の穴の中にはまって暮らすウニたちと、そのウニの穴やウニのトゲの間で暮らす動物たちを紹介した一冊。
 Q&A形式で、ウニとその暮らし、そして共生生物を紹介した後は、図鑑コーナー。おもに本州西部〜九州に生息するウニと共生生物が紹介されていく。家主のウニが6種、ウニの穴でのみ暮らす共生生物が3種、ウニの穴でも暮らす共生生物35種、ウニのトゲの間で暮らす共生生物が8種というか8組、いろんな海の共生の組合せが24組。続いて、著者がウニと共生生物にはまるにいたった歴史と、フィールドワークの仕方。フィールドワーク7ヶ条が面白い。最後は、院生時代の先輩と一緒に思い出話。
 著者の専門は、ウニの穴にのみすむハナザラ。こうした笠貝自体知らなかった。自分で穴を掘るタワシウニなどがいる一方で、他人が掘った穴を二次利用するだけのムラサキウニ。そもそも住み込み連鎖は好きだし、ハナザラ、ナガウニカニダマシ、ムラサキヤドリエビといったウニの穴でのみ暮らす共生生物がいるのも興味深い。穴の共生生物にはさほど寄主特異性はないのに、ウニのトゲの間で暮らすのには寄主特異性が高いのも不思議。とまあ、知らない事がいっぱいあって楽しかった。

●「たくましくて美しい 糞虫図鑑」中村圭一著、創元社、2021年7月、ISBN978-4-422-43042-3、1700円+税
2021/11/24 ★

 糞虫の聖地である奈良公園の近くに、ならまち糞虫館という糞虫普及の拠点をつくった著者による糞虫の普及書。
 Q&A形式で、糞虫について解説した後は、図鑑コーナー。センチコガネ類3種、ダイコクコガネ類2種、エンマコガネ・コエンマコガネ類11種、マグソコガネ類20種と日本の糞虫が登場する。そして、美しいor格好いい世界の糞虫39種の紹介。日本産については、見分け方もそれなりに書いてあるけど、見分けるための図鑑ではなく、むしろメジャーのエピソードを紹介した感じ。続いて、生いたちから糞虫館をつくるまで、糞虫館の紹介、奈良公園糞虫ツアー。糞虫観察の標準装備、フンコロガシの飼い方。最後は、山形大学の糞虫マニアの学生さんと、東西糞虫対談。
 糞虫のことをほとんど知らない人には、糞虫のいろんなことが書いてあって、楽しいかもしれない。

●「ゲッチョ先生と行く 沖縄自然探検」盛口満著、岩波ジュニア新書、2021年6月、ISBN978-4-00-500936-7、920円+税
2021/11/2 ★

 ゲッチョをモデルにしたオジサンのところに、東京から甥と姪が遊びに来たから、沖縄各地を連れ歩き、そこの自然を対話形式で紹介する。という趣向。
 沖縄島の南部とヤンバル、与那国島、石垣島、西表島、宮古島・池間島と、特徴的な自然がある島々が紹介されていく。もれなくビーチコーミングに行くのはゲッチョのマイブームっぽい。陸貝や両生爬虫類への言及も多め。あとは虫や鳥に植物。ゲッチョの多彩さが伺える。
 ヤンバルの猪垣、与那国島のクバ文化、石垣島のサンゴ礁文化、西表島の貝塚から出る貝やイノシシの骨、池間島のアダン文化。単なる自然や生き物の紹介に留まらず、自然を利用して暮らしてきた島々独自の文化や、島独自の言葉も紹介されているので、話に奥行きが出て良かった。

●「今日からはじめるばーどらいふ」一日一種著、文一総合出版、2021年10月、ISBN978-4-8299-7236-6、1200円+税
2021/10/30 ★

 ある疲れたサラリーマンが、通勤途中にバードウォッチングしている人に出会い、ジョウビタキを見せてもらったのをきっかけに、バードウォッチングにはまっていく。ってゆうマンガ仕立てで、語られていくバードウォッチング入門。
 身近な鳥の紹介から、生息環境や季節移動、声が説明され。バードウォッチングに出かける時の服装や準備するもの、双眼鏡や図鑑の選び方、双眼鏡のメンテナンス、望遠鏡の解説。簡単な見分け方、行動観察、マイフィールドのススメ、探鳥会の紹介。フィールドサイン、年齢・性別を見分け方。最後は鳥見のマナー。って感じで、ストーリーにのせて、上手にバードウォッチングの一通りを紹介してくれる。当初思ってた以上に充実した内容だった。

●「ナナフシ」稲田務著、福音館書店かがくのとも2021年9月号、400円+税
2021/10/26 ★

 葉と枝の中のナナフシ(ナナフシモドキ)がいるのがわかるかな?と定番の前振りから始まって、かるくナナフシの説明。対捕食者の行動、脱皮、そして産卵。産卵中のナナフシが、ヒヨドリに食べられる。そのヒヨドリの糞にはナナフシの卵。その卵から幼虫が孵る。飛翔能力の無いナナフシが鳥によって散布されるというとても新しい知見が紹介されているのは画期的。面白いけど、一発ネタだけで終わってちょっと物足りない。
 監修に神戸大学の末次健司さん。参考文献に、
Suetsugu, K., S. Funaki, A.a Takahashi, K. Ito & T. Yokoyama(2018)Potential role of bird predation in the dispersal of otherwise flightless stick insects. Ecology 99: 1504-1506.

●「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著、岩波科学ライブラリー、2021年8月、ISBN978-4-00-029706-6、1600円+税
2021/10/26 ★★★

 カイメンの生態研究者が、カイメン愛を前面に、カイメンのさまざまを紹介。カイメンがマイナー過ぎるのと、その一方でカイメンのポテンシャルが極めて高いので、驚き一杯に最後まで楽しく一気に読める。一見地味だけどスゴイ、カイメンを見る目が変わる一冊。
 第1章は、人とカイメンの関わり。文字通りスポンジに使われるのは知ってたけど、ガラス質の骨格のないのを使わないといけなかったのか〜。カイメン養殖も行われているけど、付着生物で苦労するという話は、体験談が付いていて説得力がある。カイメンにはさまざまな化学物質が含まれていて、薬まで作られているとは知らなかった。
 第2章は、カイメンの分類と形態、生態。カイメンは最古の動物と思ってたけど、クシクラゲ最古説もあって結論がでてない。無性生殖と有性生殖があって、有性生殖には体外受精と体内受精がある。知らないことばかり。
 第3章は、カイメン行動学。カイメンの付着細胞はつねに移動を続けていて、その方向を揃えるとカイメン全体が移動する。タマカイメンはアンカー使って、コロコロ転がる。面白すぎる。
 第4章は、カイメンと他の生物との関係。カイメンは毒があるので、カイメン食のウミウシは特定のカイメンばかり食べる。海で唯一の真社会性のツノテッポウエビが住み込む。カイメンに住み込んで、カイメンの骨格となり、ポンプとなるホウオウガイはとても面白い(これが著者のメインテーマ)。カイメンを口吻につけて海底を掘るイルカ、骨片を光ファイバーとして利用して光合成する共生藍藻。ネタは尽きないのか?
 第5章、生態系のでのカイメンの役割。カイメンループにカイメン礁。肉食になったカイメンまでいる。カイメンすごすぎる。

 動物園は哺乳類や鳥類、せいぜい脊椎動物ばかりで、カイメン(をはじめ大部分の無脊椎動物)がさっぱりいない! テレビで最も長生きの動物として500歳のアイスランドガイが取り上げられていたけど、カイメンには1万年生きたのがいる! とか、カイメン愛に基づくカイメン伝道師の叫びが妙に面白かった。1万歳と推定されたカイメンの270cmの針状の骨片がすごい。生で見たい。
●「ツバメのせかい」長谷川克著、緑書房、2021年6月、ISBN978-4-89531-5565-4、1800円+税
2021/10/19 ★★

 「ツバメのひみつ」に続く第2弾。「ツバメのひみつ」では、繁殖行動を中心に客観的なツバメ像を紹介したけど、この「ツバメのせかい」では、ツバメが主観的に感じている世界を紹介する。“主観的”とあるから勘違いされそうだけど、ツバメから見た世界を紹介するって意味で、ツバメの“主観”であって、著者や人間の“主観”ではない。「ツバメのひみつ」も大部分ツバメの“主観” ではなかったか?というツッコミはあり得そう。
 まずはツバメの感覚の話。第1章で聴覚、第2章で視覚が取り上げられる。ツバメの可聴域や視細胞の話は勉強になる。鳥の可聴域がヒトより狭いとか、少なくとも鳥では両眼視はさほど重要ではないといのは知らなかった。鳥の錯視の話は面白い。
 続いてツバメの他の生物との関係の話。第3章は種間関係、第4章は種内関係。種間関係では、食物となる虫からはじまって、捕食者、外部寄生虫、腸内フローラまで紹介される。食べる虫の分布の仕方がツバメ類の集合性に影響するとか、ツバメのコロニーの近くでは授粉率が下がるといった話が面白かった。リュウキュウツバメの暮らしぶりがそんなんだとは知らなかった。種内関係は「ツバメのひみつ」と重なる部分が多いように思うけど、利他的行動としてのモビングの話とか、ヒナの譲り合いとか面白かった。個々の個体同士の関係性を重視するって方向性は、30年前に所属していた研究室の魚研究者が言いまくってたっけ。
 第5章は渡りの話。渡りのタイミングがどのようなメカニズムで決まるかが大きく取り上げられる。アルゼンチンの逆に渡るようになったツバメの話がとても気になる。
 ここまでは、客観的なデータに基づく話が続いてきたけど、最後の第6章は、ツバメを長年研究してきた著者のツバメ観、自然観が語られる。大先生のようだ。

 「ツバメのひみつ」と同じく、世界のツバメについての興味深い研究成果がいっぱい紹介されて、とても勉強になる。集団ねぐらの話がきれいに落ちるのは、ツバメの暮らしの重要な一面かもしれないけど、著者的に興味深い研究がないから、ってことだろうか。姉妹編と書いてあるけど、三姉妹になる可能性は少なそう。
●「ハチという虫」藤丸篤夫著、福音館書店たくさんのふしぎ2021年6月号、700円+税
2021/10/8 ★

 ハチって刺すイメージだけど、すべてのハチが刺すわけではないよ。そして刺すとしても、その針は産卵管なのでメスしか刺さないよ。ってところから始まり、ハチ類の主なグループの系統進化を、写真で紹介していく。
 まずは、一番原始的な腹部にくびれがなく、葉っぱや材を食べるハバチやキバチの仲間。続いて他の昆虫の幼虫を食べるようになったヤドリキバチ類。腹にくびれのある寄生バチ、ヒメバチ、コマユバチ、コバチの登場。寄生バチは、外部寄生と内部寄生に分けて、一番紙面をさいて紹介している。続いて、食物にする虫やクモを巣にたくわえる狩りバチの誕生。さらに社会性狩りバチであるアシナガバチやスズメバチなどへ。狩りバチの中から、ふたたび肉食から植物食に戻ったのが、花の蜜や花粉を利用するようになったハナバチ類。その社会性が進んだのがミツバチ。あとは労働寄生や重複寄生の話題を少々。
 ハチといえば、まず思う社会性をさらっと紹介するに留め、ファーブルでスマッシュヒットを放った狩りバチでもなく、寄生バチに重心をおいてるのが印象的。これは種数の比率にしてるんだろうか? アリが一切でてこないのも印象的。
 ハチの暮らしをうまく捉えた写真がとても綺麗なので、ハチ類の多様性を見る写真絵本として、ながめていて楽しい。ただ、せっかく進化の道筋を紹介しているのだから、樹形図の1枚もあれば、読者に全体構成を理解しやすかったような気がする。
●「釣って 食べて 調べる 深海魚」平坂寛文・キッチンミノル写真・長嶋祐成絵、福音館書店たくさんのふしぎ2021年7月号、700円+税
2021/10/8 ★★

 とりあえず東京湾に深海魚を釣りに行く。ヘラツノザメ、クロシビカマス、オオメハタ。石垣島でも深海魚を釣る。チカメエチオピア、オカムラギンメ(世界で5例目!)、フトツノザメ、ヒレタカフジクジラ、ビロウドザメ。聞いたことのない魚ばっかり。と思ったら、今度は市場に行く。お馴染みのキンメダイやマダラもれっきとした深海魚。つかみが楽しい。
 水深200mより深い海を深海という。日本は岸から数十分ほど船を走らせれば深海魚を釣りに行ける場所が各地にある。とても深海が身近な国。と軽く説明。以降は、深海魚の暮らしを紹介しては、食べ方紹介。
  深海では浮き袋は役に立たないので、筋肉や肝臓に脂肪をたくわえたり、尿素を貯めたり、筋肉に水をたくわえたりして(肉が水っぽくて不味い!)、深海魚は浮力を得てるとか。深海魚には黒いのや赤いのが多いのは、深海で目立たないためとか。アカムツ(ノドグロ)の喉や腹の中が黒いのは、光る動物を食べた時対策とか。出てくる料理はどれも美味しそうだけど、アンコウのどぶ汁が一番食べたい。。  深海魚には、その暮らしぶりをはじめ、まだまだ謎がいっぱい。採集例がわずかしかない魚が釣り上げられたり、名前が分からない魚が釣れたり。釣りをするだけでも、いろいろ発見が楽しめる。ってことがよく伝わってくる。一度、深海魚釣りについて行ってみたいと思った。
●「蚊学入門」一盛和世編著、緑書房、2021年6月、ISBN978-4-89531-596-8、1800円+税
2021/10/4 ★

 蚊の研究者(衛生系中心)や医者から、製薬会社やペストコントロールの業界人、さらにんぜかシンガーソングライターや彫刻家までまじえた28人の執筆陣が、蚊についていろいろ紹介した一冊。といいつつ扱われるのは、衛生害虫としての蚊であり、蚊が運ぶ感染症を含め、蚊の衛生問題とその対策が中心。
 第1章で、蚊の種類、体の構造、一生、蚊が登場した時代、血の吸い方、血を吸う対象が軽く紹介される。コラムでは、蚊柱は婚活パーティだとか、羽音はラブソングだとか、子育てをする蚊といったちょっと面白い話題も。
 第2章は、蚊から身を守ると称して、蚊の防除の歴史紹介。蚊が出てくる浮世絵。蚊取り線香から液体電子化取り器の登場まで。
 第3章は、蚊が運ぶ感染症紹介。デング熱、マラリア、人のフィラリア症、イヌのフィラリア症、ジカウイルス感染症。
 第4症は蚊を調べてみよう! 蚊のつかまえ方、飼い方、解剖の仕方。誰が興味を持つんだろう? データを示しての蚊に刺されやすい人、刺されにくい人の話は興味深い。
 付録には、蚊でアート。折り紙、絵、歌、彫刻。

 人とほとんど関わらず暮らしている蚊もいっぱいいるのに、それはさっぱり出てこない。そういう意味で、蚊の多様性はぜんぜん語られない。あと、生態関連の話題が第1章で通り一遍に説明されるだけで、物足りない。その上、なぜか自然状態でのボウフラの食性がどこにも出てこない。複数の人で分担して執筆したからだろうなぁ。
●「クジラの骨と僕らの未来」中村玄著、理論社、2021年7月、ISBN978-4-652-20436-8、1300円+税
2021/10/3 ★

 東京水産大学→日本鯨類研究所→東京海洋大学というの著者が、動物好きホネ好きの子どもの頃から、クジラ経験を積んで、クジラのホネ研究者になっていくまでが描かれる。
 中学校でのウシの内臓観察、死んだハムスターを交通事故死したタヌキを骨格標本にした経験。高校生時代には、アルゼンチンに留学し、その際もホネが気になり。大学生になってからは、魚の骨格標本作りにはまり、ホネホネサミットに出展。そして、卒論では、クジラの研究室の門をたたき、ザトウクジラの個体数調査。勢いで南氷洋での調査捕鯨にも出かけることに。ここまでが第1章で前半。
 後半の大部分は、第2章の調査捕鯨での出来事。こういう話はあまり書かれていないので、興味深い。修論はさらっと終わり、第3章では博士論文のためにミンククジラのホネを調べまくった話。やっと自分の道が決まった感じで終わる。
 面白いことがいろいろ書かれているけど、不満なのはデータが一切でてこないこと。解体したクジラの具体的なサイズすら一切でてこない。調査捕鯨では大人の事情もあるかもしれないが、他もそうなんだろうか? 発表した論文のデータくらい出せばいいのに。データが一切出てこないので、おのずとクジラについての具体的なトピックはほぼ出ない(唯一出てくるのは、太平洋産と大西洋産のミンククジラの前肢の白斑の違いだけだろうか)。 ひたすら調査エピソードが連なる。それも具体的に書かれているところがとても少ない。隔靴掻痒って難しい言葉を思い出す。

●「もしも人食いワニに噛まれたら」福田雄介著、青春出版社、2021年7月、ISBN978-4-413-23210-4、1600円+税
2021/10/1 ★★★

 高校生の時に急にワニの研究者になることを思い立ち、オーストラリアの大学に進んで、見事にワニの研究者になって、オーストラリアでワニの調査に従事している著者。そんな著者が、Q&A形式で、ワニの形態、行動、生態を中心にワニのさまざまな側面を紹介した一冊。
 目次の前に、アリゲーター科8種、クロコダイル科15種、ガビアル科2種の3科25種を紹介。
 第1章は、ワニに襲われる話、そしていかに逃げるかという話。とにかくワニがいそうな水辺に近寄る時は、1人で行かず、バットを持って、瞬時に横っ飛びする心構えを。ってことか。
 第2章は、ワニの形態や運動能力などの話。ワニは7頭身で、50年以上も生きるとは。
 第3章は、ワニの生態や行動の話。ホホジロザメやオオメジロザメとの喰う喰われるの関係。巣をつくる種とつくらない種がいるとか、飛行機ブーンという謎の行動。遠くから戻ってくる話と興味深い話が多い。
 第4章は、巨大ワニの話。6m超えは今では稀らしい。
 第5章は、オーストラリアを中心にワニ研究の状況紹介。そして、1970年代に捕獲禁止になるまでの乱獲の歴史と、その後の個体数の回復。回復したらしたで、共存の難しさ。ワニと人間のこれからを見据えて、締めくくり。

 2〜7ページを単位に、トピックがうつっていくのだけど、不思議とまとまりがあって、ワニについての一通りのことを知ったような満足感がある。一度、この本を持って動物園にワニを見に行きたい。


●「クジラが歩いていたころ 動物たちのおどろくべき進化の旅」ドゥーガル・ディクソン著&ハンナ・ベイリー絵、化学同人、2020年10月、ISBN978-4-7598-2115-4、2100円+税
2021/8/27 ★

 有羊膜類中心に、進化の旅を紹介した絵本。とでもいうのだろうか。出だしで、進化の解説や地質年代の簡単な解説があるのだけど、本の構成は、大雑把に時代順のようでいて、爬虫類以降はかなり大雑把。ただ最後は人類。そんな並びの中で、グループごとに化石種が紹介されていく。たいてい4ページずつ。
 大きな項目をみていくと、“進化ってなに?”、そして “進化の樹を理解しよう”に続くのは、“自然界の大実験”としてカンブリアンモンスターたちが登場。ここまでは違和感がなかった。ところがアノマロカリスも板皮類も出てこないで、次はもう“ヒレが足になったころ”となって脊椎動物は陸に上がっていく。しかし、続いては再び海に戻って“トカゲが水中へかえったころ”として、魚竜と首長竜の紹介。次の舞台は空中らしく、“爬虫類に翼が生えていたころ”として翼竜登場。そして地上へ、“ワニが世界を支配していたころ” “ヘビに足があったころ” 。再び空で“鳥に歯があったころ”。標題の“クジラが陸を歩いていたころ” 。鳥とクジラは好きらしく6ページずつある。あとは“サイが巨大化したころ”“小さなゾウがいたころ”“鳥が飛ぶのをやめたころ”“哺乳類が狩りをはじめたころ”(食肉類)、そして“霊長類が木から地上におりたころ”として、サルからヒトの話。最後は“進化はつづく”で終わり。

 まず、それぞれのページがどの時代を解説してるのか判りにくい。トピックの選択基準もよく判らない。爬虫類の中では、非鳥類の恐竜がまったく出てこない一方で、それ以外は全部取り上げてる感じ。哺乳類は、現生に生き残ってる大型哺乳類は取り上げているようでいて、旧貧歯類系はまったく出てこない。とにかくこれでは、系統進化の流れは判らない。たしかに進化の旅としてこの構成は驚く。
 進化の旅ではなく、恐竜以外の比較的マイナーな古脊椎動物を見るという目的なら、けっこう楽しいかもしれない。描かれている絵はキレイなんだけど、その色は、ほぼすべて想像にすぎない。という断り書きがいると思う。
●「ウナギが故郷に帰るとき」パトリック・スヴェンソン著、新潮社、2021年1月、ISBN978-4-10-507241-4、2200円+税
2021/8/27 ★

 謎に満ちたヨーロッパウナギの本。18章からなり、奇数章はヨーロッパウナギのおもに繁殖生態の謎を解明する歴史の紹介、偶数章は男の子とお父さんのウナギ採りの思い出が語られる。
 ノンフィクションなんだそうだけど、偶数章は基本的には自伝的小説の構造。著者が子どもの頃、家の近所の川で、お父さんと一緒に頻繁にウナギ採りをした話が繰り返され、その周辺でファミリーヒストリーが描かれる。 奇数章と絡んでいくのかと思ったら、ほとんど関係ないまま終わる。いらない。
 奇数章は確かにノンフィクションだけど、いらない要素が多すぎる。レイチェル・カーソンの章はいらないし、ドードーやステラー海牛のくだりもいらない。その他の部分でも、よけいな形容や繰り返し、そして不要な引用がいっぱい。
 奇数章で意味があるのは、第1章のヨーロッパウナギの繁殖生態の要約。第3章で紹介されるアリストテレスの勘違い。あのアリストテレスでさえ、ウナギについて間違った認識をもっていて、それもまあ仕方が無い。っていうところが面白い。第5章のフロイトの失敗の話は、まああってもいい。一番よかったのは、第7章。20年近くかかって、大西洋をウロウロしまくって、ヨーロッパウナギの産卵場をほぼ明らかにしたデンマーク人のヨハネス・シュミット。第9章で紹介されるヨーロッパでのウナギの伝統的利用の話も興味深い。 第15章の後半でようやくニホンウナギの話が出てくる。ここが一番読みやすい。愛がないからか、いらん要素がなくて、要領よくまとめてある。このトーンで全編統一して欲しかった。 第17章は、絶滅の危機にあるヨーロッパウナギの話。人間の影響は大きそうだけど、漁獲だけが問題ではないとされているらしい。
●「時間軸で探る日本の鳥 復元生態学の礎」黒沢令子・江田真毅編著、築地書館、2021年3月、ISBN978-4-8067-1614-3、2600円+税
2021/8/16 ★

 さまざまなメディアを利用して日本の鳥類相と分布の歴史を復元しようとする試みを紹介したってことらしい。第1部は、化石、DNA、考古遺物。第2部は、絵画資料と文献資料。第3部は、現在の鳥類調査、とくに市民調査などを紹介。
 第1部は一番期待して読んだ。中生代から新生代の日本の化石鳥類の話は知らない事だらけで面白かった。でもデータは限られてる印象が強い。DNAのパートは、先行して日本のファウナの研究が進められてきた哺乳類と比較しつつ、日本の鳥の渡来年代やルートが推定されていて面白い。考古遺物の話は、種まで特定できた例としてアホウドリとキジ類に留まっていて、知ってる話だけなので物足りない。大胆に種まで同定している研究者に否定的なのは面白かったけど。
 第2部では、『観文禽譜』をもとに江戸時代に描かれた鳥類の同定の話と、江戸時代の文献資料から種、とくにツルを同定する話題。どちらも種を同定できるか?ってレベルでとても江戸時代の鳥類相を明らかにするところには行ってない。
 第3部は、とりあえず第3回の全国鳥類繁殖分布調査の紹介。よく知ってる。よそで書いたり話しているのを軽くまとめた感じ。そして最後は、人間活動が鳥類相に与える影響、とくに外来生物問題から、今後の鳥類相を考える。ってことらしいけど、最後だけ浮いてる。そしてさほど今後の議論になってない。
 全体的には、まとまりがない感じと、まだまだこれから過ぎるって感じが漂っていた。鳥類相の変遷に関しては、DNAで一定の成果がでつつあるけど、その前の時代とのギャップが大きい。分布に関しては、江戸時代のことすら、まだまださっぱり判らない。
●「深層サメ学」佐藤圭一・冨田武照著、産業編集センター、2021年5月、ISBN978-4-86311-298-8、1800円+税
2021/8/8 ★★

 おもにサメ類の繁殖生態をどっちかと言えば解剖を武器に研究している著者が、現生にも目を配りつつサメ類の系統進化を研究している化石屋さんを巻き込んで、分担して書いたサメ本。“深層”とあるから深海のサメの話かと思ったら、そうではなくて、サメを深く紹介してるってことらしい。
 第1章はサメの系統と多様性の話。軟骨の話や、最大最小の話もある。サメの化石の話が興味深い。第2章はサメの生態の話。寿命、ペニス、歯、発光、ウロコ。生態に限らない気がする。川に出没するサメや採食戦略の話も。
  第3章が、おそらくこの本のメインで、サメ類の繁殖様式の話。卵生と胎生がある、って二分に留まらず、卵黄依存型胎生と母体依存型胎生。さらには卵食、はては授乳までするなんて! そして赤ちゃん共食い伝説。研究エピソードも交えて、まだまだ謎だらけのサメの繁殖様式の話題が続く。単為生殖までするとは。胎生の場合の糞の処理の話も面白い。
 第4章は終章。ヒトとの関わり。縄文時代のサメの歯コレクター、そしてソーシャルディスタンスの進め。最後に著者2人の対談があるけど、これはいらん。
 既存のサメ本とどれだけ違ってるかはさておき、興味深い話題は多く、楽しく読める本ではある。ただ研究者っぽく、丁寧な口調なので偉そうな感じが、行間からにじんでるのが微妙。あと職場の美ら海水族館のアピールしすぎ。
●「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著、新潮社、2021年3月、ISBN978-4-10-350912-7、1450円+税
2021/8/6 ★

 ご存じ川上和人大先生による全編川上節満載の一冊。当然ながら飽きてくる、じゃなかった疲れるので、休憩が必須。内容は読みやすく、面白い。ただ、例によって数行で書ける内容を、数ページかけて語るきらいがあるので、脱線を楽しむ心の余裕が必要。
 ちなみに、お急ぎの方は、“おわりに”だけを読めばいいと思う。タイトルにつながる大切な内容はそこに書いてある。あいかわらず著者はシャイなので、本編で真面目に話をしようとはしない。でも真面目な著者でもあるので、どこかに真面目な話を入れてしまう。あとはオガラヒワという呪文だけ覚えて、気が向いたらネットで検索して、よかったら寄付でもしてあげて欲しい。

 で、本編である。第1章で南硫黄島、第4章で西之島。一般人には行く手段もなければ、上陸許可でも出ない島での調査の様子がつづられていて、とても興味深い。ここは必読。さらに第6章の3つめの南鳥島滞在記も絶海の島シリーズとしてはずせない。
 あとは、小笠原のエピソードが並ぶ第2章(2つめ以外)、第5章の1つめ、第6章の2つめと4つめと5つめは、さすがという感じの話も出てくるので読んだ方がいい。とにかくオガサワラカワラヒワ、オガサワラカワラヒワ、オガサワラカワラヒワ。3回唱えればOK。
 だらだらと思いついたことを書いてる感しかない第2章の2つめ、第3章、第5章(1つめ以外)なんかは、暇な時にパラパラ読めばいいんじゃないかな。ただつまらないことを書いてるだけなんだけど、第6章の1つめの日本鳥類目録を引き受けて苦労した話は、とても面白かった。
●「科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点」佐倉統著、講談社ブルーバックス、2020年10月、ISBN978-4-06-522142-6、1000円+税
2021/8/5 ★★

 まずタイトルを見てとまどう。「科学とはなにか」という大上段のタイトル。中身はタイトルに見合ってるのか?と思いながら読み始めたが、ちゃんと科学とはなにか、そして科学とは誰のためのものかが論じられ、科学といかに付き合うかを考える。そんな一冊。
 まずは自分のことを書き始める。京都大学の霊長類研究所でサルを研究して博士号をとる。そんな著者が、自分は科学者ではない。だから科学の外から科学とはなにかを考える、というスタンスに立ってるのが面白い。それを宣言する第1章。
 第2章では、コペルニクスからはじまり、STAP細胞も引き合いに出して、科学における「事実」や「正しさ」が、日常的な意味と少し違うことが説明される。科学者の規範であるCUDOS(共有性、普遍性、無私性、懐疑主義)から、イマドキの科学者の現実であるPLACE(独占所有、局所性、権威主義、金で委託され、専門家ぶる)が説明される。
 第3章と第4章では、欧米を歴史的に振り返りつつ、科学技術はだれのものかが論じられる。“人のために役立ってこそ科学” と“知のための科学”。統治者のための科学から市民のための科学。17世紀に科学的方法が確立し、18世紀から19世紀に科学者という職がひろまり、パトロンが国家から民間に移った20世紀。
 第5章にいたって21世紀の現実が語られる。科学技術の飼い慣らし方・理論編だそうな。市民のための科学の時代。それだけに科学的事実の取り扱い方が重要になった時代。「自然主義の誤謬」(価値は事実に還元できない)という言葉は知らなかったけど、自然保護的な場面では繰り返し問題になってきたのは知ってる。知識の「誘惑幻惑効果」は面白くて、都合のいい時に使いたい誘惑が…。
 そして第6章は、科学技術の飼い慣らし方・実践編。市民科学や当事者研究が紹介される。著者は博物館業界でかなり昔から普通に行われている市民科学の実践をあまり知らないのか、あえて無視しているのか。
 第7章は、いわば日本で暮らす私たちが、科学技術をどう考え、どう付き合えばいいのかって話。のはず。たぶん。ここまではずっと世界を歴史的背景も含めて、広い視野で論じてきた。ここでとたんに日本という狭い範囲に視野がせまくなり、内容もつまらなくなる。第6章で終われば良かったような。

  最初に著者が自分について語っていた。自分は広い視野で大雑把に考えるのは得意だけど…云々、というくだり。第7章を読んで納得した。でも、第6章までは科学とはなにか、を自分で考えるきっかけを様々に与えてくれるので、よい1冊だと思う。
 20世紀後半に研究者を目指したものとしては、科学とは国家に左右されず、知のためにあるのが当たり前で(理学部なもので)、CUDOSは当然と深く考えず思っていた。広い視野を持つことは大切。
●「「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛」小坪遊著、新潮新書、2020年10月、ISBN978-4-10-610879-2、760円+税
2021/6/24 ★★

 著者は朝日新聞社の記者。新聞記者としてはとても珍しく、自然や生態学のことが判っている方なので、内容は目配りも聞いていて、ちゃんとしていて安心して読める。現代の人と自然のつき合い方に見られる問題点。とくに良かれと思っての活動や、あるいは生き物に関わる人の行動に、どんな問題があるかが次々と指摘されていく。
 新聞記者だからか、内容からやむを得ないという判断からか、問題のある活動を対象がはっきり判る形で批判していることが多い。プラスの面や、良い方向に向ける提案も付いているけど、強気だなぁとは思う。

 第1章は、生き物を放したり植えたりする際の問題。どこにでも樹を植えようとする元横国大教授の問題発言は実名で登場。第2章は給餌の問題。意図的な給餌も意図しない給餌も取り上げられる。給餌の問題点がよく整理されている。第3章は、外来種や増え過ぎた動物の駆除の問題。表題のテレビ番組から文春砲まで、マスコミの問題点をよく指摘している。表題のテレビ番組についてのモヤモヤを考える役に立つ。第4章は、野生動物の写真を撮ったり、飼育したりする“生き物好き”たちの問題行動。ウシモツゴを保全する池に、ブラックバスを放す奴は、いかなる意味でも生き物好きではないと思うけど。第6章は、ネットでの生き物の取引の問題。メルカリは生き物の取引を全面禁止してきちんと対応しようとしてるけど、Yahoo!、楽天、Amazonは対応すると返答しながら実質何にもしていない。と指摘している。最後の第6章は、前向きな取り組みを取り上げてるのかな。
 内容に異存のあるところはほとんどない。というか、ネタの多くはSNSで拾ってるっぽい。それもあってか、出てくるのはほぼすべて知ってるネタ。そして内容は残念な話の連続。他人には薦めるべき内容だと思うけど、自分で読んでも全然楽しくなかった。昨年外来生物な解説書を作ったけど、読んだ人はこんな気持ちになったのかな。
●「魚の自然誌 光で交信する魚、狩りと体色変化、フグ毒とゾンビ伝説」ヘレン・スケールズ著、築地書館、2020年1月、ISBN978-4-8067-1594-8、2900円+税
2021/6/23 ★★

 著者は、魚類研究者であると同時にサイエンスライターらしい。そして、何よりまず魚が大好き。魚大好きという想いとともに、魚の多様な側面、あれやこれやを一杯詰め込んだ一冊。それぞれのテーマについて、研究の歴史から始まり、最新の研究成果まで紹介してくれる。研究のエピソードや、著者自身の体験を交えつつ、しばしば脱線気味に。多くの人にとって、魚や水中の世界についての認識が、大きく変わるはず。
 プロローグで魚への愛を告白した後、第1章は魚類学のはじまりの紹介。3冊の稀覯本を軸に語られるのは、魚類学だけでなく、分類学の始まりの話でもある。リンネの前に、ほぼ同じシステムを考えたご友人がいたとは知らなかった。
 第2章は、“魚”の系統の話。真骨魚類から始まって、アミア類、ガー類、チョウサメ類、ビチャー類、総鰭類(シーラカンス類とハイギョ類)、軟骨魚類(サメ・エイ類、ギンザメ類)、無顎類(ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)が順に紹介される。いわゆる古代魚とサメ類の話が多め。
 第3章は、魚の色の話。太陽光と深海に赤い魚が多い訳、魚の色覚と紫外線反射、グッピーの色彩の進化の話。ローレンツやウォレスをはじめ、有名どころが多数登場。ビクトリア湖の固有シクリッドの絶滅の原因として、ナイルパーチによる捕食だけでなく、湖が濁ったことが指摘されているとは知らなかった。
 第4章は、魚の発光と反射の話。発光する魚が、条鰭類1510種とサメ類51種もいるとは。発光する魚の研究のはじまりがチャレンジャー号だったとは。発光する魚には、ルシフェリンを持つものと、発光バクテリアを共生するものがいて、オニアンコウ類には両方使ってるのがいるとは。夜に海に潜って、紫外線ライトを当てたら見えるという色鮮やかな世界を一度見てみたい。
 第5章は、広く運動様式の話。推進力の話があれば、一団となって動く群れの運動、渡りの仕方まで。シュモクザメが傾いて泳いでいることが多いとは。1980年代終わり、ローレンツが人生最後に興味を持っていたのは、水槽内での魚の行動だったらしい。でも、その内容は、1971年に奥野良之助が「磯魚の生態学」で書いていたレベルに及んでいない。まあ、ローレンツは奥野良之助は知らなかったろう(欧米人は誰も知らない可能性が高そう)。この章で一番気に入ったフレーズは、「ホホジロザメは自分の肝臓を食料源にして、海洋という沙漠の長旅を耐え抜くらしい」。
 第6章は、魚の食性の話。粘性の高い水中では、近距離からの捕食は、全身で動くより、口だけ伸ばす方が速い、という視点は初めて知った。海藻農園をつくるスズメダイや、ジェット噴射でスピードアップする水の玉を打ち出すテッポウウオの話も面白い。でも、一番は電気を使う魚たち。電気を発生させる魚は、異なる系統で6回進化したけど、すべて同じ遺伝子セットを使っているとは。ブダイのようなサンゴを食べる大型の魚が、サンゴ礁の維持に重要っていう認識は大切。
 第7章は、魚の毒の話。毒を持つ魚は、3000種近いらしい。全魚類の10%近い。噛まれたり刺されたら大変って魚の話から始まる。イギリスの砂浜を歩く時は、砂の中に隠れているトラキナス類に注意しなくちゃだし、アメリカの海岸ではミシマオコゼ類が要注意。でも、メインの話題は食べたら有毒のフグの話。“高いお金を払って命を危険にさらす日本人のグルメ”って。フグのつくる巣の話も登場。
 第8章は、化石でしか知ることのできない魚の話。舞台は主にデボン紀と石炭紀だし、主人公は板皮類とサメ類。交接器が見つかり、板皮類が交尾して有性生殖していたことが判ったとか。イラストがないので、ステタカントゥス類のサメの“雄の背鰭には巨大な歯ブラシのようなものがあり、同じようなブラシが目の間にもうひとつあった”というのがイメージできない…。
 第9章は、魚の声の話。魚がどれほど頻繁に声を出すかという話と、音を聞く器官の話。耳石や側線のみならず、浮き袋まで聴覚器官として機能してるとは驚いた。浮き袋は声を出す器官であり、音を聞く器官にもなるとは、なんと便利な。そんな魚の音の世界が明らかになってきたのは、ようやく第二次世界大戦後と新しい。覚えておきたい一推しネタは、ニシンは腸のガスを使ってコミュニケーションする唯一の動物。おならで話す! 夜の魚たちは、音の世界を分割してる、って話も面白かった。
 第10章は、魚の思考力。魚は体の大きさに比べても脳の大きさは小さいし、たいした知能はないと考えられてきた。しかし、驚くほどさまざまな知的能力を持っている。という最近の研究成果が次々と披露される。長期記憶を持ち、地形を覚え、数を判断し、三者間の優劣関係も理解できる。そして、痛みや不快感も感じているらしい。今まで哺乳類・鳥類中心主義に陥っていた自分を反省してしまう。そして魚の活け作りが食べにくく…。
●「わたしたちのカメムシずかん やっかいものが宝ものになった話」鈴木海花文・はたこうしろう絵、福音館書店たくさんのふしぎ2016年11月号、667円+税
2021/6/22 ★★

 岩手県葛巻町の全校児童29人の小さな小学校。毎年秋になると、カメムシがたくさん校舎に入ってきて掃除が大変。カメムシは臭いし、農作物に被害を出すし、掃除もたいへんなやっかいもの。でも、校長先生の発案で、身近に見つかるカメムシの名前調べをはじめ、見つけたカメムシの写真と名前と実物を廊下に張り出し始めると…。
 名前を調べ始めるとカメムシが気になりだし、新たな種を見つけたくなり、どんどんカメムシに興味が湧いてくる。次々と見つかる新たな種の発見エピソードと共に、子ども達が盛り上がる雰囲気が伝わってくるのがいい。
 「まえはバッタやコオロギもいやがっていたのに、このごろは家の中に虫がいると、顔を近づけてみて、これはクサギカメムシだよね、なんてうれしそうに言うようになったんです」
 虫嫌いだった子どもが、カメムシ調べをきっかけに虫に興味をもっていく。ええ話。そして自然史博物館の一つの目標でもある。合間に“カメムシってどんな虫?”と“カメムシの『なぜ』大研究”がはさまる。そこに登場するヒヨドリが割と可愛い。
●「わかめ およいで そだって どんどんふえる うみのしょくぶつ」青木優和文・畑中富美子絵、仮説社、2020年12月、ISBN978-4-7735-0305-0、1800円+税
2021/6/20 ★

 わかめの味噌汁をきっかけに、ネコをつれた女の子が、磯にわかめを探しに行く。という設定。生きてる時のワカメの姿。メカブから出た遊走糸が、海を漂って、岩の上で育ち、配偶体に。受精して育って、もとのワカメの出来上がり。人によるワカメの利用、ワカメの養殖、そして再びネコと女の子が登場して、わかめの味噌汁。
 表裏の見返しと後ろのページに付録として、文字多めの解説が並ぶ。ワカメ料理、ワカメのからだ、ワカメの観察方法、ワカメの仲間の紹介、ワカメの色の不思議、ワカメの養殖方法。それぞれの付録の下に“わかめクイズ”。裏表紙見返しに答えが付いてる。
 ネコの絵は可愛いけど微妙。ウミネコの絵はなんかバランスが不思議。
●「はっけん!ニホンヤモリ」関慎太郎写真・AZ Relief・小泉有希編著、緑書房、2020年9月、ISBN978-4-589531-570-8、1800円+税
2021/6/19 ★

 「はっけん!ニホンイシガメ」と同じシリーズ。「はっけん!ニホンイシガメ」と同じくビジュアル多めにニホンヤモリのさまざまな側面が紹介される。飼育推しなのも、Q&Aが12つと、文化・歴史の中のヤモリがあって、最後に研究者からのメッセージ(2名)、自由研究のすすめ(2つ)、ヤモリに会える動物園・水族館・博物館(4館園)、ヤモリを探求する大学・研究施設(京大動物行動と琉大熱生研)と並ぶのも同じ。
 27ページに及ぶ巻頭ビジュアルの後は、軽くヤモリの系統の話があって、ヤモリの形態、ヤモリ図鑑、ヤモリの四季と並んで、ここまではビジュアル多め。次の飼育方法からは文字多め。

 日本の全14種のヤモリ図鑑が充実してて、知らなかった見分け方がけっこう書いてある。孵化して2〜3年で成熟とか、吸盤の秘密とか、雌雄の見分け方とか、再生尾の様子とか、よく質問される点がビジュアライズに解説されていて便利そう。メスのカルシウムサックとか、自切できるが尾を再生しないヤモリもいるとか、ヤモリはトカゲとちがって動く瞼がないとか、鳴く爬虫類にはヤモリとワニと一部のカメがいるとか、長崎のヤモリたちとか、例によっていろいろ知らない事が載っていて勉強になった。
 自分が書いた報告が文献リストにあがっていて、どう利用されてるのかと思ったら。北海道でも記録があるとか、高層階でも記録されてるってところで使われてるっぽい。
 飼育の前に、購入したヤモリや、他所でとったヤモリを放していけないと、きちんと書いてあるのが好感が持てる。ニホンヤモリは外来生物かという点については、“ニホンヤモリは外来種?”と次の“人為分布” の内容が微妙に矛盾してるのが、ヤモリの難しさを感じさせる。
●「都市で進化する生物たち “ダーウィン”が街にやってくる」メノ・スヒルトハウゼン著、草思社、2020年8月、ISBN978-4-7942-2459-0、2000円+税
2021/4/23 ★★★

 都市で暮らす生き物の本はたくさんあるが、それは都市というヒトがつくりあげた環境を生き物がどう利用しているかを扱っているだけがほとんど。この本では、都市という環境での生物進化の実例が次々と紹介される。著者はオランダの進化生物学及び生態学の研究者。おもに東北大学に滞在している間に書いた一冊だという。
 第1部は、都市という環境の紹介。ヒトがつくった今や地球最大の環境。その光環境や音環境、断片化した多様性という特徴、自然愛好家という不思議な存在。都市の生物を、好蟻性生物になぞらえる。あとで好人性生物(anthropophilies)という後も出てくる。オーストラリアでヤブツカツクリが都市に進出してるとは驚いた。
 第2部は都市という環境に適応して生物が進化する話。最初は工業暗化。ダーウィンがぎりで気付き損ねてたとは! 他にも北アメリカのホシムクドリの翼が丸くなり、サンショクツバメの翼も車による選択圧で丸くなり。緑の島のタンポポのタネはあまり飛ばなくなり、都市のアノールの脚が長くなったり。断片化した環境で、シロアシネズミの遺伝的特徴が公園ごとに異なってる。のならず、ホンセイインコやボブキャットといった比較的移動能力の高い動物でもエリアごとに遺伝的に違っているのには驚いた。マミチョグはPCBに耐えるようになり、重金属対策でドバトは黒くなる。アラン(artificial light at night)で多くの動物が命を落としているが、ガもクモもそれに適応して進化しつつあるらしい。紹介された多くの例は、遺伝子頻度の変化を伴っている、という意味で進化。ただ既にあった変位の中で選択されたsoft selectionが多いが。
 第3部は、都市環境での生物同士の出会いに基づく共進化を扱うつもりだったらしい。ドバトを遅うナマズは、新しい出会いだけど、現時点では進化とはいいがたい。都市に植えられた外来樹木に寄主転換した植食性昆虫には、確かに進化したものもあるらしい。煙草の吸い殻を巣材に利用するイエスズメとメキシコマシコの話も進化の話ではないし、種間相互作用ですらない。東北大学にきていたから車でクルミを割るカラスの話もでてくるが、これも進化でも種間相互作用でもない。ヒトとの相互作用といえばそうだけど、それをいえば都市の生き物はみんなそう。進化と関係ないけど、牛乳瓶の蓋をあけるアオガラやシジュウカラの話は面白い。バルバドス島ではバルバドスウソが、テーブルの砂糖入れを開けるらしい。これは都会の鳥と田舎の鳥で違うので、進化が絡んでるかもしれない。騒音が多い都市では、鳥達は高い声で囀るって話は、メスによる配偶者選択がからんで進化の問題としても面白い。都市に進出したユキヒメドリやシジュウカラでは性的二型の度合いが小さくなるって話も面白い。そして極めつけは、都市に進出して種分化が進行しているらしいクロウタドリ。第3部は、共進化ではあまり良い例が示せなかったが、性選択がらみでは面白い例がたくさん。
 第4部は、終章。人間の営みが、世界の都市生態系を均質化する方向に働いている話。シーボルトが大量の東アジア起源の外来植物をヨーロッパに持ち込んだとは知らなかった。そして都市は進化という生物の営みの場なので、それを意識した都市設計が求められるという主張。最後は都市での進化をいかに記録に残すかという話。
 ずっと都市の生き物の話ばかりの一冊だが、一番最後のあとがきめいた部分では、“都市も手つかずの自然も等価に大事”という著者の本音が垣間見える。ヒトがつくった都市環境、そこでは急速に独自の進化が進む。著者はそれに興味があるし、そこで暮らす外来生物も含めて、許容している部分が強い。むしろ推進しそうですらある。一方で、都市以外ではおもに在来生物からなり、ゆっくりと進化する生態系が残って欲しいとも思っている。都市に進出できず、消えていく生物がいることを残念にも思う。どこか共感出来る気がする。  本文の内容は、面白い研究例が続出して、アイデアが豊富で、とても刺激的。とても面白い。唯一難点は、訳者のあとがきかも。我田引水しすぎ。
 あと、用語の不思議な日本語訳が気になる。ecological engineerが生態系工学技術生物、landscapeが景域なのかなぁ。一部の専門知識のある読者にしか判らない言葉を避けて、誰にも判らない言葉を使ってる感じ。バードカウントが鳥数えってのはギャグにしか思えない。
 生物名は、和名のある種は和名を当ててるようなのだけど微妙なのが混じる。ウソとされているけど別種のバルバドスウソ。ワカケホンセイインコは亜種名なので、ホンセイインコが適当。Aphelocoma woodhouseiiを“ウドハウスのスクラブジェイ”はないと思う。Corvus monedulaはコクマルガラスとして平気なのに。
●「海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測」磯辺篤彦著、化学同人、2020年7月、ISBN978-4-7598-1686-0、1500円+税
2021/4/20 ★★

 五島列島からはじまり瀬戸内海、日本近海、はては南極海まで。各地の海や海岸で海洋プラスチックごみを研究してきた著者による、自身の研究の経過と成果を軸にした海洋プラスチックごみ問題解説の一冊。
 海洋プラスチックごみ問題についての本は数多くでているが、その研究の現場の様子から、徐々に実態が明らかになっていく過程は、こういってはなんだけど面白い。海岸でゴミを数え、ドローンで撮影して画像から全体量を推定。海岸のゴミに標識して、ゴミの動きを評価し、また海岸でゴミがどのようにばらけていくかを考える。船で網を引っ張って、海面をただようゴミの量を推定。地道な調査の実際が判るのが、なにより落ち着く。いまだ解決への道がみえない大きな問題だけど、一つずつ実態を解明していけば、必ず問題解決はできるという、研究者らしい楽観的な雰囲気がただよっているのだけど、もしかしたらそうかもと思わせる。
 最後の第五章「私たちにできること」では、若い世代やこれからの研究者に未来をたくすエール。単にプラスチック利用を減らすことを訴えるというより、プラスチックの利便性を享受しながらも、バランスの上で問題解決をはかる。という方向性を推奨しているのが珍しい。ただ、海洋生物への深刻な影響(緊急性もありそう)の実態を抜きにして話をしている感も否めない。
 第五章以外は、査読付きの論文で公表されたデータのみに基づいて書くことにこだわったらしい。だからなのだろう。マイクロプラスチックの謎(今までのプラスチック生産量に比べると、現在推定されているマイクロプラスチックの量は少なすぎるという不思議)については、謎であると書いてあるだけで、可能性をほのめかしもしていない。潔くていいんだけど、専門ではない生物学関連については、脇が甘いと思う。たとえば、48ページに「プラスチックごみを誤飲したアホウドリの幼鳥」と題して、ミイラ化したアホウドリ類の死体の胴体の中にプラスチックごみがいっぱい入った画像が載っている。この状態の死体から、誤飲したかどうかは判らない。内臓がある状態で、胴体にこんなにプラスチックが入るのは不可能なので、このプラスチックごみはミイラになってから入ったもの(それとも入れて撮影?)。そもそも事実関係が曖昧なのに気付いてないのか? 東日本大震災のゴミが北アメリカ西海岸に流れ着き、それに付着して外来生物が運ばれた、という話もしているが、それが外来生物かどうかは判断の分かれるところ。データに基づいて話をするのを徹底するなら、自然物に付着しては運ばれないことを立証する必要があるだろう、と思った。
 海洋プラスチックごみは、誤飲した動物が死んだり繁殖に影響がでたりするだけでなく、海洋生態系自体を変容させてしまっていることが伺える。できれば、生物への影響を中心にした研究の話を読みたくなった。それにしても日本近海がホットスポットだったとはショックかも。
●「はっけん!ニホンイシガメ」関慎太郎写真・AZ Relief・野田秀樹編著、緑書房、2020年9月、ISBN978-4-589531-571-5、1800円+税
2021/4/16 ★

 ビジュアル強めにニホンイシガメを紹介した一冊らしい。
 前半は、巻頭ビジュアルを過ぎても、それとどう違うのか判らない感じで写真が続く。イシガメの画像に短いコメントが付いていることが多い。世界のイシガメ属のカメ紹介のコーナーがあるが、全9種の内、チキュウカイイシガメとギリシアイシガメだけ載っていない。
 後半は文章が多くなる。イシガメの飼い方の後、短いQ&A18個をはさんで、イシガメが減っている理由の説明と、文化・歴史に登場するカメの話題。最後におまけっぽく、研究者からのメッセージ2つと、自由研究のすすめ2つ、イシガメに会える動物園・水族館が4つ、イシガメを研究してる大学の研究室が2つ紹介される。
 イシガメが主人公で、前半の画像ではイシガメがいっぱい登場するけど、後半は事実上、日本の淡水ガメの話。そのわりには、スッポンが華麗にスルーされてるけど。

 飼育方法の説明の前には、外来生物問題への配慮や、動物愛護法的注意喚起があることは好感が持てる。でも、飼育を薦めるんだな。イシガメがどうして減っているかの解説は、よくまとまっている。その中で、ペット業者の捕獲をあげているのに、やっぱり飼育は薦めるんだな。
 ミツユビハコガメは、体内にキノコ毒を蓄積しているので食べたら毒とか、カメは種子散布者として重要とか書いてあって、Q&Aが意外と面白い。泥亀汁や泥亀煮には、カメの肉ではなくナスが入っているとはショック。
●「つっぴーちゅるる」澤口たまみ文・サイトウマサミツ絵、福音館書店ちいさなかがくのとも2020年12月号、400円+税
2021/4/16 ★

 エナガとシジュウカラをコアとしたカラ類の混群に出会う話。あとはヤマガラとコゲラ、そしてこっそりキクイタダキが登場する。文を書いてる方は、岩手県の人らしいので、これは岩手県のカラ類の混群のイメージだろうか。だからメジロは入ってないんだな。でも、ヤマガラはいるのかぁ、ヒガラやコガラがいないのは平地だからだろうか?と妙な深読みをしてしまう。
 鳥の鳴き声以外には、観察者が気付いたことが簡単に書いてあるだけ。絵はふんわり可愛い。声や姿の表現は、よく判ってらっしゃる、って感じ。
●「植物はなぜ毒があるのか 草・木・花のしたたかな生存戦略」田中修・丹治邦和著、幻冬舎新書、2020年3月、ISBN978-4-344-98585-8、800+税
2021/4/7 ☆

 タイトルになる疑問の答えは、イントロに書いてある。動物に食べられないため、病原菌を撃退するため。それ以外に何があるのか楽しみにしてたのに、なんにもない。それどころか、“したたかな生存戦略”も出てこない。説明されているのは、ひたすら植物の“毒”が人にどんな影響があるのかって話だけ。タイトルは完全にウソ。タイトルに期待して読んだら馬鹿をみる。
 第1章は、毒をもつ身近な植物の話。ジャガイモをはじめとして、食中毒がよく発生している植物トップ15の多くを説明していく感じ。ソラニンは熱で破壊されると信じてたけど、破壊されないとは知らなかった。
 第2章は、人間以外の動物に毒になるので、人間が利用する植物の話。ジョチュウギクとクスノキとヒノキと主に防虫剤。
 第3章は、有毒な植物から生まれた薬の話。スイセン、イヌサフラン、トリカブト、クソニンジン、ヤナギ、ニンニク。楊枝の意味や、もっとも利用されてきた薬アセチルサリチル酸。ニンニクの臭いを消すフルスルチアミン。蘊蓄はいろいろ仕入れられる。
 第4章は、薬じゃないけど、摂取すると役に立つ植物由来の物質の話。もはや毒ですらない。サケのアスタキサンチン、コーヒーや茶のポリフェノール、グレープフルーツのリモネン、トウモロコシやジャガイモからトレハロース。
 第5章は、薬の効果を消してしまうグレープフルーツや納豆やキャベツ。
 第6章は、長寿につながる食べ物の話。もう毒はどこにいったのやら。ダイズ、ニンニク、オリーブ、ウコン。
 タイトルがウソどころか、もう植物からも離れたりする。やたらと学名の意味の説明をしたり、脈絡なく蘊蓄を投入しまくる。“「※※なのか」という疑問があります” てな感じで、勝手に自分で疑問を設定して、自分で答えるという不思議な自問自答がやたら繰り返されるのが気になる。
 “腸内フローラ”という時の“フローラ”という語は、分類学の専門用語だと書いてあって驚いた。
●「電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる?」三上修著、岩波科学ライブラリー、2020年11月、ISBN978-4-00-029698-4、1300+税
2021/3/29 ★

 スズメを中心に都市に生息する鳥の研究する著者による、電柱と電線と、そこを利用する鳥の本。
 第1章は、電線と電柱の基礎知識。よく見てるはずなのに知らない世界なので、とても勉強になる。第2章は電線にとまる鳥の話。第3章は、電線にとまった鳥がどうして感電しないかを説明してくれる。第4章は、電柱で営巣する鳥の話。最後の第5章は、電柱で営巣する鳥とたたかう電力会社の話。停電を避けるための工夫など。
 電線と電柱というのは、地球の歴史どころか、人類の歴史でも日は浅く、恐らく近い将来に消えていく。その一瞬に上手に利用している鳥たち。不思議なノスタルジーを誘うイントロは素晴らしい。でも内容は、電線・電柱と、電力会社についてはいろいろ勉強になったけど、鳥類の方については既に論文や学会発表で見てる内容ばかりで(というか、むしろもっと調べてるのに、すべては出してきてない)、さほどインパクトがなかった。思わず電線・電柱を見上げて、とまってる鳥をチェックしてしまうようになったから、著者の思惑は成功しているような気もするけど。
●「標本バカ」川田伸一郎著、ブックマン社、2020年10月、ISBN978-4-89308-934-2、2600+税
2021/2/24 ★

 国立科学博物館で哺乳類の標本を作りまくっているモグラ研究者が、標本にからむエピソードを書いた77篇。「ソトコト」という月刊誌に連載したコラムをまとめた一冊。標本づくりの現場で起きたこと、標本からわかること、標本におもうこと、過去の偉大な標本コレクター、子どもたちに教え込む標本づくり、モグラ愛。自慢も失敗も、なんでも出てくる。変人の変な行動を楽しみたい人にはオススメ。
 しかし、残念ながら、こちとら的には、さほど目新しい内容ではない。この業界のあるあるな内容がほとんどで、サラッと読めて、驚く部分があまりない。いずこも同じだなぁ、っていう部分と、科博は違うなぁ、って部分が混在するけど。印象に残ったのは、データのないタイマイを引き取る話とか、科博にはズーロジカルレコードが揃ってるって話とか。肋骨の本数の覚え方は勉強になった。ナマケグマの切歯やヤマビーバーの臼歯の形の話はいつか蘊蓄に使おう。今度モグラを処理する機会があったら手足の先のホネをよく見よう。といった内容は面白かったけど、形態学などの知見はそれほど載ってない。

 読み始めて、なかなか楽しめなくてどうしてかな?とずっと思っていた。最後まで読んで、ようやくどうしてか判った。端的にいえば羨ましいんだな。科博の研究員は、研究と標本作り・整理にかなり専念できる(他の自然史系博物館の学芸員と比べて)。博物館スタッフと言いつつ、学芸員ではない、雑芸員ではない。その上、時間に余裕があるのみならず、スペースも予算も、他の大部分の博物館よりはるかに持ってる。そらいっぱい標本作って登録できるよなぁ。どうしてもそう思ってしまう。暇もスペースも金もない博物館の学芸員としては、読んでてモヤモヤする。
 一般の人が、この本を読んで、博物館の学芸員がこういうもんだと思ったら、大間違い。週末の行事、来館者対応、博物館のメンテナンス、博物館のすべてに関わる学芸員は、標本ばかり作ってる暇はない。ってことは確認しておく必要がありそう。
●「なんでそうなの札幌のカラス」中村眞樹子著、北海道新聞社、2017年10月、ISBN978-4-89453-878-8、1400+税
2021/2/22 ★

 札幌市を中心に、カラスを観察しまくっている著者が、カラスについての48の質問に答えていくってスタイルの一冊。カラスの基本から始まって、食性、面白い行動、子育て、人間との関わりと、内容は多岐にわたる。
 当たり前ではあるが、カラスについての情報は「カラスの教科書」や「カラスの常識」と重なる。カラスに詳しい3人の意見が一致するのは心強いとは思うものの、どれか1冊を読めばいい感じ。でも、この著者は、北海道を舞台にとにかくカラスを見まくっているので、その観察経験に基づいたあまり知らなかった情報も盛り込まれる。秋〜冬に古巣を落としてるのは、若いカラス集団とは気付かなかった。今度確認してみよう。また、北海道ならではカラスの暮らしも面白い。雪浴びとか知らなかったし、街の中でのオオセグロカモメとの緊張関係は、札幌でないと観察できない。
 ただ、文章や、文と文とのつながりにしばしば違和感を覚える。フリがないのにオチを言ってたり、突然内容が飛んだり。そんなに説明しなくてよさそうな部分を妙に丁寧に説明していたり。そういうところで引っかかってしまったのが残念。
●「ツバメのひみつ」長谷川克著、緑書房、2020年3月、ISBN978-4-89531-419-0、1800+税
2021/2/19 ★★★

 ツバメ研究者が、最新の研究成果に基づいて、ツバメのすべてを書いた本。と言うのは少し盛り過ぎだけど、繁殖、飛翔、ライフサイクルの大部分については、既知のほとんどすべてが書かれてる感じ。意外と書いてないのは、集団ねぐらとか、捕食、採食生態辺り。この方面の研究があまり盛り上がっていないから、ってこともあるんだろう。ツバメの呼び方とかつき合い方についてのコメントもあって、ツバメを研究する人から、ツバメ好きまで、みんなにオススメ。
 第1章のイントロのあと、第2章は飛翔と渡り。第3章で、つがい形成とつがい関係、第4章で抱卵から巣立ちまでの繁殖生態。ここまででもちらほら言及されていたけど、第5章はヨーロッパ、北アメリカ、日本のツバメの違いの話。第6章は科学的知見からは少し離れて、文化的な話。第7章では、リュウキュウツバメの話をまじえて、ツバメの越冬中の話。第8章はツバメの絶滅リスク、おまけで家でツバメに営巣してもらう方法や落ちたヒナ扱いなどツバメとのつき合い方。
 とにかく一番面白いのは、同じツバメなのに、ヨーロッパ、北アメリカ、日本で繁殖生態が違うこと。のみならず、それが形態に反映されていて、さらには環境の違いの影響を受けて進化してきたのではないかという壮大なビジョンが語られること。少しだけ引っかかるのは、著者の言葉の端々に見られるツバメ中華思想的な部分。そもそも同じ種でも地域によって生態が違っているだろうという考え方や、そうしたアプローチは別に2000年代に入ってからのツバメが最初とちゃうし。1980年代からあった話。ツバメでその方向の研究がとても成功したのは確かだけど。
 第2章から第4章は、けっこう最近の研究成果に基づく、さまざまな情報を盛り込んでくれているので、いわば蘊蓄的にとても勉強にもなる。ツバメの目が縦長で、ハヤブサ類やタカ類と同じく、ほとんど両眼視するエリアがないとは知らなかった。ツバメの卵が、コシアカツバメより丸いのも知らなかった。ヒナにオメガ脂肪酸をあげるために、水生昆虫を好むって話には驚く。ツバメの燕尾の進化が、性選択によるのか、旋回性能への選択か論争とか。メインの話である、ヨーロッパのツバメは、日本のツバメより、形態的には赤くないし、オスの燕尾が発達し、生態的には、オスは抱卵しないし、コロニーで繁殖して、あまり捕食圧は高くないし、なわばりや古巣に基づいて配偶者選択をしない、なんてことも大部分知らなかった。アメリカの腹の赤いツバメは、性選択の結果進化したらしいのも面白かった。でもそもそも、赤くなるのは、食物中のカロテンを活性酸素対応に使わないってことなので、ほとんどハンディキャップなシグナルとして作用するって話すら知らなかった…。
●「ぼくのマツボックリ図鑑」盛口満著、岩崎書店、2020年7月、ISBN978-4-265-04375-0、1500+税
2021/2/14 ★

 ちしきのポケットの中でも、ゲッチョの“ぼくの※※図鑑”のシリーズ第3弾。ドングリ、マメに続いて、今度はマツボックリ。
 国内外を問わず、とにかく色んな種類のマツボックリが、とにかく大量に並ぶ。アカマツやクロマツといったお馴染みのから、でっかいテーダマツやダイオウショウ、小さくて丸いカラマツ、長いストローブマツやヒマラヤゴヨウ、60cmにもなるサトウマツ、トゲトゲのサビニアマツなどなど。マツかどうかはさておき、ツガ、スギ、メタセコイア、コウヨウザンなどの球果も登場。全部で何種のマツボックリが登場するのか数えようと思ったけど、面倒になって挫折。ってくらい出てくる。
 マツボックリが丸ごといろんな角度から描かれるだけでなく、種鱗をバラバラにして並べたり、タネも描かれている。とにかく色んなマツボックリが堪能できる。大部分の絵が実物大なので、大きさも実感できる。リスによるマツボックリの食痕(いわゆるリスのエビフライ)が、各種並んでいるページが個人的オススメ。ドングリキツツキが登場するのも嬉しい。
●「がろあむし」舘野鴻著、偕成社、2020年9月、ISBN978-4-03-437080-3、2000+税
2021/2/14 ★★

 神奈川県をモデルにした架空の場所を舞台に、地面の下で暮らすガロアムシというマイナーな昆虫の一生が描かれる。
 舞台となる川沿いの崖下を、遠景からアップしていき物語は始まる。ガロアムシが卵から孵り、ヒメミミズ、コムカデ、ハサミコムシなどを食べて大きくなって成虫に。アリやムカデに襲われたりしつつも生き抜いて、交尾して産卵。しかし、クモに喰われるまでの8年間に及ぶメスのガロアムシの一生。最後は再びアップから近景、遠景と引いていく。8年間の間に、河川の周りの環境は随分かわった。  うっかりしてると見逃しそうな、短い文章だけで、物語は進んでいく。絵を見てるだけでも充分ストーリーは判る。読み聞かせにちょうどいいくらい。最後の3ページが解説になっていて、ガロアムシの解説と、その他の登場虫たちの名前が分かる。ふだん気にすることもない地面の下の豊かでドラマに満ちた世界が描かれていて、とてもいい感じ。
●「うみどりの島」寺沢孝毅文・あべ弘士絵、偕成社、2019年4月、ISBN978-4-03-437080-3、1400+税
2021/2/14 ★

 さまざな海鳥の繁殖地として知られる北海道の天売島を舞台に、春から秋の海鳥の繁殖コロニーの様子を紹介する絵本。表紙見返しには、天売島で繁殖する鳥として、ウミガラス、ケイマフリ、ウトウ、ウミスズメ、ウミウ、ヒメウ、オオセグロカモメ、ウミネコのフルメンバーが載っているが、中でおもに登場するのは、ウミガラス、ケイマフリ、ウトウのウミスズメ類3種。あとは味付けにウミネコとウミウがチラチラ顔を出す程度。他に渡りの途中に立ち寄る陸鳥(といいつつオオジシギらしき鳥も混じってるが)と、初冬に登場するオオワシ。
 春、ウミネコを筆頭に、島に鳥たちが戻ってきて、鳥山つくって、ペアつくって、営巣。餌を運んでヒナを育てて、巣立ったヒナを連れて島を離れる。3月から翌年の2月までの一年の様子が描かれる。
 カモメのコロニーを取り上げないから、ワシ類による捕食もないのだろうか。とも思ったけど、そもそも捕食などで繁殖地でヒナの死ぬ話は出ない。著者の興味が繁殖生態ではなく、採食生態だってことだろうか。
 絵は、独特で、間違ってはないけど、好き嫌いは分かれる。陸の旅鳥の中に種不明のが混じってて、気になる。
●「イカは大食らい」吉野雄輔著、福音館書店たくさんのふしぎ2020年9月号、700円+税
2021/2/14 ★★

 伊豆の海を舞台に、青い海を泳ぐ透明なイカ、暗い海を泳ぐカラフルなイカ。その美しさ、捕食シーン、繁殖の様子が、画像で次々と紹介される。
 アオリイカ、コウイカ、ハナイカがよく出てくるが、ヒメイカ、コブシメ、ダンゴイカ、ヤツデイカなど、さまざまなイカが登場。トウガタイカのおもちゃのような美しさ、サメハダホオヅキイカの不思議な形など。イカの多様性も楽しめる。
 全体的なまとまりはあまりない気がするけど、イカの美しさと面白さは伝わってくる。イカが気になる存在になるのは請け合い。でも、タイトルをどうしてこれにしたのはよく分からない。悪くはないけど。
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