自然史関係の本の紹介(2020年分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
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●「カビの取扱説明書」浜田信夫著、KADOKAWA、2020年6月、ISBN978-4-04-400548-1、1600円+税
2020/12/12 ★

 「人類とカビの歴史」「カビはすごい!」に続く、浜田のカビ本第3弾。基礎知識は共通。「人類とカビの歴史」は、食品、洗濯機、エアコン、浴室、居間、窓や壁のカビの話だった。その文庫版に近い「カビはすごい!」では、食品や家の中のカビの話は同じで、カビ毒、水虫、アレルギーといった話が加わっている。
 第3弾の本作はどうかと言えば、基礎知識は共通で、定番の洗濯機やエアコンに加え、冷蔵庫や食洗機が加わった。さらに家の中でも、スマホケースや文具、楽器のカビの話はこれが初出。もう家の中はカビだらけ。家の中のカビの由来の話(石灰岩帯)も最近のネタ。カビ毒の話や、人とカビの関係の話も章立てされて、3作の中で一番視野は広いかと。
 内容は面白いし、今回初だしのネタも多いのだけど、ちょっと飽きてきたので★は少なめ。3冊の中で一推しはといえば、これなんだけど。


●「アリ語で寝言を言いました」村上貴弘著、扶桑社新書、2020年7月、ISBN978-4-594-08546-9、900円+税
2020/12/7 ★★

 たぶん最初のタイトル案は『アリはすごい!』だったんじゃないかと思う。それがナゼこっちのタイトルに落ち着いたかは知らないけど、第1章のタイトルが「アリはすごい!」。
 第1章では、ナベブタアリ、ミツツボアリといった不思議なカーストをもったアリ、ツムギアリ、グンタイアリといった変わった暮らしをするアリ、さらにはジバクアリという衝撃のアリなど、アリの多様性を次々と紹介してくれる。つかみはOK。
 第2章では、ハキリアリ、とくに著者のライフワークでもあるムカシキノコアリの生態とその研究事始めが紹介される。 「ハキリアリ」という超オススメの本の内容をコンパクトにまとめてくれている印象。さらにNature掲載を逃した話とか、ハキリアリ掘りとかエピソードも楽しい。
 第3章、アリのコミュニケーションは匂いだけじゃない。アリはしゃべるぞ、って話。その研究は地道で辛くって、寝言を言ってしまうらしい。恐ろしい。
 第4章は、アリの繁殖、とくにオスアリの話。存在しない有翅メスを求めて飛び立つアミメアリのオスは辛すぎる。単為生殖する間はオスを生産せず、有性生殖にシフトした時だけオスを生産すればいいのに。明確な女王がおらず、いわば順位制で産卵個体が決まるフトハリアリは面白い。ちなみに交尾中に殺されるトゲオオハリアリのオスの話は、昔研究室で研究してるのがいたので、今さら驚かない。なぜかアリから離れて紹介される、Y染色体を失ったトゲネズミとか、性染色体を10本持っていて鳥の性決定遺伝子を持っているカモノハシとかが出てきて驚いた。
 第5章、「2:6:2」働きアリの法則は本当か?と題して、ハキリアリの働きアリの仕事を紹介してから、奴隷狩りをするサムライアリの話。
 最後の第6章はヒアリの話。各章の後ろについてるコラムは、パナマでのエピソードを中心に展開してこれまた面白い。
 アリの形態と社会とコミュニケーションと繁殖などに見られる驚きの側面を中心に、アリをさまざまな角度から紹介していて、アリの面白さがよく伝わる一冊。
●「新種の発見 見つけ、名づけ、系統づける動物分類学」岡西政典著、中央新書、2020年4月、ISBN978-4-12-102589-0、860円+税
2020/11/12 ★

 「深海生物テヅルモヅルの謎を追え!」の著者が、分類学について、とくに新種記載について、一般向けに紹介した本。だと思って読み始めたのだけど、
 第一章は、分類学とはなにか、を簡単に記したイントロ。第二章から様子がおかしくなる。陸と海とどっちが動物の種数が多いか?という疑問から始まり、動物の門を紹介してくれ、大雑把に各グループの体制の話。そこまではいいのだけど、あとは陸と海での動物の採集法が、雑に列挙されていく。そんなパートいるかなぁ。
 第三章「分類学の花形、新種の発見」というタイトル。いよいよ本論か。と思ったら、テヅルモヅル、海底洞窟の甲殻類、砂粒間隙のクマムシと動吻動物での新種の話が続く。そして、隠蔽種の話が登場。と思ったら東京大学三崎臨海実験所での新種発見の歴史が紹介される。自分に身近な事例をつまみ食い的に紹介してくれた感じ。
 第四章で、命名の手順の話で、動物命名規約から6つの原理が紹介されていく。そして、キイロショウジョウバエの学名をどうするか?って問題や、サザエの学名の右往左往な話。これこそ、この本に期待した内容!と思ったら、それだけで終わってしまった。物足りない。
 最終章は、分類学者の増加の話に、分類学の広がりに、市民科学の話。
 総合すると、タイトルから期待した内容と違う、というかウェイトが違うという感想。もっと第四章を充実させるべきで、第二章の後半大部分はいらないので、最初の門と体制の話だけ、第1章に付ける。第三章は、再構成。意外と身近にいっぱい新種はいるって話をするなら、海底洞窟と砂粒間隙、及び隠蔽種の話をすれば足りる。三崎臨海実験所の話自体は面白いけど、難しいところ。
●「ヒトの社会の起源は動物たちが知っている 「利多心」の進化論」E・O・ウィルソン著、NHK出版、2020年7月、ISBN978-4-06-519090-6、2200円+税
2020/10/15 ☆

 1975年に『社会生物学』、1979年に『人間の本性について』で、行動生態学の理論をヒトに当てはめて見せて、大論争を巻き起こした著者。40年以上経って、90歳になっても、全然懲りてないんだなぁ。という一冊。相変わらずというべきか、ウィルソン節が繰り広げられる。
 ヒトや生物の進化を振り返った上で、利他行動とその先にある社会性(とくに真社会性)がどのように進化したのかについて、ウィルソンの個人的見解を展開する。自分の得意なアリの話題とともに、自分のストーリーに都合のいい他の生物群の事例を交えて、すべてをヒトに当てはめるといった展開。行動生態学の理論に基づく進化の話をするんだけど、その理屈をほとんど説明しないので、予備知識がないと正確には理解できないんじゃないかと思う。
 読んでいてとても気になったのは、2点。一つは、利他行動の進化に血縁選択はまるで機能していないという主張(血縁選択は原因ではなく結果であると主張)。アリの研究者の実感なのかもしれないが、複数世代が同居すると自ずと利他行動のスイッチが入るようなイメージっぽい。その根拠はあまり示されていない。もう一つは、ヒトは真社会性であるという主張。これも根拠はあまり示されない。不妊のカーストが存在すると言ってるのか? 関連して同性愛者の話が出てくるのにも違和感。ヒトが真社会性なら、かなり多くの哺乳類や鳥類が真社会性扱いになりそうだけど、それにはまるで触れていない。と、不満に想いながら読み終わったら、巻末の解説に、この2点はあくまでも少数派の主張といったことが書いてある。さすがに注釈がいると思ったんだろうが、解説を読まない人には誤解を与えたままに終わるだろう。
 ヒトも進化してきた存在なのだから、動物に当てはまる進化の理論が、それなりに当てはまると考えるのは当然とは思う。でも、とても学習能力を発達させて、言語や文字をもった人類の進化には、多の多くの生物とは少し違った側面もある。そういうところをまるで無視して、昔からの主張を繰り返すとことが、ある意味偉いのかも。でも、前述のように誤解を招くポイントもあるし、わざわざ読む必要はない。
●「<正義>の生物学 トキやパンダを絶滅から守るべきか」山田俊弘著、講談社、2020年6月、ISBN978-4-06-519090-6、2200円+税
2020/10/14 ★★

 大学で先生が学生に出した問題<トキ・パンダ問題>。要約すると、生物の種の保存は必要か? 必要ならその理由はなにか? この答えを順に論破していって、どうして守るべきかを論じた一冊。序章では、守るべきというありがちな理由のいくつかをあっさり一蹴。その上で、保全不要論もその他の守るべき論もぶった切っていく。
 第1章では、「地史的な過去にも大量の種が絶滅しており、絶滅は自然なプロセス」という保全不要論に対して、現在は過去の大量絶滅をしのぐヒトによる大量絶滅の時代であると示す。そこでは、ヒトも自然の一部という論がチラッと出てくるがほぼ放置。
 第2章では、まずはヒトの進化の歴史を語り始める。他の動物にはない認知能力を獲得したヒトは、先史時代に世界各地のメガファウナ絶滅においやる。そして農耕をはじめ、人口が増え、技術を発達させたヒトは、さらに他の生物へのインパクトを高め、多くの生物を絶滅させていく。
 第3章では、第1章の最後に出てきた「弱肉強食は自然の摂理」とする保全不要論に対して、強さとは何か、捕食者が強いのか、反論。「生存競争は自然の摂理」という保全不要論に対して、ダーウィンが言った専門用語“生存競争”は、種内競争のことであると反論。ついでに社会ダーウィニズムの問題点を指摘。
 第4章では、返す刀で「役に立つから守る」という保全論を批判。要は、99%の生物は役には立たないと。将来的のためにという“現代世代の将来世代への義務論”にたいしては、現在倫理学の“義務論”の議論から否定。“未来人=血縁者”という理屈も、ある意味ヒトはすべて血縁者と否定。“未来の需要不明論”はふわっと否定。
 第5章<正義>の生物学が、この本の本論。キーワードは人間非中心主義。生態系中心主義、生命中心主義、種差別、知性や能力の差や苦痛を感じるかどうかは差別を正当化するか、自然権の拡大。そして、正義の生物学。「ヒトかヒト以外かを分け隔てることなく、すべての命を尊重すべきである」。
 どうして自然環境の保全や、絶滅危惧種の保全をすべきか? 少しでも真面目に考えたことがあれば、その理由付けに困った経験があるだろう。絶滅は自然のプロセスではないのか、ヒトも自然の一部ではないのか。役に立つから守るって、役に立たない生物の方が多いし。そうした保全必要論・保全不要論双方の理屈が出そろって、、とても頭が整理できる。その結果行き着く先は、そういう考え方があったか、とも思うし、そっちかぁ、とも思う。
 構成としては、序章から第1章の流れからすると、第2章の位置づけが判りにくい。反論としては、“ヒトも自然の一部論” や“未来の需要不明論”などへの反論は不充分な気がする。でも、勢いがあるからとりあえず良いかな。
●「カモノハシの博物誌 ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語」浅原正和著、技術評論社、2020年7月、ISBN978-4-297-11512-8、2280円+税
2020/10/5 ★★

 タヌキの頭骨の形態学を研究してきた著者が、博士号をとってから、昔から好きだったカモノハシ研究に手を出して、自身の経験を交えつつ、カモノハシのすべてを詰め込んだ一冊。カモノハシが大好きって気持ちが伝わってくる。
 第1章はカモノハシの形態学。歯が無く、電気感覚があり、前肢に変な水かき。カモノハシが変な動物なのがよく分かる。第2章カモノハシの生態。もちろん産卵と授乳の両方があって不思議。そしてオスのけづめの毒。第3章では、カモノハシからみる哺乳類の進化の話。母乳、胎盤、恒温性、トリボスフェニック型臼歯、耳小骨、運動様式といった哺乳類と爬虫類の違いとしてあげられる特徴が、単孔類とからめて紹介される。面白い。第4章では、化石単孔類が次々と紹介され、単孔類の進化について語れる。第5章は、著者の研究史と研究生活を紹介しつつ、カモノハシが歯を失った理由についての業績を紹介。第6章はカモノハシの発見と研究の歴史、ついでに飼育の歴史とカモノハシ外交の紹介。第7章では、最後にカモノハシの保全の話。
 とにかくカモノハシを見る目が変わった。一度生きたのを見てみたいけど、オーストラリアでしか現在は見られないカモノハシ。ヒールズビル動物園ではカモノハシに触れるアトラクションがあるらしい。行ってみたいかも。
●「温暖化で日本の海に何が起こるのか 水面下で変わりゆく海の生態系」山本智之著、講談社ブルーバックス、2020年8月、ISBN978-4-06-520676-8、11900円+税
2020/9/18 ★★

 地球温暖化自体とそれに伴う海洋酸性化によって、地球の海洋生態系は大きく変わることが懸念されている。日本の海を舞台に、すでに始まっている変化を次々と紹介していく。
 沖縄のサンゴ礁は白化し、オニヒトデに食われ、病気がひろがり、幼生の定着にも懸念が…。本州への死滅回遊魚が越冬できるようになり、分布を北に拡げるサンゴ、シオマネキ、スナガニ。大阪湾で起きているハモの増加にアナゴの減少、有毒プランクトンによって毒化する魚。スナガニの研究や、大阪湾の事例は、知り合いの研究成果だった。
 サワラやブリから季節感がなくなり産地が変わり。イカナゴは捕れなくなり。サンマは小型化し冬が旬になり。サケには回遊ルート遮断の危機が迫る。海の変化は食卓に直結する。温暖化によってフグ類の分布が北上し、交雑がショウサイフグとゴマフグの交雑個体が増えているという話題は、とても興味深い。
 第4章では、海洋酸性化をとりあげ、温暖化とのダブルパンチで予測される海の生態系の危機が描かれる。
 最後の第5章で、ここまで紹介した危機が進めば、未来の寿司屋では、マグロもホタテもアワビも食べられず。和食に必要なコンブ、ノリ、ワカメにも大きな危機が迫っていることが紹介される。
 全体的に、地球温暖化や海洋酸性化が、海洋生態系に大きな影響を与え、多くの生物に絶滅の恐れがあるという危機を描き出している点は、とても評価できる。個々の事例はどれも興味深いし、それがまとめて読めるという意義は高いと思う。でも、構成がよく判らない。第5章が、最初の方の事例と分けて示されてるのはどうしてだろう。海洋酸性化を絡めてるってこと? 前半にも寿司ネタはあったのになぁ。よく分からないので、なぜか同じような内容が繰り返されて、結局なに?って感じなる。
●「400年生きるサメ、4万年生きる植物 生物の寿命はどのように決まるのか」大島靖美著、化学同人、2020年7月、ISBN978-4-7598-1685-3、1900円+税
2020/9/18 ★

 まずは長寿の動物ランキング。脊椎動物第1位のニシオンデンザメは400年、無脊椎動物で比較的信頼のおける第1位はサンゴの一種の4000年以上。群体ではない無脊椎動物では、アイスランドガイの500年。続いて長寿の植物ランキング。群体をつくる植物ならタスマニアロマティアの4万年以上、単体ならトウヒが約1万年。桁違いの長寿に圧倒される。まずはつかみはOK。
 ところが、マウスやサルの実験的な寿命の研究を経由して(途中に植物の寿命研究がはさまれるが)、残りの大部分はヒトの寿命の研究、というか長寿のためには何が必要かという研究が紹介される。肥満、遺伝、食事(カロリー摂取量、タンパク質量)、睡眠、運動、喫煙、生活習慣病(糖尿、高血圧)。最後に長生きするためにはどうすればいいかとまとめてくれていて、この本は、“長生きしたければ、どうすればいいか”を指南してくれる本なんだな、って感じ。
 最後の方に「生物の寿命決定メカニズム」という章があって、この本の副題からすると、この章こそが一番重要。なはずなのに、16ページしかなく(全体の1割もない!) 、内容もぜんぜん物足りない。
 長寿ランキングは素直に興味深いし、他所で話すネタとして役に立つ。長寿関連の論文をレビューしてくれてるので、データに基づいた長寿の秘訣の話も面白いし、もしかしたら役に立つ。でも、タイトルに惹かれて、生態学的興味で読み始めたら、完全に裏切られる。
●「鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵」田中淳夫著、築地書館、2020年2月、ISBN978-4-8067-1565-8、1800円+税
2020/8/27 ★

 正しいタイトルは「ナラシカと日本人」。その方が、“ナウシカ”と勘違いして売れたかもしれない。ナラシカとは、奈良の、奈良市一円の、奈良公園の、春日大社が所有してる?神鹿であり、天然記念物に(種でもなく地域でもなく)指定されているニホンジカのこと。著者の造語。その歴史と現状が紹介された一冊。
 第1章はイントロ。観光資源であるナラシカの周辺情報を紹介。鹿せんべいの世界とか、オオセンチコガネとか、シカの毛を抜くカラスとか。第2章は、現在のナラシカに関わる人々を紹介。“奈良の鹿愛護会” と“シカ相談室”と“鹿サポーターズクラブ”。第3章では、神鹿の由来と第2次世界大戦頃までのナラシカの歴史。第4章は、日本全体でのシカによる獣害の増加の話。シカによる獣害は昔からあったという指摘は重要、シカは家畜に向いてるという指摘は不要に思える。第5章は、現在の獣害対策の問題点の指摘。ジビエが解決につながらないことを、現場リポートを交えて指摘。第6章は、戦後のナラシカの歴史。第7章は、日本各地のナラシカのようなシカ達を紹介した上で、持論を展開。著者は獣害対策は必要だけど、ナラシカの姿は維持したいらしい。なぜか生態系被害についてコメントは曖昧。
 ナラシカは、かつては興福寺や春日大社といった社寺勢力が、その威信を示すために神鹿として利用されてきた。その後は観光資源として利用されてきた。都合の良いときは所有権を主張して、他所に売却する癖に、シカによる被害を訴えられると、所有してないと言い張る。昔は過失であってもシカを殺したら死罪、今でも罪に問われる。そして、昔から現在にいたるまで、神鹿は周辺で農業被害を起こしまくって、近在の農家に迷惑をかけてきた。この状況をなんとかしようという試みが繰り返されるが、いずれも失敗して、現在に至る。1000年前から同じ構図の、不合理な状況が維持されてきた。どこにも知恵はない。副題はギャグなんだろう。
 奈良公園のニホンジカの適正個体数は、現在の半分以下だろう。駆除ができないなら、バースコントロールをするしかない。でも、関係者は、そんなことを議論する気はなさそう。この本を読んでの一番の感想は、関わり合いになるのはよそう。ってこと。
●「知りたいネコごころ」高木佐保著、岩波科学ライブラリー、2020年2月、ISBN978-4-00-029692-2、1200円+税
2020/8/26 ★★

 ネコの心理学研究者が、自身の大学院時代の研究成果を紹介した感じの一冊。内弁慶のネコの心理学研究は、ネコの本拠地に行っての実験の繰り返し。猫カフェの協力をお願いし、実験に参加してくれる家ネコ(の飼い主)を募集し、京阪神で足らなくて、ネコ研究者を頼って東京遠征。
 第1章で、ネコの心理学研究の世界に入った経緯と、初期の苦労話などのイントロ。第2章は、ネコがエピソード記憶を持つかを調べるために、CIAOチュールをネコにあげまくる。第3章は、ネコが推理能力を持っているかを、期待違反を利用して調べる。端的に言えば、ネコの前で箱を振りまくる。第4章では、またもや期待違反を利用しつつ、ネコが飼い主を見分けているかを調べる。声を聞かせて、顔を見せるの繰り返し。第5章は、毛色が変わって、同じ研究室の後輩の研究をおもに紹介。イエネコには懐きやすい遺伝子を持つ個体と持たない個体がいるらしい。
 ネコを相手の実験自体はとても楽しそう。でも、きちんと結論を出せるような設定をするのは、なかなかに面倒そう。こういった研究を、うちら辺の研究室では、動物行動学と呼んでた気がする。確かに内的状況を知りたがってはいるが…。
●「タコの知性 その感覚と思考」池田譲著、朝日新書、2020年4月、ISBN978-4-02-295066-6、810円+税
2020/6/26 ★

 イカやタコを飼育し、おもにその行動を研究してきた著者、いままではイカの本を書いていたが、ついに書いたタコの本。琉球大学の教員という地の利をいかして、多くの人には馴染みのないさまざまな沖縄のタコが登場する。
 第1章はタコの基本。分類、形態、色の変え方、生活史が紹介される。第2章は「タコの賢さ」。視覚や触覚による学習、そして道具使用の話。第3章「タコの感覚世界」では、視覚と触覚の話と脳の話。脊椎動物と似て非なるタコの目。偏光が見えるらしい。第4章はタコの社会性の話で、対面実験なんかが紹介される。第5章では、タコの鏡像自己認知や表情(=体色?)の話が登場。
 世界にタコは、約250種いるけど、よく調べられているのはマダコ1種程度。もっと、いろんなタコを調べると面白いよ。というのがおもなメッセージだろうか。たしかに面白そうだし、タコについてのいろんな情報が満載だけど、この本では結論にまでは至っていないことが多くて、けっこう消化不良。
 引用文献のリストはないけど、ここの引用のところで著者名と雑誌名を詳しく書いているので、頑張れば探せるかも。著者の研究室で学生がやった研究がたくさん紹介されている。面白いことに学生の出身地と趣味が付いてること。面白いと言えば、説明する際に、違った角度からの例えを混ぜたがるのだけど、その例えがしばしばとても古い。少なくとも学生さん達には理解できないだろうなぁ。
 イイダコが実験動物として期待されているとは知らなかったし、タコの中での変わり者とも知らなかった。
●「クジラのおなかからプラスチック」保坂直紀著、旬報社、2018年12月、ISBN978-4-8451-1566-2、1400円+税
2020/6/25 ★

 タイトルから判るように、海洋ブラスチック汚染の問題を、子ども向けに解説した本。扉の漁網に絡まったアカウミガメも衝撃的だけど、個人的にはビニール袋を全身にまとったシュバシコウが印象的。
 レジ袋、ストロー、ペットボトルから、車の内装、チューイングガム、ハミガキの中身にまで。現代の我々の身の回りには、プラスチックがあふれている。その多くはリサイクルされず、やがて海に到達する。レジ袋などを食べて死んだウミガメやクジラは、しばしばニュースにもなる。しかし、海の生きものの多くがマイクロプラスチックなどの形でプラスチックを取り込んでいること、海の真ん中に大量のプラスチックが浮かんでいる海域があること、深海にまでプラスチックは沈んでいること。想像以上に海洋プラスチック汚染が進んでいることは意外と知られていないのではないだろうか。
 子ども向けだけあって、プラスチックとは何か?という説明がかなり丁寧。退屈しそうになるが、プラスチックの種類の説明や、そのリサイクルの話は、意外と大人でも勉強になりそう。
 最後は、まずは自分にできることから始めようで締めくくられる。蛇口を閉めるのはもちろん大事だし、身近な話に持って行くのは当事者意識を高めるのに大切。ただ、すでに海に蓄積したプラスチックをどうするかという話題が抜けてるのが、少し気になった。
●「南米アマゾン 土を食う動物たち」山口大志著、福音館書店たくさんのふしぎ2020年1月号、700円+税
2020/6/24 ★

 アマゾン源流部、ペルーのマヌー地方の熱帯雨林で撮影された動植物がいろいろ登場。地元のマチゲンガ族の人に教えてもらった、動物たちが土を食べに来る場所“コルパ”にやってくる動物がおもに紹介される。インコ類、シャクケイ類、コクモツリス、アカマザマジカ、クビワペッカリー、ミスジヤドクガエル、サル類、フタイロオマキヤマアラシ、フタユビナマケモノ、そしてアメリカバクまで。とても賑やかなんだなぁ。と思ったら、なんと3ヶ月も撮影してたらしい。“コルパ”にくる動物を狙ってジャガーが定期的にやってくる。とサラッと書かれているけど、怖い目には遭わなかったのかなぁ。
●「進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語」千葉聡著、講談社ブルーバックス、2020年2月、ISBN978-4-06-518721-0、1000円+税
2020/6/9 ★★

 「歌うカタツムリ」に続き、貝に我田引水して進化を語る一冊。「歌うカタツムリ」では、進化理論の歴史を貝を中心に紹介するという妙技を見せてくれた。この本では、現代の進化研究の成果を紹介してくれる。ただ、さすがに現代を貝だけで埋め尽くすのは難しかったようで、ちょろちょろ貝以外の話も登場する。そして、自らが絡んだ研究成果の紹介が多め。
 第1章、舞台はいきなりガラパゴス諸島。そしてダーウィンフィンチのあの有名な研究の紹介。まあイントロってところ。
 第2章と第3章は、巻き貝の右巻きと左巻きの話。ひとりぼっちのジェレミーは悲恋に終わるのかと思ったら、思わぬどんでん返しがあって良かった。一発の突然変異で進化が起きる可能性。なんて話よりジェレミーが気になった。「北斗の拳」のサウザーがやたら出てくる。
 第4章と第5章は、日本のカワニナ類の急速な進化の話。とても勉強になって面白い。あの外形で区別のつかない(個人的感想です)琵琶湖の固有種たちが、しっかり別種とは驚いた。昔の人は偉かった。これを読んだら、勝手にカワニナをあちこちに撒くのは控えるべきって判りそうなもんだけど、違うのかな?
 第6章は、幕間なんだろうか。自身の黒歴史?が語られる。
 第7章から第9章は、海外からの客人をだしに、自身の小笠原諸島でのカタマイマイの研究紹介。島毎に反復する適応放散はとても面白い。
 第10章と第11章は、自分のとこの学生がおこなったホソウミニナの研究の紹介。進化というよりは、寄生虫による、宿主操作の話。この辺りから、学生の話が多くなる。
 第12章は、マイマイの右巻きと左巻きの話。今度は日本を舞台に自身の研究。ヒラノ大先生が登場する。どこに行っても、普及というか、伝導に努めているようで素晴らしい。是非、学芸員になって欲しい。
 第13章は、終章。再びガラパゴス諸島が舞台。トウガタマイマイの研究が簡単に紹介される。ここに出てくるタカも、エピソードがまったく一緒だし、大阪出身だし、ヒラノ大先生やんね?
●「世界史を大きく動かした植物」稲垣栄洋著、PHP研究所、2018年7月、ISBN978-4-569-84085-7、1400円+税
2020/6/4 ★

 はじめには、とてもいい感じ。曰く「私たちが知ってる歴史の裏側で、植物が暗躍していたとしたら…」「人類の歴史の影には、常に植物の存在があったのだ」。そして取り上げられる植物が、コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラ。コムギやイネが人類の歴史を大きく変えたのは異論は出なさそう。コショウ、ジャガイモ、ワタ、チャは、航路開拓、飢饉と移民、産業革命、戦争といった形で大きく歴史に関与してそう。でも、他は単に食生活とかを変えただけなんじゃないか? という具合に、大上段なはじめの言葉を、忘れてるんじゃないかという章も散見される。ダイズとサクラは、動かしたとしても日本史に思えるし。
 内容は、後ろの参考文献にある個々の作物についての本の繰り返しが多い。詳しくはそちらをご覧ください。ただ、一堂に比べて眺めるのはちょっと楽しい。
●「海底の支配者 底生生物 世界は「巣穴」で満ちている」清家弘治著、中公新書ラクレ、2020年2月、ISBN978-4-12-150676-4、820円+税
2020/6/3 ★

 水の底で暮らす動物 底生生物。その底生生物を、巣穴からアプローチ。というのが専門の研究者が、巣穴の中での暮らしの一端を紹介する一冊。
 第1章、海の底は巣穴だらけで、謎一杯。第2章、アナジャコ、シャコ、スナモグリといった甲殻類の巣穴と、そこに居候するマスオガイ類やヨーヨーシジミ。第3章、砂浜でみられるスナガニ類の巣穴、サーフィンする二枚貝、砂浜の沖合にいるキンセンガニにオフェリアゴカイ類。第4章、糞を上にする派と下にする派、最強の底生生物オカメブンブク、居候と暮らすヤハズアナエビ、ガードマンを雇うテッポウエビ、幻のサナダユムシ。第5章は深海巣穴型どり大作戦で、第6章は東日本大震災が岩手県の底生生物に与えた影響。最後の第7章で、生痕化石の話を少々。
 海の底の巣穴の研究、そこでの底生生物の暮らしは面白そうだな。とは伝わると思う。でも、バラバラと次々とトピックが紹介されている感じが強く、体系だった何かを知った感じがしない。現象面だけに終始してるからかなぁ。深海巣穴型どり大作戦の成果とか、もっと知りたい。
●「クマムシ調査隊、南極を行く!」鈴木忠著、岩波ジュニア新書、2019年6月、ISBN978-4-00-500899-5、960円+税
2020/6/1 ★

 クマムシ研究者が、南極にクマムシ調査に行く話。共同研究者が他に2人いて、一緒に採集するから、調査隊ってことらしい。
 第1章はイントロで、南極探検の歴史や南極に行くことになったきっかけの話。第2章は、荒れ狂う海や氷の海を越えて、南極に行く話。第3章以降で、ようやく南極の話。南極に着いたからといって、呑気にクマムシ採集していたら良い訳ではなく、チームとしての観測データを取ったり、作業したり、の合間になんとかサンプルを採集する。他にすることがないのだろう。食事の話がやたらと出てくる。
 南極がどんなところか、南極に行く調査隊がどんなことをしてるのか、といった知らなかったことがいろいろ知れる。たとえば、我々が思う南極の調査隊イメージは、越冬隊の話で、夏の調査隊には南極料理人はいないってこととか。基地が意外なくらいボロいこととか。なお、この本ではクマムシを採集しただけなので、そこから何が判ったかとかは出てこない(クマムシの知識はほぼ得られない)。タイトル通り、極限環境への紀行文。
 日本にいる家族(とくに娘)とのメールでのやり取りが、しばしば挟み込まれる。子ども向けに優しく解説する趣向なんだろうけど、ちょっと違和感しかなかった。一番印象的だったのは、保存食とはいえ、毎日良い物喰ってるなぁ、ってこと。
●「日本カエル探検記 減っているってほんと!?」関慎太郎著、少年写真新聞社、2019年5月、ISBN978-4-87981-671-9、1600円+税
2020/2/20 ★

 日本のカエル全48種を写真で紹介。表紙見返しに48種の正面姿、裏表紙見返しに48種の斜め横の姿があって、これだけでも見応えがある。中身は、早春に産卵するアカガエル類、ヒキガエルのカエル合戦、外来のカエル、泡巣をつくるカエル、アマガエル、ジャンパー、田んぼのカエル、子育てをする、姿が美しい、鳴き声が美しい、変わった鳴き声、不思議な形。といった具合に、ややもすれば強引に、テーマごとに分けて、全48種が紹介される。
 個人的には、巣を掘るヤエヤマハラブチガエルとか、オットンガエルの前肢の爪とか、南西諸島のアオガエルも木に泡巣をつけるんだとか。知らない情報が得られた。
 個々のカエルの情報は偏っているが、写真が綺麗だし、カエル好きにはオススメ。
●「はさみむし」石森愛彦著、福音館書店かがくのとも2019年11月号、400円+税
2020/2/20 ★

 ヒゲジロハサミムシが、ワラジムシを食べて、交尾して、産卵して、子ども育てる。というストーリーが、丁寧な絵でつづられていく。ハサミムシが卵のガードをするだけでなく、卵の世話を焼いて、子どもに給餌まで行うとは知らなかった。
 よく分からなかったのは、我々は庭先や公園で一番普通に見かけるハサミムシが、ヒゲジロハサミムシなのかなぁ?とか。裏表紙にハサミムシ類7種が載ってるけど、これが日本(あるいは本州)のハサミムシ類全部なのかなぁ?とか。淡々とストーリーだけがつづられていて、周辺情報が足らないのが、微妙に不満。
●「ネコもよう図鑑 色や柄がちがうのはニャンで?」浅羽宏著、化学同人、2019年8月、ISBN978-4-7598-2015-7、1400円+税
2020/2/20 ★★

 ネコの模様の遺伝を分かりやすく説明してくれる。理屈を説明して終わりではなく、ネコの画像を見せて、そのネコが持ってる遺伝子を繰り返し説明。ネコの基本的な毛色・模様12タイプ(キジ、白、黒、茶、黒ブチ、白ブチ、キジブチ、黒二毛、キジ二毛、黒三毛、キジ三毛)。長毛とか、白が多いタイプとか、薄くなるパターンとか、基本からのバリエーションとして説明してくれて分かりやすい。現在入手可能なネコの毛色の本では、一番分かりやすいと思う。
 個人的には、アグーチ遺伝子とタビー遺伝子とオレンジ遺伝子の挙動が、まだ少し分からない。ooで黒毛がなくって、タビー遺伝子がTとtの毛色は区別できるの? 出来そうなことをチラッと書いてあったような。でも縞模様の全然ない茶色は見た事ないんだけど。あとアグーチ遺伝子Aを持っているけど、タビー遺伝子がttの場合は、縞模様のないまだらになるのかな? そんな個体も見た事ないような。
●「日本の家ねずみ問題 これだけは知っておきたい」矢部辰男著、地人書館、2008年1月、ISBN978-4-8052-0797-0、1800円+税
2020/2/19 ☆

 著者は、長年ネズミに関わってきているが、駆除業者に助言するような立場だろうか。長い現場経験に基づく知識量はすごそうだけど、現象の解釈があまり科学的でなくて、推測に推測を重ねている部分が多い。現象の原因を調べたデータがほとんど示されないのが不思議。捕獲数が単位努力量当たりになってなくて、評価できないデータを示してくれる。研究者とは思えない
 序章で、家ねずみと野ねずみは、単に屋内で暮らす、野外で暮らすという以上の違いがある。と主張するけど、少なくとも書いてある内容からは何が違うか分からない。第1章は、神奈川県城ヶ島のネズミが消えた話。なぜ消えたかについて調査してないのかな? 推測してるだけ。第2章は、戦後の都市のネズミ相の変遷を、3つの段階に分けて紹介。日本中の都市で言える事と言えない事を分けた方がいいような。第3章は外来生物問題。ネズミ退治のために島に放されたイタチの問題や、島に侵入した外来ネズミの話など。イタチ導入を否定的に書いてあるのが少し意外だった。第4章は、野ネズミに保持されていたペストが、クマネズミを介して人にもたらされるリスクの話。どうやって種の違うネズミ同士で、ペストが受け渡されるのか、よく分からなかった。第5章は、都市のネズミ退治の話。住みにくい環境を作って、分断して、殺す。今でも殺鼠剤を使うとは知らなかった。“不安定な集団”という言葉で何を指しているのか分からず…。
 この著者は、10年ごとに1冊本を書いているようで、1988年に「昔のねずみと今のねずみ」、1998年に「ネズミに襲われる都市」が出版されている。この最新の本には新しい情報が載っているんだろうけど、ネタの多くは古い話だし、まとまり具合から言って「ネズミに襲われる都市」を読んだ方がいいと思う。
●「正解は一つじゃない 子育てする動物たち」齋藤慈子・平石界・久世濃子編、東京大学出版会、2019年10月、ISBN978-4-13-063373-4、2600円+税
2020/2/18 ★★

 動物の子育てから、人間の子育てを考える本。と聞くと怪しい本としか思えないけど、意外な事にまともな内容。むしろ、動物のさまざまな子育てを知る事で、近頃蔓延している(らしい。知らんかったけど)“〜すべき”という巷の子育て論をやっつけるために企画された一冊。
 イントロを兼ねた第1部の第1章 「進化の中で子育てを考える」は、とてもよく書けてると思う。とくに動物の子育てを、人間の価値観で測るべきではない。さらに自然な事が“善い”こととは限らない。と、きちんと書いてあるのがいい感じ。第1部は、この後も「ヒトという動物の子育て」「「母親」をめぐる大きな誤解」とヒトの研究者による読み応えのある章が続く。
 第2部からは、18人の研究者によって、18種類の動物の子育てが紹介される。どの章も、まず対象の動物の紹介があって、どんな子育てをするかが紹介され、人間の子育てにつながる部分がピックアップされる。さらに、著者の研究略歴と、自身の子育てエピソードがつづられる。人間やサルの研究をしていると、子どもをまるで研究対象のように観察してしまうのは、研究者あるあるのようで面白い。理屈で分かっていても、我が子にはうまく対応できないというのも、ごく普通にあるらしい。
 全体的に言えば、ヒトの研究者はもちろん、サル(イルカも?)の研究者は多かれ少なかれヒトを意識して研究しているようで、この企画にぴったりフィットしている。他の哺乳類研究者も割とこの企画のオーダーにそったものが書けている。でも、アリやトゲウオは違いすぎるし、ジュウイチも違うよね。ペンギンは健闘してるかもだけど、ハトは勘違いしてる。
 さまざまな動物の子育てを一覧できる。また、ふだんあまり研究に接する事のない研究者のテーマに触れられるという意味で、子育てにまったく関与していなくても、楽しめる一冊。
●「昆虫は美味い!」内山昭一著、新潮新書、2019年1月、ISBN978-4-10-610798-6、760円+税
2020/2/15 ★

 第1部では、昆虫を味わう、と称して、ひたすら昆虫の味の話が書かれた短いエッセイが26並ぶ。それなりに面白いけど、昆虫食という文化ではなく、著者の主観が並んでいるだけ。まあタイトル通りの内容なんだろう。
 第2部は、昆虫食文化、昆虫食の明日などについて、たいした根拠を示さず、著者の思い込みあふれた文章が続く。昔ながらの西洋人と日本人の比較とか、今だにこんなことを書く人がいることに驚いた。世界の昆虫食を短い言葉で一通り紹介しているのは、便利なような、これが全てなの?という疑問が湧くんだけど…。
 一番最後に、昆虫食をテーマにした自由研究をした子どもが5人紹介されている。その1人が知り合いで驚いた。彼は、何にでも興味があるけど、昆虫食よりは、鉱物が好きだと思うなぁ。
●「クモのイト」中田兼介著、ミシマ社、2019年9月、ISBN978-4-909394-26-2、1800円+税
2020/2/1 ★★

 動物行動学者を自称するクモ研究者の著者が、クモについてのトピックを次から次へと紹介しまくる一冊。
 第1章は、クモとヒトとの関わりがテーマ。網を作ったり、服を作ったり、宇宙に行かせたり。クモの糸で作った網で魚を採るなんて楽しそう。一度やってみたい。行事をしてもいいかも。ただ、すごいたくさんのクモのリソースを奪うのが心配かも。
 第2章はクモの生態をいろいろ紹介。毒、進化、食性、分散、寿命など。第3章は、クモの網の話。糸の種類、網の張り方、情報伝達、捕食の仕方など。第4章は、繁殖行動の話。精子の受け渡し、共食い、求愛。第3章と第4章は、著者の研究テーマに近い感じ。
 第5章から第7章は、少し毛色が変わって、クモ的思考と称して、より突っ込んだ内容になってくる。第5章は、クモの個性の話。その最後には、分業の話が出てくる。個性個性と言いまくる先輩どものいる研究室で、アリの分業の研究をしていた著者の過去が、そのまんまにじみ出ていて、三つ子の魂って恐ろしいと思った。
 第6章はコミュニケーション、第7章は行動の可塑性の話。個人的には、第7章が一番面白かった。第8章は、もしもクモがいなかったら、と題して、ウダウダと趣味的な話を。
 全体的に文章がこなれていて、読みやすい。ちょくちょくはさまれる大学エピソードも面白い。そして、内容も分かりやすくて面白い。これは売れそう。

※2020年2月に入った直後、この本の124ページ11〜15行目で「集団で暮らすクモでは仲間との付き合いが長くなると個性が際立っていく」と紹介した。が、その根拠となった論文
Laskowski & Pruitt(2014)Evidence of social niche construction: persistent and repeated social interactions generate stronger personalities in a social spider. Proc.Royal Soc.B 281:20133166.
にデータねつ造疑惑が生じて、論文が撤回された。記述は根拠を失った。著者と出版社からすぐに、その旨の情報が流された。普及というのは、リスクを伴うことを、改めて認識。
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