自然史関係の本の紹介(2019年分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
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●「菌は語る ミクロの開拓者たちの生きざまと知性」星野保著、春秋社、2019年8月、ISBN978-4-39342135-2、1800円+税
2019/12/20 ★

 『菌世界紀行』の著者が今度は、真面目(?)にガマノホタケや雪腐病菌を紹介した一冊。「はじめに」に曰く、「(『菌世界紀行』では)学術論文に記すことの難しい研究者の主観を熱く記述した結果…さまざまな苦言を頂く羽目になった。特にガマノホタケ・雪腐病菌を巡る学術的な記述か少ないとの、もっともな意見はひどく堪えた」らしい。確かにこの本では、酒を飲んだくれているような話はあまり出てこない。つまらない。
 第1章では、ドメインという最上位の生物の分類単位の話から始まって、菌と呼ばれるグループの多様さが紹介されて、寒さと生きる菌類の話が始まる。界どころかドメインまでまたがる菌の多様性が、面白いけど面倒。第2章は、いろんな雪腐病菌が紹介されるけど、同じようでややこしい。名前も馴染みがないし。個々の種は頭に入らない〜。競争者の少ない寒い環境、それでいて寒すぎず安定した雪の下ってのが、狙い目だった。ということは判った。第3章では、北極や南極の雪腐病菌の話なんだけど、第2章でも同じような話してなかったっけ?という感想しかない。第4章では、雪の下でどのような生活をしてるかをもう少し詳しく紹介してくれてるようだけど、これまた第2章でも同じような話してなかったっけ?という感想。第5章では、雪腐病菌の研究史と、古い文書に現れる雪腐病菌の記述の話。意外と書き記されて残ってるのが面白い。第6章は寿命、第7章は知性or記憶力の話(もちろん雪腐病菌の)。付録が2つ付いていて、菌リンガルで黒雪さんにインタビュー。ノーコメント。
 あまり馴染みのない雪腐病菌をいろいろと紹介してくれてるのだけど、あまり頭に入らなかった。著者の雪腐病菌愛は判るけど、共感しにくいというか、それでいて変人を眺める楽しみという意味でも入りにくかったというか(それなら酒をのんだくれて列車の通路で寝て欲しい)。全体の文章は、少しだけおふざけを控えた川上和人といったトーン。この世代はこういう文章を書きたがるものらしい(身に覚えもある)。ちなみに随所にマンガへの言及がある。この本を読む人は、「ゴールデンカムイ」は読んでるかもだし、「天才柳沢教授の生活」はドラマ化もされたし、「鋼の錬金術師」などは有名だけど、「ワンパンマン」は通じるのかな?
●「きのこの教科書 観察と種同定の入門」佐久間大輔著、山と渓谷社、2019年10月、ISBN978-4-635-58041-0、2200円+税
2019/12/17 ★★

 副題にある通り、きのこ観察のための入門書。キノコの分類や生態についても書いてあるけど、むしろ図鑑の使い方、図鑑を使いこなすための観察のポイント(野外で、室内で、顕微鏡で)、それに絡んで顕微鏡や試薬の使い方や、カメラでの撮影の仕方。記録の残し方、記録のための絵の描き方。さらには論文の探し方から、博物館の活用術まで。とても盛りだくさん。と、ここまで書いて、この本はけっこうオススメかもと思い始めた。
 確かに、今度キノコを見つけたら、真面目に観察したり、記録してもいいかもと思ったし、今度キノコを縦に裂いてみようかとも思う。シスチジアとか胞子の観察の仕方とかは初めて知ったし、顕微鏡でながめてみたいかもとも思った。キノコにそれなりに興味があるけど、一歩踏み込めてない人の背中を押す効果はありそう。
 第1章は、イントロ。キッチンマイコロジーと称して、スーパーで売っているキノコの観察をオススメ。第2章は、野外でのキノコの観察・記録・採集の話。第3章は、持ち帰ったキノコをじっくり観察するポイントを紹介。第4章は図鑑の使い方、第5章は顕微鏡を使っての観察。第6章は標本を残すことの意義と作り方。第7章は上級編で、論文調べて、博物館を利用してって話。第8章は、エピローグ。植物好きや虫好きもキノコに興味を持とう!と言ってるのかな。章の終わりの辺りに、きのこ人物伝として、日本のきのこ研究を牽引した7人の研究者が紹介される。
 ダンジョンとか、冒険の書とか、きのこの世界への旅を、ってゆうかきのこの沼にはまることを、RPGになぞらえるフレーズがところどころに出てくるけど、ちょっと中途半端。どうせなら表紙デザインから、ドラクエ風にすれば面白かったのに。と、他人事だから思ったりする。

●「ネコ・可愛い殺し屋」ピーター・P・マラ&クリス・サンテラ著、築地書館、2019年4月、ISBN978-4-8067-1580-1、2400円+税
2019/12/17 ★★★

 副題は「生態系への影響を科学する」。ネコの在来生態系への影響の話から始まって、アメリカ合衆国のネコが、年間どのくらいの鳥を中心とする小動物を捕っているか、野外のネコを擁護する強硬な人々との対立。日本とは少し違う実態も見えてくる。
 第1章は「イエネコによる絶滅の記録」。ニュージーランドのスチーフンイワサザイの話が中心。いきなりとても残念な気持ちになる。第2章もイントロの続き、イエネコの家畜化の歴史と、北米大陸に拡がる野放しネコの紹介。第3章は「愛鳥家と愛猫家の闘い」。ネコの影響が一番現れるのが鳥だとは気付かなかった。そして鳥かネコかという議論になってしまうとは。
  第5章が本論の一つ。そもそも野放しネコが大量の鳥を殺しているという指摘が、1916年にはすでになされていたとは驚き。その時からずーっと解決していないのも驚くけど。アメリカ合衆国でどのくらいの野生動物が、ネコに捕られているかが推定される。鳥が年間1.3億〜40億羽、哺乳類が年間6.3億〜223億頭、爬虫類が2.58億〜8.22億頭、両生類が9500万〜2.99億頭。これが生態系にどの程度の影響を与えているかの評価はこれからの課題だけど。第6章は、野放しネコが媒介する人獣共通感染症の話題。日本でもトキソプラズマは注意した方がいいし、他の在来生物へ感染が拡がるという問題もあるらしい。第7章は、TNR(Trap-Neuter-Return)の問題点の指摘。第8章と第9章は、アメリカ合衆国でのネコ問題への取り組みについての提言。
 北米では、日本よりも自然環境にネコが入り込んでる気がする。アメリカにはペストや狂犬病があって、野放しネコがそれを媒介することもあるとは知らなかった。日本よりリスクが高い。TNRには、野放しネコを減らす効果はないという指摘を不思議に思っていたら、アメリカのTNRって、そのエリアにいるのの5%程度しか処置してないらしい。ネコが在来生態系にもたらす影響が深刻なのは、日本もアメリカも一緒だけど、いろいろな部分で現状は違うっぽい。


●「海洋ブラスチック汚染」中嶋亮太著、岩波科学ライブラリー、、2019年8月、ISBN978-4-00-029688-5、1400円+税
2019/12/16 ★★★

 近頃話題の海洋プラスチックの問題。いろんな話は聞かされるけど、全体像がよく判らない。ってニーズに応えてくれる一冊。
 第1章のイントロに続いて、第2章では、増加し続けるプラスチック生産量と、リサイクルの現実が紹介される。アメリカに次いで、一人当たりのプラスチック消費量世界第2位の日本。リサイクル率が高いと言いはってる日本だが、数字は水増しで、中国や東南アジアにプラスチックゴミを押しつけてるだけって事実…。第3章では、膨大な量のプラスチックが、海に供給されてるという現実が明らかに。漁具が捨てまくられているとは知らなかった。第4章は、気をつけていても、海にプラスチックを供給してしまう現在の私たちの生活が指摘される。第5章では海に供給されたプラスチックの行き先、第6章ではプラスチックの行き先の謎が述べられる。第7章では、プラスチックの何が害になるのかが整理される。海産物を食べるのが怖くなる。最後の第8章では私たちができることが指摘される。海岸や海に浮かぶプラスチックゴミを取り除くのは、多少の効果しかない。結局は、使用するプラスチックを減らすのが一番大切という指摘は胸に止めておきたい。とりあえず、マイボトルを持つことにしようかな。
 それにしても生分解性プラスチックが、海では分解されないという皮肉は笑えない。そして、プラスチックの使用量を減らして、バイオマス利用を増やすとなると、今度は森林破壊が心配になる。そうしたらいいのか頭が痛すぎ。
 ちなみに海に浮いたプラスチックに乗って、海外からもたらされる生物を、外来生物問題として紹介されてる。定義次第ではあるけど、プラスチックの存在で頻度が高まってるかもだけど、確かに人間活動が生物の移動に影響を与えているとは言えるけど。これを安易に外来生物と呼べないと思う。
●「よるのいけ」松岡達英著、福音館書店かがくのとも2019年9月号、407円+税
2019/12/14 ★

 大人と子どもが、水網とバケツをもって、夜の池に出かけます。カエルや鳴く虫の声が聞こえます。懐中電灯で照らすと、水の中にはさまざまな水生昆虫や両生類や貝や魚の姿。水網ですくうといろんな生き物がいっぱい捕れる。ギンヤンマの羽化を見てお終い。
夜の池は楽しいけど、大人と一緒に行ってねってことだろう。正面顔のツチガエルが可愛くないのが不満。コノハズクは、ホッホーとは鳴かない。
●「9つの森とシファカたち マダガスカルのサルに会いにいく」島泰三文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2019年10月号、713円+税
2019/12/14 ★

 マダガスカルには、9種のシファカが異所的に分布している。東の高地にダイアデムシファカ、南の乾燥地帯にベローシファカ、北東の熱帯雨林にシルキーシファカ、西の針山にデッケンシファカといった具合。9種のシファカと住処の森を紹介すると同時に、そこで見られる他の生き物(といっても、キツネザルばかりだけど)が紹介される。出てくるキツネザル類は、絶滅した大型種3種を含めて、40種。すべてに絵がついていて、大きさや食性、社会などの解説付き。ちょっとしたキツネザル図鑑としても楽しめる。ただし、鳥の扱いは悪くて、名前が出てくるのは5種だけ。周辺に描かれたイラストには他にもチラチラと鳥が出てくるけど…。
●「南の島のよくカニ食う旧石器人」藤田祐樹著、岩波科学ライブラリー、2019年8月、ISBN978-4-00-029687-8、1300円+税
2019/10/27 ★

 沖縄県立博物館に勤務していた著者が、沖縄の旧石器人を求めて、2007年から9年ほどかけた発掘調査の経過と成果が紹介される。同時に日本の旧石器人についての情報も紹介されるので、縄文時代より前の日本での人々の暮らしの一端を知るのにピッタリ。
 試行錯誤しながら、次々と発見していくプロセスはわくわく読める。その成果は、タイトル通り、シカやイノシシではなく、むしろカニやカワニナ、そして魚を主に食べて暮らす沖縄の旧石器人という言葉に集約される。石器や貝器の話や、当時琉球列島にいたシカ類(リュウキュウジカ、リュウキュウムカシキョン、ミヤコノロジカ)の話も興味深い。ただ、秋頃にモクズガニを食ってたのは分かったけど、他の季節の暮らしぶりが分からないのは、少し歯がゆい。まあ、当然著者もそう考えてるけど。

●「生命の歴史は繰り返すのか? 進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む」ジョナサン・B・ロソス著、化学同人、2019年6月、ISBN978-4-7598-2007-2、2800円+税
2019/10/25 ★★★

 邦題は内容をとても正確に表している。『ワンダフル・ライフ』でグールドは、生命のテープをリプレイしても同じ歴史は繰り返さないと述べた。一方、ヴァーチェスモンスターの研究で有名になったコンウェイ・モリスといった一派は、何度やり直しても進化の道筋は必然で、恐竜が滅びなくても、遅かれ早かれ“人類”は生まれたと主張する。かつては宗教的とも言える議論に過ぎなかったが、近年の実験進化生物学では具体的に検証するようになってきている。進化の偶然と必然についての議論を、実験進化生物学の成果から検証する一冊。ってゆうか、極端な主張をしてるコンウェイ・モリスは阿呆じゃ、とやんわり言ってる。
 第1章は、生命の世界では、驚くほどさまざまなところに収斂進化が見出されるという実例が次から次へと紹介される。とくにDNAの塩基配列についての情報に基づく研究によって、近年新たな収斂現象が次々と見出されている。第2章は、収斂以外にも、アノールトカゲで見られる島でのニッチェ分割(著者の業績!)哺乳類等の島嶼化、寒冷地適応、家畜化などに見られるある程度予測可能な進化のパターンが紹介される。一方、第3章では、他では見られない進化をした生物が紹介される。
 第4章から第8章は、野外での進化生物学的成果と実験が、割と年代順に紹介される。第4章は、進化が意外と早く起きるので、野外調査でも扱えることを示したグラント夫妻によるダーウィンフィンチの研究紹介。第5章は、最初期の野外での実験進化生物学の成果であるエンドラーのグッピーの研究を紹介。第6章は、著者がシェーナーとおこなったアノールトカゲを島に導入する実験。第7章は、170年以上も継続されてきた堆肥についての研究「パークグラス実験」がいまや進化生物学の研究に重宝してるって話。第8章はまさ今進行中の大規模な野外実験が2つ(トゲウオとdeer mouse)紹介される。この5つの章で示されたのは、野外でも驚くほど短時間で適応進化は見いだせることと、その結果の予測可能性が高いこと。ただし強い選択圧が存在した場合で、数世代程度の期間の話。
 第9章から第11章は、世代時間の短い対象を使って実験室内で行われた進化生物学の成果の紹介。第9章と第10章は、大腸菌を28年以上、6万世代以上にわたって培養して、同じ条件下で14の大腸菌のコロニーが同じように進化するかを検証した話。第9章では、おおむね同じように進化した。と言った次に、第10章では1つのコロニーだけで起きたブレイクスルーが紹介される。第11章の酔っ払いのショウジョウバエの話はもう余談に過ぎない。一番重要な一文は第10章の章末の注にある。「近縁の系統からスタートした場合は進化の反復が一般的だが、それぞれの集団内に独自の遺伝子変異が蓄積されるにつれて、結果の予測可能性は下がる」
 第12章は、ヒトの体内の病原菌もまた、それぞれのヒト個人の中で進化していること。そして、その進化の方向は概ね同じだけど、1人1人違ってもいること。多少なりとも予測可能性があるかどうかは、治療方法の開発に大きく影響する。
 終章では、進化は予測不可能ではないけど、大進化が起きるレベルの長期間の進化を予測するのは、たぶん無理。って感じでしめている。とても穏当で、これまでの成果に根ざした見解。ところで、種の進化については、それでいいんだけど、ニッチェ分割とか生物群集の進化についての議論が、第6章以降深まらなかったのは不満。だれかやってるんじゃないの?ってゆうか著者がやりそうだけどなぁ。


●「ふしぎないきもの ツノゼミ」丸山宗利・小松貴・知久寿焼著、あかね書房、2019年7月、ISBN978-4-251-09927-3、1500円+税
2019/10/20 ★★

 世界のツノゼミの生態写真図鑑。と銘打たれているだけあって、日本にとどまらず、中南米、アジア、アフリカと世界のツノゼミがとにかくたくさん載っている。不思議な突起物のついたのも多いけど、ただずんぐりコロンとしてるだけのもいるし、小さな角が付いてるのもいるし、テントウムシやセミのような色・模様のもいる。子どもを育てたり、アリと暮らしたり、幼虫の姿、とツノゼミの暮らしぶりも紹介されつつ。でもやっぱりできるだけたくさんの種類を載せたかったのだろう、未記載の種まで、和名を付けて掲載している。"学名"付きで紹介されてる種類をざっと数えただけでも、150種以上に及ぶ(『ツノゼミ ありえない虫』は150種以下なので、こっちの方が多い!)。ツノゼミの多様性を一望するのにオススメ。
●「ほうさんちゅう ちいさな ふしぎな 生きものの かたち」かんちくたかこ著、アリス館、2019年7月、ISBN978-4-752-00895-8、1400円+税
2019/10/20 ★

 珪藻より小さな放散虫は、光学顕微鏡では見られず、光の加減でキレイに撮影することもできない。画像はすべて骨格を白黒の電子顕微鏡で撮影したもの。不思議な形、自然とは思えないほど規則正しい構造。色はないけど、幾何学的で多様なその形だけで、充分楽しく見てられる。おもに電子顕微鏡写真が並んでいて、最後に4ページだけ、放散虫の生息場所、体のつくり、進化、発見の歴史などが説明される。放散虫に興味を持つキッカケになる本田とは思うけど、興味を持っても電子顕微鏡がないと、こんな世界は観察できないなぁ。
●「珪藻美術館 ちいさな・ちいさな・ガラスの世界」奥修著、福音館書店たくさんのふしぎ2019年6月号、713円+税
2019/10/20 ★

 上手に光をあててキレイに撮影した色んな形の珪藻を、色んな形に並べてアートな写真絵本のできあがり。半分弱のページは、そんな珪藻アートの世界。でも、残りには、珪藻がどんな場所にいるか、どうやって採集するか、珪藻とはどんな生き物かの解説があるし。珪藻をきれいにして、種類ごとに分けて、どうやって並べたかの説明もある。最後には主だった珪藻の一覧も付いている。珪藻に興味を持ってもらうキッカケに良い本だと思う。
  一番最後のページに、なんでもない川原の写真が載ってるのだけど、説明を読んで驚いた。それも珪藻だったのか〜。
●「結局、ウナギは食べていいのか問題」海部健三著、岩波科学ライブラリー、2019年7月、ISBN978-4-00-029686-1、1200円+税
2019/10/9 ★★★

 Q&A形式で、ウナギの保全の問題のさまざまな側面を解説してくれる。結局、ウナギを食べていいのかの判断は、読者にゆだねられているのだが、それを考えるための材料は充分に提供される。
 35のQuestionが、8つの章にまとめられている。ウナギは本当に絶滅の恐れがあるのか、ウナギを食べるということはどういうことか、違法に流通しているウナギ、完全養殖は解決策か? ウナギを増やすにはどのような環境が必要か、放流は効果があるのか、ワシントン条約はウナギを守れるのか、そして消費者にできること。それぞれの疑問に、短くまとまったAnswerがあって、その後に詳しい解説が付いてくる。データや引用を示しながらの解説は説得力がある。
 ウナギの持続可能な利用というスタンスに立っているが、その他はかなり中立的にデータに基づいた科学的な評価が中心。効果の無い気休めだけの保全対策へのダメ出しは半端ない。忖度なしの発言は、業者や役人、政治家、研究者をバッサバッサと切り捨てる。たくさん敵を作ってるんじゃないかと、少し心配になる。
 密漁や密輸などの違法行為をきちんと取り締まり、トレーサビリティの確立。そして意味のある漁獲量の上限を決める。そしてウナギが遡上・降河しやすい河川環境を整える。ウナギを食べる食べないではなく、こうした対策こそが急務とする著者の主張は納得できる。そしてもしウナギを食べるなら、こういうのは避けよう。と具体的に示してくれる。
 ウナギの絶滅を避けたい人は、ってゆうかウナギを今後も食べ続けたい人は、全員この本を読むべき。そして、ウナギとどう付き合うか考えてみて欲しい。
●「虫や鳥が見ている世界 紫外線写真が明かす生存戦略」浅間茂著、中公新書、2019年4月、ISBN978-4-12-102539-5、1000円+税
2019/10/6 ★

 タイトルはあまり適当でないかも。要は、いろんな物をカラー写真と紫外線写真で撮ってみた、というもの。一種の写真集で、けっこう多めの解説が付いてるというか。撮影対象は、昆虫、鳥、植物が多いが、両生爬虫類、魚、クモなども出てくる。いろんな生きものの紫外線写真は興味深いけど、とりたてて生存戦略を明かしているとは思えない。
 紫外線反射が見える動物にとっては、紫外線はいわば色の一つ。たまたまヒトが見えないからといって、紫外線反射の有無をそんなに大げさに考える必要はない。なのに著者は、紫外線反射の有無に一々説明をつけようとしている様子。それは、どうしてこの生きものは赤色系の色を持ってるのかを問うのと同じで、問うことに意味があるのか疑問である場合が多く、きちんと説明するには、単に撮影した以上の根拠が必要だと思う。
 紫外線反射で撮影したら、可視光では判らなかった模様が見つかったり、差があったりしてこそ、紫外線写真の意義がある。たとえば、モンシロソウの雌雄、花のハニーガイド、カラスやスズメダイの仲間に見つかる模様など。こうした例の画像が一同に見られるのは興味深い。
 とても気になったのは引用。ものすごく頻繁に「〜という報告がある」的な文章が出てくるのだけど、その報告が引用されているのは13篇だけで、他の大部分には引用がない。大胆な断言も多くて、解説はナナメに読んで、主に写真を見ながら、自分であれこれ考えるのがいいんじゃないかと思う。
●「キリン解剖記」郡司芽久著、ナツメ社、2019年8月、ISBN978-4-8163-6679-6、1200円+税
2019/10/6 ★★

 新進気鋭の解剖学者、というかキリンの形態の研究者である著者が、キリン研究者への道を振り返るとともに、キリンの第1胸椎の謎を解明する物語。
 大学に入って、たまたま解剖男さんと出会って、小さい頃から好きだったキリンの研究者への道を歩み出す。最初は、まともに解剖が出来ていなかったのが、経験とともに出来るようになって、第1胸椎という解明すべき謎に出会う。キリンとオカピを比較しつつ、第7頸椎と第1胸椎の形、腕神経叢の位置、第1胸椎の肋骨の付き方など、キリンの特殊性を明らかにして、キリンの第1胸椎の特殊な機能を示す。1つのテーマを徐々に明らかにしていくからとても判りやすいし、読みやすい。解剖学を志す人にはとても参考になりそう。
 著者は、今までに30頭のキリンを解剖・解体してきたという。日本にはたくさんのキリンがいるんだなぁ。今までに3頭の解体しかしたことがないので、その10倍かぁ。一人でキリン解体できるらしい。すごいなぁ。というのが一番の感想かも。あと、解剖男さんは、けっこうちゃんとした(?)指導教員なんだなぁ。という感想とか。
●「カビはすごい! ヒトの味方か天敵か!?」浜田信夫著、朝日文庫、2019年6月、ISBN978-4-02-261970-9、740円+税
2019/8/30 ★★

 長年、人の暮らしの周辺のカビを調べてきた著者のいわば集大成。「人類とカビの歴史」(朝日選書、2013年)を、少し書き加えて文庫化したもの。家の中のカビとそれとの付き合い方が、さまざまに紹介される。
 第1章でカビをはじめとした菌類の紹介をした後、第2章は食品に生えるカビの話。ケーキや餅や果物から、チョコレートや飲料水にまでカビは生える。食品のカビはしばしば事件にもなる。一方で、カビを使って食品をつくることも。食べ物に多少カビが生えてても、さほど気にせず食べる方だけど、青カビでも強い毒を出してくる奴がいるらしく、ちょっと怖くなった。パンは3日以内に食べよう。
 第3章は、家の中のカビの話。マスコミもしばしば取り上げる洗濯機やクーラーのカビの話から始まって、浴室や居間のカビまで。粗食のカビは何でも食べて暮らせるから、とにかく熱を加えるか、乾燥させるのが一番。最後にチラッと本や標本につくカビについてもふれられているのが、気になる。
 第4章は、カビと人との関わりを少し違う角度から。カビ毒、水虫、アレルギー、カビによる病気、抗生物質が取り上げられる。第5章では、人家で繁栄しているカビは、野外でのルーツを探求したり、人間のライフスタイルの変化がカビの繁栄にどう影響したかを考えたり、キノコの話をしたり。
 全体を通じて、カビについていろいろ知れるし、その付き合い方を考える上でもオススメの一冊。細菌との対比で、スタートダッシュに優れた細菌に良い環境を占められて、カビは厳しい頑張るというのが面白い。そのためか、酸性、高温、低温、乾燥、防腐剤等薬剤は細菌には効いても、カビの中には耐えるものがいたりする。なぜかカビを応援したくなる。が、その能力が洗濯機や風呂にはびこるカビにつながると、応援ばかりもしてられない。
 「人類とカビの歴史」に2010年代の話題を書き加えたとのことだけど、最近のネタの楽器やスマホケースのカビの話は出てこない。最近のブームの白癬菌は出てくるが、ペットとの絡みの話題はなかったっけ?。
●「皮膚はすごい 生き物たちの驚くべき進化」傳田光洋著、岩波科学ライブラリー、2019年6月、ISBN978-4-00-029685-4、1200円+税
2019/8/26 ★

 「皮膚は考える」の著者による岩波科学ライブラリー2冊目。皮膚は最も大きな臓器であるというコンセプトのもとに、皮膚のバリア機能、電気に対する反応、情報伝達機能、外部刺激センサーとしての機能、精神や健康との関係などが順に述べた「皮膚は考える」。それとの違いを出すためなんだろう。この本では、さまざまな動物や植物、さらには微生物まで登場させて、生物体と外界との境界を守る膜・層をすべからく“皮膚”と呼んで、その凄さを紹介してくれる。
 ただ、ヒトの皮膚の場合は、自身の研究の成果と、そこから考えた話を展開していたのに対して、ひたすら他人の研究の紹介をしてくれる感じ。すべて引用文献を示しているのは、とてもいいし、専門外なのによく勉強してるなぁと思うのだけど、とってつけた他人のふんどし感はぬぐえない。そして、微妙に突っ込みどころが…。
 唯一の読みどころは、自身の研究に基づいて、皮膚は脳にも匹敵する能力があるとぶち上げる第9章のみ。
 最後の第10章では、また他人の論文を読んで考えたヒトの進化の話。
●「ほぼ命がけサメ図鑑」沼口麻子著、講談社、2018年5月、ISBN978-4-06-220518-4、1800円+税
2019/8/26 ★

 自称シャークジャーナリストによるサメの魅力の伝導書。
 第1章は、「人食いザメっているんですか?」からはじまって、Q&A形式でのサメの紹介。第2章はカグラザメからウバザメまで15種ついて、著者が出会ったエピソードとともにサメの紹介。第3章は、サメと人の関わりを中心に、サメ料理や、サメとのダイビング、水族館でのサメ観察などを、著者の体験ベースで9つ紹介。その合間に、「ちょっとフカ掘りサメ講座」というコラムが12、「サメ界ミライのエースたち」としてサメ好きの子どもを3人紹介。さらに22種のサメ図鑑までがはさまる。はさまる企画が少し多すぎ。
 全体を通じて、サメについての正しい知識や本当の姿を、著者のあふれんばかりのサメ愛とともに知ることができる。とりあえず食欲はかなり刺激される。アブラツノザメを一度食べてみたい。ムキザメとか棒ザメが売ってたら買わなくては。栃木県に行ったらモロフライ定食を食わねば。上越市に行ったらスーパーに行かねば。
  でも、断片的エピソードが並ぶばかりなのと、目に付いたサメを行き当たりばったりに紹介してるだけ感があって、サメ類の全体像を知った気になれない。あとサメ研究の成果の紹介が薄いのが不満。
 カラスが人を襲うという間違った思い込みを広めた「鳥」という映画は、最悪と考えているが。サメにとっては、「ジョーズ」が最悪の映画だったとは迂闊にも気付いていなかった。
●「揺れうごく鳥と樹々のつながり 裏庭と書庫からはじめる生態学」吉川徹朗著、東海大学出版部、2019年3月、ISBN978-4-486-02160-5、2500円+税
2019/8/25 ★

 フィールドの生物学の一冊。いろいろ遠回りしつつも生態学研究を志し、植物と鳥との関係の研究を始め、失敗をしながらも一人前の研究者に育つ、といういつものフォーマット。しかし、驚いたことに外国に行かない!
 第1章は、右往左往の話。第2章は京都大学の理学部植物園で、種子食鳥(イカル)が果実というか種子(エノキとチョウセンエノキ)を食べる話。第3章は、書庫で文献を漁って、果実食鳥・種子食鳥と液果の関係を考える話。そこで神奈川県鳥類目録と出会う。第4章ではPDになって、三宅島で調査。これが海外エピソードと言えなくもない。で、再び神奈川県鳥類目録を使って、今度は花と鳥の関係のデータをピックアップしてまとめる。その過程で相互作用ネットワーク分析にはまる。第5章は、いまも調べているシキミのヤマガラによる貯食散布の研究を軽く紹介。
 フィールドの生物学シリーズの評論家かいな、てな立場から言えば。研究成果を真面目に紹介しすぎ。もっと先生とのやり取りとか、地元の人や他の研究者との交流エピソードとか、調査中の困った話とか失敗談を投入すべき。
 一連の研究はすでになんとなく知ってたけど、改めて一つの流れとして知ることができた。で、研究として見た時は、イカルのような種子食者が、液果をつける樹種にどのような影響を与えているかの研究が、途中で止まっている感じがしてならない。チョウセンエノキがいる場所といない場所でのエノキの動態、あるいはイカルの分布は局所的というか偏るので、イカルの群れが来る場所と来ない場所のエノキの動態を調べたら、イカルによる影響をもっと評価できるんじゃなかろうか?
●「鳥はなぜ鳴く? ホーホケキョの科学」松田道生著、理論社、2019年5月、ISBN978-4-652-20308-8、1300円+税
2019/7/21 ★

 てっきりウグイスの鳴き声をきっかけに、鳥の鳴き声いっぱんの話が始まるかと思いきや、一冊まるまるウグイスの鳴き声の話。ウグイスだけで一冊できるとは驚いた。それだけに、ウグイスの鳴き声に関して、鳴き方や生態といった科学的側面を紹介する。とともに、ウグイスが詠まれた歌、飼育、言い伝えと文化的側面まで網羅している。
 ウグイスの鳴き声について知りたいなら、とてもまとまった良い本。ただ、ウグイスの話から鳥一般のことも透かし見える部分もあるけど、やはり少し物足りない。
●「おしえてフクロウのひみつ」柴田佳秀文・マツダユカ絵、子どもの未来社、2019年2月、ISBN978-4-86412-153-8、1400円+税
2019/6/19 ★

 一問一答形式で、フクロウについての35の質問にフクロウが答えるという趣向。子どもにはこういう趣向がいいのかもしれないけど、大人が読むにはつらい。
 内容的には、形態、行動、繁殖から、世界のフクロウやフクロウの伝説まで、フクロウのことがいろいろ判って、フクロウのことをあまり知らない人には勉強になると思う。と偉そうに書いてみたけど、トラフズクが樹洞よりもむしろ、カラスの古巣を使って営巣するとは知らなかった。あとサボテンフクロウがスズメくらいの大きさとは気付いてなかった。
 フクロウという言葉で、種フクロウを示すのが基本になっている。のだけど、フクロウ類を指しているのかも、と思いながら読み始めたので、最初はちょっととまどった。
●「進化の法則は北極のサメが知っていた」渡辺佑基著、河出新書、2019年2月、ISBN978-4-309-63104-2、920円+税
2019/6/19 ★

 著者は、再捕獲しなくてもデータを回収できるシステムを開発して、次々といろんな水中生物でバイオロギング研究を展開している。その研究の様子と成果に絡めて、体サイズと体温で代謝量が、ひいては呼吸数や寿命がおおむね決まってくるという理論を解説する。
 登場するのは、北極海のニシオンデンザメ、南極のアデリーペンギン、オーストラリアのホホジロザメ、オーストラリアのイタチザメ、バイカル湖のバイカルアザラシ。最初の3つが、代謝量の低い、高い、中位の代表。寒い場所で大型で変温で代謝量低く暮らすニシオンデンザメ、寒い場所で小型で恒温で代謝量高く暮らすアデリーペンギン、暖かい海で大型で中温でそこそこの代謝量で暮らすホホジロザメ。変温でも恒温でもなく中温というのが、面白い。代謝量の話なので、基本的には採食行動と運動量と体温を測ろうとする。イタチザメは少し趣向が違って、巨大な魚の代謝量を、海中のゲージの中で測定する試み。バイカルアザラシはおまけっぽい。
 調査のエピソードの合間に、自分の科学的興味や、その調査の成果を混ぜ込むスタイルが、とても上手で読みやすい。さすがに理論面は調査エピソードの合間には紹介しきれなかったとみえて、イタチザメやバイカルアザラシは脇においといて、心の師匠であるジェームズ・ブラウン博士の理論が紹介される。

 本としては面白いし、きれいにまとまってると思う。けど、読後感は熱心に他人のふんどしを紹介してもらった感が強い(理論面が最後に紹介され、それ自体は著者の業績ではないからだろう)。個々の研究プロジェクトでどんな成果が上がったかを、必ずアピールするのは、お金のかかる研究をしているだけあるなぁ、とも思った(使ったお金の分だけの成果を求められるんだな。お金のかからない研究をしていると、よくも悪くもそういう面にあまり熱心にならない)。
  あと、著者が自分を生態学者だと思ってるのが意外だった。バイオロギング研究が生態学の枠組みの中で進展してきたからかと、勝手に推測してしまう。とりあえずこの本で紹介されている著者の興味も研究テーマも、どちらかと言えば生理学(昔なつかしい言葉で言えば、生理生態っぽいけど)。意地悪を言えば、代謝量を説明する理論で、生物多様性も説明できると書いてしまうところも含めて。むしろ、フィールド生理学者を名乗ればいいのに、と思ったり。
●「海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲」土屋健著、文藝春秋、2018年7月、ISBN978-4-16-390874-8、1500円+税
2019/4/22 ★

 表紙を見るとサブタイトルがタイトルのよう。サメなどの軟骨魚類が主役ではあるけど、とくに海の支配者と呼べるトッププレデターを軸に、海洋生命の歴史を紹介する一冊。名前のでてくるほぼすべての種についてのカラーの復元画が添えられていて、話をとてもイメージしやすい。ただ、不充分な情報に基づいて強引に描かれた復元画も多いので、復元画を鵜呑みにせずに本当に確実なのはどの部分なのかを確認した方がいいだろう。著者は1人だけど、章ごとにそれぞれの分類群の専門家の監修を受けている。そういう意味では信頼できる最新情報が提供されているっぽい。
 先カンブリア代の生命誕生に始まって、生命の歴史をカンブリア紀、オルドビス紀と追いながら、海の覇者を順に紹介していく。見開きの左端に、常にいつの時代の話をしているのか示してくれるので、とても判りやすい。カンブリア紀のアノマロカリス類からはじまって、三葉虫、ウミサソリ、そしてデボン紀の板皮類、石炭紀のサメ類。ペルム紀には両生類が海に戻る。中生代は爬虫類の3グループが海に戻る。三畳紀〜ジュラ紀の魚竜とクビナガ竜、そして白亜紀の巨大なサメ類とモササウルス。新生代には哺乳類が海に戻る。クジラの進化を追っていき、メガロドンで終わる。次々と覇者が入れかわる中で、なぜか生き残り続けるサメ類は、確かにすごい。
 デボン紀の前まで、デボン紀以降の古生代、中生代、新生代がほぼ同じ分量で語られ、唐突に終わる。海の覇者の歴史を概観するという意味では、とても楽しく読み進められる。
●「鳥肉以上、鳥学未満」川上和人著、岩波書店、2019年2月、ISBN978-4-00-006317-3、1500円+税
2019/4/21 ★★

 食材として身近なニワトリを題材に、鳥類の形態の特徴を順に紹介していく。取り上げられるのは、第1章が、胸肉、ささみ、手羽元、手羽中、手羽端と翼周辺。第2章は、モモ肉、スネ肉、モミジと足まわり。第3章で、鶏ガラ(胸骨と叉骨)、レバー、ハツ、砂肝と内臓など胴体部分を扱い。第4章では、残り物的に、ボンジリ、鶏皮、セセリ、頭と舌。頭を調理して喰うとは知らなかった。そして最後は卵。
 知らない情報が盛りだくさんでとても勉強になる。キジ科鳥類の肉は、もともと白っぽい。ってのは経験的には知ってたけど、理由は思いつかなかった。キジ科の胸骨があんな形の訳も勉強になった。鳥の各部のプロポーションや大きさを数字で示してくれるのも面白い。かかとは大体脚の真ん中辺りにあるってのは、なるほど〜、と思ったり。モスチキンに上腕骨が付いてるとは知らなかった。一度喰わねば。脛骨と呼ばずに脛足根骨と呼ぶべきとか、海鳥によくある脛骨の突起が何かとか、ヤツガシラの尾脂腺分泌物は臭いとか、アリやミミズにもそのうがあるとか、蘊蓄も盛りだくさん。
 ただ、例の川上節が延々と続く。連載で月に一つずつ読むなら楽しいだろうが、一気に読まされると、けっこう食傷する。大胆に嘘を書いて、後で修正という技が、しばしば繰り出されるんだけど、「シチメンチョウの血は青い」ってのは3ページも後で訂正してるけど、これを見逃して信じる人がいるんじゃないかなぁ。

 ところで、川上節の随所に、ファーストガンダムとか、デビルマンなどのネタが挿入される。とある知り合いは、そうしたネタが判らず、調べながら読んだらしい。調べていたのは、ガンタンク、シレーヌ、 ギャランドゥ、エビフライ、ジム、キューティーハニー、ニコチャン大王、鋼鉄ジーグ、ビューエル社、ライトニング、アイアンマン、カル・エル、ケンタ、カイム、リッケンバッカー、ラ・カンパネラ、カヤン族、A5ランク、ギアラ、イモータン・ジョー、カツ丼、よーじや、ハンプティ・ダンプティ、シェケナベイベ、ザク、腐海、マイク・ザ・ヘッドレスチキン、チャップリンと革靴、ジオン。アニメ系・ヒーロー系は全部判らなかったらしい。それはさぞかし読みにくかったろう。
●「ユーラシア動物紀行」増田隆一著、岩波新書、2019年1月、ISBN978-4-00-431757-9、960円+税
2019/4/19 ☆

 ユーラシア大陸に分布する哺乳類を中心に、動物系統地理学的研究をしている著者が、西はフィンランドから、ロシアを横切って、北海道まで、西から東に向かって経験談などを書き綴る。まとめるとそんな感じ。アナグマやヒグマの系統の話は面白いけど、ちらっと出てくるだけ。ユーラシア大陸の哺乳類相の歴史を熱く語ってる訳でもない。かといって面白エピソード満載の楽しい紀行文って訳でもない。動物の画像よりも、名所や、フィンランドやロシアでお世話になった研究者の画像が多め。なぜか明治初期に書かれた榎本武揚の『シベリア紀行』などが随所に引用される。かと思うと、突然生物学的な解説が挿入される。思いつくままに書いたようにしか読めない。面白げな情報もたくさんあるのに、残念ながら楽しく読めない。
●「ウイルスは悪者か お侍先生のウイルス学講義」高田礼人著、亜紀書房、2018年11月、ISBN978-4-7505-1559-5、1850円+税
2019/2/20 ★

 ウイルス、とくに人獣共通感染症であるエボラ出血熱とインフルエンザのウイルスを研究している著者によるウイルスの真実の姿と、その研究者を紹介する一冊。
 第1章と第2章は、ウイルスという存在の紹介。ウイルスは生物か?から始まって、ウイルスの形態と分類、そしてウイルス感染症の基礎知識が説明される。第4章から第8章はエボラウイルスの話。アウトブレイクを紹介し、研究の歴史と自身の研究から、エボラウイルス感染の仕組みを細かく紹介し、治療薬開発の取り組みが描かれる。エボラウイルスに5種もあるとは知らなかったし、その自然宿主を探す試みの中で明らかになってきた、アフリカ以外にもいるかもというのはちょっと怖いかも。第9章から第12章では、インフルエンザウイルスの話。高病原性鳥インフルエンザ対策に取り組んだ経験を軸に、過去のパンデミック、インフルエンザウイルスの分類と形態、鳥・豚・人を巡る宿主の壁を乗り越える話。最後はワクチンや抗インフルエンザ薬についての解説も。ちょっとメカニズムの話が細かい気もするけど、いろいろ勉強になる。インフルエンザのA型とかB型とかが、ウイルスの種の違いに相当するとは知らなかった。秋に南に向かうカモはよく鳥インフルエンザウイルスを持っていて、春に北に向かうカモはあまり持ってない傾向があるとか。濃厚接触しなければ、高病原性の鳥インフルエンザは人にまず感染しないというのは、インフルエンザウイルスを肺にまで吸い込む可能性が高まるからとか(レセプターが人では肺にしかない!)。インフルエンザウイルスは、鳥の体内でも豚の体内でも1週間ほどでいなくなるとか。
  残念なのは、2004年に日本で起きた高病原性鳥インフルエンザ騒ぎのくだり。1月から2月にかけて、山口県から京都府辺りの西日本で、ニワトリやカラスが大量死した。そこにこんな一文。「このときは、中国南部で越冬していた渡り鳥が、東シナ海を越えてウイルスを運んだと見られている」 この年は、博物館にマスコミから問合せが殺到して仕事にならなかった。それで繰り返し説明したけど、1月に中国から東シナ海を越えて日本に渡ってくる鳥なんでいないから。渡りルートとしても、あまりないコースだし、1月にそんな移動はしないから。何回説明しても、いつまでもこうした間違った話が生き残るのは頭が痛い。鳥インフルエンザを扱うなら、鳥の渡りの勉強をしたらいいのに。
 あと特筆すべきは、著者が写った画像が多め。著者がキーボード奏者だとか、剣道をやってるとか、自身のことをいろいろ紹介するのにけっこうページが割かれる。
●「海と陸をつなぐ進化論 気候変動と微生物がもたらした驚きの共進化」須藤斎著、講談社ブルーバックス、2018年12月、ISBN978-4-06-513850-2、1000円+税
2019/2/18 ★

 珪藻化石研究者が海洋生態系、とくに植物プランクトンの重要性の紹介してくれる。同時に、進化的時間での海洋生態系の変化を考える。
 二酸化炭素の固定の話から、陸上での森林の役割を、海では植物プランクトンが担っているんだ!と、あつく植物プランクトンをおしまくる。海の三大植物プランクトンと言えば、珪藻、渦鞭毛藻、円石藻。中でも珪藻は重要!と自分の研究対象をさらにプッシュ。毒を持っていたり、石油になったり、確かに藻類はいろいろスゴイ。
 後半は、著者の珪藻化石研究の話。キートケロス属の珪藻が急増する出来事が過去に3回あったらしい。で、今度は、珪藻の増加がクジラ・イルカをはじめとする海洋生物の進化に大きく影響を与えたんだ!という妄想が膨らむ。楽しそうだけど、最後の妄想は現時点ではあまり信じない方が良さそう。
●「トリノトリビア 鳥類学者がこっそり教える野鳥のひみつ」川上和人・マツダユカ著、西東社、2018年10月、ISBN978-4-7916-2783-7、1200円+税
2019/2/17 ★

 見開きで、1ネタ。右側に鳥が主人公の4コマ漫画、左側に鳥類学者による500字前後の小ネタ文章。ってことで、身近な鳥が中心に話題は、83個も並ぶ 。その内容は生態と行動が中心で、形態や系統、分布などのネタも混じる。身近な鳥についてのいろんな知識を得ることができる一冊。
 テーマに沿った内容で、オチのあるマンガを83も描くなんてかなり大変だったんじゃないかと思う。天然のカラス。突っ込みのシジュウカラ。ボケたと思ったら、突っ込みもできるスズメ。種毎にキャラが設定されている感じ。ヒヨドリが目つきが悪くて偉そうなのが不満。
 一方、鳥類学者さんによる小ネタは、そんなに苦しまずに書いてる感じ。ネタを知りすぎている人は、この著者ならではのボケを楽しむ趣向ってところだろうか。
 さすがに鳥に詳しい鳥類学者さん、間違ったことをほとんど書かない上に、微妙な話題は上手に回避している感じ。ただ、143ページを読んだ時は、キジバトも尾羽の両サイドが白いよ!と突っ込みたくなった。97ページのキジバトはディスプレイフライトで異性にアピールってのは、本当かなぁと思う。スズメはほおの斑点が大きいほどもてるとか、スズメは水浴びのあと砂浴びをするとか、シジュウカラがカタツムリを食べてカルシウム補給ってのは知らなかった。
  そして、61ページにヒヨドリがヒマワリ種子を好んで食うと書いてあって、それはないやろう〜。と突っ込んだ。巻末を見ると、これには引用文献があるらしい。「 山口ほか(2012)鳥類によるヒマワリ食害.日本鳥学会誌61:124-129」。で、引用文献を見たのだけど、ヒマワリ食害の犯人としてキジバト、スズメ、カワラヒワを確認しただけで、ヒヨドリは出てこない。
●「謎のカラスを追う 頭骨とDNAが語るカラス10万年史」中村純夫著、築地書館、2018年12月、ISBN978-4-8067-1572-6、2400円+税
2019/2/16 ★

 高校の先生をしながらカラスの研究もしてきた著者が、退職を機に、インデペンデント研究者(独立系研究者でいいと思うんだけど)として、ロシアのカラスを調べに行く。
 ハシブトガラスの2亜種、マンジュリカスとジャポネンシスの分布の境界がサハリンにあるんじゃないかと、退職金を投入して調査に向かう。とにかくカラスを打って、頭骨とDNAサンプルを入手するのが目的。で、カラスが集まるからともっぱらゴミ捨て場巡り。大学などの後ろ盾なく海外で調査する苦労がにじみまくる。第1章で調査の準備して、第2章で調査に行く。これで前半が終了。細かく日記を付けていたんだろうか。毎日のことが事細かに記述される。
 後半では今度は沿海州に調査に行く。これがサハリンより大変。最後の40ページほどで、大量のカラスを撃ち殺した成果が示される。成果はちゃんと論文化されていて、巻末にリストがあり、その前に主だった図表を5枚示して、解説してくれる。論文読むの面倒なら、その7ページを読めばいいだろう。一番の成果は、258ページの図だろうか。259ページの頭骨小変異の出現率のデータは評価が難しい気がする。サンプルサイズが小さいし、頭骨の標本化の影響は受けてないのかとも思ったり。
 全体を通じて判ったことは、海外での調査ではカウンターパートやガイドがいかに大事かと言うこと。そして、著者はぜんぜんバードウォッチャーじゃないんだなってこと。カラス類以外で種名の出てくる鳥は、ドバト程度。あとはカモメ類とか小鳥とか雑。あと、ロシアからの標本の持ち出しの際にきちんと手続きを踏んでないのが気になる。今どきこんなんありかなぁ。あと頭骨標本とDNAサンプルしか確保してないのが、勿体なさ過ぎる。そして骨格標本は、もっと効率よく作れそうな気がする。
 研究に関して言えば、ハシブトガラスの2亜種の記載論文を参照していないのが気になる。結果的に言えば、きちんと亜種の同定プロセスがないので、産地でハシブトガラスの形態を比較しているだけになっているような。それはそれで意義有る成果だけど、著者の意図した形と違わないかな?
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