自然史関係の本の紹介(2014年分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「昆虫はすごい」丸山宗利著、光文社新書、2014年8月、ISBN978-4-334-03813-7、780円+税
2014/12/17 ★★

 何より驚いたのは、光文社新書なのに、表紙にカタゾウムシがいっぱい並んでること。と思ったら、その下には普通の光文社新書のカバーがあって、カバーが二重構造になっていること。外側のはカバーではなく、本と同じサイズの帯ってことなんだろう。
 そんなことはさておき、「ツノゼミ」「アリの巣の冒険」とスマッシュヒットを連発している著者の3冊めのヒット作と言っていいんだろう。大学教官には珍しく文章が読みやすく、今どきの昆虫屋には珍しく昆虫全般に詳しい著者による昆虫の様々な「すごい!」を並べた1冊。
 各章のタイトルというより、その中の項目を並べたら、なんとなく内容がわかりそう。第1章「どうしてこんなに多様なのか」:昆虫の多様性、昆虫ってなに?、多様性の秘密。第2章「たくみな暮らし」:収穫する、狩る、着飾る、まねる、恋する、まぐわう、子だくさん・一人っ子、機能と形、旅をする、家に棲む。第3章「社会生活」:社会生活を営む昆虫、狩猟採集のくらし、農業する、牧畜する、戦争する、奴隷を使う、アリの巣の居候。第4章「ヒトとの関わり」:ヒトのつくり出した昆虫、昆虫による感染症、嫌われる虫と愛される虫。第4章は後ろに行くほどに、付け足し感が強く。最後は尻切れとんぼ感があるけど。これだけ昆虫全般を紹介できる研究者は少なそう。アリと甲虫ストロングなのは御愛嬌。
 なんやこのタイトルは?と思いながら手にとったが、読み終わってみると、なるほど昆虫はすごいと思わせるからすごい。さすがに知ったネタが多かったが、知らないネタもあちこちに。丸く噛み跡を付けてからクワズイモの葉っぱを食べるハムシ。ゾンビゴキブリを使うセアカアナバチ。交尾をしないイシノミの求愛ダンス。ハナカメムシやコクヌストモドキの同性愛。トリカヘチャタテの雌雄逆転。多胚性寄生蜂の大増殖。キンウワバトビコバチの兵隊幼虫。アリマキバチに寄生するツヤセイボウのトロイの木馬作戦。イモムシ経由でスズメバチに寄生しようとするカギバラバチ。バクダンオオアリの自爆攻撃。シワアリの女王の背中で生活するオンブアリ。1500年ほどの間にハワイで種分化したバナナにつくツトガ。興味深い話題だらけ。
 ちなみにツチハンミョウは数千から一万以上の卵を産むらしい。こうした宝くじ作戦の寄生性昆虫が一番卵を多く産むのかな? 30年から生きるシロアリ女王の方が多いのかな? ちなみに最小の昆虫はチャタテムシの卵に寄生する寄生蜂の雄で、0.139mmだそうな。甲虫最小はヒジリムクゲキノコムシの一種で、約0.4mm。最小は卵サイズに規定されるらしい。

●「森の「恵み」は幻想か 科学者が考える森と人の関係」蔵治光一郎著、同人社、2012年5月、ISBN978-4-7598-1346-3、1700円+税
2014/12/2 ★

 著者は東京大学の林学屋さん。専門は、森林水門学(かつては森林理水学と呼ばれてた)。つまり森と水の作用を自然科学的に解明する学問らしい。一般に、森の恵みといわれ、水に関して言えば、森があると洪水が起こらず、渇水も起こらないとされがちだけど、科学的に見たら本当はどうなのか、って話が展開する。著者は、いっぱんの常識を覆すのが好きらしく、わざわざそんな話にしているきらいもある。
 第1章のイントロの後、第2章から第4章までは、ひたすら森と水の関係が紹介される。第2章は作用の紹介。森の3つの作用、平準化作用(雨水を一時的にためてゆっくり流す)、蒸散作用(雨水を吸い上げて葉から蒸散させる)、樹冠遮断作用(雨水を葉や幹から直接蒸発させる)(蒸散作用と樹冠遮断作用はあわせて蒸発作用)。そして人が森に求める水に関する機能は、洪水緩和機能と渇水緩和機能。降雨中でもかなりの樹冠遮断作用が働いてるってのは驚き。そして森の存在が、かえって河川流量を減らしているとは意外。第3章は森の洪水緩和機能について。森はピーク流量を下げるかがポイントだけど、森の効果はなくはないけど、それが無視できる程度か、とても有効かには論争があって、分かっていないのが実情らしい。第4章は森の渇水緩和機能について。森には平準化作用と蒸発作用があるので、そのバランスで渇水緩和機能があるかどうかは判断が分かれる。で、これまた論争があって、渇水緩和機能があるかも決着していないらしい。このすべては、降水量と河川を流れる量をきちんと計る。そんな単純な研究をあちこちで長期間すれば分かることなのだけど、そんな研究があまりされていないのも驚き。ちなみに年流量だけに注目すれば、広葉樹林よりも針葉樹の植林の方が年流量は多く、森がある時よりもない時の方が年流量は多くなるとのこと。意外〜。
 第5章は、森の生態系サービスの話。もっぱら森を維持するコストを誰が負担するかを論じてる。第6は、木材生産の話。印象に残ったのは、間伐材は持ち出しにかえってコストがかかり、安くしか売れないので、現場に放置の方がかえってもったいなくないという主張。第8章は、森とエネルギー。木質バイオマスを少し紹介。
 そして、著者はなんでも定義して区別したがる様子。イントロでいきなり「作用」と「機能」を区別してくれる。「作用」とは人間の都合に関係なく反応することで、「機能」とは人間にとって都合のいい反応のことだそうな。まあそうだろうけど、ちゃんと言葉を定義して区別して使うのは科学の基本ではあるけれど、どうでもいいことまで定義して話したがるので少し面倒。そして、定義した言葉を使って、あとの説明が続けられる。言葉を覚えないと意味が分からない…。「緑の水」と「青の水」などなど、読む上ではかえって分かりにくい場面も多い。

●「イマドキの動物 ジャコウネコ 真夜中の調査記」中島啓裕著、東海大学出版会、2014年8月、ISBN978-4-486-01995-4、2000円+税
2014/11/7 ★

 フィールドの生物学シリーズ第13弾。若手研究者が熱帯に出かけていって、先輩にお世話になりつつ、苦労してフィールドを開拓し、現地の人とコミュニケートし研究を進める。というのが、このシリーズの定番(もちろんそれ以外の展開をするのも多いが)。そのシリーズ王道パターンの一冊。ボルネオに行って、パームシベットを研究する。
 果実食のパームシベットは、かなり重要な種子散布者として機能しているらしい。パームシベットは、原生林よりはむしろ人の手の入った林に多く、プランテーションを上手に利用しているらしい。熱帯の里山の林の研究をしているようなイメージ。
 パームシベットの生態や種子散布者としての機能は興味深い。パームシベットに発信機を付けて追い掛け、自動撮影装置を設置し、、糞分析をし、果実の成り具合を記録し、種子の散布先を評価する。じつにまっとうな種子散布の調査が展開される。さまざまな果実を時間をかけて食べるオランウータンと、好みの熟果のみを次から次への食べあるくパームシベットという問題設定は、鳥にもつながる感じで、個人的にも興味深い。
 でも、全体的に本としてみれば、このシリーズでよくあるパターンという感じは否めない。そして、真面目にデータを出し過ぎ。もっとエピソードを入れればよかったのに。印象に残ってるのは、ゾウに追い掛けられ弾き飛ばされた話と、罠に捕まって怒ってるムーンラットの白い姿(ちなみにキャプションはムーンラットとジャワジャコウネコが逆)。

●「図解・感覚器の進化」岩堀修明著、講談社ブルーバックス、2011年1月、ISBN978-4-06-257712-0、980円+税
2014/10/27 ★

 「図解内臓の進化」に続く第2弾!かと思ったら、こちらの方が早かった。ともかく同じ著者による比較解剖シリーズ。
 視覚器、味覚器、嗅覚器、平衡・聴覚器、体性感覚器の順で、さまざまな動物の感覚器を紹介。最後にクジラの感覚器を紹介して終わる。体性感覚器とは、触覚など皮膚感覚の類いの事。なぜかヘビの赤外線受容器も、ここで紹介される。哺乳類を中心とする脊椎動物が紹介の中心だが、他の無脊椎動物も随時登場する。
 勉強になって面白いのだけど、「図解内臓の進化」ほどは面白くない。一つには視覚器や平衡・聴覚器の進化は、すでに他の本でもよく取り上げられる話題で、新鮮味が少ないこと。もう一つは、あくまでも感覚器の紹介にとどまっていて、感覚世界自体にあまり踏み込まないこと。感覚器という解剖学的な側面だけにしておくのは、ある意味正しいとは思うけど(感覚世界自体に立ち入ると泥沼だけど)、読んでいて満足感がそがれるのはいなめない。感覚世界あっての感覚器じゃないかなぁ。
 科学物質の受容器である味覚器と嗅覚器、振動を受容する聴覚器と体性感覚器。こうしたものを区別するのはたまたま人間(や哺乳類や多くの脊椎動物)で分けられているから。ときには、全然違う由来の受容器で、そうした感覚を受容している動物もいる。そうした多様性と、同じ受容器の進化が入り交じっているのも、なんか分かりにくい感じ。
 一番面白かったのは、クジラの感覚器のところ。下ばかり見て、上が見えないクジラ。空気中ではかなりの近視。鼻孔に水を入れないから、匂いを嗅ぐのは潮吹きの時、それも意味のない空気中の匂い…。下顎を通して音を聞いている。下顎の先に穴(オトガイ孔)があって、付け根には大きな穴(下顎孔)があるのは知ってたけど、この間はつながっていて(下顎管)、そこで音をひろっていたとは知らなかった。

●「カヤネズミの本 カヤネズミ博士のフィールドワーク報告」畠佐代子著、世界思想社、2014年2月、ISBN978-4-7907-1613-6、2200円+税
2014/10/23 ★

 日本で数少ないカヤネズミ研究家の著者が、カヤネズミについてまとめた一冊。
 第1章は、カヤネズミの基本情報を紹介。第2章は、みずからのフィールドワークでのエピソードを交えつつ、カヤネズミの生態を紹介。第3章は、火入れや稲作との関わりを語る。第4章は、著者が立ち上げた全国カヤネズミネットワークを紹介しつつ、カヤネズミの生息環境の保全について紹介。
 全国カヤネズミネットワークでは、2002年と2005年に「カヤマップ」という冊子を自費出版している(500円)。カヤネズミの分布調査の結果のみならず、生態をはじめカヤネズミのいろんな情報が載っていた。いまは品切れだけど、「カヤマップ」を持っている者としては、この本は不満。内容がさほど変わらないのに、値段が4倍以上もするように思える。「カヤマップ」を知らなくても、テキスト量が少ないのをハードカバーと厚い紙、ゆったりした段組でヴォリュームを増やしてる感が満載。もっとお手頃価格の本にしたらよかったのに。あるいは、テキスト量からしたら、絵本みたいな形で出版した方がよかったんじゃないかなぁ、と思う。他の人の研究成果やカヤネズミ研究の歴史、海外での状況など、もっとカヤネズミについての情報量を増やしてくれれば、本にもっとお特感が出たと思う。自分が経験したことだけをまとめてるのが、ちょっと情報量を薄くしている感がある。

●「裏山の奇人 野にたゆたう博物学」小松貴著、東海大学出版会、2014年8月、ISBN978-4-486-01994-7、2000円+税
2014/10/23 ★★

 若手研究者が、フィールドワークを中心に、自らの研究を紹介するシリーズの一冊。お約束の海外行きも盛り込まれている。それにしても意味の分からないタイトル。なんでこんなタイトルにしたんだろう?と思ったけど、読み終わってみると内容にぴったりのタイトルであることは納得する。でも、それは読み終わってるからで、これじゃあ誰も買わないんじゃないか?と他人事ながら心配になる。だからといって、もっと適当なタイトルを、と考えても思い付かない。子どもの頃から現在にいたる。裏山を中心にした(海外も裏山の延長っぽい)著者の発見話が、つらつらと続く。著者の主な研究対象はアリヅカコオロギなのだが、あまりにナチュラリストな著者の興味は昆虫の枠すらはみだして、ネズミでもコウモリでもカラスでもカエルでも、何でも観察して、いろいろ見つけてしまう。それをまた、ちゃんと報告につなげようとする姿勢が素晴らしい。どこかの自然史系博物館の学芸員になれたら、最強っぽい。うちに来ないかなぁ。でも、本人はめっちゃ変人っぽいから、学芸員として優秀かは別の話。
 って感じで、本人の興味のみならず、本の中身もこんな風にだらだら続いていて、焦点がしぼれない。タイトルを考える時さぞかし苦労しただろう。辺境になんか行かなくったって、裏山に未知の世界が拡がってるよ、というメッセージは素晴らしいが、同じシリーズの『アリの巣をめぐる冒険』で打ち出されていて、シリーズ的には二番煎じ。萬田銀次郎の名前を出したり、美少女ゲームのキャラの名前を謝辞に入れるエピソードもあったり、みずから美少女キャラをデザインしたり。著者は、美少女ゲーム、アニメ、マンガへの造詣の深さがうかがえる。そこからとったネタが、章のタイトルをはじめ随所にちりばめられている。ようなのだが、残念ながらすべては気づけてないかもしれない。ちなみに、関連があるようなないようなエピソードが並ぶという構成は、著者が愛読してそうなライトノベルによくありそう、と思うのは深読みのしすぎか?
 というわけで、ネタがてんこ盛り。面白かったエピソードは真似をしたくなるエピソードでもある。スズメバチをコオロギで餌付けして遊んだり(刺される恐れもあるので、よい子は真似しないように)、アブラコウモリを後ろから捕虫網で捕まえたり(鳥獣保護法違反です!)、ベッコウバチからクモを取り上げてもう一度刺すところを見たり(こっちが刺されるらしい)、オジロワシの格好でカラスの群れに混じったり(これは楽しそう、でも寒そう)、アリグモのオスを対決させたり(これは楽しそう)。裏山での悪い遊びが満載の一冊でもある。

●「クラゲ 世にも美しい浮遊生活 発光や若返りの不思議」下村脩・村上龍男著、PHP新書、2014年5月、ISBN978-4-569-81884-9、1000円+税
2014/10/7 ★

 クラゲの水族館として有名になった加茂水族館の館長と、クラゲから緑色蛍光タンパク質を発見してノーベル賞をもらった学者の対談。館長が、ノーベル賞学者にへりくだり過ぎていて、気持ち悪い。という点を除けば、ノーベル賞学者さんは自分が得意な部分以外は聞き役にまわり、上手に館長からクラゲの話や加茂水族館の話を引き出していて、それなりに面白く読める。そしてなによりクラゲの画像が美しい。
 閉館に追い込まれそうだった加茂水族館が、クラゲのおかげで持ち直した話は、関連するクラゲのところで、ぽろぽろ出てくる。恩人のクラゲの多いこと。これだけで本を書いたら面白いんじゃなかろうか。そして、個々のクラゲについても、分類、入手の仕方、飼育法のコツなど普通のクラゲ本にはない情報が色々つまっている。これまた、これでまとめたら面白いんじゃないだろうか。
 というわけで、博物館学的にも、クラゲの図鑑としても、それなりに楽しめる一冊。対談と画像が別ページなのは、新書だから仕方がないんだろうけど、ちょっと見にくかった。

●「羽 進化が生みだした自然の奇跡」ソーア・ハンソン著、白揚社、2013年4月、ISBN978-4-8269-0169-7、2600円+税
2014/9/3 ★★★

 著者は鳥の保全生物学者を名乗る生態学者らしい。研究者としての能力はよく知らないが、サイエンスライターとしてはとても優秀。専門の鳥の事とは言え、少し畑違いの”羽”関連のあちこちに取材して、一冊の本を書き上げた。
 第1〜4章は「羽毛の進化」がテーマ。「羽進化の発生モデル」の話をベースに、羽毛恐竜が多産している中国の恐竜研究者に取材して、羽の進化について紹介。第5〜6章は「断熱効果」がテーマ。取材先は、アメリカのダウン加工業者。羽毛の強力な断熱効果の前では、むしろ重要なのは暑さ対策。鳥がどうやって熱を放出しているかを紹介。第7〜9章は「飛翔の起源」がテーマ。地上起源説と樹上起源説を紹介した後、WAIR仮説(駆け上がり)を紹介。なぜかハヤブサと一緒にスカイダイビングをする人が登場。第10〜12章では、「羽根の商取引」がテーマ。一昔前には、羽毛取り引きが世界的な大産業だったとは、全然知らなかった。いったん廃れた羽根を使った婦人帽を作ってる人を取材。第13〜15章は「羽根の微細構造」がテーマ。毛針職人が登場する。毛針や羽ペンなど装飾以外にも羽根は様々に利用され、それは羽根の特殊な構造が関係している。って話。
 尾脂腺からの脂を羽根に塗ることで、鳥は羽根の撥水性を保ってる。と、まことしやかに言われていたけど、間違ってるらしい。撥水性は羽根の構造自体から由来する。そして、ウは尾脂腺が発達していないから、羽根がビショビショになって潜りやすいけど、後で乾かさないといけない。と、まことしやかに言われていたのもちょっと違う。ウの羽根は、表面は濡れるけど(それで潜りやすくする)、水は皮膚までは届かないらしい。羽根について知らなかったことが一杯書いてある、ためになる本。

●「生物多様性のしくみを解く」宮下直著、工作舎、2014年4月、ISBN978-4-87502-456-9、2000円+税
2014/8/22 ★

 著者は東京大学の教授で、群集生態学、とくに3者以上が関わる種間相互作用の研究に精力的に取り組んでいる。学会大会では必ず発表をチェックしないといけない研究室の一つ。そんな著者が、「生物多様性のしくみを解く」ときたら、期待してしまうじゃないか。でも期待は裏切られる。というか、それが当たり前。今まで聞いたことのないような生物多様性のしくみが、いきなりこの本で提示されるはずがない。というわけで、あまり期待を高めないで読むのが正しい。自分の研究をからめつつ、一般向けに生物多様性を解説した一冊。群集生態学から自然環境の保全まで、難しい数式やグラフは使わず、最新の研究成果も交えつつ、日本の自然環境の現状と課題を含めて、上手に一つのストーリーにまとめて紹介してる。
 高まる期待はかわされたが、最近の研究動向(あるいは流行)のフォローを怠っている者としては、聞いたことのない言葉が出てきて勉強にはなる。「レスキュ−効果」(メタポピュレーションによる局所的絶滅からの回復)、「土地スペアリング」と「土地シェアリング」(分かれて暮らすか、一緒に暮らすか)、「眠れる番人」(普段と違う事態が起きた時に、機能が認められる種群)。「眠れる番人」は面白いなぁ。「減らない資源」という概念は少し新鮮だった。

●「イヤムシずかん」盛口満著、ハッピ−オウル社、2014年5月、ISBN978-4-902528-48-0、1500円+税
2014/8/21 ☆

 ご存知ゲッチョの絵本。ゲッチョは、生き物のリアルな絵は以前から描いていたが、これにはマンガちっくな子どもが出てくる。本のすみからすみまで見たが、他に絵を描いている人はいないようなので、この子どももゲッチョが描いたんじゃないかと思う。ゲッチョが人物を描くとは珍しい。そして、こんなキャラ化したのを描くとは。あまり可愛いキャラじゃないけど…。
 虫が好きな男の子が、虫がイヤな女の子に虫を紹介していくという趣向。アリ、ハチ、ケムシ、カメムシなど臭う虫、毒虫、テントウムシ、ゴキブリ、青く光る虫などと続いていく。全部見終わって、で?と思う。イヤムシが整理されて理解できるわけではないし、虫嫌いが虫好きになるわけでもない。結局、なんだったか分からない。


●「大草原のノネコ母さん」伊澤雅子文・平出衛絵、福音館書店、2014年4月、ISBN978-4-8340-8081-0、1300円+税
2014/8/15 ★★

 「ノラネコの研究」に続く、伊澤・平出コンビが送る第二弾。町中のネコを調べた前作と違い、オーストラリアの大草原で暮らす野性味たっぷりのノネコを調べにいく話。
 もちろんオーストラリアにもともとネコがいるはずがなく、人が持ち込んで野生化したもの。そんなネコは、同じく人が持ち込んで大増殖してしまったアナウサギを食べて暮らしている。面白いことに、ネコはアナウサギの穴の中に住み込んで、ウサギを喰ってるらしい。ネコがウサギを狩る様子は、サバンナでインパラを狩るライオンのよう。ちなみにオスは、まったく子育てに関わらないので、この本でも全く出て来ない。
 オーストラリアにネコが野生化してたら大問題。最後の方は駆除の話につながるのかな、と思ったらそうでもない。大草原でノネコ母さんががんばる話で終わる。ネコ好きとしてはそれでいいような、生態屋としてはそれでいいのかなぁ、とちょっとモヤモヤが残る。


●「コウモリの謎 哺乳類が空を飛んだ理由」大沢啓子・大沢夕志著、誠文堂新光社、2014年4月、ISBN978-4-416-11442-1、1500円+税
2014/8/15 ★★

 世界中にコウモリを見て回っている著者が、コウモリについてあれやこれやを紹介した本。
 目次が内容をよく示している。「コウモリっていったい何者!? 分類と進化の謎」「空を飛ぶための体 コウモリはどう飛んでいる?」「闇夜を飛ぶための超音波 コウモリの声は聞こえない?」「空を飛ぶメリット 昆虫・植物とのふしぎな関係」「コウモリの生活スタイル 洞窟だけがすみかじゃない!」「コウモリを観察しよう こんなところにもいる!」
 第1章は、イントロ。以前と系統に関する考え方ががらりと変わってるのが面白い。第2章はイントロの続きで、空を飛ぶ話。ジャワオオコウモリやインドオオコウモリは翼を広げると2m近くにもなるとは驚いた。第3章は超音波の話。うんちく満載。自分が超音波を出している間は、自分では聞こえなくしているとは! そしてジャミングしながらの急降下、ステルスシステムなど、コウモリとガの空中戦は、とても高度で面白い。コウモリの生態をいろいろ紹介している第4章も、うんちく満載。オオコウモリって、果実食と思ってたけど、ジュースをしがんで、その場で果肉は捨てるんだねぇ。これじゃあ果実食ではなく、ジュース飲み。ヒナコウモリ科の中には鳥を喰うコウモリが少なからずいるというのも驚き。40年以上生きる例もあるのも驚いた。第5章は、コウモリのすみかの話だけど、すでにエンディングっぽい。ヤシの葉をかじって巣をつくるコウモリがいるとは知らなかった。第6章はコウモリを観察しよう、となってるけど、これをみてもコウモリを楽しく観察はできないと思う。ここはもう少し工夫の余地があった感じ。
 挟み込まれる「世界コウモリ紀行」が楽しい。コスタリカのシロヘラコウモリ、サモアのサモアオオコウモリ、バリ島の寺にすみつくオオコウモリ、スリランカのインドオオコウモリ、オースチンのメキシコオヒキコウモリ。コウモリを見て回る旅って想像以上に楽しそう。大量のコウモリの延々と続く出洞シーンを一度見てみたい。ともかく、コウモリについてのあれやこれやを知ることができ、コウモリがけっこう好きになる一冊。


●「図解内臓の進化 形と機能に刻まれた激動の歴史」岩掘修明著、講談社ブルーバックス、2014年2月、ISBN978-4-06-257853-0、980円+税
2014/8/2 ★★

 呼吸器系、消化器系、泌尿器系、生殖器系、内分泌系と内臓を5つに分けて、脊椎動物を中心にどのような構造になっているかを紹介していく。最後には昆虫の内臓の章のおまけもある。
 進化を語っているかというと、けっこう微妙ではあるが、系統間の内臓を並べて比較してくれるので、進化について考える参考にはおおいになる。呼吸器系なら鰓や肺のみならず、咽頭交叉。消化器系なら胃や腸のみならず、食道や舌。泌尿器系では腎臓のみならず、体液調整法。あまり他では見ない部分も取り上げてくれている。鳥の呼吸システムの説明も分かりやすい(ってゆうか、ようやく理解できた!)。
 アリクイ、コウモリ、クジラは、呼吸と嚥下を同時に行える。的な小ネタもいっぱい仕込めるので、ホネホネ団的には、必須の一冊。ただ、たとえば鳥では、基本的にすべての鳥にそのうがあるかのように書いてある(むしろ、そのうがある方が少数派)。こういったちょっとしたズレが他の分類群でもあるんじゃないかと、少し気になる。


●「フルーツひとつばなし おいしい果実たちの「秘密」」田中修著、講談社現代新書、2013年8月、ISBN978-4-06-288222-4、1000円+税
2014/7/27 ☆

 ブドウからオリーブまで、47種類の果物を紹介。次の果物にいく前のページに、次の果物はなんでしょう?クイズがある。そのために無理矢理、各果物の解説を偶数ページにしている感もある。最初の方は、日本での出荷量ベスト10が並び、各果物に8ページもついやしているが、後の方になるとネタも尽きているらしく、2ページで終わりはじめる。内容も、最初の方は品種がらみのネタが豊富で楽しいが、だんだんネタがないことが露呈。その果物に限らず、果物全般や植物全般の話題が混ざってくる。無理が見える本ってのは、いかがなものかって感じ。
 個人的には、たまたま果物のタネ集めをしているので、興味深い部分も多かった。そうでなければ、果物を食べるときの、ちょいとしたうんちくを仕入れる程度の内容。


●「カリブーをさがす旅」前川貴行著、福音館書店たくさんのふしぎ2014年2月号、667円+税
2014/6/27 ★

 動物写真家がアラスカに行って、カリブーの大群を撮影する。言ってみればそれだけの話だけど、カリブーを狩って、カリブーのすべてを利用している人々の暮らしが交えられる。肝心のカリブーはというと、車で出かけても、飛行機を飛ばしても、カリブーはいても大群じゃない。カリブーの大群に出会うのは、思いのほか難しい。ってことを示すのにページがさかれ。5月はいったん断念。7月にもう一度挑戦して、カリブーの大群をようやく撮影する。
 とにかくアラスカの自然は雄大で、どこを撮っても絵になる感じ。とまあ、自然はいいのだけど、5月の失敗談でページを稼ぎ過ぎ。それでいて、カリブー以外の動植物はあまり出て来ない。個人的には、むしろカリブーを狩って利用する人々の暮らしが気になるのだけど、それも中途半端感が否めない。まあ、最後のカリブーの大群の写真はそんな不満を吹き飛ばすけど、構成は検討の余地があると思った。


●「MAKINO」高知新聞社編、北隆館、2014年2月、ISBN978-4-8326-0979-2、2200円+税
2014/6/27 ★

 植物学者牧野富太郎の生涯、人となりを紹介した本。自叙伝をはじめ牧野富太郎の生涯を紹介した本は数多い。他のを読んだことがないのでよく分からないが、たぶんこの本の特徴は記者が実際に牧野富太郎ゆかりの地に赴き、同じ体験をし、当時を知る人の話を聞き、過去と現在を交錯させながら話を進めている点にあるんだろう。赴く地は、利尻岳、屋久島、小石川、神戸、仙台、高知県佐川と日本中に拡がる。
 こんな一節がある。「植物学者は例外なく牧野に遭遇する。バッハを知らない音楽家などいないように」 植物学者でなくても、日本の生き物に興味を持てば、必ず牧野富太郎に出くわす。日本の植物学研究に大きな足跡を残したのは間違いない。でも、私生活はめちゃめちゃ。欲しい本は何でも購入、調査のために日本中を旅行。で、実家の身代は傾けるし、借金まみれだし、それを助けてくれた恩人にも偉そうだし。さらに、高知に妻がいなから、東京で”結婚(?)”。講演会や採集会での評判はよかったらしいが、私生活で付き合いたいとは思えない。
 一番印象に残ったのは、牧野が残した標本についての後日談のパートにあった。牧野富太郎が残した植物標本は約40万点と言われるのだが、それはすべて新聞紙にはさまれた状態で、マウントされていなかったという。採集データも新聞紙への走り書き。その標本整理には苦労したとのこと。ある関係者が語るこんな一節がある。「牧野先生は植物を採集し、研究し、論文を書くと、後の標本はカスだというお考えのようでしたから」。自然史博物館としても付き合いにくい人だったらしい。


●「スキマの植物図鑑」塚谷裕一著、中公新書、2014年3月、ISBN978-4-12-102259-2、1000円+税
2014/6/9 ★

 道端のコンクリートやアスファルトの隙き間、石垣の間、壁の割れ目。市街地にある様々なスキマに生える植物を写真と短いコラムで紹介した本。春から花の咲く季節の順に並んでいる。
 市街地で見かけるさまざまな花が取り上げられているので、タイトル通り図鑑としてもある程度参考になる。ホソバウンラン、ベニバナセンブリ、ユウゲショウ。実際、道端で見かけて気になっていた花の名前が判明した。
 写真にそえられている個々のコラムに、おおむね大した内容は含んでいないのだが、全体として読むと、演芸植物として持ち込まれ、一時は流通していても、逃げ出して日本に定着してしまい園芸価値がなくなるというプロセスが読み取れて面白い。でも、これはスキマの植物には限らない。
 スキマというのは、養分・水分は充分あって、なにより日光が豊富な場所である。という指摘は面白かった。だからスキマに多くの植物が生えるのだというのだけど、どんな植物がスキマをうまく使っているのか、スキマ使いが上手な植物は都市で重要な位置を占めるに至ってるのかなど、もう少しつっこんだ視点が欲しかった。


●「ときめき昆虫学」メレ山メレ子著、イースト・プレス、2014年4月、ISBN978-4-7816-1173-0、1600円+税
2014/6/3 ★

 近頃は、虫ネタのブログや企画でおなじみ(少なくともその筋ではおなじみの)著者が、自らの虫との出会いがつづった1冊。ブログで培われた文章はとても読みやすく、適度な脱線ぶりも楽しめる。
 取り上げられるのは昆虫に限らず虫全般。目次には、チョウ、ハチ、アリ、クモ、ホタル、タマムシ、ダンゴムシ、トンボ、ガ、セミ、カイコ、ゲンゴロウ、クマムシ、バッタ、コガネムシ、カタツムリ、コオロギ、ダニ、オサムシ、ゴキブリと並ぶ。その筋の先輩に採集に連れて行ってもらったり、専門家の話を聞きにいくところから話がはじまる。取材内容とその先輩・専門家の人となり、奇妙な行動、それについての愛に溢れつつもシビアな感想。虫自体についても面白いけど、そのやり取り、(著者自身も含めた)虫好きの奇妙な行動が面白い。
 虫好きだから、どんな虫でも愛さないといけないかと思いきや。ゴキブリは苦手と意外に普通なところが、正直に出てくるのは好感が持てる。ちなみに私は、オオゴキブリもダメだけどね。昆虫との出会いの本としては一押し、でも昆虫学的というより、人の行動についての本って感じ。
 帯からカバー見返しまで、著者が写り込んだ写真がやたらと出てくる。同じことをとあるオジサンがしてるのを、ボロクソに言ってた人が、可愛い女の子だから許すと言ったのには驚いた。可愛い女の子とやらは得である。


●「ずかんプランクトン 見ながら学習、調べてなっとく」日本プランクトン学会監修、技術評論社、2011年11月、ISBN978-4-7741-4809-0、25800円+税
2014/4/25 ★

 最初の「この本の特徴と使い方」にこうある。「この本は、種の分類をめざした本ではありません。生物の生態をできるだけわかりやすいように写真やイラストで解き明かし、プランクトンを中心とする水中の微生物のおもしろさを伝えることを、いちばんのねらいとしています」 その通りの本。
 単細胞の珪藻、緑藻、黄金色藻、藍藻、渦鞭毛藻、ユーグレナ藻、ハプト藻、繊毛虫、肉質虫、有孔虫、放散虫。多細胞生物のワムシ、介形虫、カイアシ、アミ、オキアミ、ミジンコ、ヤムシ、ヒカリボヤ、サルパ、端脚類、尾虫類、翼虫類、立方クラゲ、鉢クラゲ、管クラゲ、フウセンクラゲ。多様なプランクトンのグループから数種ずつ紹介される。アメーバって肉質虫の仲間なのか、などと思いながら写真を見ていくだけで楽しい。間にはプランクトンの採集法・観察法、ベントスの幼生、「ちりめんじゃこのお友だち」(チリメンモンスターとは言ってない!)もはさまる。いちばん気に入ったのは、円石藻(ハプト藻の仲間)の電子顕微鏡写真。綺麗やわあ。


●「ずかん落ち葉の下の生きものとそのなかま」ミミズクラブ文・皆越ようせい写真、技術評論社、2013年5月、ISBN978-4-7741-5691-0、2680円+税
2014/4/25 ★

 肉眼で見えるサイズの土壌動物を写真で紹介。ずかんとあるが、種名を調べる図鑑ではなく、土壌動物にどんなグループがあるかを知る写真集。グループを調べる図鑑と言えなくもない。
 第1章「やわらかいもの」には、ミミズ、ナメクジ・陸貝、コウガイビル、ヒル。第2章「あしがたくさんあるもの」には、等脚類、ヨコエビ、多足類、ダニ、ザトウムシ、クモ、カニムシ、サソリモドキ、ヤイトムシ。第3章「あしが6本のもの」では、内顎類、昆虫。と大きく3つに分けて紹介される。
 写真を見ていくだけでも面白いが、それぞれにコラムが付いていて、それを読んで行くのも楽しい。「ホタルミミズは意外に身近な普通のミミズだった」「青いダンゴムシ」「幻のコヨリムシを探せ!」「トビムシは昆虫じゃない?」「イシノミのからだ3大トピック」なんかは勉強になった。土壌動物を観察してみたくなる1冊。


●「生物から見た世界」ユクスキュル・クリサート著、岩波文庫、2005年6月、ISBN978-4-00-339431-1、660円+税
2014/4/25 ★★

 クリサートは挿し絵を描いてるだけで、記述はユクスキュル。文庫化される前はユクスキュル単著で発行されてたし、原著もそうらしい。どうして共著扱いにしたのか岩波書店の気持ちはよく分からない。それはさておき、原著は1933年に書かれた。日本での最初の訳本の出版は1970年。そんな本が、2014年に読めるとは、それだけでもすごいこと。
 中身はタイトル通り。動物は、それぞれの感覚世界に生きていて、動物の行動を理解するには、それぞれの感覚世界の理解が欠かせない。てな主張が展開される。今の研究者なら、そんなことは当たり前と思うだろうが、それでいて改めて読み返してみると、そこには現代の研究者が見過ごしている重要な側面があるように思えてならない。何度も振り返ってみる必要のあることを、さらりと書いてくれている感じ。
 もちろん書かれた時代は古い。ローレンツなど、当時のドイツが先進的だった動物行動学の成果に刺激を受けての考え。それでいて、まだ進化の総合説も遺伝子の実体も分からず、興味深いことに一度も進化や遺伝子という語すら出て来ない。序章にある機械論と力動論の対立は今読むとなんのことやら分からない。ややこしい特殊用語も多い。でもまあ、幸い短いのそれをかき分けて読みすすめるのはさほど難しくない。
 この本を初めて読んだのは、たぶん1980年代半ば。その時の詳しい感想は覚えてないが、心に残る1冊だったのは間違いない。30年ぶりに再読して、がっかりだったら嫌だなと思ったけど、充分再読に耐える。やっぱり色々と刺激になる。すごい本だなぁ。ちなみに、第8章「なじみの道」と第9章「家と故郷」、第11章「探索像と探索トーン」は、生息場所選択を通じて、動物の行動から、その社会や分布を考える上でとても重要な指摘をしてると思う。いまだに使いこなせないけど。


●「驚きのアマゾン 連鎖する生命の神秘」高野潤著、平凡社新書、2013年12月、ISBN978-4-582-85712-2、800円+税
2014/4/25 ★

 30年来、アマゾンに毎年出かけて1〜2ヶ月を過ごしてきた写真家の著者。今までも写真集とともにエッセイというか紀行文を出版してきた。その1冊。食をテーマに書いてることが多い気がするが、今回は生物多様性がテーマのような副題。それでいて実体は、アマゾンでどんな怖い目に会ったかを集めた感じ。
 第1章「初期のアマゾン体験」では、同行してくれた現地の人の狩猟や釣り、あるいは呼び寄せ(レメダル)の技の紹介。第2章「川と湖の世界」では、カヌーでの旅の様子。急な増水の恐怖、ワニや巨大なヘビ、危険な魚、怪音と怖い伝説。第3章「樹と森の世界」では、森の中でのキャンプの様子。危険な毒蛇、アリ、ハチ、危険な倒木や落枝、怪しい音と怖い伝説。第4章「土と地表の世界」では、穴だらけの地面、そこから出てくる毒ヘビ、ペッカリー、コルバの謎。第5章「空気と気配の世界」では、臭いで分かる危険や異変の徴候の話。生き物達との距離の話しも。
 30年の間に、アマゾンと言えども、どんどん開発が進み、人々は”文明化”されているという。原生林は失われ、野生生物が減少しているという記述があちこちに出てきて、残念な感じがただよう。それでいて、いまだにアマゾンの森の奥には呪術的な世界が息づいている様子がうかがえる。とくにまとまりがない1冊ではあるが、アマゾンという異世界の雰囲気を伝える1冊ではある。
 動物の名前は、現地名と英語名、和名がややもすれば錯綜していてややこしい。そもそも生物学の専門家ではないので、100%信じるべきではないかもしれない。それでも、あまり知られていない動物の暮らしの一端の記述もあり、それ自体は興味深い。


●「くらげる」平山ヒロフミ著、山と溪谷社、2013年10月、ISBN978-4-635-33060-2、1600円+税
2014/3/4 ★

 帯には「かつてない文系クラゲ読本」とある。その通りで、クラゲの形態、分類、生態を詳しく紹介するというよりは、クラゲに関わるなんでもかんでもを集めた1冊。
 序章である「クラゲの基礎知識」では、クラゲの形態や生活史が軽く紹介される。第1章「クラゲの毒」は毒の話し、危険クラゲランキングが発表されたりする。第2章「クラゲの生きざま」は少しクラゲの生態が語られる。生物学的なのはここまで。第3章「くらげに会いに行く」は水族館の紹介、第4章「くらげとカルチャー」は、マンガ、映画、ゲーム、ヒーロー物、ファッション、小説、地名、とにかくなんでもクラゲが出てくるものが紹介される。以降、第5章「くらげと日本語」、第6章「くらげと産業」、第7章「くらげと食」、第8章「くらげと一緒に暮らす」、第9章「もう戻れないあなたのために」と続く。
 一番力が入ってるのは、第4章な気がする。そういえば、ベニクラゲの人も自費出版の本の中で、同じようにクラゲが出てくる何でもを集めていたっけ。クラゲ好きにはこういうタイプが多いのかな、と思った。幸か不幸か、私はまだ戻れる。


●「生まれ変わる動物園 その新しい役割と楽しみ方」田中正之著、化学同人、2013年3月、ISBN978-4-7598-1352-4、1700円+税
2014/2/20 ★★

 京都市動物園など4つの動物園は、京都大学と連携して、動物園の動物の研究を進めている。京都市動物園に常駐して研究している著者が、今までの研究成果を紹介すると同時に、これからの動物園のあり方を紹介。 第1章と第2章で、前半半ばに達する。前半では、マンドリル、シロテテナガザル、チンパンジーに、タッチ画面を見せて数字を学習させるプログラムの様子が紹介される。霊長類研究所でのアイやアユムのプロジェクトでよく知られた手法。著者は実際アイのプロジェクトに関わっていた経験があり、それをほぼそのまま試したらしい。準備から、学習の進み具合、種や個体による違いなど、アイプロジェクトとは少し違った展開が面白い。
 後半は、まず第3章で、他の動物たちへの取り組みとして、ゴリラ、アジアゾウ、ブラジルバク、ヤブイヌの様子をビデオカメラを仕掛けて調べた例が紹介される。ゴリラは吐き戻し/食べ戻し行動、ゾウは夜の様子、バクとヤブイヌは出産がおもなテーマ。第1章から第3章までは、動物園の動物を調べることで、いろんな事が明らかになるんだなぁ、と楽しく読むだけ。
 第4章「動物園の飼育員はどんな仕事をしている?」からが、本当の主題が出てくる。まずは、キリンの飼育員が、キリンがどのように寝るかを調べる。続いて、ゴリラの飼育員が吐き戻し/食べ戻し行動を起こさせないために工夫したり、ゴリラの人工飼育の話。第5章「動物園はどんなところ?」では、一般に考えられる”レクリエーション”だけではなく、現代の動物園には”種の保全”、”教育・環境教育”、”調査・研究”を含めた4つの役割があることが紹介される。そしていまだに子どものレクリエーションの場としてしか見られないことを嘆く。最後にこんなくだりがある。「動物園の本来の役割を見直そうとする動きは、以前から始まっている。しかし、残念ながら、動物園を訪れる人々までには拡がってるとはいい難い。相変わらず、動物園は子どもを連れてくる場所だし」。類書があるようで、なかなかない。動物園での研究のリアル、動物との関係性が描かれているのが、いい感じ。動物園が好きな人にこそ読んでみて欲しい一冊。
 なぜか共感できたのは、キリンで調べたことが既存資料の結果と同じであったことをうえての、140ページのこの部分。抜粋すると「資料を読んだり、よそで聞いたりしたことを伝えようとしたら、「…だそうですよ」<中略>といった表現にならざるをえない。しかし、自分で実際に調べたことならば、「このキリンたちは、夜にこれだけ寝ています。こんな風な寝方をしています」と話すことができる。<中略>「キリンはどうやって寝るの?」こう聞いた人も、ここまで話してくれたら、納得するだろう」。それが、学芸員をはじめとする研究者がすべきことだね。


●「スズメ つかず・はなれず・二千年」三上修著、岩波科学ライブラリー、2013年10月、ISBN978-4-00-029613-7、1500円+税
2014/2/18 ★

 すずめ博士のスズメの本。かなり子ども向けな感じの前作「スズメの謎」と比べると、大人向け。こういう風に調べてみました〜、って紹介してた前作に比べると、引用を含めてスズメを紹介しようとしてる感じ。もちろん、日本のスズメの個体数、減ってるかどうか、電柱での営巣という持ちネタも出てくる。
 目次は、スズメの誕生、スズメの素顔、人がいないと生きていけない?、日本史の名脇役、農害鳥スズメ、スズメが減ってるって本当? 人とスズメの未来。スズメの紹介に始まって、歴史や文学に出てくるスズメ、稲作への害、そして持ちネタと続く。
 とっても読み易い。文章が分かりやすいのもあるし、知ってるネタが多いからでもある。(分かっていないという答えを含めて)スズメについての一通りが詰まってる便利な本ではある。
 止め卵の話は知らなかった。新潟県で放鳥されたスズメが、なぜか南にばっかり移動してるのも謎。勉強になった。


●「雪虫」石黒誠著、福音館書店たくさんのふしぎ2013年11月号、667円+税
2014/2/6 ★★

 秋から始まって次の秋まで、トドノネオオワタムシの一年を写真と解説で紹介する。
 4月、ヤチダモの枝先で、卵からかえった幹母が脱皮を繰り返し成長していく。5月、成長した幹母が、交尾をせずに、子どもを産みまくる。子を産み終わった幹母は息絶え、子ども達が成長していく。さまざまな虫に喰われまくる子ども達。6月、なんとか生き延びた子ども達が、翅を生やし、初夏の雪虫となって飛び立ち、トドマツに引っ越す。6から月から10月、トドマツの根っこについて、樹液を吸って3〜4世代をまわしていく。そして秋、いよいよ翅を生やした雪虫が登場。雪虫はヤチダモへ移動して、子どもを産んで息絶える。この子ども達、幹母から数えて6〜7世代目には、雌雄があって交尾をする。そして、卵を産んで息絶える。
 無防備で、いろんな虫にドンドン喰われる、あまりアリも守ってくれない。それでも生き延びて、ようやく雪虫にたどりつく。秋、トドマツの根からアリの巣のトンネルを通って出てくる雪虫。雪虫からとれた白いフワフワが付いて、その通路が白くなってる画像は、ちょっと感動物。
 秋にフワフワ飛んでるだけに見える雪虫の一年は、とてもややこしい。説明をさらっと読んだだけでは、よくわからないくらい。ちょっと整理が行き届いていない感じもする…。ともかく、勉強になる1冊。


●「牛乳とタマゴの科学 完全栄養食品の秘密」酒井仙吉著、講談社ブルーバックス、2013年5月、ISBN978-4-06-257814-1、900円+税
2014/2/5 ☆

 著者は、獣医系の研究者で、専門は動物育種繁殖学、研究テーマは、泌乳の開始と維持、停止機構を分子レベルで解明すること、らしい。そんな著者が、牛乳と卵について、飼育の歴史、生産の仕組み、栄養素、蘊蓄を語った一冊。
 おおむね前半は牛乳、後半は卵、最後に両者の健康との関わり、そして未来という構成。牛に有については、家畜としてのウシの歴史、日本での牛肉と牛乳の夜明け、牛乳の栄養分、牛乳を原料とした加工品と流れる。卵については、ニワトリの祖先と飼育の歴史、産卵用ニワトリと肉用ニワトリなど養鶏の仕組み、卵が生まれる生理的メカニズム、卵についての蘊蓄と続く。牛乳では、カゼインの働き、初乳の役割、生産量の変化の話は面白かった。卵では、効率よく産卵させるためのニワトリの飼い方、卵の細かい構造などの話は参考になった。
 とまあ興味深い話も多いのだが、かなり注意のいる一冊だと思う。気付いた限りでは、進化・分類や野生動物の行動に関わる部分には、控えめにいっても不正確な記述がしばしば混じっている。49ページ「乳で子育てする動物は哺乳類以外にないからである。鳥類などは孵化直後から親と同じものを食べる」、110ページ「公園に集まるハトでも捕まえることは至難である。鳥は警戒心が強く、野生の鳥が人に近寄ることは決してない」、112ページ「生息地が広いと、それぞれの地域に合うように独自の進化をするのが一般的だからだ(地理的隔離)」、113ページ「赤色野鶏とニワトリは同じ種である。ただ正確には赤色野鶏が種、それから派生したことでニワトリは亜種になる」、116ページ「最初に見た動くもの親と思い込むすり込みは水鳥に限られ、ニワトリには当てはまらないようだ。赤色野鶏も同様だろう」。113ページのニワトリ近縁種の分岐図の説明は頭が痛くなる。本筋とは関係ないとは言え、著者の執筆姿勢が伺える。繰り返されているのは、きちんと調べもせずに、自分の都合がいいように、勝手に断定するパターン。この辺りは詳しい分野なので、微妙に間違っていることに気付いたが、詳しくない分野については気付きようがない。という意味では、著者が得意な育種繁殖関連の部分はともかく、そうでもなさそうな部分、とくに歴史がらみの部分はあまり信用しない方がよさそうってこと。実際、よく読めば、ただ勝手に推論しているだけだな、って箇所も多い。どこまで信用できるのかが分からないのは、普及書としてはどうかなぁ、と思う。


●「日本の深海 資源と生物のフロンティア」瀧澤美奈子著、講談社ブルーバックス、2013年7月、ISBN978-4-06-257824-0、800円+税
2014/1/24 ★

 深海が得意な科学ジャーナリストが、深海大国日本を紹介した1冊。
 日本近海が世界有数の深海だらけの場所であることを紹介した上で。メタンハイドレート、熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、レアアース泥といった深海の資源。深海の生物相。深層循環や生物ポンプなど海と地球環境の関わり。近年注目されている深海絡みのトピックを順に紹介する。
 残念ながら、深海生物相についてはあまり目新しさを感じなかった。日頃不勉強な、深海の資源採掘のコストパフォーマンスや、海の挙動と地球環境問題の関わりは興味深く読んだ。知ってる分野から言えば、その筋ではすでに定番になっている事を、それなりに簡略化して紹介してくれている印象。ちなみに一番衝撃を受けたのは、深海の定義。水深200mより深い海を深海というのか〜。


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