自然史関係の本の紹介(2011年分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

和田の鳥小屋のTOPに戻る


●「きのこ ふわり胞子の舞」埴沙萠、ポプラ社、2011年9月、ISBN978-4-591-12563-2、1200円+税
2011/12/23 ★★

 きのこの写真絵本。だけど普通のきのこの写真とは、ひと味違う。きのこが胞子を飛ばしているシーンばかりが並ぶ。とても綺麗。
 終わりに、きのこが胞子を飛ばすシーンの撮影方法の解説もある。部屋を暗くして、向うから光を当てて、カメラで狙うらしい。それだけでこんなに綺麗な写真が撮れるとは驚かされる。写真にとらなくてもいいから、一度生で見てみたい。

●「種子のデザイン 旅するかたち」岡本素治監修、INAX出版、2011年9月、ISBN978-4-87275-857-3、1500円+税
2011/12/23 ★

 INAXブックレットの1冊。基本的には写真集で、少し長めのコメントが付いている。最後に岡本素治、小林正明、脇山桃子の3人が4ページずつ文章を書いている。間に7つほど岡本のコラムが混じるが、風散布に2つ、動物散布に5つと、やはり動物散布に愛がある様子がうかがえる。
 全体の構成は、風散布(29ページ)、水散布(7ページ)、動物散布(21ページ)という順番と分量。岡本の愛とはうらはらに、種子の形が面白い風散布と引っ付き虫を重点的に取り上げている感が強く、被食散布はほとんどない。
 見たことあるような種子ばかりなのだが、プロが撮影し、プロが編集し、プロが装丁するとこんなにカッコよくなるのか、と驚く1冊。

●「世界をやりなおしても生命は生まれるか」長沼毅著、朝日出版社、2011年7月、ISBN978-4-255-00594-2、1600円+税
2011/12/21 ☆

 大学の教官が高校生に向かってした生命についての授業を、授業スタイルを維持したまま採録した本。よく言えばライブアルバムみたいな感じ。実際は、対談集のふりをして、好きなことを書いてる(話してる?)本。
 全体講議の第1章はイントロ。第2章から第4章は、10人の高校生を相手に会話をしながら展開する。しかして、その実態は、高校生の短い質問や答えに対して、我田引水的に著者がしゃべりまくる。第2章は生命の形の可能性、第3章は数式で表す生命のデザイン、第4章は熱力学的に(エントロピーとか散逸構造とか)生命を考える。というのがテーマだけど、全体に通じるのは生命とは何かという問いかけ。
 個別には面白い話題がいっぱい。著者は生命とはなにかを長年問いかけてきただけあって、その周辺分野に詳しい。きっと授業に参加した高校生は勉強になったろうし、いい刺激にもなったろう。でも、会話で進められるセッションと、文字として表される本は違う。会話が面白くても本が面白いとは限らない(というか大抵面白くない)。この本を読むよりは、同じ著者の他の本を読んだ方がいいでしょう。

●「なぜヒトは旅するのか 人類だけにそなわった冒険心」榎本知郎著、化学同人、2011年1月、ISBN978-4-7598-1337-1、1500円+税
2011/12/21 ★

 タイトルよりも、帯に付いている文章が正確。旅を可能にしたヒトの特性とは何か?を論じた一冊。ここでいう旅とは、定期的な移動ではなく、ホームレンジから見知らぬ場所に出かけ、再び戻ってくる行動のこと。これはヒトだけに見られる行動であるというところから話は始まる。
 第1章は過去から現在まで、ヒトはさまざまに旅をして来たことが紹介される。第2章では動物の移動を概観し、それはヒトの旅とは違うことを主張する。第3章では、見知らぬ他者(すなわち”よその人”)への許容こそが、ヒトが旅することを可能にしていると宣言。第4章では、さまざまな民族で見られる旅人への許容、すなわち対等な関係が論じられる。第5章では、言語によるメタコミュニケーション(たとえば”ほほえみ”)が許容を生み出したと主張。第6章に、許容という利他行動がどうして進化したのかが語られる。第7章はエピローグ。
 よその人(=旅人)への許容が、旅(ここでは旅先で世話になってばっかりの旅)を容易くした事は受け入れてもいいけど、二つ大きな疑問が残る。そうした個体としての見返りのあまり期待できない非血縁者への利他行動がどうして進化したのか。よその人(=旅人)がもたらす情報の価値が充分な見返りになっているという結論のようだが、それは本当に一般論として成り立つのか? そして最大の疑問は、なぜヒトは旅するのか? 許容が旅を可能にするからといって旅に出る動機にはならない。肝心な質問には答えてない。どうして人類だけに冒険心がそなわったの? 本当にそれは人類だけ?

●「なぜシロクマは南極にいないのか 生命進化と大陸移動説をつなぐ」デニス・マッカーシー著、化学同人、2011年8月、ISBN978-4-7598-1463-7、2000円+税
2011/12/21 ★

 生物の進化と大陸移動を取り込んだ今時の生物地理学を紹介した本。リンネ、ダーウィン、ウォレス、ウェゲナー、ウィルソン、ダイアモンド。著者に言わせるとみんな生物地理学上の偉人となる。確かにみんな生物の地理的分布を説明しようとしたことがある。でも、そもそも生物地理学者ってくくりがなかったんじゃないかなぁ、という疑問はそこそこに、話はどんどん進んで行く。
 第1章でダーウィンとガラパゴス、第2章でウェゲナーとゴンドワナ大陸、第3章はガラパゴス諸島やフローレンス島での種分化、第4章はゴンドワナ大陸由来の生物の分布、第5章はニュージーランドや南米の特異な生物群と「南北アメリカ生物大交換」、第6章は海の生物地理学、第7章はヒトの生物地理学、第8章はエピローグ。
 全体的に分かりやすいストーリーはなく、次から次へと著者が思い付くままに情報が提供されている感が強い。生物地理学の比較的新しい研究成果が紹介されているのは参考になるが、それ以上ではない。でもまあ、大陸が動き回る舞台において、生物が進化しながら現在の分布にたどりついているイメージは伝わる。それで充分なのかもしれない。
 ちなみにパナマ地峡で北米と南米がつながると、北米にいた生物が大挙して南米に進出した。という話を聞いた後では、シロクマが南極にいないのは、クマが北半球で進化したからだよ。って説明だけでは不十分だと気付くよね? うがった見方をすれば、(原題とはぜんぜん違う)このタイトルは訳者が読者を試しているともとれなくはない。ただ、訳者は必ずしもこの分野に詳しく無さそうなので、たんなる勇み足っぽい気もする。

●「乾燥標本収蔵1号室 大英自然史博物館 迷宮への招待」リチャード・フォーティ著、NHK出版、2011年4月、ISBN978-4-14-081473-4、2500円+税
2011/12/19 ★★

 長年、大英自然史博物館に勤めてきた古生物学者が、大英自然史博物館の裏側を紹介した一冊。と言ってウソではないけれど、それだけには留まらない。博物館のバックヤードや博物館で働く人たちの素顔を紹介すると同時に、大英自然史博物館の歴史と、過去から現在の大英自然史博物館が直面してきた危機を明らかにする一冊でもある。
 第1章はイントロ。バックヤードの概要紹介。第2章は大英自然史博物館での研究の中心をなす分類学の基礎を紹介。第3章から第7章は、化石、動物、植物、昆虫、岩石・鉱物の研究室と研究者とその成果から、お気に入りの物を紹介していく感じ。第8章では、館長や女性スタッフに焦点を当てつつ、大英自然史博物館の歴史と現状が語られる。第9章は、大英自然史博物館の今そこにある危機と、未来への展望。
 はっきりとした階級社会。採用された後ろくに成果を出さない研究者。金を持っていた過去の大英自然史博物館が素晴らしいばっかりの場所だったかと言えば、ぜんぜんそうじゃない。でもまあ、上下関係で分かれてるのは感じが悪いが、研究者とキュレーターに別にいて、それぞれが研究と標本の収集・保存に専念できる環境は自然史博物館としてとてもうらやましい。
 大英自然史博物館と言えば、世界の自然史系博物館の総本山の一つ。ここだけは、潤沢な設備と資金とスタッフで世界の分類学や自然史博物館をリードし続けてくれる。と期待したいところだが、そうではないことが分かってかなりショックな本でもある。大英自然史博物館よお前もか。一方で、プロだけで分類学を支えることができなくなりそうな中で、著者が示唆しているアマチュアへの期待という点に関しては、日本はむしろ先進国かもと思わせる。

●「化石から生命の謎を解く 恐竜から分子まで」化石研究会編、朝日新聞出版、2011年4月、ISBN978-4-02-259977-3、1500円+税
2011/10/2 ★

 19人の化石の研究者が、自分の研究を、研究エピソードを交えて紹介している。まえがきに曰く、我が国の古生物学研究の最前線の紹介。
 20の話題が、「同定から復元へ」「生活を復元する」「起源と進化を探る」「ミクロの世界」の章にまとめられている。研究の手法や進み方を具体的に紹介しようとしつつ、難しすぎないように心がけられている様子。話題によって出来不出来はあるが、全体的には素人にも読みやすく書かれている。
 「化石を研究する」から「化石で研究する」への転換というフレーズが出てくる。さまざまな化石研究がさらさらと紹介されていくので、単なる同定・記載にとどまらない化石研究をざっとながめる感じ。ややこしい地学の話が苦手な生物屋には手頃だった。地学に詳しい人にはきっと不満がいっぱいだろう。

●「土のなかの奇妙な生きもの」渡辺弘之著、築地書館、2011年1月、ISBN978-4-8067-1413-2、1800円+税
2011/9/12 ★

 ミミズ・ヤスデ・ダンゴムシ・ダニから、シロアリ、陸貝、オキナワアナジャコ、ナギサハネカクシ。果てはヒメハナバチやプレーリードッグまで。狭義の土壌動物ではなく、多少なりとも土の中と関わりのある動物ならなんでも出てくる。

 ちょっと力をいれて書いてあるのは、ミミズ、ヤスデ、ダンゴムシ、外来生物といったところ。それですら一つ一つは短い。他は推して知るべし。次から次へといろんな話題が展開していく。興味深い内容が多いが、全体的にはまとまりがない感じは否めない。これを読んで興味を持ったら、巻末にあがっている参考文献を読んでみるといいだろう。


●「個性のわかる脳科学」金井良太著、岩波科学ライブラリー、2010年6月、ISBN978-4-00-029571-0、1200円+税
2011/9/6 ★★

 我々人間の一人一人の違いが、脳のどの部分のどのような違いに基づいているのか。こうした個人差を脳の構造で説明しようとする研究は、脳科学研究の中でちょっとした流行になっているらしい。その分野の現状を紹介した一冊。
 睡眠不足は不幸を招く。孤独感は伝染する。と書くと、テレビのバラエティ番組でいい加減に紹介されている科学と称するものを彷彿とさせる。が、きちんと調べた研究結果から、そうした現象があるらしいことが示されている。そうした興味深いトピックには事欠かない。しかしなんと言っても気になるのは、脳科学の進歩が社会に与える可能性。
 脳の構造が個人の個性を決めているとしたら、脳に刺激を与えるなどして構造を変え、個人の個性を変え、行動をコントロールし、さらには社会までも制御できるかもしれない。個人差の脳科学の発達は、こうした夢物語のような事を、現実の脳テクノロジーとして実現するかもしれない。SFの世界の話だとばかり思っていたら、あながち笑ってはすまされないちょっと恐ろしげな可能性まで見え隠れする。
 こんな設定の全体主義に陥った未来を描いたSFってよくありそう。それも1950年代あたりにありそう。でも、最新の脳研究を元に、改めてSFが書けそうな気がしてくる。とにかく脳の研究恐るべし。脳の研究のこれからの展開には注目しておかなくっちゃと思わせられる。

●「ペンギンのしらべかた」上田一生著、岩波科学ライブラリー、2011年7月、ISBN978-4-00-029582-6、1200円+税
2011/9/5 ★★

 タイトル通り、ペンギンがどのように調べられているかに焦点を当てて紹介。著者は、学校の先生でプロの研究者ではないが、世界各地の研究者の調査に同行して、あるいは国際会議に出席して、ペンギン調査の実情をよく知っている。その経験が結実した一冊。
 捕まえかた、泳ぎかた、食べかた、旅のしかた、見分けかた、暮らしかた、見守りかたという章が並び、それぞれのテーマのしらべかたや調査の様子を中心にさまざまなペンギンが紹介されていく。とても楽しそう。一度調査に付いて行きたい。
 ペンギンの本は数多いが、しらべかたがこれだけ紹介されている本はあまりない。不必要に技術面・理論面の詳細には入らず、それでいて要点がまとまっていて読みやすい。ペンギンをしらべる気がなくても、動物好きなら楽しめそう。

●「BATTRIP ぼくはコウモリ」中島宏章著、北海道新聞社、2011年8月、ISBN978-4-89453-6、1500円+税
2011/8/24 ★

 ページ数から言えば、7割くらいはコウモリの写真集。写真があって、そこに一言コメントが付いている。そのコウモリに行く前に、オオタカやキタキツネなど北海道の他の動物が出てくる。残り3割には、「コウモリのいちにち」と称してコウモリの暮らしぶりが簡単に文章で紹介されたり。巻末にはコウモリ撮影のノウハウや宮崎学との対談などが載っている。
 全体的には、なにを目指しているのか、どこをターゲットにしているのかわからない本。コウモリ以外のちょい役の動物の写真はいらないんじゃないかな。写真の合間で小さくコウモリのくらしを文章で紹介するなら、コウモリのくらしを写真を使って紹介するのを軸にした方がよかったんじゃないかな。最後の対談もいらない。
 興味深かったのは、気にぶら下がった枯れ葉の中で眠るコテングコウモリ。雪の中で丸くなって眠るコテングコウモリ。その画像もいいし、それを探す顛末記も興味深い。これを軸にしたらよかったのに。コウモリの撮影のノウハウの解説も、撮影してみたい人には役立ちそう。

●「生きもの上陸大作戦」中村桂子・板橋涼子著、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年8月、ISBN978-4-569-77959-1、860円+税
2011/8/24 ★

 実質的には、JT生命誌研究館の館長である中村桂子氏の単著。いつもの中村節が読める一冊。
 植物、昆虫、脊椎動物の陸上への進出の歴史(最初に陸にあがったグループは何かとか)を紹介し。陸上進出及び陸上での発展にともなって解決する必要があった課題を紹介(植物ならクチクラと気孔、配偶体、維管束。昆虫なら翅、羊膜。脊椎動物なら四肢、肺)。なぜか、植物なら花の進化、昆虫なら花との共進化。脊椎動物なら恐竜からの鳥の進化も取り上げられている。さらに生物の歴史上の起きた5回の大絶滅についてもページが割かれている。
 ここのトピックについては、コンパクトにまとまっているのかもしれない。化石研究だけでなく、DNA研究の成果も随所で紹介されているのが、大きなポイントだろう。そういう意味では、短時間でざっと知識を仕入れるにはいい本かもしれない。でも、全体として何がいいたいかはよくわからない。誰かの研究成果を紹介した後、”生命誌”の立場からなのか、著者の短い感想が付いているのが、読者によっては不要に思えるんじゃないかと思う。

●「不思議可愛いダンゴウオ」佐藤長明著、河出書房新社、2011年3月、ISBN978-4-309-27240-5、1400円+税
2011/7/1 ★

 とにかく可愛いダンゴウオとその仲間たちの画像が満載の写真集。赤からオレンジ色が多いダンゴウオ、背景も赤青黄色と、どのページを見ても色とりどり。北の海がこんなにカラフルだったのかと驚かされる。各写真には、写っているダンゴウオの実物大が示されているが、どれもとても小さい。海の中の小さい世界に、こんなにカラフルで可愛い生き物がいたんだな、と驚く。今度、海に行ったら小さい魚をよーく見てみよう。
 ここに登場するダンゴウオたちが撮影されたのは、宮城県南三陸町。発行日は、2011年3月20日。印刷はその10日くらい前でしょうか。あとがきは2月に書かれているので、東日本大震災についてはまったくふれられていません。しかし、このダンゴウオたちの海が、大きく変わってしまったのは間違いないでしょう。ダンゴウオたちが今も元気に暮らしているか、ダンゴウオに関わってたみなさんの消息を含め気になるところです。

●「新図説 動物の起源と進化 書きかえられた系統樹」長谷川政美著、八坂書房、2011年2月、ISBN978-4-89694-971-1、2400円+税
2011/7/1 ★★

 近ごろ盛んな分子系統学の成果を、哺乳類を中心に、鳥類と爬虫類もちょろっと紹介した一冊。哺乳類と鳥類、爬虫類、いずれも目レベルの系統の再編成が紹介される。系統関係を紹介してるだけで、その研究方法についての解説はあえて避けているようす。
 哺乳類でも鳥類でも、形態に基づく系統推定からみるととっても驚きの結果が、分子系統から出てきている。そして、どうもそれは正しいらしい。というわけで、分子系統の威力を実感できる内容ではある。が、著者も最初に述べている。「分子系統学にもさまざまな問題があり、決して万能ではないので、本書の系統樹のなかには将来間違いであることが明らかになるものもあるだろう」 このことは覚えておいた方がいいだろう。
 無愛想な内容を和らげるためか、やたらと生きた動物のカラー写真を多用している。その言い訳が、はじめにに書いてある。「最近の生物学は、分子生物学に偏る傾向があり、生物学を専攻していても実験室で扱う生物以外はあまり生物を知らない学生が多いように感じられるので、なるべく野生の状態で生きている動物の写真を多く使うように心掛けた」 塩基配列しか見たことがない動物が多いんだろうな〜。
 分子系統の成果をもって、もう一度、動物の形態や生態を見直したら、新たな発見もあるかもしれない。という意味で、まずはお勧めの一冊。それにしても、保存状態にもよるんだろうけど、数万年前に死んだ動物からもDNAが抽出されて分子系統の対象になってるんだね。マンモスやマストドンだけでなく、ナウマンゾウもぜひ調べて欲しい。

●「地球200周!ふしぎ植物探検記」山口進著、PHPサイエンスワールド新書、2011年2月、ISBN978-4-635-04727-2、860円+税
2011/5/9 ★★

 著者は有名な写真家。あのジャポニカ学習帳の表紙写真を担当している方らしい。その著者が世界中を飛び回って珍しい花を撮影したエピソードがつづられる。
 登場する花は、ショクダイオオコンニャク、ラフレシア、ハチと交尾するラン、土のなかで咲くラン、バケツラン、キノコにしか見えないヒドノラ、絞め殺しの木、奇想天外、オオオニバス、世界一乾燥した大地の花、アリ植物、中国の青いケシ。これがそのまま章のタイトルになっている。単なる旅行記や、撮影に出かけた時の苦労話かと思いきや、さにあらず。うまく花を撮影するために、その植物の生活史を知る必要がある。さらに著者は、送粉システムに興味があるようで、花にやってくる虫の観察も忘れない。おかげで単に珍しい花の紹介や、自慢話ではなく、生態学的にともて興味ある記述になっている。花と虫の関係を考えさせてくれるし、研究テーマもいっぱい含まれていそう。

●「山でクマに会う方法」米田一彦著、ヤマケイ文庫、2011年4月、ISBN978-4-635-04727-2、860円+税
2011/5/8 ★

 1996年に出版された本の文庫化。クマを探しに行くのを推奨しているのではなく、クマに会う方法がわかれば、クマを避けることもできる。まずはクマをよく知ろうというのが基本コンセプトらしい。
 30年近くに渡って、クマを追い続けてきた著者が、自身の経験に基づいてクマを語る。とにかくクマに接している回数が多いから、その調査エピソードがとても面白い。テレメトリーで移動を追い掛けているだけではない、調査が分かる感じ。
 ただ、1996年に書かれた本なので、ここ数年のクマの大量出没に関する記述はない。文庫版の後書きに少し触れられているが、山の実りの豊凶(ただしブナだけではない)を重視している様子。我々の問題意識が変わってしまっているので、かなり物足りない。
 初版のあとがきの最後の一文が気に入った。「あなたが山でクマにであったとき「あっ、クマだ」と、ただそれだけを言い、当然のように通り過ぎる日が来るのを願っている」 ヒグマでは難しいけど、ツキノワグマでなら、なんとかならんかな?
●「地球の発明発見物語」西村寿雄著、近代文藝社、2010年12月、ISBN978-4-7733-7739-2-1416-3、1600円+税
2011/4/21 ★

 大人はまず「あとがき(大人の人に向けて)」から読んだ方がいいだろう。この本は『地球物語』(1949年発行)という地質学の発明発見を物語風に紹介した本を、現代風に書き直したものとのこと。”子どもたちが楽しく読めるようにフィクションをからめた内容””その意味においては、この本は、すべて私の創作です”
 ピタゴラスから始まり、ダ・ヴィンチ、ビュホン、キュビエ、ライエル、アガシイ、ウェーゲナー。いろいろな地学畑の有名人が登場し、5〜6ページの中に、物語風のやりとりをはさみつつ、その業績が紹介される。
 正直、明らかに子ども向けに書かれているので、とくに物語パートは読んでいて気恥ずかしいというか、子どもの頃にこんなん読んだなぁ、という印象でしかない。また個々のパートの掘りさげが少ないことが、大人には物足りない。後半の研究者の姿が見えない章は、物足りなさばかりが気になり楽しくない。でも、前半の人物列伝風のパートは、思いのほか楽しく読める。それはパラダイムシフトを紹介しているからなんだろうと思う。
 どのような社会や研究者の常識の中で、どのようにパラダイムシフトが起きて行ったかに焦点をおいて、人物列伝を中心にまとめれば、大人が読んでももっと楽しいものになったんじゃないだろうか。そういった意味では、化石や人類の起源的な話題があるなかで、ダーウィン(だけでなくってもいいけど)の進化論の話題がないのは不思議な気がした。
●「シカと日本の森林」依光良三編著、築地書館、2011年2月、ISBN978-4-8067-1416-3、2200円+税
2011/4/19 ★

 四国での状況を軸に、シカによって危機的な状況にある日本の林を報告し、その対策を考えた一冊。
 第1章は、四国をフィールドとする編者が、四国の状況からはじめて、日本全体でシカが増えている現状と、その原因を考察し、各地で行われている対策を紹介。第2章は、四国におけるシカ問題が紹介される。第3章では、ヨーロッパの状況を紹介した後、シカ問題への対策を考える。
 四国からの視点でシカ問題を紹介されているのは、少し新鮮。ただ、あまりにローカルな話ばかりが続く第2章は読むのが辛い。第3章のヨーロッパの話は興味深い。その後のシカ問題対策の部分は、すでに語られたことのくり返し感が強く、中身もよく聞く話。第1章と第3章のヨーロッパの部分だけを読むのがお勧め。
●「生命は細部に宿りたまう」加藤真著、岩波書店、2010年10月、ISBN978-4-00-006276-3、1800円+税
2011/2/24 ★★

 入江やレキ浜の自然海岸、浅海底、氾濫原や火山性草原あるいは放牧によって維持される半自然草原、水田、原生林の林床、湿崖、地下水や伏流水。ふだん我々があまり顧みることのなさそうな、さまざまな生息環境が取り上げられ、そこに生息する生物が紹介される。その多くは、小さくとも日本固有種であったり絶滅危惧種であったり。いずれの生息環境も、海岸線の埋め立て、海砂の採取、放牧の減少、放牧の減少、原野の埋立、農業の変化、森林伐採、ダム建設などによって危機的な状態にあり、そこに生息する生物たちの未来も風前の灯火。データや理屈よりは、美しい写真と文章で、次々と失われて行く小さな生息地に暮らす、小さな希少種たちが次々と登場する。
 後書きにこうある。「本書は、これまであまり注目されることのなかった小さな生物たちの特殊で代替不可能なミクロハビタットに焦点を当てた。彼らの繊細かつ多様なミクロハビタットの偉大なる集合が生態系と生物多様性を形づくっているということが、うまく伝えられただろうか」少なくとも守らないといけないのはクマだけではないということが伝わればいいな。3章は中国電力のみなさんに謹呈しよう。みんなでコピーして送りつけてあげたらいいんじゃないかな。
 写真のキャプションを拾ってみよう。「ウミアメンボ類が滑走する入江」「7種ものミミズハゼ類が生息する礫浜」「スナハゼとそれが潜っていた粗いサンゴ砂」「ネザサ群落の中に出たササナバ」「静岡県で見つかったタヌキノショクダイ。花の大きさは径約6mm」「オニノヤガラの花に来たオニノヤガラクキモグリバエ」「オオジャゴケを摂食するコバネガの幼虫」「湿崖のシブキツボ」変な場所にいる色んな生き物をそこそこ見て来たつもりでいたけど、まだまだ色んな場所にいろんなものが暮らしてるんだな。

●「ニワトリ 愛を独り占めにした鳥」遠藤秀紀著、光文社新書、2010年2月、ISBN978-4-334-03549-5、820円+税
2011/2/23 ★

 解剖屋がニワトリについて語った一冊。とはいえ、解剖学的な記述はあまり見られず、ページを割いているのは品種の歴史と由来。
 第1章はイントロ。卵用や肉用のニワトリが日本でどの位飼育されているかなどが数字をあげて紹介される。第2章はニワトリの原種セキショクヤケイの紹介。第3章と第4章はそれぞれ、海外と日本のニワトリの品種の紹介。第5章はエピローグだろうか。
 全体的に冗長度が高い。いらないエピソードや例え話、著者の政治・経済・社会についての意見を省き、くり返しを減らせば、かなり短い本になるはず。で、残った部分を見渡すと、ニワトリの品種についての解説は、気になったら見返せばいい感じ。あとはセキショクヤケイと近年のヤケイ類、そして東南アジアのニワトリの系統関係を示した図は、見返してみると面白い。だいたいこんな感じ。通して読んだ感想は、何のために書かれたのかよくわからないというもの。著者の得意分野をほとんど封印しているのは何故?

●「煮干しの解剖教室」小林眞理子文・泉田謙写真・こばやしちひろ絵、仮説社、2010年7月、ISBN978-4-7735-0221-3、1500円+税
2011/2/19 ★★

 「仮説社 オリジナル入門シリーズ6」。タイトル通り、煮干しの解剖の仕方。というよりも、解剖したらどんな物が見えて、それが何か、何を意味しているのかなどを解説してくれる。頭と胴を分けて、頭を半分に割って、胴を半分にして、内臓を引っぱりだして。ほとんど道具いらずで解剖は進む。
 煮干しなんて小さい物を解剖しなくても、それも干涸びたんを解剖するなんて。と、読む前は思った。確かにそんなマイナス面も多いが、利点も多い。見なれた食材なので、解剖につきものの気持ち悪さがない。たいした道具はいらない。せいぜいピンセットと虫眼鏡。何より材料を手に入れやすい。安い! というわけで、学校関係者から始まって、理科教育関連業界で大ヒットしているらしい。
 干物なので内臓を見破るのは難しいが、でも意外とわかる。これで興味をもったら、一度生のイワシを買ってきて、解剖してみたらいいんやね。

和田の鳥小屋のTOPに戻る