自然史関係の本の紹介(2007年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

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●「まちのコウモリ」中川雄三著、ポプラ社、2007年5月、1200円+税
2006/12/22 ★★

 裏表紙には日本のコウモリ8種の顔写真が出ていて、日本のいろんなコウモリが紹介されているのかと誤解してしまいそうになるが、さにあらず。タイトル通り、街で暮らすアブラコウモリを全面的に取り上げた写真絵本。
 田んぼを、ビル街を、住宅地を、そして道頓堀川を飛んでいるコウモリの写真。簡単そうに見えるけど、暗い中を飛び回るコウモリを捉えるのは至難の技。かなりの時間をかけてとりまくった中から厳選したに違いない。さらにきちんとライティングされた飛んでるコウモリのアップの写真にいたっては、どうやって撮影したのか不思議。飛んでる虫を捕まえる瞬間の写真もすごい。でも、一番見てほしい写真は、11ページのうずくまってる写真。アブラコウモリがこんなに可愛いとは知らなかった。というわけで、コウモリの可愛さがいっぱいつまった写真集。著者がコウモリ好きなのがよくわかる。

●「モグラの生活」飯島正広著、福音館書店「たくさんのふしぎ」2007年8月号、2007年8月、667円+税
2006/12/22 ★★

 捕まえたモグラの生活を観察し、野外でトンネルを観察し、最後にモグラの巣を掘ってみる。その中で見えてきたモグラの色々な姿が紹介される本。
 一日の大半を寝て過ごし、断続的に起きて活動しているだけ。モグラの一日がそんなんだとは知らなかった。モグラの巣から生えるナガエノスギタケの話は有名なので今さらって感じ。しかし、相良さんが登場したのは懐かしかった。ちょうどナガエノスギタケがモグラの巣から生えることを見つけた頃に授業を受けていたのだが、授業中その話しばかりしていた記憶がある。
 写真としては、鼻先を潜望鏡のように上げて泳ぐ姿が面白い。巣の中の赤ちゃんモグラが、きも可愛い。

●「地球史が語る近未来の環境」日本第四紀学会・町田洋・岩田修二・小野昭編、東京大学出版会、2007年6月、ISBN978-4-13-063705-3、2400円+税
2007/12/15 ★

 はしがきを見ると、「本書は、数十年前〜数万年前に環境はどのように、またなぜ変わったかを調べるという研究の観点から、現在を理解し近未来の展望を試みるという趣旨で企画・編集された」という。1987年に出版された『百年・千年・万年後の日本の自然と人類』という本の後継書でもあるという。
 総論的な第1部の後、第2部で気候変動と海面変動、第3部では植物相の変遷・哺乳類の絶滅史・人類史、そして第4部では人による大気や地表や河川環境の改変の問題が取り上げられる。全10章の内、海面変動を取り上げた第2章が一番面白かった。あとは、上高地の自然を台なしにしようとしている施策を告発する第10章は必読かもしれない。
 第四紀学の研究成果の紹介だから仕方がないのかもしれないが、全体的に過去の現象の紹介をきちんとしている割には、近未来への展望が弱い。大部分の章は、過去の研究成果がなくっても、現在をみたら予想できる程度のことしか書いていない。それがものすごく不満。さらに後継書を作る機会があれば、近未来への展望にこそ力を入れてほしいところ。


●「生き物の持ち方大全」神谷圭介著、山と渓谷社、2007年8月、ISBN978-4-635-23022-3、1600円+税
2007/11/25 ★

 タイトル通り、いろんな動物の持ち方を紹介してくれている。クワガタムシ、カブトムシ、ゴキブリ、カマキリ、チョウ、インコ、ブンチョウ、カニ、ヤモリ、カエル、フェレット、ブタ、イヌ、ニワトリ、ハリネズミ、チョウゲンボウ、ウナギ、ヤスデ、タランチュラ、サソリ、ワニガメ、オオトカゲ、ニシキヘビ、ハブ、ミズダコ、スッポン。だんだん大きくなり、危険になり、あえて持たなくてもいいような動物になっていく。
 しかし、本書の特徴は、そんなところにはない。本を手にとってめくればすぐにわかる。マンガにイラスト満載で、ものすごーくふざけた雰囲気の本。文章もポップでギャグに走っている。それでいて、持ち方は大筋であってるし、危険な場合はきちんと注意書きが付いている。
 この説明で気になったら手にとってみたらいいだろう。でも、20分もあれば読み終わるので、買わなくてもいいかもしれない。


●「世界屠畜紀行」内沢旬子著、解放出版社、2007年2月、ISBN978-4-7592-5133-3、2200円+税
2007/10/18 ★★

 家畜を屠殺して肉にする現場。日本を含め世界各地の屠殺の現場を、イラストと共に紹介してくれる。仕事として屠殺を行う屠殺場もあれば、持てなしや儀式のために個人宅で行われる屠殺もある。舞台は、韓国、バリ島、エジプト、東京、沖縄、インド、アメリカ合衆国と世界各地に及ぶ。
 著者自身が実際に行って見てきた内容が、生々しく報告される。各地の家畜の処理の仕方、食肉となる家畜との関わり方は、とても興味深い。著者自身こうした世界各地の人と家畜との関わり方に興味を持ちつつ、同時に屠殺に関わる人々のその社会での立場という一つのテーマを追いかけている事が、このレポートを一層興味深くしている。すなわち、屠殺に関わる人は、あるいは屠殺という行為は、差別的な目を向けられているのか?
 屠殺は差別階級が行う仕事であった国があれば、誰もが行う国もある。現在では差別はないといいながら、一方で明らかに蔑むような発言も耳にする。屠殺という切り口から、民族の、歴史の、文化の、普段は気づくことのない深い部分が見えてくる。
 普段から、哺乳類の死体の処理には慣れている。そういう意味では死体の処理についてのイラストや記述はべつになんてことはない。皮の処理の部分などは参考になったりして。そんな輩にとっても、家畜の命を奪う瞬間はインパクトがある。正直苦手。いわんや普段動物の死体に縁のない人をや。でも、それが差別に直結するものなのか?というのが読み終わってもよくわからなかった疑問。まだレポートしていない地域も多い。続編を書いて、その答えの一端でも示してくれないものか。


●「正面を向いた鳥の絵が描けますか?」山口真美著、講談社+α新書、2007年7月、ISBN978-4-06-272446-3、800円+税
2007/10/12 ★★

 視覚における認知の問題を、絵を描いたり鑑賞したりするという角度から紹介する。互いにバラバラな話なようでいて、絵を中心にすえることで不思議とまとまる楽しい本。
 両眼視差や運動視差で我々が認識している三次元世界を、動かない二次元で表現するのは無理がある。となれば、立体感のある絵を描くには、そもそもかなりの工夫が必要。さらに複数の視点を絡めて、描くことこそ絵の醍醐味。顔に対する我々のこだわり、どんな要素があれば顔に見えてしまうのか。脳と連携した視覚の発達。形は目で見ているのではなく脳で見ている。さまざまな実験や研究結果を示しつつ、絵に関連した様々な視覚の側面を解説してくれる。
 この本を読んでも絵を描くのはさほど上手にならないが、絵を鑑賞する際の視点は得られるかもしれない。少なくとも蘊蓄の一つくらいは語れるようになるだろう。


●「屋久島の森のすがた 「生命の島」の森林生態学」金谷整一・吉丸博志著、文一総合出版、2007年7月、ISBN978-4-8299-0176-2、2500円+税
2007/10/3 ★

 屋久島の林の研究と保護活動の成果を、多くの関係者が分担執筆した本。紹介されるのは、かの有名な屋久スギ、活発な調査と保護活動が行われているヤクタネゴヨウ、そして照葉樹林とマングローブ。屋久島の代表的な林が登場する。
 著者の多くは研究者で、研究内容を屋久島の林の保全につなげようというスタンスが強く打ち出されている。多くの研究者が保全活動になんらかの形で関わっているという意味で、屋久島は日本では他に類のないフィールドかもしれない。かつて屋久島を舞台に打ち出されたオープン・フィールド博物館構想が、こういう形で継続してるんだなぁ。というわけで、屋久島の自然の過去・現在・未来を考えさせてくれるだけでなく、一つの研究フィールドのあり方を考えさせてくれる一冊でもある。
 気になるのは、分担執筆だけあって、同じ内容が別の章で何度も繰り返されること。著者によっては、抜いて書いてるのが見え見えなこと。分担執筆の割にはよくまとまってるとは思うけど。


●「昆虫擬態の観察日記」海野和男著、技術評論社、2007年7月、ISBN978-4-7741-3136-8、1680円+税
2007/9/28 ★

 日本を中心にしつつも、世界各地の昆虫の擬態やカモフラージュが紹介される。写真は美しく、インパクトも強い。葉っぱや花や枝へのカモフラージュ、チョウの擬態。そんな定番を押さえつつ、食べ残した葉っぱに似せたり、ヨモギの花序に似ていたり、鱗翅類の幼虫はなにかしらしてるらしいと思わせたり。コケの上で見事に見えなくなる直翅類、木の皮そっくりのカマキリ。今まで知らなかった見事な業師も登場する。アリに擬態したアリグモは知ってたけど、アリに擬態したカメムシ、カマキリ、さらにはアリギリスって。
 このように写真を見るだけなら充分楽しめる。問題は、写真の間のページにはさまれている解説文。おもしろい昆虫に出会った時のこぼれ話はいいのだけれど、中途半端に理屈が説明される。たとえば、最初の方にこんな文がある。
「自然選択説とは一口で言えば適者生存だ。」
控えめに言っても不十分、はっきり間違ってると言っていい記述だろう。これは例えて言えば、「博物館は展示をする施設だ。」と言ってるのに近い。世間一般はもしかしたらそう思ってるのかもしれない。でも、展示は博物館の仕事の一部に過ぎない。展示の背景には、資料の収集・保管や調査研究があるはず。アウトプットを考えても、展示とは普及教育活動の一部を成すに過ぎない。観察会や講演会、その他さまざまな活動をしている。ちなみに、博物館が展示だけかのような発言は、多くの心ある博物館人を一番ムッとさせるんじゃないかと思う。
 とまあそんな発言を進化についてしているわけ。この手の引っ掛かる文章が随所に見られる。よけいな解説をつけずに写真だけを並べて、その説明だけに終始したらよかったのに、たいへん残念な一冊。


●「コウモリのふしぎ」船越公威・福井大・河合久仁子・吉行瑞子著、技術評論社、2007年7月、ISBN978-4-7741-3135-1、1580円+税
2007/9/27 ★★

 表にでてる著者は4人だが、裏を見ると執筆者は10人。大勢で分担して、コウモリの分類、生態、行動、形態、系統とさまざまな側面を紹介した本。とくにエコーロケーション、社会行動、冬眠、系統関係は大きく取り上げられている。
 世界中のさまざまなコウモリ達が紹介されているので、それを眺めるだけでも楽しい。鳥屋的には、ある種の渡りをするコウモリをするというのは勉強になった。あと、コウモリの捕食者として、フクロウ類だけでなく、けっこうタカ類、カモメ類、カラス類が知られているのは意外だった。エコーロケーションの理屈は面倒なのでパスしてしまった…。しかし、その能力の高さには感心させられる。系統に関しては、コウモリ類だけでなく哺乳類全体の最近の系統が紹介されているので勉強になる。
 とまあ、コウモリについていろいろ載っていて、日本語で気楽に読める本としては一番詳しいコウモリ本。


●「都会にすむセミたち 温暖化の影響?」沼田英治・初宿成彦著、海游舎、2007年7月、ISBN978-4-905930-39-6、1600円+税
2007/9/23 ★★

 著者の一人はよく知ってる(今も隣の部屋にいる)。もう一人も知らなくもない。というわけで、この本を誉めると身びいきと取られかねない。しかし、なかなかいい本だと思う。そしてミュージアムショップで自然史関連本を仕入れている立場から言えば、現在日本語で読めるセミの生態の解説本は他にはないといってもいい(セミの特別展に向けてかなり探したが見つからなかった)。そういう意味でも、セミに興味があるなら必読の一冊。
 著者の二人は、ここ数年、大阪を中心に、クマゼミを中心に、様々な角度からセミの調査をしてきた。その調査結果の集大成とも言える一冊。論文にしていないデータをばんばん公表している気前のよさには恐れ入る。調査の多くは市民参加の中で進められてきた。見渡してみるとその多くに、多かれ少なかれ参加してきたらしい。調査参加者の一人としても感慨深い。
 さて、内容は、セミ一般の生態・行動の解説、世界各地(?)の都会のセミ事情、数年前の著者の一人のマイブームであるヒメハルゼミの分布などから始まるが、中心は大阪の都市公園で調べたクマゼミの生態。10年以上にわたって続けられている抜け殻調査、セミにマーキングしての移動距離・寿命の調査、網室でセミを飼っての生活史調査など。クマゼミは、ものすごく身近な虫であるのに、基本的な生態がどれほどわかっていないかがよくわかり、それをどこまで解明できたのかもよくわかる。
 ここで紹介されている調査は、時間はかかるがお金はかからない。誰でもその気になれば、調べてみることができる。この本をよく読めばわかるように、まだまだクマゼミの生態には謎がいっぱい。この本をきっかけに、自分で調べてみよう!という人が一人でも現れれば、著者達の苦労も報われるというもの。てなことを、著者も書いてたっけ。


●「砂漠化ってなんだろう」根本正之著、岩波ジュニア新書、2007年2月、ISBN978-4-00-500546-8、780円+税
2007/9/21 ★★

 著者によると砂漠化とは、「不適切な人間活動に起因する乾燥・半乾燥ならびに乾燥半湿潤地域で見られる土地の荒廃現象をさすことばである」とのこと。人間活動が関与しない気候要因によって砂漠ができることは含まない。湿潤地域で植生が失われる事も含まない。こう定義するなら、これは人間活動による自然破壊なわけで、なんらかの対策を打つことが求められる。一方、人間活動によらずにもともと砂漠である環境、一見不毛でも独自の生態系が発達している砂漠という自然環境は、きちんと区別することが重要。植物研究者の著者らしいしごく真っ当な主張が、全体に流れている。
 砂漠化の原因は、土地の許容範囲を超えた人間活動が考えられる。その中身として「過放牧」「降雨だけに依存している畑での過耕作」「灌漑農地での不適切な水管理」「森林の乱伐」の4つがあげられている。過放牧、過耕作、乱伐はわかるとして、不適切な水管理はちょっとわかりにくい。地下水を用いた灌漑は地下水位の低下をもたらし、長期的に周辺地域の砂漠化を進めたり。逆に地下水位の上昇が土壌表層への塩類の集積を招き耕作に適さないアルカリ土壌を作ってしまったり。安易な灌漑はかえって砂漠化を推し進めるだけであるというのは興味深かった。
 最終章では、砂漠化した土地の緑化について考えている。砂漠の緑化というと、とても聞こえがいい。しかし、著者は、砂漠の緑化と、砂漠化した土地の緑化の違いから話をはじめる。本来砂漠である土地を緑化するには他から水を運び込む必要がある。一方、砂漠化した土地はもともと植物が生えるだけの水があったはずなので、水を運び込まなくても植生を回復させられる可能性がある。常に水の供給や塩害対策が必要な砂漠の緑化は、長期的に維持するのがかなり困難を伴いそう。
 砂漠化には、社会的・政治的要因が絡んでいる。自立して安定して維持できる地域社会の確立こそが、真の砂漠化対策である。砂漠化といえば、遠い国の出来事のようだが、結局のところ解決策は、日本の里山の自然を守るのと同じ。砂漠化を通じて、人間と自然の関わりを、グローバルでいて、きわめてローカルに考えさせてくれる。


●「アフリカにょろり旅」青山潤著、講談社、2007年2月、ISBN4-06-213868-9、1600円+税
2007/8/17 ☆

 ウナギを研究している大学院生が、アフリカの幻のウナギ”ラビアータ”を求めてアフリカをさまよう話。旅は、マラウイ、ジンバブエ、モザンビーク、そして再びマラウイと戻る。行く先々で、ウナギが見つからない以前に、食に水にトイレにと苦労する。学術研究的な部分はほとんどなく、実質的に魚好きのバックパッカーの旅日記といったところ。
 多くの日本人にとって区別のつかないマラウイ、ジンバブエ、モザンビークの社会や人の様子の違いがよくわかる。厳しいトイレ事情、怪しい食事情を読むと行きたくなくなる。寄生虫が恐けりゃ、うかつに水も飲めないとは…。というわけで、いろいろ興味深い記述はあるものの、社会科学的ではあっても、自然科学的ではないかな。いろんな意味で、人類学的ではあるが。


●「野生動物発見!ガイド 週末の里山歩きで楽しむアニマルウオッチング」福田史夫文・武田ちょっこ絵、築地書館、2007年5月、ISBN4-8067-1348-1、1600円+税
2007/8/12 ★

 野生動物といっても哺乳類限定、そして北海道や南西諸島は除く。といいつつ、ジャワマングースだけは入っていたりする。
 各種について、フィールドサインなど生息確認の手がかりは何か、そしてその見つけ方を紹介した上で、実物に出会う方法を伝授してくれる。単なるフィールドサインの図鑑はある。哺乳類の観察ガイドもある。でも、フィールドサインを見つけるコツや、実物に出会うコツを指南してくれる本は少ない。企画としては面白いと思う。ただ、対象による情報の濃淡が大きい。
 各種の紹介に5〜9ページ程度。サルの研究者である著者だけあって、サルについては詳しい。ウサギ、シカ、カモシカ、イノシシ。大型獣に強いらしく、咲かれているページ数も多い。でも苦手な種類の紹介はかなりあっさりしたもの。
 動物の見つけ方に特化した内容なので、その生態や行動の紹介もそれに絡んだ部分のみ。物足りない人もいるだろうけど、そこはそういう企画だから仕方ないかも。


●「カイアシ類・水平進化という戦略 海洋生態系を支える微小生物の世界」大塚攻著、NHKブックス、2006年9月、ISBN4-14-091069-0、1071円+税
2007/8/11 ★★

 海のあらゆる場所、淡水、ときには氷河にまでも、地球のいたるところに分布し、種数・現存量のいずれから見ても大繁栄しているカイアシ類。その繁栄ぶりをカイアシ研究者が普及しようとする本とでも言えばいいだろうか。多くの魚の餌にもなり、海洋生態系を、ひいては我々の食卓をカイアシ類が支えてくれていることがよくわかる。
 第1章は、カイアシ類の進化の歴史が語られる。おもしろいけど、進化に興味の少ない人には退屈かもしれない。第2章以降は、進化を意識しつつも、カイアシ類の多様な形態・生態が紹介される。第2章は自由生活者が、そして第3章では寄生生活者が登場する。生物の多様性に興味があるなら、かなり楽しめるはず。
 難点といえば、意味のよくわからない水平進化という言葉。そして、そこかしこに見られる研究者についての記述程度。


●「ナチュラルヒストリーの時間」大学出版部協会編、大学出版部協会、2007年6月、ISBN978-4-903943-00-8、1600円+税
2007/8/08 ☆

 大学の研究者が3〜5ページ程度書いた自然史関係の文章が25話。前後や間のコラムには、大学出版会の編集者の文章も混ぜ込まれる。大学出版会の何人かの編集者のおもいがけっこう表に出ている。
 でも、編集の意図はあまりよくわからない。どんな発注受けたのかよくわからないが、各研究者は、それぞれ好き勝手に、そしてかなり軽く書いている感じ。全部を読んでも、とくに何も伝わってこない。個々には面白い文章もあるのだが…。


●「魔女の薬草箱」西村佑子著、山と渓谷社、2006年4月、ISBN4-635-81008-9、1500円+税
2007/7/26 ☆

 出だしはけっこう引き込まれる。魔女は裸になって全身に魔女の軟膏を塗って空を跳んでいたらしい。その軟膏のレシピが3つ紹介されていて、それで飛べそうにはないけど、トリップはできるかも。植物学の立場から、魔女の力を解き明かしてくれるのかと思った。その後、魔よけ草、媚薬などが紹介されていくが、植物学的な側面は影を潜める。効くのか効かないのかも曖昧だし、どうして効くとされていたのかもわからない。
 著者は、植物についてさほど詳しいわけではないことは、すぐにわかる。既存の植物図鑑で軽く他の本で調べているにすぎないと思う。中世の話をしてるのに、18世紀以降につけられた学名の意味を検討してる場面が何度もでてくるが、これは学名の意味がわかってないとしか思えない。
 むしろ、著者の興味は中世の魔女の真実の姿を描き出すことにあるらしい。魔女と呼ばれた薬草に詳しい女達、産婆や医者として活躍した女達が紹介されていく。その点は、門外漢であるからかもしれないが、興味深く
読める。でも、自然史科学の本ではない。

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