SF関係の本の紹介(2022年分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

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●「フォワード 未来を視る6つのSF」ブレイク・クラウチ編、ハヤカワ文庫SF、2022年12月、ISBN978-4-15-012392-5、1240円+税
2022/12/30 ★

 技術的な変革の結果で、大きく変化する未来をテーマに、6篇を収めたアンソロジー。
 ブレイク・クラウチ「夏の霜」。NPCが知性を獲得して、シンギュラリティに向かう。人が適切に育成したAIは、人に好意を持つのか?愛を学習できるのか?というテーマは面白い。
 N・K・ジェミシン「エマージェンシー・スキン」。人口爆発で環境破壊が進んだ地球から脱出して、新たな惑星に移住した人類の子孫が、人類が絶滅したはずの地球を再訪してみると、なんと人類が生き残っていた。それどころか環境も回復してる。その理由は…。って話。皮肉が効いた展開で面白いけど、古めかしくって割とすぐにネタが分かってしまう。フレドリック・ブラウンとかの作品を思い起こす。
 ベロニカ・ロス「方舟」。小惑星が衝突することが判り、できるだけ多くの遺伝子資源をかきあつめて、地球から脱出しようとする人類。スヴァールバルで植物の遺伝子とそのデータを登録しまくってる研究施設が舞台。こんなペースで意味のあるだけの種数を登録できるわけないし、同定できる訳もない(それならとっくに分類学は終わってる)。新種はもっと死ぬほど出てくる。いろいろ気になる。一緒に滅ぶ雰囲気は、「渚にて」な感じに近い。
 エイモア・トールズ「目的地に到着しました」。遺伝子に手を加えてのデザイナーズベイビーの上をいって、統計学的に子どもの人生までもデザインする。面白いけど、実現性には無理がある。人生に必ず第二幕とかがあるとは知らなかった。
 ポール・トレンブレイ「最後の会話」。主人公が目覚めると、知らない部屋で、色々と命令されて…。展開は面白いけど、意識とは何かという点を曖昧にしたら、とくにみるべき要素がなくなる気がする。
 アンディ・ウィアー「乱数ジェネレーター」。量子コンピューターで真の乱数が作れたら、ギャンブル業界には大変革の嵐が吹く。というネタで、大稼ぎって話。量子コンピューターって単語除いたら、割と普通な、けっこう古めかしい話。

 という訳で、「夏の霜」が一番良かった。あとは、面白いけど古めかしい匂いがする「エマージェンシー・スキン」「乱数ジェネレーター」。残り3作には無理を感じてしまった。未来を深堀り、ってほどではないような。
●「シュレーディンガーの少女」松崎有理著、創元SF文庫、2022年12月、ISBN978-4-488-74502-8、1400円+税
2022/12/27 ★

 6篇を収めた短編集。英題は「Girls in Dystopia」 。英題通り、ディストピアに生きる“少女”がテーマ。モラヴェックという愛称のAIが繰り返し出てくる。同じ時間線の連作なんだろうか。だとしたら、時間順には並んでいない。6篇すべてに、黒い手の形(痣、入れ墨、ロゴマークなど)が出てくる。これの意味がどこかで明かされるかと思ったのだけど、分からなかった。
 「六十五歳デス」。人口増加を食い止めるために、65歳で安楽死させられる世界。一番好きかも。
 「太っていたらだめですか?」 。肥満の人に人権を認めない政党が政権を握って、メチャクチャなイベントを企画する。怖い怖い。
「異世界数学」。一般人が数学的に考えることを禁止する世界。そこで数学の意味・楽しさを知る話。数学ってそうだったんだ、と思える。
 「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」。サンマが流通しなくなった未来。自由研究で、サンマの味を再現する。未来の小学生はハイテクだなぁ。
 「ペンローズの乙女」。遠い未来。宇宙に資源が、ブラックホークくらいしか残って無くて。
 「シュレーディンガーの少女」 。てっきり、ネコの代わりに少女を使うのかと思った。
●「時ありて」イアン・マクドナルド著、早川書房 、2022年11月、ISBN978-4-15-210184-6、2000円+税
2022/12/13 ★

 古書を商う主人公は、『時ありて』(E・L著)という本の中からベンからトムへの手紙を見つける。その手紙が書かれた場所と時期を調べるうちに、不思議な事実に行き着く。
 物語は、主人公が本にはさまれた手紙、それをやり取りしている二人の謎を解明していくエピソードと。砂利浜通りでの不思議なエピソードが交互に語られる。
 あちこちの『時ありて』にはさまれた手紙と、その調査によって深まるベンとトムの謎。二人は不死者なのか?
 二人の秘密、砂利浜通り、『時ありて』の著者。オチは綺麗なんだけど、だいたい分かってしまうので、驚きはない。
●「バイオスフィア不動産」周藤蓮著、ハヤカワ文庫JA 、2022年11月、ISBN978-4-15-031539-9、980円+税
2022/12/12 ★★

 5篇を収めた連作短編集。完全に独立した閉鎖系として完結するバイオスフィアIII型建築。その上、内部空間は、の広さ以外は、ほぼ自由にカスタム化できる。そんな建築が広く普及した世界。外部とのやりとりはオンライン、完全な引きこもり社会が完成していた。そして孤立した個々の世界の中では、それぞれに独特な社会が生まれていた。
 その建築物をつくった不動産会社のお客さまクレーム対応係が主人公。バイオスフィアの外で育った数少ない子どもと、ほぼアンドロイドのサイボーグの2人組。次々と異世界を巡るイメージ。そして、この世界の歴史、
 苦痛を尊ぶ宗教が支配しているはずの建物での痛み止めの出現、“子ども”だけになった育児施設、一人暮らしのはずが住人が二人に。そして、バイオスフィア の外で暮らしているはずのアウトサイダーの真実。さらに、唯一の不動産会社となった企業の真実。
 こうしたタイプの建物が出てくる設定は今までもあったけど、異世界探検みたいになるとは、新鮮。もっといろいろ展開できそう。
●「クレインファクトリー」三島浩司著、徳間文庫 、2021年4月、ISBN978-4-19-894642-5、850円+税
2022/12/11 ★

 AIロボットが開発され、ロボットだけで生産・管理する人間のいない工場、此先ファクトリーズで起きた反乱“ロボット戦争”。反乱はあっさり終息し、その跡地“あゆみ地区”は、日本全国から伝統工芸士が集まり、工房を開き「手作り・物作り」の魅力を発信する場となっていた。あゆみ地区では、行き場を失った未成年の若者を、里子として受け入れ、将来を考えてもらう場にもなっていた。
 主人公は、あゆみ地区に里子としてやってきて、あちこちの工房などで、アルバイトをして暮らしている。かつて反乱を起こしたロボットを探す開発者である里親。うまくいかないもう一人の里子との関係。少年の一夏の経験と成長が描かれる。

 ロボット以外で、もう一つのSF的要素が“分水嶺”。幸運のお守りや呪いの品物のようなものだけど、実際に幸運や不幸が起こる確率を、少しだけ変える品物。そういう物が実際にあると分かって、世界は一種のゴールドラッシュに湧いている。社会的混乱のため分水嶺を見つけたら廃棄することになっているが、それを求める秘密組織が存在し、裏では高額で取引される。そして、分水嶺の存在は、反乱を起こしたロボットが作成したレポートで広く知られるようになったのだった。分水嶺がどうして生じるのかが一つの謎。
 反乱を起こしたAIロボットには意識があったのか?というのが、もう一つの謎。なのだけど、こうした謎はある程度解決するが、世界に展開するわけではなく、物語は少年の成長物語に終始する。SF的にちょっと物足りない。
●「四元館の殺人」早坂吝著、新潮文庫 、2021年7月、ISBN978-4-10-180220-6、630円+税
2022/12/8 ★

 「探偵AIのリアル・ディープラーニング」「犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー」に続く、探偵と犯人のAIが対決するシリーズ第3弾。今回は探偵AIが主役で、犯人IAと対決するようでいて、どこか協力している。
 山奥の洋館で起きる殺人事件。雪の上の撲殺死体。周囲から離れ、雪の上に足跡はなし。探偵が到着したら、洋館へ行く唯一の橋が落とされる。館の中での密室殺人。絵に描いたようなミステリの展開というか、パロディのような展開。
 ミステリ王道の限られた登場人物の中での犯人捜し。と思ってたら、犯人もトリックもとてもSFで、本格ミステリファンは怒り出すだろう結末。確かにヒントは提示されてるけど、どこまで出来るかは提示されてないし。こんなの初めてだったので、面白かった。

●「走馬灯のセトリは考えておいて」柴田勝家著、ハヤカワ文庫JA 、2022年11月、ISBN978-4-15-031537-5、840円+税
2022/12/6 ★★

 6篇を収めた短編集。
 「オンライン福男」。福男選びといえば、十日戎の時に、兵庫県の西宮戎で行われる年中行事。コロナ禍で、オンラインで行われるようになり、どんどんエスカレート。
 「クランツマンの秘仏」。三重県の伊勢波観音寺の秘仏を、海外から研究にきたクランツマン。その研究のキーワードは、“信仰と質量”。信仰があると重くなる、という現象を、実験的に示そうとする。そして、秘仏で行われる最後の信仰実験。信仰-忌避によって、復活したり消滅したりするのか?
 「絶滅の作法」。人類がいなくなった地球で、人間のように暮らす異星人たち。
 「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」。宗教のミームを、実在する“宗教性原虫”として扱われる感じ。で、そのコンテクストで、火星に植民した人達の宗教が記述される。
 「姫日記」。時は戦国時代、毛利元就が少女で、その軍師として天下取りを目指す。という『信長の野望』的ゲームの話。作者のペンネームの由来?
 「走馬灯のセトリは考えておいて」。ライフログやSNSなどを総動員して、死者をデジタルに復活させる技術が広がった未来。元ネットアイドルが死ぬ間際に、若き日のアイドルとして復活して、ラストコンサートをしたいという依頼に応じる。その背後にあるアイドルの真実。生と死の境目が曖昧になる感じがいい。死者を生者と分け隔てなく扱う世代には、世代ギャップを感じる。
 一推しは、最後の表題作。最初の2篇も面白いのだけど、すでに他の作品集で読んでしまっていたので。


●「SFマンガ傑作選」福井健太編、創元SF文庫、2021年11月、ISBN978-4-488-78901-5、1400円+税
2022/11/21 ★

 1970年〜1980年に発表されたマンガ、14作家14作品を収めた短編集。作品は発表年順に並んでいる。作家は、手塚治虫からはじまって、星野之宣に終わる。間には、松本零士、石森章太郎(発表当時ノは入ってないし)、横山光輝といった少年漫画陣も並ぶが、萩尾望都、竹宮恵子、佐藤史生、水樹和佳子といった少女漫画陣が目立つ。高橋陽介は少女漫画陣と勝手に決めると、少年漫画陣7名と、少女漫画陣7名。驚くほどジェンダーバランスがとれている。これは編者の意図というより、けっこう現実を表しているように思う。
 ものすごく『おいどん』っぽい松本零士「ヤマビコ13号」は読んだ覚えがある。萩尾望都「あそび玉」、竹宮恵子「ジルベスターの星から」、佐藤史生「金星樹」も読んでる気がする。が、いずれも作者の他の似た作品と勘違いしてるかも。山田ミネ子「冬の円盤」は、最終戦争シリーズなので、間違いなく読んでるけど、覚えがない…。
 石森章太郎「胎児の世紀」諸星大二郎「生物都市」、水樹和佳子「樹魔」。微生物による侵略物、つまり一種のパンデミック物は、この時代に読むと感慨深い。というか、対策が色々気になる。高橋葉介は初期作品が選ばれていて嬉しい。初期の絵柄が好き。
 一番好きなのは、「金星樹」。作家としても佐藤史生さんは常にお気に入りだった。いやもちろん萩尾望都さんと竹宮恵子さんも。佐々木淳子「リディアの住む時に…」も好きだけど、これは元ネタなかったっけ?
●「ヒト夜の永い夢」柴田勝家著、ハヤカワ文庫JA 、2019年4月、ISBN978-4-15-031373-9、1000円+税
2022/11/16 ★

 主人公は南方熊楠、脇役も和歌山県出身者中心。中央の学会からつまはじきにされた学者や文人が集う昭和考幽学会。中央に目に物見せてくれようと張り切る集まりを利用して、昭和革命を目指す謎の眼帯の男。思考する自動人形を巡る、両者の14年にわたる“戦い” ?
 第1部は、昭和2年が中心。昭和考幽学会の面々が協力して、天皇機関あるいは少女Mと名づけた自動人形を作る。その頭脳部分を担当したのが、南方熊楠。完成のお披露目と思ったら。
 第2部は5年後。自動人形のコアをなす人工宝石をめぐる、怪人二十面相的な展開。天皇機関っていうけど、コアは粘菌なのなら、むしろ粘菌機関と呼べばいいのに。と思ってたら。
 第3部は、さらに4年後。二・二六事件というクライマックスに向けて、事態は急展開。ここで天皇機関に対して、粘菌機関が登場して驚いた。

 夢と現の関係というのが、全体を通じたテーマ。おりしも量子力学が世に出て、シュレディンガーの猫も登場しようかという時代。並行世界を行き来もしてそう。
 江戸川乱歩をはじめ、当時の有名人が総出演。国会議事堂には、ゴジラまで現れて暴れてくれる。
 南方熊楠といえば、水木しげるのマンガで描かれた人物像が印象に残ってる。豪放磊落で、糞尿・嘔吐にまみれたイメージ。そのイメージにぴったりに描かれていて、なぜか読みやすかった。
●「愚かな薔薇」恩田陸著、徳間書店、2021年12月、ISBN978-4-19-865347-7、2000円+税
2022/11/14 ★★

 夏休み、磐座という山村に中学生が集められて行われるキャンプ。古くから綿々と続くそれは、「虚ろ舟乗り」の適性を見極める。いや、そのための変質体への変化をうながす集まりだった。
 虚ろ舟乗りとは何か? 変質とは何か? 主人公の両親がいなくなった真相は? 夜な夜な事件を起こす木霊は、誰の中に潜んでいるのか? そして人類の未来は? さまざまな謎が提示される。
 秘密を抱えた山村、キャンプと並行して続く夏祭り、変質の過程で行われる吸血行為。わくわくする設定。恋愛模様や恐ろしい事件が、次々と起きていく。主人公の運命やいかに? たくさんの謎の解明に加えて、こうした要素もあって、するする読める。 
 萩尾望都版のカバーに、「これは21世紀の『地球幼年期の終わり』だ」と書いてある。これは、ネタバレすぎないかな?

 この舞台があるのは、関西。たぶん紀伊半島のどこかな気がする。よね? 地球で舞台になるのは、ほぼ山村のみ。そこから、宇宙へ、人類の未来へとつながる話になる。一方で、日本や地球の他の場所が驚くほど出てこない。あとから気にはなるけど、圧倒的な物語の中で、読んでる間は全然気にならない。
●「滅びの国」恒川光太郎著、角川書店、2018年5月、ISBN978-4-04-106432-0、1600円+税
2022/11/13 ★

 雑誌に掲載された3篇は、単独で成立するので、連作長編風。だけど、書き下ろしの合間の1章と最後の2章は、その間を埋める感じ。
 主人公は、不思議な世界に迷い込み、なぜかそこで幸せな暮らしを手に入れる。一方、地球には、白くて不定形のプーニーが増殖し、すべてを呑み込み、人に死をもたらし、社会は壊滅の危機に陥っていた。そして上空に浮かぶ<未知なるもの>。ファンタジックな(あるいはゲーム世界的な)<未知なるもの>の内部と、大災害に見舞われた地球の状況が交互に描かれる。
 解決した気がするけど、読後感がなぜかあまり良くない。SFとして書くなら、幼年期が終わるという展開もあった気がする。
●「ミラーワールド」那月美智子著、角川書店、2021年7月、ISBN978-4-04-110991-5、1650円+税
2022/11/12 ★

 男と女の立場が入れかわった世界。女尊男卑が隅々まで行き届き、男性を下に見る女性が多数派の世界。男性は事ある毎に偉そうにされ、性的な存在として扱われ、性的な嫌がらせを受ける。それに荷担する男性も多い。
 物語は、3つの家庭の夫の視点で交互に語られていく。どの家族にも子どもが2人、片方は中学1年生。中学1年の子ども達の視点が、やがて混じっていく。それぞれの家庭では、ジェンダーにも関わる家族の問題を抱え、子どもが性的被害にあったことを契機に、性差別問題がより強く認識されるようになっていく。とくに子ども達が希望となる。
 男尊女卑なこの日本社会を裏返して見せる。というのは、まあまあありがちな設定で、それ以上の仕掛けがない。これで新たな視点が開ける人がいたら、よほど不注意に生きてる人だと思う。そういう意味で、センス・オブ・ワンダーがなくて、SFとしては不満。
●「るん(笑)」酉島伝法著、集英社、2020年11月、ISBN978-4-08-771730-3、1800円+税
2022/11/11 ★

 3篇を収めた連作短編集。ある女性の夫、母親、甥っ子が順に主人公になってる、っぽい。舞台は、科学がないがしろにされ、非科学的なことが広く信じられている社会。まじない、占い、お祈りをベースに、御利益が多数派の行動原理となってる社会。まるで一億総、悪徳新興宗教の信者のよう。で、病院は危険な場所で、薬は害があり、本屋すらほとんどない社会。あと、寄生性現生生物を撒き散らして、ヒトを正しい判断のできない中毒に陥れる危険な生物(特定有害動物)として、ネコの飼育は禁止されている(これだけ何故か微妙に科学的)。そしてなぜかオセロが禁止ゲームになっていて、ゲーム名を言ってももらえない。
 「三十八度通り」。主人公は夜な夜な東経38度を歩く夢を見る。低緯度にさしかかって、日焼けがひどい。で、薬でしのごうとするのを、妻に非難される。
 「千羽びらき」。主人公は、病気になって千羽鶴をもらう。で、一つずつ開いて、折った人に御礼の電話を入れる。病気の原因(?)は、蟠り。でもその言葉を使うのは、言霊的に問題なので、“るん(笑)” っていうことに。病垂もよろしくないので、病は丙、痛は甬と表記されてる。ところが一方で、間、此、重などに病垂が付き、湯や座や溜や廊の篇が病垂に変わってる。なぜ? 留美ちゃんは、後半で病垂が付いた?
 「猫の舌と宇宙耳」。小学生が友だちと、立ち入り禁止の山に探検へ。へんな病垂はなくなった。

 という訳で、難しい漢字、知らない漢字、オリジナルな漢字?が頻出して、例によって読みにくい。そして、例によってアイデア盛りだくさん。おかげで、この変な世界に妙に馴染んでしまう。ある種、現実の日本社会とあまり変わらない。ところで、この世界で病院はどうやって生き残ってるんだろう?
●「タワー」ペ・ミョンフン著、河出書房新社、2022年9月、ISBN978-4-309-20865-7、2200円+税
2022/11/8 ★★

 地上674階建て、地上1500mを超える巨大ビル。正確には判らないけど、1フロアも一つの街ができるくらい広い(交通機関はないようだけど)巨大ビル、ビーンスターク。そして、この巨大ビルは、一つの国家として国際的に認められている。巨大なビルを舞台とした話としては、高さはさておき、1つの建物が一つの国という点では「チョンクオ風雲録」を思い起こさせる。しかし、あちらが都市国家内で社会が完結しているのに対して、ビーンスタークは周辺国との関係が多い(ビルに倒壊の危機が迫ると、周辺国に避難!)。人や物の行き来があり、下層階は周辺国向けのショッピングモールがあったりするし、外国のテロ組織ともめてたりする。

 ビーンスタークを舞台にした6篇を収めた短編集。が、付録が4つ付いていて、最後の用語辞典を除くと、それも作品のよう。つまり9篇が収められている。
 「東方の三博士 犬入りヴァージョン」。ある種の酒など、貨幣として流通する物がある。贈答に基づく“貨幣”の動きを調べることで、ビーンスターク内の権力構造を把握することができる。という視点でのビーンスタークミクロ権力研究所の研究。その結果、俳優Pという名の犬に注目が。俳優Pくんは、シリーズを通じた隠れた主役。
 「自然礼賛」。低所恐怖症の作家は、ビーンスタークから下りられないけど、スペインの別荘のリモートカメラを通じて、掃除に来てくれる人をながめるのが唯一の楽しみ。
 「タクラマカン配達事故」。広い沙漠に落ちた元恋人を見つけるために、世界中の人を巻き込んでの捜索作戦。この話のコア部分は、ビーンスタークを舞台にしなくても成立する。そして、このアイデアは時々見かける。好きだけど。
 「エレベーター機動演習」。垂直主義者と水平主義者の対立が激化して、やがて事件が。垂直主義者の主人公と、水平主義者の彼女の関係やいかに。不思議な地勢での、機動演習が面白い。そして隠しエレベーター!
 「広場の阿弥陀仏」。デモ隊を弾圧するために、騎馬部隊に続いて投入されたのが、1頭のアジアゾウ。アジアゾウ、阿弥アゾウ、阿弥陀ゾウ、阿弥陀仏。バンザーイバンザーイ。原文はどうなってるんだろう?
 「シャリーアにかなうもの」。テロの予告があって、てっきりミサイルが飛んでくると思ってたら、草。
 付録その1「作家Kの「熊神の午後」より」。寓話。シロクマとイルカ、そして熊神の話。
 付録その2「カフェ・ビーンス・トーキング 『520階研究』序文より」。「エレベーター機動演習」に言及されてた『520階研究』の序文。水平地域共同体は、筋トレさんの策略で、カフェ・ビーンス・トーキングという場を失って、崩壊した。
 付録3「内面表出演技にたけた俳優Pのいかれたインタビュー」。ワンワン。

 垂直運送業、上下階騒音法、垂直運送組合と水平運送労組、平面選挙区立体化法案。立てに高いと、面白い社会やシステムが考えられて面白い。上層階は暖房入れないと寒い、ってそらそうやろうなぁ。
 全体的に労働問題色が強いのが面白い。そしてキリスト教的イメージも頻出する。
●「平和という名の廃墟」(上・下)アーカディ・マーティーン著、ハヤカワ文庫SF、2022年10月、(上)ISBN978-4-15-012383-3(下)ISBN978-4-15-012384-0、(上)1600円+税(下)1600円+税
2022/11/6 ★★

 「帝国という名の記憶」の直後から始まる2作目。前作は宮廷劇とクーデターと王位継承の話だった。今度も宮廷劇(王位継承もかな?)がありつつの、ファーストコンタクト物。
 故郷のステーションに戻った主人公は危機に陥り、艦隊は帝国辺境で謎の異星人と対峙し、一方、帝国首都では次期皇帝が、有力者に踊らされて帝王学にいそしむ。主人公が艦隊に合流してから、異星人とのコミュニケーションが始まる。そして明らかになる異星人の正体。
 主人公を含めたステーションの人々が持つイマゴライン。帝国首都の警官サンリットの集団リンク。帝国艦隊の戦闘機シャードの乗組員からなるシャード部隊のシャードトリック。そして謎の異星人。知性体のリンクというのが、大きなテーマ。もちろん、愛も含まれるんだろう。
●「プロトコル・オブ・ヒューマニティ」長谷敏司著、早川書房、2022年10月、ISBN978-4-15-210178-5、1900円+税
2022/11/2 ★★

 事故で右脚を失ったダンサーが、AI搭載の義足をつけて、ダンサーとしての復活を目指す。そして、ロボットと人が共演するダンスの舞台作りを進める。主人公が、ダンサーとして新たな道を切り開こうとする一方。主人公の目標となるダンサーであった父親は、痴呆の症状が進んでいき。主人公は介護にも追われることになる。
 痴呆の進んだ父と、義足の息子の共演。義足を付けた人間、アンドロイド、そしてロボットアームの共演。2つの舞台が、2つのクライマックス。ダンスを通じて、言葉によらないコミュニケーション、あるいはコミュニケーションに見える状況を考える物語。
●「箱庭の巡礼者たち」恒川光太郎著、角川書店、2022年7月、ISBN978-4-04-111655-5、1700円+税
2022/11/2 ★★

 6つの物語と、間にはさまった5つの断章。ただ最後の断章だけは巻末に。物語と断章はゆるやかに結び付きつつ、6つの物語はそれぞれに違ったSF的テーマを紡ぎ出す。
 「箱の中の王国」は、箱庭宇宙の話。現実世界から観察できて、物や人を送り込むことはできるが、中から出てこられない。もちろんヒロインが箱庭に飛び込む。
 最初の断章は、その箱庭宇宙から、ヒロインの孫と吸血鬼が別の宇宙へ旅立つ。どうやらそれぞれの世界は、また別の世界につながっているらしい。
 「スズとギンタの銀時計」は、タイムトラベル物。ただし未来への跳躍しかできない。大正時代から現代までの姉弟の物語。
 2つめの断章。次元鉄道に乗った孫と吸血鬼の旅。まさに戦いが始まろうとした状態でとまった大昔の戦士達。
 「短時間接着剤」は、スズの孫の発明家の変な発明品の話。いたずらや犯罪者をいたぶるには便利かも。
 3つめの断章。発明家は、今度はAI内臓の多機能ロボットぬいぐるみシグマを発明。さりげに吸血鬼と銀時計。
 「洞察者」は、超能力物。能力をうまく使うのは難しいというありがちな話。シグマくんも登場。
 4つめの断章。スズが、ヒロインの孫と吸血鬼の物語に出会う。
 「ナチュラロイド」は、ロボットが人間を管理する社会の話。飾りでしかない人間の王様。こんな所にも、シグマくんが。
 「円環の夜叉」は、不死者の物語。時限のある世界、世界を渡る不死者。
 最後の断章。吸血鬼は、孫の孫とまた旅に。玄孫ってことか。

 物語と次の断章には、なにかしらつながり。最初のヒロインの子孫と吸血鬼。スズの子孫が産みだしたシグマ。登場人物でつながりつつ。数多くの世界の繋がりとして、現実世界を含めて、すべての世界はつながっている様子。
 タイムトラベル物と不死者の物語が、とてもよかった。他の物語も楽しいし、銀河鉄道のような次元鉄道も楽しい。
 吸血鬼と不死者。永遠というのは一つのテーマっぽい。タイムトラベラーを追いつめる存在あるいは作用、戦いを止めてしまった存在あるいは作用。この世界には謎の存在・作用がいるようす。後半、さまざまな場所に存在するシグマくん。シグマくんが全体に関係していると考えることもできる。と深読みできて、これまた楽しい。どっかにヒントがあったのを見逃したかな?
●「星霊の艦隊3」山口優著、ハヤカワ文庫JA 、2022年10月、ISBN978-4-15-031535-1、1120円+税
2022/11/1 ☆

 「星霊の艦隊1」「星霊の艦隊2」の続き。人類至上主義の敵による強力な兵器の開発を阻止するため、1対29で挑むおとり作戦。なんというか、AIの人間性を無視するから負けるねん。って話。敵方にも、AIの人権を尊重するのが出てきて、少し面白くはなった。でも、とくにSF的に新しい展開はないかな。
●「工作艦明石の孤独2」林譲治著、ハヤカワ文庫JA、2022年10月、ISBN978-4-15-031534-4、920円+税
2022/10/29 ★

 「工作艦明石の孤独1」の続き。
 地球など他の星系から孤立した惑星系が、いかにして文明を維持して生き延びるか?知識を持った人や半導体などの資源をいかに維持していくか。その試みが始まる。マネジメント・コンビナートを核にした新たな社会運営の仕組みが出来上がるのかも。社会実験のシミュレーションとして楽しい。
 一方、謎の異星人に、アブダクション的に“保護”されたエンジニアは、一人でファーストコンタクトを試みる。コミュケーションの確立プロセスが楽しい。
 とまあ、いろいろ楽しい。他の作品を含めて見渡すと、この著者が描くファーストコンタクトは、それぞれに違っていて、それぞれ面白い。
●「君のクイズ」小川哲著、朝日新聞出版、2022年10月、ISBN978-4-02-251837-8、1400円+税
2022/10/25 ★

 あるガチのクイズ番組の決勝の最終問題。相手は、問題文がまったく読まれていないのに、正解して優勝をかっさらった。これは八百長なのか?それとも、どうやってか正解を導いたのか?決勝で負けた主人公が、その謎に挑戦する。全体的にはミステリ仕立て。
 素人にとって、クイズは単なる知識量の勝負。しかし、競技としてのクイズは、問題文が読み進められる中で、答えの範囲が絞られていき、あるポイントで答えが確定する。その確定ポイントを見極めて、どこで解答するかを巡る戦い。それが主人公にとってのクイズ。いわば問題文が読まれる中で、答えの世界が徐々にせばまっていくイメージ。
 そして、この物語で明らかになるのは、主人公が思う競技クイズの世界の、さらに外側に拡がるクイズ世界。多重のクイズ世界イメージ。
 この作品は、普通に考えてSFではない。けど、せばまり、そしてひろがるクイズ世界のイメージは、とてもSF的と思う。
●「GENESIS この光がおちないように」宮澤伊織ほか著、東京創元社、2022年9月、ISBN978-4-488-01848-1、2000円+税
2022/10/24 ★★

 創元日本SFアンソロジーの第5弾。6篇を収めたオリジナルアンソロジー。「GENESIS」シリーズは、これが最後だという。来年からは、『紙魚の手帳』の8月号がSF特集になるとのこと。創元SF短編賞受賞作品の発表の場もそっちになるらしい。買い忘れそう。
 八島游舷「応信せよ尊勝寺」。『天駆せよ法勝寺』の長編版の序章らしい。物理学と並行して仏理学が存在する世界。仏理学で、宇宙僧をのせた九重塔が宇宙を飛び回る。そんな話の序章。佛パンクという分野らしい。幼くしてすごい仏理学的能力がある主人公が登場。仏理学関連の当て字を見ると、「皆勤の徒」を思い出す。はるかに読みやすいけど。
 宮沢伊織のときときチャンネル#3「家の外なくしてみた」。コミュ症の天才科学者と同居してる主人公が、自分のライブ配信で科学者の発明を紹介するシリーズ。ライブ配信での視聴者とのやりとりを交えつつ、SF話が展開。という安定の楽しいお話。並行宇宙かと思ったら、生成されてたとは。
 菊石まれほ「この光がおちないように」。人類とロボットとの最終戦争の後、主人公はタイジュを中心にした地下世界で暮らす。殺人事件の犯人として、地上世界に捨てられたら…。登場人物の名前がウトウとかイカルとか、鳥の名前。鳥の生態に絡んだ人物かと思ったら、あまり関係ないのが少し不満。期待したもんで。
 水見稜「星から来た宴」。土星の衛星タイタンをめぐる人工衛星で、外宇宙からの信号を探索する任務につく主人公。イヌと一緒に。そしてそれっぽい信号をキャッチ。
 空木春宵「さよならも言えない」。3つのタイプの“人類”が共存する世界。外見での差別を避けるために、生まれつきの外見ではなく、ファッションで評価が行われる。そのスコア至上主義の社会で、スコアの評価軸を決める役所の管理職と、スコアを無視する少女が出会う。
 笹原千波「風になるのはまだ」。デジタル世界へのアップロードが可能になった社会。デジタル化した人が、リアル世界での友人の“結婚”パーティに出るために、現実の人間に一時的にダウンロード。ダウンロードされた少女と、ダウンロードした女性、交互にそれぞれの視点で、パーティへの準備と様子が描かれる。

 今回は全編SF。最後の2編の並びがいい。正直言って、最初の1編以外は全部よかった(最初のは、物語の導入に過ぎないからねぇ。そしてこの世界の話自体はすでに読んでるので)。が、最後の2編はずっと覚えてると思う。奇しくもどちらもファッションがおおむねテーマ。
●「僕が君の名前を呼ぶから」乙野四方字著、ハヤカワ文庫JA 、2022年8月、ISBN978-4-15-031525-2、640円+税
2022/10/12 ★

 「君を愛したひとりの僕へ」のスピンオフで、「僕が愛したすべての君へ」のもう一つの物語だろうか。あるいは「君を愛したひとりの僕へ」の回答というか。暦と出会わなかった方の栞の物語。
 スピンオフなので、設定は同じ。少しだけ違う並行世界と、無意識に行き来することがある世界での物語。並行世界との交流を研究する虚質科学。その研究者の娘で、並行世界に行き来しがちな体質の主人公。その中学生から老年期までが描かれる。
 並行世界との交流が、あるようなないような。スピンアウトなのによく判らないままになる。本編ではもっと色々なことが起きるのに、スピンオフでは驚くほど並行世界との間で、事件が起きない。ちょっと不思議。
 でも、昭和通り交差点のレオタードの女という銅像。IPの表示がERROR。本編2篇と、同じ風景が登場する。世界がつながっていて良い感じ。またもや両親の離婚の危機が出てくる。そういう子がパラレル・シフトしやすいという設定? 最後には、あの場面が繰り返される。
●「未踏の蒼穹」ジェイムズ・P・ホーガン著、創元SF文庫、2022年1月、ISBN978-4-488-66328-5、1200円+税
2022/10/11 ☆

 数千年(?)からの未来、地球の人類は滅びていて、金星に文明が勃興している。その金星人が、地球人の遺跡を発見し、その研究の中で明らかになる衝撃の事実。
 ということなんだろうけど、地球人とそっくりな金星人、金星の生物に見られる2タイプのDNA。となると答えは他に考えられない。多少紆余曲折はあっても、謎解きにぜんぜんワクワクしない。読者は最初から判ってるのに、物語の登場人物は判ってないというのは、イライラしかしない。
 むしろ描きたかったのは、“外”の目から見た、地球人の社会、とくに政治のおかしさ。ってとこだろう。ありがちだけど、あり得る設定・展開。地球人の嘘と暴力にまみれた政治にあこがれる<進歩派>を出すところまではいいけど、進歩派の過激派の男が出てくる下りは、全部不要。おかげで読者は、そっちがメインの展開かと思わせられ気が散る。それでいて、展開が尻すぼみ。
●「SF作家の地球旅行記」柞刈湯葉著、産業編集センター 、2022年9月、ISBN978-4-86311-341-1、1600円+税
2022/10/3 ★★

 旅行好きな作家が、フワッとした目的で、気軽に旅行にでかける。その様子が書かれているのだけど、旅行記というほど、旅行の参考にはならない。ものすごく脱線しながら、興味を持ったことだけが、妙に詳しく書かれて、興味がなくなると、あっというまに次に行く。
 モントリオール辺りに行って、歩いて国境を渡り。石川県では能登半島の先端を目指す。上海にリニアモーターカーに乗りに行き、伊豆大島の東京沙漠を歩く。ウラジオストックでレーニン像をながめ、滋賀の湖中島に注目する。モンゴルには馬に乗りに行くけど、沖縄へは何しに行ったのかな? 名古屋から福島行くのに、青春18切符で大回り。静岡県で産出する石油を見学したと思ったら、千葉県ではチバニアンや鋸山を見に行く。茨城県では筑波山をディスって、霞ヶ浦をながめる?

 そして最後の2編は、架空編として月面と日本領南樺太に出かける。地球旅行記なのに、月に行くのはいかがなものか、とも思うが、それはさておき。ここまでと、まったく同じ調子で、月に出かけてお土産を買い、南樺太のロシアとの国境をながめにいく様子が語られる。ひるがえって、ここまでの旅行記もフィクションではないかと思ってしまう。

 著者は元は生物系の研究者なのに、けっこう鉄道マニアで(これはよくある)、地学系の興味が多め(詳しくないからネタ収集?)。全都道府県制覇の次は、全都道府県での宿泊だ!とか、無駄に離島に行きたがるところは、妙に親近感を覚える。県境とか国境とかが気になるという点は、あまり共感しないけど、イオンの中の京都府・奈良県の府県境というのは一度行ってみたい。
●「星霊の艦隊2」山口優著、ハヤカワ文庫JA 、2022年9月、ISBN978-4-15-031532-0、1060円+税
2022/10/1 ☆

 「星霊の艦隊1」の続き。主人公が命令を無視して勝手なことをしたおかげで、当面の戦いには勝利。あとは、次の作戦の準備と、同盟相手のAI独裁国の事情の話。とくにSF的に新しい展開はないと思う。
●「アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風」神林長平著、早川書房 、2022年4月、ISBN978-4-15-210128-0、1900円+税
2022/9/22 ★★

 「戦闘妖精・雪風」、「グッド・ラック 戦闘妖精・雪風」、「アンブロークンアロー」に続くシリーズ第4弾。
 基地に帰還したと思ったら、そこは元の基地のようで基地でない場所。という冒頭から、消えたジャムをおびき寄せるために、アグレッサー部隊を創設。地球から来た戦闘機との模擬戦の中で、ジャムとの戦いが再開される。
 量子論的に重なり合った世界に迷い込み、重なり合いの中に隠れるという展開が、とてもはまった。情報的存在であるジャム、ジャムと言って過言ではない雪風、ジャムとコミュニケートできる人間。ジャムが少しずつ判ってきた一方で、雪風が一層謎めいてくる。そして、今頃になって雪風が考えていることを探り始める。
 「アンブロークンアロー」では、同じテーマが繰り返されている感が強くて、今一つ楽しめなかったのだけど、今回はとても楽しく読めた。新たな視点が導入されたのが良かったのかも。相変わらず、登場人物はみな、理屈っぽく、自分一人で議論して、判った気になって行動する。それが楽しめるかどうかは、体調の影響があるような気がしてきた。ともかく、今回は続きが楽しみ。
●「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2」小川一水著、ハヤカワ文庫JA 、2022年2月、ISBN978-4-15-031506-1、820円+税
2022/9/20 ☆

 「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」に続く第2弾。辺境のガス惑星にほぼ孤立して、ガス惑星に暮らす”魚”を捕って暮らす人々。漁をする船は、男と女のペアで運行するのが当たり前の社会で、女同士のペアが、苦労するシリーズとでも言おうか。
 ペアの片方が、出身一族に掠われ、取り戻すための作戦を敢行。社会全体に及ぶ陰謀も絡んできて、社会の由来やらなんやらが、少し明らかになる。
 どうして、こんな辺境で苦労しているのか、そして”魚” の由来。いくつかの謎が明らかになってきたけど、SF的新規要素は少なめ。見所は“ニシキゴイ”の生態と、その漁のアクション。かな。主人公2人の会話で、話を進める場面が随所にあるんだけど、まともな会話になってなくて、イライラする。
●「最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集」キム・チョヨプ、デュナ、チョン・ソヨン、キム・イファン、ペ・ミョンフン、イ・ジョンサン著、河出書房新社、2021年12月、ISBN978-4-309-20844-2、1950円+税
2022/9/19 ★★

 6人の韓国のSF作家が、パンデミックテーマで書いたアンソロジー。
 最初の2編は遠い惑星での出来事。表題作は、宇宙の廃品回収業者さんが、パンデミックで廃墟となった惑星に仕事に行ったら、ロボット達と出会う。「死んだ鯨からきた人々」、居住可能な陸のない惑星で、人々は生きた群体生物“鯨”の上で暮らしていた。しかし、“鯨”の間で伝染病が拡がって、住む場所が失われていく。
 次の2編は、新型コロナウイルスに似た感じのパンデミック禍にある韓国での出来事。「ミジョンの未定の箱」、愛する人を失った主人公は、過去を想う。「あの箱」、まだワクチンも薬も開発されず、感染していな人たちは、感染して抗体をもった人々にケアされて部屋に閉じこもって生きていた。
 最後の2編は、パンデミック後の世界。「チャカタパの熱望で」、ツバを飛ばすことを忌避する社会では、言語も変容するって話。これは韓国語ネタなので、日本語に翻訳するの悩んだろうなぁ。「虫の竜巻」、人との接触を最小限にする社会で、いわば嫁入りする話。

 それぞれの国の作家の作品には、なにかしらそれぞれの国のカラーが出てくる。アジアのSFは、アメリカのSFとは雰囲気が違う。中国のSFには、抑圧と体制批判がそこここに見えて、東欧のSFなどと似た雰囲気を感じたり。で、韓国のSFには、なぜか日本と似た雰囲気があるように思う。それでいて、いろいろな違和感もあって、その加減がとても良い感じ。韓国SFかなり好きかも。

●「ショートショート実験室」田丸雅智著、エネルギーフォーラム、2022年6月、ISBN978-4-88555-523-7、1800円+税
2022/9/16 ★

 月刊エネルギーフォーラムという総合エネルギー総合誌、およびそのウェブ版に、2019年5月から2022年5月に掲載された作品30編を収めた短編集。ってことでいいのかな。朗読って出典があるけど…。1編は、7〜15ページで、文字もつまってないので、すぐに読める。1編5分もかからない。
 内容は、エネルギーや環境関係が中心。悪意、流行、貧乏ゆすりなどで発電したり、腹の脂肪がエネルギー源になったら、てな話は一つのシリーズのよう。レインファイバー、ブリミカン、砂モデルといった不思議な新製品シリーズもある。例えを文字通りにとってみたらシリーズでは、論理の木、バグ取り、泥を吐く、データマイニング、言の葉、腹の虫などが驚きの姿で出てくる。
 気に入ったのは、昼夜逆転になった世界を描く「夜行の子」とか、PはプラスチックのPって感じの「P申告」。「風屋」はアイデアと雰囲気が好きなんだけど、なんか展開が物足りない。冒頭の安定のバカ話「二酸化炭素バスターズ」も記憶に残る。
 全体に面白いけど、オチに苦労してるなぁ、と思うのも散見される。このオチから話を組み立てたんだろうなぁ、というのもある。連載は大変そう。
●「いつか深い穴に落ちるまで」山野辺太郎著、河出書房新社、2018年11月、ISBN978-4-309-02761-6、1300円+税
2022/9/15 ★

 「だって、近道じゃありませんか」、という不思議なノリで、日本からブラジルまでの真っ直ぐ直通の穴を掘る企画が起案された。時は戦後すぐ。それから数十年、紆余曲折はあったが、リニアモーターカーのトンネル工事を隠れ蓑に、密かに穴掘りは着工された。直通トンネルを掘るために設立された会社の広報担当が、いつか広報するための準備をする話。退職間際になって、驚きの展開…。
 ラファティみたいなホラ話、みたいな感じで読み始めたけど、もっと淡々とほんわかと時が経っていく。ところが、最後は急展開。読後感は、なぜかカルヴィーノみたいと思った。

●「スター・シェイカー」人間六度著、早川書房、2022年1月、ISBN978-4-15-210077-1、1900円+税
2022/9/14 ★

 人間にテレポート能力があることが発見され、野放しのテレポートによって多くの被害者を出した後、ワープボックス(WB)を使ったテレポートが移動手段の中心になった日本。地上の車道はなくなり、頭上にかつての遺構としての高速道路が残る。荷物をテレポートで運ぶプロがいて、障害などがあって自力でテレポートできない者は、運んでもらうことになる。
 主人公は、ある日、女の子を助ける。その女の子は“姫”で、追っ手がいて、姫を助けるために主人公は旅に出ることになる。舞台は高速道路上から、やがて宇宙にうつり、世界を守るために闘うことになる。みたいな。
  女の子に巻き込まれて、普通の男が旅をして、成長して、闘って、世界を救う。どこかで何度もみたような定番ストーリー。スターウォーズみたいな感じだなと思いながら読んでたら、ヨーダ役まで出てきた。いよいよダースベーダ−が登場、と思ったら、まさかの碇ゲンドウだった。エヴァンゲリオンだったのか。チェスの駒の名前の能力者たちは、使徒だったんだな。ただ、主人公は、第1章ではシンジ君だったけど、第2章以降急に人がかわったように、逃げなくなり、能力を発達させ、勝手に振る舞うようになる。

 高速道路上に国をつくって暮らしているロードピープルは面白いけど、どうやって暮らしているのか、よく判らない。そもそも都市の姿は描写してるけど、日本のその他の部分がさっぱり描かれない不思議。そういうSFはよくあるけど。
 タイトルにもつながる宇宙の危機は、「三体」を読む前なら、もっと感心できたかも。
●「サーキット・スイッチャー」安野貴博著、早川書房、2022年1月、ISBN978-4-15-210078-8、1700円+税
2022/9/12 ★★

 2029年、日本には完全自動運転車が普及しつつあった。自動運転のアルゴリズムを開発する会社の社長(アルゴリズムの開発者)は、自動運転車ジャックに遭う。拘束された社長に対し、犯人はアルゴリズムに隠された秘密を明かすように迫る。
 自動運転のアルゴリズムは、何を最適化するべきか。それによっては、こんな恐ろしい事態が起きうるとは。テクノロジーを駆使した犯罪に、同様に対抗していく。とても納得のいく展開の中で、テクノロジーの落とし穴が明らかになっていく。ワクワクしながら一気に読める展開。
 完全自動運転のアルゴリズムというフィクションを除けば、かなり現実よりの話。SFはそうじゃないという向きもあるようだが、こういうスペキュレーションこそSFということも言えるだろう。藤井太洋につながる路線。次回作が楽しみ。

●「さもなくば黙れ」平山瑞穂著、論創社、2022年1月、ISBN978-4-8460-2117-7、1800円+税
2022/9/12 ★

 コロナ禍から10年、日本では公共空間におけるバイザーと呼ばれる装置の装着が義務づけられている。バイザーは、考えていることを共有する装置とされ、バイザーを通じた問いかけに速やかに答えることが求められる。バイザーを通じた考えの共有を拒否する人、あるいはうまく共有できない人は、その旨が表示されるという罰則を受ける。そして、何を考えているのか判らない人として、多くの一般人から排斥される。
 すばやくいい加減な返答することができない主人公は、バイザーにうまく適合できず、引きこもり状態。あるきっかけで、同じような境遇にある人達の共同生活に加わる。が、排斥運動に出会って…。

 バイザーを受け入れない人を排斥する一般の人々の動き。この日本には、さまざまな形の”バイザー”が存在する。それどころか、バイザーを強引に導入する政府の動きは、テクノロジーが実現しさえすれば、現実の日本でも起きそうで怖い。
 終わり方が、ある意味現実的過ぎて、もの足りないとでも言おうか。あと一歩、バイザーを使った荒技展開とか、カウンターテクノロジーの導入とか、なにかあればSF的にもっと楽しかったかも。
●「爆発物処理班の遭遇したスピン」佐藤究著、講談社、2022年6月、ISBN978-4-06-527952-6、1600円+税
2022/9/11 ☆

 8編を収めた短編集。標題と帯から、SF短編集かと思いきや、SFと呼べそうなのは最初の2編のみ。SF読みを釣り上げる作戦に見事にはまってしまって悔しい。
 最初にある表題作は、爆発物処理班がエンタングルメントな爆発物に遭遇するだけ。タイトルそのまんまで、それ以上のアイデアはなく、解決もしない。SFとしても、あまり評価は高くない。
 「ジェリーウォーカー」は、映像作品の売れっ子モンスターデザイナー。そのアイデアの源泉は実は…。って話。はっきりSFで、嫌いじゃないパターンだけど、そんなに目新しいアイデアではない。なぜかゲルショッカーを思い出す。
 あとはSFではなく、一種のミステリなんだろうか。「シヴィル・ライツ」は落ち目のヤクザの悲哀みたいな話。「猿人マグラ」は、夢野久作の故郷で、子どもたちに伝わる謎のフレーズの話。「スマイルヘッズ」は、シリアルキラーのアートコレクターの話。「ボイルド・オクトパス」は、引退した警察官にインタビューに行ったら事件に遭遇したって話。「九三式」は、戦後すぐ、金の無い復員兵が斡旋してもらった仕事。は…。「くぎ」、元不良が真っ当な仕事をしていたら、真っ当じゃない案件に出会う感じ。シリアルキラーというか殺人鬼みたいなのがよく出てくる作品集。
●「楽園の真下」荻原浩著、文春文庫、2022年4月、ISBN978-4-16-791855-2、850円+税
2022/9/10 ★

 空港がなく、船で1昼夜かけて行くしかない孤島、志出島。英語でその名もRunin Island。固有のカラスバトまでいて、めっちゃ小笠原諸島を思わせるけど、小笠原諸島は別にあるらしい。その孤島で、巨大なカマキリが見つかる。そして、なぜか特定の季節に多数の自殺者が出ている。フリージャーナリストの主人公が、その二つを取材に向かう。
 あの話なんだろうなと思ったら、そのまんまだった。初めの1/3でその謎は説明され、残りは単なるパニック小説。面白くて一気に読めるけど。不満なのは、結局個人のラブストーリーに落ち着いてしまうこと。 どうしてその島で、どうしてそいつらが生まれたかの謎が完全に放置される。主人公が病院に行かなかったのが気になって仕方が無い。島でも事態は解決していない。そして、あのエンディング。もしかしたら続編を書くつもりなんだろうか?
●「虹のような染色体」夏凪空著、双葉文庫、2022年8月、ISBN978-4-575-52594-6、660円+税
2022/9/9 ★

 10万人に1人がかかるという後天的に性別が変わる病気。男子高校球児がその病気を発症し、体と心が変わる中で、本人の苦闘と、周辺の変化を描く。
 いきなり性別が変わって、という話はよくあるが、認識や周囲の対応が、徐々に変わるプロセスを描くことで、他の類似作品とは違った価値が生まれているように感じる。ただ、社会全体を見渡す視点がなく、結局個人のラブストーリーに終わっているのが、SF的には物足りない。
●「星霊の艦隊1」山口優著、ハヤカワ文庫JA 、2022年8月、ISBN978-4-15-031531-3、980円+税
2022/9/7 ☆

 光速の10万倍で、銀河系を又に掛けての戦争が展開される。いくら広くても、めっちゃ速いので、地球上で普通に戦争してるのと似てる。宇宙で言えば、銀河英雄伝説みたいな感じ。そういえば3つの勢力があって、回廊があるのも同じ。
 3つの勢力は、人間とAIとの関係が違っていて、人間中心主義でAIは物(あるいは奴隷)扱いな人類連合、人間を排除してAIだけのアルヴヘイム、人間とAIの対等なパートナーシップを目指すアメノヤマト。アルヴヘイムは、要はアールヴの国。星界の紋章しか思い出さない。そういや帯は森岡浩之。
 で、とりあえず今は、アメノヤマトとアルヴヘイムの連合の星霊枢軸が、人類連合と戦争中。アメノヤマトの性別未定の主人公は、どうやら重要人物らしい。

 そのAIが星霊。星霊とともにある人間は、ある年齢で性別を選ぶとか。星霊と人間のパートナーシップとか。AIと人間の二重構造の社会とか。いろいろなアイデアは面白いけど、この大日本帝国風の社会は、違和感だらけ。こういう社会に育った人間の感性が、その社会にフィットしてないと思う。
  そして、シンギュラリティに至ってそうなAIの動きがぜんぜん理解できない。3つの国いずれも不思議。アルヴヘイムはどうしてこの次元にこだわってるの? アメノヤマトのAIはどうして、人間に優しく付き合ってるの? 人類連合のAIはどうして温和しく奴隷のままなの?
●「ブルー・プラネット」笹本祐一著、創元SF文庫、2022年5月、ISBN978-4-488-74113-6、760円+税
2022/9/6 ★★

 「星のパイロット」「彗星狩り」「ハイ・フロンティア」に続くシリーズ第4弾。人類の目は、地球近傍から外惑星へ、そしてさらに遠くへ向かう。って話。
 最初のハッブル宇宙望遠鏡回収ミッションの後は、舞台は基本的にずっと地球上。合衆国宇宙軍が密かに進めていた「オリジン計画」。そのデータをハックして、大発見。しかし…。といったストーリーで、単純といえば単純。それでも宇宙に対するワクワク感は満載。
●「コワルスキーの大冒険」高千穂遥著、ハヤカワ文庫JA 、2022年2月、ISBN978-4-15-031511-5、840円+税
2022/9/5 ☆

 クラッシャージョウシリーズ。だけど、クラッシャージョウやアルフィンはほとんど出てこず、 クラッシャーは子どもが一人活躍するだけ。あとはいつもは敵役(というか銭形のとっつぁん役)の連合宇宙軍コワルスキー大佐が主人公。
 コワルスキーの艦は、ブラックホールに飛ばされて、見知らぬ惑星へ不時着。そこは立ち入り禁止の惑星で、そこの反テクノロジーな住民に捕まってしまう。と思ったら、そこに宇宙海賊がやってきて、住民と共に闘うことに。というよくある展開。
 そこはクラッシャージョウシリーズ。はたして、この惑星の運命やいかに?
●「掃除機探偵の推理と冒険」そえだ信著、ハヤカワ文庫JA 、2022年5月、ISBN978-4-15-031523-8、980円+税
2022/9/4 ★

 警察官が交通事故にあった、と思ったらルンバ的な掃除機に宿ってしまう。で、眼の前には死体が。その事件も気になるけど、同居してる姪っこに危機が迫る。とにかく姪を助けるべく、掃除機は道路を走る。その途中で出会った人を推理で助け、ようやく姪のもとに駆けつけたと思ったら…。
 掃除機に宿る設定は完全にファンタジーだけど、限られた状況下で事態を打開する発想は充分SF。そして限られた情報の中での推理は、けっこうなミステリ。なんかご都合主義的な設定や展開もあるけど、それは意外と気にならない。ハラハラワクワク一気に読める。
●「はじまりの町がはじまらない」夏海公司著、ハヤカワ文庫JA 、2022年8月、ISBN978-4-15-031530-6、900円+税
2022/9/3 ★

 MMORPGの<はじまりの町>の住人たちが、自分達の世界が終わるのを阻止するために立ち上がる。NPCが意識を持つ話の一つ。ただ、
  住人達は当初、自分達がゲーム内のNPCであるとは気づかない。市長の秘書官が抜群の推理力で、事実に気づく。そして次々と手を打っていく。かなり痛快。そして、多くのNPCは巻き込まれているだけで、ゲーム世界を守るために実際に立ち上がっているのは秘書官だけとも言える。ただ
 秘書官の推理力は異様に鋭すぎる気もする。怒られて巻き込まれているだけの市長がいるから、市長目線で楽しく読める。
●「神々の歩法」宮澤伊織著、東京創元社、2022年6月、ISBN978-4-488-01846-7、1800円+税
2022/9/2 ★★

 4編を収めた連作短編集。魚座の超新星爆発で滅亡した高次元文明の知性体その他が、地球に到達し、ヒトに憑依。憑依されて人間離れの能力を持った“神”。荒ぶる神々を、一人の女神が調伏していく物語。
 表題作の第1作は、女神登場。中国にて、サイボーグ戦士達がまったく歯が立たない相手を、ステップで倒すイメージ。第2作は、日本を舞台に、死の聖母と闘う。第3作はアフリカにて、エレファントな相手を送り出す。そして、第4作。北アメリカを舞台に、世界を改変する相手に、次元を超えて対峙する。世界がどうなったのかは、続編が出れば判るのかも。
●「まず牛を球とします。」柞刈湯葉著、河出書房新社、2022年7月、ISBN978-4-309-03056-2、1800円+税
2022/9/1 ★

 13篇を収めた短編集。なのだけど、あとがきも事実上、短篇だし、ボーナストラックもあるから、収められてるのは15篇なのかも。
 最初は表題作。牛肉培養工場の広報員の話。かと思ったら、恐ろしい異星人が地球を侵略してるやん!でも、その危機感は諦め混じりでさりげない。『渚にて』みたいな読後感。
 「犯罪者には田中が多い」。タイトルがすべて。もちろん色んなヴァージョンに展開できる。
 続いてショートショートが5篇並ぶ。「数を食べる」「石油玉になりたい」は、タイトル通りの不思議な話シリーズ。その中では、「東京都交通安全責任課」が妙な説得力があって好きかも。「天地および責任の創造」は、神が無責任なので、蛇が責任を創造したってことかな。「家に帰ると妻が必ず人間のふりをしています。」、もちろん不思議な家族ができる。「タマネギが嫌い」、タマネギみたいな変な星も嫌い。
 「ルナティック・オン・ザ・ヒル」。地球と月が対立して、月面で戦闘。で、この戦闘って、リアル?シミュレーション?
 「大正電気女学生 〜ハイカラ・メカニック娘〜」。ハイカラ・メカニック娘は、ラジオで妙な電波をキャッチする。
 「令和二年の箱男」。段ボール箱をかぶって外出する。コロナ禍にはピッタリ。エレファント・マンを思い出すけど。
 「改暦」。予報なき蝕だけは避けねばならん。蝕の予報は多いほどよい。中国の皇帝に使えるのは大変そう。
 「沈黙のリトルボーイ」。広島に落ちた原爆が不発弾だった世界。今度は爆発させるとまずいのか。

 とても楽しく読み終えた。なのに★1つなのは、この著者への期待が極めて高いから、もっと新たな視点を!と思うから。期待値が高いと、評価が厳しくなるのは、申し訳ない気もするけど。
 勝手に思ってることの1つは、著者はたたみかける不思議アイデアが魅力。細部にさりげなく、とても面白いアイデアが散りばめられていたり。この作風は、ショートショートに向いてるのだけど、ショートショートだと1アイデアで押し切ってることが多いように思う。となると、他のショートショート作家との差別化が弱くなる印象。1アイデアでも、充分独創的なのも多いけど、ちょっと物足りないことも多い気がする。期待値が高いから、申し訳ない。
●「AI法廷のハッカー弁護士」竹田人造著、早川書房、2022年5月、ISBN978-4-15-210138-9、2100円+税
2022/8/29 ★

 裁判官にAIが導入された近未来。AIをハックして、裁判に勝ちまくる弁護士が活躍する。4編を収めた連作短編集。
 AI裁判官による裁判という舞台で、最初の2編では、SFガジェット満載の裁判が行われる。メタバースでのブートストラップな再現実験、脳波でコントロールする義手・義足。でも、ハッカー弁護士の手法は、多分にアナログハック。SF味は満載だけど、軽い話かと思いながら読んでいたが、後半3編は、AI裁判官導入に絡む謎が軸になり、AI裁判官の問題が焦点になっていく。
 4編中2編で被告になる弁護士の助手の特殊能力が、とても魅力的。この能力はものすごくいろんな場面で活躍できそう。彼が主役の話を読みたいかも。
●「工作艦明石の孤独1」林譲治著、ハヤカワ文庫JA、2022年7月、ISBN978-4-15-031510-8、980円+税
2022/8/7 ★

 新たなシリーズ。宇宙で、ミリタリーで、社会論・文明論で、ファーストコンタクトで、そしてどうやら科学の復興物語になりそうな予感。
 原理不明のワープ航法を手にした人類は、他の恒星系に居住地を拡大した。しかし、居住星系の正確な位置は不明。どこにあるか判らない居住星系へは、地球からのワープでしかたどりつけない。そんな状況なのに、セラエノ星系から地球へワープしようとしたら、近傍の別星系にしかワープできない事態になった。孤立した居住星系の150万人にはいかにして生き延びるのか?
●「法治の獣」春暮康一著、ハヤカワ文庫JA、2022年4月、ISBN978-4-15-031520-7、1000円+税
2022/5/15 ★

 3編を収めた短編集。生物学的なテーマの話が並ぶ。
 「主観者」、地球外生物を探査するチームが、ある海洋惑星で、クラゲのような発光生物“ルミナス”を発見する。発光するのはコミュニケーションのためなんだろうか?と研究を進めるが。残念な大失敗の話。どうしてこのタイトルにしたんだろう?
 「法治の獣」、ある惑星で見つかった四つ脚の一角獣シエジー。知性は持たず個々の個体が自らの快楽の度合いで行動を決定するシエジーだが、個々の集団の中で出来上がる法が、人々から自然法と称してもてはやされる。記憶力がないので相互利他行動はない、としたすぐ後で、シエジーの法は学習によって集団全体に記憶される、という説明が意味不明。群れにとって都合がいい行動(生存に有利で、個体数を増やす)が、学習によって群れに広まるというのも、それだけでは説明になっていない。どうしてそれが“快楽”につながるの? というのをクリアするために不快衰弱を設定したんだろうけど、同時に不快な目に遭わす側に“快楽”がいるんでは? そして、なぜか群れ全体の快楽という不思議な概念が登場。この設定は無理があると思う。群淘汰といじめの原理みたいなのを結び付けるアイデアで押したいのは分かる気がするけど。無理なアイデアをフォローするために、また無理な設定が投入されている感が否めない。
 「方舟は荒野をわたる」、不規則な軌道をめぐる惑星。極めて過酷な環境で見つかった巨大単細胞生物“方舟”。細胞内共生を、発展させて、こんなことに行き着くとは。

 3編を通してのテーマは、知性とはなんだろうってことか。あるいは異質な知性とのコミュニケーションの難しさだろうか。生物学的なテーマだと、ある程度事情が分かるので、どうしても評価が厳しめになる。でも突っ込みを楽しめるのも事実。中途半端な群淘汰とかガイア仮説とかはいただけないけど。
 ★をもう一つ付けるか悩んだのだけど、どうしても表題作が引っかかるので。
●「獣たちの海」上田早夕里著、ハヤカワ文庫JA、2022年2月、ISBN978-4-15-031514-6、800円+税
2022/5/11 ★

 オーシャンクロニクル・シリーズの4編を収めた短編集。
 「迷舟」、迷い舟と、朋を持たない男の交流。
 「獣たちの海」、魚舟が大きくなって、獣舟に育つ過程を、魚舟視点で描く。
 「老人と人魚」、老人が浜で拾ったルーシィを、海に戻す話。
 「カレイドスコープ・キッス」 。作品集唯一の中編。赤道海上都市群に越してきた海上民の子どもが、大きくなって海上民の船団と都市との交流の仕事につく。いつ大異変が起きるか判らず、海上ではラブカが暴れ、獣舟の群れ迫り来る。不安定な時代の中で、海上民としてのアイデンティティに悩む。
  一人一人の悩みやドラマに関わりなく、やがてやってくる大異変。最後の作品が一番表題作にふさわしい気がする。
●「逃亡テレメトリー」マーサ・ウェルズ著、創元SF文庫、2022年2月、ISBN978-4-488-74112-9、760円+税
2022/5/11 ★

 「マーダーボット・ダイアリー」「ネットワーク・エフェクト」に続くシリーズ第3弾。3編を収めた短編集。安定の面白さだけど、ちょっと小粒が並ぶ。
 表題作。弊機は、ステーションでおきた殺人事件を、警備局と協力して解決する羽目になる。結局けっこう仲良しになる話。
 残り2編はほぼショートショート。「義務」は 「マーダーボット・ダイアリー」より前、何故か人助けしてしまう。「ホーム それは居住施設、有効範囲、生態的地位、あるいは陣地」はは 「マーダーボット・ダイアリー」直後。面倒なジャーナリストを追い払う話。
●「ハイ・フロンティア」笹本祐一著、創元SF文庫、2022年2月、ISBN978-4-488-74112-9、760円+税
2022/3/25 ★

 「星のパイロット」「彗星狩り」に続くシリーズ第3弾。なぞの超音速機に攻撃を受ける。その正体を探っていくと、敵は世界を影で経済的に支配する奴ら。と絵に描いたような陰謀論。ストーリーは楽しいけど、SF的ワクワクとは少し違う。
●「彗星狩り」(上・下)笹本祐一著、創元SF文庫、2021年12月、(上)ISBN978-4-488-74110-5(下)ISBN978-4-488-74111-2、(上)1000円+税(下)1000円+税
2022/3/22 ★★

 「星のパイロット」に続くシリーズ第2弾。4社の宇宙船が、莫大な利益をかけて、彗星への到着を競う。主人公の零細企業は、少ない資金を、作戦でカバーして善戦。
 出発するまでは、地球では、ライバル同士。でも、いったん宇宙に出ると、宇宙飛行士同士は、むしろ仲間として、トラブルに次ぐトラブルを助け合って切り抜けていく。騎士道精神的にハッピーエンドな感じがとてもいい。
●「大日本帝国の銀河5」林譲治著、ハヤカワ文庫JA、2022年1月、ISBN978-4-15-031510-8、980円+税
2022/2/2 ★★

 「大日本帝国の銀河1」「大日本帝国の銀河2」「大日本帝国の銀河3」「大日本帝国の銀河4」の続きで、完結編。ここまでも面白い設定で期待感を盛り上げていたが、完結編で一気にスケールアップして面白さ倍増。
 いよいよオリオン集団と人類との対決がはじまる。そして、時間的にも空間的にも、拡がっていく。もちろん、オリオン集団の謎が明らかになる。
 いきなり宇宙戦艦ヤマトですか!と思っていたら、「タイタンの妖女」をやるのか?と思わせつつ、最後は「三体」へのアンサーのようになった。そういう宇宙もあるかもね。
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