SF関係の本の紹介(2020年上半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

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●「天冥の標VI 宿怨 PART 2」小川一水著、ハヤカワ文庫JA、2012年8月、ISBN978-4-15-031080-6、760円+税
2020/5/30 ★

 「天冥の標VI 宿怨 PART 1」に続くシリーズ第6弾のパート2。でもまあ、これから読んでもある程度は分かりそう。
 ミスン族とのファーストコンタクトを描く、いわば「天冥の標VI 宿怨 PART 1」のアナザーストーリー、解題のような断章。
 そして、ミスン族のサポートを受けた<救世群>による、他の人類への攻撃がいよいよ始まる。そして、太陽系外へ向かう船も動き出す。
 それにしても、太陽系での人類同士の支配や対立の裏には、異星人がいすぎ。というか、ほぼ代理戦争のような様相。
●「天冥の標VI 宿怨 PART 1」小川一水著、ハヤカワ文庫JA、2012年5月、ISBN978-4-15-031067-7、720円+税
2020/5/20 ★

 「天冥の標V 羊と猿と百掬の銀河」に続くシリーズ第6弾。第6弾は3分冊になっているけど、別々に出版されたので、別扱い。
 2499年、数百年にわたって迫害を受けてきた<救世群>は、その他の<非染者>への報復をはじめる。<恋人たち>、<救世群>に合流した一部の<酸素いらず>と共に、その背後には、人類以外のテクノロジーの影が…。一方、アウレーリアは、太陽系外の惑星への航行計画を進めていた。
 第1章の「アップルハンティング」は、<救世群>のお姫様が、地球の生き物を運び込んでつくられた大自然の中で、遭難して、<非染者>の少年と出会う。一つの短篇として読める。ものすごくいい。この出会いが人類の未来を左右するところを読みたい。
 ロボット製造シェアNo.1と、食料品メジャーを傘下に収めたロイズ非分極保険社団が、実質上支配する太陽系の社会。その背後にも謎のテクノロジーが…。というのもワクワク。人類の背後に謎の異星人が、いっぱい。
●「時の眼」アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター著、早川書房、2006年12月、ISBN4-15-208783-8、2000円+税
2020/5/19 ★

 「タイム・オデッセイ」シリーズ1作目。21世紀のアフガニスタン辺りに派遣されていた国連平和維持軍のヘリコプターが不時着したら、そこには19世紀のインド駐留英国軍がいた。謎の球体が浮かんでおり、アウストラロピテクスの姿まで。
 なぜだか分からないけど、そこは約200万年前から21世紀までの様々な時代の地球がモザイク状に継ぎ合わされて、一つの地球になっているようだった。物語の舞台は、インド北西部から中近東、そしてモンゴル。そして、みんなバビロンに向かう。アレクサンドロス大王vsチンギス・ハンという夢の対決。
 結局のところ、何が起きたかは分かった気がするけど、誰がどうして起こしたかは分からないまま終わる。どうして一人だけ、コミュニケーションできたかも謎。後編へ続く。
●「スペース・オペラ」ジャック・ヴァンス著、国書刊行会、2017年5月、ISBN978-4-336-05922-2、2400円+税
2020/5/17 ★

 「ジャック・ヴァンス・トレジャリー」の3冊目。表題作の短め長編と、短編4篇を収めた作品集。
 表題作の「スペース・オペラ」は、宇宙大活劇ではなく、宇宙船で出かけて歌劇(オペラ)の巡業をする。それだけで嬉しくなって書いたのかも。地球の、それも西洋文明における文化であるところの歌劇を、異星人に見せて啓蒙しようという上から目線の面倒な奴らの話。その鼻っ柱が折られるのを楽しむ感じかと。スペース・オペラってそっち!というネタを思いついたんだろうなぁ。
 そういう意味では、「悪魔のいる惑星」も似た感じ。地球上で宣教師が、上から目線でキリスト教と西洋文明を広めたのと同じように、4つの太陽を持つややこしい惑星で布教しようとして、失敗する。
 「新しい元首」は、VRな元首選抜試験の衝撃の結末。元首とはどうあるべきか、って話。
 「ニルンの海」は、とある惑星の卵生の人間の中の異端児の話。
 「海への贈り物」は、とある海洋惑星の開発の話。地球人は、そこで改良したフジツボやナマコを養殖して、海水の中の微量元素を収穫していた。ところが、事件が起きて。海の不思議な生態系と、ファーストコンタクト。終わり方が、とても好きかも。
●「キャプテン・フューチャー最初の事件」アレン・スティール著、創元SF文庫、2020年4月、ISBN978-4-488-63723-1、1200円+税
2020/5/15 ☆

 エドモンド・ハミルトンの「キャプテン・フューチャー」シリーズをリブート。ってことらしい。「ヤング・スーパーマン」みたいな話。
 20歳のカート・ニュートンが、お馴染みの3人の仲間とはじめての事件に挑む。ってゆうか、両親の敵討ちに行ったら、恋に落ちたって話。そして、「キャプテン・フューチャー」誕生。って感じ。
 オリジナルに忠実に「キャプテン・フューチャー」な感じ。それだけに、イマドキのSFっぽくないのは否めない。
●「タイタン」野崎まど著、講談社、2020年4月、ISBN978-4-06-517715-0、1800円+税
2020/5/12 ★★

 今からおよそ150年後、世界は12基のAIが人間のすべての面倒を見てくれ、人間は働かなくても良くなっていた。そんな中で、日本にある1基が不調になって、趣味で心理学をやっている主人公が、カウンセリングすることになる。話を要約すれば、仕事に疑問をもったAIと、仕事する必要がないはずの人間が、仕事ってなんだろう?って話し合う話。
 章立てをみれば内容がちゃんと分かる。I就労で、主人公は無理矢理カウンセラーにリクルートされる。II傾聴で、AIと人間のコミュニケーションを確立し。III休暇で、仕事を離れて、面倒おこして。IV旅路は、AIと人間の話合いながらの旅行記。V対面は、AIとAIの乱暴なコミュニケーション、人間は人間でドタバタ。VI仕事で、仕事ってなんだろう?の答えと不調の原因が明らかになる。
 AIに面倒見てもらう未来社会が興味深く、とても面白い。んだけど、 オチは、いまいちな気がする。それなら、そもそも何が問題やったん?って思わなくもない。

●「ピュア」小野美由紀著、早川書房、2020年4月、ISBN978-4-15-209935-8、1700円+税
2020/5/11 ★

 5篇を収めた短編集。最後の1篇を除けば、女性視点、というより少女の一人称(最後は少年の1人称)。女性が、なにかに変わる話が大部分で、DVを含めて女性性がしばしば描かれる。ずっと一緒にいたいという想いも繰り返し現れる。
 表題作と最後の「エイジ」は、同じ少年が登場。少女と少年のそれぞれの視点で、同じ世界が描かれる。地球は環境破壊が進み、女性は遺伝子改変で鱗を持ち、セックスの度に相手の男を食べる。政治も戦争も女性がおこない、男性は単純労働をさせられつつ、いわば餌として育てられる。男性がこのペースで喰われるだけなら、数十年もあれば男性を食い尽くして、人類は滅びると思う。という意味で、もう少し社会についての設定をしてもらえないと、そこが気になってイライラする。何のためにどこと戦争してるのもよく分からないし。
 「バースデー」と「To the Moon」は、どちらも女性の親友が変わってしまう話。「To the Moon」は哀しすぎる話なので、「バースデー」の方が好き。
 「幻胎」は、かつて地球に文明を築いた異種人類を、現世人と交雑させる試み。本筋ではほとんど触れられないけど、そんな倫理的に問題のある実験が、こんなに雑に試みられているのが不思議。どうして元鞘なのかも分からなかった。

●「鉄の竜騎兵 新兵選抜試験、開始」リチャード・フォックス著、ハヤカワ文庫SF、2020年4月、ISBN978-4-15-012280-5、900円+税
2020/5/10 ☆

 他の銀河系からきた異星人ザロスに、絶滅寸前に追い込まれた地球人は、装甲機動兵団の活躍でかろうじて、生き残った。その後、ザロスの侵攻を生き残ったこの銀河の異星人との間で、同盟を組んだり、対立したりしている今日この頃。18歳になった主人公は、徴兵された装甲機動兵団を死亡する。
 というわけで、この手のミリタリーSFにありがちな、新兵の成長物語。少し違うのは、ひたすらしごかれて一人前の軍人に育つなかで、仲間や恋が絡む。という要素はさらっとしていて、意味の分からない選抜試験が、続くこと。同期と張り合うというより、なぜか生き残る感じ。そして、突然の実戦投入。一人前になって終了。
 乗ってるのは、モビルスーツやパトレイバーというより、機龍警察のドラグーンかなぁ。滅びた謎の超文明のお宝、サポートしてくれる死者? 今後への伏線が多数。仲間を助けて名誉の死を選ぶのをやたら賞賛する、一番嫌いな奴かも。
●「あなたはここで、息ができるの?」竹宮ゆゆこ著、新潮文庫、2020年5月、ISBN978-4-10-180188-9、520円+税
2020/5/9 ☆

 いきなり若い女性が死にかけてる。なかなか死なない。そこに宇宙人が現れて、主人公の恋愛がリプレイされる。その死を避けるために、時間線をかえるために。ってことなんだろうけど、理屈が雑で楽しめなかった。一種の夢オチ?
●「きみの血を」シオドア・スタージョン著、ハヤカワ文庫NV、2003年1月、ISBN4-15-041027-5、580円+税
2020/5/8 ★

 アメリカ軍の精神科医のもとに、ある患者が送られてくる。上官を殴っただけなのに、なぜ精神科医のもとに? なぜか精神科医による診断がはじまる。診断の一環として、子どもの頃から、現在に至るまで、主人公が自分の半生を書き記す。
 病弱な母親とDV親父のもとでの貧乏な幼少期。行き場のない子どもは、近所の森で狩りに慰めを見出す。盗みを働いて少年院に行き、両親と死別して親戚に引き取られ、近所の農場の娘と恋仲になり、軍隊に入り、事件を起こす。
 ここまでは、とくになんてことはない気がする。ところが、精神科医による診断が進む中で、驚きの事実が現れる。ホラーというより、ミステリ。読み返したくなる。まったくSFではないので、★を減らしたけど、小説としてはとても印象に残る。
●「スーパートイズ」ブライアン・オールディス著、竹書房文庫、2001年7月、ISBN4-8124-0782-6、590円+税
2020/5/8 ★

 13篇を収めた短編集。最初の3篇が、標題の映画の原案になったらしい。残る10篇は、「未来傑作短編集」と銘打たれている。一番最初の1篇以外は、1990年代に執筆されている。最後に著者によるエッセイが付いていて、標題の映画をキューブリックが映画化するというので、脚本化を頑張ったのに没にされて放置された、とぼやいてる。それをスピルバーグがようやく映画化したらしい。
 スーパートイズの3篇は、人口増で出産に許可がいる時代、ロボットが社会のあちこちに普及した時代の話。あるセレブな夫婦の元にいる少年とテディベアのロボット。少年は母親に愛されないことを悩んでいる。
  「未来傑作短編集」は、ファンタジーあるいは寓話が混じる。たいてい神絡み。「古い神話」は、人類の起源の頃、神の時代にタイムトラベル。「草原の馬」、馬型異星人が、太陽系をまるごと移動させる。
  「遠地点、ふたたび」、寒冷化が進む惑星、塔の上にすみ翼を持つ女性たちと、塔の下にすむ男性。「III」、空気といった資源を独占して、地球を、太陽系を、そして宇宙を支配しようとする企業の話。「頭がおかしくなりそうな事態」、自己断頭ってのを行うと寄付があつまるのかなぁ。「牛肉」、地球を救うために強引に菜食主義を普及させようと、牛を…。「休止ボタン」、カッとして失敗しないように脳内にポーズボタンを。
●「ロボットの時代[決定版]」アイザック・アシモフ著、ハヤカワ文庫SF、2004年8月、ISBN978-4-15-011486-2、700円+税
2020/5/8 ★

 「われはロボット[決定版]」に収められた以外のロボット物8篇を収めた短編集。著者自身による序と、各作品の解説が付く、アシモフ節満載の短編集。ちなみに[決定版]とは改訳版という意味に過ぎない。
 「AL76号失踪す」、月で働くはずのロボットが地球で迷子になって大騒動。「思わざる勝利」、木星人との闘い、というか外交交渉の思わぬ決着。この2作は楽しいコメディ。
 「第一条」、人間に危害を加えたロボットの話。「みんな集まれ」、東西冷戦の中、合衆国に爆弾を抱えたロボットが10台侵入していることが明らかに。10台が集まった時に大爆発…。それをどう防ぐか?!アシモフ版『11人いる!』。
 「お気に召すことうけあい」、ホストのような家事ロボット。「危険」、ロボットにはできないけど、人間にはできること。「レニイ」、役に立たないロボットの使い道。「校正」、完璧な校正を行うロボットは、人類から何を奪うのか?
 最初のコメディ2作は楽しい。でも、心に残るのは最後の「校正」。破れた英雄の話。

●「われはロボット[決定版]」アイザック・アシモフ著、ハヤカワ文庫SF、2004年8月、ISBN978-4-15-011485-4、724円+税
2020/5/7 ★

 9篇を収めた短編集。ずっとUSロボット社と共にあったロボ心理学者が、人生の晩年に、過去を振り返って語るという趣向。ちなみに[決定版]とは改訳版という意味に過ぎないらしい。
 最初の「ロビィ」以外は、ロボット三原則の抜け穴や、それが引き起こす事件を描く、一種のパズル小説。「堂々めぐり」「われ思う、ゆえに…」「野うさぎを追って」は、USロボット社の現場担当凸凹コンビが、水星、中継ステーション、小惑星でロボット絡みのトラブルに巻き込まれる。「うそつき」は、心を読むロボットの話。「迷子のロボット」では、紛れ込んだロボットを探す。「逃避」は、ロボットに人間の死のリスクを扱わせるか。「証拠」と「災厄のとき」は、人間離れした初代の地球統監の物語。
 単なる謎解きではない「ロビィ」 と「うそつき」が好き。というか、「うそつき」は哀しい。

●「地球の静止する日」ハリー・ベイツ他著、角川文庫、2008年11月、ISBN978-4-04-298001-8、590円+税
2020/5/6 ★

 けっこう最近に映画化された、かなり昔の作品を9篇集めたアンソロジー。
 表題作は、謎の宇宙船がやってきて、フリーの記者がこっそり潜り込んで取材する。こんなに簡単に潜り込めるのに、どうして他の記者は遠慮してるの?というのが最大の謎。タイトルの意味がよく分からない。
 「デス・レース」、人口増に悩む世界でのアメリカ大陸横断殺人レース。「廃墟」、会社と家庭に時間をとられて、本を読む暇もない男は、世界が滅んだ時…。「幻の砂丘」、西部開拓時代、時を超えた幻視が幌馬車隊を救う。「アンテオン遊星への道」、1年にもおよぶ航宙の間、移民を乗せた宇宙船の平和を維持するために。ここまでの著者は知らない。
 シマック「異星獣を追え!」、逃げ出した危険な異星獣を追う記憶喪失気味な主人公は、じつは。ソール「見えざる敵」、砂だらけの惑星で行方不明になったチームを救出に向かったら、ミイラ取りがミイラになりかける。エリスン「38世紀から来た兵士」、破滅的な戦争が続く未来世界、そこからやってきた兵士の使い道。フレドリック・ブラウン「闘技場」、謎の異星人との闘いのさなか、主人公はさらに謎の異星人に捕まって、闘いを強いられる。
●「未来少女アリス」ジェフ・ヌーン著、ハヤカワ文庫FT、2004年6月、ISBN978-4-15-020366-0、660円+税
2020/5/5 ☆

 「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」に続く、いわば「未来の国のアリス」(と訳者も書いてる)。本家と同じく、言葉遊びがいっぱい。原文がどうか分からないけど、大部分はちゃんと日本語の言葉遊びになってる。大変だったろうなぁ。でも、どうしても訳しきれずに“シビル・サーペント”とかはカタカナのまま。あと、人物名もロングディスタンス・デイビスとか、ギャグになってる(きっと気付いてないのも多い)。気になるのは、オウムの名前が、ホイッパーウィルってとこ。最初はてっきりヨタカかと思った。
 という訳で、このアリスは、オウムを追いかけて時計に入って、1998年にタイムトラベルしてしまう。そこは人間と色んな動物(あるいは家庭用品)とのキメラが暮らす世界だった。そして、12枚のジグソーパズルの断片を集めるゲームをする感じ。
 著者はSFも書いてるけど、これははっきりしたファンタジーだった。アリス好きにはオススメ。
●「シップブレイカー」パオロ・バチガルピ著、ハヤカワ文庫SF、2012年8月、ISBN978-4-15-011867-9、880円+税
2020/5/4 ★

 地球温暖化が進み、海岸部の都市が放棄された未来のアメリカ合衆国。ある海岸で、打ち上がったタンカーを解体して廃品回収で暮らしている貧しい集落でくらす少年は、ある嵐の次の日、豪華な船が打ち上がっているのを見つけ、美しい少女を出会う。あとは、当然ながら、少女を助け、DV親父から逃げる物語。分かりやすいYA物。
 未来のない貧しい暮らし。少女にとって当たり前の物が、少年にとっては、一生出会う事がなかったはずのすごいお宝。そのギャップと、二人のきづなが出来ていく部分が読みどころかと。人間とイヌなどとをバイオテクノロジーで混ぜてつくられた半人が、いい役割。DV親父は怖すぎ。
●「パラークシの記憶」マイクル・コーニイ著、河出文庫、2013年10月、ISBN978-4-309-46390-2、950円+税
2020/5/2 ★★

 「ハローサマー、グッドバイ」の続編だけど、数百年後の話っぽい。「ハローサマー、グッドバイ」の時代と比べると文明は失われ、狩猟・農耕の陸の民と、漁業の海の民に別れている。一方で、男は男系の、女は女系の先祖の記憶を受け継ぐという新たな能力を獲得している。婚姻関係というものはなく、男と女は別の集落で暮らし、陸の民と海の民の混血はタブーとされている。そして、地球人がやってきていて、鉱物の採集をおこなっている。
 時代はかわり文化もかわったけど、お話はやはり、陸の民の男の子と、海の民の女の子のボーイミーツアガールな話。ちょっとロミオとジュリエット風に。と思ったら、ある殺人事件で話は急展開。そして、やはり冬の時代が到来する。
 ついりにロリンの真実が明らかになる。そして、「ハローサマー、グッドバイ」のエンディングも。異星の生き物の生態が、こっちの方が丁寧に説明されて面白い。グルームワタリドリの繁殖生態とか。謎の宇宙航行種族キキホワホワを主人公に、この世界の話をもっと読みたかった。
●「ハローサマー、グッドバイ」マイクル・コーニイ著、河出文庫、2008年7月、ISBN978-4-309-46308-7、850円+税
2020/4/24 ★★

 地球人にそっくりのヒューマノイドが暮らす惑星が舞台。高級官僚の息子である主人公は、戦争が迫る気配の仲、今年も、夏をすごしに港町パラークシにやってきた。そこで出会った少女ブラウンアイズとの、一夏の体験、しかし二人は大人達に引き裂かれ…。単なるボーイミーツアガールな異星の青春物語かと思ったら、終盤で急激な展開。
 自転軸が公転面上にあるが故に起きる粘流(グルーム)。グルームに追われてやって来る深海の魚たち、それを狙う漁師に海鳥、そして危険は海棲肉食動物。人が困ってると助けにきてくれるサルのようなロリン。異世界の動物相と、天文学的な設定が、最後に大きく関係してくる。
●「ブロントメク!」マイクル・コーニイ著、河出文庫、2016年3月、ISBN978-4-309-46420-6、920円+税
2020/4/20 ★

 52年に一度、マインドによる事件が起きる海洋惑星アルカディア。人口減少に悩んだ惑星は、企業に身売りする。企業は、土地も仕事も支配して、アモーフという異星人を労働力に導入する。それに刃向かう人々、惑星の宣伝のために行われるヨットでの単独世界一周の企画。そうした騒動の中、ボートやヨットの製作者である主人公は、ヨットを作ったり、破産の危機に陥ったり、彼女ができたりする。
 企業が惑星を侵略して…、という部分と終わり方から、『宇宙戦争』を思い起こした。オチは、早い段階で読めてしまったのが、残念。ブロントメクというのは、企業が持ち込んだ、自動操縦にもなる重機の名前なんだけど、どうしてこれがタイトルなの?
●「マジック・フォー・ビギナーズ」ケリー・リンク著、ハヤカワepi文庫、2012年2月、ISBN978-4-15-120068-7、1000円+税
2020/4/19 ☆

 9篇を収めた短編集。中で昔の人が暮らしていたり、恐ろしい怪物がいるハンドバックの話。異世界につながる穴のほとりのゾンビがやってくるコンビニの話。人を発射する大砲の話。庭の大量のウサギをはじめ呪われてるっぽいマイホームの話。魔女+魔術師とネコと子どもの話。他人のパーティに勝手に混じれ込む男の話。生者と死者の夫婦の間を取り持つ霊媒師の苦労話。「図書館」というすべてが図書館の中で起きるドラマのファンの高校生5人組の恋愛模様。悪魔とチアリーダーという無理なお題で千夜一夜物語。
 主人公(多くは少年)の一人称で、 魔法やゾンビといった不思議絡みの不思議な世界が、語られる。不思議な世界の話は、世界は解明されず、主人公のトラブルも解決せずに、すべて不思議なままに終わる。死者と生者のコミュニケーションっていうイメージが繰り返し出てくる。SF的な賞の候補になったりしてる作品もあるけど、ファンタジー。
●「量子魔術師」デレク・クンスケン著、ハヤカワ文庫SF、2019年11月、ISBN978-4-15-012258-4、1340円+税
2020/4/17 ★

 世界軸と呼ばれるワームホールによって宇宙に拡がった人類は、世界軸をおさえる列強に支配されていた。推進力には武器にも使える高度な技術を手に入れたある弱小国の艦隊は、支配から脱出するために、ひそかに艦隊ごとワームホールを通過させる仕事を、主人公に依頼する。
 主人公は稀代の詐欺師にして、ホモ・クアントゥス。テクノロジーによって生み出された量子知性体をあやつる能力を持ち、量子世界の謎の解明を求める種族。その他に、ヌーメンと呼ばれる人間の神をあがめるパペット族(ホモ・プーパ)、高圧力の深海に適応したモングレル族(ホモ・エリダヌス)、伝道師気取りのAI、爆弾マニアなどの仲間と一緒に、大作戦が展開される。
 仲間を集めてまわる出だしは面白い。実際に作戦がはじまって、裏切りや、ウソの中のウソが明らかになる終盤も面白い。でも、作戦の準備をしているらしい中盤がとても退屈。列強の追っ手も頼りなくって、盛り上がらないし。とくにパペット族とヌーメンのくだりが、気持ち悪くて、無駄に長い。
●「地球防衛戦線1 スカム襲来」ダニエル・アレンソン著、ハヤカワ文庫SF、2020年3月、ISBN978-4-15-012275-1、1000円+税
2020/4/14 ☆

 50年前、地球は異星人の攻撃を受けて、人類は人口の6割を失って絶滅の危機に。かろうじて反撃が間に合って、絶滅は免れたが、現在にいたるまで消耗戦が続いている。その闘いのために、若者は18歳になると地球防衛軍への入隊が義務づけられている。で、18歳になった主人公がイヤイヤながら、軍隊に入って、しごかれて、一人前の軍人に育っていく。っていう長いシリーズの第1弾は、部隊はほぼ地球のみで、ひたすら軍曹や伍長にしごかれる。友情と恋愛と忠誠の物語ってわけ。
 この手のミリタリーSFで、ものすごくアルアルパターンが展開される。あとがきにこうある「おなじみの筋立てに新味は薄い。<中略>センス・オブ・ワンダーに乏しい小説に興味は無いというかたは、ほかの作品を選ばれることをお勧めする」。その正直さが一番印象に残った。
●「BAMBOO GIRL」人間六度著、文芸社文庫NEO、2020年3月、ISBN978-4-286-21316-3、740円+税
2020/4/13 ★

 タイトル通りの竹取物語の現代版で、学園恋愛ヤングアダルト。求婚者ではなく、勧誘してくるクラブに無理難題を突きつける。竹取の翁と恋愛っぽい関係になるのは、ちょっと竹取物語とは違う。
 異星人が、髪の色を除けば、ほぼ地球人と同じ。という最大の謎はまるで無視。あんなにこだわった天文部なのに、その大きなイベントがまるで描かれないとか。アイドルをめぐるいざこざは、まるでいらなくないんじゃ?とか。国家機密を気軽に息子に教えるエージェントって…、とか。主人公はバカな設定かと思ったら、突如しっかりするなぁ、とか。いろいろ疑問はあるけど、それなりに楽しく読める。異星人との文化的衝突とか、メンタリティのずれとかに、もっと焦点を当てたら、もっと良かった気がする。
●「不可視都市」高島雄哉著、星海社、2020年3月、ISBN978-4-06-519155-2、1400円+税
2020/4/10 ★

 21世紀末、12の超重層化都市に世界の大部分の人口が暮らしていた。ところが、謎の“不可視都市”によって、通信網と交通網が遮断され、人類は各所に孤立することになった。数少ない人工衛星に残った彼氏と、北京に取り残された数学者の彼女。彼女は、彼氏と連絡を取りつつ、“不可視都市”の謎を解明するために「空中庭園」と呼ばれる都市に向かう。
  「チョンクオ風雲録」みたいな世界だなぁ。と思ったけど、都市内部の話はほとんどない。むしろ焦点は、20世紀から密かに研究されてきた、すべての理論を操作できる“不可視理論”。理論と現実の境界をつなぐ。というイメージは面白いけど、数学的過ぎて、うまくイメージできなかった。残念。
●「銀河連合日本1」松本保羽著、星海社、2016年2月、ISBN978-4-06-139934-1、1300円+税
2020/4/7 ☆

 ファーストコンタクト物なんだろう。人類が持っていない技術を持った異星からの宇宙船がやってくる。でも、あっさりコミュニケーションは成立して、相手はとても友好的で、その上、見た目は色や髪を除けば人間そっくり。というか、精神構造はまったく同一ですか?という異星人。ファーストコンタクト物の楽しい部分は一切ない。さらに馬鹿馬鹿しくなるのは、その異星人が初対面なのにやたら日本びいき。日本とだけコンタクトして、日本人とだけ仲良くなる。
 というストーリーの合間に著者の政治的姿勢がたくさん表明される。韓国と中国が嫌いで、リベラル野党を馬鹿にする感じで、軍事物が大好き。ネットでよく見るタイプだわ。ジャパン・アズNo.1にあこがれる著者の願望充足小説とでも言おうか。
●「BEATLESS」長谷敏司著、角川書店、2012年10月、ISBN978-4-04-110290-9、1800円+税
2020/4/7 ★

 100年後の日本、自動車は自動運転で、たくさんのアンドロイドが人間社会の中でさまざまな労働に従事している。世界はすでにシンギュラリティを迎えていて、世界には40台ほどの超高度AIが存在するが、AIに支配されるのを嫌う人間によってネット環境から隔離され、相談役的な立場に置かれている。その超高度AIによって作られた人類の技術を超えた産物が、人類未到産物(レッドボックス)。人類未到産物である5体のアンドロイドが研究所から脱出するところから、物語は始まる。
 ストーリーは、ボーイ・ミーツ・ガール。取り得のなさそうな主人公の高校生が、美人のアンドロイドと出会って、マスターになるんだけど、ちょっと恋人気取り。あとは、主人公は事件にただただ巻き込まれ、お馬鹿なことをして、最後はヒーロー気取りの行動でおしまい。ものすごくアニメにありそーな展開をなぞる。主人公の友だちの行動の動機は分からんし、5体のアンドロイドの行動の目的も意味不明。どうして、アンドロイドにマスターが必要なのかも含めてアンドロイドやAI側の行動原理はどうなってるんだろう。
 一番分かりやすいのは、好きなアンドロイドを追いかけてるだけの主人公。「最終兵器彼女」ってこんなんだっけ?と思ったら、けっこう違ってた。あと、しばしば主人公が“チョロい”と表現されるが、なぜかイラッとする。

 とまあ、ステレオタイプの設定とストーリーの中で、その骨格はけっこう興味深い。“もの”と“かたち”、“いみ”といったものに、人間とアンドロイドを交えて、何度も相互の関係が考察される。アンドロイドやAIの心の問題を考えるのではなく、一貫してアンドロイドに心はないことになっていて、アンドロイド自体も自分は“もの”だと繰り返し言い放つ。それでいて、心があるかのような発言を繰り返すんだけど。そして、“もの”であるアンドロイドが、その “かたち” によって人間を動かすことをアナログ・ハックと呼ぶ。
 てな具合に、シンギュラリティを迎えてなお、アンドロイドはあくまでも“もの”であるという設定は珍しい。それでいて、アンドロイド+人間で一つのシステムであるという主張も。それなら、「延長された表現型」的な話に行くかというと、そうは展開しない。不思議な感じのまま終わった。
●「7分間SF」草上仁著、ハヤカワ文庫JA、2020年3月、ISBN978-4-15-031422-4、680円+税
2020/3/30 ★★

 「5分間SF」に続く短編集。11篇収められていて、1篇は20〜36ページ。「5分間SF」は1篇8〜18ページで、ざっと倍のページ数だから、正しいタイトルは「10分間SF」だろう。もっとも「5分間SF」は、1篇を読むのに5分もかからなかったから、むしろ「5分間SFの正しいタイトルが「3分30秒間SF」だったかもしれない。手慣れた、読みやすい作品が並ぶ上に、最後のどんでん返しで楽しませてくれる作品が多い。
 一番気に入ったのは、「キッチン・ローダー」。IoTな台所での赤ちゃんとのヴァーチャルな闘いかと思いきや…。
 「カツブシ岩」は、まあ早い段階でオチが分かる。ほのめかしてくれるし。 「この日のために」もおおよそ設定は分かるけど、それでもいい話だなぁ、と思わせる。「免許停止」は、マニュアル運転が禁止された未来で、暴走した罪に問われる話かと思ったら、上手にだまされた。「スリープ・モード」は、宇宙空間での暇な時間を乗り切るためにスリープドラッグを使用したら…。状況は深刻だけど、コメディ。「チューリングテスト」、遭難した宇宙船を救出に行ったら、遭難訓練用のAIが混じっていて、どうする??という話。「壁の向こうの友」、洞窟に閉じ込められて遭難したら、岩壁の向こうに岩を叩く音だけでやり取りできる友が見つかる。「緊急避難」、理屈っぽい異星人が、地球人の法律を逆手にとって…。「ラスト・メディア」、科学技術がどんどん失われていく世界。国同士の通信に困り、最後の手段は使者による伝言。しかし国家機密を知った使者は、伝言の後、殺される。最後に再発見されたメディアは…。「パラム氏の多忙な日常」、理屈はさておき、時代を行き来して、待ち合わせする夫婦。
 「カレシいない歴」は、妙な異星人の話かと思いながら読んでたら、めっちゃ繁殖生態学的な話だった。実際にこうだったか確認しなくっちゃ。
●「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」小川一水著、ハヤカワ文庫JA、2020年3月、ISBN978-4-15-031421-7、760円+税
2020/3/29 ★

 辺境の巨大ガス惑星の軌道上に、いくつかの部族に分かれて暮らす周回者たち。かれらは惑星の大気を泳ぐ“魚”を捕って暮らしていた。“魚”を捕る船には、 船を操るパイロットと、思念でコントロールする網を操るツイスターのコンビが必要。で、パイロットは男、ツイスターは女で、二人は夫婦であることになっていた。優秀だがパイロットに恵まれない主人公は、女のパイロットとコンビを組んで優秀な成果をあげるが、封建的な社会に追い詰められる。それに2人は闘いを挑む。といった感じ。途中からユリ要素満載。
 初めて読んだはずなのに、既読感がとても強い。少なくとも大部分を読んだ事あるんじゃないかと思う。既読リストにはないんだけど…。
●「人間たちの話」柞刈湯葉著、ハヤカワ文庫JA、2020年3月、ISBN978-4-15-031420-0、740円+税
2020/3/29 ★★

 6篇を収めた短編集。短い中にも、この著者らしくアイデアがいっぱい投入される。奇想を、どんどん展開していく感じがお気に入り。理詰めのラファティのような。
 「冬の時代」、寒冷化が進み、文明の多くが失われた世界に、細々の生き抜く人間。寒冷地用に改変された動物たちがウロウロする雪原を、南に向かって旅する二人。
 「たのしい超監視社会」。1984年、世界は3つの全体主義国家に分割されていたが、しかし完璧な管理社会はグダグダになって、迎えた2019年。相互監視の目をかわすために途切れ途切れに話す技、出世も結婚も信用度というポイント制。そんな世界で、それなりに自由に暮らす人間たち。超監視社会を転覆するために活動する反体制分子。プライバシーの重要性を主張する反体制分子に対して、他人を監視する楽しさをどうして手放さなければならないか理解できない人々。この短編集で一押し。
 「人間たちの話」は、異質な存在を求める一人の人間の話。人間は世界中同じで異質ではない、地球の生物はすべて同じDNAベースで異質ではない。宇宙の生命の道に進んだ主人公は…。「ネズミの嫁入り」な話。
 「宇宙ラーメン重油味」。超空間移動ポータルの近くにあるカイパーベルトの小惑星にあるラーメン屋さん。人間のみならず、あらゆる宇宙人のニーズに対応するラーメン屋さん。この短編集のみならず、この著者の作品の中でも、とても毛色が変わった作品。
 「記念日」。部屋の中に、突然巨大な岩が現れる。そして部屋の主は、岩と一緒に暮らし始める。まるで、岩が家族のようになっていく不思議な話。
 「No Reaction」 。“ぼくは透明人間だ。名前はまだない”  生まれた時から、ずっと透明人間の少年。透明人間の暮らしについて、少し真面目に考えた話。他の人に作用を及ぼせないが、自分は作用を受けるという設定。これは暮らしにくそう。真面目に考えはじめると、いろいろ引っかかるけど、そんなことは抜きにして楽しい。
●「深紅の碑文」(上・下)上田早夕里著、早川書房、2013年12月、(上)ISBN978-4-15-209423-0(下)ISBN978-4-15-209424-7、(上)1600円+税(下)1600円+税
2020/3/28 ★

 「華竜の宮」に続くオーシャン・クロニクルシリーズ。海水面上昇で陸地の多くが水没し、絶滅の危機に陥った人類は、かろうじて陸地で文明を維持して生き残った陸上民と、バイオテクノロジーで海に適応して、海で暮らす海上民 に分かれて暮らしていた。“朋”である魚舟と共に生きる海上民をさげすむ陸上民と、豊かな社会を気づく陸上民を敵視する貧しい海上民。陸上民の船を、生活のために襲う海上民は、ラブカと呼ばれ、両者の対立を深刻なものにしていた。
 そんな人類に、プリュームの冬による絶滅の危機が近付く。数十年以内に確実に訪れる全球凍結を前に、準備を進める人類。しかし、その準備をはばむ陸上民と海上民の対立。明日を生き抜くためにラブカのリーダーとして闘う医者。ラブカを全滅させようとする精力を押さえて、ラブカを平和的に武装解除しようとするボランティア団体リーダー。人類の印を残すために、限られた資源を消費してでも宇宙船を飛ばそうとする少女。主な3人に、多くの登場人物を絡めて、近い将来の滅亡に脅かされる人類が描かれる。
 読み応えはあるんだけど、とにかく長い。
●「黒き微睡みの囚人」ラヴィ・ティドハー著、竹書房文庫、2019年2月、ISBN978-4-8019-1749-1、1200円+税
2020/3/9 ☆

 アドルフ・ヒトラーがドイツの政権を握れず、ドイツは共産主義の手に落ちて、ヒトラーはイギリスに亡命して、探偵をしてる。そのユダヤ人嫌いの難民である探偵が、イギリスに亡命してくるはずのユダヤ人女性を探す依頼を受ける。一方、別の世界では、ヒトラーに支配されたドイツで、アウシュビッツに送られた大衆小説の作家が、イギリスに亡命したヒトラーを夢想する。
 ユダヤ人嫌いで、誇り高いけど、イギリスではドイツからの難民で、ユダヤ人と十把一絡げ。一方、同じくドイツから亡命してきたナチス仲間は、うまくやってる。という、悩み多きヒトラー。なぜか女性にもてまくる。
 著者はイスラエルの人。で、なければ、こんなユダヤ人差別の発言満載の小説は書けなさそう。ヒトラーがやたらと、糞尿にまみれるのは、なにかの意趣返し?
 ストーリーだけを取り上げたら、ぜんぜん面白くない。SFとしても、なんも珍しくない。
●「ポロック生命体」瀬名秀明著、新潮社、2020年2月、ISBN978-4-10-477802-7、1700円+税
2020/3/7 ★★

 4編を収めた短編集。人工知能の研究・発達と共に、将棋、小説、絵画の世界がどう変容していくかを描いた作品が並ぶ(1篇は違うけど)。全体を通してのテーマは、“人間らしさ”。
 「負ける」は将棋の話。人工知能が、人間と対戦するようになり、名人が敗れる。という世界で描かれるのは、名人に勝つプログラムではなく、将棋を指す手“片腕”の物語。人工知能は、相手への敬意を示せるか。
 「144C」は、採用面接を舞台に、人工知能はストーリーをつくれるか。といったやり取りが続く。誠意とは何かを考えすぎて、小説が書けなくなることを、にフレーム問題に陥ったかのよう。と記しているところが印象に残った。
 「きみに読む物語」は、エンパシー指数(EQ)といったものが社会を席巻して、人々の物語を読む能力が測られ、物語が要求する能力が明らかになってしまったら?という話。。現代は、人類の大多数がテロリストになった時代。とSNS社会を指摘している。その通りに、人々は余計なものを発明した研究者を弾劾する。人には、頑張っても理解できない物語がある、という設定がドキドキする。たぶん理解できてない小説があるんだろうなぁ。
 「ポロック生命体」は、ポロックのような抽象絵画を、あるいはある作家の小説を、元の作者と名乗っても見分けられないほど、あるいは、さらに高い質の作品を生み出す人工知能が現れた時の騒動が描かれる。画家も作家も、一生の間に未熟な時代から作品的なピークを迎え、やがて衰えていく。いわば、その作者とともに作風にも一生がある。が、人工知能が作風を受け継ぐことができるなら、作風自体が一種の生命体として、あるいはミームとして、生き延びることができるのかも。という話として理解したけど、作者の意図とは違うのかな。
●「戦争獣戦争」山田正紀著、東京創元社、2019年10月、ISBN978-4-488-01837-5、2200円+税
2020/3/7 ☆

 太平洋戦争の終戦後から、朝鮮戦争前夜にかけてを中心に、日本、韓国、そして台湾っぽい島を舞台に、一種の超能力者たちが、戦争獣と称する四次元生命体と絡みつつ戦う話。ってところだろうか。
 四次元生命体ってところで、イマドキじゃない感が強い。さらに生命をエントロピーと絡めて説明するなんて、イマドキじゃない感MAX。四次元生命体(4次元目は時間軸らしい)が、三次元生命と簡単にコミュニケートしてる時点で、ウソっぽ過ぎると思ってしまう。四次元生命体の中で進んでいるらしい“時間”はなんなんだろう?
 三次元宇宙と四次元宇宙との接点的な大事件が、東アジアの一画だけで完結してるのも意味不明。宇宙からの侵略者が、必ず東京にやってきて、ウルトラマンに倒される的なことだろうか?
 で、超能力者の生産システムがよく分からない。そして、どうして、短い時代だけに限られたエリアのみで量産されたんだろう? ループが生じたから?
●「パラレルワールド」小林泰三著、ハルキ文庫、2019年9月、ISBN978-4-7584-4288-6、700円+税
2020/3/5 ★★

 豪雨と地震からのダム決壊という大災害が起き、若夫婦と5歳の男の子が不思議な運命に見舞われる。5歳の男の子と妻は生き残ったが、家族を救助に向かった父は生き残った。かと思ったら、もう一つの世界では、救助に駆けつけた父は、5歳の男の子を守って事切れている妻を見つける。どちらの世界でも生き残った男の子は、両方の世界を認識して、男の子を介して、パラレルワールドの夫婦が会話して…。
 もう一人、両方の世界を認識できる男が絡んできて。終わり方が切ない。
●「宇宙からの帰還 望郷者たち」夏見正隆著、ハルキ文庫、2020年1月、ISBN978-4-7584-4317-3、640円+税
2020/3/3 ★

 米中の対立から、地球が放射能に覆われ居住不能に。人類は、軌道上の都市に、月の資源を運んできて、かろうじて生き延びている。しかし、人類は一致団結しているのではなく、権力者たちは家族と一緒にぬくぬくと暮らし、かろうじて生き延びた庶民は限られた資源を使って、必死で人類の生活を支えている。
 月からの資源を運ぶ宇宙船の船長である主人公は、突然、放射能におおわれた地球に降りるミッションを言い渡される。目的は、行方不明になった第一次の探査部隊を救出すること。しかし、地球で主人公が見たのは…。
 絶滅の危機に陥っても、権力構造が維持されるという身も蓋もない設定が、妙にリアル。地球での人々の行動が、分かるような分からないような。
●「星系出雲の兵站 遠征3」林譲治著、ハヤカワ文庫JA、2020年2月、ISBN978-4-15-031417-0、840円+税
2020/3/2 ★

 「星系出雲の兵站 遠征2」の続き。人類の星系では、集合知性体とのコミュニケーションに加えて、人類がこの星系にやってきた播種船の名残が発見されて、またまた新たな謎が浮上する。一方、遠征先では、異星人とのコンタクトが成立したような、コンタクトできてないような。
 異星人の歴史と、人類の星系にやってきた理由についての謎。そもそも恒星間を移民してきた人類の歴史の謎。巻を追うごとに、次々と新たな発見と、新たな謎が出てくる。小出しに仕方が上手い。そして、この巻でも、集合知性体における意識と認識の話が、微妙に新展開しながら面白い。
●「博物戦艦アンヴェイル」小川一水著、ハルキ文庫、2020年2月、ISBN978-4-7584-4320-3、880円+税
2020/3/1 ☆

 人類とその変異した種族が暮らしているらしき惑星。技術水準は、地球の大航海時代くらいな感じ。王命を受けて、伝説の宝を探しに帆船が出立する。で、それに乗る事になった女騎士の恋と冒険の物語。ライバル国の帆船との闘いあり、遠方の島の謎の種族達との連携と闘い。そして、宝の真実。とても普通。
 出だしで、メギオス驚異の一つ「ヤイトンの鱗猫」が出た時は期待したのに、そのあとメギオス驚異に面白い展開はなし。思わせぶりな変態な王様も、一瞬出ただけ。いろんな変わった人類がいる理由もさっぱり分からないし、最後に出てきた的の由来もこの巻では説明されない。この一冊では、伏線がぜんぜん回収されない。背景にSF的設定をにおわせるけど、におわしてるだけで、この1冊ではSFとは呼べない。
●「大絶滅恐竜タイムウォーズ」草野原々著、ハヤカワ文庫JA、2019年12月、ISBN978-4-15-031409-5、820円+税
2020/1/24 ☆

 「大進化どうぶつデスゲーム」の続き。前回はネコ宇宙と戦ったけど、今回はトリ宇宙というか恐竜宇宙と戦う感じ。前回は、18人の女子高生の自己紹介に時間をかけてたけど、今回はその“整理”に入ってるような。とにかく、出だしから旗色は悪く、現在の小田原が、不思議な進化をした“鳥類”というか恐竜の末裔みたいなのに蹂躙される。で、またもや白亜紀末期にタイムトラベルして戦うんだけど。もう前回の面影はなく、ストーリーの面影もなく、ただ暴走しまくって終わる。それだけ。
●「裏世界ピクニック4」宮澤伊織著、ハヤカワ文庫JA、2019年12月、ISBN978-4-15-031408-8、780円+税
2020/1/21 ★

 「裏世界ピクニック3」に続くシリーズ第4弾。今回は4編が収められている。今回主に出てくるネットロアは、「山の牧場」の続きと、「パンドラ」「マネキン」「赤い人」。最初のエピソードは「裏世界ピクニック3」の最後の話の続きというか、後日談なので、復讐してから読んだ方がいいかも。今回は、主人公2人の百合的展開が中心な気がする。
●「マーダーボット・ダイアリー」(上・下)マーサ・ウェルズ著、創元SF文庫、2019年12月、(上)ISBN978-4-488-78001-2(下)ISBN978-4-488-78002-9、(上)1000円(下)1040円+税
2020/1/16 ★★

 4篇を収めた連作短編集、というか中編集。自分のことを“弊機”と呼ぶ人型警備ユニットが主人公で、その一人称で話が進行する。
 銀河に拡がった人類は、星間企業が支配的で、人の命すらも契約によってやり取りする世界をつくっている。自らをハックして自由を獲得した“弊機”は、それでも生真面目に保険会社の所有物として、請け負った警備の仕事をこなしていく。自らを殺人機械と認識して、仕事仲間の人間とは距離をおこうとするものの、友情や恩義に基づいた行動をとりはじめる。いわばアンドロイドの成長物語。そこに、ある惑星での陰謀や、“弊機”が過去に遭遇した事件の真実が絡む。
 第1話「システムの危殆」で、ある惑星の資源調査隊の警備の任務にあたっていた“弊機”は、事件に遭遇し、そして人間の仲間を得る。
 第2話「人工的なあり方」で、自分の過去の事件の謎をとくべく旅だった“弊機”は、宇宙船を運用するAIと知り合い。途中に立ち寄った惑星で、たまたま出会った人たちが、企業に搾取されそうになるのを、宇宙船AIと共に救う。
 第3話「暴走プロトコル」で、“弊機”は自身が過去に遭遇した大量殺人事件の謎を解こうと、とある惑星へ。そこで、またまた、たまたま出会った人たちを助け、企業の陰謀をくじくことに。
 第4話「出口戦略の無謀」で、第1話で出会った仲間を助けるために、企業が支配するステーションに潜入する。
 一貫して、弱気を助け、企業の陰謀を暴いて歩く、脱走殺人警備ユニット“弊機”。ものすごく自覚のない正義の味方のおかげで、徐々に明らかになるこの世界の姿も魅力的。
●「GENESIS 白昼夢通信」水見稜ほか著、東京創元社、2019年12月、ISBN978-4-488-01839-9、2000円+税
2020/1/11 ★

 創元日本SFアンソロジーの第2弾。7篇の短編に、2編のアンソロジストのエッセイが収められている。◆。
 高島雄哉「配信世界のイデアたち」は、アニメ製作会社の新入社員でSF考証担当の主人公が、量子コンピュータに入り込んだ量子ウイルスによってアニメがメチャメチャにされたのを解決に行く。その頃、五千億の銀河にアニメを配信する会社に働く新入社員のぴこまむは…。
  石川宗生「モンステリウム」、怪物が街にやってきた、突っ立ってるだけの怪物。人々が集まり調査団がやってきて、最後は。怪物はやってきただけ。
 空木春宵「地獄を縫い取る」、音声の付いた動画に、匂い、味、食感、そして感情までもが付いた官能伝達デバイス<蜘蛛の糸>。<蜘蛛の糸>を脳に配線していると、感情を共有する手段<エンバス>と合わせて、体験を共有することが可能になった世界。食欲も性欲もすべての体験が共有可能で、商品となる。そして、殺人など残虐な犯罪を扱った体験が出回り…。
 川野芽生「白昼夢通信」、瑠璃さんと、のばらさんの文通でのやり取りが連なる。と思っていたら、なんかやり取りがちぐはぐ。二人が何者かは、最後に少し明らかに。
 門田光宏「コーラルとロータス」、『風牙』と同じ世界で、同じ主人公。珊瑚が初心者の頃、カマラを助けに、また無茶をする。
 松崎有理「痩せたくないひとは読まないでください」、肥満を理由に企業を解雇された主人公は、政府主催ダイエット王決定戦の参加者に選ばれる。とても美味しそうな食べ物が出てきても我慢するという厳しい闘い。負ければ死が待っている。本当に厳しい。そして、なんやかんやで、ヒトの種分化の話なのかな。
 水見稜「調律師」、調律師が火星でピアノを調律する。
 キモチ悪くて怖いけど「地獄を縫い取る」が圧倒的。「痩せたくないひとは読まないでください」の不条理な世界も記憶に残る。ちなみに、第3弾からこのGENESISが、創元SF短編賞の発表の場になるらしい。
●「息吹」テッド・チャン著、早川書房、2019年12月、ISBN978-4-15-209899-3、1900円+税
2020/1/8 ★★

 「あなたの人生の物語」に続く、久しぶりの短編集。9篇を収める。
 「商人と錬金術師の門」は、千夜一夜物語的なイスラム世界を舞台に描かれる、ファンタジックなタイムトラベル。タイムパラドクスを上手に避けて、王道の物語。
 表題作「息吹」。空気の流れが時間の流れを規定する有限の宇宙。そこで暮らす知性体が生命と宇宙の不思議を解き明かしていく歴史と滅びの物語。
 「予期される未来」。1秒の過去へ信号を送る予言機。それ提供する自由意志の不在の論拠。
 「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」。元動物園の飼育係が、仮想ペットの訓練係になる。仮想ペットはヒットし、やがて廃れていく。それでも、わずかに残った仮想ペットの飼い主たちは、我が子のような仮想ペットの行く末のために奮闘する。死なないペットとのつき合い方を考えさせる。
 「デイジー式全自動ナニー」。全自動乳母の発明者が、子育てに失敗する話。
 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」。言葉を思い浮かべると網膜プロジェクターがその言葉を表示し、ジェスチャーと目の動きで編集する。絶え間なく録画し続けるパーソナルカメラで、ライフログをとり続ける人々。そしてライフログの検索ツールRemem。人は完璧な記憶を持つ知的サイボーグと化す。さらには、ネットに公開したライフログから記憶の改変までも可能になり、真実とはなにか分からない世界…。この作品集で一押し。
 「大いなる沈黙」。人類は、宇宙に人類以外の知的生命体を探し続けている。しかし、灯台下暗し。オウムのショートストーリー。
 「オムファロス」。年輪年代学によって、世界は8912年前に創造されたことが明らかに。アーメン。ところが、博物館の収蔵物が売り飛ばされてる疑惑を探っていくと、ある天文学的発見に行き当たる。地球は宇宙の中心ではないのかも。
 「不安は自由のめまい」。プリズムという装置を使って、分岐した平行世界と、音声・画像のやり取りができたら? 事故で失った最愛の人を、少しでも取り戻そうと。
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