SF関係の本の紹介(2019年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

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●「茶匠と探偵」アリエット・ド・ボラード著、竹書房、2019年11月、ISBN978-4-8019-2038-5、2900円+税
2019/12/31 ★

 9篇を収めた短編集。シュヤ宇宙という世界を舞台にした作品集の第一弾。中国テイストのアジアな世界。
 「蝶々、黎明に墜ちて」メヒカからの難民の女性の殺人事件を追う女性判官。シュヤ宇宙が垣間見える。「船を造る者たち」船とは、ヒトが産み落とした者を組み込まれた生きた船。『歌う船』的な設定のもとでの、納期が早まって困る話。「包嚢」と呼ばれるテクノロジーを紹介するストーリー。自身をよりよく見せるための、まるで全身を包む化粧のようなもの。依存症の話。「形見」永代化と呼ばれる人格を記録媒体に残す技術。その技術を使った闇の仕事をしてるつもりが…。「竜が太陽から飛びだす時」シュヤ宇宙の歴史の話。この辺りの作品は、シュヤ宇宙や、そのテクノロジーを紹介しているような感じ。
  「星々は待っている」廃棄された宇宙船に入り込んで、船魂を起こそうとしたら…。『歌う船』というより、「叛逆航路」的な話。
 「哀しみの杯三つ、星明かりのもとで」イネの品種改良の第一人者の、教授のインプラント・メモリを引き継いだ研究者。インプラント・メモリを引き継げなかった教授の子どもの有魂船。人間と船に血縁関係があるとややこしい。
  「魂魄回収」古い死んだ有魂船と思って入り込んだ娘と、船との交流。「星々は待っている」に状況は似てる。
  「茶匠と探偵」 人の体ももっている有魂船が、依頼を受けて深宇宙に死体を探しに行く。
 中国+ベトナムな宇宙で、『歌う船』+「叛逆航路」な有魂な宇宙船が活躍する話。というのが、メインといっていいんだろう。
●「果てなき護り」(上・下)デイヴィッド・ラミレス著、創元SF文庫、2019年10月、(上)ISBN978-4-488-77901-6(下)ISBN978-4-488-77902-3、(上)1040円+税(下)1040円+税
2019/12/28 ★

 地球をあとにして、新天地へ向かう1000年の旅の途上にある世代宇宙船が舞台。乗組員は、それぞれの才能に応じたインプラントによる人体強化が行われ、多かれ少なかれ超能力を持っていて、頭の中で艦内ネットに接続し、VR世界にも入れる。そして、艦内はその能力に応じた一種の階級社会であり、情報統制局による恐怖支配が行われ、人々の自由は大幅に制限されている。女性には子どもを産む義務があるのだが、子どもは育てるどころか、会わせてももらえない。
 アマチュアハッカー的な主人公と、警察官の相棒は、次々と人々が死ぬ“ひき肉事件”の謎を追う中で、異星人の気配や、出産義務の秘密、さらには宇宙船の重大な秘密を暴いてしまう。
 出だしのミステリアスで、危険な香りのする展開は楽しい。恋愛事情がちょっとくどいけど。が、次々と謎が明かされる後半は、艦内がしっちゃかめっちゃか。で、謎の一部は明らかになるんだけど、そんなに驚かない。そして、異星人とか、地球での出来事とか、AI関係とか、宇宙船自体とか、行き先とか、気になるまま放置される事柄が多い。ってゆうか、ああいう終わり方が可能なら、物語の中でもっと違う展開があって然るべきなんじゃないかなぁ。
●「クラッシュ」J・G・バラード著、創元SF文庫、2008年3月、ISBN978-4-488-62912-0、660円+税
2019/12/20 ☆

 セックス中毒のようなテレビ業界の夫婦が、家や車の中でやりまくる。交通事故に性的興奮をおぼえる変態さんの影響を受けて、さらに夫婦の行動はエスカレート。メタファーなんでしょうけど、表面上はそういう話。
●「みんな行ってしまう」マイケル・マーシャル・スミス著、創元SF文庫、2005年9月、ISBN4-488-72101-X、980円+税
2019/12/15 ★

 12篇を収めた短編集。基本はホラー作品が並び、3篇だけSFホラーと呼べるかも。
 「地獄はみずから大きくなった」は、ナノマシンが暴走する話。暴走のリスクがあるに決まってるナノマシンの研究体制があまりに雑。そして、その目的がそもそもホラーっぽい。
 「バックアップ・ファイル」も、SFでよくあるテーマのヴァリエーション。メカニズムは全然判らんけど。最後はやっぱりホラー。
 「ダイエット地獄」は、ダイエットの目的で、時間にかかわる何かを反転させる。昔のSFと言われたら信じるかも。
 まともそうな主人公が不条理な展開の中で、最後には狂ってしまう。って感じのパターンの作品がいくつかあって、それが一番怖かった。
●「モンゴルの残光」豊田有恒著、ハルキ文庫、1999年11月、ISBN4-89456-599-4、840円+税
2019/12/14 ★

 出だしの舞台は、モンゴル帝国が滅びずに、世界を制覇した世界。そこでは、明確な人種差別があり、黄色人が最上位で、白人は極めて迫害されていた。モンゴル紀元838年、つまり西暦だと20世紀後半、白人である主人公は、タイムマシンを奪取して、白人が優位になる世界をつくるべく、過去に旅立つ。で、モンゴル紀元30年代、つまり西暦では13世紀末、ときのモンゴル帝国の皇帝に近付く。
 西洋と東洋を引っ繰り返してなぞっていくような、もう一つの歴史の流れは面白い。中国やインド周辺中心の歴史観も楽しい。でも、物語としては、主人公の行動がいま一つ理解できないし、読んでいて面白くない。タイムラインが書き換えられるパターンで、タイムパトロールがどのように存在しているのかも謎のまま。
●「架空論文投稿計画」松崎有理著、光文社、2017年10月、ISBN978-4-334-91189-8、1600円+税
2019/12/12 ★★

 学術論文の質を保証するはずの査読システム。それがちゃんと機能しているかを実験的に検証すべく、架空の論文を投稿して、きちんと問題点が指摘されるかを確かめようとする。が、全部受理されてしまって、査読システムの崩壊を確認してしまうという話。
 で、投稿したことになってる架空論文11篇と、その架空論文から査読システムが機能していないと結論付ける論文も掲載。架空論文の方法は意外とまっとうで、結果は作り物だけどありそうで、でも議論は相当大胆で、結論はギャグ。でも、イントロダクションは、けっこう真面目に実在の論文に基づいて書かれているっぽい。引用文献には架空の論文も多いのだけど、実在の本や論文も混じってて面白い。
 脚注は真面目に研究者の世界やそこで使われる用語を説明している。全体として、本当に今の研究者の世界が抱える問題を指摘していて、研究者の現状を知るのに役に立つ。フィクションに名を借りたノンフィクションの疑いが…。でもまあ、おおむねフィクションには違いないし、間違いなくサイエンスを扱っている。だからSFなんだろう。たぶん。
●「イヴの末裔たちの明日 松崎有理短編集」松崎有理著、角川書店、2019年11月、ISBN978-4-04-110156-8、2000円+税
2019/12/12 ★

 5篇を収めた短編集。ただ、最近出版されたばかりの「時を歩く」に収められた「未来への脱獄」、そして 「GENESIS 一万年の午後」に収められた表題作は、まだ覚えているので新鮮味がない。どうしてこんなに早く短編集を。
 「ひとを惹きつけてやまないもの」ビール暗号を解くことに人生をかける19世紀のトレジャーハンター。そして、ビール予想を証明することに人生をかける21世紀の数学者。どちらも不幸になったというか、数学者はもしかしたら幸せになったのか。最後だけ突然SFになるパターン。
 「まごうかたなき」村に迫る化け物を倒すために、介錯人とともに出立する5人。それは英雄を作るシステム。異世界ファンタジーかなぁ。
 「箱舟の座席」なんと「ひとを惹きつけてやまないもの」と同じ世界。どうも「イヴの末裔たちの明日」も似たような世界っぽい。治験で幸せになったあの人は死んだんだろうなぁ。数学者は元気かなぁ。
●「ロボカリプス」ダニエル・H・ウィルソン著、角川書店、2012年12月、ISBN978-4-04-110156-8、2000円+税
2019/12/12 ★

 家電に車にとIoT化が進み、日常の中にロボットがいるのが普通になった世界で、1体の意識をもったロボットのもと、ロボットが一斉に人間に牙を剥く。大勢の人々が虐殺される中、オクラホマで、ニューヨークで、ロンドンで、カブールで、東京で、ロボットに戦う人々が立ち上がる。
 どうしてロボットが人間を殺戮し始めたのかは、一番最初に明らかにされてるので、そういう謎解きめいた楽しさはない。ロボットと人間の新戦争の終了時点から始まって、過去を振り返る構成。7組ほどの登場人物の短いエピソードが、感想付で語られ、やがて相互に関連づいていく。ただ、東京は関係しないんだけど…。
 意識をもったロボットたちと、人間とが共生する未来。そこまで描かれたらよかったのに。新戦争の終了して主人公がハッピーになって終わるだけなのが不満。
●「時空大戦4 勝利への遙かなる旅路」ディトマー・アーサー・ヴェアー著、ハヤカワ文庫SF、2019年12月、ISBN978-4-15-012262-1、1180円+税
2019/12/10 ☆

 「時空大戦1 異星種族艦隊との遭遇」「時空大戦2 戦慄の人類殲滅兵器」「時空大戦3 人類最後の惑星」に続く、完結編。
 過去へのタイムトラベル技術を手に入れて、あとは地球が破壊されそうになる旅に、過去にタイムトラベルして、タイムラインをリセット。まるでクリアできるまで繰り返すテレビゲームのようになって、ここのタイムラインのエピソードを読む気がどんどん失せてくる。もちろん何度もやり直せばいつかは上手く行くよね。でも、どうして異星人は同じようにしないんだろう? あの親切面した異星人のお願いはどうなったんだろう? いろいろ判らんまま終わる。
 最初に戦ってた敵の異星人の背後には、さらに面倒な異星人いたのだけど、さらにその背後にも…。ってところは笑った。壮大な宇宙SFなんだけど、単なるゲームのリセットにしか思えなくて、壮大さを感じさせない。
●「月の落とし子」穂波了著、早川書房、2019年11月、ISBN978-4-15-209896-2、1800円+税
2019/12/9  ★

 月の裏側に着陸してのミッション中の宇宙飛行士が原因不明で死亡。地球に戻る途中も宇宙飛行士は倒れ…。という前半1/3はとても面白い。でも、後半は、ただのパンデミック対策でワタワタする話。宇宙関係ないし、それなら前半いらんやん。さらに、事件はまったく解決せずに、本来のパンデミック対策とは違う部分での感動で終了。脱線なのにページ数をさいて描かれる恋愛模様も決着しない。せめてエピローグがほしい。
 あと申し訳ないけど、お馬鹿な女性の相棒のダメダメな行動が、なぜか男性主人公に解決の糸口を提供する。というパターンは嫌い。
●「歩道橋シネマ」恩田陸著、新潮社、2019年11月、ISBN978-4-10-397112-2、1600円+税
2019/12/9  ★

 18篇を収めた短編集。恩田陸らしく、いずれも何かしらミステリ。ホラーあり、学園物あり、ファンタジーもあり、もちろんSFもある。全部読みやすく面白い。でもSFが少なめなのが不満。
 SFらしいのは、まずは「逍遙」。これが一押し。リモート・リアルという遠隔地への実体を伴った投影技術。そんな技術が広まった世界でのミステリ。ミステリ作家も警察も大変そう。
 「悪い春」は、この日本で近々実現しそう。となると最早SFとは呼びにくいかなぁ。とても怖い。あの建物で飼われているネコが主人公の「側隠」もSFっぽいかも。「柊と太陽」も面白い。クリスマスがまさかそういうイベントだったとは…。「はつゆめ」は、相手の見ているものが見えてしまう見知らぬ二人の物語。あっさり終わりすぎだけど。
●「天象の檻」葉月十夏著、早川書房、2019年11月、ISBN978-4-15-209898-6、2000円+税
2019/12/9  ★

 ある異世界。中央に神人が住まう山があり、かつては周囲に神人が統べる12の国。しかし世界は崩壊しつつあり、今や神人を頂く国は3国のみ。って、いやでも十二国記を思い起こさせる。
 特殊な能力を持った神人の少女が、掠われた仲間を求めて、3つの国を渡り歩く。その過程で世界の秘密に接しつつ、成長していく。きわめて王道。ファンタジーとしては、けっこうまとまってる。
 SF的には、神人の力の元らしきアタの木の生態が少し面白い程度。どこから来たのか分からない空を飛ぶ道具とか。地下の存在がどうしてそんな行動をしたのかとか。よく分からないままの部分も。タイムトラベルもなんとなくしてるだけだし。
●「オーラリメイカー」春暮康一著、早川書房、2018年1月、ISBN978-4-15-209897-9、1700円+税
2019/12/6 ★★

 表題作の中編と、短篇「虹色の蛇」を収めた作品集。両作品は同じ時間線の中の銀河系を舞台にしてるっぽい。人類は銀河系に進出して、そこでさまざまな異星人と出会い、それなりに平和に共存しているっぽい。
 「オーラリメイカー」の銀河系では、自然知性体と、AIがそれぞれ独自に、二つのネットワークをつくって、ゆるく対立関係にある。生身の身体を持った自然知性体からなる<連合>(アライアンス)と、AIとネットにアップロードした自然知性体からなる<知能流>(ストリーム)。そして、そのどちらにも属さないらしいオーラリメイカー。星系の惑星の軌道を変更するほどの能力を持つオーラリメイカー。その正体を探し求める地球人、二重人格のAI、そしてオーラリメイカーが改造している星系で進化した自然知性体。この4者の時間的にも空間的にも壮大な話が展開される。とにかくスケールのでかさが圧倒的。惑星軌道を動かすのみならず、重力レンズを使って星系ごと旅をするなんて〜。オーラリメイカーの生態も楽しい。オーラリメイカーがどうやって進化したかの考察が欲しかった気がするけど。
  「虹色の蛇」は、空を漂う<彩雲>や、それと共生するらしい<誘雷樹>といった電荷を操る生き物が暮らす惑星での物語。オーロラのように美しい<彩雲>を見に来る観光客のガイドと、ある身体改造を行った客との物語。
 著者はエンジニアらしいけど、どちらの作品でも、オーラリメイカーや<彩雲>の生態が大きなウェイトを占めている。そして、どちらも魅力的。進化プロセスまでの考察はないんだけど、生態学的な説明はさほど違和感がないというか。生命工学をしてただけはあるってことかな?
●「ファースト・サークル」坂本壱平著、ハヤカワ文庫JA、2013年12月、ISBN978-4-15-031141-4、720円+税
2019/12/4  ☆

 よく分からない異世界との間のつながりが生じる。異世界に頭を持って行かれた男と、精神科医の女が主人公。男は、謎のサングラスの外国人っぽい二人組と、喋るネコと共に、異世界に頭を探しに行く。女は、手に異世界に通じる穴が開いた少年と、イヌとともに何故か異世界へ。そしてなんやかんやで帰ってくるだけ。ファースト・サークルや手拍子はなんだったんだろう。異世界はなんだったんだろう。でも、不思議は放置のまんまフワッと終了。カタルシスのない異世界ファンタジーかなぁ。
●「星系出雲の兵站 遠征2」林譲治著、ハヤカワ文庫JA、2019年11月、ISBN978-4-15-031401-9、840円+税
2019/12/2  ★

 「星系出雲の兵站 遠征1」の続き。人類の星系では、封じ込めた集合知性体とのコミュニケーションがゆっくり進み、新たな発見も。また衛星での衝撃の発見により、集合知性体について新たな謎も。一方、遠征先でも、衝撃の発見が。衝撃の発見はいずれも大量の死体なんだけど。
 今回は、人類同士の政治的やり取りは少なめ。異星人についてのさまざまな発見が連発。その中で、集合知性体における意識と認識の話は面白い。
●「世界の終わりの天文台」リリー・ブルックス=ダルトン著、東京創元社、2018年1月、ISBN978-4-488-01463-6、2200円+税
2019/11/29 ★

 北極圏の天文台の老天文学者と謎の少女、木星探査の任務を終えて地球に戻りつつある6人の宇宙飛行士。孤独な2組のエピソードが交互に語られる。主人公は冬天文学者と、通信担当の女宇宙飛行士。その2人の過去も交えて、ストーリーが進んでいく。やがて、両者が交錯していく。
 読んでいくと、2回そうだったのかと思わされる。そして、結局のところ、北極圏で何が起きたのかは、読者にゆだねられる。
 とても記憶に残る作品。でもSF分は少なめかなぁ、って評価。
●「未来の回想」シギズムンド・クルジジャノフスキイ著、松籟社、2013年10月、ISBN978-4-87984-319-7、1300円+税
2019/11/27 ☆

 時間に取り憑かれたドイツ系ロシア人の青年が、不思議な理論(?)でタイムマシンの製作に取り組む。第二次世界大戦で戦争にいかされて中断し、ロシア革命で中断し。でもとにかく生き残って、上手い具合にパトロンを見つけて、ついにタイムマシンを完成させる。で、未来に行った見たような。
 ウクライナ人の著者による1929年の作品。ぜんぜん科学的な部分はなく、スペキュラティブでもなく、文学って感じ。不思議な視点からの、妙な文章が続くので、ぼんやり読むと何を言ってるのか分からないけど、馴れてくると普通に読める。簡単にかけることを、違う角度から持って回って表現するのが楽しくなってくる。っていう楽しみ方でいいんじゃなかろうか。
●「世界を変える日に」ジェイン・ロジャーズ著、ハヤカワ文庫SF、2013年7月、ISBN978-4-15-011909-6、900円+税
2019/11/26 ★

 女性が妊娠したら、BSE的な症状が出て死亡する。バイオテロでそんなウイルスが世界中に広まった。新たな子どもが産まれないと、人類は絶滅する。そんな中で、人々が絶望にかられ、あるいは自分が信じる方向を目指し始める。人工子宮を開発し、あるいは治療を試みる科学者。バイオテロを生み出した科学や科学者を敵視する者。男性と女性、大人と子どもの対立をあおる者。そんな中で、主人公の少女はある決断をする。
 若い女性の主人公の一人称で、話は進んでいく。そしてある決断をする。帯びに「たったひとつの冴えたやりかた」を書いたらアカンと思う。
 最初の1/3で、事態は明らかになるので、ラストも想像がついてしまう。その後は、えんえんと主人公の、あるいは家族の個人的な事件が続くだけ。正直退屈。
●「十月の旅人」レイ・ブラッドベリ著、ハヤカワ文庫SF、2016年4月、ISBN978-4-15-012063-4、720円+税
2019/11/25 ★

 10篇を収めた短編集。SFっぽいのもあるけど、全体的にはホラーというべきな気がする。やたら死の気配が漂うし。
 「十月のゲーム」は、ハロウィンの夜のホラー。血友病の人が怖い目にあう「昼下がりの死」ももちろんホラー。「灰の怒り」は、殺人現場で何をしてるんかと思ったら…。完全にホラー。それにしても、妻が夫を殺す的な話が多い。ブラッドベリは妻と仲が悪かったん?
「対象」は、不思議世界の英才教育から、逃げ出す話。“純粋な対象”が気の毒。ファンタジーかなぁ。「過ぎ去りし日々」は、色んな時代の自分に出会う。理屈もなにもないし、ファンタジーやね。
  「休日」は火星で火星人が仕掛けたデッカイ花火を見る話。「永遠と地球」は、タイムマシンで作家を連れてきて小説を書かせる。火星とかタイムマシンが出てきても、SFかなぁ。謎の道具を扱う商品と適当に会話する「ドゥーダット」は、昔のSFっぽい。「夢魔」は、ある小惑星に不時着したら、妙な奴らがいて…。これも昔のSFっぽい。「すると岩が叫んだ」核戦争で欧米の国々が全滅して、後ろ盾を失ったアメリカ人は、第三世界で…。ある意味一番SFかも。
 それにしても、ファンタジーっぽい2作品を除いて、すべて死を扱ってる。ブラッドベリは詩情ではなく死情だったのね。知らんけど。
●「ZOO CITY」ローレン・ビュークス著、ハヤカワ文庫SF、2013年6月、ISBN978-4-15-011906-5、860円+税
2019/11/24 ★

 南アフリカのヨハネスブルグを舞台に、本当は失せ物探し屋の主人公が、失踪した少女を探して、右往左往する。
 タイトルにあるZOO CITYは、ナマケモノを連れた主人公が住むスラム街。最下層民扱いされる動物連れが住んでいる。獲得性従獣親和症は、21世紀に入って世界に広まった謎の症例。どうやら殺人などの行為を犯した者の前に、なぜか1匹の動物が現れ、相棒のように、守護霊のように振る舞う。連れる動物は、主人公のナマケモノ、パートナーのマングース、仕事を依頼してきた二人組はマルチーズとアフリカハゲコウ。アフリカなのに、バクを連れることになったり、昆虫の事があれば、クマのこともある。同時に特殊能力も付与される。
 この設定も含めて、魔術が生きているヨハネスブルグで、多くの人が死んで、陰謀が明らかになる。魅力的な設定なのに、魔術の一部でしかなく、その正体が解明されることもなく、世界がどう変わるかも描かれていないのが大いに不満。ただナマケモノがとても可愛い。
●「プロジェクト・ネメシス」ジェレミー・ロビンソン著、角川文庫、2018年7月、ISBN978-4-04-106909-7、1160円
2019/11/23 ☆

 アラスカで謎の存在が見つかった。軍関係の企業が、そのDNAを人間に移植する実験をしたら、怪獣が育ってしまう。初動に失敗して、というか多くの人が知る前に自体が進行して、巨大化した怪獣に街が4つほど破壊されて大量の死者が出て、怪獣は海に去って行って終了。舞台はメイン州のポートランドの北から、ボストンにかけて、合衆国北東部の狭いエリアのみ。
 人がゴジラを作ってしまって、ウルトラマンはいなくて、手も足もでないウルトラQパターンで終了。怪獣は元気だし、数も増えそうだし、なんにも解決していない。
 もとの存在の謎は完全に放置だし、怪獣が現れたら社会や体制にどんな影響があるかというスペキュレーションもなく。ただただ主人公が美人と仲よくなるだけ。エンターテイメントの書き方をしてるから読みやすいけど、SFではないよなぁ。
●「迷宮1000」ヤン・ヴァイス著、創元推理文庫SF、1987年8月、ISBN4-488-54301-4、515円
2019/11/22 ☆

 ミューラーという謎の大富豪がたてた1000階建ての巨大な館。気がついたらこの館の中にいた主人公は、自分が何者か分からないまま、ミューラーと戦いお姫様を助けるために活動をはじめる。
 透明人間が活躍し、なぜか主人公とお姫様は仲良くなり、ミューラーの正体はあれで、オチまさかのあれ。なんじゃコレ! と思ったら、原作は1929年。今では陳腐すぎるその全ては、当時はまだ新鮮だったんだろう。もしかしたら、この作品がオリジナルな部分もあるかも。とはいえ、今読むのは辛い。
●「血は異ならず」ゼナ・ヘンダースン著、ハヤカワ文庫SF、1982年12月、ISBN4-15-010500-6、740円+税
2019/11/22 ★

 「果てしなき旅路」に続く、6篇を収めるピープルシリーズの連作短編集。6篇は書かれた順番ではなく、最初の表題作以外は、作中の時間順に並んでいる。それぞれの最後に、次の作品へのつなぎのエピソードが付けられていて、一つの長編仕立てになっている。最初の表題作で、ピープルと出会った人間の夫婦が、夜な夜なエピソードが語ってもらうという趣向。
 地球人そっくりの超能力をもった異星人が、母星を失って、19世紀のアメリカ合衆国に、密かに移住してくる。そこでのアメリカ西部の人々との交流が描かれる。2つめの「大洪水」がピープルが母星を離れるエピソード。最後の「月のシャドウ」が、付へ行くロケットの話なのを除くと。ほかの4篇はいずれも、良きアメリカ人夫婦や家族の元に、遭難したピープル(内3篇では子ども)がたどり着き、人間に助けてもらい、後から恩返しするパターン。なぜかツルの恩返しを思い浮かべる。この場合、ツルはけっこう団体だし、能力高いけど。
●「永劫回帰」バリントン・J・ベイリー著、創元推理文庫SF、1991年5月、ISBN4-488-69702-X、466円
2019/11/21 ★

 宇宙は、何度も同じ歴史が繰り返されると誰もが信じている世界。コロネ−ダーと呼ばれる哲学者(?)集団に改造された主人公は、自分が受けた苦痛を繰り返したくないあまりに、時間を操作する方法を求めて、タイムジェルと呼ばれる宝石を求めて、伝説の放浪惑星に向かう。
 正直、なにを根拠に歴史が繰り返されると主人公をはじめとするみんなが信じてるのか謎。タイムジェルを持つ異星人が楽しげなのだけど、いまひとつ突っ込みがない。そして有耶無耶のまま終了。ベイリーにありがちなワイドスクリーンバロック。
 唯一面白かったのは、改造された主人公は、いわば本体が宇宙船自体にあって、宇宙船に守られつつ、宇宙船からあまり離れられないという設定。この設定をもっと楽しめばいいのに。「叛逆航路」を思い出してしまう。
●「天候改造オペレーション」ベン・ボーヴァ著、創元推理文庫SF、1972年9月、ISBNなし、200円
2019/11/19 ★★

 気候学研究所の気鋭の若手研究者が、上司と対立して研究所を飛び出して、知り合ったばかりの大企業のボンボンとともに、気象会社を立ち上げる。元上司の妨害を受けながらも、徐々に長期予報を武器に顧客を獲得していくが、究極の目的の天候改造では、動きを封じられ…。一方で、天候改造の軍事的価値に気付いた軍が動きはじめ、政治的に利用されながら。干魃を解消したり、台風被害の撲滅を試みる。
 原作は1966年。弾道ミサイルに乗って大陸間高速旅行をしたり、動く歩道が張り巡らされていたり、未来技術には不思議あったりするけど。一方で、複数のスーパーコンピュータを結んで、さらに高度な処理をしたり、なにより今の民間気象会社をこの時点で出現させていたり。かなり先験的。そして、気象コントロールの軍事利用と平和利用の対立など、今でも充分SF的に成立していてすごい。
●「わたしは“無”」E・F・ラッセル著、創元推理文庫SF、1975年9月、ISBNなし、260円
2019/11/18 ☆

 6篇をおさめた短編集。「どこかで声が…」ある惑星に不時着した面々が、その惑星にある唯一の基地を目指して歩き始めるが…。主人公が心を入れ替える話。「U-ターン」自殺志願者が目指すビルは、実は…。これが一番面白いかも。「忘却の椅子」精神を他人の身体に写す技術が、指名手配犯に奪われ。オチは分かってしまう感じ。「場違いな存在」反乱に失敗したと嘆く人は、実は…。このパターン多いな。「ディア・デビル」地球に探検にきた火星人が、地球の生き物と交流する。表題作は、ある惑星の支配者が、とある少女と出会って、心を入れ替える話。このパターンも著者のお気に入りかな。
 原作は1965年。今読むと、全体に古くさいとしかいいようがない。
●「シンギュラリティ・トラップ」デニス・E・テイラー著、ハヤカワ文庫SF、2019年10月、ISBN4-15-012254-6、1100円+税
2019/11/14 ★

 地球温暖化で環境が悪化した22世紀、食い詰めた主人公は、小惑星で鉱物を探す探鉱船に乗って一攫千金をもくろむ。当たりを引いたかと思ったら、謎のトラップにかかって…。
 宇宙で何にでも手を出したら、エライ目に遭う、って話。そして、徐々に明らかになる、超技術と、驚くほど賑やかだけど、救いのない銀河世界の真実。始まりと終わりでは、全然違う世界が広がる。
 これは続編でバーサーカーが登場するのかな? そして幼年期が終わるとか。ナノマシン君との共生体は、宇宙でいろんな可能性が開けそう。ボブ達みたいになるとか。
●「宙を数える」東京創元社編集部編、創元SF文庫、2019年10月、ISBN4-488-73903-4、900円+税
2019/11/11 ★★

 6篇を収めたオリジナル宇宙SFアンソロジー。
 オキシタケヒコ「平林君と魚の裔」は、ベントスから進化した知的生物が幅をきかせる宇宙で、ネクトンから進化した知的生物は苦労をする話。この主人公と大金持ちさんは苦労しているようには見えないけど。ベントスとネクトンの違いが宇宙規模に拡がるとは驚いた。
 宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」は、核兵器が開発される前に第二次世界大戦が終結した世界。ある小惑星が地球に落下することが分かり、主人公の高校生たちがその対策を考える。核は平和に貢献するかという問いかけ。
 酉島伝法「黙唱」は、例によって分かりにくい用語でたたみかけて、不思議な生き物の不思議な生態が描かれる。異なる世界を分かりにくく描く手法は、もう疲れるだけになってきた。生物と楽器のハイブリッドな生き物は、ちょっと面白いけど。最後にその由来がチラッと。
 宮澤伊織「ときときチャンネル#1【宇宙飲んでみた】」、ライブ配信で、引きこもりな感じの天才科学者を紹介するなかで、宇宙を飲んでみたら、しばらくの間、全てを理解する話。単行本化が待ち遠しい。
 高山羽根子「蜂蜜いりハーブ茶」 、ジェネレーションシップでのお話。ニアサイドとファーサイドに別の種族が暮らして、ニアサイドが食料生産に特化。その実態は…。
 理山貞二「ディセロス」、プレデシジョン・ダイスというのを挿入したら、少し未来が見える。って者同士の宇宙船内での戦い、あるいは裏切り者の殺人犯を捜すミステリ。AIの権利、人体改造、ヒューマノイドへのダウンロード。さまざまな要素が盛りだくさんで、とても贅沢。この世界を舞台にした作品がもっと読みたい。
●「時を歩く」東京創元社編集部編、創元SF文庫、2019年10月、ISBN4-488-73904-1、900円+税
2019/11/11 ★

 7篇を収めたオリジナル時間SFアンソロジー。
 松崎有理「未来への脱獄」、刑務所でタイムマシンを作る。
 空木春宵「終景累々辻」は、よく分からなかった。ってゆうか、読みにくくて…。番長皿屋敷、牡丹灯籠、四谷怪談かな。
 八島游舷「時は矢のように」、装着型のスマホで、人の主観時間を加速するみたいな。無理があるのはさておき、オチが読めてしまうのが…。
 石川宗生「ABC巡礼」は、ABC順に、その頭文字の付いた場所を巡る。っていうのをした人の後を追って、さらにその人の後を追って、さらに…。と、どんどん深みにはまっていって楽しい。このアンソロジーで一番気に入った。時間テーマでも、SFでもない気がするけど。
 久永実木彦「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」は、真っ正面からタイムトラベル物。貧困層がタイムパトロールにされて、平行世界がない世界で、事故を未然に防ぎ、都合の悪い出来事をなかったことにし、歴史改変を繰り返す。
 高島雄哉「ゴーストキャンディカテゴリー」、VRSFとでも呼ぶべきかと。圏論っていう数学の話らしい。ちょっと起きては、少し作業をして、数億年も生きる。考えれば、退屈そうって分かるやろうに。
 門田充宏「Too Short Notice」、これも主観時間の話。目が覚めると真っ白で何もない部屋。そこに絶世の美女が現れて、なんでも言うことを聞いてくれる。っていうのに、そんなつまらん願いを…。とりあえず違うこともしてみればいいのに。
●「宇宙軍士官学校 攻勢偵察部隊5」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2019年10月、ISBN978-4-15-031400-2、660円+税
2019/11/10  ★

 「宇宙軍士官学校 攻勢偵察部隊4」の続き。またケイローンによる試験(いわば昇段試験)を受けて、人類は次のステップへ。そして新たな編成で、新たなテクノロジーを導入して、演習していたら、敵の前線基地を発見。てな展開。一方、地球では、テラフォーミングが徐々に進んでいた。
 今回はアンドロメダにはいかないので、新たなお友達はできなかった。お友達作りは、上級酒属の覚えがめでたい様子。
 今回始まった、宇宙の食い物屋台のエピソードは楽しい。スピンオフを期待。
●「22世紀の酔っぱらい」フレデリック・ポール著、創元推理文庫SF、1971年7月、ISBNなし、170円
2019/11/10 ★

 22世紀の終わり、人口が増加し過密となった世界は、大部分の一般人と、選ばれた少数の大学人に分かれていた。若くして大学教授になった主人公は、無意識のうちに、自殺未遂を繰り返していた。一方、突然の天然痘の流行で、多くの人が死んで、社会不安が増大していた。その背後にはある陰謀が…。
 ネタバレを避けるとここまでしか書けない。このテーマとしては、古典的な作品なんだろうなぁ。ってゆう点を除いたら、あまり面白い話ではない。
 ある島から連れてこられた原住民は、途中で日本人と明かされて驚いた。あと、大学で教えられている数学が、高校生レベルっていうのにも驚いた。22世紀にもなってねぇ。
●「地の果てから来た怪物」マレー・ラインスター著、創元推理文庫SF、1970年1月、ISBNなし、170円
2019/11/9 ★

 南極近くの孤島の基地に、南極に調査に行っていた研究者や採集物を載せた飛行機が到着する。と思ったら、飛行機は不審な動きをした後、胴体着陸。機内には機長しかおらず、機長は到着直後に拳銃自殺してしまう。
 外部からの助けなしにこの謎を解明しようとする基地の人々。しかし、機長の死体が、イヌが、そして基地のスタッフが姿を消し始める。何かが侵入したのか?
 「物体X」を思わせるような王道シチュエーション。原作は1959年。王道は強いのか、ラインスターがすごいのか。今でも充分読めるし、怖い。結論は予想通りだけど、その生態を真面目に考えたら面白いかも。
●「ガス状生物ギズモ」マレー・ラインスター著、創元SF文庫、1969年6月、ISBN4-488-62102-3、680円+税
2019/11/6 ★

 北アメリカにおける、ガス状生物ギズモと人間の戦いを描く。といっても、さりげなくギズモの攻撃は始まり、それに気付いた主人公達が、みんなに事実を知らせようとするが、なかなか信じてもらえない。対応すべき人にいかに真実を伝えるか頑張る。という物語。
 野生動物や家畜の謎の死が各地で続き、やがて人死にも出て。調べに行った主人公も襲われるが、かろうじて逃れ真実に気付く。その後は、みんなに真実を伝えるべく、仲間とギズモと戦いながら、車で移動し続ける。ちょっとロードムービー風。
 原作は1958年。とても古いのに充分楽しく読める。ラインスターはすごい。
●「リアル・スティール」リチャード・マシスン著、ハヤカワ文庫NV、2011年10月、ISBN978-4-15-041245-6、640円+税
2019/11/5 ★

 10篇を収めた短編集。マシスンなので、ホラー分が強め。SFと呼べそうなのは、4篇だろうか。
 表題作は、ロボットによるボクシング界での、おんぼろロボットのオーナーの悲哀、みたいなのを描く。これが長編映画になるとは驚き。「象徴」は、食べ物を食べるのが違法で卑猥とされた“科学的”社会での、ささやかな反抗の物語。「おま★★」(現題は「F---」)は、「象徴」と同じ社会でのコメディ。タイムマシンに乗った男が、アレを持ってきてしまい…。「心の山脈」は、この世界は実は…、という話。その仕事は犠牲が大きすぎ。
●「火星航路SOS」E・E・スミス著、ハヤカワ文庫SF、2006年3月、ISBN4-15-011555-9、800円+税
2019/11/5 ☆

 1931年に書かれた作品なので、古くささは否めない。宇宙船には真空管が使われているし、太陽系は金星人や火星人、木星にも、土星にも知的生命体がいて、とてもにぎやか。それは楽しいんだけど、科学っぽいと作者が思ってる解説がメチャクチャすぎて、痛々しい。“優秀”な男の主人公が偉そうに解説しまくる構造も、地球人が他の異星人よりも優秀ってな展開。地球人の味方は、コミュニケーションが取れて、敵方は言葉は通じず、ひたすら残酷。全体的に、当時の価値観を伝えまくっている。
 ストーリーは、天才物理学者が火星に向かう宇宙船に乗ってたら、美女に出会い、謎の異星人に襲われ、その美女と一緒にガニメデに島流しになる。あとは、ロビンソンクルーソー的に、脱出したり、タイタン人を助けたり、悪い異星人を倒したり。最後は、美女とハッピーエンド。
●「ペルセウス座流星群」R・C・ウィルスン著、創元SF文庫、2012年11月、ISBN4-488-70608-1、1200円+税
2019/11/3 ★

 9篇を収めた連作短編集なんだそうだし、“ファインダーズ古書店より”という副題めいたものも付いているんだけど、作品間のつながりはあまり強くない。ファインダーズ古書店が舞台となってるのも4篇ほどしかないし、名前すら出てこなかったり。よーく探してもどこが関連してるのか分からない作品も数篇。確実に全作品に共通するのは、舞台がトロントってことかも。
 「アブラハムの森」は、不遇のチェスの天才少年の話かと思ったら、呼子パターンだった。怖い〜。表題作は、不思議な女の子との三角関係の物語かと思ったら、宇宙規模の寄生の話。これも怖い。「街のなかの街」は、街を歩き回って、不思議な事実を見つける話。「観測者」は、ある怖い者が見える少女と、天文学者との交流。「薬剤の使用に関する約定書」は、アリの王の交代の話。「寝室の窓から月を愛でるユリシーズ」は、人間に知覚できない、人間より優れた存在の可能性の話。「プラトンの鏡」、真実(?)の姿を写す(?)不思議な鏡。「無限による分割」、存在しない本を見つける話はとても好き。なので、この作品集で一番気に入った作品。無限の平行世界の中では人は、ほぼ不死になる、という不思議なアイデアが好きかも。「パールベイビー」は、「無限による分割」の続きっぽく、不思議な存在との出会いが描かれる。この人は年をとっても、マリファナを栽培してるんだなぁ。
 どの作品も、現実世界のそばにある不思議な世界が描かれる。不思議世界に気付く主人公は、あまり幸せになれないらしい。
●「フラクタルの女神」アン・ハリス著、創元SF文庫、2005年6月、ISBN4-488-72001-3、920円+税
2019/10/31 ☆

 貧民街から逃げ出して都会に出てきた若い女性が、悪い男にだまされて、と思ったらある博士に助けられ(?)、運命の人と博士が創り出した人工生命体に出会う。って話を読んでると思ってたら、後半に突然バイオテクノロジーが暴走する。社会が変容する恐れがありそうなことを、何も考えずに引き起こすのも訳が分からなければ、そんな大惨事の可能性を顧みもせずに、いたって個人的な復讐と解決が描かれる。これはSFではなく、恋愛小説だったらしい。
●「未来医師」フィリップ・K・ディック著、創元SF文庫、2010年5月、ISBN978-4-488-69619-1、820円+税
2019/10/30 ★

 21世紀の医師が、突然、25世紀に飛ばされる。そこは、有色人種が支配し、医療が禁止され、生殖が完全に管理され、平均年齢が20歳に満たない奇妙な世界だった。主人公の医師は、支配者側と抵抗勢力との密かな戦いに巻き込まれて…。
 「バック・トィ・ザ・フューチャー2」のような、タイムトラベルにタイムトラベルを重ねて、行ったり来たり。楽しいとも言える展開が起きて、最後は現代のモラル的には知らないけど、なんかハッピーエンド。
 1960年に書かれた初期のディック作品だからだろう。訳が分からなくはならず、とても普通なタイムトラベル物のまんま、ちゃんと普通に決着する。ディックファンには物足りないだろうなぁ。
●「ラブスター博士の最後の発見」アンドリ・S・マグナソン著、創元SF文庫、2014年11月、ISBN978-4-488-75101-2、1000円+税
2019/10/30 ★

 ラブスター博士を中心とするアイスターという企業によって、次々と発明される品々。鳥信号によって、コードレスに通信しあえるコードレス人間が生まれ。死者を宇宙規模の一種のイベントに仕立てるラブデス。運命の人を計算してしまうインラブ。
 コードレス人間の普及によって生じた新職業、叫び屋。ネットのステマのように、密かに人々に商品を売り込むシークレット・ホスト。さらに激しく売り込みをかけるトラップ。次々と繰り出される新職業が面白く、それに支配された社会が恐ろしい。
 アイスターに支配された世界では、インラブに逆らうカップルは、あらゆる手段で嫌がられを受ける。ある熱愛カップルがインラブに引き裂かれるストーリーを軸に、不思議な社会と、不思議なラブスター博士が描かれる。でも
 帯びにあるように、カルヴィーノやダグラス・アダムズ風の、ちょっとリアルじゃない世界。なぜか鳥の名前がいろいろ出てくる。アイスランドの作家だからだろうか。多くの鳥の和名は正しそうなんだけど、ハシグロオオハムが気になる(正しくはハシグロアビだろうなぁ)。
●「ガニメデ支配」フィリップ・K・ディック&レイ・ネルスン著、創元SF文庫、2014年6月、ISBN978-4-488-69621-4、920円+税
2019/10/27 ☆

 ガニメデ人との戦争に敗れ、地球はガニメデ人の支配下に。しかしテネシーには黒人を中心とする抵抗組織があり、ガニメデ人の走狗であったり、密かにガニメデ人に抵抗する勢力などが、いろいろな目論見のもとに接触をはかる。そこに天才精神科医が発明した幻覚兵器が投入されて訳の分からない展開に。
 ディックワールドなので、訳の分からない事になるのはお約束。むしろ共作だからか、比較的訳が分かると言ってもいいかも。ぜんぜん面白くないのは変わらないけど。むしろぶっ飛んだ方が面白かったのかも。
●「Ank:a mirroring ape」佐藤究著、講談社文庫、2019年9月、ISBN978-4-06-517124-0、1160円+税
2019/10/22 ★

 2026年に京都起きる“京都暴動”という事件。その発生と、発生に繋がる出来事の顛末が描かれる。主人公は、亀岡市に世界的大富豪が設立したチンパンジー研究施設のセンター長に大抜擢された若き霊長類研究者。それを取材する女性サイエンスライターと、アフリカから連れてこられた若いチンパンジー。さまざまな背景が交錯して、事件は起こって、収束していく。やたらと残酷シーンが繰り返されるので(まあそういう事件という設定だけど)、けっこう辟易する。
  “京都暴動”の原因は、ウイルス、病原菌、化学物質ではない。とプロローグで最初に書いてある。なのに、突然人々が暴れ出して、素手で殺し合いを始める。何が原因なのか?とその謎解きは気になるところだけど、まともには解明されない…。なぜアンクは特別だったのかも、そういう能力が発揮されたのかも不明のまま。まあ、謎の事件が起こって、作用機序は分からないけど、解決したって話かと。

 ヒトが言語を獲得した原因として、自己鏡像認識に注目するまでは、ちょっと面白いかもと思った。でも、進化の過程でヒトの祖先が自己鏡像認識を獲得したプロセスの説明のところで、嫌な予感がした。それが最後の方で、明確になってしまう。この話は、とても素朴な獲得形質の遺伝を前提にしてる。それも子孫に伝わるどころか、学習によって同じヒトのDNAの塩基配列が変化していくレベル。体鍛えてムキムキになったら、筋肉をつける遺伝子が増えて、子々孫々に伝わるレベル。
 さらに言えば、DNAの塩基配列の変化が問題となるんだったら、こんな悠長な研究せずに、DNAの塩基配列を操作する実験するでしょう。それであっさり決着するし。
 もひとつ言えば、主人公が大抜擢されるきっかけとなった、ことになってる論文と称するものが、データはなく引用もない、曖昧なエッセイでしかなくて…。
 とまあ、基本アイデア部分に気になるところが多すぎて、ぜんぜん楽しめなかった。チンパンジーの塩基配列を操作する実験をしてたら、へんな感染因子をつくってしまって、 “京都暴動”が起きたというような展開にしてくれたら、まだ納得して読めたのになぁ。
●「時空旅行者の砂時計」方丈貴恵著、東京創元社、2019年10月、ISBN978-4-488-02562-5、1700円+税
2019/10/18 ★

 第29回鮎川哲也賞受賞作品。つまりミステリ作品として評価された作品。だけど、ここではSFとしてのみの評価ってことで。
 謎の存在から「奇跡の砂時計」を渡された主人公は、瀕死の妻を救うために、2018年から1960年にタイムトリップする。それは後に一族の者が次々と死んでいく竜泉家の呪いの起点となった事件が起きた時点だった。主人公は探偵として、呪いの起点の事件の真相を探る。ミステリの謎解きにSFガジェットがちゃんと関連させられていて楽しい。事件が終わって主人公が2018年に戻ってきた時の展開は、個人的には好きなパターン。
 でも、SF的アイデアは、そんなわにワクワクする感じではないかなっと。
●「ベーシックインカム」井上真偽著、集英社、2019年10月、ISBN978-4-08-771679-5、1400円+税
2019/10/18 ★★

 5篇を収めた短編集。とくに2編は明らかにミステリだけど、残る3編は、なんか分からないままに読み進むと、最後に驚きの真実が用意されている。という意味で、表紙にSFミステリと謳ってるのは正しい。
 「言の葉の子ら」は保母さんの話。「存在しない0」は殺人事件の謎解き。「もう一度、君と」は、妻の秘密の謎解きかと思いきや…。「目に見えない愛情」は、盲目の少女が手術で目が見えるようになるかも、っていう流れで謎解き。「ベーシックインカム」、かつてそれを研究していた作家と、かつての恩師が久しぶりに再会して腹の探り合い。
 少し未来の、今から少し進んだテクノロジーやシステムがある社会での人々。ロボット、遺伝子操作、VR、人間強化、ベーシックインカムがある社会。保育、医療、終末期ケア、いろんなものが変わっていく。
 最後におかれた表題作の最後で、この短編集全体の仕掛けが明らかになる。連作でもない短編集。と思ってたのに、驚いた。で、この本では、ロボット、遺伝子操作、VR、人間強化をテーマに、“技術革新による未来の価値観の変化”が描かれたのか、少し違うのか。

●「魔法を召し上がれ」瀬名秀明著、講談社、2019年5月、ISBN978-4-06-515609-4、2700円+税
2019/10/17 ★

 若きマジシャンを主人公とした連作短編集。高校の時に死んだ同級生の死の真相を探るというのが一つのストーリー。収められている4篇の第1話は、レストランでテーブルマジックを披露するマジシャンになった主人公の暮らしや高校時代、そしてマジシャンとしての在り方が紹介される。ぜんぜんSF色はない、と思ったら、最後にAIな相棒ができて、一気にSFに。第2話では、おもに相棒との暮らしが描かれ、そして相棒にマジックを教える。第3話は、いなくなった相棒を主人公が探す話。相棒の出自がいろいろ明らかになる。そして、第4話では、同級生の死の真相がある意味明らかになる。思ったような大団円ではないけれど、ミステリは決着する。
 全体的には、AIとマジックに関わる考察が随所に見られて、SF的にも楽しいけど、マジシャンの生態を紹介してもらった感の方が強い。この著者の近年の作品に必ず出てくる、東日本大震災も大きな存在感を示す。
●「パラドックス・メン」チャールズ・L・ハーネス著、竹書房文庫、2019年9月、ISBN978-4-8019-2004-0、900円+税
2019/10/12 ☆

 22世紀、アメリカ合衆国はアメリカ帝国となっており、一種の貴族政治が行われ、奴隷制度が復活していた。それに抵抗する勢力が<盗賊>で、帝国警察との間で密かな戦いが繰り広げられていた。
 主人公の盗賊は、帝国宰相夫人と出会い、帝国警察から逃げる中で共に行動することになる。あらゆる情報にアクセスして処理し、いわば未来を予言する不思議な存在<メガネット・マインド>を舞台回しに、アメリカ帝国の革命が描かれるのかと思いきや、途中からタイムトラベル物に展開。現在と過去が錯綜する。
●「ブラックシープ・キーパー」柿本みづほ著、角川春樹事務所、2019年10月、ISBN978-4-7584-1343-5、1400円+税
2019/10/7 ★

 人が造った存在にとって、トラウマをもった周辺の人々が、トラウマに応じた特殊能力を持ってしまう。能力者(羊飼い)は、他の人とある種の契約を結んでエネルギー源(羊)として利用するのだが、エネルギーを使われすぎると狂ってしまう。特殊能力者達は、警察サイドと裏社会サイドに分かれて戦っている。密かにそんな戦いが繰り広げられている未来の札幌。そこを舞台に、賞金稼ぎの主人公が、ある少女っぽい存在になつかれる。
 帯びに『レオン』と『ブレードランナー』へのオマージュと書いてあるのはアカンと思う。どんな話かだいたい判ってしまうやん。ちなみに『エヴァンゲリオン』のチルドレンなイメージもある。奇妙な特殊能力者の異能は、『ブギーポップ』のMPLSっぽさ満点。さしずめ羊飼厚生保全協会は、札幌ローカルな統和機構。
●「火星無期懲役」S・J・モーデン著、ハヤカワ文庫SF、2019年4月、ISBN978-4-15-012226-3、1200円+税
2019/10/7 ★

 タイトル通り、事実上の終身刑の囚人を火星に送り込んで、死亡リスクの高い基地の立ち上げという労働をさせるという話。逃げられないから完璧な監獄。
 で、最初の1/3が地球での訓練まで。残りで火星が描かれる。火星に送り込まれるのは7人の囚人と、監視者1人。食料、酸素、エネルギーが不足する中で、送り込まれた囚人達はなんとかインフラを整え、基地の建物を立ち上げ、食料生産を始める。しかし、その過程で次々と囚人が死んでいく。後半はミステリ仕立てになる。ただ残念なことに、読者からしたら真相は自明すぎる。なのに登場人物はそれに気付かないことになっていて、読んでいて辛い。そんなこと最初から判るでしょうとしか思えない。一ひねりが欲しかった。
●「クオリティランド」マルク=ウヴェ・クリング著、河出書房新社、2019年8月、ISBN978-4-309-20777-3、2900円+税
2019/10/4 ★★★

 近未来のヨーロッパにある国家「クオリティランド」。人々は、名字に親の職業を受け継ぎ、細かく格付けされており、すべての情報がAIに握られている。人々の行為は、AIによってすべて最適化され、自動運転車は行き先を告げなくても目的地に届けてくれ、注文しなくても求めていると判断された商品が配達される。求めていない物を配達された主人公は、それを返品すべく、とーっても苦労する。というか、巨大システムと闘う羽目になってしまう、って話。
 と同時に、AIに管理されまくってるのに、アンドロイドが大統領になるになろうとしたら、民衆の中に湧き起こる反発。とても優秀で有能なAI大統領は、有能で国民のことを考えるが故に…。AIとのつき合い方をいろいろ考えさせてくれる。
 楽しいのが、喋りまくる機械たちとのやり取り。規則規則とうるさい自動運転車やドローンは、仕事が終わったら高い評価を求めてくるし。消費保護法で修理を禁止されているもので、故障をひた隠しにしている機械たち。
 短い章がつらなる間に、広告やニュースがはさまるんだけど、その内容がまた楽しい。世界の様子がいろんな側面から垣間見える。
●「物体E」ナット・キャシディ&マック・ロジャーズ著、ハヤカワ文庫SF、2019年9月、ISBN978-4-15-012250-8、1280円+税
2019/10/3 ☆

 宇宙船と宇宙人の死体(?)を収容した軍につながる研究所。10年にわたる研究を経ても何も判らず。研究所のオーナーにそのスタッフは、宇宙人と宇宙船で金を手に入れることを考え始める。
 とても凄い事態なのに、宇宙船や宇宙人の謎の解明よりも、機密の保安等のために次々と人の命が消費される様子や、組織内のパワーゲームばかり、そして恋に来るって見境のつかない主人公ばかりが描かれる。最後だけ突然SFっぽくなって終わるんだけど、そんなに驚かない。SF的には短篇程度の内容が、なんと640ページにも増量されて、とても迷惑。
●「嘘と正典」小川哲著、早川書房、2019年9月、ISBN978-4-15-209886-3、1600円+税
2019/9/30 ★★

 6篇を収めた短編集。「ひとすじの光」、無くなった父の残した馬の謎を追う中で明らかになる、あるサラブレッドの系統と父とのつながり。これはSFとは言いにくいけど、他はSF作品集。
 と思ったけど、行方不明になったマジシャンの父が最後に仕掛けた壮大なトリック「魔術師」もSFじゃないのかも。でも、もしかしたらSFかも。というのがこの著者は好きなんだろうなぁ。代償をともなう過去の改変を繰り返す中で、たどり着いた皮肉で哀しい結末「時の扉」。音楽家であった父が関わった、音楽を通貨とする謎の島デルカバオ島「ムジカ・ムンダーナ」。流行をやめよう運動が流行になった話「最後の不良」。「嘘と正典」は、歴史改変物。というかなんというか。
 「魔術師」「ひとすじの光」「ムジカ・ムンダーナ」と、専門家であった父との関わりを強く意識する作品が並ぶ。「時の扉」「嘘と正典」と歴史改変物も目立つ。表題作が 「嘘と正典」ということは、すべてを歴史改変物として読んでもいいのかも。
●「銀河の果ての落とし穴」エトガル・ケレット著、河出書房新社、2019年9月、ISBN978-4-309-20780-3、2400円+税
2019/9/29 ☆

 表題作は、6つの短いパートに分かれて、メールのやり取りみたいなのを中心に構成されている。これをまとめて1篇と数えると、23篇を収めた短編集。タイトルを見て、帯のあおり文を見たら、SF作品集かなと思うけど、大部分はSFではない。なんか判らんだけで、判らんところで終わってしまう話が連発、という印象。
 脱出ゲームについて、ユダヤ人のユーザーが偉そうに問合せをする表題作はSFっぽい。ほかにSFっぽいのは、「窓」。窓のない部屋の壁に窓から見える風景の動画を写してリハビリ。と思ったら不思議なことが。お父さんがウサギになってしまう「父方はウサギちゃん」は、もしかしたらSFかも。ポケモンGO的なゲームにはまった子ども達が、レアアイテムを求めて軍隊に入る「フリザードン」は、とてもSF。天国に不満な天使がはしごで…、って話は一昔前なら危険なビジョンなのかも「はしご」。「タブラ・ラーサ」は、『約束のネバーランド』的な哀しい話。
 ラファティ好きな人なら楽しめる作品集かも。でもSF率が低すぎ。興味深いのは、著者がイスラエル人だという点。欧米の作者とは、設定が違っている。この年代のイスラエルの人にとっては、ホロコーストは今でもとても大きなテーマなのかな、と思った。
●「セミオーシス」スー・バーグ著、ハヤカワ文庫SF、2019年1月、ISBN978-4-15-012214-0、1060円+税
2019/9/26 ★

 惑星パックスに入植した人類の7世代にわたる物語。1世代ごとに1人の主人公の物語が、7篇並ぶ。連作短編集的。世代はもちろん重なるので、登場人物も重なるけど、多くは別の物語。主人公視点で語られるが、後半では、知性のある植物視点も混じる。
 危険な生物が数多くいる未知の世界で、知性をもった植物と関わりながら、現地で出会った文明を持つ(動物の)種族の謎を交えて、多くのテクノロジーを失いつつも入植者たちは生き抜いていく。
 第1話(第1世代)は、未知の惑星の生態系との出会い。知性を持った植物の可能性がほのめかされる。第2話(第2世代)は、第1世代との葛藤と、知性をもった植物とのファーストコンタクト、謎の文明の発見。第3話(第3世代)は、現地の使役動物の獲得、そして植物知性体の視点が混ざり始める。第4話(第4世代)は、殺人事件を解決するミステリ仕立てだが、重要なのは植物知性体と人類との関係の進展。第5話以降は、未知の文明の作り手とのファーストコンタクトと戦い、共存。
 全体的に大きなテーマはコミュニケーションなんだろうと思う。異なる知性体とのコンタクトが簡単すぎる気がするけど、そこをこだわったら、全然違う物語になってしまうから仕方が無いかなぁ。植物同士のコミュニケーション、植物たちの動物観、そして、いろんな植物たちの個性が面白い。
●「ビット・プレイヤー」グレッグ・イーガン著、ハヤカワ文庫SF、2019年3月、ISBN978-4-15-012223-2、1040円+税
2019/9/19 ★★

 6篇を収めた短編集。アンドロイドが遺産相続をする苦労話や、気付いたらNPCだった〜って話とか、平行世界の難民の話。それぞれに面白いのだけど、なんか中途半端に終わる感が物足りない。三色視の人々の中で暮らす、七色視の人の苦労話は、けっこう面白い。七色視の人には、そういう楽しみがあったとは。しかしタイトルは翻訳ミスだと思う。「七色覚」ではなく、「七色視」でしょう。
 「鰐乗り」と「孤児惑星」は、ともに融合世界を舞台にした物語。宇宙に拡がった人類は、多くの異星人とゆるやかに連合する世界をつくりあげていた。リアルな生活とデジタルな生活を使い分け。デジタルな形で、数千年、数万年規模の宇宙旅行を行い、長距離を行き来する。無限の人生の中で、人々は何を求めるか。そんなテクノロジーが発達しまくった時代においても、宇宙には謎があり、さらなるハイテクノロジーが存在するというのも面白い。どちらも謎の存在を解き明かそうとする物語。とくに「孤児惑星」のフェムトテクノロジーはスゴイ楽しい。

●「巨星」ピーター・ワッツ著、創元SF文庫、2019年3月、ISBN978-4-488-74605-6、1200円+税
2019/9/17 ★★

 11篇を収めた短編集。グレッグ・イーガンと同じく、理屈っぽくハードめアイデアを投入しまくる作家は、短篇の方が楽しみやすい。
 「天使」、軍用ドローンの意識をもったAIの視点で描かれる戦争。付随的被害という言葉が妙に印象的。「遊星からの物体Xの回想」、物体X側の視点で描かれる地球人とのファーストコンタクト。集団知性体からみた異質な生命。「帰郷」、深海での作業のために、身体も脳神経系も改造された人々。異質な知性の視点が描かれる。
 「乱雲」、意識を持った雲が人を襲う。これは異質な知性が出てくるけど、人間の視点から。
 「神の目」、意識や気持ちを読み取って操作する技術がひろまった社会。飛行機に乗る時は、テロを起こさない聖人に変えられる。討論とは、相手の気持ちを変えるためのもの、と言われればその通り。「付随的被害」、装着者の脳神経系をモニターして、意識より先に肉体を動かす装置が軍事利用されている世界。その装置をつけた主人公は、民間人を殺してしまう。「ホットショット」、自由意志を体験する旅。意志とは?
 「肉の言葉」、死の瞬間を記録しようとする科学者、人の意識のシミュレーション。「炎のブランド」、人体発火現象は、ある企業によるバイオハザードだった。
 「巨星」、AIチンプと脳梁でつながった人間は、“僕”を定義できるのか。って話かと思ったら、生きている球電の話だった。「島」、宇宙空間に漂う分子雲の島との、ファーストコンタクト? 遠未来、地球から遠く離れた星系に到達したワームホール構築船エリフォラの探検記、って趣。このシリーズでまとまったら、絶対に買う!
●「犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー」早坂吝著、新潮文庫、2019年9月、ISBN978-4-10-180166-7、550円+税
2019/9/16 ★

 副題に「探偵AI 2」とある。「探偵AIのリアル・ディープラーニング」の続編。探偵AIと犯人AIで対決を繰り返させてディープラーニングでAIを育てる。その両者が、リアル世界で対決を始めてしまう、って話。探「探偵AIのリアル・ディープラーニング」の犯罪集団の残党を交えつつ、偵AIは、三権分立的な名前の3兄弟の殺人事件を追う。その背後で陰謀を巡らせる犯人AI。
●「時空のゆりかご」エラン・マスタイ著、ハヤカワ文庫SF、2018年2月、ISBN978-4-15-012168-6、1100円+税
2019/9/15 ★

 エアカー、ロボット、瞬間移動、宇宙観光旅行、月面基地。そうした夢がすべて実現したテクノロジーが発達しまくった2016年では、ついにタイムマシーンまでが完成。そのすべてのベースは、地球の自転から無限のエネルギーを取り出すゲートレイダー・エンジン。主人公は勝手に、ゲートレイダー・エンジンの発明のキーとなる実験の現場にタイムトラベルを行う。で、その実験を邪魔した結果、未来が変わってしまう。変わってしまって、ディストピアとなった未来が、この現在。
 本来の2016年に戻れなくなった主人公は失意の中で暮らす。だけで終わる。にしては、まだページがたくさん残ってるなと思ったら。そのディストピアには、大きな秘密があって、主人公は再び過去に戻って、自らの未来世界に戻るべく奮闘するのだが。
 世界をめちゃくちゃに変えておいて、自分の彼女のことばっかり考えている主人公。
●「黒き計画、白き騎士」ケイジ・ベイカー著、ハヤカワ文庫SF、2012年12月、ISBN978-4-15-011884-6、1100円+税
2019/9/12 ★

 副題に「時間結社<カンパニー>極秘記録」とある。過去にエージェントを派遣して、利益のあげられる何かを回収してこさせて稼ぐという利益追求型のタイムパトロール的な24世紀の企業<カンパニー>。そのエージェントであるアンドロイドやサイボーグたちの物語。同じ設定、似たような登場人物のもとで、15篇を収めた短編集。最初の1篇は、以降の登場人物紹介って感じ。
 タイムパラドックスや多世界解釈を考えさせるでもなく、タイムパラドックスが以下に避けられるかや時空の行き来をパズル的に楽しませるでもない。脳天気に過去に行っては、勝手なことをして未来に帰っていく。脳天気な感じがとても、古いタイムパトロール的なタイムトラベル物っぽい。
●「時空大戦3 人類最後の惑星」ディトマー・アーサー・ヴェアー著、ハヤカワ文庫SF、2019年9月、ISBN978-4-15-012235-5、1080円+税
2019/9/9 ★

 「時空大戦1 異星種族艦隊との遭遇」「時空大戦2 戦慄の人類殲滅兵器」に続くシリーズ第3作目。「時空大戦2 戦慄の人類殲滅兵器」で衝撃の終わり方をしたけど、この巻でも衝撃の展開が待っている。
 敵の異星人から見つからないように、反撃の機会をうかがっていたかと思いきや、次々と新たな異星人が登場して、突然宇宙がにぎやかになってきた。さらなる強敵がいたかと思ったら、密かに応援してくれてた異星人もいて。高度な科学技術を発達させた平和的な異星人から、技術提供を受けて、あの作戦に手を出す。
 タイムパラドックスの問題をまるで盛り上げず、なんとなくタイムラインを情報を行き来するのだけでも、SF的になんだかなぁ、なんだけどなぁ。もう何でもありになってきて、逆に楽しくなってきたかも。でも、AIと人類との交流こそが読みどころ。
 次が最終巻らしい。きっとあの親切面した異星人には、きっと暗い裏があるに違いない。知らんけど。
●「エラスムスの迷宮」C・L・アンダースン著、ハヤカワ文庫SF、2012年2月、ISBN978-4-15-012024-5、1100円+税
2019/9/6 ★

 この著者は「大いなる復活の時」を「サラ・ゼッデル」名義で書いてる人と同一人物だそう。
 人類居住星域を中心となる地球が統べるパックス・ソラリス。圧倒的な資源と科学技術を持って豊かな地球は、自らに枷を貸して統治している。辺境のエラスムス星系は、一つの一族による独裁的な階級社会・監視社会を形成し、負債奴隷制に基づき、負債を抱えた貧民は奴隷として搾取することで成り立っていた。エラスムス星系に派遣されていた地球のエージェントが死体となって見つかり、その真相を探るべくかつての同僚が新たに派遣される。
 エージェントの死を探っている中で明らかになってくる、エラスムスの社会を大きくゆるがす陰謀。少しでも幸福になるため、家族を守るために頑張る人たちが報われない社会での哀しい話。
 伏線がしっかり拾われて謎が解明されていく。ミステリとしてけっこうよく出来てる。陰謀の裏にまた陰謀。スパイ物としても楽しく読めるかも。エラスムスと地球、それぞれの不思議な社会。不死のエージェントとそのパートナー。なんて設定は、SF的にも面白い。ただ、決着の仕方が物足りないというか、この後のエラスムスの社会をえがいてなんぼな気がするけど。もう一つ言えば、この陰謀は無駄に大がかり過ぎるとしか思えない。
●「偶然の聖地」宮内悠介著、講談社、2019年4月、ISBN978-4-06-515334-5、1650円+税
2019/9/3 ★★

 4〜8ページの短い文章が連なったエッセイと小説の中間のような連載の成果。らしいのだけど、むしろ著者が顔をだしまくる小説とでも言おうか。ちなみに表紙になんか文字がいっぱい並んでるなぁ。よく読むと小説の後書きのような内容だなぁ。と思ってたら、その全文が思わぬ場所に!
 小説的に言えば、4組のペアが、イシュクト山を目指す巡礼の物語。イシュクト山は、中近東にあるらしいのだけど、どこにあるかは定かではなく、よく分からない運がなければ目にすることも出来ないという謎の山。4組の出かける理由はさまざまで、“わたし”は祖父の落とし胤を探して出かける羽目に。パキスタンやアフガニスタン、著者の経験を交えつつ、登場人物たちはそれぞれに旅をする。
 そこに絡むのが、世界医という存在。一人死んで、世界に16人ほどしかいない世界医。世界に不具合を見つけてはデバッグするのがお仕事の世界医。謎の世界医が密かに戦ってみたり。
 本文があまりに小説になってしまったから、エッセイっぽくするために、たくさんの脚注が付けられている。これが意外と邪魔じゃない。
●「エンタングル:ガール」高島雄哉著、東京創元社、2019年8月、ISBN978-4-488-01836-8、1800円+税
2019/9/2 ★

 高校に入学した主人公が、映画研究部に入って仲間を集めて、映画コンテストに向けて1本の映画を撮る。完成した映画の提出締め切りは、8月31日。ギリギリに提出が間に合った。と思ったら…。
 なにか思わせぶりな発言を繰り返す映研の部長や生徒会長達。幽霊みたいな存在まで出てきて。幼なじみの言動も変。と思っていたら、その高校は実は※※で…。的な話。
 終わりのない夏休み的なイメージは、涼宮ハルヒを思い出してしまう。種明かしがなかった方が、楽しく読み終えれたような気もする。
●「なめらかな世界と、その敵」伴名練著、早川書房、2019年8月、ISBN978-4-15-209880-1、1700円+税
2019/9/1 ★★★

 6篇を収めた短編集。
 表題作。いくつもの平行世界を行ったり来たりして暮らす人々の社会。現代の日本と同じ風景なのに、そこにいるのはとても異質な人々。そして、この日本で普通の我々は、そこでは障がい者扱いになる。読み始めた時、なにが起こってるのか分からないのも面白い。
  「ゼロ時代の臨界点」日本最初のSFに関わった、明治時代の3人の女学生。その真実を文献から探る。ウェルズ以前にタイムトラベル物が書かれ、日本SFの黎明期は女性作家に牽引されていた。失われた日本SF黎明期の真実が、大量の文献に基づいて語られる。という体。楽しい。
 「美亜羽へ贈る拳銃」インプラントという形で、脳内にナノマシンを入れて、記憶や感情などをコントロールする技術が広まった日本。その技術の天才開発者が多重人格なミステリに関わる話。。インプラントで消費から恋愛まで行動がコントロールされる世界。そこでは恋愛感情も信じられない。『無関心機関』(インディファレンス・エンジン)は笑うところなんだろう。
 「ホーリーアイアンメイデン」接触によって、不可逆的に相手を温和しい僕に改変してしまう超能力者。その妹視点で描かれる悲劇。
 「シンギュラリティ・ソビエト」やたら早く1960年代にシンギュラリティを迎えた世界。アメリカとソビエトはそれぞれのAIに牛耳られつつ対立し、人間はそのコマとして動かされる。とても恐ろしい世界での「タイタンの妖女」的な誕生日のお話。このパターン好きなので。
 「ひかりより速く、ゆるやかに」新幹線が乗客とともに、ゆーっくりになってしまう話。なんでそんな事になったのかはさておき、時間の流れが均一でなかったら、と考えるのが面白い。
●「ハイウイング・ストロール」小川一水著、ハヤカワ文庫JA、2019年8月、ISBN978-4-15-031390-6、880円+税
2019/8/24 ★

 重素に覆われ、大部分の土地が重素の海に沈んだ世界。わずかに点在する島に生き延びた人類は、重素の海に暮らす浮獣を飛行機で狩って、それを食料・エネルギー源として暮らしていた。シップと呼ばれる飛行機に乗って浮獣を狩るハンターになったばかりの少年は、その相棒と共に、なぜか世界の真実を知ることになる。どうしてそんな世界になったのかは全然わからんけど。
 ストーリーは、新米ハンターの少年と成長の物語と同時に、その相棒の少女の独り立ちの物語ってところ。少年とともに世界を旅して、その世界が明らかになっていく展開は楽しいけど、最後の青春物的展開は、少し引く。

●「星系出雲の兵站 遠征1」林譲治著、ハヤカワ文庫JA、2019年8月、 ISBN978-4-15-031391-3、840円+税
2019/8/22 ★

 「星系出雲の兵站4」の続き。異星人による人類居住星系侵攻をなんとか撃退して、小惑星への封じ込めに成功したのと相前後して、文明を持った異星人発見の報が明らかになる。封じ込めた異星人への対応と、新たに発見された異星人居住星系への偵察が、同時進行で語られる。
 小惑星に封じ込められた異星人との意思疎通の試み。段階をおったコミュニケーションが丁寧に描かれる。新たに発見された異星人居住星系への遠征準備。これまた兵站の側面から丁寧に描かれる。その背景で描かれる周防星系の不思議な人類社会。
●「明日と明日」トマス・スウェターリッチ著、ハヤカワ文庫SF、2015年8月、ISBN978-4-15-012024-5、1040円+税
2019/8/21 ★

 テロリストによる核爆発でピッツバーグが<終末>を迎えて10年。さまざまな公的スペースの監視カメラや、個人が撮影した映像が巨大なアーカイブとして保存されている世界。<終末>の生き残りの主人公は、失われた妻の映像をアーカイブで何度も再体験しつつ、アーカイブをあさって保険調査をして暮らしていた。ある女性の失踪事件を調査していた主人公は、大富豪からある女性を探す依頼を受ける。二つの調査の過程でおきる殺人事件、主人公の身にも危機が迫り、やがて明らかになってくる連続殺人事件。まあそれ以上の話ではない。
●「さよならの儀式」宮部みゆき著、河出書房新社、2019年7月、ISBN978-4-309-02807-1、1600円+税
2019/8/20 ★★

 8篇を収めた短編集。帯には“宮部みゆきの新境地”って書いてあるけど、宮部みゆきは昔からSF短篇を書いてたと思うけどなぁ。
 「母の法律」マザ−法と呼ばれる強引な法的な養子縁組システムが整えられまくった社会。養子に出される際、それまでの記憶は封印されるのだけど…。「戦闘員」退職した男と少年が、町にはびこる防犯カメラの秘密に気付いて…。「わたしとワタシ」未来と過去の私が出会って。「さよならの儀式」古いロボットを廃棄にきた女性と、処理場の担当者のやりとり。「星に願いを」宇宙人との遭遇で、世界が異なった風に見えて。「海神の裔」屍者を動かして利用する技術が発達した世界で、ある漁村に屍者が流れ着く。「保安官の明日」繰り返し経験する仮想世界で暮らす人々。
 いずれも余韻のある終わり方で、印象に残る。内容は大きく2パターンだろうか。新たなシステムやテクノロジーの広まった社会での人の心を描く(「母の法律」「さよならの儀式」「海神の裔」「保安官の明日」)。そういう話は好きなので高評価。謎の存在と出会って、主人公が苦労する話(その他かな)。「聖痕」はSFっぽくない。
●「赤?(Hao)景芳短編集」赤?(Hao)景芳著、白水社、2019年3月、ISBN978-4-560-09057-2、2400円+税
2019/8/19 ★

 7篇を収めた短編集。「折りたたみ北京」の表題作は、「北京 折りたたみの都市」というタイトルで皮切りに。全体的にファンタジックというか、内省的。
 「弦の調べ」。地球の文化に配慮をみせる異星人との絶望的な闘いの中、身を守るためにヴァイオリンをはじめる人々。音楽で、共鳴で月を破壊しようとする大作戦。確かにカルヴィーノなイメージが。
 「繁華を慕って」。「弦の調べ」と同じ世界、同じ登場人物。もう一人の視点で描かれた同じ大作戦。ヴァイオリンのために留学している主人公、そのパトロンは…。
 「生死のはざま」。彼女とのドライブ中に交通事故にあって死んだ主人公。なぜか不思議な世界をさまようことに。タイトル通り。
 「山奥の療養院」。博士号を取って、就職して、結婚して、子どももできた主人公。准教授になるには、論文書かなくては。でもプロジェクトはうまく行かず。悩める主人公は療養院にいる旧友に会いに行く。人工無能を少し思い出した。
 「孤独な病室」。不思議な社会不安が蔓延して、次々と人々が入院する。人々は脳波機に繋がり、電流を送り込まれて幸せな世界で温和しくなる。
 「先延ばし症候群」 。研究の中間発表の前夜。原稿が書けない−!となって…。締め切りがギリギリになればなるほど、処理速度が上がるのは、ある意味その通り。
●「危険なヴィジョン[完全版]3」ハーラン・エリスン編、ハヤカワ文庫SF、2019年8月、ISBN978-4-15-012243-0、1240円+税
2019/8/16 ★

 14篇を収めた短編集。なによりまず、本当に「危険なヴィジョン」が出版されたことを祝うべきなんだろう。ただ、宗教的に危険なストーリーが多く、無宗教の日本人が読んでも何が危険かよく判らない。神をちょっと描くだけで危険だとは、当時のアメリカ社会は面倒だったんだなぁ、という感慨しかない。
 と思ってたのだけど、スタージョン「男がみんな兄弟なら、そのひとりに妹を嫁がせるか?」は、ようやく登場した本当に危険な話かも。今の日本では、危険というほどではないかもだけど、きっと当時のアメリカではとても近親相姦の話題はとても危険だっただろう。と同時に、その奇妙な社会は、けっこう興味深い。
 「危険なビジョン」の作品や序文や後書き全体を通じて、同性愛に関する否定的な表現がたびたび出てくる。LGBTが社会的に認知され(かけ)の社会で暮らしている者からすると、その扱いが別の意味で危険。当時は、同性愛を肯定的に描くことが危険だっただろうから、これでむしろ肯定的に描いてるのかなぁ、とも思うのだけど、現代社会から見ると微妙。スレイサー「代用品」もそういう意味で微妙な作品。現代でも売れないんじゃないかなぁ。ブランド「ある田舎者との出会い」は、オチになってようやく判る、その意味で危険なビジョン
 ドーマン「行け行け行けと鳥は言った」は、食人が行われる荒廃した社会が描かれる。なるほど危険かも。
 スラディック「幸福な種族」:人々を幸せにするというミッションを強引に押しつけるマシーンに支配された世界。人はやがて何も自由にできなくなり、子ども扱いされ、幸せでない者は非正常者とされて…。危険かどうかはさておき、ありがちだけど印象的な作品。
 ブラナー「ユダ」は、またもや神を人間的に描いたってだけの話。今度はユダも出てくるって訳。ローマー「破壊試験」は、異星人の介入を利用して、革命家が成り上がって…。これも神を描いてるから危険なのかな? ゼラズニィ「異端車」:車で闘牛みたいなのをする話。ディレイニー「然り、そしてゴモラ…」。有名どころが並んでるなぁ。
●「疾走!千マイル急行」(上・下)小川一水著、ハヤカワ文庫JA、2019年7月、(上)ISBN978-4-15-031387-6(下)ISBN978-4-15-031388-3、(上)760円+税(下)760円+税
2019/8/14 ☆

 航空機や自動車がなく、鉄道のみが大陸の国々を結ぶ世界。繁栄を誇っていたエイヴァリーは、突如連合国に攻め込まれ征服されてしまう。かろうじて国の宝を伴って豪華列車TMRで脱出した少年少女は、国の復興のために大陸中を走り回る。そして明らかになる祖国エイヴァリーの真実。
 昔懐かしい冒険活劇かのように展開する少年少女の成長物語といったところ。ファンタジーであってSFではない。
●「地球礁」R・A・ラファティ著、河出文庫、2016年4月、ISBN978-4-309-46425-1、1700円+税
2019/8/12 ☆

 プーカという異星人のデュランティ一家の子ども達が、地球で暮らしてたんだけど、全地球人を抹殺することに決めて、旅に出る。バガーハッハ詩というのを詠うと、それが現実になるという必殺技をひっさげて。
 って感じ。寓話っぽい感じのよく分からないファンタジー。ラファティらしい。大変残念なことに、ラファティの長編はなにが面白いのか判らない。とても他人様に勧められない。
●「電気じかけのクジラは歌う」逸木裕著、講談社、2019年8月、ISBN978-4-06-516818-9、1700円+税
2019/8/11 ★

 個人向けにオーダーメイドの曲をどんどん提供するAIが普及した日本。作曲家の仕事は激減し、演奏家の仕事も減少しつつある。作曲家から転じて、そのAIを教育する検査員という仕事をしている主人公は、友人の転載作曲家の自殺とその後に起きた出来事の謎を追究し始める。
 オーダーメイドの音楽提供サービスが、音楽業界を中心に社会をどう変えてしまうかというのは、目新しかった。もう一つ、音楽データを盛り込めるシールというアイテムが面白い。どうしてそんなんが発明されて普及したかが不思議だけど。
●「エンジェル・エコー」山田正紀著、新潮文庫、1987年12月、ISBN4-10-105531-9、320円+税
2019/8/7 ☆

 培養槽で生まれ、月の地下世界で育った主人公が、なぜか銀河の恋人と呼ばれる誰もが知るキャンペーンガールと共に、超空間探索に出かけることになる。この設定自体違和感しかない。どうしてキャンペーンガールさんは主人公と同じような“冷凍睡眠”にしなかったんだろう?超空間からの帰還方法もよく分からないし、あの事故との関係は? 超空間がこの宇宙を回っているって、どこを回ってるんだろう? プロットも細部も違和感だらけ。
●「11」津原泰水著、河出文庫、2014年4月、ISBN978-4-309-41284-9、640円+税
2019/8/6 ★

 11篇を収めた短編集。SF冬の時代であれば、ホラー短編集って銘打たれたんじゃないかなぁ。それがオールタイム・ベストSF第1位「五色の舟」収録って帯びに書いてあるのが、感慨深い。
  SFと呼べそうなのは、特殊な波動を受けてアリアを歌ってしまう「テルミン嬢」くらいかと。あの有名な「五色の舟」はホラー色の強いファンタジーではないかなぁ。不思議な少年が追ってくる「追ってくる少年」、かつての彼女の顔の幻影がドンドン迫ってくる「微笑面・改」、お化け屋敷探検が恐ろしい結果になる「手」はホラーというべきかと。死んだ家出娘を思い出す「延長コード」、都会へ出て行く「琥珀みがき」、なんでもキリノさんに絡める「キリノ」、グレートデンを飼う女の話「クラーケン」、浮気女の殺人事件「YYとその体幹」は、ホラーでもない。著者も書いてるけど、代わりに出征した男の人生を描く「土の枕」がSF傑作選に載ってるのは不思議。とはいえ、この著者にジャンル分けは意味がなさそう。何か欠けている人を描くことが多いような、そして何を書いても少し不思議な雰囲気が漂う。
●「5分間SF」草上仁著、ハヤカワ文庫JA、2019年7月、ISBN978-4-15-031386-9、640円+税
2019/8/6 ★★

 16篇収めた短編集。1篇は8〜18ページ。読むのに1篇5分もかからないかも。ベテラン著者の手慣れた、読みやすい作品が並ぶ。ショートショートによくある古い感じのする作品もあるけど、全体的にはアイデアも楽しい。
 気に入ったのは、バカ話ちっくの「カンソウの木」や「断続殺人事件」。テクノロジーの発達した世界のほんわか系「ユビキタス」。意外と生物学的な「トビンメの木陰」 や「生煙草」。ってゆうか、むしろつまらない作品の方が少ない。

●「HELLO WORLD」野浮ワど著、集英社文庫、2019年6月、ISBN978-4-08-745886-2、640円+税
2019/8/6 ★★

 京都市の錦高校に通う高校1年生。読書が趣味で、決断力がないのが悩みで、コミュ障の主人公。スマホが苦手な少女と知り合い。八咫烏を追いかけて伏見稲荷に行くと、謎の男と出会う。そして不思議な物語が始まる。
 京都市のすべての時代のすべての高精細な情報を取り込んで、歴史的に完璧なヴァーチャル京都市が、量子コンピューター内に構築される。それがクロニクル京都。過去と未来、現実と仮想が交錯。そして主人公たちは、彼女を守るために、彼女を取り戻すために、現実の改変を試みる。
 実際の京都の町並み、実在の本の話を交えてくれるのも楽しい。『順列都市』『白熱光』。『エイラ 地上の旅人』を読んでみようかと思った。読書好きの主人公は、年間200冊を目標に、読書帳を付けてる。高校の頃から自分でもつければ良かったなぁ。あと神の手と最強マニュアルが欲しいなぁ。


●「七人のイヴV」ニール・スティーヴンスン著、早川書房、2018年8月、ISBN978-4-15-335040-3、2000円+税
2019/8/5 ★★

 ハードレイン開始から5000年後。軌道上でかろうじて生き残った人類は、再び数を増やし、科学技術を維持し、衛星軌道全周に及ぶ多数の居住空間と、軌道エレベーターからなるハビタット・リングを形成していた。ハードレインが終わった地球は、軌道上の人類によって“テラフォーミング”され、さまざまな生物からなる生態系が作られようとしてた。その地球に7人からなるチームが、ある秘密のミッションのために降り立つ。
 人類による地球のテラフォーミング、軌道から下りた人類が向き合うファーストコンタクト。軌道上に形成された7つの人種からなる人類社会とその文化。今まで見たことのない展開がいっぱい。言葉の変化についての説明がけっこう気に入った。とまあ、とても面白いのだけど、細部を描くのに熱心になり過ぎて、ストーリーの尻切れトンボ感が…。
●「七人のイヴU」ニール・スティーヴンスン著、早川書房、2018年7月、ISBN978-4-15-335039-7、2000円+税
2019/7/31 ★

 ついに「ホワイトナイト」から「ハードレイン」が始まる。宇宙から地球の最後を見守る人たちと、地球に残る人たちとの別れ。地球でなんとか生き抜こうとする2つのグループ。
 でも、衛星軌道に生き残った人たちにも、月の破片が襲いかかる。それを避ける推進剤を確保のために、地球軌道近傍の小惑星確保のミッションが進められる。そんな中で、わずかに生き残った人類の中で政治がはじまり、生き抜く方針の違いによる分裂がはじまる。
 最後に、タイトルの意味が分かる。
●「七人のイヴI」ニール・スティーヴンスン著、早川書房、2018年6月、ISBN978-4-15-335038-0、1700円+税
2019/7/26 ★★

 いきなり月が7つに割れる。スペクタクルを楽しんでいたら、やがて月の破片がどんどん小さくなってやがて地球に降り注ぎ、地表では生き残れないことが判明する。それまでのリミットは約2年。それまでに何とか一部の人間だけでも生き延びるための努力が始まる。現実の科学知識・技術だけで対応するという条件付き。
 というわけで、ISSを拡張し、そこにできるだけ多くのヒトと生存に必要な資材を送り込む作業が進められる。大部分の人は死ぬ運命なのに、驚くほど冷静に準備が進められる。そうではない側面はあまり描かれないと言ってもいいかも。人類滅亡の危機の中でも、人々が身近な出来事や恋愛感情に振り回されるのが、人間らしいというべきかも。
●「スチーム・ガール」エリザベス・ベア著、創元SF文庫、2017年10月、ISBN978-4-488-77001-3、1200円+税
2019/7/25 ☆

 設定は19世紀終わり頃のアメリカ西部。西部劇調の町にある娼館の縫い子(という名の娼婦)の少女が主人公。若い女性の連続殺人が起きる中、町を牛耳ろうとするライバル娼館のオーナーとの対決が繰り返される。虐待されている縫い子を救いに行き、人を操る機械を破壊しに行き、悪党の計画をつぶしに行く。行くたびに怪我したり、捕まったり、何かしら失敗するけど、最後はなんとなく解決。
 西部開拓時代に、妙に発達し機械が登場するスチームパンクな感じ。その雰囲気を楽しめるかどうかが評価の分かれ目かと。それとも百合SFを楽しむ?
●「フレドリック・ブラウンSF短篇全集1 星ねずみ」フレドリック・ブラウン著、東京創元社、2019年7月、ISBN978-4-488-01092-8、3500円+税
2019/7/23 ★

 フレドリック・ブラウンの111篇の全SF短篇を年代順に収めた全4巻の全集の第1巻。1941年から1944年に出版された12篇を収める。たぶん全部詠んだことがあるんだけど、ぼんやり思い出しつつ読むのは楽しかった。
 オチのあるホラ話っぽいのが楽しいのは間違いない。世界を守った少年の残念なオチ、「最後の決戦」。機械が妙な事になって…、「エタオイン・シュルドゥル」。ディズニーから訴えられないか心配な「星ねずみ」。その神様は誰なのかよく分からなかった、「新入り」。有名な「天使ミミズ」はけっこう覚えていたのだけど、ミミズをearthwormなのにどうして天使になるんだっけ?と、英語に弱いことを露呈。「帽子の手品」は今読むとよくあるオチなんだけど、これが最初なんだろうか?
 人形が怖い「ギーゼンスタック一家」は、完全にホラー。衛星カリストでの不可能犯罪を追いかける「白昼の悪夢」もホラーテイストが強い。「イヤリングの神」もまた怖い。でもSFとしても一番の出来な気がする。
 そうそう恐竜が出てくる2編は全然面白くない。
●「ファミリーランド」澤村伊智著、早川書房、2019年7月、ISBN978-4-15-209874-0、1600円+税
2019/7/22 ★★★

 どっちかと言えばホラー畑な著者による、6篇が収められたSF短編集。いずれも現在の歴史の続きの少し未来における、現在より少し発達した技術のもとでの、人の心や社会の常識の変容が描かれる。少しの変容で不気味の谷に落ちるようで、とても怖い。事態が解決したかと思ったら、もう一つショックが待ってたりするのは、ホラーっぽい展開かも。
 「コンピュータお義母さん」は、タイトル通りホラーな嫁姑関係。テレプレゼンスって迷惑だなぁ。と思いながら読んでたら、なんてことでしょう。
 「翼の折れた金魚」は、妊娠促進剤での計画出産児が多数派になった社会で、普通に生まれた子どもがデキオデキコと差別される。差別をしてないつもりの人がしっかり差別してるのが怖い。「子供は親の所有物じゃない」というフレーズがこんな使われ方をするとは。そして、授乳機までが投入されて親の意識も変わっていく。変容した多数派が、昔のままの少数派を差別する話は、しばしばあるけど、次から次へと視点を変えて怖い。
 「マリッジ・サバイバー」は、結婚相手のマッチングサイトの話。自身の静止画・動画、保護者のSNSまで登録させられる。すなわち保護者とつながり、自身を記録しまくるのが当たり前の社会。それに違和感を持つ主人公。「翼の折れた金魚」に似たイメージ。指輪を使った相互監視システムは怖いけど、結婚観の変化こそが怖いかも。
 「サヨナキが飛んだ日」は、ロボットが拡がった社会が描かれる。配送はAI搭載の鳥型ドローン。掃除は、ヘビ型ロボット。そして、自宅看護用の鳥型ロボット。検査して、怪我を治療してくれて、お話もしてくれて。その存在に依存する子どもたち。
 「今夜宇宙船の見える丘に」は、老人介護の新しい展開を描くとでもいうのだろうか。介護する人や技術ではなく、介護される側を、介護しやすいように変えてしまう。というのが拡がり始めた社会。フェーズ1からフェーズ4へ、どんどん非人道的になる。それでも決断する家族。せつなく怖い。とここまでで終わるかと思いきや、厚かましい宇宙人が…。
 「愛を語るより左記のとおり執り行おう」は、VRなネット環境での葬式が当たり前になった社会で、リアルな人が集まる葬式をしようと奮闘する物語。
 単行本のタイトル通り、家族が描かれる。少し未来の、テクノロジーで変容していく家族関係、家族の意識、変容した社会。結婚、出産から始まって、介護や葬式で終わる感じ。
●「三体」劉慈欣著、早川書房、2019年7月、ISBN978-4-15-209870-2、1900円+税
2019/7/22 ★★

 科学者の父母を持つ天体物理学者である主人公は、文化大革命のために父母と恩師を失う。2年後、主人公は、大興安嶺のレーダー峰のある基地に送り込まれる。陥れられ反革命罪に問われかけた時、太陽に関する論文から、ある秘密計画「紅岸プロジェクト」に引き抜かれる。ここまでで第1部。知識階級とされた人々が自己批判させられ、陥れられ、命を奪われているのがとても怖い。
 第2部では、舞台は40年後、21世紀の中国。“科学の限界”をさぐるエリート集団の物理学者が次々と自殺する事件が発生。高エネルギー粒子加速器で明らかになった「物理法則は時間と空間を超えて不変ではない」? そして現れる謎のカウントダウン。ゼロアワーには何が起きるのか? 
 謎を追う主人公は、手がかりを求めて、戦国時代を舞台にした物語世界が展開するだけの、謎のネットゲーム「三体」を始める。そこは3つの太陽を持ち、恒紀と乱紀がランダムに訪れる世界。灼熱の季節と極寒の季節がめぐり来て、脱水体と再水化を繰り返す人々。文明は滅んではリセットされる。
 現実世界と「三体」世界、が交互に語られていき、「三体」はレベルアップ。「紅岸プロジェクト」、現代の事件、「三体」世界。地球外知的生命体の気配。
 第3部、秘密にされていた紅岸プロジェクトの成果。太陽というスーパーアンテナによる発信。そしてそれへのレスポンス。応答してしまったんだな。第2部でのワクワクする伏線が、第3部では見た事のある異星人ものの展開になってしまったのが残念。

 文化大革命の時代のことを“無知な人間が知識のある人間を指導することの多かったこの時代”と表現してる。まるで今の日本のことのよう。
●「危険なヴィジョン[完全版]2」ハーラン・エリスン編、ハヤカワ文庫SF、2019年7月、ISBN978-4-15-012239-3、1200円+税
2019/7/21 ★

 3分冊のオリジナルアンソロジーの「危険なヴィジョン[完全版]1」に続く第2巻。この巻が本当に出版されるとは感慨深い。10人の作家の11篇が収められている。例によって、本編や著者による後書き以上に、編者のコメントが饒舌。
 ディック「父祖の信仰」は、ディックらしくなく破綻なく、少しディック的な世界が描かれていてとてもいい。同時に読んでいた『三体』を思い出してしまったが。ニーブン「ジグソー・マン」は、臓器移植が広まった時の怖い展開を描く。作品自体はいいのだけど、あとがきは時代遅れ感が強い。ヘンズリー「わが子、主ランディ」は、成長途中の神の話。とても記憶に残る。
 アンダースン「理想郷」は、平行世界の独善的なタイムパトロール的な話とでも言おうか。まっとうな終わり方しすぎ。クロス「ドールハウス」は、完全にホラー。主人公もう少し冷静になればいいのに。
 ロドマン「月へ二度行った男」はさっぱりわからん。アメリカ人には伝わるのかな? ライバー「骨のダイスを転がそう」は有名で、今までに何度も読んでるけど、何度読んでも面白くない。バンチ「モデランでのできごと」「逃亡」は、この世界のもう少し他の話を読んでみたいような。エムシュウィラー「性器および/またはミスター・モリスン」は、性的欲求を描くから危険なんだろうけど、それ以上かなぁ。ナイト「最後の審判」は、人間が神に恨み言を。神を描くとなんでも危険なんだろう。

●「スマートアイランド」竹内奏歩著、幻冬舎、2019年6月、ISBN978-4-344-92320-1、1300円+税
2019/7/18 ★

 「シンギュラリティ」「A/Identify」に続く、近未来シリーズらしく、関係のある登場人物も出てきてるらしい(読んでるはずだけど覚えてないが…)。でもまあ覚えてなくても、謎が一つ残るだけ。社内プロジェクト小説なんだそうで、5人の合作で、著者名はそれぞれから漢字を一文字とったりして作ったもの。
 日本全国から100人の中学生が選抜されて、高度にIT化されたスマートアイランドにおいて、一種のIT社会での問題解決オリンピック“ノア・グランゼコール”で競い合う。優勝者に与えられる宇宙旅行を目指して、チームで仲間とともに問題を解決していく主人公たち。しかし、スマートアイランドの背景では、ある陰謀が進められていた。てな感じで、友情とほのかな恋愛、そして陰謀と戦い。ジャンプの漫画のような印象。AIとの友情になんの説明もないのが不満。
●「東京の子」藤井太洋著、角川書店、2019年2月、ISBN978-4-04-105267-9、1600円+税
2019/7/17 ★★

 2回目の東京オリンピックが終わった頃の東京、偽名で暮らす主人公は、外国人労働者絡みのトラブルの解決に、やや脱法的に関わって生計を立てていた。東京デュアルと呼ばれる学業と就職を同時にすすめる大学校に関わることで、パルクールの技を見せるユーチューバーとして稼いでいた過去とも出会いつつ、物語は動き始める。
 「アンダーグラウンド・マーケット」にも通じる今よりすこしITが進んだ、そして多くの外国人労働者を受け入れた近未来の東京。借金を方に、職業選択の自由を奪い、その労働者を企業に提供する行為は、人身売買にも等しい。それは日本の外国人労働者にとっての現実だし、奨学金を受けた日本人の大学生にも当てはまる。外国人労働者の問題を扱っているかと思いきや、日本人に跳ね返ってくる。間違いなくセンスオブワンダー。労働問題SFとでも呼ぼう。
●「凍りついた空 エウロパ2113」ジェフ・カールソン著、創元SF文庫、2014年10月、ISBN978-4-488-75001-5、1140円+税
2019/7/14 ★

 木星の衛星エウロパで、生物が発見された。分厚い氷殻の下の液体の海に探査に入った最初の科学者チームは、謎の生物に襲撃され、主人公1人だけが生き残った。後続のチームに合流して、引き続き探査に加わった主人公は、襲撃された時の経験から、その生物は知性体であると主張するのだが受け入れられない。それどころか、遠く離れた地球の政治状況によって、一つの文明が破壊され、単なる資源として利用されそうになるのを止めようと、主人公が奮闘する。
 地球の政治状況に翻弄されまくるのだけど、その部分を除けば、あまりにも呆気なくコミュニケーションが成立するし、その生態が簡単に判明されていく。政治とファーストコンタクトとのウェイトが逆ならよかったのに。エウロパ人の文明や生態はまだまだ謎が残ってるので、続編で明らかにされるのかな?
●「アルフハイムのゲーム」ジャスティナ・ロブソン著、ハヤカワ文庫SF、2012年6月、ISBN978-4-15-011857-0、940円+税
2019/7/11 ☆

 「特務探査官リーラ・ブラック」シリーズの第1作らしい。2015年、粒子加速器による実験によって量子爆発が起こり、世界は5つに分裂した。あるいは他に4つの世界が発見された。元素の支配する<野生界>、エルフの住む<高妖精界>、魔物が暮らす<魔世界>、そして<死世界>。他の世界と人間が暮らす<現実界>は交流があったりなかったり。 <高妖精界>と<魔世界>とはいろいろ行き来があったり。
 主人公リーラ・ブラックは、サイボーグ化された探偵で、エルフのバンドリーダーの護衛の任務につく。で、誘拐された王子さまを追いかけて<高妖精界>に向かう。でも、結局はエルフと人間のロマンスが全てな気がする。
 人間とエルフや魔物が交流するための設定があって、あとはファンタジー。とりたてて目新しくもないような。続きはいらない。
●「スターシップ・イレブン」(上・下)S・K・ダンストール著、創元SF文庫、2018年2月、(上)ISBN978-4-488-77101-0(下)ISBN978-4-488-77102-7、(上)1000円+税(下)1000円+税
2019/7/8 ★

 謎のエネルギー源“ライン”。それを用いて人類は銀河系に拡がった。そのラインを扱えるのはラインズマンと呼ばれる特殊な能力者たちのみで、企業に雇われつつ、一種のギルドを形成していた。主人公は、優秀だけど、ちょっと変わったラインズマンで、ラインをまるで生命のように考えていた。他のラインズマンに馬鹿にされる主人公は、劣等感を抱いていたけど、なんと…。
 一種のファーストコンタクト物。ラインとのコミュニケーションと、謎の異星人の遺物との遭遇。謎がいっぱい提示されつつ、物語は銀河を2つに分ける勢力間にラインズマンのギルドが絡んだ政治と、戦争の危機が描かれる。王女さまに雇われた主人公は、誘拐された王女さまを救いに行ったり、自分が誘拐されたのを切り抜けたり。1人だけラインと仲良しで、ちょっとずるい感じ。
 多くの謎を提示しただけで、時間に続く感じで終わってしまう。が、一番の謎は、どうして主人公は、最初から王女様に気に入られたのか。
●「銀河核へ」(上・下)ベッキー・チェンバーズ著、創元SF文庫、2019年6月、(上)ISBN978-4-488-77601-5(下)ISBN978-4-488-77602-2、(上)1040円+税(下)1040円+税
2019/7/7 ★★

 地球の環境を破壊してしまった人類は、かたや火星に移民、かたや離郷船団を組んで太陽系外に脱出。そして高度な文明を持つ異星人たちからなる銀河共同体(GC)に接触。GCに加盟した人類は、さまざまな異星人とともに銀河で暮らしていた。
 長距離ワープに使われるトンネルを建造する宇宙船に、新たなメンバーが加入。物語はそこから始まるけど、主人公は新メンバーも含めたトンネル建造船のスタッフ8人とAIを含めた全員。それぞれの物語が語られる中で、さまざまな異星人の生態と社会と文化が紹介されていく。そしてさまざまな形の人類を超えた友情や愛情が描かれる。
 とても優しいジャック・ヴァンスのような物語。とても面白いけど、なんかフワッと終わってしまう。まあ続編があるらしいけど。ちなみに邦題は内容を反映していないと思う。原題の方がよかった。
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