SF関係の本の紹介(2019年上半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

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●「バレエ・メカニック」津原泰水著、ハヤカワ文庫JA、2012年1月、ISBN978-4-15-03155-4、660円+税
2019/6/30 ★★

 第1章、現代アートの売れっ子作家。病院に植物状態で長期入院する娘のために稼ぐ。その娘の周囲では不思議な出来事が次々と起き、やがてその異変は東京中に広まる。娘とその主治医のところへ、なぜか馬車で向かう父親。おかしなことが起こりまくりなのに、なぜかそのまま受け入れる人々が不思議。
 第2章、異変の後、失われた娘を探して、父親と主治医の二人連れ。ある医学的な実験の被験者の話を聞いてまわる。
 第3章、異変から数十年。現実世界に仮想空間のレイヤーをかぶせるエレクトロキャップをかぶった者達に、世界は占められ。ネットを通じて情報を共有しまくるチルドレンたち。
 それまで幻想的な雰囲気だけに見えたのが、 第3章になって突然、その上にテクノロジーのレイヤーがかぶせられた感じ。急にSFになってびっくりした。
●「最終定理」アーサー・C・クラーク&フレデリック・ポール著、早川書房、2010年1月、ISBN978-4-15-209101-7、2200円+税
2019/6/27 ★

 ある若者がフェルマーの最終定理のよりすっきりとした証明を求める。その頃、地球からはるか離れた銀河系のとある場所では、超知性が手下の異星人に、地球の人類の抹殺を命じる。最終定理とは、その超知性にとっての話なんだろう。
 世界各地での紛争が絶えない、この現実世界そっくりな世界で、宇宙への道と、平和への道を、なんとか進めようとする人々を描く。そして、超知性の最終的判断は?! てな感じなのだけど、その中で、世界的数学者になった主人公は別に役に立ってないんだな。主人公が一番いらない気がする。数学的な話は面白いんだけど。そして、とても暗い事ばかりが描かれているのに、とても前向きというか楽観的。
●「アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー」SFマガジン編集部編、ハヤカワ文庫JA、2019年6月、ISBN978-4-15-031383-8、880円+税
2019/6/26 ★★

 9篇を収めた短編集。最初の5篇は、2018年末のSFマガジンの百合特集号に掲載された作品だそう。このタイミングで百合特集を出した理由はあるんだろうけど、LGBTが当たり前のこのご時世に、SFの出版社が百合特集を出すのは、現状を半周遅れで追いかけているような感じがするのは私だけ? でも、個々の作品の価値はそれとは別。
 ただ、SFマガジン百合特集号掲載作品は、誰1人いなくなった都市を彷徨ったり、死者と期間限定でコミュニケートしたり、少子化の結果廃墟だらけになった世界で廃墟巡りをする2人とか、幽世知能の話にしても、屍者=吸血鬼だらけの世界に生きる話だったり。どこか滅びや死をイメージさせる話ばかりなのは、画一的な感じがする。
 ソ連百合は、印象的だけど、これまた滅びのイメージが。そしてあまりSFじゃない感じが。一番面白かったのは、陸秋槎の「色のない緑」。言語学と人工知能。翻訳ソフトの発達が翻訳者の職を奪い、学会誌への掲載の判断もAIが行う。ディープラーニングは、コンピュータの判断基準のブラックボックス化を進め、人間には理解できない世界を構築し始めるというのは、とても印象的だった。小川一水の「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」は、この魅力的な世界やその生態系が、ややもすれば放置され気味で、人間関係ばかり描かれるのが少し不満。でも、この最後の2作品だけで★を一つ増やした。
●「機忍兵零牙[新装版]」月村了衛著、ハヤカワ文庫JA、2019年6月、ISBN978-4-15-031380-7、800円+税
2019/6/24 ☆

 異世界を舞台にした忍法帖。悪の骸魔忍群の攻撃を受けて滅びつつある国から脱出した姫と若君を無事に落ち延びさせるミッションを引き受けた主人公の零牙。零牙は、仲間の光牙忍者達とともに、骸魔六人衆と戦う。
 仮面の忍者赤影か、伊賀の影丸か、横山光輝の漫画を読んでいるようで楽しい。忍法帖好きにはオススメ、でもSF的要素は少なめ。
●「ウタカイ 異能短歌遊戯」森田季節著、ハヤカワ文庫JA、2019年6月、ISBN978-4-15-031380-7、740円+税
2019/6/24 ☆

 短歌をいわば呪文として魔法を起動して、精神面で戦う競技。って感じのウタカイ。そのウタカイの部活動と全国大会を舞台に、恋愛模様が展開される。ウタカイという不思議な競技と、女性同士の恋愛ばかりが描かれる、ってことを除けば、いたって普通の青春ラブコメ路線。ぜんぜんSFじゃないから。
●「G ジャイガンテス」小森陽一著、早川書房、2019年5月、ISBN978-4-15-209864-1、1900円+税
2019/6/23 ☆

 謎の生命体IASが、世界各地に現れるようになり、次々と人々を襲って食べ、また細胞レベルで侵襲して新たなIASにつくりかえていく。ヒトに限らずさまざまな生物を食べて、取り込んでいくIASの姿形は一定ではなく、さまざまな生物の特徴を併せ持る。ちょうどデビルマンのデーモン族のような感じ。デーモン族のようにヒトとコミュニケーションはできないけど。
 で、日本で最初にIASに侵攻された対馬は、住民の大部分は死に、わずかに生き残った者達が砲台跡に生き残るのみ。住民を守り切れなかった自衛隊は、再度対馬の奪還と住民の救出に向けて動く。一方、アメリカは人間を巨人に変容させて、IASに立ち向かわせるという計画を密かに進める。
 で、対馬の奪還作戦をクライマックスに、最後の最後にようやく巨人が現れて、終了。IASの正体も、IASを前にした人類が生き残れるのかも謎のまま。
 というわけで、この一冊だけではまるで評価できない。もう一つ評価できないのは、謎の生命体の名前がInvasive Alien Speciesの頭文字なこと。それは外来生物のことやないかい。でも、この本のIASは、外来生物とは限らない。外来生物という言葉への誤解に満ちたネーミング。世界規模でIAS対策が進められてないことや、その情報が共有されていないこと、自衛隊の1人だけがIAS対策を思いつく展開もちょっと変な感じがする。
 それでいて、読んでしまったのは、舞台が対馬なことで。なんと住民の生き残りが隠れていた3ヶ所の内、1ヶ所は城山の砲台跡なんだな。あそこはそんなに広くないけどね。
●「危険なヴィジョン[完全版]1」ハーラン・エリスン編、ハヤカワ文庫SF、2019年6月、ISBN978-4-15-012234-8、1200円+税
2019/6/15 ★

 3分冊のオリジナルアンソロジーの第1巻。8篇が収められている。以前は1巻だけで止まった。今回は全部出るんだろうか? オリジナルアンソロジーと言っても、1967年のなので、他の短編集ですでに読んだ作品もある。“危険なヴィジョン”と言っても、1967年のなので、今読むとどこが危険か判らなかったりする。まあ、SFの歴史を勉強するつもりで読むしかないだろう。
 そして、なにより歴史の勉強になるのは、2つもあるアシモフの前書きだし、各作品に必ず付いてくる編者のコメント。狭く知り合いばかりのサークル内で作られた作品集のような感じ。
 レイ「夕べの祈り」は、宗教を揶揄してるから危険だったのかな? シルヴァーバーグ「蠅」は、すごい技術力を持った相手に、うかつ助けられると大変。って話。これも神を揶揄してる? ポール「火星人が来た日の翌日」は、タイトル通り。これは何が危険? ファーマーの長いタイトルの作品は、分量も多くて、この巻の1/3を占める。
 ディフォード「マレイ・システム」は、凶悪な犯罪者に対する、残虐な刑の話。ブロック「ジュリエットのおもちゃ」は、編者がコメントで最初にネタバレしてる。人類のたそがれの時代に、あの殺人鬼が連れてこられると…。エリスンの作品は、その続き。タイトル通りさまよう。この3篇は犯罪(者)テーマだから危険なのかな。
 オールディス「すべての時間が噴きでた夜」は、天然ガスのように時間ガスが供給されると大変なことに。なにが危険かは判らないけど、一番ましかも。
●「最初の接触」高橋良平編、ハヤカワ文庫SF、2019年6月、ISBN978-4-15-031379-1、820円+税
2019/6/13 ★

 「ボロコーヴはミムジイ」に続く、伊藤典夫翻訳SF傑作選の第2弾で、7篇を収める。1960年代前半以前に書かれた作品ばかり。「危険なヴィジョン[完全版]1」のすぐ前の時代(。作家自体は重なっていたりするけど)、ニューウェーブがどうこうと言われる前の時代の作品集(ってことでいいんだろうか)。ラインスター、ウィンダム、ブリッシュ、ファーマー、ホワイト、ナイト、ポール。昔読んだ作家が並ぶ感じ。
 ラインスター「最初の接触」はどうしてそれが解決策になってるのか判らん。ブリッシュ「生存者」はまあそういうオチだろうと思うオチ。ブリッシュ「コモン・タイム」は、なんのことやら判らん。とここまではつまらない。
 ファーマー「キャプテンの娘」は、ある宗教の信者が入植した星の出身者の謎を、ホラータッチで描く感じ。ホワイト「宇宙病院」はさまざまな宇宙人からなる世界の病院の話。もうこんな作品は書けないよなぁ、と懐かしい感じ。ナイトの「楽園への切符」は、メカニズムも行き先も不明なゲートを通ってみると、異星人の世界に行ってしまった的な話。ポール「救いの手」は、安易なODAを批判する内容を、宇宙を舞台に書いてみました。
 まあ、読めるのは「キャプテンの娘」と「救いの手」 かなぁ。

●「ヒッキーヒッキーシェイク」津原泰水著、ハヤカワ文庫JA、2019年6月、ISBN978-4-15-031379-1、820円+税
2019/6/12 ★★

 ヒキコモリの家々をめぐるカウンセラーが、それぞれに秀でた能力を持った4人のヒキコモリに声をかけて、リアルな仮想人格をつくる話。という説明で間違ってはないけど、ぜんぜん面白さが伝わらない。カウンセラーを含め、主要登場人物の多くがヒキコモリか元ヒキコモリ。ヒキコモリが、ヒキコモリなりに社会と(あるいは他のヒキコモリと?)関わり始める話。この方がまだ内容を説明してる気がする。
 とても面白い。終わり方は淋しいけど。SF色が少ないので、★を一つ減らしてこの評価。毎日のように職場やフィールドに出て、いろんな人と関わって仕事もしてるけど、自分も一種のヒキコモリなんだなと思った。


●「時空大戦2 戦慄の人類殲滅兵器」ディトマー・アーサー・ヴェアー著、ハヤカワ文庫SF、2019年6月、ISBN978-4-15-012235-5、1080円+税
2019/6/11 ★

 「時空大戦1 異星種族艦隊との遭遇」の続編。なぜか白昼に予知夢を見て、さらになぜか上司に可愛がられて、あれよあれよと出世していく主人公。謎の異星人と戦いつつもなんか脳天気な話。と思いながら、前作を読んだが、ここにきて、予知夢に意味が出てきて、タイトルにも意味が出てくる。
 そして、時間軸が入ってきて、話がややこしい。と思っていたら、謎の異星人との戦いは、この間の終盤になって、あっという間にさりげなく大変な展開に。とても深刻な事態なのに、なぜか深刻さが少なめなのが不思議。
 そして、予知夢の謎がほんわか匂わされて、次巻へ続く。なぜか次が読みたい。

●「生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者」アンドリュー・メイン著、ハヤカワ文庫HM、2019年4月、ISBN978-4-15-183751-7、940円+税
2019/6/10 ☆

 生物学を駆使して謎を解くミステリなら、SFとして読めるんじゃなかろうか。と思って読んでみた。でも、生物学的なのはクマの研究関連と、穴を掘った場所の植生についての推理だけ。むしろクマの戸籍簿のくだりとか、ディープラーニングでパターンを見つけるAIなんかは、けっこうSF的なんだけど、中途半端。理屈をろくに説明せずにAIが謎を解いたらアカンやろ。


●「スターフォース 最強の軍団、誕生!」B・V・ラーソン著、ハヤカワ文庫SF、2012年7月、ISBN978-4-15-011862-4、840円+税
2019/6/9 ☆

 謎の宇宙船がやってきて、人をドンドンさらい、殺されて捨てられる。出だしはけっこうインパクトある。そして、なぜかその宇宙船を操って、別の敵と戦うことになる。なかなか斬新な展開をしてると思う。でも、主人公の横には半裸の美人がはべるとか、1950年代以前のスペースオペラですか?って感じの古くさい展開が、読んでいてつらい。
 宇宙船の正体も、その敵の正体も。拡げた風呂敷がいっぱいだけど、別に続きを読みたい気がしない。
●「スタートレジャー 秘宝の守護者」L・マイケル・ハラー著、ハヤカワ文庫SF、2013年6月、ISBN978-4-15-011905-8、760円+税
2019/6/4 ☆

 原題は『Starzan』。邦題は意味不明。原題を素直に『宇宙のターザン』とか、『異星のターザン』とかにすれば良かったのに。内容にもそってるし。大人の事情があったのかな?
 とにかく内容はターザンそのまま。なぜか地球の熱帯雨林に覆われて、オランウータンやゾウやトラなど地球の熱帯の哺乳類に似た動物が暮らす惑星ボルネオ。墜落した宇宙船から救い出されて、オランウータンに育てられ、たくましく育った“ターザン”が、惑星の樹木を次々と皆伐していく奴らと戦う。もちろん美しいジェーンが一緒に戦う。バローズからクレームが出そうなくらいターザンそのまま。
 地球の熱帯雨林のような環境は、異星人の植林の結果らしいのだけど、どうして異星人が地球の熱帯雨林を模したかぜんぜん説明がない。動物たちが日光浴する設定は楽しいけど。
●「宇宙の果てのレストラン」ダグラス・アダムス著、河出文庫、2005年9月、ISBN4-309-46256-1、650円+税
2019/6/3 ☆

 「銀河ヒッチハイク・ガイド」シリーズの第2弾。SFコメディらしい。元銀河大統領と変なアンドロイドと妙な知り合いが、銀河の果てのレストランに行ったり、よく分からない理由で、宇宙のあちこちをウロウロする。ヒッチハイクしてるってことかな?

●「さようなら、ロビンソン・クルーソー」ジョン・ヴァーリイ著、創元SF文庫、2016年2月、ISBN978-4-488-67306-2、1200円+税
2019/6/1 ★★

 <八世界>全短編2として、6篇を収めた短編集。
 「びっくりハウス効果」太陽に向かう彗星を利用した豪華客船のような宇宙旅行。と思ったら…。「さようなら、ロビンソン・クルーソー」は「逆行の夏」を。 この2作は、どんでん返し仕立て。「ブラックホールとロリポップ」は、お母さんとはぐれた娘が、ブラックホールと会話する話。かと思ったら、これもどんでん返し。
 「イークイノックスはいずこに」は、「歌えや踊れ」と同じく、土星の<環>で共生体シンプと共に暮らす人々の話。ここではその社会が描かれる。
 「選択の自由」は、性転換が容易になったばかりの社会での、性転換をめぐる葛藤が描かれる。夫婦別姓とかLGBTなどが話題になる日本において、あまりにピッタリ、あまりに現代的なテーマ。
 「ビートニク・バイユー」性別も年齢も自由に変えられる社会で、育つ子ども達。テクノロジーは、社会だけでなく、心をも変容させる。ヴァーリイはすごい。


●「汝、コンピューターの夢」ジョン・ヴァーリイ著、創元SF文庫、2015年10月、ISBN978-4-488-67305-5、1200円+税
2019/5/30 ★★

 <八世界>全短編1として、7篇を収めた短編集。
 「ピクニック・オン・ニアサイド」は、月で少年少女が、タイトル通りのピクニック(ただし長め)に出かけて、年寄りと交流。「逆行の夏」は「逆行の夏」を。この2つはいわば家族の話。
 「ブラックホール通過」は量子ブラックホールハンターの2人の話。「鉢の底」地元のガイドの女の子と一緒に、金星の“爆発宝石”を採集に行く話。この2作はハンターつながり?
 「カンザスの幽霊」定期的に記憶を記録して銀行に預けるのが当たり前な社会。死んでもクローンに記録された記憶を移すことで復活可能。環境芸術のアーティストが何度も殺されて。社会システムの狭間が描かれる。「汝、コンピューターの夢」子どものいたずらでコンピューターに閉じ込められて。「ブラックホール通過」と同じく、直接出会えない相手に恋に落ちる。
 「歌えや踊れ」共生体 シンプと一体になって宇宙で暮らす主人公が、一瞬音楽業界に貢献する話。でいいかな。寂しさ、あるいは誰かとつながりたいという想いが、ほとんどの作品の背景のテーマにあるように感じる。
●「逆行の夏」ジョン・ヴァーリイ著、ハヤカワ文庫SF、2015年7月、ISBN978-4-15-012019-1、1300円+税
2019/5/27  ★★

 6篇を収めた短編集。最後の1篇以外はすべて短編集の表題作になったことがあるし、あちこちのアンソロジーで読んだことがある。というわけで、ヴァーリィのベスト短編集といっていいのかな。他にもいい作品だらけだから、有名どころを集めたというのが穏当かも。
 というわけで、すべて読んだことがある作品。すべて1970年代後半〜1980年代前半の作品。それを今読むと、古くさく感じるんじゃないかとドキドキしたが、それは杞憂だった。今読んでもぜんぜん古くさくない。改めてヴァーリーはすごいなぁ、と思った。同じ事を他にも誰か書いてた。
 「逆行の夏」「さようなら、ロビンソン・クルーソー」は八世界シリーズから。いないはずの兄弟との水星でのプチ冒険、そして冥王星の地下の楽園での長いヴァケーションの終わり。太陽系経済や未来の家族関係が垣間見える。
 「バービーはなぜ殺される」は、姿形の個性を完全になくした共同体で起きた殺人事件をおう話。その主人公がまだ警官になる前の話が「ブルー・シャンペン」。最新技術満載のボディガードによって、肢体不自由になっても活動を続ける女優が主役。
 「残像」。原発事故の後、大量の難民がうまれ、経済的にも社会的に破綻したアメリカ合衆国。目の見えない人々によって構成されたコミューンに、目の見える主人公が受け入れられ…。コミューンで発達した独自の文化を印象的だし、そのコミューンで育つ子ども達が気になりすぎる。
 「PRESS ENTER ■」。近所で起きた殺人事件。偶然それに関わった主人公は、恐ろしい事実に気付き。ネタバレを避けて紹介するのは無理。ある種よくあるネタだけど、こんなに怖いパターンは意外と少ない気がする。
●「太陽系無宿/お祖母ちゃんと宇宙海賊」野田昌宏編、創元SF文庫、2013年1月、ISBN978-4-488-74301-7、1300円+税
2019/5/25 ☆

 スペースオペラ名作選として、9篇が収められた短編集。かつて ハヤカワSF文庫から出ていた2冊を合本して再刊行したもの。再刊行しなくていいのに。かつての2冊分の後書きもついてる。
 太陽系の各惑星に異星人がいたり、よく分からんけど宇宙をあっという間に移動できたりするのは、そんな時代だからいいとして。やたら男性中心主義なのは、書かれた時代のアメリカがそんなんだったんだからと目をつぶることにして。この翻訳者の言葉の選び方とか、登場人物の口調が肌に合わないのも我慢するとして。そもそもストーリーが全然面白くない。アイデアもいま一つだし。一番ましなのは、お祖母ちゃんが主役の「お祖母ちゃんと宇宙海賊」かなぁ。間違ってもキャプテン・フューチャーを読み返すのは止めようと堅く心に誓った。
●「ナイトフライヤー」ジョージ・R・R・マーティン著、ハヤカワ文庫SF、2019年5月、ISBN978-4-15-012229-4、1260円+税
2019/5/23  ★★

 100ページ超えの中編2篇と、短篇4篇をおさめた作品集。
 中編の一翼である表題作は、密かに大昔からずっと飛び続け、銀河系の各地の種族の間に伝説を残す謎の存在ヴォルクリンとの邂逅を目指し、宇宙船ナイトフライヤーに乗り込んで向かう研究者たちはの物語。だと思ってたら…。
 もう一つの中編「この歌を、ライアに」は、最終的にはある種の自殺にいたる異星人の宗教を調べにきた一組のテレパシストの物語。異星人の宗教は人間にも影響を与え…。というか神を求める話かな。
 「七たび戒めん、人を殺めるなかれと」もまた、異星人の宗教というか神の物語。この神も人間に影響を与える。ここまでの3篇は同じ宇宙を舞台にしているっぽい。
 「スターリングの彩炎をもってしても」は、不思議なワームホールの話。それを調べる研究者が、あんなことを引き起こす。「オーバーライド」は、屍人を操る屍使いの物語。この2篇は連作長編を目指して書かれたが途中で放置されているらしい。とりあえず同じ設定の他の作品を読みたい。
 「ウィークエンドは戦場で」だけが異星の自然も、異星人も、宇宙も出てこない。タイトル通りで、最後はホラーな感じ。このレクリエーションはどうして成立しているのか、よく分からない。
●「言鯨16号」九岡望著、ハヤカワ文庫JA、2019年1月、ISBN978-4-15-031356-2、780円+税
2019/5/20  ★

 砂の惑星の随所にうまる言鯨の骨。その周辺に形成される鯨骨街、鯨骨を発掘して生計を立てる骨摘みの砂上船。歴史研究者を目指す骨摘みの少年は、高速艇を駆る腕利きの運び屋、砂漠に暮らす蟲を使役する蟲屋の少女と出会い、世界の運命に関わることになる。
 リアル世界のグランヴァカンスみたいな話。雰囲気も似てる。主人公の正体がよく分からなかったのだけど、なにか読み落としたかな? それとも続きがある?
●「地獄八景」田中啓文著、河出文庫、2016年9月、ISBN978-4-309-41479-9、740円+税
2019/5/19 ☆

 8篇を収めた短編集。おおむね地獄を舞台にして、落語や新喜劇などコメディ風要素強めのファンタジー。

●「イルカは笑う」田中啓文著、河出文庫、2015年9月、ISBN978-4-309-41400-3、720円+税
2019/5/18 ★

 12篇を収めた短編集。ギャグに入ってSFを忘れがちな著者にしては、けっこうSF色の強めの作品が並ぶ。なぜか最後に、ちょっと可笑しなオチを持ってきたがるのは、落語好きだからか? 例によって、SF作品、マンガ、落語、お笑い、テレビ番組などへの言及が随所に。オール阪神巨人が関西ローカルとは、解説を読んではじめて知った。
 一番印象に残るのは、一番著者らしくないタイムトラベル物の「あの言葉」かも。いや、宇宙戦艦ヤマトが波動砲をぶっ放す「ガラスの地球を救え!」も、織田信長がなんとあんなことになってしまう「本能寺の大変」も、やはりそのオチですか〜と思った表題作も印象的だったけど。いかにも著者らしい「屍者の定食」と「血の汗流せ」は気持ち悪いから忘れる。「歌姫のくちびる」は、気持ち悪いから忘れたいけど、忘れられない〜。

●「追憶の杜」門田充宏著、東京創元社、2019年5月、ISBN978-4-488-01835-1、1800円+税
2019/5/16 ★

 「風牙」の続編で、作品中の時間も「風牙」のすぐ後を描いている。3篇を収めた短編集。主人公の少女の生いたちや幼なじみなどの事情を描きがちだった「風牙」よりも、主人公の成長と共に、人の記憶データを扱う技術と人との関わりを描いてる感じ。
 自分の記憶を次々と公開する依頼者によって引き起こされるトラブルを描く「六花の標」、はたして遺言の意図は? 「銀糸の先」は、会社をトラブルから脱出させるために引き受けたインタビューの話の先に、思わぬ展開。そして疑験空間の思わぬ隠れ設定が明かされる表題作。いずれも主人公が活躍するミステリ仕立てになっていて、読みやすい。

●「シンドローム」佐藤哲也著、キノブックス文庫、2019年4月、ISBN978-4-909689-33-7、750円+税
2019/5/15 ★

 ある日、関東っぽいとある町のはずれに火球が落下。そして、謎の災害が始まる。通常なら、災害をいかに乗り切るか、そして火球の正体は?といった展開の中で、高校生の主人公が活躍するはず。でも、この主人公はさほど活躍せずに、同級生の女の子のことばかり考えている。ページのほとんどは、その想いについて、あれこれ考えることに費やされる。どんどん事態は悪化していくのだけど、そんな中でも恋に悩んでいるだけの主人公。そして、事件は解決しないまま終了。ただ、恋には一定の決着がついたのかもしれない。そこも想像にお任せなんだけど。

●「野浮ワど劇場」野浮ワど著、電撃文庫、2012年11月、ISBN978-4-04-869269-4、610円+税
2019/5/15 ★

 「野浮ワど劇場(笑)」の前作。おなじく、8〜18ページほどの短篇が24篇収められている。どれもふざけた感じの変な話なのは「野浮ワど劇場(笑)」と同じ。メタ小説っぽいのもチラホラ、っていうか実在の出版社がゲーム会社をディスるチラホラ。そして、「野浮ワど劇場(笑)」以上にSFっぽいのは少ない。不思議でおかしな短編集。
 「バスジャック」はSFかもしれない。あるいはSFの作り方というか。もしかしたら「MST48」もSFかもしれない。じゃなかったら、なんなんだろう。「デザインベイベ」は、デナイナーベイベーの話だから、間違いなくSF。終わり方はさておき。。
 「西山田組若頭抗争記録」からすると、この人は大阪人?それも北摂の人? 大阪の人しか分からないだろう地名がいっぱいでてくる。南清和園町はどこらへんかも判らんかったけど…。

●「宇宙軍士官学校 攻勢偵察部隊4」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2018年8月、ISBN978-4-15-031333-3、640円+税
2019/5/14  ★

 「宇宙軍士官学校 攻勢偵察部隊3」の続き。アンドロメダ銀河への侵攻ミッションでとある惑星に退避した友軍の救出ミッション。
 前々回で、ネコ型異星人と仲良くなったのに続き、今度はカワウソ型異星人と仲良くなる。このままアンドロメダ銀河の各地で仲間を増やしていくのか? ネコ、カワウソときたら、次は可愛い鳥か、カエルとかかな?
●「孤児たちの軍隊5 星間大戦終結」ロバート・ブートナー著、ハヤカワ文庫SF、2015年10月、ISBN978-4-15-012034-4、1000円+税
2019/5/13 ☆

 ついに異星人の母星が明らかになり、そこを攻撃する準備が進められ、しかしそこに異星人の攻撃が。またもや大きな犠牲を払い、なぜか主人公は生き残り、戦いに決着を付ける。
 結局、この異星人との戦いは、最初から最後まで、この主人公の活躍だけで、進んでいき決着する感じ。ご都合主義もここまで行くと笑えるかも。
 異星人は、どうして人類を理解するにいたったのかが、よく分からない。そこをちゃんと描けばSFになったのに。その代わりに、地球での政治的エピソードとか、独裁主義に気付かない若造とか、その恋模様とか、要らん要素が多すぎ。
●「孤児たちの軍隊4 人類連盟の誕生」ロバート・ブートナー著、ハヤカワ文庫SF、2015年7月、ISBN978-4-15-012018-4、920円+税
2019/5/12 ☆

 “人類連盟の誕生”ってゆうか、いつのまにかヒトが暮らす異星がたくさん見つかってるし…。で、地球人は戦争に勝つのに必要と称して、異星に介入する。地球でアメリカ合衆国をやってることそのまんま。今度はいまだかつてなく、人類側の軍備が充実しているが、最大の大敗をきする。大きな犠牲。それで生き残る主人公。
●「孤児たちの軍隊3 銀河最果ての惑星へ」ロバート・ブートナー著、ハヤカワ文庫SF、2014年12月、ISBN978-4-15-011984-3、1080円+税
2019/5/8 ★

 謎の異星人の宇宙船に試しに乗って、少し動かしてみる。つもりが、一気に地球から何光年も離れた惑星に連れて行かれてしまう。そこでは、なぜか原始的なヒトが、恐竜とともに暮らしていた! 3氏族に分かれて争いを続ける異星のヒト。そこにも異星人が現れ、主人公は三度、決死の戦いを挑むことになる。
 どうして地球から離れた惑星にヒトがいるのかについては、それなりに説明される。でも、どうして恐竜(みたいなの) がいるのかは、納得できない。それでも、このシリーズで、一番面白い。宇宙のどこにでも地球人と同じ異星人がいる、昔のスペースオペラのような感じ。アメリカ軍の内部事情とか、地球(といいつつアメリカばかり)の政治状況がほとんど描かれないのも楽しめる理由かもしれない。
●「孤児たちの軍隊2 月軌道上の決戦」ロバート・ブートナー著、ハヤカワ文庫SF、2014年6月、ISBN978-4-15-011964-5、940円+税
2019/5/5 ☆

 ガニメデの英雄は、地球に戻ると持て余される。戦争は終わったと、どんどん削られる軍事予算。自由は与えられず、戦争が終わったという宣伝に利用されるだけの主人公。そんな中、再び異星人が襲来する。
 またもや主人公は、月の軌道上で、決死の戦いを挑み、なぜか成功する。またもや周りは死屍累々。
 一番最初に、クライマックス少し前のエピソード。それから時間を少し戻って、前回の続きからメインストーリーが始まる。これがお約束のパターンらしい。

●「孤児たちの軍隊 ガニメデへの飛翔」ロバート・ブートナー著、ハヤカワ文庫SF、2013年10月、ISBN978-4-15-011923-2、940円+税
2019/5/5 ☆

 コミュニケーション不能の異星人が太陽系にやってきて、なぜか地球に攻撃をかけ、人類は絶滅の危機に。人類は、資源を総動員して、地球攻撃の前線基地である木星の衛星ガニメデに向かう。
 異星人の攻撃で孤児になった主人公が、軍隊に入り、鍛えられて、恋をして、命をかけて、戦果を上げる。例によってアメリカの軍隊で、少年が成長する話。主人公はあまり優秀じゃなさそうだけど、なぜか危機にはちゃんと味方が出現する。周りが次々と死んでいく中なぜか生き残る。主人公が生き残って成果をあげる理由が、ご都合主義的でなんか納得できない。
 先生とジービーはいい感じ。

●「天空の防疫要塞」銅大著、ハヤカワ文庫JA、2019年4月、ISBN978-4-15-031369-2、900円+税
2019/5/1 ★

 人類が居住する辺境の星系に、銀河回廊を通じて機械生命体<空喰い>が襲い来ることが予測される。それに対抗するために、星系外の防疫要塞から派遣された教官のもと、少年少女たちが体内にナノマシンを入れて、訓練し戦う。ものすごく「宇宙軍士官学校」をとても思い起こさせる設定。そしてある意味、第1部の結末も似ている。
 第2部は、第1部の主人公の1人が描かれるが、時間も場所も一転する。今度は、防疫要塞の力を復活させるべく、そして故郷の惑星を取り戻すべく戦う話。<空喰い>対策はいったん脇に置いて、銀河に拡がる人類列強の政治的駆け引きが描かれる。
 解説を鷹見一幸が書いているのが、ぴったりの人選過ぎて。そして自画自賛にしか読めなくて面白い。
●「大進化どうぶつデスゲーム」草野原々著、ハヤカワ文庫JA、2019年4月、ISBN978-4-15-031371-5、780円+税
2019/4/27 ☆

 生命は、ビッグバンに始まる宇宙の進化の中で生まれてきたように見えるけど。実は、時間の果てに存在する“万物根源”の存在ありきで、それが自らを生み出すべく過去を形づくる。そんな生命の歴史に乱れが生じ、その乱れを取り除くために、“万物根源”は女子高生18人を800万年前。ヒト科が生まれようとする時代に送り込むのであった。で、なぜかネコ人が生まれる歴史と戦うことになる。
 基本はタイムパトロール物な感じで。ただ全体的に残虐感が満載で、ユリ感が満載。18人相互の人間関係が、ことごとく不必要なくらい描かれる。物語は、登場人物の視点で順に語られていくのだけど、14人くらいの視点が交互に出てくる。よく描かれるのは、その内5人くらいの視点だけど。
 明らかに続きがある。たしかにどうして乱れが生じたのか明らかになってないけど。あとこのゲームのルールもよく分からないなぁ。
●「不見の月 博物館惑星II」菅浩江著、早川書房、2019年4月、ISBN978-4-15-209859-7、1800円+税
2019/4/25 ★

 「永遠の森 博物館惑星」の続編の6篇を収めた連作短編集。地球の衛星軌道上に浮かぶ博物館惑星。そこには世界のあらゆる美術品や動植物が収められ、音楽・舞台・文芸担当、絵画・工芸担当、動植物担当に分かれて博物館活動が展開されている。で、総合管轄部門に配属された新人警備員の活躍が描かれる。
 崩壊する黒くて四角い現代アートを深読みする話。盲目のダンス評論家をめぐる、ダンスが大好きな人たちの話。貴重な手回しオルガンは、音を出せないけど永遠に保存するのがいいのか、あくまでも演奏できる生きた楽器であってこその手回しオルガンなのか、って話。オパール化をめぐる男同士の愛情の話。自律粘土を用いた学習して育つ立体アートが、妙な育ち方をする話。そして、最後の表題作は、独自のAIに脳内接続した主人公が、ある思い出の絵をめぐる加筆の謎を解き明かす。いずれも人の心をめぐる小さな事件を解決していく話。
 「永遠の森 博物館惑星」を読んだ時にも思ったようだけど。すべての動植物を収めるとか意味不明〜、とか。アートしか扱われなくって、これじゃあ美術館惑星。 とか思ってしまった。
●「星系出雲の兵站4」林譲治著、ハヤカワ文庫JA、2019年4月、ISBN978-4-15-031370-8、860円+税
2019/4/23 ★

 「星系出雲の兵站3」の続きで、第1部の完結編。人類側のいざこざよりも、対異星人が中心。とはいえ、タイトル通り、兵站は丁寧に描かれる。
  またもや謎の異星人に占領された準惑星の奪還作戦から。その作戦の中で、異星人について様々なことが明らかになってくる。そしていよいよ、人類居住惑星への異星人の攻撃が。驚きの異星人の真実と、それを利用した撃退作戦。

●「流れよわが涙、と孔明は言った」三方行成著、ハヤカワ文庫JA、2019年4月、ISBN978-4-15-031372-2、760円+税
2019/4/22 ★

 5篇を収めた短編集。短編集って、表題作が一番オススメのことが多いけど、その点でこの短編集は斬新。トップを飾る表題作が一番つまらなく、後に行くほど面白くなる。おかげで、やや後味がよくなる。
 というわけで、切ろうとしても、なかなか死なない馬謖に孔明が泣く表題作はさておき。食い物出さずに、折り紙折ってるだけなのに、なぜか食堂をなのる「折り紙食堂」もおいといて。アルキメデスが、メロスばりに走り回って、バナッハ・タルスキーのパラドクスに翻弄される「走れメデス」で一番いらないのは、アルキメデスじゃないかなぁ、と思ったりしつつ。世界が闇に落ち、電柱の街灯の明かりのある所以外では、人は闇に呑まれ電柱になってしまう。このイメージが意味不明だけど、印象的すぎる「闇」。もっと大きな話の一部なのかなぁ。ダイヤモンドを生産する精力旺盛な竜の鳴き声が、みょんみー。鹿人はいて、馬人はどうしていないのか。そもそも、その竜の秘密はどうしてばれてなかったの?とまあ謎がいっぱいの「竜とダイヤモンド」は、物語として一番好き。
●「ゴッドブレス星戦異常なし」三浦健志著、幻冬舎、2019年3月、ISBN978-4-344-92130-6、1300円+税
2019/4/21 ☆

 覆面作家によるファンタジー。ちょっと地球にモデルがありそうな国々の中で、なぜかたった9人の国民しかいない国、ベジタブル国。その9人が、背後に他の国の影響を受けて、2手に分かれてもめる話。どこか面白いかな? と思わせるこの雰囲気は、正体はあの作家なのか?
●「彷徨える艦隊外伝3 勝利を導く剣」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2016年7月、ISBN978-4-15-012082-5、1120円+税
2019/4/16 ★

 「彷徨える艦隊」シリーズのスピンオフシリーズの第3巻。「彷徨える艦隊10 巡航戦艦ステッドファスト」の彷徨える艦隊がチラッと出てくるが、そのウエイトは低い。このスピンオフシリーズもいよいよ独立しそうな気配。
 近傍の星系を安定させるために、軍隊を派遣したが、そこには恐ろしい罠が待っていた。派遣先の星系の宙域と惑星上、そして本星でも罠が動き出し、3方面で絶体絶命な状態に。
 専制国家の軍隊と戦うたびに、人道的な態度で、どんどん仲間を増やしていく。そら面白いに決まってる。主要登場人物が何人か退場するが、今後再登場する人もいそう。

●「彷徨える艦隊外伝2 星々を守る盾」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2014年8月、ISBN978-4-15-011972-0、1200円+税
2019/4/15 ★

 「彷徨える艦隊」シリーズのスピンオフシリーズの第2巻。「彷徨える艦隊9 戦艦ガーディアン」のアナザーストーリーかな。本編で、チラッと言及されているエピソードがきちんと描かれる感じ。
 彷徨える艦隊から独立した辺境星系にやってきた連絡士官の助言のもと、元の敵方星系へ捕虜を受取にいく。ミッション。読みどころは、つい最近まで敵であった連絡士官が、じょじょに受け入れられていくところ。戦争していた両者の視点、なんども比較される。

●「彷徨える艦隊外伝1 叛逆の騎士」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2013年5月、ISBN978-4-15-011900-3、1000円+税
2019/4/14 ★

 「彷徨える艦隊」シリーズのスピンオフシリーズの第1巻。いわば専制国家から辺境星系が反乱を起こし、独立のために戦う物語。戦う相手は、専制国家の軍隊だけでなく、内部に巣くうスパイであり、専制国家に慣らされた自分たち自身でもある。要所では彷徨える艦隊や異星人のサポートを受けつつも、自らの力で戦い続ける様子が、2人の指導者の視点を中心に描かれる。一方で、これは不器用な二人のラブストーリー。
 「彷徨える艦隊7 戦艦ドレッドノート」と「彷徨える艦隊8 無敵戦艦インビンシブル」の間、彷徨える艦隊が、異星人が支配する宙域に行ってる間に、人類の星域の端っこの辺境星系での出来事が描かれるアナザーストーリー。そして本編につながっていく。第1巻では、自らの命を守るために指導者2人が反乱を起こし、惑星を秘密警察的な“ヘビ”を排除して、専制国家ではない社会を模索し始める。
 裏切り、密告、暗殺が当たり前の専制国家に長い間飼い慣らされ、家族以外の他人を信頼しては長生きできないのが当たり前と考えていた人々が、信頼関係を取り戻していくストーリーでもある。

●「彷徨える艦隊11 巡航戦艦レビヤタン」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2016年10月、ISBN978-4-15-012095-5、1000円+税
2019/4/12 ☆

 「彷徨える艦隊」シリーズ第2部の最終巻。ロボット艦隊との戦いが、秘密の星系での激戦を経て、やっと終結へ。
 とはいえ、かつての敵との戦後処理も、味方の戦時体制の解除も、腐敗した政府や艦隊本部も、まだ解決していない。たぶん続くんだろう。

●「彷徨える艦隊9 戦艦ガーディアン」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2014年1月、ISBN978-4-15-011939-3、1100円+税
2019/4/12 ☆

 「彷徨える艦隊」シリーズ第2部第3弾。友好的な異星人を引き連れて、ようやく人類の支配宙域に戻ってきたと思ったら、元敵方の辺境星域が独立宣言して、本拠星域からの艦隊とにらみ合ってる。それをなんとか片付けて、味方の宙域に戻ろうとするも、三度彷徨う羽目に。やっとこさで味方の宙域に戻り、今度は異星人を地球まで送っていく。

●「彷徨える艦隊8 無敵戦艦インビンシブル」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2013年2月、ISBN978-4-15-011891-4、1000円+税
2019/4/10 ☆

 「彷徨える艦隊」シリーズ第2部第2弾。可愛いけど攻撃的でコミュニケーションできない第2の異星人との戦い。そして、怖そうだけどコミュニケーションできる第3の異星人も登場。異星人とともに人類の宙域に戻ってくると、また厄介事が。
 ここにきて、妙にSFっぽくなってきた。いわゆる戦争SFにありがちっぽい、異星人とは名ばかりで、中身は地球人と変わらないような敵性異星人が出てくるかと思ったら、さにあらず。異星人の性質についての考察も挟まれるし。コミュニケーションに苦労するだけで、こうもSFっぽくなるとは。でも、途中だけSFっぽくなられても、評価しにくい。

●「彷徨える艦隊7 戦艦ドレッドノート」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2012年1月、ISBN978-4-15-011838-9、900円+税
2019/4/9 ☆

 「彷徨える艦隊」シリーズ第2部開幕。人類同士の戦争は一応の終結を見たけど、どちらの側も長らく続いてきた戦争が終わったせいで、不安定になっている。そんな中、追い払われるように戦争を背後で操っていたと思われる謎の異星人とコンタクトするべく、再び艦隊は彷徨いはじめる。
 かつての敵宙域の辺境を経由して、いよいよ謎の異星人の宙域へ。コンタクトを試みるが…。そして第2の異星人が。

●「彷徨える艦隊5 戦艦リレントレス」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2010年1月、ISBN978-4-15-011740-5、860円+税
2019/4/8 ☆

 「彷徨える艦隊」シリーズ第5弾。敵方の宙域を4巻にわたって逃げ回ってきて、ようやく味方の宙域まであとわずか。しかしハイパーネット崩壊という荒技をいかに回避して帰り着くか、に悩み。なんとか帰り着いたと思ったら、追っ手との戦い、そして味方からは反乱の疑いをかけられる。そんなことより、100年にわたる戦争を終わらせるチャンスなのに〜。という感じ。

●「月面の聖戦3 永遠の正義」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2012年11月、ISBN978-4-15-011881-5、880円+税
2019/4/6 ☆

 「月面の聖戦1 下士官の使命」「月面の聖戦2 指揮官の決断」に続く完結編。地球側から次々と送り込まれる攻撃部隊。それに対応しつつ、コロニーの民間人と共に打開策を探る。
 ロボットとかナノテクが出てくるところはSFっぽいかなぁ。でも、基本的には軍隊組織の改革の話であり、軍と民間人の政治の話。月面で戦っている本来の相手である他国軍は、正体すらろくに明かされない単なる敵で、個人名も出てこなければ、国名も出てこない。気持ちいいくらい、ただただ合衆国の話に終始。
●「月面の聖戦2 下士官の使命」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2012年8月、ISBN978-4-15-011866-2、880円+税
2019/4/5 ☆

 「月面の聖戦1 下士官の使命」に続く2巻。月面の反乱軍は、なんとか当面の敵を追い払い、月面コロニーの民間人との協力体制を作り上げ、航宙軍の一部をも取り込み、地球側との交渉を進める。内部の裏切り者に対応し、合衆国政府が地球から送り込んできた傭兵部隊とも戦う。
  「月面の聖戦1 下士官の使命」よりさらに月面の必然性が薄れる。
●「月面の聖戦1 下士官の使命」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2012年5月、ISBN978-4-15-011851-8、860円+税
2019/4/4 ☆

 地球で唯一の超大国になって実質支配するようになった合衆国は、月面の支配をもくろみ、コロニーを設立し、兵隊を送り込み、他国との戦いを繰り広げる。しかし、合衆国軍の士官は、現場の兵隊の状況を無視して、無茶な命令を繰り返す。無駄に突撃して多くの兵が死ぬ作戦の中で、下士官たちが反乱を起こす。
 主人公はその下士官で、下士官目線で無能な士官たちが描かれていく。士官たちの横暴に耐えて耐えて耐えて、ついに立ち上がる。なんか妙に日本的な展開と思うのは私だけ? この巻はイントロ、最後にようやく反乱が起きる。月面でなくても、別に問題ないストーリー。
●「円環宇宙の戦士少女」クローディア・グレイ著、ハヤカワ文庫SF、2019年2月、ISBN978-4-15-012218-8、1140円+税
2019/4/2 ★

 地球からワームホールを経由して宇宙に進出した人類は、4つの植民惑星を持つようになっていた。地球を含めた5つの世界は、ワームホールで円環状に連なる。そのうちの1つ、鎖国政策をとるジェネシス星と、地球とのいわば独立戦争の中、ジェネシス星の少女と、地球の青年型アンドロイドが出会う。そして、2人はジェネシス星の人々を救うべく旅にでる。いわば、5つの世界をめぐる巡礼。わずか20日に満たない旅の中で、星ごとに友人をつくりつつ、少女は広い世界の真実を知り始め、アンドロイドの青年との間になにかが芽生える。
 期待通りの展開をするのに、とても面白い。2人の成長の物語であり、自分を見つける物語。最初から最後まで、章ごとに、交互に二人の視点語られる。結局のところ、5つの世界がかかえる問題も、2人のことも、なにも決着していない。それでいて、一区切り感はあるんだけど。当然続編があるんだろうなぁ。
●「ピーナツバター作戦」ロバート・F・ヤング著、青心社、2006年12月、ISBN4-87892-322-9、1600円+税
2019/4/1 ★

 5篇を収めた短編集。妖精のような宇宙人とのファーストコンタクト物の表題作より、夢で出会った女性と出会う「星に願いを」が好きというか、期待通りのヤング物。「時が新しかったころ」と同じようなタイムトラベル物の「種の起源」は、タイトルと中身が一致していないと思う。いわば年老いた神様に振り回される「神の御子」と、一瞬会っただけの女性の思い出を主人公がなぜか探るまくる「われらが栄光の星」は、どうしてそんな終わり方になるか今一つ判らない。
 なぜか女性はすぐにストリップして、男性がかっさらっていくイメージが繰り返されるような。著者の趣味?
●「猫は宇宙で丸くなる」中村融編、竹書房文庫、2017年9月、ISBN978-4-8019-1191-8、1200円+税
2019/4/1 ★

 地上編5編と宇宙編5編を収めたアンソロジー。副題には猫SF傑作選とある。
 地上編は、宇宙人がプレゼントしてくれる「ピネロピへの贈り物」と、化け猫女神の「化身」以外の3編「パフ」「ベンジャミンの治癒」「ヘリックス・ザ・キャット」も知能の高いスーパーキャットが出てくる。「ベンジャミンの治癒」が好きなんだけど、最後がちょっと。
 宇宙編は、もう圧倒的に「チックタックとわたし」。他は、「宇宙に猫パンチ」も「猫の世界は灰色」も「影の船」も、むしろ普通の猫のパートナーが出てくる感じ。「共謀者たち」の猫も普通の猫っぽいけど、この話はみんながアルジャーノンになる話なので。
●「放課後地球防衛軍2 ゴースト・コンタクト」笹本祐一著、ハヤカワ文庫JA、2019年3月、ISBN978-4-15-031366-1、680円+税
2019/3/28 ☆

 「放課後地球防衛軍1 なぞの転校生」の続き。地球に頻繁に訪れる異星人に対処する地球防衛軍に関わり、なんとなくその一員っぽくなった高校生4人が、なんとなく防衛軍が貯め込んでいた異星人由来の謎の品物を見せて貰ったら、市松人形・鞠子さんになつかれて、想定外のファーストコンタクト。
 普通の町の普通の日常の裏では、地球防衛軍が密かに活動を〜、という盛り上がりのあった1巻に比べると、まあ単なるトントン拍子ファーストコンタクト物でしかなく、簡単に読めるけどそれだけ。
 高校生4人やその顧問のキャラ設定がふらついてる気がするんだけど。そのせいか、会話が理解しにくい。まともな答えが返ってくるはずのない相手に問いかける場面が繰り返す気もする。てなことを考えて、なぜか読みにくい。
●「火星の人」アンティ・ウィアー著、ハヤカワ文庫SF、2014年8月、ISBN978-4-15-011971-3、1200円+税
2019/3/26 ★★★

 火星に取り残された宇宙飛行士が、なんとか生き抜き、救出される話。おおよその話は耳にしていて、そんな話が面白いのかな?と思っていた。が、読むと聞くでは大違い。とても面白かった。
 火星に取り残された主人公が、わずかな可能性にかけて生き抜く。でも、そんなに悲壮ではなく、それでいて現実的。何日間生き抜く必要があるか、そこまでにエネルギーや酸素や水や食料が持つのかを計算し、足らない部分を補うべく、行動していく。日常的な細々としたことも交えつつ、娯楽を楽しみ、無駄口をたたきまくり。次々と起きるトラブルに愚痴りながらも、陽気に冷静に対処していく。
 一方、地球では、万難を排して救出を進めようとするが、こちらでも次々とトラブルが起きるが、再三の思わぬ方向からの救いの手を受けて、なんとか救出作戦を形にしていく。
 無駄な自己犠牲といった事は廃しつつも、冷静に勇気を持って事態に対処していく姿が描かれる。優秀な人しか出てこないのが、リアルじゃない気もするけど、ホットスタッフが集まった話なので、それでいいに違いない。
 SF作品に「じゃじゃ馬億万長者」が出てくるとは思いもしなかった。懐かしすぎる。
●「アルテミス」(上・下)アンティ・ウィアー著、ハヤカワ文庫SF、2018年1月、(上)ISBN978-4-15-012164-8(下)ISBN978-4-15-012165-5、(上)640円+税(下)640円+税
2019/3/24 ★★

 ケニアの一企業が所有する月面の都市アルテミス。そこで育った主人公は、密輸をはじめさまざまな手段で金を稼いでいた。さらに大胆な依頼を引き受けたところ、アルテミス全体を左右する出来事に巻き込まれていく。
 主人公の大胆な作戦の進行の中で明らかになっていく、月面都市や施設の構造や社会システム。さらにはアルテミスの経済事情と、その背後の地球の事情。月面都市を中心とした世界観が、とても面白い。
●「竜のグリオールに絵を描いた男」ルーシャス・シェパード著、竹書房文庫、2018年9月、ISBN978-4-8019-1588-6、1100円+税
2019/3/19 ★

 4篇の中短篇を収めた短編集。この世界と少し違った世界。そこではグリオールと呼ばれる巨大な竜が活動停止状態で、しかし周囲の世界に影響を及ぼしていた。動かないグリオールの上には木が生え、周囲には竜の鱗を採集する者達の町ができている。
 グリオールに絵を描いて、絵の具の毒でグリオールを殺そうとする男。グリオールの体内に迷い込み、そこで暮らす羽目になる女。グリオールの影響下にある都市で起きた殺人事件に巻き込まれた弁護士。竜が化けた女と暮らすことになった男。さまざまな登場人物が、その人生をグリオールに翻弄される。その行動は、自分の意思なのか、グリオールの意思なのか、そこに違いはあるのか。
●「アルマダ」(上・下)アーネスト・クライン著、ハヤカワ文庫SF、2018年3月、(上)ISBN978-4-15-012174-7(下)ISBN978-4-15-012175-4、(上)780円+税(下)780円+税
2019/3/17 ★

 ゲームオタクは、将来性のないダメな奴らかと思ったら、なんと世界を救うヒーローだった!という、ゲームオタクのための小説。SF小説がいっぱい言及されて楽しいのみならず、むしろSF映画がガンガン出てきて、名台詞をしゃべれるのが当たり前というギークな世界が延々と続く。高校生の主人公は、その父親もゲーム&SF映画ギークで、それを受け継いでゴリゴリのゲーマー。進路も決めずにゲーム三昧の毎日。 アルマダという、異星人の侵略に対して、戦闘機で戦うオンラインゲームで、世界トップ10に入る腕前。ある日、アルマダに出てくる戦闘機が現実に現れ、連れて行かれた主人公は…。
 『エンダーのゲーム』のまんまかと思ったら、現実がまるでゲームのように展開する。多くの犠牲者を乗り越えて、ミッションをクリアしていく。ゲーム感覚なので、気軽に自己犠牲するのかなぁ。ある種、予定調和なので、意外性はあまりない。続編ありそうな終わり方。
●「時空大戦1 異星種族艦隊との遭遇」ディトマー・アーサー・ヴェアー著、ハヤカワ文庫SF、2019年3月、ISBN978-4-15-012222-5、960円+税
2019/3/16 ☆

 ジャンプ航法で、太陽系の外に多くのコロニーをつくり、居住圏がドンドン広がる中で、人類は謎の異星人の艦隊と遭遇した。平和的な交渉に応じない異星人とは、最初の遭遇から戦闘状態に突入。人類は劣勢で、主人公の活躍で、かろうじて持ちこたえている。その主人公がなぜ活躍できるかというと、謎の予知夢にしたがった選択を繰り返しているため。
 4部作の1冊目では、異星人と戦争が始まって、活躍した主人公があれよあれよと出世していくだけ。予知夢の謎次第では、SFらしくなる可能性はあるけど、今のところは…。
 主人公は、戦闘で一人成功してるけども、だからといって軍のお偉いさんからすぐに信任され、その意見がドンドン採用される展開が、ちょっよご都合主義的過ぎる気がする。
●「ぴぷる」原田まりる著、KADOKAWA、2019年2月、ISBN978-4-04-065609-0、1400円+税
2019/3/14 ★

 AIが発達した未来。京都のとある企業が、性交渉機能搭載人型汎用AIを売り出した。彼女がおらず淋しい主人公は、そのAIを購入してぴぷると名付け、妻にすることにする。とくれば、エッチな展開をしそうだけど、ぜんぜんエッチな展開はしない。むしろ、ぴぷるの製造者の女性を交えて、人間らしさやAIらしさとは何かを考察しているような。あるいは、さまざまな恋愛模様を描いているような。驚くほどぴぷるが活躍しないのが不満というか、肩すかしというか。ぴぷる抜きでも、この小説は成立しそう。
●「revisions リヴィジョンズ3」木村航著、ハヤカワ文庫JA、2019年3月、ISBN978-4-15-031363-0、840円+税
2019/3/13 ☆

 「revisions リヴィジョンズ1」「revisions リヴィジョンズ3」に続く第3弾にして完結編。2017年から2388年にタイムスリップしたのはいいけど、2388年での戦いや揉め事ばかりが描かれてきた。最後にきてようやくタイムパラドックス的な展開か〜。と期待したのに、ふわっと終わった。
 登場人物たちがイライラさせられたことしか覚えてない。意味のない会話・揉め事シーンと、独白シーンを減らして、無駄な戦闘シーンをなくしたら、1冊に納まるんじゃなかろうか。
  続編が書けそうな終わり方をしてるんだけど、まさかなぁ。
●「エヴリデイ」デイヴィッド・レヴィサン著、小峰書店、2018年9月、ISBN978-4-338-28716-6、1800円+税
2019/3/11 ★★★

 16歳のぼくは毎日、違うだれかのからだで目覚める。男性のこともあれば、女性のこともあるけど、みんな同じ歳。次の日にだれのからだで目覚めるかは判らないけど、さほど遠くない地域の、まだ一度も入ったことのないからだ。いまは合衆国のメイン州の周辺。
 朝起きたら、寄主がおかしくなったと思われないように、状況をみつつ、記憶を探りながら、一日一日を乗り切っていく。そうして暮らしてきたぼくが、ある女の子に恋をして、事態が動き始める。
 いろんな人の中から社会を見てきたぼくは、普通では得られない視点をもっている。あらゆる宗教は、本質的に大きな違いはない。性別とジェンダーの違い、家庭の在り方、誰かを好きになる気持ち、大切なことにも大きな違いはない。なのにわずかな違いで争う人々。心を病んでる人に入った時、目の見えない人の世界、他者をおとしめることばかりしてる人の心の中。次々と視点を変えて、さまざまなことを考えさせてくれる。
 ここで描かれるのは41日41人に入った時のこと。唯一不満なのは、最後の1日。しかし、これ以外に終わり方はないのかもしれない。
●「ジャンヌ」河合莞爾著、祥伝社、2019年2月、ISBN978-4-396-63560-2、1700円+税
2019/3/9 ★★

 人間に危害をくわえないはずの女性型家事ロボットが、殺人事件を起こした。その事件を追う刑事が、なぜか殺人ロボットと逃げ回ることになり、やがて驚きの真実が明らかになる。
 アシモフのロボット三原則に似た原則は維持されているのに、どうしてロボットは殺人を犯すことができたのか?というのが、一つのテーマ。だけど、その謎解きはちょっと考えればすぐに判る。
 むしろ人口が半減以下になってさらに減少を続ける日本がどうなっていくかというテーマが重要。それが、日本の社会を、地方を、移民政策を、ロボットを、軍隊を変容させている。
  人口減少が日本の自然環境をどう変えるかという視点が足らないのが不満だけど、アオバズク、アナグマ、ハクビシンが出てくるから、まだましかもしれない。人間社会の変化が自然環境をどう変えるかという視点のSFを追求する余地はまだまだありそうに思った。
●「宇宙探偵ノーグレイ」田中啓文著、河出文庫、2017年11月、ISBN978-4-309-41576-5、740円+税
2019/3/8 ☆

 5篇を収めた連作短編集(?)。とりあえず、同じ探偵が依頼を受けて、妙な惑星に降り立つところは、すべて同じ。怪獣ランドに入り、一方通行の天使惑星に入り、これまた一方通行で輪廻転生しまくる輪廻惑星に巻き込まれ、独裁者のもと住民全員が芝居をする芝居惑星、そして、猿の惑星チキュウ。
  終わり方もある意味同じ。事件自体は解決するというか、真相は明らかになるけど、探偵が推理したわけではなく、巻き込まれてたら自ずと明らかになる。帯びに「名探偵は五度死ぬ」って書いてあるけど、六度死ぬじゃないかなぁ。そして名探偵とは思えない。
 きわめて田中啓文らしい短編集なので、あれが好きな人はどうぞ。
●「ノックス・マシン」法月綸太郎著、角川文庫、2015年11月、ISBN978-4-04-103360-9、520円+税
2019/3/6 ★

 4篇を収めた短編集。表題作は、“ノックスの十戒”の中国人のルールを、中国人が解き明かそうとタイムトラベルしてノックスに会ってみると。最後の「論理蒸発 ノックス・マシン2」は、今度はエラリー・クイーンの“読者への挑戦”がネタ。数理文学解析の発達によって、物語生成方程式が開発され、小説はマシンが書くようになった世界。あらゆる情報を収集管理する汎用量子ネットワークで起きた事件。物語生成空間が実世界に影響を及ぼす円城塔的世界が展開する。
 ワトスンやヘイスティングズなど探偵の助手役のみなさんが集まって、クリスティの作品に憤慨して、陰謀を巡らす「引き立て役倶楽部の陰謀」は、面白いけど、SFかというと、円城塔的意味ではSFかぁ、ってところ。「バベルの牢獄」は、てっきりページをすかして見たら、あらたな情報が現れるのかと思ったけど、残念ながらそうじゃなかった。この仕掛けも円城塔的。
●「六つの航跡」(上・下)ムア・ラファティ著、創元SF文庫、2018年10月、(上)ISBN978-4-488-77401-1(下)ISBN978-4-488-77402-8、(上)980円+税(下)980円+税
2019/3/6 ★★

 大勢の冬眠者と人格データを運び恒星間を進む移民船。その中で起きている船長をはじめとする6人の乗組員。その密室のような状況の中で、殺人事件が発生し、船のAIを巻き込んで、犯人捜しが始まるとともに、それぞれの過去が明らかになっていく。全員が犯罪者で、その免責と引き替えに、移民船に乗り組んだ。とされていたが、その背後にはさまざまな事情を抱え、ある人物との関わりがあった。
 主人公が目覚めたら、いきなり主人公を含めた6人の死体が漂う。という何が何やら判らない衝撃の冒頭。クローン技術が発達し、一度クローンになれば、何度死んでも新たなクローンを立ち上げて意識をアップロードすればいいだけ。そんな技術があると、人の死生観がどうなるのか、社会がどうなるのか。太陽系を遠く離れた密室で、変容した太陽系の人間社会の変化が描かれる。ミステリ仕立てではあるものの、むしろテーマはテクノロジーによるヒトの変容。
●「人類滅亡小説」山田宗樹著、幻冬舎、2018年9月、ISBN978-4-344-03357-3、1800円+税
2019/3/4 ★

 地球の大気中の酸素分圧が下がり続け、それに対応するためにドーム都市を建設。限られた人数しか助からない状況で、人々がどのような決断を下すのか。テロのくわだては阻止できるのか? といった話。パニックな状況での人間模様が描かれるのが主で、あまりSFテイストは強くない。
 大気中の細菌が異常繁殖して集まったコロニー雲。それが、台風のようにやってきて、酸素分圧の低い大気が下りてきては、酸欠で多くの生物が死ぬ。空の富栄養化からの赤潮的なイメージは新鮮だった。対流圏から成層圏に広がる、微生物からなる生態系の盛り上がった。その謎の解明と、それに基づく対策という展開になったら良かったのに、謎のまま放置され、後半は人間模様ばかり。
 原因究明は無理ってことで突き進むにしても、人類側の対策は、ドーム都市しかないなんて発想が貧困に思える。そして何より不満は、ヒト以外の生物の運命も全然描かれないこと。食料生産にしても、唐突に変化するだけ。生態学的な視点が最初の設定だけで、その後の展開では活かされてないように思う。
●「ダンデライオン」中田永一著、小学館、2018年10月、ISBN978-4-09-386499-2、1500円+税
2019/3/4 ★

 タイトルは、「たんぽぽ娘」の映画が主人公の一人にとって重要なので、そして何故か意識が時間を跳ぶ時、タンポポのタネがやたら舞ってるので。ってことに加えて、時を跳んでのラブストーリーってことからかな。
 男性主人公の意識が数時間だけ、大人と小学生との間で入れかわる。大人の側は、それを知ってるから準備して、女主人公らと協力して不思議な状況を活用しようとする。女性主人公が出会った事件の真相を解き明かすミステリではあるけど、ミステリ部分よりは、意識だけが入れかわる状況を、いかにパズルのように組み立てるかが読みどころかと。
 観測済みの状況をほとんど変えようとしないのが面白い。過去に戻るのはラブストーリー、未来に行くのは金儲け。王道で、安定の展開で、とても楽しく読めるけど、意外性はない感じ。二度読みしなくても、とても丁寧に説明してくれる。
●「revisions リヴィジョンズ2」木村航著、ハヤカワ文庫JA、2019年2月、ISBN978-4-15-031360-9、820円+税
2019/3/3 ☆

 「revisions リヴィジョンズ1」に続く第2弾。2017年から2388年にタイムスリップした東京都渋谷区で、薄くサポートされながら襲い来る敵と戦い、2017年に戻る方法を模索する。その中で明らかになる敵の衝撃の正体。
 とにかく主人公がイライラする。他の少年少女も面倒だし。と言う訳で主人公たちを入れ替えたら、もっと短く話はまとまるんじゃないかなぁ。
●「空襲警報」コニー・ウィリス著、ハヤカワ文庫SF、2014年2月、ISBN978-4-15-011944-7、900円+税
2019/3/2 ★

 「ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス」の第二弾で、シリアス篇。5篇を収めた短編集。
 アメリカの田舎でひっそり暮らす家族に届いた手紙から明らかになる未来の姿「クリアリーからの手紙」。「ドゥームズデイブック」につらなるオックスフォード大学史学部シリーズの第一弾で、ナチスの空襲にさらされるセント・ポール大聖堂にでかける表題作。ロンドンの地下鉄を行ったり来たりしてたら家庭に危機が「マーブル・アーチの風」。クリスティ作品のままのタイトルでエジプトに向かってると思ったら、ホラーだった「ナイルに死す」。「最後のウィネペーゴ」は、イヌの話だと思ってたけど、ウィネペーゴは車種名だったんだなぁ。
 イヌ派のコニー・ウィリスの作品は泣かせるけど、あまり科学的アイデアはなくって、じっくり泣くには長編の方が向いてるような気がする。
●「混沌ホテル」コニー・ウィリス著、ハヤカワ文庫SF、2014年1月、ISBN978-4-15-011938-6、900円+税
2019/2/28 ★

 「ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス」の第一弾で、ユーモア篇。5篇を収めた短編集。
 物理学の大会参加者が、リアル量子論な世界で右往左往する表題作。女性の生理がなくなった世界で、生理復活運動を辛辣にえがく「女王様でも」。超能力やチャネリングなどで稼ぐ詐欺師と戦う雑誌編集者のラブストーリー「インサイダー疑惑」。ディキンスンの詩から知られざる火星人襲来を発見するっていうか何ていうか「魂はみずからの社会を選ぶ」。ヘンコの宇宙人とのコミュニケーションに苦労する「まれびとこぞりて」。そりゃもちろんラブストーリーが好き。
●「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」ケン・リュウ編、早川書房、2018年2月、ISBN978-4-15-335036-6、1900円+税
2019/2/25 ★★

 新ハヤカワSFシリーズの一冊。7人の作家の13編を収めたアンソロジー。最後には内3人の中国SFについてのエッセイが付いている。エッセイは、中国SFの歴史と現状を知るのに役立つ。
 とーっても長い伝統を持つ中国ファンタジー。そして、さまざまな英雄譚とともにどこか憧れの長い歴史、なぜか閉鎖的に見える現代中国の政治状況。中国を舞台にしているだけで、どこか異世界のイメージが付いてくる。そこにテクノロジーがからめば、それだけでSF感満載。というのは偏見だとは思うけど、これって西洋から見た日本にも当てはまったりするんだろうなぁ。
 というわけで、中国ファンタジーの装いに科学が絡んだ感じの、夏笳「百鬼夜行街」「龍馬夜行」、程?波「蛍火の墓」からして楽しい。現代中国を思わせる状況にテクノロジーを投入した話は、暗いトーンがついて回る。中国の政治状況を思わせるけど、けっして批判してるんじゃないらしいが。陳楸帆はそんなトーンが多い。人工鼠との戦いを描いた「鼠年」、不思議な都市に療養に出かける「麗江の魚」、テクノロジーを用いた深?の霊媒「沙嘴の花」。でも、一番怖いのは、ネットもリアルも監視され、許可された言葉しか使えない「一九八四年」の進化形、馬伯庸「沈黙都市」。
 一方、イタロ・カルヴィーノ風の寓話の系譜という赤?(Hao)景芳「見えない惑星」は、とりあえずは楽しげ。でもやっぱり、何かを批判してるように読めるけど。表題作の赤?(Hao)景芳「折りたたみ北京」は、まさかこんな設定だとは。やはり階級社会を描いてるけど。糖匪「コールガール」は、超能力ものといっていいかも。中国色が薄め。一番気に入った作家は、劉慈欣。「円」は秦国を舞台にしてるけど、人間コンピュータの話なので、中国関係なく成立しそう。「神様の介護係」は、とても面白かった。でも、 一番のお気に入りは、テレプレゼンスの可能性を追求した夏笳「童童の夏」。
●「月の部屋で会いましょう」レイ・ヴクサヴィッチ著、創元SF文庫、2017年9月、ISBN978-4-488-76801-0、1100円+税
2019/2/20 ☆

 34編を収めた短編集。当然ながら一つ一つの作品はとても短い。作風は女ラファティとでも言えそう。おもにアメリカの郊外を舞台に、不思議な話が次々と繰り出される。ホラ話的で、あまりSF色は強くない。けっこう下品なネタにためらいなく、怪物や幽霊も気軽に出てくる。しばしば紙袋を頭にかぶるのはどうしてだろう、かぶった紙袋の中や、着る途中のセーターの中に広い世界が広がってるというイメージはお気に入りらしい。終わり方が唐突な気がするのは、私だけ?
 気に入ったのは、「母さんの小さな友だち」。時間の流れるスピードが違う友だちとは、考え方が合わないよね。
 評価が低めなのは、ラファティっぽいパターンは、あまり好きじゃないから。最初にラファティを読んだ時はおもしろがれたのだけど、大人になったんだろうか。今はあまり楽しくない。
●「宰相の二番目の娘」ロバート・F・ヤング著、創元SF文庫、2014年10月、ISBN978-4-488-74802-9、840円+税
2019/2/17 ★

 「時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選」に収められている中編「真鍮の都」を長編化したもの。ヒロインの正体が最初から分かってたり、アリババが出てきたり、短編版とはけっこう違ってる。出だしは一緒だけど、エンディングは違うし。短編版の方がいいと思うけどなぁ。
●「時が新しかったころ」ロバート・F・ヤング著、創元SF文庫、2014年3月、ISBN978-4-488-74801-2、800円+税
2019/2/16 ★

 「時の娘 ロマンチック時間SF傑作選」に収められている中編「時が新しかったころ」を長編化したもの。出だしと、最後のオチは一緒。違ってると言えば、過去で出会う子ども達が少しお高くとまってるのと、犯人達が一人増えたり、世捨て人が出てきたり、現在の火星の設定も違ってたり。それに伴って、ストーリーにも付け足しがあるけど、本質的には一緒。わざわざ長編化しなくて良かったと思う。
●「時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選」中村融編、創元SF文庫、2013年7月、ISBN978-4-488-71504-5、980円+税
2019/2/15 ★

 中村融が、日本未訳や現在入手困難、あるいは古くに紹介されたきりの作品を中心に編んだSFアンソロジーシリーズの第4弾。7編を収め、内、初訳が2編、20年以上前に雑誌に載ったきりが4編、35年以上も入手困難な作品が1編。
 とあるけど「真鍮の都」は最近読んだけど、その後収録されたのかな。過去に戻って有名人をさらってきてコピーして蝋人形館みたいなのをつくるという意味不明のエージェント。シエラザードをさらいにいったら、遠い未来に行ってしまう。無能なエージェントだ。
 時間旅行で過去に行けるとしたら、どうやって稼ぐ?という答えがいろいろ。有名人を掠ってきて蝋人形館めいたのを作るのが「真鍮の都」なら、「恐竜狩り」はタイトル通りハンティングに出かける。実写映画を撮影して稼ぐのが、「努力」。過去への旅行は、稼げなくてもロマンチックになるようで、過去から恋がやってくる「緑のベルベットの外套を買った日」。
 一方、未来に行く話は稼ぐと言うより苦労する。時間線をまたいだ争いに巻き込まれる「マグワンプ4」。自分の死に出会ってしまう「地獄堕ちの朝」。未来の方が稼げそうなのになあ。
●「時の娘 ロマンチック時間SF傑作選」中村融編、創元SF文庫、2009年10月、ISBN978-4-488-71503-8、920円+税
2019/2/13 ★

 中村融が、日本未訳や現在入手困難、あるいは古くに紹介されたきりの作品を中心に編んだSFアンソロジーシリーズの第3弾。必然的に古い作品、なつかしい作家名が並ぶ。9編を収め、内、初訳が3編、30年以上前に雑誌に載ったきりが3編、20年以上も入手困難な作品が3編。
 タイムトラベルとラブストーリーは、相性がいいってことを改めて確認する感じ。「チャリティのことづけ」は、時を超えた意思疎通を通じたラブストーリー、というか友情の物語かな。デーモン・ナイトの時間が遡っていくストーリーは面白いけど、無理がある感は否めない。ジャック・フィニィの「台詞指導」:ちょっとだけ、さりげなくタイムトラベルするパターン。オチは直前まで気付かなかった。シラスの「かえりみれば」:15歳の頃に戻ったら、すっかり忘れていた勉強をもう一度しなくてはならなくなる、っていう衝撃の事実が明かされる。「時のいたみ」は、人生の後悔を修復するために過去に戻る話なのだけど、最後は…。ヤングの「時が新しかったころ」:トリケラトプスのロボットに乗って、白亜紀に行ったら、火星人に出会う。どこがロマンチックなんや、と思ったら。安定のヤング作品と思った。チャールズ・L・ハーネスの「時の娘」:母と娘の物語っていうか…。オチはかなり早い段階で判るけど、それでも楽しく読める。時空を飛びまくって繰り返し出会う2人「出会いのとき巡り来て」、色んな年代の2人が交錯して現れる「インキーに詫びる」は、タイムトラベルしすぎ。
●「黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選」中村融編、創元SF文庫、2014年11月、ISBN978-4-488-76106-6、1000円+税
2019/2/12 ★

 中村融が、日本未訳や現在入手困難、あるいは古くに紹介されたきりの作品を中心に編んだSFアンソロジーシリーズの第5弾。必然的に古い作品、なつかしい作家名が並ぶ。6編を収め、内、初訳が1編、30年以上前に雑誌に載ったきりが4編。最後の表題作だけは、「宇宙船ビーグル号の冒険」の1章だが、オリジナルの短編ヴァージョンが掲載されているとのこと。
 リチャード・マッケナの「狩人よ、故郷へ帰れ」は、作家名から初耳。惑星規模の生命の話は、どうやって進化したのか気になって楽しめない。ジェイムズ・H・シュミッツの「おじいちゃん」は異星の生態系が面白いけど、共生が生殖に関わるアイデアは面白いけど、知性の謎が放置されるのが残念。アンダーソンの「キリエ」は、宇宙空間で進化した体を持たない生命体が登場するけど、コミュニケーションできすぎ感が半端ない。ヤングの「妖精の棲む樹」は、他で読んだことがあるなぁ。巨木の生態が面白い。妖精はいらない気がする。ジャック・ヴァンスの「海への贈り物」は、異星の海の生物が楽しいけど、ヴォーカルコミュニケーションをしていない動物に、言葉を教えるのが可能というのが意味不明。「黒い破壊者」は、「宇宙船ビーグル号の冒険」ではどうだったっけ?
●「リングトーン 未来からのメッセージ」塩田良平著、新評論、2019年1月、ISBN978-4-7948-1112-7、1800円+税
2019/2/10 ☆

 2016年、ベータ碁のAIが、人間の棋士を破った。それをきっかけにAIがどんどん発達し、シンギュラリティを超えて、200年後にはAIが社会を回していて、人間はろくに働くことが出来ず、多くの人は無為に過ごしていた。
 で、2016年の新聞記者の元に、2217年の未来人から電話がかかってきたり、テレパシー的に会話をしたり。その上、なずか2016年から200年先にタイムスリップして、偶然、未来の電話の主に出会って、なぜかは判らないけど、偶然2016年に戻ってくる。23世紀の人は、21世紀の人のAIへの危機感のなさを問題視し、21世紀の新聞記者は、それに反発するという紋切り型のやり取りが繰り返される。
 未来人を出したら、SFになるって訳ではないことがよく分かる作品。そもそも、第2章「新聞記者」は、新聞記者の実態を紹介しつつ、記者クラブの矛盾を指摘する内容だし。第3章「取材の現場」は、働き方改革の中でのAIの役割を紹介している感じ。SFっぽい衣をまとわせつつ、実際の現代的な社会問題を紹介しつつ、AIの発展について警鐘もならしてみせる。小説としての出来が微妙すぎる。

●「天空の標的4 史上最大の艦隊決戦」ギャビン・スミス著、創元SF文庫、2016年12月、ISBN978-4-488-76106-6、1000円+税
2019/2/8 ★

 「天空の標的1」「天空の標的2」「天空の標的3」の続きで、「帰還兵の戦場」3冊も含めた完結編。最後にしてようやく、やたらと会話が続くことも、不器用な恋模様が描かれることもなく、テンポ良く陰謀を巡らせ、艦隊決戦が始まり、旗艦に侵入して決着を付ける。最初からこのテンポでいけば良かったのに。これなら、敵の恐ろしい陰謀、味方の秘めた作戦が楽しめる。あとは戦闘シーンをもう少し減らしてくれればいいのに、と思ったけど、まあこんなもんか。
 神々の正体はまだ謎として残ってるんじゃないか?
●「天空の標的3 地下都市要塞の死闘」ギャビン・スミス著、創元SF文庫、2016年11月、ISBN978-4-488-76106-6、1000円+税
2019/2/7 ☆

 「天空の標的1」「天空の標的2」の続きの4分冊3冊目。敵が支配する惑星で、レジスタンス的グループと共に、敵を攻撃。と思ったら、大きな被害を出し、主力メンバーが捕まる。脱出してきたと思ったら…。人工ではない、真の(?)ネットの神、みたいなのが動き始める感じ。もしかしたら、面白くなるのかも。とちょっと思った。にしても、相変わらず話合いシーンの長い、そして面倒な恋が描かれまくるミリタリーSF。
●「天空の標的2 惑星ラランド2降下作戦」ギャビン・スミス著、創元SF文庫、2016年10月、ISBN978-4-488-76105-9、940円+税
2019/2/6 ☆

 「天空の標的1」の続きの4分冊2冊目。仲間と装備を整えるのと、その合間の小惑星での戦いが前半。後半の大部分は、敵がいる惑星に向かう宇宙船の中。主人公と彼女のいざこざいが軸? 最後にようやく敵が支配する惑星に降下して、戦闘開始。ってことろで終了。
●「天空の標的1 サイボーグ戦士の復活」ギャビン・スミス著、創元SF文庫、2016年9月、ISBN978-4-488-76104-2、940円+税
2019/2/5 ☆

 「帰還兵の戦場3」の続きの4部作というか4分冊というか。直後から話が始まる。というか、「帰還兵の戦場3」では描かれなかった異星人との戦いの収束後の話、異星人とのやり取りや地球に戻った時の経過は、こちらで描かれる。異星人との戦いは終わった。が、異星人との戦いを始めたことがバレて、最新鋭宇宙船と、もう一つのネットの神とともに、コロニー惑星に逃げ出した奴らとの戦いは残っている。でも、もう戦いはしたくない〜、と主人公は逃げ回る。そいつが諦めて再び戦場に向かう覚悟を決める。ってだけで1冊が終わる。
●「終末のグレイト・ゲーム」ラヴィ・ティドハー著、ハヤカワ文庫SF、2014年4月、ISBN978-4-15-011956-0、1140円+税
2019/2/5 ☆

 「革命の倫敦」「影のミレディ」に続く、ブックマン秘史3部作の完結編。舞台は、倫敦などに英国中心に、巴里も少々。関係者が次々と殺され、引退したスパイ&暗殺者が、その犯人を追う。そいつが主人公かと思ったら、別の動きをする女性スパイ。と思ったら、ブラム・ストーカーや、ハリー・フーディニも登場しまくる。どれがメインストーリーが判らないまま、なんとなく終わる。トカゲの故郷から送り込まれた観察者が情報収集して報告。その周辺で人間達が右往左往。案ずるより産むが易しという話なんだろう。
 「革命の倫敦」の主人公も、「影のミレディ」の主人公もまったく活躍しない。ブックマンは役立たずだし、英国王室のトカゲ女王の影も薄い。宇宙戦争ばりのトライポッドが登場して、おお!と思ったけど、これ出す必要なくないかなぁ。面白がって、登場人物増やしたけど、収拾がつかなくなった感じだろうか。世界設定自体は面白そうなのに。
●「博打のアンソロジー」冲方丁ほか著、光文社、2019年1月、ISBN978-4-334-91258-1、1040円+税
2019/2/4 ★★

 副題なのかよく分からないけど「宮内悠介リクエスト!」と頭についている。宮内悠介編というか、書き手を決めて、メールで執筆依頼をしたらしい。10人による博打テーマの10編を収めたアンソロジー。執筆陣の顔ぶれは、冲方丁、桜庭一樹、藤井太洋、宮内悠介、山田正紀と、SF作家率が高い。てっきりSFが並ぶと思って買ったのだけど、驚くほどSF色は低め。藤井や宮内といったSF作家はわざわざSF色を避けている感じがする。
 山田正紀「開城賭博」と冲方丁「死争の譜 〜天保の内訌〜」は、時代SFと言えなくも無いかも。桜庭一樹の「人生ってガチャみたいっすね」は、現在とちょっと未来の描写が行ったり来たりして、ちょっとSFテイスト。星野智幸の「小相撲」は、賭け相撲SF。日高トモキチの「レオノーラの卵」は、体外受精SF。とまあ、あえてSFに寄せてくれた人もいるような。不思議な賭博を描く法月綸太郎の「負けた馬がみな貰う」も、SFと呼ぶことにしよう。とにかくSFであろうと、そうでなかろうと、粒ぞろいのアンソロジー。となると、同時発売の「美女と竹林のアンソロジー」も気になる。
●「影のミレディ」ラヴィ・ティドハー著、ハヤカワ文庫SF、2013年12月、ISBN978-4-15-011932-4、1040円+税
2019/2/4 ☆

 「革命の倫敦」に続く、ブックマン秘史3部作の2冊目。舞台をトカゲ人の倫敦から、機械人形が仕切る巴里に移し、主人公はスパイ的な暗殺者、アフリカ生まれのパリっ子からのサイボーグ。そしてベスプッチア(我々の世界でいうところのアメリカ)にてクライマックス。トカゲ人の母星とコンタクト?
 モルグ街の殺人からはじまるので、今度はポーの世界かと思ったら、そうでもない。むしろ清朝の中国なみなさんが絡んでくる。「革命の倫敦」の主役がぜんぜん出てこないのが不思議。
 今回登場する有名人は、サド侯爵、オペラ座の怪人。あと、この世界で博士と言えば、ジギル博士、フランケンシュタイン博士、モロー博士なんてのが並ぶのが楽しい。実際一人は、主役級だし。
●「帰還兵の戦場3」ギャビン・スミス著、創元SF文庫、2016年6月、ISBN978-4-488-76102-8、880円+税
2019/2/4 ☆

 「帰還兵の戦場1」「帰還兵の戦場2」の続きで完結編。ついに神をネットに放つ。かどうかを、延々と議論するので前半が終了。そして異星人と決着つけにいくのが後半。とりあえず異星人との戦争は決着したみたい。
 アクションシーンより、議論してるシーンの方が長い。そんなにすごい議論でもないのがちょっと残念な感じ。マイクロマシン的な異星人くんたちは、けっこう楽しげな奴ら。もっと可能性がありそうなのになぁ。
●「革命の倫敦」ラヴィ・ティドハー著、ハヤカワ文庫SF、2013年8月、ISBN978-4-15-011916-4、1000円+税
2019/2/2 ★

 ブックマン秘史3部作の1冊目。謎のトカゲ人が支配する倫敦を主な舞台に、主人公の青年オーファンが、ブックマンに奪われた恋人を取り戻すために、冒険に出かける。というか、巻き込まれまくる。
 この主人公、ただの孤児だと思っていたら、なぜかいろんな人々の注目を浴びて、実は…。みたいな、あるある展開がわざとらしい。ストーリー展開も、どうしてこの下りがあるのかぁ、みたいなのが多くて、主人公の周りを世界が回りすぎ。
 人間とトカゲ人と自動人形たちの未来をめぐる3部作なんだろうか。帯にヴィクトリア朝オールスターキャストでおくる、とあるけど、なるほどその通り。ジュール・ヴェルヌとノーチラス号で旅立つし。アイリーン・アドラー、モリアーティ、マイクロフトにその弟。ホームズファミリーが出まくる。むしろどうしてワトソン君とコナン君が出てこないのかが不思議。カール・マルクス、切り裂きジャックなどなどちょい役や言及されただけを含めると、実在と登場人物交えて、知った名前のオンパレード。判る範囲しか判らないけど、そういう点は楽しい。
●「居た場所」高山羽根子著、河出書房新社、2019年1月、ISBN978-4-309-02776-0、1400円+税
2019/1/31 ★

 3編を収めた短編集。というか、中編の表題作と、2編のショートショートといった感じ。
 表題作は、地方の青年が、中国系っぽいお嫁さんをもらって、彼女が初めて一人暮らしをした街に行く話。この時代になぜか地図がない街には、古くからの市場と、廃墟となったアパートが待っていた。「不和ふろつきいず」改め「蝦蟇雨」はタイトルそのまんまの話。「リアリティ・ショウ」では、地獄と呼ばれる島に、カメラを持った白人がやってくる。
 著者らしく、不思議な状況が、説明不足のまま描かれ、そのまま放置されて終わる。
●「ゲームでNPCの中の人やってます!」もちだもちこ著、ハヤカワ文庫JA、2019年1月、ISBN978-4-15-031357-9、800円+税
2019/1/30 ★

 VRMMOで、NPCの中の人をやってます、とタイトルそのままの話。NPCの多くはAIが動かしているんだけど、一部に運営側の人が入って、ゲーム世界でのトラブルを解決する。とまあ、ミステリ風にも展開できたはずが、むしろいろんな意味で萌〜な展開が繰り広げられる。とりあえず主人公は、エルフの神さまになったり、不眠不休で、モテモテで、とても忙しい。
 単なるゲーム世界でのファンタジーになってもおかしくない。実際、この手のファンタジーは多い。のだけど、大部分のAIが動かすNPCが、ゲーム世界内で、独自世界を構築している的な設定が楽しい。これは、お客さんがやってきてくれている『グラン・ヴァカンス』ですね。というわけで、次巻に続く。
●「星系出雲の兵站3」林穣治著、ハヤカワ文庫JA、2019年1月、ISBN978-4-15-031358-6、820円+税
2019/1/29 ★

 「星系出雲の兵站2」に続くシリーズ第3巻。あっさりと謎の異星人に奪い返された準惑星を、再度取り返すための準備が進められると共に、準惑星上への偵察が敢行される。謎に満ちていた異星人の社会やテクノロジーが少し明らかになる。出雲星系と壱岐星系それぞれの主要登場人物が何人か入れ替わり、壱岐星系では権力闘争が繰り広げられる。
 毎回、準惑星を取ったり取られたりして続いていくのだろうか。異星人の謎は少しずつ明らかになるが、さらに謎は深まっていく。この謎だけで充分物語が引っ張れる。
●「辺境星区司令官、着任!」マイク・シェパード著、ハヤカワ文庫SF、2013年9月、ISBN978-4-15-011920-1、1100円+税
2019/1/28 ☆

 海軍士官クリス・ロングナイフシリーズ「防衛戦線、始動!」に続く第4弾。大金持ちで、首相の娘で、王様の孫だけど、軍隊では大尉というお姫さま。だれも部下にしてくれないので、辺境のチャンス星をめぐる宇宙ステーションの司令官に任命される。行ってみると、部下はだれもいなくて、チャンス星の人々も冷たい。でも、異星人文明の惑星を発見し、チャンス星を占領にきた大金持ちのお坊ちゃんの軍隊を撃退する。絶体絶命でも、かならず勝利する、それがロングナイフみたいな。
●「接続戦闘分隊 暗闇のパトロール」リンダ・ナガタ著、ハヤカワ文庫SF、2018年9月、ISBN978-4-15-012198-3、1180円+税
2019/1/21 ★

 戦争が民間軍事会社に牛耳られ、営利的にコントロールされるようになった近未来。アメリカ軍の接続戦闘部隊は、外骨格のボディアーマーを付け、スカルキャップで感情をコントロールし、ドローンからの情報を受けて、遠隔地にいるハンドラーの指示を受けて動く。なぜか勘が働き事前に危険を察知しまくるために、ダビデ王などと呼ばれる主人公は、足を失い、最新のハイテク義足をつけて、サイボーグ化することになる。
 ストーリーは、偏執狂的な大金持ちの陰謀に、主人公が立ち向かうという構造。戦闘までもリアリティ番組として楽しむアメリカ社会が怖い。兵隊達が、スカルキャップ依存になるのも怖い。でもなにより、自分の意思がなにか判らなくなるところ。
 原題は「The Red」。謎のレッドによって操られる人々が描かれる物語といっていいんだろう。この著者は、やはりミームをコントロールする話を書いている。とりあえず事件は一段落したが、まだレッドの謎は残されたまま。これから面白くなるかもしれない。
●「大航宙時代 星海への旅立ち」ネイサン・ローウェル著、ハヤカワ文庫SF、2014年4月、ISBN978-4-15-011954-6、860円+税
2019/1/21 ☆

 人類が銀河に拡がった時代、企業惑星で母と暮らしていた少年は、母の死とともに商業船に乗って旅立つ。厨房で働きながら、さまざまな資格を取って、仲間をつくって、個人貿易を始める。社会に出た少年の成長が描かれる。
 とっても面白い。是非続きが読みたい。でも、舞台を宇宙にしてるだけで、地球上の船でまったく同じ話が書ける。と言う意味で、面白いけど、SFではない。
●「栄光の旗の下に ユニオン宇宙軍戦記」H・ポール・ホンジンガー著、ハヤカワ文庫SF、2017年4月、ISBN978-4-15-012123-5、1060円+税
2019/1/21 ☆

 銀河系に人類が広がると、さまざまな異星人に出会い、また人類の一部は独立した星間国家を形成。しかし大多数の人類は、地球を含めユニオンのもとに集っていた。そのユニオンは、クラーグ人との戦争を続けているが、戦況は悪い。そんな中、最新鋭の軍艦の艦長になった主人公の活躍。
  まずは、艦内を掌握し、戦える体制を整え、 クラーグ人の船を次々と遅い、ついには戦争の帰趨に影響を与える局面に。これまた一人の英雄の話。でも相棒の知識豊富な軍医が一番活躍してる気がする。
●「若き少尉の初陣 若獅子ヘルフォート戦史」グレアム・シャープ・ポール著、ハヤカワ文庫SF、2012年4月、ISBN978-4-15-011848-8、1040円+税
2019/1/20 ☆

 銀河系に人類が広がり、いくつかの星間国家が形成されている未来。星間連邦の宇宙軍の士官学校でたばかりの少尉が活躍する。この少尉が、両親共に元宇宙軍の高官で、優秀な成績で将来を嘱望されて軍艦に乗り込む。で、なんやかんやで可愛がられつつ、英雄的活躍をするっていうつまらない話。
 アメリカ的な星間連邦が正義の味方で、ソ連のような独裁主義的なハンマーが悪役。ハンマーが政官連邦の宇宙船を乗っ取り、乗客を収容所惑星へ。その奪還作戦が発動される。ストーリーのみならず、文章自体が読みにくく面白くない。続きが出ないことを祈ろう。
●「強行偵察 宇宙兵志願2」マルコ・クロウス著、ハヤカワ文庫SF、2015年5月、ISBN978-4-15-012010-8、1000円+税
2019/1/16 ☆

 「宇宙兵志願」の続編。通称ランキーという巨大な異星人に、次々と人類のコロニーがある星系は奪われ、丈夫な生物らしいランキーの宇宙船にはまったく歯が立たず、奪われた元コロニー惑星に核兵器を落として、一矢報いるしかない人類。だというのに、人類は、宇宙ではアメリカvs中国&ロシアで戦い。地球上では、スラムの住民を警察組織が押さえきれなくなっている。そんな中で、とある衛星上では、反乱騒ぎ。ランキーの生態が描かれはじめれば、面白くなるかも。なるかなぁ。
 この世界では、ワープするとき、アルクビエレ・ネットワークというものを利用する。
●「女王陛下の航宙艦3 トラファルガー特命指令」クリストファー・ナトール著、ハヤカワ文庫SF、2018年11月、ISBN978-4-15-012206-5、1220円+税
2019/1/15 ☆

 「女王陛下の航宙艦」 「女王陛下の航宙艦2」に続く完結編。ようやく異星人との対話に成功する。もちろん人類は内輪もめをわすれない。が、なんとか交渉で平和が訪れようとした時…。ヤマトよ永遠に的な。
 異星人が人類とまったく異なる生態・社会を持ってるのに、人類と相似形でちょっと進んでるだけの科学技術を持ってる。コミュニケーションもいとも簡単に成功する。なんとまあ都合の良い設定だなぁ。異星人をもっとうまく描けば、SFらしくなっただろうに…。
 ちなみにワープするときには、トラムラインという構造を利用するらしい。
●「女王陛下の航宙艦2 ネルソン作戦発令」クリストファー・ナトール著、ハヤカワ文庫SF、2018年6月、ISBN978-4-15-012186-0、1160円+税
2019/1/15 ☆

 「女王陛下の航宙艦」の続き。異星人に一矢報いた元酔いどれ艦長が英雄となって、今度は多国籍軍を率いて、異星人が支配する星系に乗り込む。が、帰ってきてみたら…。
 強力な兵器を持った異星人相手に、人類は存亡の危機。のはずなのに、隊長は部下と不倫してるし、遠征軍に王子様が紛れ込んで関係者は振り回される。王子様が出てきてタイトルがようやく意味を持った気もしたり。結局のところ、異星人の星系に出かけて行くことになんの意味があったのか全然判らん。この巻はいらんのでは?
●「アンドロイドの夢の羊」ジョン・スコルジー著、ハヤカワ文庫SF、2012年10月、ISBN978-4-15-011875-4、1040円+税
2019/1/13 ★

 600を超える異星人から構成される大銀河連邦に加入した地球には、さまざまな異星人がやってきて、大使館も開かれていた。友好国であるニドゥ族との貿易交渉の席で起きた事件をきっかけに、ニドゥ族との関係が悪化。アンドロイドの夢という品種のヒツジを探し出して差し出さないと、地球より強力な兵器をもったニドゥ族との間で戦争が起きる危機に。で、元兵士で、ハッカーである主人公は、ヒツジを探し出し、一緒に逃げ回る羽目に。たのしく読める冒険活劇。
 詐欺師のウソと出任せを面白がった富豪から生まれた宗教「進化した羊の教会」が楽しい。っていうか、暗躍しすぎ。
●「暗黒の艦隊3 探査船<カール・セーガン>」ジョシュア・ダルゼル著、ハヤカワ文庫SF、2018年8月、ISBN978-4-15-012193-8、960円+税
2019/1/12 ☆

 新たな勢力の力を借りて、“ファージ”との闘いは割とあっけなく収束。むしろ読みどころは、異星人達と主人公との交渉ではないかと。もちろん主人公は、上層部の命令を無視して勝手に解決する。それにしても、なんで主人公がいろんな異星人から特別扱いされるのか、さっぱり判らない。
 最後に明かされる“ファージ”の真実は、それまでにほのめかされた内容から、おおよそは予測できる範囲。前巻で“ファージ”は集合知性ってことになってたのと、この最終巻で明かされた真実は、ちょっとずれてるんじゃないかなぁ。と思った。
●「暗黒の艦隊2 新造艦<アレス>」ジョシュア・ダルゼル著、ハヤカワ文庫SF、2018年2月、ISBN978-4-15-012170-9、940円+税
2019/1/11 ☆

 人類滅亡の危機の中、“ファージ”の大規模な侵攻があった場合に一刻も早く備えなくてはならないのに、人類は内輪もめばかりで、権力者は自分たちだけが助かろうとする。とまあ、大部分は“ファージ”そっちのけの展開。そんな中、また主人公は上層部の命令を無視して、“ファージ”に立ち向かう。大勢が死んで苦戦する中、新たな勢力が出現。最後は衝撃の展開。
●「われらはレギオン3 太陽系最終大戦」デニス・E・テイラー著、ハヤカワ文庫SF、2018年10月、ISBN978-4-15-012202-7、1020円+税
2019/1/10 ★

 「われらはレギオン1 AI探査機集合体」「われらはレギオン2 アザーズとの遭遇」の続きで完結編。アザーズとの戦いの決着が描かれる。という大事件はあるのだけど、多くのボブたちがそれに関わって頑張るけど、同時にそれに関わらずにいろんなことをしているボブがいる。アザーズとの戦い以外で重要な出来事は、VRから物理世界へのダウンロードが普通になったこと。これで、ボブと世界との関わりが急激に拡がった。そして、短命な人間との別れが続く中、もう一人、死後AIとして蘇った存在が加わる。
 例によって、さまざまなボブの活動が順に断片的に描かれていく。バブ人の星系はアザーズに滅ぼされ、ボブは他の星系への入植を支援。デルタ人と暮らしていたボブはついに別れを告げる。ポセイドンでは革命が起きる。太陽系では、アザーズの侵攻を前に、なんとか全員の避難計画が出来る。
●「われらはレギオン2 アザーズとの遭遇」デニス・E・テイラー著、ハヤカワ文庫SF、2018年7月、ISBN978-4-15-012189-1、1000円+税
2019/1/9 ★

 「われらはレギオン1 AI探査機集合体」の続き。同じように面白いのだけど、本当の意味で、新規要素は、全ての生物を食い尽くし、星系から金属を奪い取っていくアザーズの正体が明らかになり、戦いに敗れたこと。あとは各地での活動や、探査が進んでいく。技術的にはSCUTがボブの間で広がり、銀河を又に掛けた同時交信可能なネット環境「ボブネット」が構築されていく。
 初代ボブは、ダウンロードしてデルタ人と暮らし始める。ヴァルカンでは入植者と現住生物との戦いが続く。地球では、移民船の構築と食料生産に追われる中、人類滅亡を目指す集団VEHEMENTの攻撃が激しさをまし、多大な犠牲を伴いつつ戦いがようやく決着。
●「われらはレギオン1 AI探査機集合体」デニス・E・テイラー著、ハヤカワ文庫SF、2018年4月、ISBN978-4-15-012178-5、1000円+税
2019/1/8 ★★

 2016年に死んだと思って、目が覚めたら100年以上経った22世紀。その上、コンピュータにアップロードされた状態だった。さらにAI探査機として恒星間宇宙に飛び立つことになる。そのミッションは、人類が移住できる惑星を目指すこと、コピーして増殖して、さらに探査を続けること。それが主人公のボブ。原題は「We Are Legion (We Are Bob)」。ボブがいっぱいってわけ。
 22世紀の地球は、6つの超大国に再編成され、たがいにいがみあって、戦争の気配が漂う。北アメリカを支配しているのは、キリスト教原理主義的な宗教国家で、思想的な自由も認められていない。探査機の派遣も複数の国家の戦いで、到着しても戦いがおきる。そして、エリダヌス座イプシロン星に到着したボブは、地球で核戦争があったことを知る。増殖したボブは、イプシロン星を守りつつ、地球の救出ミッション、さらなる探査と分担して作業を進める。ここからは、それぞれのボブのエピソードが断片的に、次々と場面を切り替えつつ描かれていく。
 生存に適さなくなった地球に残された人類をいかに救うか。イプシロン星系への移住ミッション。他の超大国から派遣された探査隊との戦い。未開の知性体の発見とそれを導く話。海洋だけの惑星の生態系と、人工浮遊都市の建設。そして、生命や文明の跡だけが残された星系の発見と、アザーズの断片との遭遇。
 とても多様なエピソードやSF的展開を盛り込まれて楽しい。さらに面白いのは随所にちりばめられたSF映画やSF小説、さらにはテレビ番組的な話題。増殖したボブたちは、それぞれ自分の名前を付けるのだけど、しばしばSFや物語の登場人物から名前をつける。新たに見つけた星系や惑星の名前も、なにかしら物語からとってきて面白い。とくにお気に入りはスタートレックらしく、最初に見つかった入植可能な惑星はヴァルカンだし、地球をサポートするボブはライカー。これでもか!と随所にスタートレックネタを投入してくる。それに比べると、スターウォーズは控えめ。デス・スターネタはあったけど。
 あと、ボブはVRな住環境をつくって、そこに住んでる形にして、精神的に安定しようとするんだけど、ボブたちはその住環境にいろいろこり始める。できるだけリアルな環境、本物のようなコーヒーや酒の味。コツコツとVR環境を改良していき、互いにアイテムを交換する。大事件が起きても、プライベートや趣味をちゃんと持っているのが面白い。
●「静かな太陽の年」ウィルスン・タッカー著、創元SF文庫、1983年9月、ISBN978-4-488-62802-4、1100円+税
2019/1/8 ★

 未来にのみいけるタイムマシンがアメリカで開発され、未来学者である主人公は、軍人2人とともに実験への参加を要請される。最初は1年後にジャンプ し、選挙結果などを確認して無事に帰ってきた。そして、20数年先へのジャンプしてみると…。
 1970年に書かれた作品で、舞台は1978年の設定。そして21世紀になろうとした時のアメリカ合衆国は、人種問題を乗り切れず、崩壊しようとしていた。
 ジャンプは同じ基地内にしかおこなえず。同じ基地の設備をきちんと維持している時代にしかジャンプできない。というわけで、あまり便利なタイムマシンではない。過去にもジャンプできないんじゃないらしいのだけど、その基地がすでに存在する過去にしかジャンプできない、って会話があるけど、電力も供給されてないと帰って来れないんじゃないかなぁ。
 アメリカ合衆国の未来がとても暗く描かれる。終わり方は、ほんのり明るいけど。
●「ダークネット・ダイヴ」サチ・ロイド著、創元SF文庫、2018年4月、ISBN978-4-488-77301-4、1180円+税
2019/1/7 ★

 近未来、エネルギー危機をきっかけに、イギリスは超格差社会になり、軍警察による恐怖政治が行われていた。ロンドンは少数のエリートが暮らすシティと、アウトサイダーと呼ばれるその他の人々が暮らす地域に分かれていた。豊かなシティでは若者はゲームに興じるが、アウトサイダーたちは軍警察に狩られていた。ふとしたきっかけで、アウトサイダーのネットワークの極秘情報を入手してしまったシティの少年と、アウトサイダーの少女は、軍警察に追われ、命がけの逃走をすることになる。
 この社会自体をどうにかする、といった大胆な解決はなく、とりあえず少年と少女が軍警察から逃げ切るだけの物語。ボーイ・ミーツ・ア・ガールってことやね。
●「火星の遺跡」ジェイムズ・P・ホーガン著、創元SF文庫、2018年12月、ISBN978-4-488-66327-8、1200円+税
2019/1/7 ★

 一つの長編のふりをしてるけど、実質的に第一部と第二部は別の話。紛争調停人、ってゆうかトラブルに首を突っ込んで、解決する顔の広い色男の活躍を描く。決して善意で介入してるんではなく、企業や金持ちから金をかっさらう。予想の付かない策略で、舞台を回して、危機に陥ってもうまく切り抜ける。割とあるあるな展開。第1部では、瞬間移動、というより人体電送機の実験にからんだ詐欺事件を解決する。人体電送したら当然その展開ですよね、って話。第2部は、火星の遺跡を企業から守ろうとする科学者たちを助ける。解決が偶然過ぎるんじゃ?
 火星の遺跡は、地球の巨石文明にもつながり、かつて存在した高度な文明につながる。って設定らしいけど、ストーリーと直接の関連はないし、その謎は仮説としてあるだけで、なにも解明されない。ホーガン好きには物足りないだろう。
●「動乱星系」アン・レッキー著、創元SF文庫、2018年9月、ISBN978-4-488-75804-2、1200円+税
2019/1/5 ★

 「叛逆航路」「亡霊星域」「星群艦隊」のサンシラリー三部作と同じ世界を舞台にして、時間的にも「星群艦隊」のすぐ後くらいを描く。ただし、ラドチ圏から遠く離れた星系国家。有力政治家の娘が、巻き込まれた異星人の殺人事件。それをきっかけに明らかになっていく、複数の異星人を巻き込んだ星系間の複雑な動き。でも、要約すると主人公が、さまざまな星系や異星人間に友達をつくりました、って感じ。サンシラリー三部作ではあまり描かれなかった異星人ゲックやオムケムの生態や社会が描かれる部分が面白い。
●「スタートボタンを押してください」D・H・ウィルスン&J・J・アダムズ編、創元SF文庫、2018年3月、ISBN978-4-488-77201-7、1000円+税
2019/1/3 ★★

 ゲームをテーマにした短編12編を収めたオリジナルアンソロジー。リスボーン、FPS、MMORPG、テキストアドベンチャーゲーム、NPCなど、ゲーム用語がいろいろ出てきて勉強になる。
 どの作品も、それぞれに面白い。ゲームとSFの相性の良さを感じさせる。特殊な能力者というか、寄生体のような存在を描いた「リスボーン」。ネットゲームで知り合った友達を助けに行く「1アップ」。敵を倒しまくるのが目的のはずのゲームで、なぜか上手に逃げて自分の居場所をつくっていると、「キャラクター選択」。などが特に印象に残った。明らかに「エンダーのゲーム」を意識した「アンダのゲーム」はもう少し工夫の余地があるような。
●「星間帝国の皇女 ラスト・エンペロー」ジョン・スコルジー著、ハヤカワ文庫SF、2018年12月、ISBN978-4-15-012210-2、1160円+税
2019/1/2 ★

 フローと呼ばれる現象を利用した超高速航行で結びつけられた星間帝国インターディペンデンス。心ならずも新たな皇帝に即位した主人公に、フローの変動によって帝国が存亡の危機にあるという情報がもたらされる。果たして人類は生き残ることはできるのか?といった銀河帝国をめぐる物語がスタート。
 とはいえ、話の中心は、皇帝と貴族の権力をめぐる密かな戦いと、交易による利益をめぐる争い。宮廷劇という要素もあるけど、中心はスペースオペラ的。
●「revisions 時間SFアンソロジー」大森望編、ハヤカワ文庫JA、2018年12月、ISBN978-4-15-031353-1、820円+税
2019/1/1 ★★

 タイムトラベル的な作品6編を収めたアンソロジー。 アメリカの作家から2編、日本の作家から4編。海外作品2編は古い作品が選ばれていて、時間がループする「退屈の檻」は 1950年代、時間旅行者が観光に集まって来る「ヴィンテージ・シーズン」は1940年代。一方、日本の作品は、この10年に発表された作品に限ったらしい。タイムパラドックスが、パズルのように起きない「ノックス・マシン」。そもそもタイムパラドックスは起きないんだ〜っていう「ノー・パラドクス」。どちらも楽しく、喜劇調。時間が分岐する「時空争奪」と「五色の舟」はどちらもけっこう怖く、悲劇的。多世界解釈は悲劇を生み、コペンハーゲン解釈は喜劇を生む。と一般化できるような気がした。
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