SF関係の本の紹介(2015年分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「紙の動物園」ケン・リュウ著、早川書房、2015年4月、ISBN978-4-15-335020-5、1900円+税
2015/12/10 ★★

 注目の中国系SF作家(らしい)の短編集。15篇が納められている。表題作をはじめ、中国などアジアっぽい要素が多く、マジック要素も強い。裏切られ、もの悲しく終わる話が多い。そもそも、戦争や不当な行為など暗い歴史が語られる話が多い印象。
 印象的だったのは、「結縄」。文字ではなく、縄の結び目で情報を記録する一族の話。縄の結び目を読む人たちは、タンパク質のアミノ酸の折りたたみをも“読む”ことができ、それどころか模様にまで声を聞くことができる。「心智五行」は、失われた植民船の子孫と再コンタクトする話。切り離された期間の間に、コロニーは、そして元の文明も変化していた。バクテリアが人の気分や感情に影響を与えているというアイデアは面白かった。寄生者が寄主を操るのは今や当たり前だからね。「良い狩りを」。文明によって、妖怪や化け物が徐々に減っていき、妖怪退治では喰っていけなくなる。と書くと喜劇のようだけど、それでも文明の中で生き続けようとする姿は、もの悲しい。

●「野浮ワど劇場(笑)」野浮ワど著、電撃文庫、2015年2月、ISBN978-4-04-869269-4、610円+税
2015/11/18 ★

 たぶんSFではない。むしろメタ小説というべきかも。いやメタ小説っぽいのもあるけど、すべてがそうじゃない。とにかく不思議でおかしな短編集。
 最初の「白い虚塔」はSFだろうだぶん。手術の様子を動画サイトにアップして、いいね!が多かったら、さらに難しい手術を依頼されるようになり、スター街道をまっしぐら。っていう近未来SFかと思ったら、ある意味最後に引っ繰り返されて、ちょっとお馬鹿な感じで終わる。
 真面目に始まっても、ふざけまくっても、最後のちょっとお馬鹿な感じで終わるのは、どれも似てるかも。

●「宇宙兵志願」マルコ・クロウス著、ハヤカワ文庫SF、2015年5月、ISBN978-4-15-012010-8、1000円+税
2015/10/8 ☆

 人口が激増し、世界的な戦争で疲弊して全体がスラム化した地球。そんな地球から脱出するために、宇宙兵に志願する少年。そんな少年の成長の話。
 軍隊に入って訓練して、規律をたたき込まれて、一人前になって、 戦場へ出て行く。仲間との友情、仲間の死、恋愛、敵との遭遇、危機からの脱出。なーんだ、よくあるミリタリーSFやん。少なくともこの巻はそれで終わる。ただ、最後に出会った未知の宇宙人とのくだりは、SFとして面白くなる予感もある。続編があるらしい。

●「彷徨える艦隊10 巡航戦艦ステッドファスト」ジャック・キャンベル著、ハヤカワ文庫SF、2015年4月、ISBN978-4-15-011999-7、1160円+税
2015/10/5 ☆

 地球に行ったら、乗組員が2人行方不明になって、細菌兵器の影響で封鎖されているエウロパに行って。とごたごたしてから本国に帰ったら、本国もごたごたしはじめ、主人公の敵対勢力が力を持ち。で、ロボット戦闘艦との戦いが始まる。こんな感じかな。この話は宇宙を舞台にしなくていいよなぁ。

●「大尉の盟約」(上・下)ロイス・マクマスター・ビジョルド著、創元SF文庫、2015年9月、(上)ISBN978-4-488-69819-5(下)ISBN978-4-488-69820-1、(上)1160円+税(下)1160円+税
2015/10/5 ★

 ヴォルコシガン・シリーズの1冊。悪者から逃げているご令嬢が、若者に助けてもらったら、なんと相手はある国のプリンスだった。なんて陳腐な展開。ラブストーリーの王道。
 マイルズはほとんど出ない。ジャクソン統一惑星とバラヤーというまるで違った価値観の出会いが面白いところかと。

●「秘密同盟アライアンス2 動き出す野望篇」マーク・フロスト著、ハヤカワ文庫SF、2015年9月、ISBN978-4-15-012030-6、1160円+税
2015/9/28 ☆

 「秘密同盟アライアンス」のシリーズ第2弾。というか前巻の伏線の一部が明らかになっただけで、あまり進展はない。敵の歴史は長く、そして身近にまで入り込んでいることが明らかに。そして主人公の正体が少しずつ明らかなってくる。
 このペースだと、このシリーズは、けっこう長く続きそう。

●「折り紙衛星の伝説」大森望・日下三蔵編、創元SF文庫、2015年6月、ISBN978-4-488-73408-4、1300円+税
2015/8/14 ★

 2014年の日本のSF短編の年間傑作選。17篇が納められている。楽しく読めるが、「猿が出る」とか「緊急自爆装置」とか「環刑錮」は怖くて印象的だった。自我の喪失や死がさりげなく生じる世界は怖い。「加奈の失踪」は、なんじゃこれ?と思って読み終わって、意味が分かってもう一度見返した。すごいすごい。気に入ったのは「イージー・エスケープ」。短い中に、いろんな背景やガジェットを盛り込んで、しっかりした世界になっていて楽しい。

●「ゼンデギ」グレッグ・イーガン著、ハヤカワ文庫SF、2015年6月、ISBN978-4-15-012015-3、1100円+税
2015/7/31 ★

 脳スキャンに基づくヴァーチャルリアリティ(VR)システム「ゼンデギ」。アトラクションとしての商業利用の可能性、VRの中に永遠に自分のコピーを残して死後も子どもを見守りたいと願う親、AI開発につながる可能性。さまざまな可能性を秘めた「ゼンデギ」をめぐる展開を、イランでの革命を絡めて描いていく。
 アイデアは面白いけど、物語はいま1つ。だからイーガンは短編が一番と思っていた。やっぱり今でも短編が一番と思うけど 、長編も上手にはなったとは思う。 いらん要素が多くて長くなってるだけな気がするけど。


●「王立調査船、進撃!」マイク・シェパード著、ハヤカワ文庫SF、2015年6月、ISBN978-4-15-012015-3、1180円+税
2015/7/24 ☆

  海軍士官クリス・ロングナイフシリーズの6冊目。知性連合の王女が、宇宙海軍の士官として、暴れ回るシリーズだったかと。なのに、この巻からは、貨物船に偽装した戦艦に乗って、世直し旅が始まったらしい。ミリタリーSFかと思ったら、水戸黄門になったかのような。この巻では宇宙海賊をやっつける。

●「未来恐慌」機本伸司著、祥伝社、2015年4月、ISBN978-4-396-63462-9、1400円+税
2015/4/19 ★

 スーパーコンピューターで未来をシミュレーションしたら、経済の崩壊からはじまる破滅的な暗い未来が予測される。それを巡って右往左往していたら、予測通りの破滅に向かっての出来事が起き始め。で、人類の未来を担うのは、なぜか女子高生。
 山村での暮らしにこそ未来があるという結論なんだろうか。 論理も展開も説得力が少ない。

●「鋼鉄の黙示録」チャーリー・ヒューマン著、創元SF文庫、2015年3月、ISBN978-4-488-75301-6、1280円+税
2015/3/22 ☆

 南アフリカのケープタウンが舞台。高校生が賞金稼ぎと、行方不明の恋人を探す。のだけど、この町には異形の怪物が普通に出没し、それを狩る賞金稼ぎが活動していて、銃弾だけでなく、呪術や超能力まで乱れ飛び。ゾンビやロボット、はては神さままで出てくる(カマキリだけど…)。なんでもありのめちゃくちゃ世界。 SFというより、ホラーアクションファンタジーとでもいう感じ。

●「ぼくらは都市を愛していた」神林長平著、朝日文庫、2015年1月、ISBN978-4-02-264762-7、720円+税
2015/3/22 ★

 デジタルデータを破壊する原因不明の情報震。それによって都市は機能を失った。都市に情報震を観測に行って、にっちもさっちもいかなくなる情報軍の一部隊。カプセルを飲んで人工的にテレパシー能力を身につける人体実験に参加させられている公安課の刑事。両者のエピソードが交互に語られる。
 情報化社会の行き着く先を、集合的無意識を軸に考えてみたってとこ。現実はコミュニケーションによって支えられている。例によって思索的な独り言が多い。

●「最後の帝国艦隊」ジャスパー・T・スコット著、ハヤカワ文庫SF、2015年3月、ISBN978-4-15-011998-0、840円+税
2015/3/20 ☆

 銀河に拡がった人類は、一転、異星人の侵略を受けて絶滅寸前。わずかな人類が、暗黒領域に逃げ込んで、細々と生き残っている。そこを守る空母。そんな状態でも人類同士でいざこざを続け、空母をめぐる戦いが始まる。
 異星人による人類絶滅の危機という大きな設定があるのに、ただ1隻の空母を人類同士が取り合うという小さな話に終始する。それが不思議というか、むしろ新鮮というか。そして、なにも解決しない。長いシリーズの序章らしい。面白いシリーズになるかどうかはよく分からない。

●「完璧な夏の日」(上・下)ラヴィ・ティドハー著、創元SF文庫、2015年2月、(上)ISBN978-4-488-75201-9(下)ISBN978-4-488-75202-6、(上)1000円+税(下)1000円+税
2015/3/9 ★

 超能力者が密かに諜報機関に使われ、互いに殺し合う。アメリカンコミックにもありそうな話だけど、第二次世界大戦を舞台に、スパイ小説風に展開。不死者の話としては、かなり物足りない。

●「レッド・ライジング 火星の簒奪者」ピアース・ブラウン著、ハヤカワ文庫SF、2015年2月、ISBN978-4-15-011994-2、1200円+税
2015/2/23 ★

 火星のテラフォーミングのために、死と隣り合わせの環境で働くレッドと呼ばれる下層階級の人々。ところが、すでに火星のテラフォーミングを終わっており、過酷な労働を続けさせるために、真実は伏せられていたのだった。で、真実を知ったレッドの少年が、支配階級に潜り込む。
 支配カーストのさらに支配階級になるための学校が、これまた死と隣り合わせ。グループに分かれて戦う、卒業テストって。
 下層階級から抜け出す前半と、支配階級になるために戦う後半は、ぜんぜん違う話になった感じ。後半は結局ミリタリーSF色あるいは、ヒロイックファンタジー色が強い。同時になぜかHUNTER×HUNTERのイメージを感じるんだけど。続編以降で、前半部分と再び関わって行くんだろうか。

●「秘密同盟アライアンス パラディンの予言篇」(上・下)マーク・フロスト著、ハヤカワ文庫SF、2015年2月、(上)ISBN978-4-15-011992-8(下)ISBN978-4-15-011993-5、(上)760円+税(下)760円+税
2015/2/22 ☆

 我々の日常生活の背後では、密かに異世界からの悪の侵略者と、見方である善なる者との戦いが繰り広げられている。神と悪魔を思わせる、よくある世界感。でも、けっこう魅力的。そして、自分には隠れた能力があり、その戦いで重要な役割を果たす運命にある。ファンタジーの王道を、現代アメリカの学園物として繰り広げてくれる。ネイティブアメリカンなエッセンスを少し振りかけて。
 このパターンって、日本ではマンガにライトノベルに、めっちゃ普通にある。そういうのと比べて、とくに出来が良いわけでもないと思う。

●「バネ足ジャックと時空の罠」(上・下)マーク・ホダー著、東京創元社、2015年1月、(上)ISBN978-4-488-01454-4(下)ISBN978-4-488-01455-1、(上)1900円+税(下)1900円+税
2015/2/15 ★

 19世紀のロンドン周辺に、謎の怪人物、バネ足ジャックが出没しては騒ぎを起こす。その謎を追う主人公やいかに。って感じの話。そのロンドンも妙な部分で科学技術が発達して、古めかしい部分と、現在の我々も手にしていない技術とが混在した不思議な世界。久しぶりにスチームパンクを読んだ感じ。
 不思議な出来事が、あとからタイムトラベラー視点で考えるとつじつまが合ってくる。というバック・トゥ・ザ・フューチャー的なところが、一番面白いんだろう。

●「深紅の戦場」ジェイ・アラン著、ハヤカワ文庫SF、2015年1月、ISBN978-4-15-011987-4、780円+税
2015/2/5 ☆

 人類は宇宙に進出したが、そこでも国同士の争いが絶えない。というか地球から離れて、より一層激しく植民惑星をめぐる戦いを続けていた。で、アメリカの海兵隊という名の宇宙軍に入った少年が、幾多の戦いを生き抜き、戦功を上げて、出世していく話。
 まだまだ続くシリーズらしい。

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