SF関係の本の紹介(2003年上半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「ドリームバスター2」宮部みゆき、2003年3月、徳間書店、ISBN4-19-861651-5、1600円+税
20030502 ★

 「ドリームバスター」の続き。中編2編が収められている。再び、地球を思わせる異世界と、地球の人間の夢世界をつなぐ話が展開する。まだ続くらしい。
 今回の2編では、地球側の人間に危険が及ぼうとするとき、夢の世界にしかコンタクトできない異世界側からどんな対策があるのか、というのが問題になる。あとイライラさせてくれる登場人物がいるって点でも、今回の2編には共通点がある。
 さらに異世界側の状況もきな臭くなってきて、話にはようやく奥行きが出てきた感じ。続きが楽しみです。

●「ドリームバスター」宮部みゆき、2001年11月、徳間書店、ISBN4-19-861442-3、1600円+税
20030418 ★

 異世界からの犯罪者が地球に逃げてきて、人の精神を乗っ取ろうとする。それを追いかけて賞金稼ぎがやってくる。で、精神を乗っ取られそうになっている地球人の夢の世界を舞台に、その人と賞金稼ぎが協力して犯罪者を捕まえる話。連作短編集で、3編が収められている。
 夢の世界を舞台にした単なるファンタジーかと思いきや、夢の世界を通じて異世界とつながっているという設定がしてあって。異世界とつながってしまった理由についても、とりあえずSF的な説明がしてある。現実世界で心の中に埋め込んで忘れた出来事が、夢世界で犯罪者を倒すのに役立つ、という設定があることで、夢世界での活劇に縛りを加えているのはいい感じ。
 最初の「ジャック・イン」は、舞台設定と主人公の説明って感じ。3編目の「D・Bたちの”穴”」は、この地球を離れて、異世界側だけを舞台にした話。お薦めはなんといっても、2編目の「ファースト・コンタクト」。この地球の現実世界でのエピソードが、夢世界での活劇と結びついて、泣かせる話。どれも親と子のきずな、というのがテーマでしょうか。主人公の親と子のきずなが確認されて終わるのかな?

●「北野勇作どうぶつ図鑑 その2 とんぼ」北野勇作、2003 年4月、ハヤカワ文庫JA、420円+税、ISBN4-15-030717-2
20030415 ★

 今度は、トンボ。と思ったけど、収められている3編に出てくるのは、キカイとトンボとスイカ。付録に、トンボの折り紙が付いてるけど、あんまりトンボがフィーチャーされてない。
●「北野勇作どうぶつ図鑑 その1 かめ」北野勇作、2003 年4月、ハヤカワ文庫JA、420円+税、ISBN4-15-030716-4
20030414 ★

 カメ、タヌキ、ザリガニなど、話に必ず動物がでてくる北野勇作だけに、どうぶつ図鑑という企画には納得。で、カメの短編が3つと、生き物カレンダーと称してショートショートが4編(サルとホタルとアリとタヌキ)、付録でカメの折り紙が付いている。この薄さでこの値段は高いやろ!
 北野勇作の短編を読んだのは初めて。長編とほとんどテイストが変わらないのはさすがというか、やっぱりと言うか。ショートショートの方も、やっぱり北野節。で、北野作品はある程度長くないとおもしろくないように思う。

●「アヴァロン」押井守、2003 年3月、メディアファクトリーMF文庫、580円+税、ISBN4-8401-0742-4
20030413 ★

 仮想世界の中で戦闘を体感するシミュレーションゲーム「アヴァロン」。役割を分担したパーティを組んでミッションを遂行し、その成績によってポイントが与えられ、ポイントに応じて報酬が支払われる。ゲームはいくつかのレベルに分かれているが、最高レベルとされているクラスAをクリアしたゲーマーが行方不明になり、その謎の解明に腕利きゲーマーの主人公が乗り出す。そしてクラスAの上のクラス特Aには、驚くべき謎が秘められていた。てな話。
 パーティでの司教、魔術師、盗賊といった役割分担、ポイントをためてのクラスアップなど、シミュレーションゲームの要素を仮想現実に取り込んだゲーム設定。そしてそれが社会に浸透した状況。さらにこだわりのある武器や戦術の記述。こういった要素が混ざり合って、独特の世界が描かれる。

●「星のパイロット」笹本祐一、1997年3月、朝日ソノラマ文庫、510円+税、ISBN4-257-76802-9
20030401 ★

 近未来、民間の航空宇宙会社を舞台に、宇宙を目指す若き女性パイロットの話。宇宙船打ち上げの物理学的、そしてメカニカルな側面をリアルに描こうとしている。良質のヤングアダルト物ではあるが、SF的にはさほど目新しくもないか。

●「神様のパズル」機本伸司、2002年11月、角川春樹事務所、1700円+税、ISBN4-7584-1003-8
20030328 ★

 第3回小松左京賞受賞作。とある大学の素粒子物理研究室のゼミで、天才少女と組んで「宇宙を作ることはできるのか?」というテーマに取り組むことになった大学4回生の主人公。彼女をなだめて、就職活動もしつつ、ゼミのテーマにも取り組んで。ってだけならまだしも、天才少女は作れることを示してしまい、巨大加速器で実際に…。という話。
 前半の主要な舞台である大学のゼミでのやりとりは、物理系の学生のやりとりとは思えないくらいとっても初歩的で、わざとらしい。天才少女と主人公の会話の中での宇宙の作り方の議論もそれよりちょっとましな程度かもしれないけど、少なくともワクワク感はある。天才少女が偉そうに持論を開陳する場面を楽しめるかどうかで評価がわかれそう。私は楽しめました。

●「小指の先の天使」神林長平、2003 年2月、早川書房、1600円+税、ISBN4-15-208476-6
20030327 ★★

 6編が収められた短編集。内、5編に仮想空間やそこに生きる人が出てくる。共通するのは、仮想世界と現実世界の交流といったところか。残る1編は、ふれあうと燃えてしまう"病気"が広まった世界のラブストーリー。
 作品が書かれた年を見ると、1981年には現実世界のラブストーリーを書き、1990年代前半の3編では現実世界から仮想空間に棲む存在との関係を描き、2001年以降の2編はいずれも仮想世界内部から現実世界と仮想世界の関わりを考察する話。著者の作品の傾向の変化が見て取れるようでおもしろい。個人的には昔の作品の方が好み。

●「真空ダイアグラム」スティーヴン・バクスター、2003年1月、ハヤカワ文庫SF、820円+税、ISBN4-15-011430-7
20030205 ★★

 「プランク・ゼロ」に続くジーリー・クロニクル第2弾の短編集。「プランク・ゼロ」に続く時代の作品が並び、間にイヴの語りによる断章がはさまるのは同じ。西暦で言えば、10515年から4101284年と設定された作品群。これだけ遠未来までも描いたSFも珍しい。
 人類は異星人からの支配を脱し、ジーリーに次ぐ種族になる。で、銀河の支配権をかけてジーリーに戦いを挑む。少なくとも人類はそのつもりだけど、ジーリーには相手にされなくて、さらに身も蓋もない宇宙の真実が明らかに、って感じ。
 背景の宇宙史がわからなくても個々の短編自体がとてもおもしろかった「プランク・ゼロ」に対して、こちらは宇宙史の比重が高まった気がする。そして個々の短編自体のおもしろさは減じた感じ。あるいは、虐げられながらも希望に満ちた人類を描いた「プランク・ゼロ」に対して、為すすべもなく滅び行く人類が描かれている「真空ダイアグラム」ってところか。

●「群青神殿」小川一水、2002年6月、ソノラマ文庫、552円+税、ISBN4-257-76968-8
20030124 ★

 船が謎の生物によって次々と沈められる事件が発生。で、民間会社の海底探査チームが活躍する話。深海物SFってとこでしょうか。
 主人公は、元気で能力は秘めてるけど、頼りない女の子。それを保護者ぶった彼氏がフォローするって感じ。作者が男か女かに関わらず昔からよくある、そして個人的に大嫌いなパターンです。お馬鹿な主人公に、偉そうな保護者に、イライラするだけ。こういうのがうけるのかな〜?
 海底のメタンハイドレート資源や潜水艇からはじまって、さまざまな蘊蓄を傾けて、話は進められていく。が、残念なことに、深海に潜む謎の存在、ってゆうワクワクするイメージを活かしきっていないと思う。最大の難点は、ホラが少なすぎることか。
 あと、例の生きものがそんな条件下で進化するか、ってとこには目をつぶるとしても。その個体群サイズとか突然浮上して船を襲いはじめた理由はさっぱり納得できない。

●「戦乱の大地」(上・下)デイヴィッド・ブリン、2002年9月、ハヤカワ文庫SF、(上)940円+税 (下)940円+税、(上)ISBN4-15-011414-5 (下)ISBN4-15-011415-3
20030115 ★

 「知性化の嵐」3部作の第2弾。といっても、この3部作は個々に独立していなくて、長大な作品を3つに分けただけ。だから内容は「変革への序章」の続き。
 あの恐いジョファーがついにジージョでの活動を始める。一方的にやられるだけかと思ったら、ジージョの六種族も反撃したり。で、ストリーカーの活動も本格的に。「スタータイド・ライジング」の続きだってことを再認識させてくれる。
 ついにジージョを脱出。でも追っ手がかかって、どうなるんだー。というところで、また次巻に続くで終わり。最終巻を読んでみないと判断できない作品です。ほんまに長い!

●「あなたをつくります」フィリップ・K・ディック、2002年3月、創元SF文庫、920円+税、ISBN4-488-69616-3
20030106 ☆

 電子オルガン業者が、歴史上の人物のシミュラクラをつくる話。とりあえずつくったのは、リンカーンとその部下だったスタントン。これにガールフレンドと金持ちの実業家を交えて展開するんやけど、結局のところガールフレンドの取り合いをしてるだけのような。よく言えば、ディックらしいってことになるんでしょう。ディックマニア以外には薦められません。

●「フリーウェア」ルーディ・ラッカー、2002年3月、早川文庫SF、900円+税、ISBN4-15-011393-9
20030104 ☆

 「ソフトウェア」「ウェットウェア」に続く第3弾(だそうな、そんな昔の覚えてないけど…、と思ったら解説に以前の作品を読んでなくても、覚えてなくても大丈夫とあるので一安心)。人工生命体が市民権を得て人間と共存している未来世界が舞台。人工生命体の女の子が誘拐されて、やがてさらに大事件に、って感じ。
 最初はアメリカ合衆国の人種問題を描いてるのかと思ってたけど、ちょっと二次元時間を生きるエイリアンまで出てきて、もうなんのことやら。ラッカーらしく、意味不明の言葉が多用された会話自体にもあまり意味はなく、読むのは疲れます。

●「シャドウ・オーキッド」柾悟郎、2002年7月、コアマガジン、1800円+税、ISBN4-87734-565-5
20030102 ☆

 問題児が送り込まれる収容所のような学園が舞台。SF的な設定を付け加えたハードコアな耽美小説。ってゆうか、かなりえぐいボーイズ・ラブものってゆうか。
 生徒の管理のために導入されている部屋とか挿入される物の仕組みとか、もの珍しいSF的ガジェットはあるし、生徒を宙吊りにして教育効果を高めるとかいう教育理論とかもあるけど、話はお耽美に流れて、いまいち消化不良のまま終わる。
 グロさの部分もアイデア・技術ともにたいしたことないし(気持ち悪いけど…)。あとがきでふれられているように設定もアイデアも「家畜人ヤプー」に比較すべくもない。登場人物が薄っぺらで、その判断が理解できないのも気になる。まあそれにしても★くらいの評価はしてもいいんやけど、なんせ勧めにくい内容なので…。

●「あしたのロボット」瀬名秀明、2002年10月、文藝春秋、1667円+税、ISBN4-16-321310-4
20030102 ★★

 遠未来の人間とみまごうばかりに発達したロボットのエピソードをはさみながら、近未来の現在の技術の延長線上のロボットの話がつづられる。5編をおさめた連作短編集。
 かろうじて二足歩行ができるロボット、コミュニケーションめいたことのできる家庭用のペットロボット。そうしたロボット技術のこれからを語るだけでなく、人との関わりの今後のあり方が問われる。とくにロボットの心というのが重要なテーマ。
 「生きている」っていうのがどういうことか考えさせられた。生物学的には、自己複製システムと自己の維持システムを持ってることか? でも”ロボットが生きている”かどうかって設問になると、”心”があるかどうかが問題になるらしい。そういわれてみるとそんな気がする。さらにそれは、”知性”があるかどうかにつながってしまうらしい。この場合、”心”と”知性”は明確に区別をして議論した方がいいと思います。心とは、この場合ほとんど魂と同じ意味。ロボットどころか、あらゆる無生物に心を見いだすことは可能な気がする。そこまで行かなくても、知性的ではない心は想定できるはず。この作品集では、心と魂、知性がごちゃまぜにされているのが気になる。
 とはいえ、ロボットの心と、ロボットをパートナーとする人間の心を描いた、いい作品が並んでいる。とくに好きなのは、「夏のロボット」と「亜希への扉」。タイトルでも遊んでくれています。

●「プランク・ゼロ」スティーヴン・バクスター、2002年12月、早川文庫SF、860円+税、ISBN4-15-011427-7
20030101 ★★

 宇宙に進出した人類の遠未来にわたる歴史の物語。独立に発表された一つの未来史系列の短編を集めて、経年的に並べて、舞台回しのイヴの章をちりばめて、連作短編集風にしたもの。「Vacuum Diagrams」という作品集の前半。後半は、「真空ダイアグラム」という別の短編集かのような形で出版されるそうな。
 ジーリーという圧倒的な科学力を持ちながら、異種族とあまり関わりを持たない種族の存在が背景。人類をはじめ様々な宇宙種族にとって、ジーリーの持つ超絶テクノロジーをいかに手に入れるかが大きな関心となっている。すでに翻訳されている4長編とともに”ジーリー・クロニクル”という未来史を形成し、大雑把に西暦3000年から西暦400万年以上にまで及ぶ長い歴史が設定されている。
 とにかく宇宙の始まりから終わりまで、その素粒子から空間構造まで、物理学的なアイデアがたくさん出てくる。さらにそれに絡んだ超絶テクノロジーが楽しい。と、物理学・工学的なアイデアだけでなく、けっこうおもしろい生物がでてくる。この短編集では、”人類、拡張の時代”の5編中4編は、カイパーベルト、冥王星、水星などに生息する生物を発見する物語。
 後半まで読んで、改めて評価すべきかと思うので、評価は暫定的。どうして素直に「真空ダイアグラム」の上巻にしなかったんだ?

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