SF関係の本の紹介(2002年上半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「90年代SF傑作選」(上・下)山岸 真(編)、2002年3月、早川文庫SF、(上)940円+税(下)940円+税、(上)ISBN4-15-011394-7(下)ISBN4-15-011395-5
20020622 ★★

 タイトル通り1990年代の傑作SF21編と、スターリングのエッセイ1編、さらに1990年代のSFの解説までついた短編集。スティーヴンスン、シモンズ、ウィリス、イーガンなど日本でもお馴染みで、注目の作家から。レナルズ、レセム、スティール、リード、クレスなどあまり聞き慣れない作家まで。作家の有名無名に関わらず、質は粒ぞろい。
 お気に入り作品は、レナルズの「エウロパのスパイ」、ウィリアムズの「バーナス鉱山全景図」、レズニックの「オルドヴァイ峡谷七景」、チャンの「理解」、イーガンの「ルミナス」、リードの「棺」といったところ。でも、その他の作品にも、はずれ作品はほとんどない。”SFらしいSF”の”新しい風”を中心に選んだという編者は素晴らしい。

●「レスレクティオ」平谷美樹、2002年4月、角川春樹事務所、1900円+税、ISBN4-89456-937-X
20020531 ★★

 「エリ・エリ」の続きの物語。「エリ・エリ」の主人公が、地球から遠く離れた惑星で、高度な科学技術を発達させたイキッスィア人とコンタクトする。そして、改めて神を探す旅を開始。ストーリーは、イキッスィア人と対立するヴォダ人の戦闘員のエピソードを交えて進行する。テーマは、イキッスィア人の正体と、神の存在するかという点。
 果たして神は見つかるのか。神を求めた「エリ・エリ」は、曖昧な結論のまま終わってるだけ。今度はいったいどういう結末が待っているのかドキドキしてたら…。まあそれほど意外でもないけど、それなりに結論がでていました。壮大な時空間スケールのイメージ付きで。まあこれで充分かなと思います。
 おもしろかったのは、異質な世界で暮らすために、感覚を操作してヴァーチャルで馴染みの風景を見せるくだり。裏返せば、我々が実際に感覚器から得ている情報も、一つの真実ではないかも知れないってことで。一人一人が一緒に別の世界に生きている、てな可能性すらあるなー。と想像はふくらんで楽しい。

●「傀儡后」牧野 修、2002年4月、早川書房、1500円+税、ISBN4-15-208412-X
20020528 ★★

 あの「MOUSE」を書いた著者の、久々のSF作品(と書いたら怒られるか?)。舞台は数十年後の大阪。守口市辺りに隕石が落下し、その周囲半径6km(大阪市の北東部の大部分)が立ち入り禁止となっている。ここに踏み込んだ者は、誰も帰ってこない。そしてこの地域の周囲には、あやしげな世界が…。
 「ネイキッド・スキン」というドラッグ、文字通り皮をかぶって変身するターン・スキン、などあやしげなテクノロジー。それだけでなく、携帯電話の究極の形とも言えるケーター(いわば常にネットにつながっていられる装置)といった社会構造自体を変えてしまいそうなガジェットまで盛り込んで、異様に変貌した未来世界を見せてくれる。

●「どーなつ」北野勇作、2002年4月、早川書房、1500円+税、ISBN4-15-208410-3
20020524 ★★

 新たに創刊されたハヤカワSFシリーズ第1弾の1冊。いつもと同じ北野ワールドで、今度の動物はクマとアメフラシ。人工知熊には笑わせてもらえます。
 例によって、ストーリーはいったりきたりで、流れを押さえるのは大変。でもそんなことはどうでもいい、ことにしても楽しめるのが北野ワールド。話の一つは、妙にハイテクでほのぼのした「ストーカー」でしょうか。宇宙人によってつくられた(のか?)謎のエリア(ゾーンだ!)に、人工熊に乗った作業員が入っていく(ストーカーだ!)。あと珍しくほのぼのとラブストーリーも。
 バラバラになった個々のエピソードが、どれもいいので、全体像はおかまいなしに楽しめます。個人的な北野作品ランキングでは、「かめくん」に並びます。

●「太陽の簒奪者」野尻抱介、2002年4月、早川書房、1500円+税、ISBN4-15-208411-1
20020514 ★★

 水星軌道上にリングができはじめ、日照量の減少によって地球では、人類が滅亡の危機に。第1部では、人類が危機を乗り切る様が描かれる。第2部では、リングをつくった知性体とのコンタクト、というよりコンタクトまでの道のりが描かれる。
 第1部での最大の謎は、何のためにリングがつくられたのか。第2部での最大の謎は、なぜリングをつくった知性体は呼びかけに答えないのか。どちらも謎解きを中心に、主人公の活躍が真っ正面から描かれている。まさにSFの王道のような作品。SF好きはたいていはまるでしょう。
 結局のところ、読後感は、けっこう愛想のいい「宇宙のランデブー」のような感じ。

●「微睡みのセフィロト」冲方 丁、2002年4月、徳間デュアル文庫、505円+税、ISBN4-19-905104-X
20020512 ☆

 超能力を持つ人々と持たない人々からなる社会。そこで生じた超能力者による犯罪を、超能力者の少女が解決するという話。それだけ。

●「劫尽童女」恩田 陸、2002年4月、光文社、1500円+税、ISBN4-334-92358-5
20020501 ★

 そもそもSFかというと困るけど、一応、超能力やマッドサイエンティストが出てくるので、SF扱いに。恩田作品なので本当のよさは、個々の登場人物の背景や考え方、そこここに見られるちょっとした共感できるコメントにあると思いますが、それはとりあえずおいといて。
 マッドサイエンティストの操作のせいで、人工的に超能力を植え付けられた子どもが、同じように改造されたイヌとともに、その組織をぬけて、反対勢力とともに戦い・逃げ。そして、世界の運命と関わっていく。といった話。
 最初は、ブギーポップみたいな感じでしたが、やがて七瀬シリーズみたいな雰囲気になり。一時はアキラのようにも。落としどころは恩田作品らしく、意外と地に足がついたものに。謎めいたラストは、続きがあるということでしょうか? それと関連して気になるのは、この作品は、「図書館の海」に収められた「イサオ・オサリヴァンと捜して」と関連があるんでしょうか?ラストと同じようなシーンがあったように思うのですが…。

●「宇宙捜査鑑<ギガンテス>」二階堂黎人、2002年3月、徳間デュアル文庫、505円+税、ISBN4-19-905102-3
20020415 ★

 中編のSFミステリー。いろんな宇宙人は出てくるは、現場は宇宙ステーションだは、ワープはするは、というSF的な設定の中で、本格ミステリを展開しようとした話。謎解きはちゃんとしてくれるけど、そんなに感動しないのは、舞台設定があまりに現実離れしているせいか?

●「火星人先史」川又千秋、2000年12月、徳間デュアル文庫、705円+税、ISBN4-19-905026-4
20020406 ★★

 元は1984年に出版された作品。火星への人類の移住の際に、知性化されたカンガルーを使役用に持ち込んだ。このカンガルーたちが、人類と対立し、長い戦争の後に、独立するまでが描かれる。全体に暗いトーンやけど、読後感はよいです。

●「地球・精神分析記録」山田正紀、2001年8月、徳間デュアル文庫、590円+税、ISBN4-19-905071-X
20020412 ☆

 元は1977年に出版された作品。よくわからないまま、4体の機械の神を倒していく話を読まされる。で、最後にオチが。古い作品なので仕方がないけど、今どきどれはないやろというオチで。古くさー、としか思えませんでした。

●「反在士の指輪」川又千秋、2001年8月、徳間デュアル文庫、762円+税、ISBN4-19-905068-X
20020409 ★

 6編からなる連作短編集。はじめの3編は、かつては「反在士の鏡」として出版されていたが、今回書き下ろし1編を付け加えて、完全版として出版された。反在士、アリスの環、純粋鏡面などなど、よくわからないガジェットをちりばめ。二派に分かれて、延々と続けられる宇宙規模の戦争。この戦争の真の遂行者はだれか、という大きな謎を軸に話は展開するが…。
 結局の所、なんやらよくわからないけど、なんとなくかっこいい雰囲気を追求したような作品。それなりに楽しく読める。

●「ハルピュイア奮戦記 第二話 翼の決断」秋津透、2001年7月、ハルキ文庫、660円+税、ISBN4-89456-873-X
20020326 ☆

 「ハルピュイア奮戦記 第一話 翼の誕生」の続き。宇宙を舞台に、ひょんな事から手に入れた優れものの宇宙船で飛び回る話。ぜんぜんおもしろくありません。

●「RED RAIN」柴田よしき、1999年11月、ハルキ文庫、640円+税、ISBN4-89456-592-7
20020325 ★

 宇宙から飛来したD物質によって、人が吸血鬼になる現象が多発する近未来。D物質に感染した超人的能力を持つ吸血鬼と、いわば吸血鬼ハンターである警察官との戦いが描かれる。ようは、吸血鬼と警察官、追う者と追われる者のラブストーリー。設定への突っ込みを忘れれば、ストーリーはけっこう楽しめます。

●「銀河博物誌1 ピニェルの振り子」野尻抱介、2001年8月、徳間デュアル文庫、円+税、ISBN4-19-905072-8
20020325 ★

 銀河をまたにかけて、珍しい生物を求める博物商と絵描きと採集人の物語シリーズ(らしい)。地球の19世紀頃、金持ちが珍しい生物の標本を求めて、世界中に採集人を派遣した雰囲気を、銀河レベルにそのまま拡張した話。主人公の間抜けな行動にはイライラさせられる。
 この巻での中心アイデアは、光帆生物という宇宙空間で暮らす生物。あの設定で、光帆生物が個体群を維持できそうには思えないけど、その生態はそれなりに魅力的。

●「メタルバード 1」若木未生、2001年8月、徳間デュアル文庫、505円+税、ISBN4-19-905072-8
20020318 ☆

 自信過剰で自己中心的な主人公が、学校を出て、宇宙飛行士になります。それだけ。ぜんぜんおもしろくありません。続きを読む気もありません。

●「図書室の海」恩田 陸、2002年2月、新潮社、1400円+税、ISBN4-10-397104-5
20020305 ★

 10篇が収められた短編集。その内、いくつかはSFといっていいもの。
 「春よ、こい」はタイムトラベル物。「イサオ・オサリヴァンと捜して」はSF長編「グリーンスリーブス」の予告編だそうです。謎にみちた不思議な話です。本編の完成を期待したいです。
 その他の内、「オデュッセイア」はファンタジー。「茶色の小壜」、「図書館の海」(「七番目の小夜子」の関連作品)、「ノスタルジア」はいわばホラー。「睡蓮」(「麦の海に沈む果実」の関連作品)、「ある映画の記憶」「国境の南」は、不思議なミステリー。「ピクニックの準備」は…、日常小説とでも?まあラベル付けには、あまり意味はありません。恩田陸ワールドの内、不思議テイストを持った作品を楽しめます。

●「ホームズと不死の創造者」ブライアン・ステイブルフォード、2002年2月、早川文庫SF、980円+税、ISBN4-15-011391-2
20020304 ★

 「地を継ぐ者」と同じ世界の300年未来の物語。バイオテクノロジーが発達し、まるでファッションのようにデザイナーによって花が作られ、現在のファッション業界のような世界が形成されている。で、女性刑事シャーロット・ホームズとフラワー・デザイナーのオスカー・ワイルドが、人喰い花を使った連続殺人事件を追う。
 登場人物の名前のお遊びからわかるように、その辺りの文学作品や戯曲を使った遊びが随所にあるらしい。が、不勉強なもので、ホームズ絡みのしかよくわからず。あんまり楽しめなかった。まあ、ワイルドが探偵役で、ホームズがワトソン役なのは笑えるが。
 全体的なテーマは、「地を継ぐ者」と同じ永遠の生命。でも、軽く流されている感じ。

●「ΑΩ」小林泰三、2001年5月、角川書店、1500円+税、ISBN4-04-873297-8
20020228 ★

 宇宙からやってきた生命体にとりつかれて、ウルトラマンみたいなのになってしまった人が、同じく宇宙からやってきて地球をメチャメチャにしてくれた別の生命体と闘う話。この設定は、映画「ヒドゥン」や大原まり子の「エイリアン刑事」と似てる。けど著者の趣味のおかげで、グチョグチョ、ドロドロしたシーンが多く、展開もあんなに牧歌的ではない(でもどこか脳天気)。
 科学的(あるいはSF的)にウルトラマンをやりたかったに違いない、という評が多いけど。むしろこれはデビルマンのように思う。とくに世界が、グチョグチョした辺りからは。

●「ハッカー/13の事件」J・ダン&G・ドゾア(編)、2000年11月、扶桑社ミステリー、781円+税、ISBN4-594-03003-3
20020225 ★

 ハッカーに関する短編13編を集めた短編集。ギブスン、スターリング、マコーリイ、スティーヴンスン、イーガンなどの短編が並ぶ。ハッカーを「ありとあらゆる情報システムに侵入して改変を行なうもの」と定義して、いわゆるコンピュータハッカーだけでなく、人体という情報システムへのハッキングに関する作品も取り上げたのが特徴。
 ギブスンの「クローム襲撃」、スターリングの「われらが神経チェルノブイリ」、ベアの「タンジェント」など、どこかですでに読んだことのあるいい作品が多い。初めて読んだお気に入りはマコーリイの「遺伝子戦争」。

●「シガレット・ヴァルキリー」吉川良太郎、2002年2月、徳間デュアル文庫、505円+税、ISBN4-19-905100-7
20020222 ★

 「ペロー・ザ・キャット全仕事」「ボーイソプラノ」に続く第3弾。舞台は前2作品と同じで、主人公も「ボーイソプラノ」と同じ探偵。雰囲気もよくにたハードボイルド。そこそこ楽しめる中編、といった感じ。

●「死に急ぐ奴らの街」火浦 功、2001年7月、徳間デュアル文庫、619円+税、ISBN4-19-905065-5
20020217 ★

 臓器売買、ドラッグ、クローンなど、現在よりテクノロジーがやや進んだ近未来を舞台に、恥ずかしいくらいオーソドックスに、ハードボイルドが展開される。この著者のことなので、どこかでギャグがあるかと、期待と心配をしながら読んでいたけど、驚いたことに最後までおふざけなし。こんなんも書けるとは…。
 というわけで、SF的に新味はないものの、何よりこの著者が真面目な小説を書いたことこそがセンス・オブ・ワンダー!

●「五人姉妹」菅 浩江、2002年1月、早川書房、1700円+税、ISBN4-15-208394-8
20020211 ★★★

 近未来、今より科学技術が発展した世界を舞台に、人々の日常が描かれる(とあえて書きたい)。9編が収められた短編集。
 「博物館惑星」を舞台にした1編などを除けば、描かれるのは今の日本とそんなに違和感のない世界。SF的な設定といっても、クローン、ヴァーチャルリアリティー、ロボットなど、それ自体はとってもありきたり。しかしその状況下での、人間の(時にはロボットの)心のあり方を扱った所が新鮮。
 はずれ作品はありません。が、あえてお薦めは、最後にどんでん返しが待っている「子どもの領分」もいいけれど、心模様がよく描かれている「五人姉妹」「ホールド・ミー・タイト」「賎の小田原」に。

●「竜の挑戦」(上・下)アン・マキャフリイ、2001年8月、早川文庫SF、(上)740円+税(下)740円+税、(上)ISBN4-15-011366-1(下)ISBN4-15-011367-X
20020208 ★

 パーンの竜騎士シリーズ第8弾。外伝もいれたら11弾目。本伝の主要登場人物が総出演で、久しぶりに読むととてもなつかしい(第1作から物語り内部でも20年ほどしか経っていないらしい)。パーンへの植民時代からの生き残りのコンピュータの指導のもと、失われた技術を取り戻し、糸胞の脅威を取り除く試みが描かれます。最後は泣かせます。
 このシリーズは、惑星への着陸と植民の苦労をえがいた「竜の夜明け」以外は、SFというよりは異世界ファンタジーといったのりでした。が、この作品は、かなりコンピュータの登場でかなりSF色が出てきます。一度は失われた技術を再発見することで、社会がどのように変化するのか。とても興味のあるSF的テーマですが、そこはマキャフリイ、いたって脳天気に描かれるだけです。反対勢力の破壊活動もかわいいもんやし。それが最大の不満でしょうか。
 それにしても、竜や火蜥蜴との交流はよいです。竜との感合シーンはとくに。これがある限り、このシリーズは不滅です。

●「銀河おさわがせアンドロイド」ロバート・アスプリン&ピーター・J・ヘック、2002年1月、早川文庫SF、860円+税、ISBN4-15-011388-2
20020201 ☆

 「銀河おさわがせマネー」に続く第4弾。またもやオメガ中隊が活躍します。今回は、中隊長フールの留守にみんながよくがんばった感じ。おもしろいけどもちろんSFではない(解説にもちゃんとそう書いてある!)。

●「今池電波聖ゴミマリア」町井登志夫、2001年12月、角川春樹事務所、1900円+税、ISBN4-89456-932-9
20020128 ★★

 財政破綻と少子化に歯止めがきかなかった近未来の日本の話。政府や地方公共団体が市民サービスをほとんど放棄して、街や学校には、ゴミと暴力が蔓延。仕事はなく、老人はホームレス化して、道端で次々と死んでいく。物語は、暴力とゴミの間で、希望もなく暮らしている高校生が主人公。ふとしたはずみで政府の陰謀をしることになる。てな話です。
 現在の日本の状況が変わらなければ、将来の日本はどうなるのかな?と考えたら誰でも考えつきそうな世界。でも、ここまで暗く描かれたことは少ないのでは?ほんとにこうなりそうな気がするので、恐い。
 でも、世界のどこかには、ゴミと暴力にまみれて未来に希望の見いだせない、こんな国が現在でもありそうな気が…。

●「トリガー」(上・下)アーサー・C・クラーク&マイクル・P・キュービー=マクダウエル、2001年12月、創元SF文庫、(上)900円+税(下)900円+税、(上)ISBN4-15-011383-1(下)ISBN4-15-011384-X
20020127 ★

 とある物理学における発見が世界を変えるという話。これだけだと「過ぎ去りし日々の光」と似ているようですが、残念ながらストーリーの大半はアメリカを中心に、アメリカ社会からいかに銃をなくすのが難しいのかが描かれます。おもしろいと言えばおもしろいのですが、発明の社会的影響が、アメリカを舞台にしたせいで、銃のない社会を目指すかどうかというレベルに矮小化されてしまった感があります。ヨーロッパや日本を舞台にした方が、よほどSF的に興味深い展開ができたでしょう。
 まあとにかく、アメリカの社会から銃をなくすのがいかに困難かはよくわかりました。アメリカ合衆国から見れば、基本的に銃のない日本社会は、SF的未来社会のよう。さらにおもしろいのは、銃がなくなったからと言って犯罪がなくなるわけではないという、日本人にとっては当たり前の事が、銃のあるアメリカ人にはわからないらしい。そこが一番センス・オブ・ワンダーでした。
 クラークはイギリス人なので、そんなことはわかっててあえて皮肉に描いただけかも知れませんが。

●「ダイヤモンド・エイジ」ニール・スティーブンスン、2001年12月、早川書房、3000円+税 、ISBN4-15-208385-9
20020121 ★★

 あの「スノウ・クラッシュ」のニール・スティーブンスンの作品ということで、とても期待して読みました。期待を裏切らない作品でした。「スノウ・クラッシュ」の少し未来の中国が舞台。国家が崩壊して、主義を同じくするグループが形成したいわば都市国家によって形成された世界。究極のインタラクティヴ絵本「プライマー」を中心に、その作者である技術者と所有者となった少女の成長が描かれる。
 まずは進歩したナノテクマシンがおもしろい。空中を浮遊して、人に取り付いて攻撃をしかける(あるいは人を操作しようとする)ナノテクマシン。それを無効化するワクチンのようなナノテクマシン。ナノテクマシン同士の目に見えない攻防の中での暮らし。まるで体内の免疫システムが、体外にまで波及したかのよう。その上、ナノテクマシンを採集してコレクションする人物までいるとは。
 もちろん「プライマー」も魅力的。所有者を主人公にして、その実際の成長に合わせて、所有者の選択に応じて物語を構築していってくれます。質問には答えるし、必要に応じて物語りは変更されます。あくまでも教育用なので、教育的な課題をいろいろ設定してくれて、あくまでも教訓めいた話にしてくれます。それが難です。このシステムは、少女の教育用に限るのはもったいない。リアルとリンクしながらのおもしろいロールプレイング育てゲーが作れそう。
 世界もガジェットも最高ですが、唯一の難点はストーリーでしょう。読みにくいし、あまり楽しくない。「プライマー」で繰り広げられる劇中劇も、そんなにおもしろくありませんでした。なんせ教育だから。

●「グリーン・マーズ」(上・下)キム・スタンリー・ロビンスン、2001年12月、創元SF文庫、(上)1100円+税(下)1100円+税、(上)ISBN4-488-70704-1(下)ISBN4-488-70705-X
20020115 ★

 「レッド・マーズ」に続く火星3部作の第二弾。時代的には、「レッド・マーズ」の最後の悲劇から数年後。火星は地球資本の企業体に牛耳られている。最初の植民者の生き残りの多くは、火星の各地に隠れ住み、火星第二・第三世代が台頭(でも長命化技術のおかげで、第一世代もたくさん生き残っている)。物語は、隠れコロニーでの生活からはじまり、緩やかにレジスタンス運動が進行し、最後に再び革命が。
 「レッド・マーズ」に比べて、人間関係のいざこざの描かれ方が少な目で、かなり読みやすくなっている。それでも、急進派と穏健派、レッドマーズ派とグリーンマーズ派、レジスタンス側の対立が多くて、結局はその調整過程にかなりの部分がさかれてはいるが…。意外なことに一番おもしろかったのは、火星人たちが開いた全体会議のくだり。意見の相違を調整しながら、一つの宣言を作り上げていく過程がとてもダイナミックでよかった。
 他におもしろかったのは、土着の生命体がいない惑星であってもそのテラフォーミングは最小限にとどめるべきか否かの議論(地球だけでは成立しえない倫理観が問題となってる感じ)。そして、地球と火星との関係についての議論。相手が健全でなければ、こちらも健全ではいられない。だから、自分(達)のためにも相手に手をさしのべる。国家間でも個人間でもなりたつ普遍的な利他行動の理屈。相互利他行動ともちょっと違う感じ。

●「ゲーム・プレイヤー」イアン・M・バンクス、2001年10月、角川文庫、895円+税、ISBN4-04-288601-9
20020102 ★

 宇宙に人類が広がり、知性を持ったロボットが人と対等に交わって暮らす世界。さらに技術力が進歩して、働く必要がなく、みんなが娯楽だけで暮らしており、優秀なゲームプレイヤーが大きな尊敬を集める世界。で、優秀なゲームプレイヤーである主人公が、新たに発見された未開の星(そこではあるゲームによって支配者が選ばれる)へ出向きゲームをする。
 いったい何がしたいのかよくわからないと言えばわからない話。話の中心になるゲームの詳細も明らかではないし、どうして主人公が強いのかもあまり説得力がない。でも楽しく読めます。
 宇宙に広がった人類世界と、未開の星の対比。新たな未開の世界を見つけては、独特の論理に基づいて介入する<コンタクト>の存在。そんなさまざまな要素を楽しめばいいのでしょう。

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