「牧野富太郎と植物画展」の開催によせて

 大阪市立自然史博物館 岡本素治

 草を褥に 木の根を枕 
   花と恋して 九十年

 いま静かに牧野富太郎がブームです.植物分類学を学ぼうとする者のバイブル『牧
野日本植物図鑑』の著者で「日本の植物学の父」と仰がれています.95年の生涯のす
べてを植物研究に捧げ,2500もの新植物に名前をつけました.植物を最もよく知る植
物学者によって描かれた図には,みずみずしい生気が宿り,学術的価値に加えて,美
術的にも非常に高く評価されています.精密かつ力強い筆使いには,西洋に日本人の
力を示さんとした明治の男の心意気さえ感じられます. 

ムジナモの図
 左の図は「日本植物志図篇」に掲載されたムジナモの図で,「牧野式植物図」の確立を告げる図とされています.T. Makino, del . et lith. とあるように,製版まで自ら手がけた図です.印刷へのこだわりは強く,「牧野さんの仕事はいやだ」と印刷
屋に言わしめたほどでした.富太郎の朱筆が入った校正紙は,今回の見物の一つです.