里を「守るため」の研究のあり方

鎌田磨人(徳島県立博物館)

 近年,生物多様性の保全意識の高まりとともに,「里」をとりまく二次的自然の重要性が認識されるようになってきた.しかし,その保全を具体的に考えようとするとき,生態学だけでは事足りなくなる.里の二次的自然は地域の中での生活の場であるので,その保全を図るためにも,地域の人々が二次的自然を利用しながら生活を営んでいけることが必要だからである.

 では,具体的にどうするのか? ここで私たちの研究グループが模索している方向を紹介することが,自由集会での議論の一助になればと思う.

 私たちの研究グループは,棚田に「美しさ」を感じ,「残したい」と強く願っている集団である.専門的には,生態学,人文地理学,環境工学,衛生工学,計画論等の分野からなる.これに農学や,歴史学,民俗学等々の人たちが加わってくれることを願っている.目的は,「徳島県上勝町の棚田」を保全することである.

 過疎化が進む上勝町のような地域において棚田を持続的に保全するためには,棚田が持つ産業基盤外の存在価値をも評価し,それを基にした戦略を検討することが重要である.保全戦略には,従来の経済活動に加えて,体験的農業,教育,観光,ボランティアといった活動をパッケージ化する方向が考えられるが,このパッケージ戦略は,対象となる棚田の特性やその価値に応じて検討する必要がある.そのため,私たちは個々の専門性をふまえ,次のような観点から研究を行うことにした.

 1)水収支・水質から見た棚田の機能評価,2)生態系・生物のハビタットから見た棚田の機能評価,3)歴史的な観点から見た棚田の価値評価,4)「美しい風景」としての棚田の価値評価等の機能評価情報を基礎として,最終的には,5)「環境財としての棚田の存在価値を最も高めるもの」を導き出すことを目的とする.

 私たちは,このような研究活動の節々で,町や住民と意見交換を行うことにしている.すなわち,私たちは,研究成果を論文として<外>に向けて発信するだけでなく,懇談会等を通して地域住民<内>に提示し,地域住民自らが棚田の持つ意味を再発見する材料としてもらいたいと考えている.その理由の一つには,住民自身が生活空間の意味を再発見したり再確認することが,生活空間の中の二次的自然を保全する上で非常に重要だと思うからである.そして,それによって再発見された棚田の意味を,自らの声として発言していただけるようになったり,自らで調べてみようと思っていただけることを期待している.

 地域の<内>と<外>で語られてきた「里の価値」が,<内>と<外>のつながりの中で語られるようになった時,新たな価値が生まれるのではないかと期待している.そのためにも,<外>に住む私たちは,積極的に研究成果を住民に提示していきながら,つながりを作っていければと思う.

---終わり.えっ,どっかで見たって?---

●「景観生態」自由集会もよろしく.


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