環瀬戸内地域(中国・四国地方)自然史系博物館ネットワーク推進協議会

会長:大阪市立自然史博物館館長 那須孝悌
事務局:〒546-0034大阪市東住吉区長居公園 1-23
     大阪市立自然市博物館内

【環瀬戸内地域(中国・四国地方)自然史系博物館ネットワークの必要性】
 市民ニーズが著しく高まっているにもかかわらず,地方自治体の博物館は,財政面でも専門職員(学芸員)の確保の面でもきわめて厳しい情況に置かれている。自然史関係の学問分野は細分化が進むとともに専門性が高まって,各館があらゆる分野の市民ニーズに応えられるだけ多くの分野について専門職員を雇用することはきわめて困難である。また,無秩序に氾濫する,豊富な自然に関する情報を整理しなおして発信する事も求められており,さらに,展示も新たな技法を導入して親しみやすくて解りやすいものにする事が必要になっている。地方の博物館が,求められるあらゆる機能を具備することは困難であるが,それぞれに地域の特殊性に基づいて各館の特色を生かした活動を展開している。
 中国地方および四国は同じ照葉樹林帯(暖温帯)域にある。しかし東西に伸びる中国山地と四国山地に挟まれた瀬戸内区は,日本列島の中では特異な乾燥域であり,冬でも寡雪な山陰地区と,年間を通じて雨の多い四国太平洋側地域という,それぞれ特徴のある自然環境域の存在によって成立する。
 これらの地域には,コンピュータの活用とデータベースの構築に先進的な実績のある兵庫県立人と自然の博物館および徳島県立博物館,山陰地方でフィールドミュージアムとしてユニークな活動を展開している島根県立三瓶自然館,地域指定天然記念物のカブトガニの保護・増殖活動を市民と共に進めてきた笠岡市立カブトガニ博物館,活発な友の会活動をしながら多種多様な事業を展開してきた倉敷市立自然史博物館,植物学者牧野富太郎博士の植物標本データベースを軸に活動を展開している高知県立牧野植物園などがある。
 抜きん出た量の標本資料を蔵し,データベースを作りつつ情報を発信している大阪市立自然史博物館を事務局館とし,地理情報システムや標本データの相互参照システムの共同開発に取り組んでいる兵庫県立人と自然の博物館とともに,各館の特徴を活かしつつ連携すれば,市民ニーズへの対応能力は飛躍的に高まることが期待される。

【組織(平成12年度)】
1 ) 参加自然史系館園(五十音順):大阪市立自然史博物館,笠岡市立カブトガニ博物館,倉敷市立
 自然史博物館,高知県立牧野植物園,島根県立三瓶自然館,徳島県立博物館,兵庫県立人と自然の
 博物館
2)参加博物館友の会:大阪市立自然史博物館友の会,倉敷市立自然史博物館友の会
3)協力館園及び協力組織(五十音順):伊丹市昆虫館,愛媛県総合科学博物館,奥出雲多根自然博物館,
 面河山岳博物館,きしわだ自然資料館,三田市立有馬富士自然学習センター,鳥取県立博物館,
 広島市森林公園昆虫館,山口県立山口博物館,レッドデータブック近畿研究会        
4)アドバイザーグループ  若干名

【事業内容及び実施方法】
1. 現代的課題としての自然史 ―絶滅危惧生物ネットワーク
 自然史系博物館は地域の自然に関する情報センターの役割を担っている.地域の自然を語る標本資料を所蔵するだけでなく,市民からの問い合わせや情報提供も多い.学芸員が専門家としてレッドデータブックの編纂などにかかわる場合も多い.現代社会の自然破壊のもとで重大な問題となった絶滅危惧生物について,現状の把握に努め,より広く伝え,より深く考えて将来像を模索するための事業を各館連携して行う.
(1) 巡回展示「絶滅危惧生物展」の企画と基礎情報の交換
  主たる実施館 大阪市立自然史博物館(事務局)ほか参加全館
(2) カブトガニ育成ボランティア事業
  主たる実施館 笠岡市立カブトガニ博物館
(3) シンポジウム「環瀬戸内地域の自然史とその保全」の実施
 主たる実施館 大阪市立自然史博物館・パネリストは参加館・協力組織から

2. 身近な自然に学ぶ −里山総合学習支援ネットワーク
 里山環境も,現代の社会状況下で大きく変貌を遂げた自然環境である.農業の有り方と人のライフスタイルの変化により,さまざまな生物の生息場所が失われている.一方で,里山を必要としなくなった現代人は都市近郊に広がる林に,日常的に興味を抱くことがなくなっている.環境教育が必要とされる今日,都市に閉じこもるのでなく,もう一度里山に親しみ,学ぶための諸事業を展開していく.里山の自然は地域の気候や原植生,地域社会の利用形態に大きく影響されることから各地域の特性を重視した事業を展開する.
 なかでも,総合的な学習の時間の本格実施を目前に控え,学校からの野外体験学習に対する要望は強い.博物館がこれまで蓄積してきた標本や観察ノウハウ,普及ガイドブックや視聴覚教材などのリソースの活用を図るべく,ハンズオン用の学校貸し出し標本,ビデオやCD-ROMやホームページなどマルチメディア教材を含め,里山をより深く学ぶことができるさまざまな支援学習教材を開発提供していく.
(4) 三瓶山のフィールドを活かす観察会
  主たる実施館  島根県立三瓶自然館
(5) 地域自然誌観察会シリーズ
  主たる実施館  大阪市立自然史博物館・倉敷市立自然史博物館
(6)「里山と照葉樹林を調べよう」学校連携プログラムの開発
  主たる実施館  高知県立牧野植物園・倉敷市立自然史博物館
(7) 学校貸し出し用実物標本セットなどの開発
  主たる実施館  徳島県立博物館・兵庫県立人と自然の博物館
(8) 博物館の情報資料へのアクセス用CD-ROM「Naturalist」の作成
  主たる実施館  兵庫県立人と自然の博物館

3. ネットワーク事業の推進と基盤の整備
 標本の公開,さまざまな観察会情報の提供,研究資料などの公開はすでに各館が個別に努力して行っている.個性のある個々の博物館の能力と自主性を生かし,しかもお互いのリソースを十分に活用するためには,各館の独自判断で公開したデータベースに協調して連動し,さらに利用者である市民には継ぎ目なく一体化して,わかりやすく出力する仕組みが必要である.相互検索システム,地理情報システムなどの導入によりこの課題を実現する.
 標本をもとに地図上に表現された地域の自然の状況は,地域情報を住民に分かりやすく還元するものであり,ゴア米国副大統領の提唱する「デジタルアース」の自然史分野における実現である.今回整備を計画している地理情報システムは,異なる博物館データベースから発信された情報を,受け手の側では一体のものとして見ることができるという,世界初の画期的な試みでもある(開発者のドーン社が特許を保有).博物館がネットワークとしてゆるやかに連携し,主体的に判断してデータ公開を進めていくために必須のものとなるであろう.地図というわかりやすい姿をしたデータベースの公開はまた,学校においても自分の地域を他地域と比較する手段になり,里山学習を効果的に進めることが期待できる.レッドデータ生物の現状の情報公開・住民意識喚起にもつながる.ただし,特定の生物についての分布情報公開には,各地域の自然的・社会的状況を十分考慮する.当協議会が目指すネットワーク化は前記1.2.に掲げた各共同事業やデータベースのネットワークにとどまらず,協議会・運営委員会などを通して博物館の発信情報を円滑に流通させる環境作りを目指す.事業計画には博物館と地域の学校や公民館などのネットワーク化を目指したアウトリーチ活動も含む.さらに,「博物館友の会」など,博物館を取り巻く市民活動に対しても市民参加型調査プログラムの開発支援や相互交流を通じて活性化を図り,博物館活動全体の連携を図っていきたい.この他ネットワーク事業推進全般にかかわる諸事業を行う.
(9)「セミの抜け殻調べ」など市民参加型調査プログラムの開発
  主たる実施館  大阪市立自然史博物館・大阪市立自然史博物館友の会
(10)三瓶山埋没林の保存と地域の参加型学習への利用
  主たる実施館 島根県立三瓶自然館
(11)共通自然史インターネットGIS(いきものマップ)の整備と供用
  主たる実施館  兵庫県立人と自然の博物館・大阪市立自然史博物館
(12)市民による生き物調査支援システムの整備
  主たる実施館  兵庫県立人と自然の博物館・大阪市立自然史博物館
(13)環瀬戸内地域博物館横断検索システム
  主たる実施館  徳島県立博物館
(14)教育用画像素材の共通検索システム
  主たる実施館  兵庫県立人と自然の博物館
(15)ジュニア自然史クラブ・「総合学習自然史フォーラム」の組織設立
  主たる実施館  大阪市立自然史博物館・及び協議会参加各館