残された課題

■■残された課題 − あとがきにかえて■■

 1994年に近畿鳥類レッドデータブック研究会が立ち上がってからほぼ8年、ようやくレッドデータブックの出版にこぎつけることができた。最初の4年は、主観をデータ化するシステムの検討と、これに続く生息情報の記入作業に費やされた。残りの4年は、希少性判定システムの整備、原稿書き、および編集作業にあてられた。このうち後半の4年間には作業が滞ることも多かった。これはおもに編集者二人の責任である。こうして出版が遅れている間に、研究会の会長であり和歌山県の情報をまとめた黒田隆司氏、そして研究会のメンバーであり京都府の情報をまとめた関道浤氏が、相次いで亡くなられた。お二人に完成した本書をお見せできなかったことが悔やまれる。
 本書では、近畿の鳥類を題材として、一つの希少性判定システムを提案した。このシステムを他地域の鳥類の希少性判定に適用するには、地域の広さなどを考慮して、判定に用いるデータのカテゴリー区分を少々変更するだけでよい。一方、鳥類以外の分類群の希少性判定に適用する場合は、鳥類特有の渡りなどの要素をはぶき、分布パターンの重要性をより考慮するなど、いくつかの改訂が必要になるだろう。しかし、生息情報を数値化し、その数値に基づいて希少性判定を行なうこのシステムは、一般的に有効である。このシステムの普及により、希少性判定の基礎となるデータを伴ったレッドデータブックが増えていくことを望みたい。
 主観的データをもちいて客観的なレッドデータブックを作るシステムは、一応できあがった。しかし、まだこれからの検討課題は多く残されている。今後の方向性を考えるためにも、残された課題を整理しておこう。

●生息情報収集システムの構築生息情報収集システムの構築
 今回は、各府県の有識者のもつ情報を基盤とし、これに各府県の野鳥の会会員などの持つ情報を加味してレッドデータブックを作成した。多くの府県では、野鳥の会などの組織がそれぞれの地域の鳥類の情報を収集しており、今後はこういった情報を全面的に活用するレッドデータブックづくりが必要である。しかし、野鳥の会に集積される情報は、珍鳥情報が多い一方、普通種の情報が少ない、あるいは繁殖情報が乏しいなど、各地域の鳥類全般の生息状況を把握するには偏りが大きいという難点をもつ。そうした偏りを補うような形での、情報収集をしていく必要があるだろう。その際、どのような情報を集めるかは、充分な検討が必要である。

●生息状況の調査
 本書では、鳥類の生息情報に関して、主観の客観化というステップを経たが、はじめから客観的な数値データがある方が望ましいことは明らかである。各種の個体数やその増減、そして生息環境の現状を正確に把握するには、一定の方法をもちいた継続的な調査が行われることが望ましい。本書の作成過程でも調査データの不足が痛感された。生息する全種について、全府県的に継続的な調査を実施することは事実上不可能である。一方で、すでに個別の種や地域について調査が行われているケースもある。そこで、とくに希少性の高い種について新たに調査を企画し実施すると同時に、個別に行われている調査を集約していくシステムを検討する必要がある。

●本書の改訂
 本書でもちいた鳥類の生息情報は1997年時点のものである。このため、すでに一部のデータには更新が必要であり、出版を喜んでいる間もなく、本書の改訂作業に取り組む必要が生じている。もちろん一般的に、鳥類の生息状況、及び生息環境の現状が次々と変化している以上、改訂のないレッドデータブックはありえない。
 ただし、本書に関するかぎりすでに希少性判定システムがあるので、データを更新するだけで比較的簡単にレッドデータブックの改訂ができる。したがって、改訂作業ではより正確な生息状況の把握に重点が置かれることになる。また改訂の際には、本書のデータや記述の誤りも正していくことになる。読者のみなさんにも、誤りの指摘など本書についてのコメントをお寄せいただけるとありがたい。そうしたコメントや近畿の鳥類の生息情報を収集する窓口、今後の近畿鳥類レッドデータブック研究会の取り組みの紹介、そしてなによりレッドデータブックの更新作業及び公表の媒体として、ホームページ(http://www.mus-nh.city.osaka.jp/rdb-bird)を開設してあるので、ぜひご利用いただきたい。多くの方の知識や意見をいかし鳥類の生息情報を集約し、みんなの共有財産としてレッドデータブックをまとめることこそが、今後の最大の課題といえるだろう。

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