育てて食べる−KOB−
IDBは植物の組織内に隠れているホストの他に,マユなどの隠れ家のなかのホストも利用するようになりました.しかし幼虫の安全を確保するためのホストの不動化は,隠れ家の中にいるホスト以外にホスト利用の可能性を広く探るという点においては非常に不利なものでした.なぜなら自由生活をするようなホストを不動状態にすることはホストとともに自分の子孫も危険にさらすこととなるからです.それを解決し,自由生活者をうまく利用しているのがコイノバイオントkoinobiont(以下KOB)です.ガの幼虫に捕食寄生するものを例にとると,葉の上などの目立つところ,つまり捕食寄生者にとっても接触しやすいところにいる若い幼虫に産卵し,しばらくはそのまま成長せずホストが大きくなるのを待ちます.寄生されたホストの運命はすでに決まっているわけですが,その後もひたすら大きくなるためにエサを食べ続け,やがて蛹化するために地中や落ち葉の隙間などに隠れます.するとハチの幼虫は,おそらくはホストの生理的条件の変化に反応して,活発に摂食をはじめ,一気に成長を完了します.
この「育てて食べる」KOB戦略は,多くの昆虫がそうであるように,最初は目につきやすいところにいるけれども,蛹化するときにどこか隠れてしまうホストを利用する上で非常に有利な,より進んだ戦略といえます.ただしこの方法にも難点はあります.それはホストの体表に産みつけられた卵では,ホストに取り除かれたり,脱皮の際に一緒に脱ぎ捨てられてしまう危険性があるため,多くのKOBはホストの体内に産卵することから生じます.「捕食寄生者の幼虫が生きているホストの体内で生活するためには,ホストの免疫システムを上手にかわしていく必要があります.このため毒液や共生ウイルスなどによって寄主の防御反応や成長を制御するものも知られていて,それぞれの種は特定の寄主との結びつきを強めていきました.このような特殊化が進むと,ホスト探索の面でもホストのいる環境だけでなく,ホストそのものを特定できるような手がかりとそれを感知する仕組みが必要となってきました.サムライコマユバチ亜科群などの非常に近縁な,しかしそれぞれに寄主特異性の高い膨大な数の種をかかえるグループが生じた原因もそのようなところにあると考えられています(前藤,1993)」.