日本鳥学会2001年度大会の講演要旨
■■自由集会10月5日(17:00−19:00)■■
A会場(E10)

●M1 カワウを通じて野生動物と人との共存の道を探る(その4)
「関西におけるカワウ問題とカワウ研究の面白さ」

代表者氏名:亀田佳代子(滋賀県立琵琶湖博物館)

 これまで三回にわたり自由集会を行い、カワウを通じて野生動物と人との共存の道について模索してきた。今回は、現在の日本の三大生息地のひとつである関西のカワウの現状とカワウ問題への取り組み、そして琵琶湖でのカワウの生態学的研究について紹介する。その中で、カワウ問題の地域性やカワウを対象とした生態学的研究の面白さについて考えてみたい。

1.関西のカワウの現状  須川恒(龍谷大学)
 関西のカワウの中心的な生息地は、滋賀県の琵琶湖である。琵琶湖では、戦前、戦中はカワウが繁殖していたが、戦後しばらくは繁殖がみられなかった。1982年に湖の北部にある竹生島で5巣が発見されてからは、繁殖期(2-8月)の営巣数と個体数は増加した。1988年には湖中央部の伊崎半島(近江八幡市)にもコロニーが形成され、現在ではそれぞれのコロニーに1,500-3,500巣が存在すると考えられる。琵琶湖のカワウは、非繁殖期になると個体数が減少し、周辺河川や日本海、瀬戸内海沿岸に分散する。それらの個体が増加し定着することで、新たなコロニーがいくつかできてきている。
 こうした背景をふまえ、現在のカワウの分布状況について紹介する。

2.生態系におけるカワウの役割
 カワウは湖や河川で魚類を食べ、コロニーのある森林に戻って糞を落とす。こうしたカワウの行動により、水域内の物質が陸上の森林へと輸送されていると考えられる。特に、水域でも陸域でも生物の栄養分として重要な物質である窒素やリンの物質循環と、それらが両地域の生物に与える影響を考えると、カワウによって形成された物質循環経路は興味深いものといえる。今回の発表では、こうした物質輸送の役割を含めた生態系におけるカワウの役割について、現在琵琶湖で行っている研究について紹介する。まず、安定同位体比分析を用いた物質輸送経路の解明と食性解析、さらにカワウの採食場所選択について紹介した後、森林でのカワウの営巣が土壌や樹木、植生にどのような影響を与えるのかについて発表する。

1)物質輸送経路の解明とカワウの食性  亀田佳代子(琵琶湖博物館)
2)琵琶湖のカワウの採食場所選択    森貴久(京都大学理学研究科)
3)カワウによる養分供給が森林土壌へ与える影響
                    保原達(京都大学農学研究科)
4)カワウの営巣による樹木および植生への影響
     藤原里美(京大総合人間学部)・石田朗(愛知県林業センター)

3.行政のカワウ問題への取り組みや課題
 関西地域においても、カワウによる漁業への食害や、コロニーでの樹木の衰弱や植生衰退、景観悪化などが問題となっている。こうした問題に対して、行政がどのような対応を行っているのか、今後どのような課題を解決しなければならないのかについて、現在関わっておられる三名の方々に発表をお願いした。まず、琵琶湖でのカワウ
問題全般に関わってこられた滋賀県自然保護課から、琵琶湖での状況とこれまでの取り組みについて紹介していただく。次に、コロニーの森林衰退への対応策として行った竹生島でのロープ張りについて、びわ町企画調整課に状況を報告していただく。最後に、都市公園の池に形成されたカワウコロニーへの対応例として、伊丹市昆陽池(こやいけ)での取り組みを紹介し、今後のカワウ問題への取り組みの方向性や課題について考えてみたい。

1)滋賀県の状況と取り組み  今城克啓(滋賀県琵琶湖環境部自然保護課)
2)竹生島ロープ張り作戦   河毛貞子(滋賀県びわ町企画調整課)
3)伊丹市昆陽池のコロニー
            高津一男(兵庫県伊丹市みどり環境部公園緑地課)

4.全体討論