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Argonauta 2: 3-5


京都海洋生物談話会・例会発表Abstract抜粋 その2 1997-2000


1997.1.19 「田辺湾周辺の貝塚 - 古水温は高かったか?」 大垣俊一

田辺湾周辺の貝塚について、発表されている出土貝リストと現在の貝類相を比較した。縄文早期中頃の高山寺貝塚からは、現在周辺に生息しないハイガイ、ハマグリが多く出土し、内湾泥底の二枚貝が多い。縄文晩期の瀬戸遺跡の貝は、現在の番所崎と共通する岩礁性巻貝を中心とし、弥生末〜古墳期の目良遺跡には、潮通しの良い砂浜性の二枚貝が多く見られる。縄文海進期の貝塚は、一般に南方性の貝を多く含むとされ、それをもとに日本沿岸の古水温分布が描かれている。しかし高山寺貝塚のリストは必ずしもそれを支持せず、むしろ瀬戸遺跡の貝に南方系の色合いが濃い。田辺湾における現世、貝塚貝類相の情報をもとに、いわゆる 'Climatic Optimum' における古水温推定の問題点を検討する。


1997.1.19 「ケガキの毛は何の役に立つのか」 阿部直哉

ケガキの毛は何の役に立つのだろうか。仮説として「捕食を防ぐため」、「高温となるのを防ぐため」の2つを取り上げた。野外で採集したケガキの死殻の49%にシマレイシガイダマシによると思われる穿孔跡が見られ、この巻貝による捕食はケガキの死亡要因として相当重要であることがうかがわれた。室内と野外で、毛を除去したケガキに対する捕食実験を行った結果、どちらの実験でも毛を除去したケガキの方がよく捕食された。一方、真夏の晴れた昼間、軟体部の温度を計測したところ、毛の数や密度と温度との相関は認められなかった。以上から、ケガキの毛の機能はシマレイシガイダマシのような巻貝による捕食を防ぐことにあると思われる。


1997.3.16 「付着性二枚貝ヒバリガイモドキの対捕食者防御機構について」 石田惣

イガイ科の貝類は、前後非対称・左右等殻の二枚貝で、腹縁から足糸と呼ばれる糸状のものを数多く分泌して岩礁に付着し、多くの場合集団で床(bed)を成している濾過食者である。幼貝時からほとんど移動せずに一生を終えるイガイ類は、その付着性という生活様式から、最近までいわゆる「行動」と呼べるようなことはしないとされてきた。しかし近年のムラサキイガイ(Mytilus edulis L.)における研究で、それらが穿孔性の肉食性巻貝に教われた際にはさまざまな防御行動をするということが報告されている。たとえば捕食にやってきた巻貝の殻に足糸を付着させ、動かないようにトラップしてしまうというムラサキイガイの防御行動は、様々な側面からの研究がなされている。また捕食者であるカニが潜在的に存在する環境下では、そうでない環境下に比べて、ムラサキイガイは足糸をより太く、短く、短時間に数多く分泌する傾向がある。これもムラサキイガイがカニにひきはがされて捕食されるのを防ごうとする戦略である可能性が示唆されている。このように付着性二枚貝イガイ類は、単に食われるがままではなく、何らかの形で捕食者に対して防御のシステムを持っているのではないかという可能性が、ムラサキイガイの多くの事例で示されつつある。そこで今回の課題研究では、白浜・瀬戸臨海実験所付近の岩礁潮間帯で優占種であるイガイ科のヒバリガイモドキ(Hormomya mutabilis Gould)を材料として複数の捕食者(カニ、アクキガイ科巻貝)に対する防御機構を明らかにすることを試みた。加えて、ムラサキイガイとヒバリガイモドキの防御機構の比較を行うことで近縁種内での行動パターンの可塑性、形態面・環境面での行動パターンの制約などにも議論を進めることを目標とする。


1999.10.17 「1998年の畠島海岸生物」 大垣俊一

1998年4月28‐29日に実施した畠島海岸生物相調査の結果を総括する。出現全種を記録する南岸区の調査で、前回調査時(1993)に比べて有意な分布区数の増加が検出されたものは8種、有意な減少は3種。特定のmacrobenthos86種を対象とする全島区の調査では、有意増加は9種、有意減少は6種であった。南方性種(地理的分布・房総以南)は増加種中にのみ含まれ、また一方、貧栄養性のケガキが有意に増加、富栄養性のムラサキイガイ、マガキ、タテジマフジツボが減少した。1969年以降行われた4回の調査をfauna, flora全体として評価すると、69→83は南方性種の割合が減少するとともに貧栄養性種に対する富栄養性種の比率が増加し、83/84→93,93→98は逆の変化が起こって、南方性種、貧栄養性種がより優勢になったことがわかる。これら生物指標の1998年の値は、ほぼ1969年当時のレベルに戻ったが、個々の種についてはなおかなりの差が見られる.以上の傾向について、田辺湾域の無機環境条件の変動パターンを参照しつつ議論する。


1999.10.17 「同所的に存在するクモガニ類3種のデコレーティングにおける資源利用」
佐藤ミチコ

クモガニ科カニ類3種(イソクズガニTiarinia cornigera、ヒラワタクズガニMicippa platipes、ヨツハモガニPugettia quadridens quadridens)が同所的に存在する岩礁潮間帯において、デコレーティングの資源利用と海藻の動態を比較した。海藻を利用している個体の割合の変化と海藻の消長の間にイソクズガニでは対応が見られなかったが、ヒラワタクズガニでは2種の海藻で正の対応が見られ、ヨツハモガニでは1種の海藻で負の対応が見られた。デコレーティングに関して3種はそれぞれ海藻の利用率に選好性とみられる偏りがあった。デコレーティング選択実験ではヒラワタクズガニとヨツハモガニが野外での選好性と似た一貫した選好性を示したが、イソクズガニでは一貫した選好性は示さなかった。またデコレーションと胃内容を比較すると、イソクズガニとヒラワタクズガニは使用されている分類群の類似度が低く、ヨツハモガニは類似度が高かった。以上によるデコレーティングの資源利用様式から、カモフラージュに関する戦略の違いを考察した。


2000.1.23 「異なる採餌様式を持つアクキガイ類2種間での餌処理効率の比較‐なぜシマは死肉に群がらず、ウネは穿孔しないのか」 石田惣

アクキガイ類は一般に二枚貝やフジツボの殻に穿孔し、口吻を挿入することで捕食を行う。穿孔捕食はアクキガイのオーソドックスな採餌方法であるが、中には腐肉食的な食性、あるいは他者の獲得した(穿孔した)餌を横取りするものもいる。和歌山県白浜町の番所崎で見られるアクキガイ類のうち、ウネレイシガイダマシ(Cronia margariticola、ウネ)は、自発的な穿孔捕食に加えて、他者が穿孔して獲得した餌を横取りするという盗み寄生的な採餌戦力を持つ。一方、ウネと同所的に住むシマレイシガイダマシ(Morula musiva、シマ)は、ウネと同じ餌資源(ヒバリガイモドキ、Hormomya mutabilis)を共有するが、採餌様式はほとんど自発穿孔のみで、盗みは行わない。このような異なる採餌戦力の進化的背景について、採餌様式(自発穿孔と盗み寄生)ごとの時間的コスト、物理的コストを種間で比較することにより考察する。

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