骨や歯に比べ,卵は化石として保存されにくく,珍しいものです. 
 恐竜の卵の化石としては,モンゴルで発見されたプロトケラトプスのものが有名ですが,この化石は,フランス南部のローヌ川河口にほど近いエクス(Aix)の白亜紀後期の地層から発見されたヒプセロサウルス(Hypselosaurus priscus)という恐竜の卵です.殻はヒビ割れていますが,それでもほぼ全形を保っています.
 ヒプセロサウルスは白亜紀後期にヨーロッパにすんでいた恐竜で,竜盤目・竜脚亜目に属しています.よく知られているジュラ紀後期のアパトサウルス(ブロントサウルスのこと)と同じグループで,体の形もよく似ていますが,ブロントサウルスよりは小型(それでも体長は約12m)でした.ヒプセロサウルスの化石を産する地層からは,化石骨に混じって卵の殻の破片が出ることは古くから知られていましたが,長い間,それが鳥のものか恐竜のものかはっきりしませんでした.完全な卵化石の発見により恐竜のものであることがわかったのは,1930年,プロトケラトプスの卵化石発見の8年後のことでした.