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本の紹介「雪虫」

「雪虫」石黒誠著、福音館書館月刊たくさんのふしぎ 2013年11月号、667円+税


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【北風伸也 20140622】【公開用】
●「雪虫」石黒誠著、福音館書館月刊たくさんのふしぎ

 「雪虫」と呼ばれる昆虫は二種類あり、一つは「セッカイカワゲラ」と呼ばれるゴキブリをスリムにしたような昆虫で、雪の上に現れ雪中のプランクトンを食べる、俳句の季語にもなってる昆虫ですが、本書はアブラムシの仲間の「トドノネオオワタムシ」の紹介です。
 体がロウ質の綿毛にくるまれ、飛ぶ姿が舞う雪に見える、なんともロマンチックな昆虫です。飛ぶ力が弱いため、風に流される姿がいっそう雪に見えるのだとか。
 昆虫には珍しく、「幹母」と呼ばれる形態があったり、幼虫も他の生き物にどしどし捕食される。また成虫も、メスは卵を産むと死に、オスの寿命もわずかに一週間ほど。そういう「弱い昆虫」ゆえに、とにかく数を産むといった、生き残りをかけた戦略のようなものが、強く感じられました。また寿命をさとったとき、必ず仲間のいる木の幹にもどって命を全うするとか。
 雑誌ゆえに短く、もっと知りたいと思わせてくれる、ミステリアスでロマンチックな昆虫の紹介、うっとりとして読ませていただきました。

 お薦め度:★★★★  対象:ロマンチストな方

【冨永則子 20131023】
●「雪虫」石黒誠著、福音館書館月刊たくさんのふしぎ

 雪虫といわれる「トドノネオオワタムシ」の1年間を追いかけた写真絵本。成虫は白くて、ゆっくりフワリフワリと雪が降るように飛ぶので“雪虫”と呼ばれるようになったらしい。
 北海道の四季と共に“雪虫”の成長を追っていく。子どもが子どもを生み、脱皮を繰り返していく姿は、どれも同じ虫とは思えない。クモやテントウムシに捕食されても何の抵抗手段も持ち合わせない。ひたすら数を増やすことで生き残っていく。食物連鎖のピラミッドで見ると最底辺に位置する虫なのだろうか? 
 本当の雪は春になると溶けて消えてしまうが、また次の冬には降り積もる。“雪虫”も冬になるまで卵を生み続けて、その数を増やしている。飛んでいる姿かたちだけでなく、存在そのものが“雪”のようだ。

 お薦め度:★★★  対象:不思議な生態の虫に興味のある人に、北海道が好きな人に

【六車恭子 20140425】
●「雪虫」石黒誠著、福音館書館月刊たくさんのふしぎ

 国の冬を先がけてとぶという「雪虫」の生活環を追いかける写真絵本だ。空の彼方からまるで雪が舞い落ちるように飛び交うというこの虫、「トドノネオオワタムシ」という名を持ち、アブラムシの仲間だという。ヤチダモの木の幹に産みつけられた卵で越冬し、春に生まれた幼体で、ヤチダモの枝先でストローのような口で樹液を吸い、脱皮を繰り返して「幹母」に成長してゆく。すべてメスという幹母は一匹あたり150匹の子を産むそうだ。彼らのお尻の甘露をすうアリ、クモ、テントウムシ、ハチやアブ、クサカゲロウの幼虫は危ない天敵だ。
 6月から10月にはトドマツの森にお引っ越しをする。トドマツの根元で羽根のない子を産み。地中のアリの巣に運ばれ、トドマツの根から樹液を吸い、暗い穴蔵生活をへて、秋の晴れた日に「雪虫」が空を埋め尽くすのだ。彼らが二度に渡る生活環を変え、多くの捕食者に仲間を失いながらも、「雪虫」と言われる現象を私たちに披瀝できるのは、無事に生き残る子どもをたくさんたくさん!産む、という戦術が功を奏しているのだろうか。そこにはかない逞しさを見る思いだ。

 お薦め度:★★★  対象:小さな虫の戦術に学んでみたい人

【和田岳 20140215】
●「雪虫」石黒誠著、福音館書館月刊たくさんのふしぎ

 4月、ヤチダモの枝先で卵からかえった幹母が成長。5月、成長した幹母が子どもを産みまくる。成長する子ども達は、さまざまな虫に喰われまくる。6月、なんとか生き延びた子ども達が翅を生やし、トドマツに引っ越す。6から月から10月、トドマツの根っこについて、樹液を吸って3〜4世代をまわす。そして秋、いよいよ翅を生やした雪虫が登場。ヤチダモへ移動して、子どもを産む。この子ども達には雌雄があって、交尾をして、卵を産んで息絶える。
 雪虫ことトドノネオオワタムシの一年を画像付きで説明してくれる。無防備で、いろんな虫にドンドン喰われる、あまりアリも守ってくれない。それでも生き延びて、ようやく雪虫にたどりつく。秋にフワフワ飛んでるだけに見える雪虫の一年は、とても大変そう。そして複雑。説明をさらっと読んだだけでは、よくわからない。じっくり読むべき1冊。

 お薦め度:★★★  対象:生きものの不思議な暮らし方に興味がある人

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