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本の紹介「ツチノコ」

「ツチノコ 幻の珍獣とされた日本固有の鎖蛇の記録」木乃倉茂著、碧天舎、2004年6月、ISBN978-4-88346-658-0、1000円+税


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【加納康嗣 20080221】
●「ツチノコ」木乃倉茂著、碧天舎

 鼻行類の日本版とでも位置づけできそうな、民俗的本草書である。著者は本名なのか、原本は誰が保管しているのか、頭に???を楽しく重ねながら、写真や骨格標本写真や図を見て、ようやってるとほめてしまう。鼻行類のように西洋博物学的な壮大さがなく、土俗的で親近感を覚えるからだ。でも、目も退化しているのになぜ60センチとはいえ飛ぶ必要があるのか、毒は何に使う必要があるのか。地面の中を進行するのに、ナメクジ的に動くのか、細く長い方が有利と思うが、平べったい隙間はあるのだろうか。湿地やリター層や軟らかい地面なら平べったくても良いか!?と、野槌のためにいろいろ考えてやる。しかし骨格紛失の原因、原著者の職業、著者との続柄など時代や場の設定は見事である。この著者の遊びを楽しむ書物である。

 お薦め度:★★★★  対象:賢い人、理性的論理的なひとは読まないように

【高田みちよ 20080114】
●「ツチノコ」木乃倉茂著、碧天舎

 著者の祖父は悪名高い大日本理化学研究所の研究員だった。その祖父のもとに、ツチノコを捕まえたという一報が入る。どうせヤマカガシかなにかの間違いだろうと思って引き取ると、見たこともないヘビ。それを野槌と名付け、1年間飼育した記録が示されている。外見的な形状と飼育時の動きなど、毒性の分析、死後の解剖の結果。ただ、残念なことに、毒性の分析をした人は反戦運動のため獄中死、骨格標本は東京大空襲で消失。唯一の記録が手帳である。祖父がなぜそれを公表しなかったかというと、理化学研究所での凄惨な現実があったかららしく、戦争時の悲惨な状況も書かれている。本当に野槌が野生種であれば、そして骨格標本が消失していなければ、ものすごい記録なのに、証拠が残っていないために「とんでも本」となってしまっているのがもったいない。

 お薦め度:★★★  対象:自然のロマン好きの人、戦争の悲惨さを垣間見たい人

【和田岳 20080220】
●「ツチノコ」木乃倉茂著、碧天舎

 昭和十七年、長野県で謎の蛇が捕獲された。これは、その蛇を約一年間にわたって飼育した観察記録である。戦災で標本は失われ、残されたのは手記のみ。祖父が残した手記をできるだけ忠実に紹介する。
 という趣向。小説によくあるパターン。こういう設定は嫌いではない。しかし、最初は手記自体を載せてる体なのだが、残念ながらすぐに「木乃倉は…と名づけている」といった伝聞調になって破綻してしまう。ヘビの背面図と正面図では、感覚器の位置や鱗の配置が違っていたり。背面図、側面図、写真で肋骨の数が違っていたり。ほかにも各所に破綻がみられ、興ざめすること著しい。
 ふつうに判断すれば、『鼻行類』と同じようなお遊び本なのだろう。それにしては、あまり丁寧に仕組まれているとは言えない。仮に謎のヘビが実際に捕獲されたとしてみよう。本当に著者の祖父が約一年にわたって飼育して、骨格標本を作製したとしてみよう。だとしたら、著者の祖父の観察力・記録能力の低さが示されていることになる。いずれにしても本としての価値は低い。

 お薦め度:★  対象:遊び心をわかりつつ、あら探しの好きな人

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