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本の紹介「父さんのからだを返して」

「父さんのからだを返して 父親を骨格標本にされたエスキモーの少年」ケン・ハーパー著、早川書房、2001年8月、ISBN978-4-15-208365-4、2500円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【西澤真樹子 20080425】【公開用】
●「父さんのからだを返して」ケン・ハーパー著、早川書房

 20世紀初頭、世界各地の「秘境」を探検することが大流行りだった時代に、北極点到達を目指した探検家ロバート・ピアリー。研究対象としてニューヨークの自然史博物館に連れ帰った6人のエスキモーは、慣れない土地でバタバタ死亡、死体は骨格標本に。一行の中にいた少年ミニックは、標本になった父親が展示されているのを見て、遺骨を取りすために活動する(遺骨は彼の死後、1993年に返還)。
 北極点到達は白人だからできない、エスキモーにこそできると主張して、探検隊に同行しようとアメリカの大学で学ぶも邪険に扱われ、脱走してグリーンランドに戻る。しかし、猟の技術も伝統も身に付いていない彼は、エスキモー仲間にとっても「アメリカ帰りの不思議な同胞」として、どっちつかずの存在になってしまう。
 昔の探検家も博物館もものすごいことしてたなー、と読んでいて暗ーい気持ちになれる本。人類学がなんか怖くて触れたくないジャンルなのは、こういう負の遺産がいっぱい見えてしまうからかなあ。

 お薦め度:★★★  対象:■

【西澤真樹子 20071222】
●「父さんのからだを返して」ケン・ハーパー著、早川書房

 20世紀初頭、世界各地の「秘境」を探検することが大流行りだった時代に、北極点到達を目指した探検家ロバート・ピアリー。研究対象としてニューヨーク自然史博物館に連れ帰った6人のエスキモーは、慣れない土地でバタバタ死亡、死体は骨格標本に。一行の中にいた少年ミニックは、標本になった父親が展示されているのを見て、遺骨を取りすために活動する(遺骨は彼の死後、1993年に返還)。
 北極点到達は白人だからできない、エスキモーにこそできると主張して、探検隊に同行しようとアメリカの大学で学ぶも邪険に扱われ、脱走してグリーンランドに戻る。しかし、猟の技術も伝統も身に付いていない彼は、エスキモー仲間にとっても「アメリカ帰りの不思議な同胞」として、どっちつかずの存在になってしまう。
 昔の探検家も博物館もものすごいことしてたなー、と読んでいて暗ーい気持ちになれる本。人類学がなんか怖くて触れたくないジャンルなのは、こういう負の遺産がいっぱい見えてしまうからかなあ。

 お薦め度:  対象:

【加納康嗣 20080423】
●「父さんのからだを返して」ケン・ハーパー著、早川書房

 野心家で傲慢、人種主義者でもある探検家は極北から自分の家来である6人の標本をニューヨークの自然史博物館に送り込んだ。無菌状態で生きてきた4人はたちまち死に、文明と科学の名において未開で劣等、野蛮な人種の研究のために、墓から暴かれた多くの同胞の遺体と同様博物館標本として納められた。残りの1人は元の野外に戻され、1人は孤児となったので、アメリカで育てられた。成長した男は、陳列台に展示された父親の骨を取り戻すこともできず、また、同胞にも文明の中にも居場所をみつけることができなかった。祖国もふるさともない浮浪の男の、ヨーロッパ文明の横暴に踏みにじられた救いのない寂しさが重くのしかかる。絶版なので図書館から借りる必要がある。

 お薦め度:★★★★  対象:博物館の標本に関心のある、自然に関心のある人

【六車恭子 20080425】
●「父さんのからだを返して」ケン・ハーパー著、早川書房

 北極探検家ピヤリーはニューヨークの自然史博物館館長ジェサップとの暗黙の了解のもと,幾多の手みやげをその凱旋のたびに持ち帰った。その極め付きが珍種動物標本としての6名のエスキモーたちだった。彼らはその探検隊の現地の案内人であり,力強いパートナーであったろう。無菌の北極圏から連れ出された彼らは病原菌であっけない最後が訪れ,彼らは4体の骨格標本として展示されていたのだ。6歳の幼児だったミニックは父を失い,博物館をねぐらにする囚われ人のように暮らしていたが、ある日父の骨格標本を展示物の中に見いだしてしまう。少年の望みは父の遺体を土に埋めること,父の遺品を返してもらうこと、このささやかな願いは権威的教条的正義を盾に拒絶され蹂躙される。文明の国アメリカは少年から母語を奪い,エスキモーの魂を辱め,根無し草として生きる未来をもたらしたのだ。
 未知の世界に憧れ,そこで生きる決意をした人々が贖罪のように一つの物語を私たちの前で語り始める、この作家もその一人。小国には何の権利もなかった時代の大国の栄光の影の闇の部分が丹念に追跡されており興味は尽きない。

 お薦め度:★★★  対象:博物館のバックヤードに興味のある人

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