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本の紹介「食べられて生きる草の話」

「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号、667円+税


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【冨永則子 20151223】【公開用】
●「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号

 植物は動物に食べられると枯れてしまう。しかし、シバは食べられることで分布を拡げていく。このシバと動物(シカ)との関係を高槻さんは宮城県の金華山で40年間も観察してきた。「なぜ?」を解明するために実験し観察する。科学の基礎が語られている。なかでも、シバの種子はシカに食べられた方が発芽しやすくなるという事に驚いた。表紙はシカの顔が迫ってきて今にも食べられるシバになった気持ちになる。

 お薦め度:★★★★  対象:植物の分布に興味のある人に シカなどの獣害に関心がある人に
【西村寿雄 20151217】
●「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号

 金華山は、10km2ほどの島に500頭ものシカが棲んでいるというかなり高密度のシカの生息域となっているまず、著者が調査に入った1975年頃の様子が描かれている。シカの頭数もうんと少なく、地面をほとんど覆っていたのはススキだった。ところが、ススキはどんどん背が低くなり、1990年にはススキは影を潜めシバ草が面積を広げるようになった。ここで、著者は「ススキと同時にシバ草もシカに食べられているのに、どうしてシバ草は増えているのか」「シバ草の種はそんなに飛散する構造ではないのに」と疑問を持つ。著者は、シカの習性を考えて実証していく。シカはシバ草を食べると同時に、シバ草の種を糞で拡散していたのだった。身近な現象を推論を重ねて実証していく楽しい読み物である。この著者の『唱歌「ふるさと」の生態学』(山と渓谷社)もなかなか楽しい本だ。

 お薦め度:★★★  対象:自然好きの子ども
【西本由佳 20151220】
●「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号

 シバは刈られるほど勢いが良くなる。園芸では知られた話だ。光をめぐる競争で、刈られるということが、ほかの植物に比べてシバのほうが有利になるのだという。そして、種までシカに食べられる。大事な種を食べられてしまうなんて大変だと思うけど、その方が芽生えがいいし、遠くへ広がれるという。足元の小さな、気にとめることもないような草にも、生きて広がっていくためのしかけがちゃんとそなわっている。

 お薦め度:★★★  対象:生きもののつながりを知るのが好きな人
【六車恭子 20151225】
●「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号

 著者はシカの研究者、東北地方の太平洋側にある金華山に40年も通いつづけているという。真っ先にあの震災の被害はなかっただろうか、であった。金華山でも神社の鳥居や灯籠が倒れる、という被害はあったそうですが、シカは大丈夫だったそうです。  この島でのシカの主食はシバ。かってはススキも繁茂していたそうですが、いつの間にかススキが減っていった経緯がありました。ここからこの著者の研究のアイデアが光っているところ。シカの糞の内容物を調べ、徐々にシバが増えて行くことをつきとめる。食べられるのに無くならないそのシバの戦術が証される。手のうちにあるカードをどのように動かすか、そのヒントが詰まっている一冊だ。

 お薦め度:★★★  対象:フィールドを持つ若き研究者
【森住奈穂 20151225】
●「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号

 宮城県の金華山で、40年をかけて自然の話が聞こえるようになった物語。シカが増えるとススキの背がだんだんと低くなり、ススキが減ると芝生が面積を広げてゆく。ススキはシカに食べられて減ったのに、同じように食べられているシバはどうして増えたんだろう。刈り取りに対する強さは?タネの散布方法は?シカの役割は?実験や観察方法が丁寧に紹介される。なかでも、食べられた方がタネの芽生えがよいことは驚き!40年の研究の成果が、ぎゅっと詰まった一冊。

 お薦め度:★★★  対象:なぜ?を自然に問うてみたいひと
【和田岳 20151225】
●「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号

 著者が長年シカの調査をしている金華山を舞台に、シカとシバの関係を調べた結果を、金華山の景観の変化とともに紹介。
 シバは、シカに食べられて大部分は消化されてしまうけど、一部のタネが生きたまま糞に混じって排出され、それで拡がっていく。金華山では、シカが増えてススキは減ったのに、シバは増えた。どうしてかな?という疑問から研究がスタート。タネが食べられて運ばれる話だけでなく、シバ自体が食べられること(つまり刈り取り)に強い(だから芝生が成立するんだな)ことなど、シバ自体の生態までが、実験を絡めて明らかにされる。

 お薦め度:★★★  対象:種間相互作用に興味があれば、あるいはタイトルに惹かれたら
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