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本の紹介「植物のたどってきた道」

「植物のたどってきた道」西田治文著、NHKブックス、1998年1月、ISBN4-14-001819-4、870円+税


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【河上康子 20031021】【公開用】
●「植物のたどってきた道」西田治文著、NHKブックス

 自然史関係の展示ではまず大人気の恐竜のジオラマで、おおむね付けたしのような風情で背景に描かれたり、用いられたりしている、古代の植物たち。この本では、古植物学者である著者が、そのような古代の植物の成り立ちを、植物が陸上に上がった古生代から順に説いてゆく。全章が植物化石記録に基づく、系統進化学で描かれているので、分類学や系統学にあかるくない読者には少し読みづらいかもしれないが、巻末の系統図と分類表を対比させながら読むとかなりわかりやすい。教科書的な本を、ゆっくりじっくり読むことが好きな読者には、お薦めの一冊。

 お薦め度:★★★  対象:陸上植物の系統と進化に興味のあるひと

【瀧端真理子 20031021】
●「植物のたどってきた道」西田治文著、NHKブックス

 植物の歴史は、光を求めての歴史であった。水中から陸上、平面から空間、先住者のいないところ、いるところは競争で、子孫を残すために新たな手段を模索する。植物体内での物資の輸送のための通道組織と、木部へのリグニンの沈着による機械的な強度を獲得した維管束植物は、垂直方向だけでなく、水平方向へも枝を広げ、地上空間に高木・低木・つる・着生生物などの階層構造を生み出した。この維管束植物の歴史の中では、裸子植物は日本史の中の江戸時代のような華やかで爛熟した時代を生み出した過渡的な植物群だという。白亜紀の終わりの地上でもっとも繁栄した裸子植物の一つから、被子植物は出現したと考えられるが、被子植物の直接の起源はまだ不明である。
 古植物学を専攻する筆者は、維管束植物の生殖器官の進化を化石標本をもとに説明しつつ、随所に世界各地での化石採集旅行のエピソードを織り込んでいる。脱線とも思われるエピソードの中に、筆者の人柄がしのばれ、難解な本書に彩りを添えている。ただし、植物・地学、両面の知識がない読者は、心地よい眠りの世界に誘われるので、ご注意いただきたい。

 お薦め度:★★  対象:古植物学または古植物学者の生態に興味のある人

【田中久美子 20031024】
●「植物のたどってきた道」西田治文著、NHKブックス

 ずいぶん前に買って置いてあったのですが、昨年度の「化石からたどる植物の進化」展をきっかけに読み始めました。
 植物が今の形態になるまでに、様々の形のものが、生まれては消えしてるのが不思議。“クックソニア”だとか最古のコケ植物だとか、化石をもとに具体的な形にしているところが面白い。進化の中で意外と切り捨てられてるものも多いんだな。胞子植物から種子植物へ、裸子植物から被子植物へ…。今までわかってるようでわからなかった進化の過程を詳しく知ることができて良い。特別展の解説書といっしょに読むと興味倍増!

 お薦め度:★★★★  対象:植物好きな人には特におすすめ

【寺島久雄 20031018】
●「植物のたどってきた道」西田治文著、NHKブックス

 被子植物と裸子植物の歴史とその生殖の進化を地形、DNA、気候、昆虫との共進化、等々の面から解説した本である。
 専門的な処が多く理解に苦しむが、昨年(平成14年)博物館の特別展の解説書「化石からたどる植物の進化」を参考書にすれば理解しやすい。
 著者の述べる「生命の進化は偶然と必然のくり返しである」と思われる。4億年前に上陸した植物が、現在の緑の森の過去を辿るロマンを持つ楽しみもある。

 お薦め度:★★  対象:古植物学に興味のある人

【和田岳 20031024】
●「植物のたどってきた道」西田治文著、NHKブックス

 古生代に初めて陸に上がって、シダ植物、裸子植物、被子植物と入れ替わりながら繁栄を続けてきた植物の歴史が紹介される。単に化石植物が紹介されるだけでなく、種子や花など植物の器官の進化についての話題が多く、植物の形態にかなりの予備知識がないと理解するのは(あるいは飽きずに読み進めるのは)難しい。
 一般書で他に類書はないようなので、植物の進化を真面目に勉強しようとする人には役に立つ本だろう。一方で、テローム仮説ってなに?と思いつつも、わざわざ理解するのは面倒というような人にはお勧めできない。

 お薦め度:★★  対象:植物形態にかなりの予備知識があり、陸上植物の進化に興味のある人

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