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本の紹介「新種の発見」

「新種の発見 見つけ、名づけ、系統づける動物分類学」岡西政典著、中公新書、2020年4月、ISBN978-4-12-102589-0、860円+税

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【和田岳 20210221】【公開用】
●「新種の発見」岡西政典著、中公新書

 テヅルモヅル研究者が、分類学について、とくに新種記載について、一般向けに紹介した本。だと思ったのだけど、おもに書かれているのは、新種発見や記載に関するエピソードが中心、っていうか、それをつまみ食い。
 第1章で分類学とはなにかを書いたあと(第2章はさておき)、第3章は、テヅルモヅル、海底洞窟の甲殻類、砂粒間隙のクマムシと動吻動物での新種の話があったり、隠蔽種の話、そして東京大学三崎臨海実験所での新種発見の歴史。第4章でようやく命名の手順の話。動物命名規約から6つの原理が紹介されていく。そして、キイロショウジョウバエの学名をどうするか?って問題や、サザエの学名の右往左往な話。これこそ、この本に期待した内容!と思ったら、それだけで終わってしまった。物足りない。

 お薦め度:★★  対象:新種に関わるエピソードを海洋生物を中心につまみ食いしたい人
【萩野哲 20200708】
●「新種の発見」岡西政典著、中公新書

 自然科学のひとつである生物学の1分野でありながら、最も時間を取られる作業が既存情報の整理という文系的な要素がある分類学。分類学の本には、類書同様、どうしてもリンネや分類階級の説明が必要なのは仕方がないだろう。そのため、新しい本を書く際はどうしても新機軸が必要だろう。本書の場合、これらは最終章の「これからの分類学」に要約されている。分類学の大変さは何といっても分類学者の少なさに集約できるが、最近は新種記載のペースが上がっているらしい。その理由の第一はインターネットによる文献の入手容易さである。第二は標本情報のデジタル化による効率化である。第三は以上の効率化によって分類学者が野外に出る分類実践の時間が増えることである。バイオミメティクスに応用可能な形態学とのコラボのような事例も分類学を促進する。そのようにして、全ての種を記載する作業の完結も夢ではないのかもしれない。

 お薦め度:★★★  対象:分類学の新しい傾向を知りたい人
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