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本の紹介「市民事業」

「市民事業 ポスト公共事業社会への挑戦」五十嵐敬喜・天野礼子著、中公新書ラクレ、2003年4月、ISBN4-12-150085-7、760円+税


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【釋知恵子 20060824】【公開用】
●「市民事業」五十嵐敬喜・天野礼子著、中公新書ラクレ

 明るい光を感じさせる本だった。発想の転換で自然環境と共存しつつ、利益をうみだす事業を市民が考える。そして実行している。建設会社が農業を、それもおいしくて安全な野菜を作ろうとがんばっている。重機を持つ建設会社の利点を生かし、従業員を雇用し続けるためのアイデア。またあるところでは冬に積もった雪を利用して夏の冷房や消臭に利用している。無駄なものを利用しようというアイデア。たとえ小さな動きだとしても、力強く感じられる実例をたくさん知ることができ、最終章では市民事業が超えなければならない課題も理解することができる。こういった内容の本としては入門編にぴったり?

 お薦め度:★★★  対象:環境問題を考える人に

【中条武司 20060619】
●「市民事業」五十嵐敬喜・天野礼子著、中公新書ラクレ

 いろいろ言っても、やっぱり現在の日本ではほとんど顧みられなくなっている森、川、海。経済の中心がそんなところにはないからだろう。しかし、本書では、未来につながる産業を、地元でがんばっている人たちにスポットを当て、公共事業に取って代わる産業として考えることからはじまっている。出てくる人は(著者も含め)みんな一生懸命で、未来を信じ、破綻した現代社会を何とかしようと戦っている。
 しかし、読後に残るこの違和感は何なのだろう。それはきっと、「現在」を妄信的に信じることが、「未来」にとってのベストの選択でないことを、「過去」を振り返った時に、すでに知っているからだろう。

 お薦め度:★★  対象:環境問題と社会との関わりを考える人

【六車恭子 20060421】
●「市民事業」五十嵐敬喜・天野礼子著、中公新書ラクレ

 ここにはもう一つの反骨精神溢れる私設政府の熱い挑戦がある。レポートする人は今や川の専門家と言える長良川河口堰を守る闘いを展開してきた人であり、監修はその思想的バックボーンを作った人のようだ。 
 凋落の末路を今だ自ら予見しない無計画な巨大公共事業の洪水にストップをかかけているのは、零細な市民の創意工夫から生まれた地場産業、市民事業が日本列島に緑のともしびを掲げてエリアを拡げている。著者はその一つ一つを取材し、その新しい息吹と可能性をほこらかに提示する。「市民事業」という命名はこの世界を動かせる、住み良い社会を作る人々の生きる記録であり、その波動を感じて連なる市民への優れた応援歌になっている。

 お薦め度:★★★★  対象:少しこの世界を見直したい人に

【和田岳 20060420】
●「市民事業」五十嵐敬喜・天野礼子著、中公新書ラクレ

 中央政府が行う公共事業ではなく、地域の市民から生まれた事業、すなわち市民事業によって、日本の自然や社会をよりよくしていこうと謳い上げた本。福祉やまちづくりの章もあるが、多くは環境、とくに自然環境との共存をテーマにしている。森林や河川の再生、自然再生エネルギーの使用など環境に配慮したやり方で、地域社会や地域産業の再生を、市民の手で行っている実例を多く紹介される。
 公共事業に頼らずに、地域住民が起こす事業から、地域の環境を守り、雇用を創出し、地域経済を活性化させることができるならそれは素晴らしい。市民一人一人が少し工夫すれば、前進できる部分も少なくないだろう。法律の改正を含めた環境整備が必要とはいえ、多くの実例をもとにした主張は明るい未来を予感させなくもない。ただ気になるのは、本が発行されて早3年、市民事業による明るい未来が見えてきたようにも思えない。これはどういう事だろう?

 お薦め度:★★  対象:ポスト公共事業という副題にひかれる人

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