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本の紹介「魚にも自分がわかる」

「魚にも自分がわかる 動物認知研究の最先端」幸田正典著、ちくま新書、2021年10月、ISBN978-4-480-07432-4、900円+税


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【萩野哲 20220426】【公開用】
●「魚にも自分がわかる」幸田正典著、ちくま新書

 ほんの少し前(前世紀)までは、脳の進化はその最終段階であるヒトに至るまで新しい脳が付け加わってきたとの仮説が支配的で、魚など“下等”な動物には「こころ」の存在を認めていなかったが、今世紀に入ってから、魚類の段階でも既に大脳、間脳、中脳、小脳、橋、延髄という構造が完成しており、その構造は哺乳類まで共通であることがわかってきた。それなら、魚も知性が高くて何も不思議はない! と、著者らの実験が始まる。まずは魚も顔で個体認識していることを証明する。そして、ついに魚(ホンソメワケベラ)が自己を意識していることを意味する鏡像自己認識の証拠を発見するに至った。どうやって検証したか?その過程(実験上の工夫、発表と批判に対する追試)は分かりやすく、これまでの定説(常識)への疑問も読んでいて楽しい。こんな魚の能力をあなたは信じる?信じない?

 お薦め度:★★★★  対象:魚はどれだけ賢いか知りたい人 知りたい人
【西村寿雄 20220428】
●「魚にも自分がわかる」幸田正典著、ちくま新書

 世界の自然観や動物観は、「人間が頂点にあり、知性や社会性などにおいて、順に霊長類、その他の哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類と劣っていく」というのが定説になっているという。その説に著者は、「そんなことはない。人間も魚類も認知作用は基本的に同じだ」という仮定の下に、仮説、実験をくりかえして魚の行動を検証していく。ついに、人間が顔を見て他人を固体認知するように、魚も〈友達〉を固体認知し、鏡で自分の顔を見て自己認知をするというのだが‥。

 お薦め度:★★★  対象:認知作用に興味のある人 知りたい人
【和田岳 20220506】
●「魚にも自分がわかる」幸田正典著、ちくま新書

 ヒトは、(ある年齢以上であれば)鏡に写ってるのが自分と理解できる(鏡像自己認知)。他の動物で鏡像自己認知できるのは、類人猿、ゾウ、イルカ、ごく一部の鳥類のみと考えられてきた。しかし、著者は、魚(ホンソメワケベラ)が鏡像自己認知できることを、実験的に示してしまった。
 魚の認知研究者からは大絶賛、一方で、霊長類の認知研究者からの反発。投稿した論文についた難癖ともいえる指摘を、追加実験で次々とクリアしていき、どんどん説得力を増していくのが格好いい。最後は、少なくとも霊長類の認知研究の大御所の1人も認めてくれたらしい。
 研究というのが、とても人間くさい営みであるのが判ると同時に、すごい新発見が身近に転がっていることも判る。そして、魚の能力の高さに驚かされる。

 お薦め度:★★★★  対象:びっくりするから、みんな読むように 知りたい人
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